IS学園で非日常   作:和希

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三十四話 それぞれの決着

 「久しぶりですわね、お父様の書斎は」

セシリアは全ての予定をこなした後、亡き父の書斎にいた。日本への出立は残り半日までとなっていた。

「……ISを使うのは最終手段にしましょう。あるかは分かりませんが」

ISのセンサー類は凄まじい効果を発揮する。希などはちょくちょく使ってるが、部屋の内部は大体丸分かりには出来る。ただ、どの機能も無許可で使うと厳罰の為、最終手段とする事に彼女は決めた。

ひとまず戸棚に向かった。経済専門誌、企業の雑誌、経済学の本などに偏っていたかと思えば相手の気分がよくなる会話術、人の心理学、などもあった。かと思えば娯楽小説もあった。そして端にまで眼を移すと

「あら、アルバムがあったなんて」

親が死んでからは彼女はがむしゃらだった。十二歳で親を亡くし、家を守るためにひたすら頑張っていた。家の整理は専らチェルシーに任せてたためこの事には気づいていなかった。

「懐かしいですわね」

ペラペラとページをめくる。自分が赤ん坊のころの写真があった。自分の記憶にある限りはあの二人が笑ってる姿は少なかったから意外であった。段々と自分が成長してきて五歳ぐらいまでの写真が載っていた。両親や自分も、結構な頻度で笑ってる姿が写っていた。

二冊目に入った。

「十年ほど前……」

過ぎ去ってみると短い時間。自分も段々と大きくなってゆく。ただ、前の一冊に比べ笑ってる写真が少ない気がした。……それも、かなり。そして、最後ちょうどぐらいで写真は無くなっていた。セシリアの姿は十二歳で。

「……あるかどうか分からないものを探すなんて」

部屋をくるくるまわり、物をどかしたり、引き出しにあったコインをどこにあてはめるべきかなど一瞬考え恥ずかしがる。更には一生懸命小説や漫画の知識を動員してありそうな事を片っ端から行うが全て無駄だった。

「傍から見たら変人ですわね」

どっと父の椅子に座り、机に突っ伏した。直後にいけないと思い背筋を伸ばす。そして机の上に置いておいたコインを元の引き出しの内部にしまった。その時、

「……今の」

感触に違和感があった。引き出しの底を適当にトントンと叩く。

(これは、ビンゴでしょうか)

引き出しの物を全て取り出して(と言っても少ないが)引き出しを引っ張りだす。隅に、引っ掛けるような跡があった。

「コインで、こうして」

コインで引っ掛け、開く。すると中から一冊の日記が出てきた。

「何て初歩的な……」

あまりにも初歩的で気付いていなかった。だが結果オーライとばかりに日記帳を開いた。

『○月▼日

私はとうとう婿入りをした。妻となった人は、立派で、強く、私と対極の相手であった。(中略)だが、私には憧れるしか出来ない』

「……はぁ」

自分のお父様は立派ではない方だったのかと落胆?した。しかしここで投げ出すのもどうかと思って、セシリアはそのまま読み進めた。

『○月○日

妻の手腕は本当に素晴らしい。今日も企業の買収を成功した。ただ、少し強引に思えた。私が気弱だからだろうか?相手の苦々しげな顔がまだ残っている。敵が増えなければいいが』

『○月■日

妻にずっと前から気になっていた事をとうとう尋ねた。妻にっては当たり前で、私にはとても分からない事。「なぜそのように強くいられるのか」「言うまでもありません。私には守るべき家があり、誇りがあり、私に付いてくる人たちが大勢いる。そのために胸を張り、強く生きるのです」このとき、親の定めた結婚をうとましく思っていた心が、消え出した』

『▼月■日

意外な一面を見れた。料理を部下にふるまうと士気が上がるときいた妻は手料理をごちそうした。救急車は何とか必要無かった。何でも出来ると思った妻だったが、出来ない事もあるものだ。意外な一面が見れて良かった。それと同時に、段々と思いが募る』

『▼月○日

運が悪かった。たまたまひったくりが妻のバックを奪おうとしてきた。咄嗟だった。飛び出て相手にしがみつき、引き倒した。警察がやってきて事なきを得た。この後、妻から「あなたも出来ないわけではないのですね。助けてくれて、ありがとう」と少しだけだが微笑んでくれた。ああ、段々とこの人を守りたいと思うようになってきている。だが、私は臆病で、日蔭者だ』

(あれ、何か流れが変わってきたようですわ)

