TS娘と……   作:いつのせキノン

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主人公:男。親友がTSしたときは驚いたけどそれだけ。今も親友だと思ってる。
TS娘:TSした。まだオレっ子。


TS娘とお出かけするだけ

 

 いい天気だ。

 

 少々都会な駅を出てすぐ。バスターミナル近くには噴水と植え込みが近代的なデザインで設置されていて、ちょうどそこにあるベンチに座ってぼんやり空を見上げていた。

 

 なんてことはない、現在は待ち合わせの時間を待っている状況だ。

 誰とか? ただの友人だ。同じ大学に進んだ、小学校の頃からの友人である。

 ()とは随分と長い間顔を合わせ続けて、なんだかんだで相性がいいらしく良い友人関係を続けることができている。趣味だとか、感性だとか、そういった内面部分の相性というのがいかに大事かと思う。

 

 つい最近は色々とあってバタバタしていたんだが、ようやっと落ち着いたところで向こうから出かけるのに付き合ってほしいとの誘いが来た。例の一件以降外に出るのが怖がっていたのに、自分から改善したいという姿勢は誉め讃えるべきだろう。本人は「やめてくれ」と言っていたが。

 

 

 

「よ、よぉ……待った、か……?」

 

 ぼんやりと人波を眺めて待っていると、横合いから声がかかった。

 来たか、と思い振り向けば、女子が立っていた。

 ウェーブがかった茶髪のロングヘア、黒縁の四角い眼鏡をかけて、その奥の瞳は緊張してるのか、恥ずかしいのか、終止視線が泳ぎ、こちらを時折見てはすぐに逸らす。

 服装は黒地に花がたくさん描かれたロングスカートと黒地のローカットスニーカー。上着は身体のラインが出るような明るいグレーの薄地ニットと、その上に桃色のロングパーカーを羽織っていた。

 白いミニボストンバッグを少々力みながら両手で身体の前に持つポーズは、とにかく体を縮めて人目に映りたくないと主張しているようであった。

 

 うん、待ち人来たり。

 

 待ってないさ、と返すと、彼女は「そ、そうかよ……」とぶっきらぼうに顔を逸らしてから、何やら下の方を向いて少しニヤついていた。

 どうしたんだい? と問いかけてみるけれど、

 

「なッ、なんでもない!! 別に、なんかッ、そのぉ……恋人の待ち合わせみたいだな……とかッ、そんなの全然考えてねぇからっ!!」

 

 と、顔を真っ赤にして言ってきた。途中何を言っているのかうまく聞き取れなかったんだけど、こちらの勘違いならそうなんだろう。よく「どこか抜けてるよな」と言われてきたので、どうせまたその類いなのだろう。

 

 いやしかし、その服はどうしたのだろうか。

 

「ふ、服!? こ、れはっ……、姉ちゃんがくれて……変、か?」

 

 まさか、よく似合ってる。容姿によくマッチしていて可愛らしいじゃないか。

 

「かっ、かわ……!? へ、かわ……ぇ、へへ……かわいい……

 

 頬に手を当ててもじもじし始めた。

 

 なるほど、お姉さんからのおさがりという訳か。外に出るのはこれが初めてだといっていたはずだと思ったが、合点がいった。

 

 

 

 ああ、そういえば。誰に向ける訳でもないけど、説明を忘れていた。

 彼女は、さっきの()だ。

 彼なのに彼女。いわゆる、男から女へと性転換をしたわけだ。

 理由は不明、病気なのか何なのかも不明。とにかく何もわからない。

 

 ちなみに、こうなったのは彼が遊びに泊まりに来ていたとき。2人で深夜遅くまで語ったりゲームをしたりと夜更かしをしてから寝落ちし、朝気付いたら女の子に変わっていた彼に起こされたのだ。

 

 当時は本当に驚いたものだ。何せ美少女に起こされるなんてレアイベントなんぞ人生で一度もなかったのだから。彼だと判明するまで本気で夢だと思っていた。寝起きの頭だと本当に思考回路が回らないと痛感した日でもある。

