I made a few mistakes .   作:おんぐ

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シュー(あとちょっと待ってね☆)






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 早朝。

 ホグワーツ城は周囲の森に溶け込むように静まり返っていた。大半の生徒はまだ、ベッドで寝息を起てている時間帯だ。

 ‎特に昨夜は、新入生の歓迎会、もしくは久方ぶりのホグワーツに懐かしさを感じ、どの寮も活気に満ちていた。そして列車での長旅の疲れが出たのか、遅くにベッドへと入って、熟睡している生徒達の声は1つとして存在しない。

 そんな静寂に包まれた世界のなか、‎朝日に照らされキラキラと輝く湖の畔。そこには、動き回る小さな2つの影と、追いすがる1つの影があった。

 

 「ネビル頑張れ!」

 ‎「頑張れって…まだジョギングだハリー」

 ‎「ひぃーひーぃ…」

 「でも、僕達も同じだったじゃないか」

 ‎「まぁ…そうだけど」

 

 ハリーとドラコは学校生活の1日目から、ムーディに指示されたメニューを始めていた。半ば巻き込まれた形となっているネビルも、グリフィンドール寮をこそこそと抜け出して参加している。

 

 「ほっと、よっと」

 ‎「うわっ!ハリー!」

 ‎「ごめんっ」

 

 ジョギングの後は柔軟体操、そして短距離走、軽い筋力トレーニングは終わっていた。

 ‎今は、魔力を受けて飛ぶボールを2つ用いて、ハリーとドラコはパスを回していた。ボールが地面に落ちたり、コントロールが利かずに見当違いの方向へ飛んでいったりすることもあるが、稀だ。時折手足を使いながらも、殆どをノーバウンドで、2人は杖の先から光線を飛ばしながらボールを回していた。

 

 「うわぁー」

 

 既に体力が尽きてしまったネビルは、ペタンと身体を丸めて座り込んでいた。そして、眼前でポンポンと宙を舞うボールを、口を開けて眺めている。何故こんなことをしているのかは解らないが、とにかく凄いことをしていることだけはわかった。

 

 「ネビルこれはね、主に魔法のコントロールと動体視力を鍛えるためのものなんだ。えっと最初は…あ、あれ。あんな風にしてみて」

 

 ハリーが指を指した先には、杖の先に光を灯して、リフティングしているドラコがいた。舞っているボールは3つだ。

 

 「できるかなぁ…」

 

 ネビルが不安げに呟く。

 ‎ネビルにとって、去年のハリーとドラコはまさに雲の上の存在だ。そして同時に憧れでもあった。

 ‎魔法界の英雄と、スリザリン寮に約束されていたはずの純血一族。この2人がハッフルパフに選ばれたことはホグワーツでは有名だ。そして拍車をかけるように、1学年の2人が友人のためになしたというトロールからの救出劇は生徒達を大いに沸かせた。

 ‎しかしこれにより、全校生徒ーー特に同学年の生徒にとってハリーとドラコはさらに近寄り難くなる。良くも悪くも異端の存在となったのだ。

 合同‎授業の時も、湯水のように加点されていく2人だ。きっと他の授業でもその優秀さを発揮しているのだろうとネビルは思っている。

 ‎それに比べて、自分は減点されるばかり。学年末の試験だって薬草学以外は本当にギリギリだった。自分でもスクイブじゃないかと疑っているくらいだ。   

 羨望も、嫉妬もする気も起きない。比べるのもおこがましい。

 

 「ネビルが頑張れば、きっと出来るようになるさ。というか、僕達もまだ全然の全然だし。それにドラコだって、あれ出来るようになったのは何日か前…」

 ‎「聞こえてるよ!それにハリーはまだここまではできないだろっ」

 

 あはは、とドラコに笑って返して「ドラコは努力家なんだ」と自分のことのように自慢するハリー。ネビルには、それが堪らなく眩しくて、心の底から何か熱いものが沸き上がっていくのを感じた。