『▼月▼日

この前強引に買収した企業と関係が良かった企業の人間らしき者がやって来た。「あんな傲慢な女、疲れているでしょう?」「私たちと手を組みませんか?」「いつも一歩後ろで控えてるあなたを見ると不憫です。さあ」あまりの怒りにぶんなぐりたくなったが、必死に抑えた。彼らの言ってる事が本当かは分からない。ただ、これだけはいえる。妻は傲慢なのではなく、誇りが高いのだ。似ているようで、とても違う』

『●月●日

必死に考えた。別に妻を裏切ろうと言う気持ちではない。もっといい方法はないかと。そんなことを考えていたら、また訪問客が来た。次は違う企業の人間だった。ただ、前の連中と同じような事を言ってきた。そして閃いた。これは、使えるのではないか?私は日陰者だ。だが、それでも出来る事はあるのではないだろうか?力を出して一歩踏み出せば』

(お父……様?)

『●月△日

私は盗聴器を用意した。そして相手の誘いに乗ったフリをした。元々相手の話に付き合うのは得意だ。自分から話すタイプではない。そのまま酒を飲み、いい調子にしてこちらの企業の悪い部分をでっちあげ、相手の企業の悪い部分を話させた。相手は私の思惑に気付いているかもしれない。ただ、やらないよりマシだ。

その後、妻にこの盗聴器を渡した。すると驚いた顔になって「出来るではありませんか。結構、いい男だったのですね」だったのではない。今なりつつある、のだろうか。妻を守るためだ。だから、もっと勉強をしなくてはならない。私は日陰者だ。だが、妻の光の影なら本望だ』

その時、パラリと水が落ちた。セシリアは慌てて眼を手でぬぐった。

「あら、おかしいですわね」

だが、なかなか止まりはしなかった。三分ほどでやっと止まり、涙ぐみながらもまだある日記を読み進めた。

『●月■日

その後、私は撒餌となった。妻の経営する会社は大きくなり、オルコット家の権威も増してきた。だが妬む者は比例して増える。だが私は影だ。派手にしすぎると効果が薄れる。私は相手に深入りしすぎはせず、ただ周りからゆっくり削いでいけるような情報を集めた。正面からかかれば私の妻に敵う人間はいない。だから、私は補助に徹した。妻もそれを快く思ってくれている。何となくだが、妻と一緒にいる時間も増え、二人きりの時は笑うことが増えてきた、気がする』

『●月△日

私が陰になってから一年。とうとう、私と妻の間に娘が生まれた。名前はセシリア。綺麗な名前だ。妻と似ていて美しく、強く、誇り高い女性に育つ事を祈る。そして、その努力をしよう』

『●月□日

娘も六歳になった。客人達を招いた誕生日パーティーの後にセシリアは聞いてきた。「何でお父様はお母様にいつも怒られてるの?」そしてそれを妻が聞いていた。妻はセシリアをまた今度と寝かしつけた。そして寝た後私に「セシリアの前ではしっかりしてもいいでしょう」と言ってきた。まだ、駄目なのだ。六歳頃の子供といえども情報は漏れていく。私が影に徹し始めた時から、外では私たちは演技をしてきた。だらしない夫と出来る妻を。娘にだってそれを伝えるのはまだ早い。年の割には聡明だと言えるが、だが駄目だ。まだ、駄目なのだ。会社も、ここで一気に決めないといけない時期だ』

『□月△日

六歳、あの時からセシリアが私を見る眼が厳しくなってきているのを自覚していた。段々と、家族でいる時間も少なくなっていくのを感じていたから。そして笑う時間も少なくなってきたから。妻も「しっかりしてください」「セシリアが男子をなんとも思っていないそうです」と言うようになってきた。私自身もセシリアからの眼が辛くなってきた。影に徹していても。娘ももう十二歳になる。会社もしっかり安定した。

私は妻に聞いた「私は、あの時から変わっただろうか。人に強く言えない、胸も張れない、そんな駄目だった自分から変われただろうか。私はお前に変えられた。お前みたいに立派になりたかった。日陰者の私でも、胸を張れるように立派な人間になれたのだろうか」「もちろんですわ。私の愛する、立派な夫ですわ。例え周りの人々が何と言おうとも、あなたは立派な夫です。だから、次はあの子の立派な父親になってください」私は、久しぶりに。泣いた。

妻は既に寝ている。セシリアには明日からある外国への用事を終わらせてから話そう。妻とそう決めた。簡単に話せる事ではないだろうから。明日からの用事を終わらせれば、そうすれば』