 その後は混乱してる彼に変わって親御さんに連絡を入れたり病院を探したりと面倒を見ていた。どうすればいいのか相談を受けたりもしたし、親御さんに呼ばれて一緒に会議を行ったりと、とにかく大変だったということだけ言っておこう。

 

 そんな一件があって以降、彼女になってしまった彼はしばし情緒不安定だった節がある。

 そりゃあ思春期な時期に男から女に変わってしまうという大事。原因不明の、病気かもわからない事態に巻き込まれたのだ、心中察するに余りある。

 夏休みの頭の期間だったのもあって学校の心配をしなくて良かったのは不幸中の幸いだっただろう。

 地元が一緒なのもあって休みの間は彼女と時間を共にする時間が多くなった。何というか、正義感と言うのだろうか、真っ先に彼が彼女となってしまったところに居合わせ、責任のようなものを感じていたのかもしれない。どうにか傍にいて不安を取り除けないかと思っていたのだ。

 

 漠然とした理由もあって近くにいて、そのまま時間は過ぎて、そして今日に至る。

 彼女の親御さんからは、精神的に安定している時間が2人で一緒にいる時なんだそうな。

 これでも彼とは親友だと言える仲でもあったので、彼女が安心するというのなら近くにいることくらい苦痛でも何でもない。

 

 考えてみれば、変わったのは外見で中身は彼のままなのだ。話が通じなくなった訳でもあるまいて、何を心配する必要があるか。

 

 そんな訳で彼女は彼の時と変わらず、いつも通りの付き合いを続けてる。

 最近は彼女のところへ顔を出してはゲームをしたり下らない話に付き合ったりだったが、今日は初の外出だ。

 「こもってばかりだと良くねぇだろ」と本人の口から聴けたことは僥倖である。問題にきちんと向き合う姿勢には拍手を送りたい。

 むろん、もし体調が崩れたりしたらすぐさま連れ帰る所存だ。一度面倒を見ると決めた以上は最後まで付き合ってやると誓ったのだ。親友が困っているのに助ける理由などいらないだろう。

 

 

 

「……どうしたんだ、ボーっとして?」

 

 おっと、しばし惚けてしまっていたらしい。いやはや、再度決意を固めるのなら前もってやっておくべきだった。

 なんでもない、と返し、行こうかと声をかける。

 今日は彼女からゲームの新作を買いに行こうというお誘いだ。興味深いタイトルだったのもあって付き合うのはやぶさかでない。いや、寧ろ若干の乗り気だ。

 

「な、なぁ……」

 

 家電量販店に向かおうとしたところ、彼女から声がかかった。

 何だろうと振り返り、彼女の方を見やる。

 

「いや、その」

 

 視線が泳ぎっぱなしだ。相変わらず鞄を持つ手に力がこもりっぱなしである。

 「ぁぁ」とか「ぅ」とか、時折声を漏らしてはたまにこちらを見たり、それから斜め下やらどこかそっぽに視線をやったり。うむ、どうしたものか。

 

「……手、……手をッ!!」

 

 勢いよく彼女が右手を突き出してきた。眉間に皺を寄せて、口を真一文字に引き結び、耳まで真っ赤にしてぶるぶると小刻みに震えている。若干涙目なのだが……。

 どうすればいいのだろうか。長いこと一緒にいたと豪語できるのだが、今回ばかりはてんでわからぬ。

 

 取り敢えず、こちらも同じく右手を出して握手。

 ……女性特有の柔らかさと、細くて折れてしまいそうな薄い感触が指越しに伝わってきた。

 

ぴゃぁあっッ?!」

 

 彼女の口から聞いたことのない悲鳴が。なんだなんだ、こうじゃないのか。

 

「あッ、ああああ握手してどうすんだよっ!?」

 

 ……うん、それもそうだ。今気づいた。

 

「違うんだよ……左手を……こうっ――――!!」

 

 どうすれば良かったのだろうと考えていると、彼女は左手を両手で取ってきた。

 

「……ぉ……お、ぉぉ…………おっきい……………、」

 

 そして顔を赤くして固まっている。心なしか、左手に感じる彼女の体温もかなり高くなっている。

 ついでとばかりか、すりすりと指を絡めて堪能しているらしい。

 

 熱でもあるのではないか?

