IS学園で非日常   作:和希

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二十六話 決別

 「皆帰ったなぁ」

夜も十時半を過ぎた。もう夜遅くの消灯間際なので、皆が帰っていった。先ほどまで賑やかだった分、今は静けさが際立っている。

「結局、何も進まなかったな」

もちろん、シャルに関することだ。このままずるずる引き延ばしてはいけないと思うと同時に、引き伸ばしたいとおもう自分がいる。でも、駄目だ。ラウラに勝負は決める時は決めないといけないと言っておいて、延ばしは出来ない。

「ああ、弱いな」

つぶやいたと同時に、扉がノックされた。控えめな、けれど響くノック。

「どうぞ」

何となく、予想はついてる。でも、それが一層重くのしかかる。

「こんばんは」

顔を覗かせたのはシャルだった。予想通りかつ、会いたいと同時に会いたくない相手。正直、今の状況はきつい。

「今日は、たのしかった?」

少し着慣れないのだろうか、少し崩れてはいたけれども浴衣姿が似合っていた。

「もちろん。周りいっぱい美少女の水着姿でね。至福だね」

「……私は、綺麗だった?」

「……もちろん」

そう答えると、少し頬を染めて微笑んでくれた。

「良かった」

この子はとてもいい子だ。前も言ったとおり容姿端麗、学力優秀、家事万能。文武両道とかそこら辺の言葉をいくつ並べても足りないぐらいに立派だ。贔屓目かもしれないけど、あの一夏ハーレムの四人よりまた一歩抜けていると思ってる。数千万、数億人に一人の逸材だ。

それに対して俺は?頭も、体力も精々中の上、良くて上の下。才能を値にしたらこんなもんだ。努力してるから上の上近くにいるが、それもいつまで続くか。頭のキレこそそこらには負けない自信があるが、精々千人で一番かな?ってレベルだ。しかも、不安定で。多くはアニメや小説とかの知識から取捨選択で判断した物で、独創でない物も多い。

俺なんて、正直中ぐらいの才能……適正があれば、誰だって到達できる。

体力テストで平均8出すのも、軍隊生活をやれば大体の人がいける。おまけにトレーナーも付いてるし。同年代を見渡せば学年に全部10をとれるような奴もけっこういる。どんなスポーツもめちゃくちゃ上手いような奴が。

学力だってやらされれば伸びる。頭の発想やキレも育てれば伸びる。偏差値70とかの化け物には全く及ばない。

俺が一般的な高校生活をしてたら、発想がそれなりにあるそれ以外平均の人間だろう。まさに2~3クラスに一人はいる人間だ。一つ二つの特技ぐらい、大体の人が持っている。裁縫なりピアノなりなんなりの特技の一つや二つを。

そんなのが、そんな人間が、シャルロットにつりあうのだろうか?

 

いや、こんなのは言い訳だ。俺はそんなに能力とかを求める人間じゃない。能力で多少釣り合わないとか考える事もあるけど、そこまで深刻に悩む人間じゃない。そんな事で好きとかどうとかなるとは思わないから。本当は、もっと別の理由が。能力とかじゃなくて、もっと重要な気持ちの問題が。目を逸らしたい別の理由があったんだ。

「……もう、どれぐらい経つのかな。最初に出会ってから」

「一ヶ月とちょっとぐらい、か。意外と短いな。同居してた時間の方が長い」

短いように思ったけど、一ヶ月近くも過ごしていたのだ。懐かしいと思うには早い、ちょっと前のこと。

「だね。でも、いつか同居してた時間の方が短くなるんだよね」

「三年もあるからな」

軽く沈黙した。何を言っていいのか、分からない。こんな事になるのは、シャルロットだけだ。いいや、一応一夏や鈴とはあったけど、この種の沈黙じゃなかった。

「ねえ、座っていい?」

「……いいよ」

「お邪魔します」

テーブルの正面にゆっくりと腰を下ろした。そして数秒後、決心を固めたように

「希って、あまり恋愛って興味ないの?」

かなり深く来た。

「あっ、うん。ISがあるから、楽しみたいってのが本音かな。興味ないって言ったら嘘になるけど」

半分嘘で半分本音。そう言うと、シャルはいつも伸ばしてる背筋をさらに伸ばしながら、眼をしっかり俺に向けて

「へー……学園内で、気になる子っているの?……ううん、卑怯だよね。そうじゃなくて、なら、私はどう?鈴やセシリアやラウラや箒より。希の知ってる、どんな女の子たちよりも」

