IS学園で非日常   作:和希

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三十三話 夏休みの始まり

 八月、IS学園は夏休みに入る。そう、子供たちにとって最も楽しみであると同時に最もつまらない終業式が今日終わった。そう終業式が終わったのだ、この退屈な終業式が終わったと同時に楽しい夏休みが始まる__

と思っても俺はそこまでじゃないけどね!そりゃ中学校の時は楽しかったけど、今は面白い奴が多いので学校も楽しい。特にISでバトルが。あー、でも企業に出向けば一日中ISぶん回せるだろうからそっちも楽しいなー。今年の夏はいかんな、やる事がたくさんすぎる。ISぶん回して強くならないと。あー、ISだけでも駄目か。勉強も出来るようにならないと。

さて、それより問題はシャルに関しての事。

「それじゃ、やっぱり一度帰るわけだな」

まだ人がたくさんいる教室の中で最後の確認を取った。既に一週間ぐらい前から計画していたらしい。

「うん、お父さんと一度話し合ってこようと思う」

シャルは一度帰国することになった。とは言え一週間以内には絶対帰ってくるらしい。今日出発して、早ければ四日程度で帰ってくる予定だそうだ。

「それじゃ、気をつけてな。もし何か危ない事があったらISで知らせてくれ。すぐ駆けつけるから」

「もう、心配しすぎだよ。でも、ありがとね」

シャルは事件に巻き込まれる要素が多すぎ。不安でしょうがない。普段はしっかりしてるけど、たまに油断したりするし。あと何よりかわいい。

「それじゃ、またね」

雑談したりしながらいつの間にか外に出ていた。手を小さく振って、去ってゆくシャルを俺も手を振ってお別れをした。その影が見えなくなると同時に背後で気配がした。

「あら、希さん。お見送りですか?」

「まあね。セシリアも帰るのか」

「はい、家の職務や代表候補生としての報告、ブルー・ティアーズの再調整など。そして……両親の墓参りも」

そうか、そういやセシリアの両親は死んでたのか。全く、一夏の両親は蒸発、鈴は離婚、箒は離れ離れ、シャルは今から話し合い(母死亡)、ラウラは両親いるの?状態。まともな親子関係してるのがいないな。俺は中学までは普通だったと確信してるけどね。

ともかく、デリケートな部分は皆隠している。セシリアも両親の事は特に話してこなかった。既に死んでいるとしか。

シャルの事は一夏ですら知らない、と思う。友達の間で隠し事は無しね!なんて事を俺は思わない。それぞれ秘密にしたい事がある。だからそれでいいと思う。秘密があるやつとは友達になれないなんて言うやつ絶対信用しない。

ともかく、セシリアは表情を硬いものに変えた。いつもとは全く違う顔に。

「少し、時間がありますわね。時間を頂いてよろしくて?」

「もちろんだとも、レディー」

少し、空気が変わった気がした。それも、重い方向に。

 

 

 

 

 「私の両親は幼い頃……と言っても数年前にですが死んでしまいました」

レディーに立ち話させるのもどうかと思ったが、ベンチが置いてないのでIS学園の前で立ち話の格好となった。俺は壁にもたれかかりながらだがセシリアは由緒正しいお嬢様なのでそんな事はしていない。立派な姿勢だけども、少しうつむいたままポツリポツリ話してゆく。

「そして両親についてですが……私の母はとても立派なお方でした。わがオルコット家を切り盛りし、たくさんの会社を経営して受け継いだ家を更に発展させた私の理想とする人です」

普通、人と話し合いするときは適度に相槌を打つのがいい。そうした方が話を聞いてくれてる感が出るからだ。ただ、ここはずっと黙って聞く。もたれかかって聞くのは、いつも通りの自然さを少しは出すため。あまりに真剣だと向こうも困るだろうから。

とは言え、俺を見てはいないようだけど。

「ただ、父は違いました。名家に入り婿をした引け目なのか、父はいつも母の顔色ばかりをうかがう人でした。さらにISが発表されてから父の態度は益々弱いものになりました。母はどこかそれが鬱陶しそうでした」

それっきりセシリアは黙った。そして以前の態度に納得がいった。セシリアが話そうとしないので、こちらから切り出した。

「なるほど、セシリアの一番最初のあの態度に納得がいった」

「そ、その事は忘れてください!」

男・女を嫌いになるぱっと思いつく理由として男・女どっちかに酷い目に合わされたとかそんなところだ。こっぴどく振られた男・女はそれぞれ恐怖症になる。男を見下したセシリアの態度はセシリアの最も身近にいた男、つまり父親がみっともなく見えてたから。それが、立派な男(?)の代表、一夏によって吹き飛んだ。

更に付け加えれば、普通に恋する乙女になったから家の重荷とかを少しおろしたくなったのだろうか?だから高飛車なところも改善された、とかだろうか。まあそっちはいいや。

「なるほどね……父親はどういった男だったのか、ってことか?」

「……はい。私から見て希さんは尊敬する人です。今までたくさんの事を解決してくれましたし、解決したのを見てきましたわ。福音の時の勇姿も覚えています。だから、尊敬する男性である希さんから見て父はどんな人間でしょうか?」

