IS学園、そのアリーナで。
「せいっ!」
「やあっ!」
希とシャルロットが戦いをしている。福音事件以来なぜかシャルロットと勝負をしようとしなかったが、ここになって勝負を挑んだというのが流れだ。それを他の仲間たちが見ていた。
「あっ、そっちじゃないぞ!」
「接近戦を挑むのだ!」
一夏たちは口に出して応援していたが、鈴・セシリア・ラウラはじっと見つめていた。そしてぽつりと鈴が
「これは、駄目ね」
「残念ですが、同意ですわ」
「だな」
「どうしてだ?希は強い。まだ行けるかもしれないぞ。前より一段強くなっている」
箒の強気の意見に対して、鈴は首を振って
「希の強さってのは、相手の弱点を突く戦法よ。私になら距離をとりながら火力で潰す。ラウラに対しても、一夏に対しても。セシリアには速度と防御を両立させて、狙撃を狂わせるグレネード系統で攻撃しながら接近戦。豊富な武装と機体性能の高さの戦法。これにプラスして特殊武器や意識を意外性のある引っ掛け攻撃とか。でもね、シャルロットは希のことをよく理解してるし、頭の回転も早いから、引っ掛け攻撃も事前で気付くし、技術も高いから対処できるわ。
希が遠距離火力でゴリ押ししても機動力が落ちた大和にラファールは十分追いつけるからシャルロットは接近戦にできる。だからと言って接近戦に持ち込もうとしたら弾幕と速度でなかなか追いつけない。私たちは特化だけど、希とシャルロットはバランスタイプなのよ。だから、希のどんな技術もシャルロットには勝てないから。唯一勝てる引っ掛けとか意外性のある攻撃もネタが切れたり、対処が早いシャルロットに潰される。だから、勝てないのよ。確かに技術は上がってるし、押し込んでいるけど……焦ってるわね。いつもより安定してないわ」
事実、五分後に希は一発逆転を狙った特攻をパイルバンカーでカウンターされ、撃墜された。
「希、大丈夫?」
シャルロットが着陸した希に近づいた。希は起き上がって首を振り、
「大丈夫?」
「絶対防御があるし。はぁ、ダメか……またか……」
「そ、そんなに落ち込むことないって!強くなったよ、一か月前に比べて。まだまだ夏休みにも入ってないぐらいだから。三年生ぐらいには僕たちを抜かしてると思うよ」
一生懸命に希を励ますが、希は空を見つめながら
「……三年生、か……えっと、4月から1…2…3……3回か。1ヶ月で1回か」
「何の事?」
「くだらないこと。さて、もっと強くならないとな、もっと……」
希は夜遅くまでトレーニングを続けた。
1ヶ月に1回と言うのが鈴の無人機、ラウラのVTS、福音事件とはシャルロットは気付けなかった。
数日後。
「せーのっ!」
テスト結果を全員で出し合った。どんな学園でもある学期終わりの風物詩、テストである。それも通常科目のテストである。
「あー、セシリアがやっぱ強いか」
「英国貴族として当然ですわ!」
貴族ってすごい、改めてそう思った。っていうか未だにイギリスって貴族いるんだよな。名誉職みたいなものらしいけど。
「希は意外と悪いな」
箒がはて、と言うように言った。
「頭の回転が成績に結び付くとは限らないの。それにしても、やっぱ全員高いな」
俺と一夏がビリッ穴って所か。他の女子たちもぱっと聞いたところ全員上だ。当然と言えば当然。下手したら倍率万倍以上の試験をくぐり抜けてやってきた猛者ばかり。スポーツ推薦生徒以外は全員偏差値60台後半行ってるし。っつーか、70台もたくさん。俺もそろそろIS授業付いていけない場所が多い。通常授業はマシだけど。ISの授業が多めに割り振られてるから。当然だけどね。それでも微妙な進学校ぐらいのレベルは普通にあるらしい。
「それにしても、セシリア。ありがとな、英語」
「いつもお世話になってますから。ただ、理解力が高い希さんにしては意外でしたが」
俺は英語が苦手だ。よって本場の英語を知っているセシリアに教えてもらった。中学一年から英語の塾をやってたけど、それでも学年300人中180とかそんなだった。理解力がそのまま成績に結び付くとは限らない。セシリアいなければ死んでたかもしれない。教え方がしっかりしてたので赤点はかなり余裕で回避。クラス順では余裕で後ろだけどね。
