その少女は、災厄(ノイズ)であった   作:osero11

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 意外にも、高評価と続編を期待してくださるという感想を多くいただいたので、「今後投稿する可能性は低い」と申し上げてしまいましたが、続きを書かせていただきました。騙すような形になってしまったかもしれません。申し訳ございません。

 注意点については、この小説のあらすじと前回の前書きをご参照ください。それと今回は、主人公が平然と人殺しをしたりするのでご注意ください。また、装者たちの戦闘描写ですが、下手くそだと感じる方も多くなるものかもしれませんので、その点はご了承ください。語彙不足なのも目立ってくるころかもしれません……。

 それと、主人公と装者たちの直接的な戦闘は今回はありません。それは次回にとっておきたいと思います。それでは、どうぞ。

2019/06/25 中央寄せなどの処理をおこないました。


戦姫と災厄の邂逅

「おい! 君はなんて破廉恥な恰好をしてるんだ! 君に羞恥心と言うものはないのかね!?」

 

 少女が転移した場所は、多くの人々が行きかう街中であった。平日とはいえ、ちょうどお昼の時間帯であることから、かなりの数の人がその場所にいた。

 ぼろ布一枚しか纏っていない少女の恰好は、この時代、この場所に生きる人々にとっては非常に奇妙なものであった。ゆえに、訝しげに少女を見る、ヒステリックな様子で少女を糾弾する、にやつきながら携帯端末で少女を撮影する、あるいは警察に通報するなど、反応は人それぞれだが多くの人が少女に気を取られていた。

 

「聞いているのか!? こんな真昼間から、ほとんど裸じゃないか! 頭がおかしいのか!?」

 

 しかし少女にとっては、どれもこれも始末すべき有象無象でしかない。さっさと片付けるために行動を起こそうとし……

 

「――――!?」

 

 ある「反応」を感じ、驚きに硬直した。

 懐かしい「それ」を感知した少女は、急いで反応を感じた方向を向き、意識を集中させ、「反応」が本当に「それ」なのか確かめようと試みる。

 

 ごく自然に「感知」という言葉を使ったが、少なくとも少女は自分の知る限り「感知」という芸当ができたわけではない。しかし、「それ」を持つ「モノ」と長く過ごしているうちに、少女は自覚することなく「それ」を感知できるようになっていたのだ。

 その証拠に、今まで使ったこともなく、存在すらも知らなかった技能であるにも関わらず、少女は「それ」の感知を、まるで出来て当然と言わんばかりに使えていたのだ。

 

 そして「反応」が確かに「それ」であることを確信したとき、少女は涙した。

 その涙が、懐かしさによるものか、悔しさによるものか、はたまた喜びによるものなのか、少女自身にも分からなかった。

 そしてこの瞬間、少女の目的は「全人類の抹殺」から「『それ』の回収、及び返還」となった。少女にとって「それ」の奪還とは、人類を抹殺することよりも遥かに重要なことなのだ。

 

「泣いたからって許されるわけではないぞ! 全く、最近の若者は……とりあえず来い! 警察に突き出してやる!」

 

 最も……

 

「……な、なんだこれは……ど、どうして私の腕が黒く……あ、ああ……!」

 

 人間を殺すことをやめるつもりは、毛頭ないわけだが。

 

「あああああああ! か、体がどんどん黒く……炭になってる!?

 た、助けてくれ! 死にたくない! しにたくない! シニタクナ……イ……」

 

 そこから先の人々の様子は、誰もが予想できるものだった。

 少女の腕をつかんだ男が、手から腕、腕から体全体へと黒く染まっていき、炭となって消え去ったのを見た人間たちは、まず目の前で起こったことが現実のものだと思えず呆然とした。しかし頭がそのことを理解したとき、慌ただしくも平然とした様子だった街中は、阿鼻叫喚の地獄へと変わった。

 

 誰もが少女から出来るだけ離れようと躍起になり、他人を押しとばし、突き飛ばし、殴り飛ばし、転んだものを踏みつけてでも逃げようとした。

 その光景は、まさに3年前のツヴァイウィングのライブ会場の悲劇の焼き増しのようだった。当時、無関係であったにも関わらず、ライブの生還者を「人殺し」と非難し、迫害に加担した人間さえもその中にいたのは、まさに皮肉としか言いようがないだろう。

 

 しかし少女の眼中にもはや彼らの姿はない。反応がある場所まで一気に向かうために、少女は一度バビロニアの宝物庫へと姿を消した。

 少女の姿が無くなったことにも気づかず人間たちは騒ぎ続け、結局この事態が完全に収拾したのは1時間も後のことだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 S.O.N.G.にもこの事件のことは無論伝わり、被害者と思われる男性の体が炭化したことから、終息したはずの認定特異災害「ノイズ」が関係している可能性も考慮され、緊急事態宣言がなされた。

