IS学園で非日常   作:和希

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十九話 日常

 七月初頭、トーナメントから月日はそれなりに流れた。あの決勝戦は無効試合になるかと思われたが、決着は付いていたようなものなのでいつもどおりIS学園は平和にやれてますアピールをするためか、表彰式が行われた。ただ、前は男二人だったのに男と女で表彰に出たのはどうかと思うが。

人間関係は前に比べて変化はあった。シャルロットは昼食どころか朝食まで作ってくれる。しかもそれが美味い。フランス料理を出してくる事もあるけど、正統派日本料理でメキメキ実力を上げてる。でも六時から一緒にある程度トレーニングをし、その後食事の準備は大変か?と聞いても「自分がしたいからしてるんだよ」と言われては胸中は複雑である。夜もよくやって来る。と言うか毎日と言っていい。ちなみに同居人はいない。千冬さんが一夏に対して一生懸命自分の必要性を説いているらしい。要約すると駄々こねている。時間の問題らしいが。

ラウラはかなり親密である。二人の時はお兄ちゃんと呼ぶように、と言ったら本当に呼ばれた。純粋すぎて可愛い。一生懸命入れ知恵をして一夏に攻撃を仕掛けさせている。物理的ではない。精神的にだ。他のメンツと同じにするな。

他のメンツは今までどおりといったところだが、ラウラに肩入れをしているのですこし刺々しい。が、それなりに良好ではある。そんなある日の日常。授業も全て終わって帰りのHRのとき。

「これから四月に行った体力テストの結果を返す。名簿順に取りに来い」

さすが才女いえども女子、キャーキャー騒いだりしながら取っていく。全て返し終わった後、起立、礼として解散になった。すぐに隣の一夏に

「で、一夏はどうだ?」

「あー、残念だ。あと4点でAだ」

「おし、何とか勝った。Aに3点ぐらい余裕がある。こっちが7点勝ちか」

当然だ。前も言ったが俺は中学時代部活を真面目にやっていた。一夏は千冬さんに迷惑かけないためバイトなどをこっそりやり、勉強も頑張っていた。俺と対照的に。

そして中三の2月の半ば、俺はすぐに今の企業に所属してそこで軍隊張りの生活を行っていた。1ヶ月半ほど。しかも様々なコーチの人が付きながら。走り方って真面目に学ぶだけでポイント1上げれるんだなとか思った。俺自身にあった呼吸のタイミングとかも機械で計ってくれもした。あそこで過ごせば誰でも一ヶ月で八ポイントは余裕で上げれる。

それからも真面目にトレーニングをしている。一夏が一緒にトレーニングをしだしたのはセシリアに喧嘩を吹っかけられた時。そこから一緒に訓練しているわけだ。4月の終わりに体力テストをやったが、たった数週間でそれなりに体力を戻してた。さすがに運動適正は俺よりかなり高い。千冬さんの弟って感じだ。今やったらどうだろうか、筋力自体はこっちの方が勝ってると思うが。総合じゃポイントは同じぐらいか。

あ、運動能力が高いだけで殴り合いしたらまず負けるね。

「平均8ぐらいか。高いな」

持久力とか少し低いが、握力とか筋力関係は高い。

「握力平均51いってるのは1年じゃ少ない……まずいないだろうな」

男と女の筋力差は依然としてある。長座体前屈以外は男の5~7のポイントが女子の10点満点になるぐらいなのだから。

「希はやっぱりすごいね」

シャルロットが褒めてくれるが、負けてたら困る。俺は持久走が苦手なのでそこは負けてたりするけど。ちなみに、長座は相対的に弱い。この学園には体が柔らかい女子が多いから。これでも格闘の時に必要だからストレッチ一生懸命してるんだけどなぁ。それ以外の記録でなら俺と一夏がツートップだ。専用機持ちのエリートでも、どうしても男と女の差は出てくる。それでも

「シャルロットと生身で勝負したら勝てると思えないけどな」

それどころかセシリア・鈴・ラウラ・箒、誰にでも勝てる気がしない。でもこれから成長期だし、三年間でどうにか倒せるレベルにまで到達したいところだ。彼女たちはエリートで強いけど、世界選手権に出れるレベルとかそこまでのレベルではない。不意を突けば軍人相手を倒せるぐらい(ラウラ除く)だから三年間あれば倒せるようになれるはずだ、多分。