 ‎

 ‎ネビルは、自分がこの2人のようになれるとは思わない。思えるはずもない。そんな高望みなんてするわけがない。だって、何もかもが違いすぎるのだ。

 ‎

 ‎でも、でも⎯⎯去年までの自分から少しでも変われるのならば。

 ‎本当に頑張れば、もしかしたらこの2人に少しだけでも近づくことは出来るかもしれない。

 

 「う、うん。僕…やってみるよ」

 ‎「そうこなくっちゃ」

 

 だから、‎勇気を出すべきだと思った。自分には勇気が⎯⎯ある…あるはずなのだ。

 ‎目に見えないほどちっぽけなものかもしれないけど。何かの嘘じゃないかとは思うが、それだけは間違いないのだ。

 ‎お前にもできるはずだ、やれないはずはないと、確かに言われたのだ。

 

 「はい、ネビル」

 

 そうだ、出来る。やるんだ。

 ‎だって、これでも自分はグリフィンドール生。

 ‎そしてムーディがあれほどまでに絶賛していた⎯⎯誇るべき両親の息子なのだから。

 

 

 

 

 

 

 「ネビル頑張ってたね」

 ‎「…ん?…ふん、空回りぎみだったけどな」

 

 朝食の席でハリーは、グリフィンドールのテーブルに頭を預けて突っ伏すネビルを眺めながら呟く。対してドラコはベーコンエッグを食べる手を止めることなく、たいして興味がなさそうに言った。

 

 「でもあれもさ、多分ネビル、目ではしっかり捉えてたよ」

 ‎「…そうなのか?」

 

 あまりネビルに気をやっていなかったドラコは、その言葉にピクリと反応する。

 ‎しかし、だとすればそれは、自分そしてハリーと同じようではないかと、ドラコは眉を潜めた。

 ‎ムーディとの訓練を始めた頃でも、遺伝的なものがあるのか、ドラコとハリーは2人とも反射神経、また動体視力は既に高い水準にあった。だからと言って何ができたわけではないのだが。

 ‎むしろ逆に、何もできなかったというのが正しいだろう。ひとえに、身体能力がーー基となる身体がモヤシすぎたのだ。あと、ムーディの求めるレベルが高すぎ。

 ‎ここまで動けるようになったのも、1日の終わりには身体が動かせなくなるほどの⎯⎯休息日はしっかりとあったが⎯⎯メニューをこなしたからこそなのだ。

 ‎ドラコは、もはや料理と見分けがつかなくなっている状態のネビルに懐疑的な視線を向けながらも、ムーディの口癖を頭に過らせる。目には、自然と力が入っていった。

 

 

 

 

 

 ハッフルパフ二年生の今学期始めの授業は、寮監であるスプラウトが教鞭を振るう薬草学だ。ちなみに、グリフィンドールとの合同授業である。

 雲が出てきた空を眺めながら城内から出て、温室へと向かう道すがら、ハリーはハーマイオニーと合流していた。

 

 「ハリー達の今日の授業って何?」

 「えっとね、次が闇の魔術に対する防衛術⎯⎯」

 ‎「ロックハート先生の!!…あ、ごめんなさい」

 ‎「あ、うん。それと午後は変身術だよ」

 ‎「そう…グリフィンドールも午後にロックハート先生の授業があるの。お昼にどうだったか教えてねっ」

 

 ハリーは、ご機嫌な様子のハーマイオニーに肩を竦めながら温室を目指す。どうやら、彼女はミーハーな気がするとハリーは思った。彼女自身は隠しているつもりかもしれないが、隠しきれていない。ロックハート先生は~ロックハート先生は~と気づけば口に出てしまっている。やはり、顔なのかとハリーは少しうんざりした。居心地もあまりよくない。

 ‎隣を歩いているドラコは我関せずと言った様子だし、ネビルも身を縮めながら少し後ろを歩いている。一瞬巻き込んでやろうかとも考えたが、直ぐに良心に苛まれてその考えは消える。

 もう、いっそここに本人でも現れてくれたら楽なのになと、ハリーはぼんやりと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああ、本当に素晴らしい授業だった…」