日記を全て読み終わった。今までのページにたくさんの水滴の跡をつけながら。

「お、父様……お父様ああぁぁぁ!!」

涙をぬぐってもぬぐっても溢れてきた。今まで父親をだらしないと思っていた後悔と、自分の見る眼の無さに対する怒りや悲しみ。それらが渦巻いて、ひたすら涙が溢れてきた。

「お嬢様!?お嬢様!?」

 

 

 

 

 コンコンとドアを叩く音が響いた。

「開いてる」

「失礼します」

ドアを開けて入ってきたのはシャルロット・デュノアだった。そしてソファに座っているのはシャルル・デュノア。デュノア社の社長である。

「……ま、まあ、椅子に腰掛けたらどうだ」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」

二人は正面に向かい合って座って、それきり黙った。一分ほどひたすら黙っていた。口を開こうとしては閉じて視線をくるくるしたかと思えばお互いに合わせて、かと思えば逸らす。そして先にデュノアが口を開いた。

「その、何だ。学園生活は上手く行ってるか?」

「はい、楽しかったり、色々です」

それきりまた三十秒ほど黙った。が、次はシャルロットから

「お、お父さんは元気にしてた?」

「ま、まあな。健康は崩れていない」

また黙った。十五秒ほど。そしてデュノアが

「その、元気そうで何よりだった。……それで、聞きたいことがあって来たのだろう?」

「その、通りです」

デュノアは立ち上がり、壁際に移動して外を見た。シャルロットはその観察眼で気付いた。

(お母さんの家の方角だ)

偶然かもしれないが、違うと思った。デュノアはその方角を見つめながらぽつぽつ語りだした。

「大筋は、前に話した通りだ。そうだな、だから、出会いについて話そうか。

私はいい所出の人間だ。幸い能力も恵まれていた。そして順調に育っていい企業に就職した。そして、一気に出世階段を駆け上った。その時に今の本妻と身の上の都合で結婚した。そしてある時に町に買いだしに来ていた女性……お前の母親出会った。そして一時間ほど話し合っただけで恋に落ちた。嬉しい事に向こうも同じようだった。ただ、本妻の事もあるから無理だと伝えた。残念だとも。

ただ、それからも向こうから私に会いに来てくれた。そして、遂に一線を越えてしまって、私たちの関係が始まった。全く取らなかった有給休暇を取って彼女の実家で一緒に過ごした事もある。何とかやって行けた。だが、私の出世が一気に跳ねすぎてしまった。東洋の諺の棚からぼた餅の如く、三十代で社長となった。一気に忙しくなり、一緒にいられる時間は減った。そして同時に妊娠も分かってしまった。社長も投げて本妻とも別れようとした。だが私には数万近くの部下がいた。そんな無闇に投げ出せなかった。まあ、それならそんな関係になっているなという話だが。

だが、アイツは……俺を笑って押し出してくれた。『大丈夫、もし全てが大丈夫だと思ったら来てください。いつまでも待ってます。子供と一緒に。無茶はしないでね』と。それから第二世代傑作機体、ラファールを生み出して優秀な部下も育った。これで後任を任せれると思った。だが、第三世代に乗り遅れたと実感したと同時に、アイツは死んでしまった。多分、怨んでるのだろうな。

と言う話だ。俺は、自分のことを滑稽だと思う。もし、あの時とはおろかな言葉とは思っていた。ただ、それに縋り付きたい気持ちを理解できてしまった。さぁ、他に質問はあるか?」

「……じゃない」

シャルロットは俯きながらも小さく呟いた。

「いったいな__」

「滑稽なんかじゃない!お父さんは!!お父さんは立派だよ!一生懸命会社を経営して、数万人の部下も助けようとしてお母さんの事もどうにかしようと思って、努力して、実行しようとした!お母さんは死んでしまったけど、怨んでなんかいないよ!お母さん、言ってたよ!?『あなたのパパは立派な人で、たくさんの人の重荷を背負いながらも、私に会おうと頑張ってくれてる人』だって!数万人もお母さんの事も投げ出そうとしなかった!だから……滑稽だなんていわないでよ……」

シャルロットは啜り泣きをしだした。デュノアはオロオロしながらも近づき、シャルロットの頭に触れた、かと思えば引き離して、また触れて、撫でた。そして肩に腕を回して。

「……ありがとう。ありがとう。……ああ、本当にお前はアイツに似ている。そっくりだ。いつの間にか、こんなに年月が過ぎていたのか。あのときから、もう、こんなに、経ったのか。シャルロット、泣くな」

「……お、お父さんも泣いてるよ」




こういった重い話を長く書けません。きついです。描写頑張らないと
あとある程度分かり合えてるなら重要な話でもささっと終わらせれるはず!そうだといいな!俺はそう信じる!
やっぱりちょい短め?

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