 

「っ!? い、いやっ、大丈夫だ!! ほらっ、行こっ、なっ!?」

 

 心配を他所にぐいぐいと引っ張られる。本当に体温も上がってて心配なのだが。

 

「こっ、これはっ……元からッ……、へっ変なこと聞くなよな!?」

 

 ……今のは変なことだったのだろうか。わからぬ。地味にショックだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 目的のゲームはすぐに買えた。新作なだけあって入荷数も多かったらしい。

 彼女は意気揚々と初回限定盤を購入。ほくほく顔で満足気であった。こちらは財布の事情から通常盤で許してもらおう。

 

 その後は特に意味もなくふらふらと2人で店内を回る。

 彼女は元から電子機器だとかそういった類いに詳しいのもあり、こうなる前も時折ゲームなどを買いに来ては共に回ったものだ。パソコンだとか、音楽プレーヤーなんかを選ぶ時にはよくお世話になっている。

 今は中古のゲームが並ぶエリアを歩いており、何か良いものはないかと2人で探し回っているところだ。

 

「お、FPSセールか……」

 

 どうやらFPS系列が目に止まったらしい。主要タイトルからマイナーモノまで、据え置き・携帯ハード含め、様々なタイトルが軒並み価格破壊を起こしている。……ネットで評価が低かった奴は最早在庫処分レベルだ。500円とはまた……。

 適当にソフトを手に取って眺め、これはどうだ、なんて隣で見ている彼女に聞けば色々と情報を喋ってくれる。

 

「目の付け所がいいな。初代は評価が高いぞ。出たのが結構前でグラがイマイチだけどシステム面はこれ以上ないくらいに完璧って言われてるんだ。ベータテストやった時はかなり好感触だったな」

 

 2はイマイチだったけどな、と遠い目をする彼女を見て、なるほどと頷く。

 FPSはそこまで得意でなく、どちらかと言えばMMORPGの方が得意なのだ。生返事なのは申し訳ない。普段はもっぱら彼女とオンラインで音声チャットを使いながら遊んでいる身なのだ。

 

「ファントムシリーズが安いな……買い時か……?」

 

 今彼女は3本のパッケージを持って「うぬぬ」と唸っている。

 それは何か有名なものなのか?

 

「有名も何も、あの大島監督が担当だからな。グラフィック、システム、脚本、全てにおいて高評価で買って損はないぞっ」

 

 ファンですと言わんばかりの瞳の輝き。眩しい。

 例えばな~、とソフトの一本を手渡してくれて、裏を見せながら説明してくれる。

 こうしていると、自然と彼女が体を寄せてくる形になって……距離が近くなる。

 ふわりと、想像もつかない甘い匂いがした。思わず、一瞬硬直する。

 

「? どうした?」

 

 頭一つ小さくなった彼女がこちらを見て首を傾げる。

 眼鏡越しにこちらを見上げる視線、肩から滑り落ちる髪。

 なるほど、彼女は女の子であった。

 

 いや、何でもない。何でもないのだ。

 

「そうか……。あ、それでなっ、これなんだけど――――」

 

 すぐさま彼女の興味はゲームソフトの方へ。またぐいぐいと身体が寄って来る。

 ……もう、何も言うまい。

 

 気付かれなくて良かったと言うべきか。

 女の子らしい香りに一瞬心臓が跳ねたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 昼ごはんはどこがいいかとたずねると、「ラーメンをがっつり食べたい」とのご要望が返ってきた。

 

「久々に家系行きたいんだよ。流石に家にこもり過ぎた」

 

 スマホをいじって近場のラーメン屋を探す彼女はそう言った。

 いやはや、外見はこんなに可愛らしくなったというのに中身は以前のまま変わらないようだ。その方が嬉しいが。流石に中身まで変わるとそれはほぼ別人なのでは?