「それより、俺にしちゃ箒に負ける方が意外だなぁ。いつも剣振ってる姿しか知らないし」
「文武両道でなくてはならないからな」
大和撫子を正面から突き進んでるな、相変わらず。それと、腐っても?束博士の妹か。
「ラウラもそこまでじゃないな」
「通常授業はあまり重視してない」
軍隊関連重視って事か。小さい頃からそれ一本だけだっただろうし。物理計算は得意そうだが。砲弾を飛ばすのに必要そうだし。
「の、希。分からない所があるなら教えてあげるよ。僕の部屋で一緒に!」
「えっと、嬉しいけどね。……うーん」
シャルの前ではそうした姿をさらしたくない。でも今更過ぎるし……。
「その、シャルロット。私も同じ部屋にいるのを心にとどめてくれ」
ラウラが抑え目に言った。ラウラにとってシャルは頼りになるけど逆らえない姉みたいな存在だろう。さて、意地張りたいけどどうするべきか。そんな心を見透かしたようにシャルが
「勉強が苦手だからって、みっともないなんて思わないよ?だって僕たちはずっと前からISについて教わってるから、ISに勉強時間を取られないですむけど。希たちはISに時間を割かないといけないでしょ?それに、希の役に立ちたいんだ」
「じゃあ、見てもらおうかな」
相変わらず押しが強いな、シャル。
「シャルロット、俺も一緒に__」
「はいはい、あんたは私たちが全員で見てあげるから」
「そうですわ、邪魔してはいけませんし」
「でも、お前たちISとか何となくで分かれとか言うし、こっちの通常授業もそうなりそうな……」
理論派な教え役を探しているのだろうか。
「あのね、通常授業ぐらいは普通に教えれるわよ」
「じゃあ頼むわ。……あっ、そうだ。鈴、前卓球で俺が負けてただろ?今日の午後休みだし行かないか?」
そう言うと、鈴は棚からぼたもちみたいな顔をした。
「あっ、そうだった!福音のゴタゴタで忘れてたわ。ラッキー!!じゃあ駅前の噴水で2時に待ち合わせね!」
「分かった。じゃあまたあとで」
一夏は先に去って行った。一夏は多分そんなにカフェ行きたかったのかとか思ってるんだろうなぁ。そして睨みあう女子勢。鈴は素知らぬ顔をしているが。
「ずるいですわ!」
「先んずれば即ち人を制し、遅るれば即ち人の制する所となる、偉人の言葉よ!覚えておきなさい!」
こいつらに教えたくないのは将を射んと欲すればまず馬を射よ、に決定だけどね。だからと言って馬ばっかり射ってくる根性無しは勝負で落ちるだけだろうけど。
「どうせ希さんに教わっただけなのでしょう?」
「でも私が一夏とデートする事に変わりはないわ!じゃあまたね!希も本当にありがとね」
そう言って鈴も去って行った。そして残りの三人に睨まれる。
「私も何かありませんの!?」
「兄よ、私に力を授けてくれ!」
「希、少し怒るぞ?」
「落ち着け、目が血走ってる。ひとまず、お互いに足を引っ張るのは止めるべきなんだ。ここは皆の経験値を高める為に、鈴を尾行するしかない!」
「希って、本当にいい性格してるよね」
ジトッとした目でみてくるシャル、こんなシャルも可愛い。怒ったときの笑顔もいいんだけどね。釣り橋効果ではないと信じたい。
「そんな褒めるなよ、シャル」
あははと笑いながら返すが
「褒めてないよ?」
余計ジトッと見られた。
「ですよねー。あっ、俺はパスね。訓練しないと」
まだまだ足りない。もっと、もっと強くならないと。あんな思いは、二度と。そう言うとラウラが目を細めた。
「兄よ、このごろ訓練を詰め込みすぎではないか?」
「今まで手を抜いてきてただけだよ。確かに最近は身を引き締めてたけど。手を抜いたというか、余裕があったと言うべきか。問題ない。シャル、この三人の引率を頼めるか?」
「私たちを子ども扱いするな」
箒が憮然として言う。危険な兵器を痴情のもつれの果てに使い出すのはガキとあまり変わらんぞ。まあ、さすがに街中でISを展開する奴らじゃないと信じたいが。
「子供みたいなもんだろ?じゃ、気をつけてな」
「……うん、分かった」
そう言って四人は鈴達を尾行する算段を整え始めた。俺は食事を取りに食堂へ真っ直ぐ進んだ。
「ふーっ、二人きりってのも久しぶりだな」
「そっ、そうね」