 もちろんのこと、ノイズへの対抗策として有効なシンフォギア、それを纏い戦う装者6人たちも招集された。とはいっても、エルフナインによるLiNKERの開発がいまだに遅れているため、戦えるのは3人のみなのだが、

 

 先日、空間を操るという機能に特化したアルカ・ノイズと戦った装者たちであったが、完全に根絶されたと思っていたオリジナルのノイズが再び現れたかもしれないという話には驚きを隠せなかった。

 

「そんな……ノイズがまた現れるなんて……」

 

 信じられない、という表情でつぶやいたのは立花響。かつてのガングニールの融合症例にして第三種適合者である。

 フロンティア事変の当事者として、ネフィリム・ノヴァの爆発がバビロニアの宝物庫内を焼き尽くしたことを知っている彼女としては、()()()()()ノイズがまだ存在しているとは想定できなかったのだ。

 

「まさかネフィリム・ノヴァの爆発にすら耐えていたとは……」

 

「……ギャラルホルンにより並行世界と繋がった影響ではないのかしら?」

 

 翼もまた驚きを隠せない一方、マリアが弦十郎に尋ねた。以前、ギャラルホルンが並行世界とこの世界とをつなげた際、()()()()()()()ノイズがこの世界に出現したことがあったのだ。

 その可能性を提示したマリアだが、表情は暗い。尋ねた本人自身も、エルフナインや自分たちの司令がそのことを考慮していないとは思っていないのだ。

 

「いえ……ギャラルホルンからは反応はありません。並行世界のバビロニアの宝物庫から来たノイズではないと考えられます……」

 

「……つまり、この世界のノイズが、再び我々の前に現れた、ということだな」

 

 エルフナインがマリアの質問に答え、弦十郎が結論を口にする。その言葉を聞いたS.O.N.G.の面々は、一様に暗い表情になる。

 

 ノイズと人類の戦いは、決して楽なものではなかった。

 ノイズによって、殺された人もいる。大切な人を奪われた人もいる。人生を狂わされた人もいる。

 

 無論、ノイズ――つまりは「彼女」――自身の意志によるものだけでなく、ソロモンの杖を使い、人間が同胞たる人間を殺すためにノイズが使われたこともある。

 フロンティア事変の最中、雪音クリスは炭と化した人々を見るたび、人殺しの道具たるソロモンの杖を起動させてしまった罪悪感に胸をしめつけられた。当時、武装組織「フィーネ」の一員として活動していたマリア、切歌、調の三人も、同じ一員であるはずのウェルによるノイズを使った虐殺を止めなかったことを自分たちの罪だと思っていた。

 

 しかし、様々な苦しみや悲しみを乗り越え、災厄にして人類の不和の象徴たるノイズを倒したことは、装者6人にとってはただの勝利では終わらず、もうノイズによって苦しむ人がいなくなるという喜ぶべきことであり、人類がバラルの呪詛を乗り越え分かり合う未来への第一歩のように思えたのだ。

 

 

 

 

 

 だが、現実は非常だった。全滅したと思っていたノイズは、まだ存在している可能性があったのだ。自分たちの、人類の宿敵の再来に、装者たちの気分は落ち込むばかりである。

 

 ギリッ…という音を立てて歯を食いしばり、クリスが苛立ち紛れにエルフナインに尋ねる。

 

「そもそも! 『かもしれない』ってどういうことだ!

 ノイズが出たら出たってザッパリズッパリ言えばいいじゃねぇか!」

 

 響が「クリスちゃん、また新しい言葉を……」とつぶやくが、質問に答える友里を含め誰も気にしなかった。

 

「実は、炭化した被害者は確認されているのですが、ノイズの姿自体は確認されていないのです」

 

「それって……」

 

「どういうことデスか?」

 

 友里の言葉に、調と切歌が疑問を覚える。ノイズは人間と接触することで、自らと人間を炭化させる。姿が確認できないのなら、どうして炭化現象が起きるのか。

 

 友里の言葉を聞き、首を傾げ始める装者たちを見て、無理もないかと弦十郎は思った。なにしろ、現地の一般人の一人が携帯端末で撮影した映像を先に見た彼らにとっても、そこに映っていたのは、ノイズの再来以上に信じられないものだったからだ。

 

 そんなありえない、いや、ありえてはいけないものなのかもしれない光景を見せて、装者たちに悪影響があるかもしれないと不安に思ったが、それでも真実を伝えなければいけない。

 

