「ふぅ、やっと一息つけたな」
一夏が心の底から安心したように言う。
「シャワーがないのはどうにかなったな」
部活が終わった後の場所を借りて、そこで着替えた。一夏のツテをたどって剣道部。飯もシャワーも終わってちょうど八時ごろ。男子高校生ならまだまらここから!かもしれないが、俺でもメンタルに耐久力はある。正直今日はもう眠りたかった。だがしかし
「さっさと頭に基本を叩き込まないとな、お前の」
「はーっ、しょうがないよな。千冬姉の顔に泥を塗るわけにはいかないし。迷惑かける」
「別に。考えるのは俺で、動くのはお前。解決するのは三人で……弾がいないか。さくっとやろう」
「ああ、だな。でも正直疲れた。十一時ぐらいには寝たいぞ」
自分もだ。最近良い生活習慣を続けてたから遅くまでおきれない。……というか、毎日ひたすら体力作りできつかったから早く寝ないときつかったってだけか。
「だな」
和やかに会話を続けながらバタンとドアを開けた。バタンと倒れこんでくるトーテムポール。一番下はパジャマの子、二番目は篠ノ之さんで浴衣が似合ってる、三番目の薄着の子は誰?ともかく、外を見るとまだまだいるようだがこれ以上入ってきても困る。三人にどいてもらって
「ではおやすみなさい」
笑顔で挨拶してドアを閉める。直後にやられた!とか色々聞こえてきたが無視。そして
「こんばんは、皆、服似合ってるね。一夏もそう思うだろ?」
そう言って右肘で一夏をつんつん付く。
「ああ、うん。似合ってるな」
その言葉に篠ノ乃さんが顔を赤らめる。二人は普通。大体把握。となると……
「余韻ぶち壊して悪いけど、あのお嬢様に一夏を勝たせたいんだ。協力してくれる?」
そうすると篠ノ之さんは急に真面目な顔になった。
「ああ、もちろんだ」
とても頼りがいがある。背はそこまで飛び抜けてるわけでもないのに、気迫が普通よりずっと高身長に思わせる。武人みたいだ。
「あいよ。それと一つだけ質問、IS開発者の妹さん?」
真面目な顔から苦々しい顔に一気になった。
「……ああ、そうだ」
「ISについて教えれる?」
「無理だ」
断言する姿がかっこいい。でもそれはそれで構わない。
「了解。でも、さっき盗み聞きしたけどさ。剣道強いんだよね?謙遜はいらない。全国優勝なんだから。一夏は中学時代バイトや受験で忙しかった。鍛え直してくれる?ちなみに貸し一ね」
「貸しってなんだ?」
一夏は首をひねらすが篠ノ之さんは
「べ、別に二人になれて嬉しいとかじゃないぞ!だが、話の分かる奴だな。希と呼んでいいか?」
顔を赤らめながら嬉しそうに。だがちょっと待ってほしい、俺も同席する予定だから二人じゃないぞ?まあいっか。
「あいよ。なら箒と呼ばせてもらうよ」
「だがいいのか?ISとはあまり関係ないのではないか?」
一夏と一緒になれるのはうれしいが、負けるのも癪なんだろう。たしかに好きな人はカッコいいほうがいいよね。ダメ男を守りたい女は少数派のはずだ。
「いや、あのお嬢様の機体は中距離、遠距離機体。今さら一夏が射撃戦やってもどうせ無駄。隙を見て突っ込んで切り刻む以外は正直ない。射撃は弾幕ばらまくだけぐらいだろうから。だから、少しでも感覚を磨かせたい」
「分かった」
箒は右手を伸ばしてきた。こちらも右手を出して握手をした。
「で、おいてけぼりにして悪かったけど、そこのお二人さんは?」
「となりのお部屋だよー」
のほほんとしている子だ。ずっと年下に見える。でもスタイルは意外とよさそうだ。
「私はこの子のルームメイトの如月弥生よ。よろしく」
個性的な名前だ。如月は二月で弥生は三月。現代だと二月三月という名前だが昔の言葉ならかっこよく聞こえる不思議。
「しばらく隣だけどよろしく」
「よろしく」
俺と一夏が挨拶する。さて、これで近距離はどうにかなるか。あとは回避訓練を……アレしかないか。あまりエアガン人に向けて撃つのはいけないけど、しゃあない。ぶかぶかパジャマののほと……あれ?そういえば名乗ってもらってないな。まあいっか。
「えっと……のほほんさん、如月さんは何か一夏に教えれる?」
「私は無理よ」
きっぱり断言。っく、頼れるお姉さんって感じが少ししたんだけど、やはり同年代、無理か。
「私できるよー」
意外だったのはのほほんさん。まさかこの子出来る子?