 ‎「…とても斬新な授業だったよ。退屈はしなかったな」

 ‎「ははは……ところで君のパパってさ、ホグワーツの理事なんだよね」

 ‎「…」

 ‎「ハーマイオニーに何て言おう」

 

 能面のような表情のハリーに、ドラコは何も言えず、気まずげにそっと視線を逸らした。

 ハリーは、ハーマイオニーまではいかなくとも、闇の魔術に対する防衛術の授業を心待ちにしていたのだ。実はハリーも、休暇中に読んだロックハートの本を気に入っていたのだ。

 ‎去年のクリスマス休暇中に、3頭犬を相手に冒険したことが、大きな理由だろうか。冒険というものにすっかりと味を占めていたハリーにとって、ロックハートの本に書いてある出来事は、魅力的だったのだ。

 

 「ハリー…みたんだろ?」

 「うん…能力高そうに見えないけど、一応先生だし少しだけど…」

 

 ドラコの問いかけに、ハリーは頷いてみせる。何がと聞かれなくとも、ドラコが何のことを聞いているのかがわかった。

 

 「それでどうなんだ?」

 ‎「何か嘘ついてるよ。何に対してかはわからなかったけど、最初に受けたイメージがそれだった。あ、あと…自分大好き人間であるのは確定事項」

 「それは僕でもわかるさ」

 

 ‎ハリーは、開心術でロックハートの心を覗いていた。本来はすべきことではない。ムーディにも、無闇矢鱈に使わないようにと再三注意を受けている。

 ‎しかし、どうにも抑えがきかなかったのだ。反省はしているが仕方なかったとハリーは思っている。

 ‎だって、なんだあれ。‎その一言に尽きる。

 

 「でもハリー、もう覗くなよ。もしかしたら闇の魔術に傾倒しているってこともある。用心すべきだ」

 ‎「え、そうかな…?」

 「ほら、教官の口癖を思い出せよ。本当に無能だったなら…まあ、何か考えよう」

 ‎「そうだね…」

 

 ハリーとドラコは、顔を見合わせてニンマリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

 「あ、あ……ハーマイオニーに何て言えばいいと思う?」

 ‎「さあな、僕に聞くなよ。…グレンジャーならあのテストで満点とりそうだな」

 ‎「ドラコは、2問ミスだったね。見事寮に加点されたし」

 ‎「うるさい」

 

 ハリーとドラコは軽口を叩き合う。こちらに向かって目を輝かせながら駆けてくるハーマイオニーに、気づかないふりを続けた。

 

 

 

 

 

 

 □

 

 

 

 

 

 

 

 「ひらけーごまっ…だっけ」

 ‎「あっ……ハリー、それ言う必要ないだろ。ドーラも冗談だって⎯⎯」

 ‎「本音は?」

 ‎「…別にいい」

 「ごめんごめん。もう一回やる?」

 ‎「いいって言ってるだろっ」

 ‎「おっけー、おっけー」

 ‎「ふん。…それにしてもすごいなこれ。中は本当に存在しているのか?扉だけだったりして」

 ‎「あ…うん。それに、ものすごく…うんと広い部屋って念じたから、あまり自信もないかも」

 ‎「いや、それで願いの限界がわかるかもしれないし…とにかく開けてみよう」

 ‎「そうだね」

 

 互いに頷きあって、両開きの扉にそれぞれの手を掛ける⎯⎯

 ‎

 

 

 

 次の日、ハーマイオニーとネビルは、突如現れた両開きの扉に目を丸くさせていた。

 

 「うわぁー」

 ‎「これって……?」

 ‎「あったりなかったり部屋。もしくは必要の部屋って言うんだって。これトンクスに教えてもらったんだ。マッドアイには内緒だよ?きっと立ち入り禁止にされるからってトンクスが⎯⎯あっ待ってよドラコ」

 

 開いた扉の先には、外からは考えがつかないほどの空間が広がっていた。天井は巨人がジャンプしたってまだ余裕があるくらいで、奥行き横幅はもっとある。そして、見慣れた幾つかの輪っかが両サイドに位置している。扉の近くの一角には、箒がずらりと並んでいた。