「それなんだが……」

 

 装者たちに例の映像を見せようとした弦十郎だったが、まるで狙っていたかのように警報が鳴りだす。こんな時に、と恨みがましく思う弦十郎だったが、すぐに指令を下せるように信頼できるオペレーターに状況を確認する。

 

「藤尭! 何が起こった!?」

 

「都内の大泉博物館地下にある聖遺物保管施設から緊急通信です! こ、これは……!」

 

「どうした!?」

 

 大泉博物館からの緊急通信と聞き、表面上こそ冷静だが、弦十郎の心のうちは焦りに満ちていた。

 かつての特機部二や深淵の竜宮以外にも聖遺物保管施設は存在しており、大泉博物館はその一つをカモフラージュするためのものだ。博物館は骨董品を扱うため、聖遺物を運び入れるにはいい隠れ蓑なのだ。

 とはいえ、ある意味とても分かりやすいカモフラージュなため、あまり価値がないと判断された聖遺物しか保管されていないはずだ。

 しかし、腐っても聖遺物。自分たちが理解していない価値を持つ聖遺物を、パヴァリア光明結社が奪いに来たと弦十郎は予想した。

 

 だが、事態は斜め上の方向へと向かう。

 

「お、大泉博物館の内部及び付近にノイズが大量発生! さらに何者かが侵入しているとの連絡です!」

 

「ノイズだとぉ!?」

 

 その報告を聞き顔色を変えたのは弦十郎だけでなく、装者たちもだ。彼女たちは藤尭に詰め寄り、詳細を聞き出そうとする。

 

「藤尭さん! 本当にノイズなのですか!?」

 

「ノイズっつっても、頭に『アルカ』がつかねぇ方だぞ!?」

 

「デスデスデース!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! この反応は確かにアルカ・ノイズじゃない! オリジナルの方だ!」

 

「師匠!」

 

 現れたのが、ついにその姿を再び見せてきた宿敵の方だとわかるや否や、響、翼、クリスの3人の装者たちの目は弦十郎の方を向く。今すぐ行かせてほしい、そう訴えてくる目だ。

 弦十郎はその目を見て、突然の警報に一時忘れさられた不安が再び胸にこみあげてくるのを感じた。ノイズが出現したということは、「あの少女」も出現した可能性が極めて高い。あまりに一瞬のことなので、見間違いかもしれない。しかし、もし自分の見たものが正しければ……

 

「……分かった。響くん、翼、クリスくんはヘリに乗って現場に急行! 現場につき次第、人命救助及びノイズの殲滅をおこなってくれ!」

 

「はい!」

 

「了解しました」

 

「おう!」

 

 だが、事態は一刻を争う状況なのだ。それに、幾度となく困難を乗り越えてきた彼女たちなら、ショックを受けたとしても必ず戻ってきてくれるだろうと、弦十郎は信頼していた。

 

 響、翼、クリスは、ヘリに向かうためにブリーフィングルームを退出していった。例え自分たちの前に再び現れようが、これ以上犠牲者を増やさせないという固い決意を持ち、三人は宿敵の待つ戦場へと駆け出していった。

 

(まだ無関係な人を殺そうってんなら、容赦はしねぇ!)

 

(地獄の底から戻ってきたならば、再び斬り伏せるのみ!)

 

(例え何度襲いかかろうとも、私はこの拳で何度でも戦ってみせる!)

 

 彼女たちはまだ知らない。ノイズとは何なのか。なぜノイズは命令されなくとも人間を殺すのか。そしてなによりも、彼女たちの「人を守ろう」とする決意(オモイ)よりも、はるかに強い呪怨(オモイ)を持つモノが敵だということに。

 

「……こんな時でも、私たちは戦うことすらできない……!」

 

「うがー! もどかしいデスー! 悔しいのデスー!」

 

 戦えないために残された調と切歌は、自分たちの無力にやるせない思いを抱いていた。マリアも同じ思いだが、この状況でも少しでも出来ることをなそうと、ドタバタで行方不明になっていた疑問について、改めて弦十郎に問いかける。

 

「結局ノイズが再び現れたことは分かったわけだけど、私たちにはほかにできることがない以上、話の続きを聞かせてもらうわ。

 どうしてノイズの姿が確認されていないのに、炭化現象なんて起きたのか……詳しく聞かせてちょうだい」

 

「……分かった。なら、まずはこの映像を見てほしい」

 

 弦十郎がそう言うと、スクリーンに当時撮影されたビデオが再生される。そこに映っていたのは、三人の想像をはるかに上回る、ありえないはずの光景だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「止まれ! 止まらんと撃つぞ!」

 