その瞳は、すっと、威圧してるわけでもないけれども、確かな重さを感じさせた。

「……正直に言うと、まあ、シャルの気持ちは自惚れじゃなければ、気付いてる。でも、ごめん」

そう、でも、駄目なんだ。

シャルはあの日、俺が女か?って尋ねた時より悲痛そうな顔をした。全てが終わったような、そんな。

「えっ……そ、そうだよね……僕じゃ……」

「違うんだ。俺が、俺じゃ釣り合わないんだ。俺なんて、せいぜいそこらにいる人間だ。でもシャルは__」

違う、本当は。能力とかじゃなくて。

「私は、希が誰かに劣ってるなんて考えた事もない。希は誰よりも賢くて、頼りになって、優しいよ」

真っ直ぐな目で、俺の目を射抜いた。だから、俺も真っ直ぐシャルロットの目を見た。そうしないといけないから。だから、本音を話す。とっても後ろめたかった事。俺が能力とかよりずっと大事だと思ってる、気持ちの問題を。

「違うんだ。優しくない。優しいなら、シャルをもっとどうにかしてやれたんだ。シャルが親だって、本当の意味での友達だって誰もいなかった出会ったばかりのころ、あの時から。あの時、俺が正体をバラしたならシャルに居場所はない、そうシャルは思っていたと思う。だから、シャルが俺をそう思うようになったのは、たまたまなんだ。俺じゃなくても良かった、なんなら一夏に任せればよかった。そして、その事に俺は気付いてたと思う」

「__希、怒るよ」

真剣な目だった。それでいて、拳を握っていた。ぎゅっと、力強く。今まで見た事無いほどに怒っている。それでも続けないといけない。今更、止まって引き伸ばせない。

今晩、ここで、決着を。

「事実だ。俺は、多分下心があって、シャルが俺に好意を抱けばいいとか思いながら、あんな言葉を投げかけたんだ。前に不良に言われて、考えないようにしていた事を考え出したんだ。相手の弱みに付け込んでる、あの状況はまさにそうだったんだ。能力とかじゃなくて、心の問題だ」

ぬるま湯にはずっと浸ってたくなる。それと同じ、考えないようにしていた。目を背けていたんだ。シャルの弱みに付け込んだことをずっと無視してきたんだ。能力とかじゃなくて。

「俺はどんなときだって、自分の言葉を計算して、相手にとって自分を良く思われるようにしている、しちゃうんだ。良い人間じゃない、優しくも無い、頼りになるけどそれは卑劣で卑怯なだけだ。だから、俺の事は無かった事にした方がいい。」

多分、そうだったんだ。あの状況でああした言葉を投げかければ、自分に好意をもたれると思いながらやったんだ。だから

「ねえ、僕は希の邪魔になってるの?それなら、言ってね。希の邪魔をしたいんじゃなくて、役に立ちたいから。僕を助けてくれた希だからこそ、役に立って側にいたいの、誰よりも希の傍で。これは、僕の本当の気持ちだから」

「邪魔だなんて思えない。むしろ、いないと周りをキョロキョロして探すぐらいだ。でも、だからこそ言う。

俺なんかより、一夏の方がよっぽど優れてる。俺は平均的な人間だけど、一夏は違う。すっごく鈍感だけど、それは下心が無いからだし、誰かを守りたいっていう強い目的意識もある。俺より今こそ弱いけど、才能では足元に及ぶかどうか。それでいて努力は怠らない。朝もまじめに訓練してるどころか、俺より頑張ってるぐらいだ。馬鹿なこと考えてるのも多いけど、正直、一夏はすごい奴だ」