 

「あった、こっから徒歩10分……行っていいか?」

 

 行きたい!! と顔に大きく書かれているのに断るバカがいるだろうか。いやいない。

 もちろんだ、と頷くと嬉しそうにほほ笑んだ。久方ぶりのラーメンに若干テンションが上がってるらしい。

 かくいうこちらも食べたいところなのだ、元より断る理由もない。

 

 しばし歩いて目的の店につき、今日はたまたますいているのか、テーブル席にすぐに席へと通された。待ち時間がないというのは嬉しいことだ。

 2人揃って看板メニューを注文。ニンニクやアブラも忘れずに追加。こちらはともかく、彼女はそんなに食えるのか?

 

「大丈夫だって。腹減ってるんだよ」

 

 まぁ、ならいいか。彼女が食べたいというのなら、それを尊重しよう。

 

 家系らしく、アブラとヤサイがこんもりとよそわれたラーメンが出てきた。

 彼女の方はというと早速美味しそうに食べ始めた。髪はゴムでまとめているあたり用意周到だ。

 熱々の出来立てを「はふはふ」と覚ましながら食べては頬を綻ばせ、実に美味しそうに食べている。

 前々から何でも美味しそうに食べる人だとは思っていたが、彼女となってからはそれに拍車が掛かっている気がする。気のせいか?

 

「うめぇ……久々だと身に染みるな」

 

 うむ、本当に、全くその通りだ。もちもちとした太麺にスープを絡ませて食べながら頷き返した。

 

 またそのうち来よう、と珍しく思う。普段は特別考えるようなことはなかったが……。

 

 

 

 彼女がいるからだろうか?

 

 よく、わからなかった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 昼食を取った後は近くのショッピングモールへと足を運ぶ。

 特に大それた目的がある、というのでもなく、ただのウィンドウショッピングっという奴らしい。彼女が何となく寄ってみたいと言ったので付き添う次第だ。

 

 3階と横に数百メートル規模で立ち並ぶ店は様々だが、そのほとんどはファッション関連のように思えてしまう。帽子、靴、アクセサリ……、ブランドものが多く、なるほど、学生身分には少々覚悟がいる値段がちらほらと視界に割り込んでくる。お世話になることは当分なさげだ。

 

 とは言うが隣を行く彼女はかなり興味津々に見て回っている。電子機器以外でこうして興味を持つのは珍しいな、と失礼な考えが脳裏をよぎった。

 

「どうした?」

 

 不意に彼女がこちらを見てきた。どうやら変に見つめ過ぎてしまったらしい。

 なんでもないよ、と返すが、その回答に納得いただけないようだ。さて、どうしたものか。

 

「な、なんだよ……やっぱり変なのか……?」

 

 ……なぜ俯くのか。そうも悲し気な表情をされると困る。とても困る。これには変じゃないと返すしかわからないのだが……。

 いや、うん、彼女とデートをしている人の気分というのはどんなものか考えていた、と言うべきか?

 

「はぁ、彼女……彼女ぉっ!?」

 

 ど、どうした。

 

「おまっ、彼女作るのか!?」

 

 何を言うかと思えば……。今のところそんな予定はないぞ。優良物件も見当たらないことだし。

 

「ま、まだいない……ほ、ほんとにか?」

 

 なぜそんなに不安そうなのか。ともかくとして、そのような予定がないのは事実だ。上付いた話なんぞ年齢と同じだけないし、まだ友人と遊びに精を出す方がよっぽど有意義だと思っている。

 

「そっ、そうか……よかった

 

 ? どうしたというのだ?