 

 「クイディッチがしたいって願ったらこうなったんだ。見ての通りフィールドが現れた。ゴールは手作りみたいだし、昔誰かが同じこと考えたんだと思う。それと、これ凄いんだっ。床は衰え呪文が掛かったような素材で出来てる」

 

 偉大なる先人の方々に感謝を、と祈りながらハリーが歩く。その後ろを、未だ口をあんぐりと開けたままのネビルと、「これいったいどれほどの魔法が……」ブツブツと呟くハーマイオニーがふらふらとしながら付いていった。

 

 

 

 

 

 

 □

 ‎

 

 

 

 週末の土曜日、ついにハリーとドラコのクイディッチメンバー入りが決定した。運良くと言うべきか、チェイサーのポジションにちょうど2人分の空きがでていた。そして、選抜に見事合格ーーというか、チェイサーの選抜を受けたのがハリーとドラコの2人だけだった。

 ‎ムーディからプレゼントされたニンバス2000を握りしめて、緊張しながらも臨んだ2人だ。正直、この結果に拍子抜けした。だが実のところ、ハッフルパフ寮内では、暗黙の了解で既にハリーとドラコのメンバー入りは決まっていたりした。もちろん、寮の生徒と交流がほとんどなかった2人には、知るよしもないことである。

 

 夜には、談話室で新メンバーのための歓迎会が行われた。そこで、ハリーとドラコも同寮の生徒と打ち解けてーーいや、それほど打ち解けてはいなかった。

 ‎ハッフルパフのクイディッチメンバーに何か問題があったわけではない。むしろ彼らは、最年少でチーム入りをしたハリーとドラコを大いに歓迎した。優れたシーカーであるセドリック・ディゴリーを始めとして、今年が最終学年のチェイサーでキャプテンを務めるガブリエル・トゥルーマンは、ちびっこ2人に積極的に話しかけた。

 対してハリーとドラコは普段の姿が見る影もないほどに⎯⎯天敵に狙われた小動物のように警戒心が剥き出しだった。内心かなりびびっていた。

 

 「ほら、二人ともこれ結構いけるよ。どうだい?」

 ‎「…大丈夫です、トゥルーマンさん」

 

 ハリーには、トラウマがあった。

 ‎去年の組み分けの際の、たくさんの失望の目だ。(被害妄想込み)

 ‎主に上級生から受けたそれから、ハリーは上級生を苦手としていた。

 

 「…じゃあ、そっちは…」

 ‎「結構だ。ディゴリー…さん」

 

 ドラコは、心に壁を作っていた。

 ‎去年の組み分けの際の、裏切りだ。(若干の被害妄想込み)

 ‎信じてきたものに裏切られたのだ。ドラコは基本、人を信用しなくなっていた。

 

 実は以前から、ハリーとドラコは2人ともにクイディッチチームに参加することに対して不安を抱いていたのだ。しかし、どちらも言い出せなかった。情けないやつだと、互いに思われたくなかったのだ。

 ‎しかし今結局、お互いの心情を察することになった。緊張しながらも、共に少しほっとしていたりする。

 

 翌日の日曜日から始まった全体練習では、昨夜のこともあり不安を感じていたクイディッチメンバーも、皆安心納得の表情を浮かべていた。

 特に、チェイサーのガブリエルは上機嫌だった。長年逃してきたクィディッチ優勝杯だが、本当に今年こそは手にいれることが出来るかもしれない。そう思えるほどに、ハリーとドラコは逸材だった。もちろん、まだ荒いところもあるが、試合までまだ二ヶ月ある。修正する時間は十分にあると思っている。

 ‎まずハリーだが、飛行能力が抜群に高い。おそらく、シーカーでもやっていけるだろうポテンシャルがある。これで、箒に初めて乗ったのが去年だと言うのだから驚きだ。そして、しっかりと周りが見えている。ほしいと思った場所にクアッフルが来る。細かいコントロールはまだまだだが、何よりそれだけでも一緒にプレーがしやすい。