こうやって話してる間、シャルは少し震えていた。だんだん、大きくなってる気もする。俺も、かもしれない。

「あのヒロインズ相手だって、シャル……シャルロットなら勝てるはずだ。だから」

俺はごくりと唾を飲み込んで。今までで、どんな時よりも勇気を出して、終わらせる言葉を投げかける。

「シャルロット、ごめん」

相手の目から背ける事は出来ない。自分は善い人間じゃないけど、良い人間ですらなくなってしまってたけど……いや、違うか。善い人間どころか良い人間ですらなかった(・・・・)けれど。それでも、この話は真っ直ぐ伝えないといけない。最低限のケジメだ。

パシンッと、音が響いた。

「希の、馬鹿」

手を振りぬいたシャルロットの姿が見えた。目には涙が溜まっていた。ああ、嫌われたんだな。でも、これがシャルロットのためになるはずなんだ。

ドアが勢い良く開いて壁に当たった。閉まる音はしなくて、走り去る音が聞こえた。

「頬、痛いな」

今更に、頬に痛みを感じた。今まで色々いたかったことはある、柔道とかやってたし軍隊訓練でも痛かったし。でも、それらよりずっと痛い。痛みのせいなのかな、両目から涙が流れていた。ここまで泣いたのは、いつ以来だろうか。そのままふらふら歩いて、布団にばたりと倒れこんだ。

 

 

 

 

 「希の、馬鹿っ!」

シャルロットは廊下をかけて、自分の部屋に飛び込んだ。中には既にラウラが居た。

「ふむ、遅かったな、シャルロ……どうしたんだ!?」

ラウラが慌てふためいた。シャルロットが大泣きして飛び込んできたのだから当然だ。

「ひぐっ、な、なんでもない……」

「いったい誰が泣かしたんだ!?今すぐ襲撃だ!!」

武装を取り出そうと荷物を取りに行くが、シャルロットは

「だからっ!!何でもないってば!!」

「……分かった。だが」

ラウラはシャルロットに近寄って背伸びをし、シャルロットを抱きしめた。

「頭を撫でられると落ち着くだろう?兄が少しだけしてくれた。だから、こうするといい」

「……ありがとうね、ラウラ」

 

 

 

 

 

 その日、IS学園が卒業してまもなく、結婚式が行われた。一夏と、シャルロットのだ。

「希、ありがとうね。アドバイスしてくれて」

「別に良いさ」

他の四人の視線が痛かった。が、諦めてもらおう。精々奴らには償わないとな。

「希、ありがとうな。おかげで最高の嫁さんが出来た」

「おいおい、まだだろ?一夏」

「ああ、だな。じゃあ、また後で」

一夏は先に行った。が、シャルロットは残っていた。

「ずっと昔の事……覚えてる?一年生の、合宿」

「……もちろん」

「あの時は、希の馬鹿って思ってた。今でも、思ってる。でも、私は今幸せ。だから、ありがとう。……でもね、希とこうなったて、幸せだったと思う。それだけは、言っておくよ」

そう言って一夏の後を追っていった。他の四人に向き直る。

「ラウラ、ごめんな」

「私の力不足だった、そういうことだ」

「ですが、気に食わないことがあります」

「お前、一年生のあの時、一体何をしたんだ?」

「正直、心臓が口から飛び出るかと思ったわ」

「……俺が、シャルロットを傷つけたんだ。それだけだ」

 

 

 

 

 「はぁっ!!……夢か……」

どうやら夢だったようだ。……正夢になるかもしれないが。

「気分悪いな、畜生」

いつもより遅めに動き出した。変な寝方をしたせいで、体の所々が痛かった。

 

 

 

 

 「了解した。__全員注目!」

ハッ!?俺は何をしてた……ああ、覚えてる。何か束さんがやってきて色々騒動起こして。新型機体凄かったし、セシリアがボロクソにされててちょっと可哀想だった。箒と一夏には普通だったのに。日本人もどうでもいい、か。好きな人意外どうでもいいわけか。とは言え俺とは普通に会話したし。俺もある程度は興味あるのか?一応IS乗れるし。