「じゃあ一夏に教えるの手伝ってくれない?俺だけじゃ無理なとき」
「いいよー」
いや、本当に大丈夫か?この子。……能ある鷹は爪隠すとも言うし。信じるしかないか。それによくよく考えればこの学校の倍率は一万を超える。スポーツ推薦とかじゃない限り知力とかは俺よりよっぽど上の連中がそろってるんだ。……というか今更だけど如月さん微妙にエロいです。箒(きっちり浴衣)とのほほんさん(ぶかぶかパジャマ可愛い)はぴっちりガードだけど。
「さて、一夏。仲間も出来たし、頑張るか」
「相変わらずすごいよな、お前」
運がいいと言うべきかな。隣の人が親切で助かった。
箒の目が微妙に俺を睨んでた。これぐらいは許すべきだよね?寛容にならないと!これぐらいで嫉妬してるんじゃこれから先ついていけないぞ?幼なじみなら知ってるだろ?
「まあまあ、それより親善の証として。お菓子持ってるけど、食べる?」
お菓子袋から取り出して駄菓子などを差し出す。
「歯は磨いたから遠慮しよう」
「私も」
「私は欲しいな~」
「おー、それそれ」
ミニドーナツを一つ開け、半分こした。夜なのであまりカロリーは摂取すべきではない。なら食うなって話だけど食べないことはしたくない。お腹がすいてると力が出ないし。
「一夏もくっとけ。糖分はこれから必要だ」
「それにしてもー、おりむーとしみずーの部屋殺風景だねー」
それなりに時間が経ってもうすぐ終わろうかと言うとき。のほほんさんがのびのび言う。
「今日引っ越ししたばかりだからねぇ」
仕方ない。実家は一軒家で政府監視の元管理されている。が、俺は入れるようになってるので一度戻って取ってくる必要がある。警察の人がしっかり管理してくれてるので盗難の心配はないだろう。盗難しようと入り込んだら、最悪射殺される可能性があるレベルでの厳重態勢だし。
「仕方ないよな」
一夏も同様。
「だが、そこにある石は何だ?」
箒が机の上にある石を指して言う。
「俺のお守り」
こっちに来るときに持って来た物だ。あまり占いとかは信じないけど、なぜかね。
「珍しい感じの石ね」
「えっと、小学一年生のころだっけな。山の何とかって神社に行ったんだよ。そこの付近で拾った石でさ。珍しい石だと思って帰って、次の日ある嫌なことがあったんだ。それで石に馬鹿みたいに祈ったんだ。あいつ怪我しろと思ってさ。誰だか忘れたけど。で、その誰かは怪我したんだ。それから俺の守り石なんだ!と、小学校五、六年生ぐらいまですごい大事にしてた。風呂に持ち込んだこともある。かなり磨り減ったなぁ」
昔は300gぐらい(全くの推測)と大きかったが、今では100gぐらいだ。
「今じゃ風呂に持ち込むなんて流石にしないけど、何でか気になって集中したりするとき掴んだりしてる」
癖がある人いるよね、集中するときに。目を閉じたり指をトントン叩いたり。そういったのと同じこと。机の上に置いては眺めてたりしてた。
「へー、石集めの趣味でもあるのか?」
ちなみにこの事は一夏すら知らなかったようだ。まあさすがに中学校にもなると持ってこなかったしね。家に遊びに来たりしたこともよくあるけど、飾りとかとでも思ってたのか。
「いや、無いけど、それなりに鉱物には詳しくなったよ」
「私も石集め良くやったなー。川原とか行ってね。水切りとかもよく__」
「それで、女だらけの学園に来た感想はどうだ?」
お休みしようと思ったら、千冬さんがやってきて連れ出されたでござる。
「正直、一夏関連で心労がかさむなと。楽しそうですが」
「……これでも、努力はしたのだ」
女心を分からせる?それとも人の好意に気付けるように?一夏にそれは馬に念仏、ドラじゃなくて猫に小判。俺の中じゃ一夏に恋心のが分かりやすいけど。
「相変わらずです。あ、そう言えばこれ、今朝の自己紹介の動画です。相変わらず騙されやすい奴です。こうやってちょくちょく見ないと何を起こすかわからないでしょ?」
「ああ、一夏は目を離すとすぐに問題を起こすからな。こうして何度も確認しなければいけないのだ。全く」