 ‎そしてドラコだが、彼は堅実だ。スリザリンだなんてトンでもない。彼こそハッフルパフを表したようなプレーをする選手だと、ガブリエルは感心した。

 ‎上級生さながらの飛行能力に、幼少期から触れてきたのだろう⎯⎯クアッフルを扱う技術が高い。シュートの正確さも満足のいくレベルだ。そして、頭がよくキレる。フォーメーションも、こちらの意図も直ぐに理解してくれる。聞けば、去年の1学年トップだったと言うのだから納得だ。

 

 「ハリー!ドラコ!一旦休憩!他の皆も!」

 ‎「はい、キャプテン」

 ‎「わかった…キャプテン」

 

 ただ、もうちょっと砕けて接してほしいと思うガブリエルだった。プレー中は楽しそうなのに、終わるとこうなる。

 ‎ガブリエルは苦笑しながらも、想像以上の動きを見せてくれた2人に、激励の言葉をかけながら肩を叩いた。

 ‎ただちょっと、応援してくれる女子生徒がいるのは気にくわない。

 ‎ガブリエル・トゥルーマン。彼のガールフレンドは去年の卒業生、今はもう社会人である。手紙だけでは少し寂しいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「サインください!」

 

 反省会を終え、シャワーで汗を流して城内へと戻ったハリーを呼び止めたのは一人の男子生徒だった。真新しいローブに、深紅のネクタイを着けているのを見て、グリフィンドールの新入生だろうと判断する。同級生は基本的に話しかけてこないし。

 

 「よかったなハリー。せっかくのファンだ。書いてやったらどうだい?」

 ‎「いやいや…」

 

 ニヤニヤと笑うドラコに、ハリーは勘弁してくれと目で促すも、ドラコの様子は変わらなかった。完全に面白がっている。

 

 「ぼく…ぼく、コリン・クリービーと言います。それと、もしよかったら…写真をとってもいいですか?」

 「写真?」

 

 遠慮がちに言いながらも、じわじわと距離を詰めてくるコリンから、ハリーもつられて逃げるように後ずさる。

 

 「僕、あなたに会ったことを証明したくて⎯⎯」

 

 そこから、ハリーはあまり話を聞いていなかった。慣れない練習で疲れていたし、長々と話されても、ろくに頭に入ってこない。

 ‎隣を見れば、面白そうにしていたはずのドラコもうんざりとした顔をしていた。

 

 「あー、クリービー?サインするよ。写真もオッケーだよ」

 「…あ、本当っ?ありがとうございます!」

 

 もう面倒になったハリーは、要望に答えることにした。名前を書いて写真を1枚だけだ。話を聞くよりずっと楽に違いない。

 

 「よしこれで…」

 ‎「わ、わたしもお願いしますっ」

 「え…?」

 

 やっと戻れる。そう思った矢先、眼前に差し出されたものにより、ハリーは固まった。視線を上げれば、髪色と同様に、顔を真っ赤にさせた女子生徒と目が合う。今にも泣きそうだ。

 ‎反射的に、彼女の手帳に羽ペンを滑らせる。

 

 「あれ、インクが…?」

 ‎「…え?あっ!ち、ちが…こ、こっちです。こっちにお願いします」

 ‎「あ、うん」

 

 見間違いだったのかな。そう首を傾げた時に、ハリーの視界に嫌なものが映る。

 ‎まぁもう一つくらい…そう思ったのがいけなかったのだろう。長々と順番待ちの列が出来ていた。

 

 「ドラコ⎯⎯」

 

 助けて。そう言おうと隣を見たが、ドラコの姿がなかった。ハリーは唖然とする。

 

 「マルフォイさんなら、上級生…Pのバッヂを付けてたから多分監督生の人だと思います。連れていかれたよ」

 

 元凶のコリンがご親切に教えてくれた。見捨てられた訳ではなかったと、ハリーはほっとした。

 ‎しかし、なぜだろう。キャプテンは何かドラコに用があったのだろうか。

 

 「おやおや、この列は何かな?…何っサイン会?はっはー!」

 