俺は人一倍あるISの武器などをひたすら消化するため武器などの資料を読み込んでるところだった。ちなみに、誰かと会話をした覚えは殆どない。でも周りの状態ぐらいは把握している。ただ、シャルロットだけは視線すら合わせていないと思う。というか、会わないように周りの状態を把握していたのか。気持ちの問題はよく覚えていない。ただ、出来事を覚えてるだけ。まるで機械。

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼動は中止。各班、ISを片付けて旅館にもどれ。連絡があるまで各自室内待機する事。以上だ!」

周りがざわざわするが、これはさて、どういう事態だ。

「とっとと戻れ!以後、許可無く室外に出た者は我々で身柄を拘束する!いいな!!」

全員が慌てて戻る。さて俺も__

「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、清水、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、(ファン)__それと、篠ノ之も来い」

やけに気合の入った返事が続いた。箒のである。

人のこと言えないが、大丈夫だろうか。

 

 

 

 

 「では、現状を説明する」

宴会用の大座敷で専用機持ちと教師陣が集められた。大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

「二時間前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

ふむ……色々あって頭もボケてたが、一気に覚醒した。さっき呼ばれた時点で覚醒してなかったのは結構やばいと思ってる。周りを見ると、やはりそれなりに訓練されてるのか、一夏以外険しい顔つきだ。一夏はまあしょうがない。でも鈴がこうなるとはね。……いや、違う。シャルロットは別のことで……俺のことだろうけど、そっちに悩ませてそうだった。自惚れ、だろうか。

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過する事が分かった。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処する事になった。教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

ああ、なるほど。くっそきなくさい。ここから五十分後二キロ先?持ってきた訓練機と専用機全員で包囲して撃ち落としゃ戦力差1対10超えるだろ。二乗して1対100。ランチェスター法則をあてはめればこっちは損害0だ。そんでもって、ISが暴走?国の要が?

ISは今まで暴走なんてした事無い。IS自体がある程度意識を持ってる(らしい)し、国の要をハック出来たりはしない。核兵器同様に外部から独立されてる。IS開発関係者の出生などは全て厳格に調べられてる。怪しい奴はISに触れる事すら出来はしない。だからと言ってこのタイミングで史上初のISの暴走が行われるか?

……一人だけ、出来るのに心当たりがある。さっきまでちょうどいた、史上最悪の天才が。ISの開発者がね。自分の関係者しか興味無いらしい災害が。最初から爆弾を仕込むなんて、簡単じゃないか?

「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手するように」

多分、デモストレーションか?箒の。もしくはそれ以外で理由が?千冬さんが出っ張れば戦闘に一分かからんはずなのに。脅されてるのか?音速?巡航速度マッハ2?ISは通常でも時速800kmを超えてる。包囲して撃ち落すぐらいならいけるはずなのに。一度速度の域をマッハ以下にまで落とせば十機で包囲すれば余裕のはずなのに。

しょうがない、専用機持ちで突っ込めてのは確定のようだ。それにしても、周りは異常に気付かないのか?仮にもプロがたくさんいるはずなのに。まさか、最悪束博士の精神兵器?それは邪推しすぎか。何より、俺がかかってない理由が分からないし。となると、裏の事情でもあるのか?IS学園に勤めれるような熟練IS乗りしか知らされてないような。

「ひとまず、詳細なスペックデータをください。それがないと話にならない」

最低限それが必要だ。戦わないといけないようだから。

「分かった。ただし、これらは二カ国の最重要軍事機密だ」

なら暴走させるな……無理か。それは。運が悪かった、そうとしか言えない。たまたま近くにいた、それだけだろう。

「けして口外はするな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」

「了解」

データを受けとって周りに転送。ざっと解説する。

「広域殲滅の特殊射撃型。俺より砲門が厄介で、オールレンジ攻撃可能だが、ブルーティアーズのように多角からの砲撃はしないらしい。ただ、攻撃と機動特化だから、恐らく防御は白式以下と考えて良い。とは言え盾とかそれに類する物があれば話は別だけど。スペックはこの中でも最強に近い。特殊武装は厄介。接近戦しようとしても格闘性能が未知数」