 

「なっ、なんでもないぞ!! あっ、ほら、あの服っ、あそこ行こうぜ!!」

 

 ぐいっ、と急に腕を絡めとられ引かれてゆく。別に逃げも隠れもしないのだから、そこまで腕を極めなくても……。

 あと、周りからの視線が妙に暖かいのは気のせいか? 無駄に悪目立ちしているような……。

 

 腕を引かれて入ったのは秋物を取りそろえたレディース用衣服の専門店。おい正気か。

 

「姉ちゃんに女物のやつ買って来いって言われてんだよ。じゃなきゃ姉ちゃんの趣味のフリフリ着せられちまう」

 

 ……今のお姉さんの趣味らしい服も良いと思うのだが。

 

「こっ、これはオレが一番マシなのを着てるだけだ!! やべーやつはホントにやばいんだからなッ!?」

 

 な、なるほど……。それはそれで好奇心的に見てみたい気もするが……。

 

「……そ、それとも……オレの、フリフリ、見たいのか……?」

 

 いや、何も言うまい。着るかどうかを決めるのは彼女なのだ。うん、何でもないぞ。好きな服を選ぶと良い。

 

「む、ぅ……じゃあお前が似合うと思うやつ選んでくれよ」

 

 ……少し冷静に考え直してみては?

 

「オレの好きに決めていいんだろ? オレの決定を尊重するって」

 

 まぁ、間違ってはない。こちらの想定する適用範囲を上回っているのだが……ああ、いや、男に二言はない。あまりうだうだと言い訳をするのも格好がつかないというものだ。

 

「そういうことだよ」

 

 よろしい、とどこか満足気に頷く様子を見て、取り敢えず全力を尽くす他ないと決意する。

 何だろう、自分の選んだ物を着て満足してくれるというのならば、それも悪くないと思った。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 時刻は夕暮れ。朝から出かけた訳だが、時間の経過というものは本当に早かった。

 ちなみに午後は全部服選びに費やされた。彼女のどこからそれだけのエネルギーが湧き出てきていたのか疑問である。ラーメンか? ラーメンがそうさせるのか……?

 

 帰路は彼女の家まで共に歩く算段である。特に理由はないが、一応彼女は元男とは言え女の身、男の自分が最後まで付き添うのが常識というものだろう。だろうな? だといいな。

 

 帰路での話は他愛のないものだ。

 久々に顔を合わせてから最初は少しギクシャクしていた空気も薄れ、いつものように言いたいことを言い合える空気だったのもあって話は弾む。

 その内容はもっぱら彼女の近況だ。こちらは大して変わりのない日を過ごしているのだから喋ることもないので当たり前か。

 話すことと言えばほとんどが愚痴に近い。男物の服が軒並みデカすぎて着れなくなって、精々Tシャツを寝巻として使用できるくらいだとか、髪が長くなって洗うのが面倒だとか、切ろうとしたらお姉さんに全力で止められたとか、お姉さんが趣味の服を無理やり着せてこようとしてるとか、下手すればコスプレまでさせられそうになってるとか……。

 ちなみに彼女のお姉さんは服のデザイナーをやってるとかで、コスプレ衣装の製作も手掛けるなど意欲的な人物だ。たまに顔を合わせては軽く挨拶を交わす程度で、弟思いの良いお姉さんである印象があったがどうやらあながち間違いでもなかったようだ。

 

 彼女の口から留まることを知らないように溢れてくる言葉に相槌を打ち、ときに笑い、いやはやよく喋るものだと苦笑する。

 しかし、不満を垂れながらもその表情は実に楽しそうだ。こちらの目が節穴でなければ、だが。

 

 いよいよ家も近付いてきた頃。ぽろりと彼女が口からこぼした。

 

「……なぁ、今日はどうだった?」

 

 どう、とは?

 

「んー……迷惑じゃなかったか?」

 

 迷惑? 全くもって、そんなことは。むしろ楽しかった。

 

「楽しかった……そっか、それは良かった。……オレも、久々に会えて楽しかった、よ……」

 

 えへへ、と笑う彼女。

 それならば良い。元は彼女の言い出したこと、当の本人が楽しめたのなら文句も何もない。

 

「……また誘ったら、一緒に来てくれるか? いやっ、無理ならいいんだ。お世辞で楽しいって言ってくれたのは嬉しいし、これからもなんて無茶は言わねぇし……」

 

 そう言う彼女の顔を見た。どこか不安感を漂わせるような、答えを聞くのを躊躇うようなものに見えてしまった。

 

 ……何を言い出すかと思えば。

 

「へ?」

 