二人は屋外の日陰のテーブルに座っていた。それを見てシャルロットら四人は影からこそこそ見ていた。ちなみに、鈴はとっくに尾行に気付いているが、問題なく上機嫌である。理由として、一夏が服をちゃんと褒めたから。希が一夏に『綺麗な物は素直に綺麗だと思えばいいし、可愛いと思えば可愛いと思えばいい、人として当然。だから女子と出かけたり待ち合わせする事になって、似合ってたら褒めること。漠然とした理由だけじゃなくてどこがもつけると良し』と言われてるため。
「っく!いちゃつきおって!」
「いい気になってるのも今のうちですわ、鈴さん。どうせ後から落とされるだけですわ」
その言葉にうんうんと二人も頷いた。
「えっと、顔を出しすぎだよ?二人とも」
「尾行がばれるぞ」
ここまで残念な美少女集団もそうはないだろう。女性に無礼したら逮捕みたいな法律がまかり通っていても普通ならナンパ男が餌に群れるハトの如くアタックしてくるはずだが、この状況ではためらっているようだった。デートをしてるカップル(のように見える)二人を遠くから覗き見してる三人+たしなめてる一人。いくら絶世の美女パーティーでも関わりたくはあまりない。
「ともかくだ。兄とシャルロットの時と方針は同じだ。ここでいつまでたっても足の引っ張り合いでは、先に進まん」
「希に言われたの?」
「無論。それと、交代で毎週出かけるという提案もあった。……む?」
二人の会話の内容を聞くと話の内容が変わっていた。
「なあ……このごろ、希って疲労がたまってないか?」
普通、男女二人で他の男などの話を出すとあまり良く思われないだろうが、鈴にとっても一夏と同レベルで大切な相手なので不機嫌になど全くならなかった。
「それね、あたしも思ったけど、訓練を増やしてるだけでしょ?シャルロットに負けたからよね。理由は分かってるし、その志も立派だと思うわ。ほっといて問題ないでしょ。どこまでも突き進むあんたじゃないのよ。どこかで危ないなら希は止まるわよ。それに、私たちも頼ってくれるわよ」
鈴から見た評価である。希は暴走し続ける人間ではない。どこかで危ないなら止まる人間だ。そして、どうしようもなくなったら助けを求める人間だと信じてる。
「だよな。危なかったらちゃんと頼ってくれるよな」
「その時支えてやればいいのよ。いつも助けて貰ってる分をね」
二人は立ち上がってショッピングモール目指して行った。だがそれを追尾せずにその場で四人は話しこむ。
「下手に妨害しても駄目だろう」
「上手でも駄目だよ?」
シャルロットがたしなめた。政治だろうと恋愛だろうと足の引っ張り合いは見るに堪えないものである。
「となると、追尾はどうする?データ取りのみか?」
箒が前のストーキングのようにするのかと提案した。だが
「いえ、正直……希さんの方が気になりますわ」
「確かにこのごろやつれていると言うべきか。重心もしっかりしていない」
「あれ?皆意外と希の事見てるんだね」
シャルロットが驚いたように言う。
「「「当然(ですわ)だ」」」
「色々と頼りになる。そして頼りになりっぱなしだ。こちらもしっかり気にかけるのは当然だ」
「私も同じですわ」
「兄の体調を知るのは妹の役目だ」
「……分かった。じゃあ、今日はすぐに戻って希を尾行してみよう。確かに、ここ数日体調が悪そうだから」
三人はしっかりと頷いた。
「とどめ!」
午後三時を過ぎた頃、モニタールームから大和を駆る希の姿を見ていた。
「ふむ、いつも通りだな」
福音の事件が過ぎてから結構経っており、訓練も何度もしている。数日前シャルロットに倒されてからも訓練自体は、同じように感じるが
「ねぇ……休憩する気配が無いよ?」
次の打鉄を駆っている女子生徒に声をかけ、そのまま試合開始……かと思えば、もう一人に声をかけ二対一の戦闘を始める。この瞬間明らかに変わった。2対1でのトレーニングは滅多にしない。
「二対一は精神を削りますのに」
「やはり福音の後、キレが増しているな」
一段階上になった、間違いなくそう言える。射撃技術から機体制御技術まで。全てワンランク分上がったと言える。そのような状態ではあるがあの時、福音を追い詰めた時には遠く及ばない。
「顔つきも険しいね」