この人はブラコンなのにそれを押し出すのは恥ずかしいと思っているので、こう言ってあげたほうが素直に受け取ってくれる。話術大事。それでいて
「それで、お前は本当に大丈夫なのか?」
ちゃんと真面目にこっちも心配してくれる。
「もちろんです」
「一ヶ月ほど前にいきなりこんなことに巻き込まれ、両親と離れ離れになり、軍隊のような生活をする。これで大丈夫なわけないだろう」
確かにそれもそうだ、一般論なら。でも
「楽しんでるんですよ、この状況。だから、大丈夫です」
実際には、心の奥底で疲労しているのかもしれない。でも、問題ない。楽しいとは思ってるのだから、このまま突っ走るだけだ。もし倒れそうな時には、誰かに頼らせてもらうつもりだ。まっ、そんなこと無いとは思うけど。……だって、一夏か千冬さんしかいないレベルだし。
「……まだお前たちは子供だ。大人は十分に頼れよ」
「もちろんです」
「いやー、恐れ入った。のほほんさんは頭いいな」
「えへへー、もっと褒めて褒めて」
おーよしよしと頭を撫でそうになるのに気付き、驚愕した。ちなみに、ただいま入学式翌日の午前八時。一夏と箒と隣の部屋ののほほんさんと如月さんと一緒に食べている。
「如月も教えるの上手いな」
のほほんさんとカバーしあいながら教えるのは上手かった。さすが才女ばかり集まる学園。誰に対しても侮っちゃいけないなと確認できた。スポーツ推薦の人だってかなり出来るのが多い。ちなみに、それなりに交流が進んだのでさん付け無しになっている。
「それなりに勉強したのよ」
ちょっと胸を張ってえらそうな様子。あ、ちなみに俺のメニューは一夏と同じ和食セット。納豆は抜いてあるけど、代わりに餃子が入ってる。え?和食じゃないだって?大好物なんだからほっとけ。箒ものほほんさんも如月も似たような感じ。中学時代はトースト派だったんだけどね、炊いてある飯があるならそれがいい。ただし俺だけふりかけ付いてるけどね。白米が嫌とかじゃなくて、飽きない工夫。
「なあ箒、場所はどこで?」
「剣道場が使えるからそこでやるぞ」
「あ、そうそう。なるべく突き多めでいいかな?」
「なぜだ?」
「レーザー武器ってのは簡単に言えば槍、剣道の突きだから。一直線に射程が馬鹿みたいにある槍みたいなもんだから。やらないよりマシ程度だけど」
切るより突きの方が少しは対策になるかな、といった考えだ。やらないよりマシ程度だが少しずつ積み重ねれば大きなことになる、そう信じてる。
「なるほど。良く考えているのだな」
むしろお前たち(一夏と箒)は考えなさすぎではないだろうか。一夏はかなり脳筋だが箒もだろうか。頭悪いわけじゃないけど。
「ひとまず一夏、授業は真面目に聞いとけ。分からないところがあったらすぐ聞きに来い。どうにかする」
「分かった。頼りにしてる」
「PICってつまりどういうことばってよ?」
「ISの加速減速を行う総称。変な力を押し出してその反作用で進むと覚えとけ。詳しい原理は今は覚えないでいい。と言うか理解はあんなの難しすぎるわぼけ!バトル乗り切るまでなんとなくで行くぞ!」
「分かった。何となくだな」
コイツは体で分かるタイプだからさっさとラファールでも打鉄でも乗せたほうが早いのに。弓道だって基本を教えたら一日百本、千本撃たせた方がいいに決まってる。勝ちたいなら。
学園でせいぜい二十台程度しかないのに全校で三百人以上はいる。だからそうは回ってこない。せめて一回は乗せたいのに。
ちょうどそのとき鐘が鳴った。慌てて席に着く。そして山田先生が登場。
授業が進んでいく中ブラジャーとか色々出てきて何となく気まずい感じになったけど乗り切った。それにしても、ここまで授業に集中すると疲れる。二時間目なのに軽くグロッキー。ただし横はもっとグロッキーになるだろう。
「ねえねえ、織斑くんさあ!」
「はいはーい!質問!」
といった感じで。さっすが一夏、女を誘うこと誘蛾灯のごとく。
「ねえねえ、清水君本当に勝てると思ってるの?」
「専用機ってどんなの?」
あれ俺も?一夏が俺たち親友だね!って顔をした。嫌味だよね?