一夏には聞かないの?なんてことは言わない。たぶん、励ましはするだろうけど解決は出来ないと思ってるだろうから。

ふーん、まずそうだな。

「やっぱり断片だからなんとも。一夏だって傍目から見たら女にだらしない優男だしさ。俺だって断片的に伝えられたらいつもニヤニヤして胡散臭い事考えてる人だし」

客観的にみることは大切だ。とても。

「そんな事ありま……せんわ」

もっと強く否定してほしかったな。矛盾する心である。

「さて、ジョークは置いといて。ぱっと思いついたパターン一つ目。お父さんは本当にダメ人間だった。そしてお母さんは実際にはダメ男が好きだったパターン。二つ目、位の低い物を置いて自分を高くしようとしたパターン……は無いかな。それだけ立派な女性なら比較なんかしないか。最後に三つ目、実際には父親は立派な人だったパターン、これ超大穴」

「立派?いつも母の顔色をうかがっていたお父様がですか?」

疑わしげに俺に尋ねる。そりゃ当然だよな。

「つまり撒餌って事。だらしないフリをして他の企業の連中や自社のお母さんを快く思わない連中にこいつはねらい目だとか思わせる方法とか。そしてやってきた相手をお母さんに知らせてるとか。ただ、確率は低いよ?」

「そう、ですか」

ちょっと納得していないような。だろうね、俺もそうだったらいいなって思っただけだし。幾らなんでも情報が断片的過ぎる。推理物の主人公たちを連れてきても分からないとしか言えないと思う。実地検分しようにも、俺はこれでも世界で二人のIS操縦者。シャルの里帰りに同行しようにも国&企業から駄目だと言われたので本当にしょうがなく諦めたのだ。セシリアも同じくだろう。

ただ、これだけは言える。

「父親が立派だったかどうかはセシリアがどうかには関係はしない。俺は、お前の狙撃技術が凄いと思う。テストで一位を取る努力と才能を兼ね備えてるお前の事を尊敬してる。優雅に振舞う白鳥は水面で努力してるのを知ってる。だから、悩みすぎるなよ。まっ、父の書斎とかをもう少しさばくって何か判明したらもうけものぐらいにでも思っとけ」

精々これだけの事しか言えない。論点のすり替えみたいなもんだけど、心からの励ましでもある。だから、これでいい。

でもセシリアは不思議なものを見るような眼で

「……たまに思うのですが、本当に希さんは同年齢なのでしょうか?十歳は年上に思いますわ」

「そんなに老けてるように思える?で、実際にはアニメや小説やらの受け売りだよ。その中で、俺がそうだと思ったのを伝えてるだけ。それじゃ、気をつけてな」

「……ありがとうございました。良い夏をお過ごしください」

そう言って、ロールスロイスが迎えに来て去っていった。

さて、何をしようか。今残ってるのは俺・一夏・鈴・ラウラ・箒か。もしくは適当にアリーナで練習してる生徒と多対一の練習でもしようか。んー、やっぱりラウラにみっちりしごいてもらうかな。もっと強くならないと。

 

 

 

 「ラウラ、いるか?」

「む、兄か。開いてるぞ」

「あいよー。夏休みに入ったな。ラウラは国に帰る予定は無いのか?」

部屋に入ると制服姿で椅子に座っており、ISの資料を読み通していた。ISの資料は絶対に見せようとしない。そりゃそうだ。俺だってシャルにも一夏にも見せたことないし。一夏もシャルも俺に見せたりしない。信用してないわけじゃない。ただ、企業の人たちへの礼儀ってやつだ。

ラウラは見てた資料を閉じて俺に顔を向けた。

「今の所は無い。新たに予定が入る事も無いだろうが」

一番忙しくなると思ったけどな。可愛い妹だけど正規の軍人だし。

「今日の午後空いてるか?ワイヤーの扱いをレベルアップさせときたくて」

ワイヤーは使い方ではすさまじい武器になる。ワイヤー(だけじゃないけど)を上手に使い鈴とセシリアをまとめて相手にしていたのだから。後から戦闘データを見て実感した。小説漫画アニメでもワイヤーはとにかく活躍する。実際の戦争だってトラップにも多く使う。人類の歴史にだって最古参から登場するメンバーだ。それだけ汎用性がある。

相手に当ててガッシリと掴めば、引き寄せて殴る事も出来るし射撃の時に精度を乱すことも出来る。もっと上手になっておくべきだ。

「分かった」

 

 

 

 