あ、とくに、シャルロットには負けたくない。理由は聞くな。聞くなよ。

「そんなこと無いと思うけど……」

あるとおもうんだけどなぁ。

「それより、箒って握力どのくらいだ?やっぱ40ぐらいあるのか?もしかして40後半か?」

「お前は私を何だと思ってるんだ?」」

憮然と言うが、中学女子剣道優勝で、真剣で素振りをしている彼女だ。握力は俺たちに次いで3番目にまず来ると思うがどうだ。それか技術で補っているのか。

「違うの?」

結果の紙を差し出して(一部に手をかざしている)

「……40ぐらいだ」

「やっぱお前たちってすごいな。皆高得点だ」

一夏が感心したように言う。専用機持ちと箒は最低ポイント大体8ぐらいで全員Aを軽がる突破している……と思ったらシャルロットは違った。理由は簡単だ。性別が男で結果が届いてるから平均6ぐらいって所だ。女子換算で平均9ちょい下ぐらいか。

「当たり前じゃない。国から任されてるエリートよ?一応」

いつの間にか会話に参加していた鈴がさも当然に告げる。このちみっこさでこれだけやれれば凄いよ。確か女子は平均157cmだっけか。7cmほど低いのに。

「あ、でも身長と体重……さすがにジョークです、はいすいません」

「一夏、笑えるジョークと笑えないジョークの区別ぐらいつけとけ。まあその二つぐらい大体分かるけど」

「しゃべったらその頭を熟れたザクロの様ににしてあげますわ」

恐ろしい事言わないで欲しいな。あと俺が直接的な暴力表現は止めようって言ったけど、むしろ恐怖が増すだけだな、こりゃ。

「ふむ、こうしてみるとやはり男と女の筋力差は出てくるな。軍でひたすら鍛えていたが、持久力と長座以外けっこう離されている」

「半分ぐらい10点だろ。偉い偉い、さすが妹だ」

10が4つ、9が4つ。体は一番ちっこいが一番頑張っている。当然といえる。もしくはこれが試験管ベイビーの強さか。さすが疑似コーディネーターか。頭をよしよしするとラウラは胸を張った。

「もちろんだ。それで、どうして体重などが大体分かるのだ?」

「簡単だよ。ネットで身長に対する平均体重を調べだして、平均体重から1~2kg引けばいい」

「へー、どうして減らすんだ?」

「一般女子に比べ筋力自体ははるかに高いのが多いけど、スタイルいいのばっかだし」

「……殴っていいか微妙ね」

褒めたんだよ?

「お前とラウラさらに数百gかな」

「今日の訓練私としましょ。叩き落して地面を這いずりまわらせてやるわ」

ちょっとふざけすぎちゃった、というかつい言っちゃった。とても強い殺気が。他三人に比べて胸は小さい分引こうねって思っただけだけど、そこまで察知するか。ちなみに胸の質量なんて知らないよ?

「まあまあ……となると、身体能力はラウラ・箒・シャルロット・鈴・セシリアの順か」

「シャルロットは長座が得意なのか?」

ラウラ以上である。俺は知ってるよ?シャワーおわった後とかにストレッチやってたし。俺といっしょに。目に毒だったけどね。

「体は柔らかいほうなんだ。それにしても、希の握力がやけに高いのは柔道をやってたからかな?」

「多分ね。一番握力を使うスポーツだろうし。座りながら握力グリッパーずっと握ってれば鍛えやすかったからよくやってたし」

暇つぶしに最適だった。ネットでまとめを見ながら握り続ければこれぐらいは行けるはず。

「でも、あんた身長低いわよね」

うっ!……ずっと気にしてたんだが。言われると微妙に傷つく。さっきの仕返しだろうが、いつもからかってるのは俺なのでごちゃごちゃ言うのはみっともない。というかしてはいけない。

「まあね。やっと165cmってところか。成長期にかけたいけどなぁ。一夏、3cmくれよ。そうすれば殆ど同じになるから」

「嫌だよ。やれないのが前提だけど、やれたとしても身長は嫌だ」

だよね、俺もだけど。鈴はため息をつきながら

「って言うか、あんた一年前から身長変わらないでしょ。背高いなとか思ったけど、早熟なだけだったみたいね。これ以上は諦めなさい」

ぐっ、と来るな。そして微妙にドヤ顔やめろ。んー、鈴が胸で馬鹿にされるとこんな気分だろうな。だから鈴に対して怒っちゃ駄目だ。いつもの胸でからかわれてるのを仕返し?してきてるだけだし。

ただし、とっても違う点がある。とっても違うところがある。声を大にしていったらやばいことだけど。胸は小さくてもステータスになると俺は思ってるってことだ。身長は小さかったらデメリットしかねえって事だ。あ、背が高い女子が好きというわけじゃない。