「偵察は行えないのですか?」

チラッと千冬さんに視線を向ける。

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高速度はマッハ2に近い。アプローチは一回が限界だろう」

「それと、注意すべき事もある。暴走、だ。ISのコアが軽くぶっ壊れて、出力が二倍、三倍って事態もありえる。さらに軍用IS。正直、いくらでもヤバイこと思いついてくる」

本当に、ヤバイ。死にはしない、とは思うが。絶対防御があるし。

色々考えてる俺を、周りが怪訝……恐れ?ではないだろうけど、何か変な物を見る眼で見た。

「お前ら、どうした?」

「……希さんは、本当に半年前まで中学生でしたの?」

「当たり前だ。普通のな」

「希、可笑しいわよ。たったの一ヶ月、しかも基礎訓練だけでしょ、受けてたの。それで、誰よりも速く正確に理解して、問題を挙げて。前から頭がキレるとは思ってたけど、どう考えても。非常事態なのよ?今。なのにどうしてよ」

「お前が一年でここまで変わった方が驚きだ」

「兄よ、どうしてだ。軍人ではないのだろう?一般人だったのだろう?」

「本当に、知らない」

もしかしたら、ゲーム感覚なのかもしれない。自暴自棄、とは思わないが。非常事態になるほどこうなんだ。あの無人機が乱入してきた時も、真っ先に反応してた。あの時の感覚は今でも覚えてる。楽しいと思って戦った。ゲーム感覚で殺し合いを楽しんでる……いや、心のどこかで殺し合いだと思ってないから、ゲーム感覚なんだ。

「アプローチは一回が限度らしい。ひとまず、白式のエネルギー消費を抑える為高速機体が一人吊り下げ行動。その後ろを専用機持ちが縦深陣形で突撃。各個撃破にならないように、離れすぎず距離は1kmずつで。もしくは、半包囲陣形で同時タイミングで攻撃。

白式が特攻した場合の敵の反応は二つ。無視か、戦闘だ。戦闘になったら即座に他のメンバーも参加。速度が落ちたのなら逃げられる事はまずない。無視されたら、後続メンバーが攻撃。突破されたら後は野となれ山となれ、としか」

「って俺がやるのかよ!?」

「別にやれとは言わない。絶対防御があるとは言え、下手したら命に関わるだろうし。でも、お前はこんな時にやる奴なんだよな」

「……当たり前だ」

先ほどまでと違う意思を固めた表情になった。しっかり自分の命を覚悟して言う言葉。さすが一夏だ。

「そこでっ!呼ばれて飛び出てパパパパーン!!その作戦、ちょっと待ったなんだよ~!」

「出たな元凶」

悪態を付きたくなった。今は気分がとても悪い。人生で一番最悪だろうか。

「何か呟いたかな、清水くん」

「別に。どうぞ」

くるりんと飛び降りてきた。不思議……悪夢の国のアリスは。

「ちーちゃん、ちーちゃん。清水くんの作戦より、もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」

「……出て行け」

不愉快そうな千冬さんの声。いつもより、断然に。この人は、束博士がしたと思っているのか?だからさらに不機嫌とか。一夏がちょっと情報を漏らしてたが、二人は親友らしい。今、二人の関係を見て、間違いなく親友だと言える。

「聞いて聞いて!ここは断然!紅椿の出番なんだよっ!」

「なに?」

「紅椿のスペックデータ見てみて!パッケージなんかなくても超高速機動ができるんだよ!」

デモストレーションか?……普通に大会でやってもいいはずだけどな。そもそもデモストレーションじゃない?……全部憶測にすぎないか。もしくは疑心暗鬼か。

「俺のはインストールしてあるんで、いつでもいけます。どうぞ。ま、数がいるに越した事は無いですね」

「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと。ホラ!これでスピードはばっちり!」

おい、マジか。さすがだな。

「展開装甲?もう実用化してたんですか、さすが開発者ですね」

「おやおや、君は知ってるんだね?」

いつの間にか福音でなく紅椿のスペックデータが画面に映っていた。んー、別に秘密にしろって言われてるわけじゃないからいいか。どこの国も構想をしてないとかじゃなくて、着々開発しているからだろうな。秘密にしないでいい理由は。