被弾をするたびに苦々しく眉をひそめたりするが、十分後に何とか二人相手に辛勝した。そしてピットに戻るかと思えば、次は三人に声をかけた。
「エネルギーが切れるぞ?」
ラウラが疑問を呈すが、どうして必要ないか分かった。直後、背中に自由パックを展開。以前、福音の時に見せた火薬推進モデル。自由パックは幻影機動と違い、スロットで展開可能である。
「とっ、とめなきゃ!!」
シャルロットが飛び出そうとするが、他の三人が押さえつけた。
「はっ、離してよ!アレを使ったら骨折するかもしれないんだよ!?」
「落ち着け」
箒がたしなめると同時に、四人は動き出した。希は全力で使うわけではないが、要所要所で使いながら的確に回避する。三人は様々な火器を使うが、被弾は一つもしない。一瞬の隙を見て希が一人に襲い掛かる。同時に火薬推進を使ってない刀を振りぬくが、女子生徒はギリギリかわした。さすがにあの威力は強すぎると判断したのだろう。パイルバンカー以上の威力を叩きだせる代物のため、体にダメージが入る可能性が大きい。
「扱いがあの時に比べあまいな」
「姿勢制御も問題がありますわ。正直言って、性能の50%も引き出せていないでしょう」
ラウラとセシリアから酷評を貰った。三分後、希は一人を倒したもののそこで敗退。エネルギーが完璧についたためか、ピットに戻った。四人が物陰に隠れながら見ていると、希は空中投影ディスプレイに先ほどの戦闘データ出し、分析していた。その後、筋トレを二十分した後、十分ほどISをいじくり回したり補給をし、訓練を再開した。そんな事をしながらピットの閉まる時刻が来た。休憩している時間は、自分の戦闘データを眺めている時以外無かった。
「よっす、どうだった?」
夕食の時刻、帰ってきた一夏たちにニヤニヤと笑いながら声をかけた希。ただ、四人は厳しく希を見ていた。
「どうした?」
彼女たちは、ピットがつかえなくなった後、休憩をするでもなく屋外でランニングをしていた。それからシャワーを浴びてここに来ていた。休んでいる時間は殆ど無いと言ってよかった。軍人生活に比べればマシなのかもしれないが、いきなり訓練を増やすのは明らかに体に悪い。
「いや、何でもない」
箒が言うが、それぞれ微妙に顔を悩ませていた。
「それより飯にしようぜ」
10時ごろ、ベッドに寝転びながらIS雑誌を見ていた希は声を上げた。
「あっ、もうこんな時間か。すまん、今日は寝るわ」
希は9時ごろまで様々な訓練をしていた。シャワー直後にはストレッチなどもしている。その状況を見て、その場に集まっていたメンバーは語りかける。
「ねえ、希。動きすぎだよね?」
「卑怯だが尾行させてもらった。あれはいくらなんでも無茶だ」
「私も聞いたわ。あんたはまだ十五歳よ?成長期なのに無茶しすぎよ。っていうか、私たちを頼りなさいよ」
「体の使いすぎはむしろ悪いぞ」
一夏や鈴も話にいつの間にか参加していたので、希に注意を呼びかけた。
「だから、元々余裕があったっていっただろ?」
「だからと言って、あれは無茶ですわ」
「雑誌などもIS関連だ。確かに福音の時は__」
「いい加減にしてくれ!俺は大丈夫だって言ってるだろ!……本当に、このペースはギリギリだけど問題ない。明日は丸一日あるけど、別にずっと訓練するわけじゃない。限界を超えるわけじゃないんだ。限界ギリギリじゃないと強くなれないだろ?」
「ねぇ、希……僕、悲しいよ」
シャルロットが伏し目がちに言い、希は視線を逸らした。
「俺だってだよ、あの時……あの時は運が良かった。でも、運が悪かったら死んでてもおかしくなかったんだ。
1ヵ月に1回だ。トラブルの回数は。次もあるかもしれない。三年生まで待てない。だからさ、もっと__」
「いい加減にしろ!」
次に怒鳴ったのは一夏だった。皆が驚いたように一夏を見る。
「何でも出来ると思ってるのか?希。そんな皆に心配させてまで強くなりたいのか!?」
そんな一夏に対して、希は立ち上がって叫んだ。