「日本人平均身長172cmらしいが、マイナス7cmか。一夏と7cmも違うし……」

隣で立つと低く見えるのは実はちょっとコンプレックスだ。

「でも体重は一夏にけっこう近いじゃない。負けちゃいるけど」

「筋力はあのとき間違いなく勝ってたからな。今はどうだか」

一夏はかなりガッシリしてきてるが。俺よりもう上だろうか。

「希、大丈夫だよ。絶対に背は伸びるよ」

健気に励ましてくれるシャルロットまじ女神。でも俺は諦めてるんだよね。遺伝の関係もあるし。

「ありがとう。健康的に生活して、最善を尽くすよ。で、セシリアは……特に秀でてるのが無いな。やっぱ狙撃とかの訓練を重視してたのか?」

「はい、それと一応オルコット家当主なので色々面倒な事もあります。さらに訓練自体このごろ怠りがちですし……」

ライバル多いからね。料理とかの腕を必死に磨いているのを、俺は知ってる。貴族のお嬢様だった分他で取り返さないといけないか。ただ、そっちに集中されすぎて国に送還ってなっても困るな。まっ、そこら辺はしっかりしてるから問題ないだろうけど。

「それにしても、鈴はすっげえ伸びたな。前から良かったけど」

一夏が感心したように頷く。中学二年生の終わり、その時から運動能力は高かったがここまで伸びるか。感心しているとあははと乾いた笑みを見せた。

「教官がね……厳しかったのよ」

「……でも、それで今のお前があるんだから」

「もちろん。感謝してるわ。でも当時はきつかったわ。滝に飛び込めって言うのは冗談かと思ったわよ。飛び込んだけど」

「お前、将来は気とか使えそうだな」

科学的に証明できないだけであるかもしれないらしいので、マスターしたらぜひとも教えてもらいたいものだ。かめはめ波を撃てたら鈴様って呼ぶ。一生敬ってみせる。

「それより……やはり悔しいな」

箒が眉をひそめて言う。一夏が

「何が?」

と聞くが、まぁ多分

「男女の差だ。毎日鍛錬をしているが、希の足元に及んでいない」

こういった話だよね。足元ぐらいには及んでると思うけど?そりゃ筋力では強いけどシャトルランとかは負けてる。一夏も俺も女子に負けてたまるかと思ってひたすら走ったけど、100回目にして箒に圧倒的に差を広げられ、微妙に悔しかったのを覚えている。持久力は努力がかなり物を言う。さすがに積み重ねがある箒は強い。

「それが昔の男尊女卑の世界の原因だな。こんだけ身体能力に違いが出るなら、力が主な原始社会は男尊女卑が蔓延するわけだ。まっ、今は女がISで力持ってるから逆だけど。それより、箒は二つも錘を__」

つけてるのに凄いなと言おうとした。

「ねえ、希。いい加減怒るよ?」

スッと温度が下がった。綺麗な笑顔だけど、のっぺりした声。溢れ出る威圧感、そして殺気。周りが俺をキッと睨んだ。

「ごめんなさい。本当にごめんなさい」

「これからは注意してね」

 

人間関係に変わった事があった。俺たちの中の共通事項。それは、シャルロットを怒らせてはいけないということ。

怒らせるのはいつも俺が原因だが。

 

 

 

 

 

 「お兄ちゃんよ。添い寝をしてくれ」

「わああっ!?」

驚いて後ろを振り向いた。夜、シャルロットが帰った後、ドアが叩かれ誰かと思って見たら裸のラウラが立っていた。ガバッと後ろを振り向いた速度はISでターンした並。ともかく、な、何を言っているかわからねーとおもうが__

「どうしたのだ?」

「よし、ラウラ。まずは服を着よう。最悪でも下着を着よう」

「無い」

すっげえ堂々としてるよ。見ちゃいけないから見てないけど。俺よりよっぽど男らしいわ。ラウラを教育した奴出てこいなう。ぶっ潰してやんよ。

「じゃあ俺のシャツ渡すからそれでも着といて」

「なぜだ?なぜ寝るのに服を着ねばならない。襲撃に備えねば」

あら天然勘違いっ子可愛い。養いたい。

「いや、着るんだよ。女の子は無闇に素肌を見せちゃ駄目だ。一夏だけにしなさい。それが淑女の嗜みだ」

「むぅ、私は軍人だが、お兄ちゃんがそう言うなら」

傍から見ると銀髪の同年齢の美少女にお兄ちゃんと呼ばせてる変態な訳だな。さらに裸Tシャツを要求する高等プレイ。このプレイに何万金を出す人間がいるだろうか。ちなみに、実際にやると心臓に悪いとは伝えよう。だってさっさと帰ってもらわないと、シャルロットが来たら殺されるから。警察が来たらつかまる。鈴とかが来たら学園生活が終わる。千冬さんが来たら全部終わる。これらが無ければ楽しめるはずだ。変態?いや正常だよ?