 「段々と良くなってきてはいるぞ」

「ありがとな」

昼食を食べ終わってからずっと戦い続け、いつの間にか時間は五時になってた。エネルギーが尽きたらエネルギー回復プラグにぶっ刺してその間にラウラから反省点を貰った。

「ただ、あのような使い方もあるのだな。野外戦での参考になる」

「アレね」

地表すれすれで戦ってる時、ラウラが突撃してきた瞬間に急上昇とともに地面にワイヤーを打ち込む。そこに引っ掛けてというわけだ。とは言え、ドーム内部では壁に刺そうとしてもシールドに阻まれて無理なんだけど。実戦専用(超低空地上戦)と言うわけだ。あまりしたくはないと思うけど、同時にしたいと思ってしまう。あの時の高揚感。……いかんいかん。また誰かが傷つく。

「だがまだまだ甘い所がある。だがそれだけもっと強くなれるという事だ。分かったな、ルーキー」

体は小さいのに、頑張ってるラウラを見ると励みになった。もっと頑張らないとな。

「了解です、軍曹」

ちょうど目の前に一夏たちが現れた。別のアリーナでやってたのだろう。手を上げてよっすと挨拶する。

「調子は?」

「ボロクソにされた……」

一夏がうげぇとした表情で。

「一番最初は優勢だったけどとかだろ?まあ、あんな燃費悪い機体使ってりゃなぁ。俺と真逆だもんな」

俺の機体は前言ったとおりラファールの機動性と収納領域、打鉄の安定性と防御性を兼ね備えてる。安定性だけなら鈴の機体すら凌ぐ。燃費は重量が多くてちょっと悪いが、誤差レベルだ。しかも最近改善もされてきてる。大和は現状、第三世代最強機体と言って過言じゃない。というかそうだ。俺が代表候補生たちに渡り合えてる理由の一つでもある。

「せめて燃費がもう少しよければなぁ」

「零落白夜を当てる瞬間だけに使うとかその他試してみても、どうしても限界はあるしね」

鈴が続けて言った。

「雪羅も一発放てば大きくエネルギー削る事になるから仕方ないな」

箒も頷く。全く、なぜまた玄人使用に一歩足を踏み入れるのか。やったね一夏くん!遠距離武器が増えるよ!→単発でしかぶっ放せない大口径砲というひどさ。あまりにも酷い。俺の機体がそんなだったら苦情を開発部門に叩き付ける。

「はー、どうしてこんな進化しちゃったんだ……」

「坊やだからさ」

「いや関係ないだろ?」

坊やだからさって使いどころありそうでないような微妙な言葉だよね。

「まーまー。諦めろって。住めば都って言うだろ?俺は実戦じゃ使いたくは無いな」

「酷いぞ」

一夏はため息をついた。

 

 

 

 

 「んー」

シャワーを浴び終わって着替え終わり、ストレッチが終わった。時刻は十時。後は適当に時間を使ってくつろぐだけだ。

「ストレッチ終わったか。マッサージはいらないのか?」

「ああ、大丈夫。……始まったな、夏休み」

「だな。色々あったな」

「だなぁ」

四月(以前にもあるが)にはセシリアと騒動、五月に鈴が転校してきて無人機ヒャッハー、六月にシャルとラウラが転校してきて一夏をバシンとかその他色々。最後には機体が暴走してた。そして七月、思い出したくないと同時に忘れてはいけなくて、そして最も高揚したあの福音事件。

「……幾らなんでも色々ありすぎだな」

素直に思ったが。幾らなんでも詰め込みすぎだろ、イベント。三年分消費した気分だぞ。……実際には命巻き込まれるイベントなんて三年どころか一生でも一回ぐらいのはずだけど。

「……意外とあったな」

一夏も頷いた。問題はこれからも起こる可能性があるわけだ。色々と。まだ四カ月だ。このペースでまだ起こるようなら卒業までに二十回以上はイベントが起きてるかもしれない。いくらなんでも多すぎだ。日常に利かせるスパイスにしては。

「まっ、これから何かあったとしてもどうにか解決できるだろ?また皆の力でさ」

「……まあ、そうだろうな」

別に一夏を巻き込むことはそこまでは深刻に考えない。痴情のもつれ以外には地獄に行かず死にもせずだろうし。第一、一夏だって俺を巻き込むことはあまり躊躇わないだろう。さすがに突っ込んだら100%死ぬよ!みたいなイベントは俺もあいつも躊躇うだろうが。

でも、他の皆はあまり巻き込みたくない。男の意地って奴だ。俺達二人が下から数えた方が早いぐらいの腕なのは知ってるけど、それでもあまりあいつらに危険な目は会わせたくない。あまり、だけど。ただ、シャルには絶対かな。

「もっと、強くならないとな」

一夏も承知してる事を静かにつぶやいた。

「勿論だ」

 

 

 

 追記 シャワーを浴びたらしいラウラが可愛いパジャマ(一夏たちが選んだ。ショッピングモールの時)に濡れた髪を拭いてくれとやってきて、さらに鈴と箒が乱入。初日から千冬さんのお世話一歩手前でした。だから大小イベント多すぎじゃ




ちょいと短め?オリジナルは難しい
それと、ストックを作るため15日更新にします。この予約投稿がされるころには受験も最終段階ですので、終わったらまたストックが出来るはずです。3月半ばぐらいからまた十日ぐらいに出来ると思います

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