「俺は一番足手まといだろ!この中で!!お前たちは凄いよ!一夏は千冬さんの弟だし、箒は束博士の妹で!セシリアは射撃が上手いしBT兵器の稼働率が上がってきてる、鈴はあの機動を一年間でこなせるようになってる!ラウラはAICだけじゃなくて軍隊の技術がある!シャルだって総合技術ならラウラより上かもしれない!それに皆代表候補生だ!!あの時確かに俺は誰より動いたさ!だけど次は!?次もあるのか!?強くならなきゃ足手まといだ!俺は一般家庭で生まれたそれなりに賢い一般人だよ!お前たち以上に努力しないでどうしてお前たちと一緒に戦えるんだ!?あの時の感覚、福音を倒せたあの瞬間!あれをいつでも使えるぐらいにならないと!」
重圧、まわりが出来る人間ばかりだからこその重圧。このごろ訓練で搦め手に対する対策が随分取られ、勝率が下がっていた事も追い討ちをかけていた。そしてとどめのシャルロットに対する敗退。希は叫んだ後、すぐに
「……す、すまん。屋上行って来る」
だっと駆けようとしたが、シャルロットがその手を掴んだ。
「シャル、その手を__」
「ねえ、希。僕たちはね、誰一人希を足手まといと思った事は無いよ?」
「そうだとも。確かに剣の扱いは自信があるが、遠距離、中距離については良く教えてくれただろう?」
「私も、格闘戦について教えてくれましたわ」
「あたしは先読み技術とかかな。まっ、出会ったころから世話になってるわ。……あの時のこと、本当にありがとうね。だから、頼りにしてくれないと、悲しいわよ」
「私は搦め手について対策を教えてくれている」
「俺だって、お前がいてくれて助かってるぞ?色々教えてもらってる。確かに俺は千冬姉の弟だし、箒は束さんの妹だし、セリシアは狙撃が上手いし鈴は安定して戦う。ラウラは軍人だから強いしシャルロットも総合的に強い。代表候補生でもある。けどな、大事なのはその人自体だろ?完璧な人間なんていない。千冬姉だって強いけど、頭は実際には動かす人じゃないし、家庭じゃぐうたらだし。お前はこの中で一番賢い。みんな助けられてる。だからさ」
「でも、でもさ。守れなきゃ、守れないと駄目なんだ……。シャルに火傷させちゃって」
希はシャルの喉の右側を見た。それでも、シャルロットが希の前に立った。
「僕はね、希が辛そうにしている姿は見たくない。それに、守られるだけは嫌だ。希も守れるような強さが欲しい。皆が、そう思ってる。一人だけじゃないよ。足手まといにもならない。希が一般家庭の生まれだろうとも、希自身が凄いって皆思ってる。前も言ったよね、希はいつも胸を張って立派にしてるけど、内心は卑屈になってるって。でもね、そんなことない。希は立派だって、僕が胸を張って言える。だからね、大丈夫」
ぎゅっとシャルロットが希を抱きしめた。
「希の居場所はここだよ。希は絶対強くなってくる。血縁だとか今の地位だとか気にしないでも大丈夫。僕は信じてるから。皆も。希が自分を足手まといだと思わないようになるまで。だって、希は僕を簡単に救ってくれたでしょ?だから、大丈夫」
「……はー、まだ何か納得できないけど、分かった。自由パックとかも使うけど、それでも休憩時間とかをとってしっかり休むようにする。次の日に疲れをあまり残さないようにする。俺は、ちょっと冷静じゃなかった。ごめん。でも、今日は疲れた。ちょっと無理か、限界ギリギリじゃなくて超えてたみたいだ。先に眠る。お休み」
そう言うと、シャルロットをギュッと強く抱きしめた後、ベッドに倒れこんだ。
「って、あれえええ!?」
「っく、妬ましい。だがおめでとうと言うべきか」
「また明日ですわ、一夏さん、シャルロットさん」
「希のことよろしくね」
「兄を頼む」
「あー、俺も寝る」
「み、みんなー!?」
ぞろぞろ四人が退出し、一夏が声を出すシャルロットを無視して電気を消し、ティッシュで耳栓をしてベッドにもぐりこんだ。
「……嬉しいけどね……もういいや」
希に腕を回しす。心臓はいつもより速く動いてたのに、心は飛び跳ねているのに、それでもいつもより穏やかに眠りについた。
次の日、誰よりも早く四人は起き出し、部屋の前に陣取った。四人が交代で眠ったりしながら見張り続け、七時ごろ。
「……よく眠れた。……あれえええ!?」
「お、おはよう、希……僕もよく眠れたよ。希が枕になってくれると、すっごく眠りやすいな」
「そっ、その、光栄です。でも、腕を離していい?」
「……もうちょっとだけ、いいかな」