 今一番聞きたくない声が聞こえた。いや、きっと幻聴だろう。疲れているんだ。

 ‎ハリーは、その場に座り込んで羽ペンを手に取った。

 

 

 

 

 

 

 その後、寮部屋に戻ってもドラコはいなかった。先に図書館に行ったのだろうと思ったが、図書館にもドラコの姿はなかった。

 ‎そして結局、夕食の時間が近づいてきても、ドラコは図書館に顔を見せることはなかった。

 ‎心配に心配を重ねたハリーは、緊張しながらも大広間の7年生が座っている場所に行き、監督生のガブリエルにドラコの所在を訪ねた。

 

 「マルフォイ?…いや、見てないな。それ、僕じゃないし」

 ‎「え、でも…」

 ‎「別の人じゃないかな。ほら、誰か教授に頼まれて呼びにきたとか」

 ‎「あ…なるほど。ありがとうございました」

 ‎「このくらい構わないよ。そうだ、よかったらここで食事する?」

 

 席を詰めて場所を用意しようとするガブリエルに、ハリーは慌てて首を振った。

 

 「あの、僕。ドラコを探してから食べるので…」

 ‎「あ…そうだね。じゃあ今度マルフォイと一緒においでよ。一緒に食べよう」

 ‎「あ…はい。…じゃあ」

 ‎「うん、気をつけて」

 

 

 

 ハリーは教員の席を見渡し、全員が揃っていることを確認すると、騒がしくなり始めた大広間から抜け出した。

 ハリーが迷わず‎向かったのは、必要の部屋が出現する8階の廊下だった。大広間に行く前に寮の部屋も確認したし、ここ以外他に思いつかなかった。

 ‎ハリーは少し考えて、石壁の前を3回行き来した。すると、見慣れた扉が現れる。

 ‎中は、寮部屋ほどの広さしかなかった。ぼんやりと灯る松明に、幾つかの本棚。中央には大きなテーブルが一つと長いソファーが備えられていた。ハリーは、ソファーの上から出ている見慣れたプラチナブロンドを確認する。ホッと息を吐いた。

 

 「ドラコ、探したよ」

 ‎「…ん、ハリー…?……あ、今何時だ」

 ‎「もう夕食は始まってる。急がないと」

 ‎「…ああ、そうだな。ごめんハリー」

 ‎「うん、じゃあ行こうか」

 

 ハリーは、なぜドラコがこんな所にいるのか聞かなかった。こんなのは、初めてのことで、聞く勇気がなかったのだ。

 

 「待った、ハリー。聞いてほしいことがあるんだ」

 ‎「…うん」

 

 ハリーは気を引き締めた。きっと、大切なことなのだ。そう思った。

 

 「ガールフレンドができた」

 ‎「……ぇ"」

 ‎「だよね」

 ‎「え、嘘?」

 ‎「いや、本当さ」

 

 そう軽く言うドラコだったが、ハリーにはドラコ自身、信じられないことを言っているかのような印象を受けた。

 

 「相手は誰さ」

 ‎「レイブンクローの監督生」

 ‎「うわー。…あの巻き毛の5年生だよね」

 

 壁に掛けられた松明が、ドラコの顔を淡く照らす。青白く見える頬の色は、ぽかぽかと色づいていた。

 

 「照れくさいから、一度に言う。いいか」

 ‎「ぉおー、うん」

 ‎「まず、先生が呼んでるって急いで言われてついていったら、誰もいない空き部屋に連れ込まれて愛を伝えられた」

 ‎「うわぉ」

 ‎「その時の言葉は省くけど…簡単に言えば、初恋の人に似ていたのが切っ掛けらしい。それで彼女、図書館の常連で、去年からよく見ていたそうだ。まあそんなの気がつかなかったけどな。僕たち悪目立ちしていたしね。……本当は、気持ちを伝えるつもりはなかったらしい。でも、今回ほら、クイディッチのメンバーになっただろ?僕に人気が出て…と思ったら、後から後悔したくなかったって」