「俺の機体は第二世代を第三世代、しかもそれぞれの使用者に合った様々な形態に引き上げるのをコンセプトにしてると同時に、後付武装の豊富さと適時特殊武装の第三.五世代を目指してる。そして、展開装甲による第四世代ISの開発も同時に開発してる。展開装甲はちょっと難航気味だけど、まだ試験的にやっと実用レベルって所」

周りのメンツを見るとポカンとしてた。まあね、日本が一歩リードしてるって話だし。IS保有数が一番多いし、発祥国。あとロボット大国だからある程度当然。

「付け加えるなら、第四.五世代も狙っていて、展開装甲による万能機と同時に特殊パックと後付武装による特化仕様も狙ってる」

さっき言ったこの中で福音は最強に近いと言う言葉。正直に言うと、この中で一番スペックが高いのは俺の大和だと思ってる。

ラファール以上の機動性と収納領域

打鉄以上の防御力と安定性

相手に合わせた特化仕様も狙える機能

企業のバックによる豊富な武装、それによる戦術

それでいてバランスの良さの安定性

これらを組み合わせた大和は最も使いやすく、強い。拡張パック無しの素の機体性能は抜群に優れてる。

それに対して束博士は

「へー、結構頑張るんだね。もうちょっと本気出しちゃおうかな。ちなみに、白式の雪片弐型に使用されてまーす。試しに私が突っ込んだ」

何でもないかのように言った。さすが。

「ほー、道理で」

やけに阿呆みたいな性能だと思ってたら。周りはえっとか言ってる。性能自体は大和のが上だけど、白式は第一形態からワンオフアビリティー使ってるし。

「でも今の所最弱第四世代ですね。火力高いので成長すれば最強って所でしょうが」

「ちーちゃんレベルになれば世界最強だよ。それで、うまくいったので紅椿は全身のアーマーを展開装甲にしてあります。システム最大稼動時にはスペックデータはさらに倍プッシュだ」

「麻雀でもしてきてください。……と、全身がですか。凄いですね、現行最強機体ですか」

世界に対してお披露目したくなる性能だな、普通の企業とかなら。でも、どうしてだ?この人は関係者以外どうでもいいスタンスなのに、どうして世界から注目されたがる?……何か理由があるとしか思えないけど。第一、467個しかISコアが無いのにどこからともなく一個持ってきた?467個は限界生産量じゃなくて、放出量だっただけか?実際にはもっと作れるってことで。何を考えても想像の域を出ないな。

「となると、攻撃・防御・機動に切り替え可能タイプですか?それを目指してるって博士が言ってましたけど」

「うん、そうだよ。君のところの博士って少しはやるようだね」

「束博士がいなければ世界で有名になってたのはあの人らしいです」

ISは作れないようだけど。

「へー……はにゃ?あれ?何でみんなお通夜みたいな顔してるの?誰か死んだ?変なの」

まっ、分からんでもない。多額の労力・資金・頭脳をつぎ込んでやっと第三世代初期に到達したばかりだが(ウチは除く)、束博士は一人で第四世代を正式使用にこぎつけている。これが、IS開発者か。アニメや漫画にありふれた表現だけど、まさに天才にして天災。

「__束、言ったはずだぞ。やりすぎるな、と」

「そうだっけ?えへへ、ついつい熱中しちゃったんだよ~」

「さっきの言い方から思いましたが、やっぱ手を抜いてるんで?」

「暇つぶしでナノサイズのIS模型を作るぐらいにはね」

となると、やる気出せば二世代、三世代ぐらい抜けるのか。一人で世界制服余裕だな、こりゃ。そもそもISコア何て世の中に出さなきゃ世界征服出来てただろうし。そんな事に興味無いだろうけど。




希の強さの一つ、他の機体を上回る機体性能です
シャルの一人称が変わるのは私までは制御が出来ている時で、出来なくなると素の僕に戻ると言う感じです

それと、またちょいと改訂しました。希の推理にもうちょい段階を加えて、でも確信できてないように

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