「さあ、どうだろうね?その時のお楽しみ」
そうやってはぐらかしながら答えていると
「千冬お姉さまって自宅ではどんな感じなの!?」
「え。案外だらしな__」
もう遅いなって分かった。直後にバアンッ!といい音が響いた。
「一夏……お前はどうして修羅の道を進みたがるんだ?」
蜘蛛の子のごとく散っていくなか問いかけた。一夏は「つい」とだけ返した。
「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」
「へ?」
「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」
「お……自分にですか?」
専用機ぐらい分からせてある。全世界のISコア467個。さらに三百個以上が軍用。全世界十数カ国ほどに分散して一国の民間に約十数個。その専用機。人類六十億の内、精々三十人と居ないエリートと言える。
「ああ、世界で二人しか居ない男性IS操縦者だからな。本来国家か企業に所属していなければ与えられないが、特別にな。教科書六ページ、音読しろ」
一夏がぺらぺら音読する。条約とかいろいろ面倒だよね。
「と言うわけだ」
「ちなみに俺は企業に所属してるよ?」
一夏がえっ!?というような顔をしながら
「い、いつの間に!?」
「色々あってね。所属した方が有利かなと思って」
それと、あの人たちの志に賛成したから……てのは置いておくべきだな。企業の重鎮たちなんていくらでも演技できそうだし。重要なのは俺にとってプラスかマイナスか。今の所不満はないからいいとする。
「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」
女子の一人がおずおず尋ねる。
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
……あいつ呼ばわり?あ、そうか。一夏が言ってたな。篠ノ之博士と何度か会ったこともあるしって、姉とは腐れ縁なのだろうか。良く分からない仲って言ってた。つまり小さいころ家族ぐるみの付き合いだったわけか。……両親は居ないから、二人ぐるみ?家族ぐるみでいいか。
で、直後にクラスが沸き出す。でも、昨日の反応を見る限り、箒は多分
「あの人は関係ない!」
あまり好いているわけじゃないよね。可能性としてはなんだろうか……いや、こういったのを興味だけで考えるのは止めたほうがいいか。自分に関係があるならまだしもだけどさ。周りの女子がぱちくりと瞬き、
「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」
クラスの女子は不快感などを出していた。一瞬フォローしようかと思ったが、止めた。
「さて、授業を__」
「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
早速俺たちのところにやってくる。腰に手を当てるポーズは写真にとって飾りたいぐらい様になってる。ちなみに、専用機持ちはなぜか美女が多いのでというかほぼ全員美女なのでアイドル活動とかもやってる。もはやIS搭乗適正はISのわがままにしか思えない。意思があるらしいし。
「どうでもいいけど、その腰に手を当てるポーズ様になってるね」
「お褒めに預かりありが……今はその話ではありませんわ!」
どうでもいいと言ったの聞き流した?