「それで、どうして添い寝してもらいにきたんだ?」

誰かがよくないことを吹き込んだのか。

「私の嫁が言ったのだ。家族と一緒に寝るのは温かい気持ちになれると」

明日覚えてろ一夏ぶっ飛ばしてやる。え?他人にしたような事を自分にされて怒っちゃダメ?鈴には怒っちゃいなかったのに?知るかヴァーカ。一夏だからいいんだよ!一夏は俺の特別なんだ。

「確かにそうだけど、裸は駄目だ。まさか、下着とか全く持ってないのか?」

「そうだ」

裸Tシャツであまり無い胸張られても俺が変態かロリコンか犯罪者にしか見えないんだけど。どっちも一般人視点だとロクでもないって所が危ないな。好意的に解釈するポイントがどこにもない。でも俺自身はロリコンっぽい感じがしてるんだけどね。ってどうでもいい。早くどうにかしないとまずい。とにかくまずい。シャルロットに見られたら命が束になっても足りるかどうか。

「……しょうがない。今日の添い寝は駄目だ」

「どうしてなのだ!?今日一日でもいい、家族の温もりを知りたいのだ!」

「だから、むやみやたらに裸で男と寝ちゃいけません」

「お兄ちゃんはお兄ちゃんだ。裸で寝て問題ない。第一、今は裸ではないではないか」

いや、その理屈はおかしい。……おかしい?いや、騙されるな。おかしいに決まってる。裸じゃないとしても裸よりなお悪いだろう。裸の方が健全だ。あれ?健全?

「ひとまず最低限パジャマを着てからね。今度の休み、一夏と買いに行って好みのものを選んでもらおう。嫌とは言わないはずだ」

「さすがお兄ちゃんだ!だがそれとこれとは別だ。一緒に寝てくれ」

「だから!!」

 

 

 

 「ラウラ、どこに行ったんだろう」

シャルロットはルームメイトのラウラを探す為ジャージ姿で徘徊していた。

「しょうがないか……コアネットワーク、起動」

潜伏モードにしてなかったのか、位置はすぐに発見した。

(希の部屋?一夏について相談かな)

近いところを探索してたので、1分ほどで到着した。行儀良くノックをして

「希、ラウラが__」

「だから!明日寝よう。裸Tシャツじゃ俺の命が危ないんだって!」

「どうして危ないのだ?妹と一緒に寝て命が危険になる事などあるわけがない」

「あるんだよ!いまにもシャルロットがやって来る予感が__」

ダンッ、心地よい音と共に扉が開いた。希にとっては恐怖の音であるが。

「や、やあシャルロット、こんばんわ。奇遇だね」

いつもよりぎこちない笑顔を見せる。

「うん、とっても奇遇だね」

いつもより綺麗な笑顔を見せる。

「じゃあおやすみ、また明日」

そう言って希は何事も無いかのように布団の中にもぐりこんだ。秘儀、知らない見てない普通だよのフリ。

「じゃあ私も寝よう」

ラウラがナチュラルに希の布団にもぐりこんだ。天然ッ子の萌えと同時に恐ろしさも味わうことになる希。

「ラウラ!俺が死ぬ!……あ、ラウラって柔らかいな。身体能力最強で、鍛えていてもやっぱり女の子__ハッ!?」

「希、外に出てきて欲しいな。ベッドを壊したくはないし」

すごすごと希は外に出てきた。顔面蒼白である。

「あ、あの、シャルロットさん」

「なーに?」

「右ですか?」

「NO、NO、NO」

無駄に流暢に答えるシャルロット。日本語だけでなく、英語もいけるらしい。さすがである。

「左ですか?」

「NO、NO、NO」

綺麗な笑顔だった。希にとって

「やっぱり両方ですよねー」

「YES♪」

死刑宣告同然だが。

 

その日、悲鳴が響いた。ラウラはシャルロットに対して従順になりだしていた。

 

IS学園は今日も平和である。




ここでのポイント
同級生の
美少女に
実の妹で無いのに
お兄ちゃん
と言われる事

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