 今日は楽しかったのだ。そこに嘘偽りはない。自分がお世辞を嫌う人間だというのはこれまで何度も言ってるからわかってるだろう。

 だから、いつでも言えばいい。出かけたいのならいつでも付き合うさ。むしろこっちから連絡してやろうじゃないか。

 

「……い、いいのか……?」

 

 無論。女になっただのそういう事情は一切関係ない。会いたいから会う、遊びたいから遊ぶ、話したいから話す。これまでしてきたことと、何も変わらない。それでいいじゃないか。

 

 ……うむ、そういうことだよ。

 

「……はは、そっか。そうだよな……オレばっか、変に考え過ぎたんだ……」

 

 こちらの言葉に、彼女はどこか吹っ切れたような笑みを浮かべた。スッキリしたか?

 

「したよ、したした。いやー流石だ。考えてみるとホントに、呆気ないモノなんだな」

 

 呆気なくて結構。下らなくて良い。その関係が今に続いているのだから。

 

「ああ、痛感したよ。だから――――、」

 

 不意に、彼女は突然前に立って向き合ったかと思えば――胸に飛び込んできた。

 困惑するこちらを他所に、背中の方へと腕を回して、ぎゅっと……抱き着いてくる。

 

「……………………、っ、こっ、ここまでッ!!」

 

 そして、慌てて彼女は腕を解いて後ずさった。

 その顔は夕暮れの中でもなお赤く、耳まで広がっていた。パクパクと口を開閉しては、「あの」とか「そのっ」とか、容量の得ない言葉を述べていて。

 

 いや、かくいうこちらもちょっと冷静でいるのは厳しい。

 不意打ちの抱擁に固まってしまった。動悸も激しくて、全身が火照ったように熱かった。

 あと、懐にすっぽりおさまったときの香りと、女性らしい柔らかさにあてられて、気分がどこか浮ついている。

 

「いっ今はこれっ、ココココここまでだからッ!! つづ、き、てかッ!! その先は……もっと、仲良くなってからだからな!?」

 

 何か捨て台詞的なトーンで彼女はそう言い残し、ぱたぱたと家へと駆けこんで行ってしまった。

 

 

 

 ……その先。

 

 いや、その。

 

 これって、そういうことなのか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のう、我がかわゆい妹さんや」

「!? ね、ねねねねね姉ちゃん!? なんで家に……!?」

「むふふ、かわゆい妹ちゃんがデートに行くと聞いちゃあ結果が気になって仕事なんぞ手につかんわァッ!! 有給だよ!! いいよな学生の夏休みって長くてさぁ!!」

「バカか!? うちの姉ちゃんは仕事方面にスペック特化しすぎたんじゃないのか!?」

「ふむ、そう言われてしまっては言い返せないのだけれどネ……。しかしだ、我がかわゆい妹よ。お姉さんは嬉しいのです。あんなにも親身になってくれるお友達がいるなんて……いやーお姉さんもワンチャン狙ってたけど攻略できるなら全面的にサポートしてあげるよ!! 手始めに出来上がった服のサンプルが丁度ここにあるんだけど!!」

「嫌だ!! まだそんなフリフリ着れない!!」

「彼氏くんが褒めてくれるかもだよ?」

「ぅ、ぐ……!!」

「チョロっ」

「なっ、流されねぇよ!?」

「まーまー、取り敢えず着てから考えようよ。今だけだよ、女子の服が合法的に着れるのは!!」

「この状況を一番楽しんでんじゃねぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!?!?!?!?」

 

 

 

 

 

 




 な ん だ こ れ は



初めてデートもの書きました。
書いてる途中はまだ良かったんだけど、推敲中は精神的に死ぬかと思いました。
萌える(死語)シチュエーションを書きたかったけどどうも魅力が出し切れません。これからも精進してまいります。

感想とかいただけると励みになります。
これからもよろしくお願いします。

追記:(続きの構想は()()()()())ないです。

P.S
他二次創作については特に何か言えることもしてません。しいて言えばシンフォギア書いてます。他は手付けてません。ごめんなさい。

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