「へいへい。それで、続けて」
「まあ、一応勝負は見えていますけど?さすがにフェアではありませんものね」
「なんで?」
「この人代表候補生だから。専用機持ってる。多分、三百……四百時間超えてるんじゃないかな?」
「ええ、その通りですわ!IS適正もA+なのです!」
「確かに高いねぇ」
練習してれば上がっていくらしいので、300時間以上乗っててA+ってのは高いといえるのか否か、個人の感想次第か。
「なのでクラスで代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであるということをお忘れなく」
去ろうとしたとき、一夏が声を出した。
「違うね」
「?何がです?」
「IS適正だとかそんなものじゃない。クラス代表に必要なのは、強さ、だろ?」
おお、なんとまあ。
「お前も言うようになったね。えらいえらい」
「子供見る目で褒めるな!……お前とも長い付き合いだからな」
女子、黄色い悲鳴あげるんじゃねえ。腐った要素はねぇよ。で、肝心のお嬢様は
「だとしても、それは私ですわ」
優雅に去っていった。平和な状態になってやっと今から飯だと思い出した。
「箒、飯食いに行こうぜ」
「他の人も。今ならもれなく一夏が付いてくるよ?」
「付いてくるけどさ、わざわざ言わなくていいよな?」
行く!ちょっと待ってー、とか色々聞こえてぞろぞろ引き連れて食堂へ。箒は一夏が誘ったのが嬉しかったのか微妙に上機嫌だった。
っく、予想よりこみまくり。こりゃ精々数人ずつしか無理かな?ちょうど隅っこに四人開いている場所があったのでそこにもぐりこむ。前に一夏、その隣に箒、俺の隣にのほほんさん。意外とちゃっかりしてるね。この人。ちなみに昼ごはんは中華だ。一夏は固定化気味傾向だが、俺はなるべく色々食べる主義。
「一夏はいつも固定化気味だよな」
「希はなるべくばらけさしてるのはなんか理由あるのか?」
三年間の付き合いでも知らない事はある。中学は給食だし、相手の食事情は知らない事の方が多い。おホモダチじゃないし。
「変化を付けて飽きにくいようにしてるだけ」
とても単純な理由だ。
「餃子はいつもついてるけど?」
「飽きないぐらい大好きってだけ」
これとっても重要、飽きないぐらい大好きな物が欲しいな。
なるほどと言いながら進む。ちょくちょくのほほんさんに俺から質問したり、一夏と箒が不器用ながらコミュニケーションをとって進む。で、その時
「ねえ。君って噂のコでしょ?」
一夏のとなりから三年生が登場。雰囲気が落ち着いて大人びてますねぇ、これは評価が高い、はず。この学園に評価高くない女子いないけどね。
「はあ、たぶん」
「代表候補生のコと勝負するって聞いたけど、ほんと?」
「はい。そっちの男もですけど」
「ですねー」
まだまだ先になるだろうけど。
「でも君たち、素人だよね?IS稼働時間いくつくらい?」
「いくつって……、二十分くらい?」
「俺は六十時間ぐらいですかね。企業で一気に叩き込まれましたから」
男の悲願を達成するためにひたすら組み込まれた。教えてくれた師匠には時間を取らせて申し訳なかったと思う。でもあの人はそれでも俺を指導してくれたので、すごく尊敬している。師匠のためにもお嬢様に勝って報告したいものだ。
「えっ!?結構乗ってるんだね、君は」
「ええ、お陰で一ヵ月半ぐらいでずいぶん肉体改造しましたよ」
朝六時前に叩き起こされ10km走り、終わったら朝食(栄養士が考えたバランスがいいもの)、筋トレや格闘訓練(合気道やらetc)、剣術もやって。午後はIS講座をやったり、実施訓練だったり。終わりに5kmぐらい走ったり。とは言え一番最初からこうではなかった。だんだんと慣らされて、卒業式ちょっと前にはこれぐらいだったってぐらいだ。劇的ビフォーアフターを果たして高校デビューをしてる。
ちなみに今はやってない。まだ高校生活に慣れてないし、シャワーの目処も剣道部という人がいっぱいいる場所。ハプニングがあるかもしれないから夜だけだ。シャワーの目処をつけなきゃ走った後の汗が問題だ。今の所の候補は箒のところ、毎日鍛錬してるからそこまで迷惑かけないだろう。でも好き(異性的な意味で)でも無い男にシャワーを使わせるのも遠慮させちゃうよなぁ、どうしよう。
「でも君は素人だよね。でさ、私が教えてあげよっか?ISについて」
ずいずい一夏に身を寄せる先輩。でも
「すいません。申し出は嬉しいのですが、理論はこいつに教えてもらってますし」
「でも、理論だけじゃ分からないことあるじゃない?これでも結構乗ってるから__」
「結構です。私たちが、教えていますので」
箒がきっぱりと言った。目付きが怖いですよ。
「あなたは一年でしょ?私のほうがうまく教えられると思うなぁ」
「……私は、篠ノ之束の妹ですから」
知らない人から見たら効果絶大だけど、実際には俺より知らないよね?君。まず間違いなく。
「篠ノ之って--ええ!?」
ほら効果絶大。普通はすごい詳しいみたいに思われるよね。野球選手の弟は野球に強いみたいに思われるみたいに。
「ですので、結構です」
先輩はおとなしく引き下がっていった。その後箒は一夏を見つめて
「今日の放課後、剣道場でだ。どのくらいの腕か、見せてみろ」
「分かった」