 ‎「…それって」

 ‎「うん、まぁ断ったよ」

 ‎「あれ?」

 ‎「それに、彼女はマグル出身だった。マルフォイ家のことを考えると、それだけでダメだったんだ。だから断った。はっきりと言ったんだ。貴女とは一生を共にできないって」

 ‎「え、は?」

 ‎「笑えよ」

 「…あはは」

 

 ドラコは、ハリーをキッと睨み付けた。顔はもう真っ赤だった。

 

 「あんなの初めてで、混乱してたんだ。仕方ないだろっ‼」

 ‎「なんかごめん…」

 ‎「ふんっ…。まあいいさ。…それで彼女も言ったんだ。そこまで考えていなかったって。…でもちょっと嬉しそうだったなぁ」

 ‎「で、押し切られて恋人になったわけだね」

 ‎「なんでわかったんだ…?」

 ‎「いや、簡単だよ」

 ‎「……よかったら卒業までどうかお願い、嫌だったらいつでも別れていいからって言われて、気づいたら頷いてたんだ」

 

 少し後悔しているような、でも嬉しいような、そんな曖昧な表情をドラコは浮かべて言った。

 ‎ハリーは何だかイラッとしてきた。だから、彼女の卒業までドラコが拘束されるだろうことには、コメントしなかった。

 

 「よかったね。よし、じゃあ夕食に行こうかっ。なくなっちゃうよ」

 ‎「え、話はまだ…」

 ‎「後で聞くよ。お腹すいた」

 ‎「あ、うん」

 

 ハリーとドラコは無言でただひたすらに、1階までの階段を駆け下りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後の授業が終わり、ハーマイオニーはいつものように図書館へと向かう。そして、いつものように勉強をする。それが彼女の日常だ。

 ‎しかし、今日の彼女は少し様子が違っていた。分厚い本を前にしても集中できない。ちっとも頭に入ってこない。そんな状態だった。

 ‎彼女の周りには、誰もいなかった。去年の今ごろまでは、これが普通だったのにとぼんやりと考える。

 ‎でも今は…勉強しているとき隣に誰もいないのが堪らなく寂しかった。

 ‎大切な友達も、競い合うライバルも、最近加わった同寮の友達もどこにもいない。ひとりぼっちだ。歯を食い縛り、思わず視界が滲んでしまうのも仕方ないのだ。

 ‎しかしついに、ハーマイオニーは耐えきれなくなって席を立つ。どうせこんな状態じゃ勉強なんてできないと言い訳しながら、足を急がせる。

 息を切らしながら‎階段を駆け上がり、目的の場所にたどり着く。そして、力一杯に扉を押した。

 

 「え?…おい」

 ‎「うわぁっ」

 「え、ちょっ、ハーマイオニー準備まだっ」

 

 三者三用の声や悲鳴に、彼女は先ほどまでの暗雲をすっかり消して、向日葵のような笑顔を浮かべた。

 ‎それを見た3人は目を丸くさせるも、それぞれの手を止めて、畏まりながら彼女の前に並ぶ。

 

 「えーと、まだこんなんだけど…」

 ‎「私も手伝うわ」

 ‎「あー、そう…。じゃあ」

 

 ハリーとドラコ、ネビルの3人は顔を見合わせて口を開いた。

 

 「「「ハッピーバースデイ、ハーマイオニー」」グレンジャー」

 「…ありがとうっ」

 

 「そこは揃えようよ」

 ‎「…ふん」

 

 9月19日。この日はハーマイオニーの誕生日だった。

 

 

 この後、一同は必要の部屋に閉じ込められる。

 ‎押しても引いてもスライドさせようともびくともしない扉の前に一時間。ネビルは半泣き、ドラコはぷるぷる。痺れを切らしたハリーが杖を上げたところで、ハーマイオニーが待ったをかける。そして、彼女はこう言った。

 ‎「扉がなければ、扉を造ればいいんだわっ」

 ‎そうして、彼女が念じて新たに出現した扉によって事なきをえた。

 

 ‎寮に戻ってハリーはふと思った。何か既視感あるなこれ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ‎

 

 


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