 大泉博物館の地下、聖遺物管理センターへの道の途中、そこで少女は黒服の男数人に銃を向けられていた。

 少女の傍には何体もの「しもべ」が控えており、少女はこの男たちをすぐさま始末することができる。

 

 男たちは少女に進むなと警告するが、そもそも少女は彼らの言葉を知らないし、仮に知っていたとしても人間を抹殺対象としてみている彼女は聞く耳を持たないだろう。

 少女は男たちの警告に構わず、目的のものがある場所へと進んでいく。

 

「撃てぇー!!」

 

 男の一人の叫び声とともに、何発もの弾丸が少女の命を奪おうと襲いかかってくる。

 それとほぼ同時、少女は「しもべ」に男たちを始末するよう命じ、しもべたちもまた弾丸のように男たちの命を奪いにかかる。

 

 弾丸が少女に迫ってきたが、彼女は「しもべ」の一体に盾になるようあらかじめ命令しておくことで、弾丸をすべて受け止めさせていた。本来なら攻撃されれば通り抜けてしまうはずなのだが、彼女の命令であれば位相をずらさせずに受け止めるようにすることも可能なのだ。

 

 一方、「しもべ」に襲われた哀れな男たちは、断末魔の悲鳴を上げながら黒く染まり、そして崩れ去っていく。

 命を散らしていく彼らの姿を、まるで道の邪魔でしかないと言わんばかりの目で彼女は見ていた。

 そんな残酷な光景が、ここ数十分のあいだで何度も繰り広げられていた。

 

 人間が立ちふさがるなら始末する。見たことのない扉があるなら、魂に刻まれた「杖」の力を応用し、向こう側に転移する。そんな感じで、彼女はどんどん進んでいった。

 外から人間が多数やってくるかもしれないが、そこには大量の「しもべ」を置いてきた。少なくとも目的のものを手に入れるまでの時間稼ぎになるだろうと考えている。

 

 そうして彼女は、炭素が宙を舞うこの空間を歩いていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 響たちが現場の上空に着いた時、大量のノイズたちが博物館の周りを取り囲んでいた。近くに人間はいないためか、今はただその場で突っ立ってるだけだ。しかし、このまま放っておいたら大惨事になるかもしれない。

 なにより、今この博物館には侵入者がいると聞いている。その侵入者がこのノイズたちを操っているなら、すぐにでもこのノイズたちをすべて倒し、その人物を止めなければならない。

 

 三人はヘリから飛び降りた。普通の人間なら大けがどころか死亡間違いなしだが、彼女たちはシンフォギア装者だ。落下している間に、三人はシンフォギアを起動させるパスワード――聖詠――を唱える。

 

 ――Balwisyall Nescell gungnir tron……

 

 ――そして三人は、シンフォギアを身にまとう戦士となる。

 

 

♫「激唱インフィニティ」♫

 

 

 三人が地面へと降り立った時、立花響は黄色と白を基調とした「ガングニール」、風鳴翼は青と白を基調とした「天羽々斬」、雪音クリスは赤と白を基調とした「イチイバル」と、それぞれのシンフォギアをその身にまとっていた。

 ノイズが三人の存在に気づいた時、既に彼女たちはノイズに攻撃を加えるべく駆け出していた。

 

 そこから先は、まさに彼女たちの独壇場であった。

 翼が剣で切り裂き、クリスが弾丸で撃ち抜き、響が拳で殴り飛ばす。位相差障壁により通常の兵器では歯が立たないノイズは、それだけで炭と成り果て消失する。

 

「解剖器官っていうやつがないから分かってたが、やっぱりコイツら……!」

 

「ああ! やはりバビロニアの宝物庫由来のノイズのようだ!」

 

 「BILLION MAIDEN」や「千の落涙」で迫りくるノイズを掃討しながら、炭と化すノイズを見て、クリスと翼は自分たちが戦っているノイズが、彼女たちがよく知るノイズであることを確信する。

 解剖器官という部位が主な攻撃手段となるアルカ・ノイズと違い、通常のノイズは触れるだけで相手に死をもたらす。それゆえに、威力よりもスピードを重視した攻撃を繰り出すことが多い。装者たちはバリアコーティングで炭化を防いでいるが、それでも素早いスピードでの突撃は高い威力を伴っており、無視することはできない。

 

 さらに、ノイズにも様々なタイプが存在するのも厄介な点である。ちょうどブドウのような姿のノイズが、その丸い部位を切り離して響に攻撃してきた。

 

「っ! よけろバカ!」

 

「!」

 

 クリスの声を聞き、響はブドウ型からの脅威に気づく。瞬間、切り離された部位が爆発する。響は直前にその場から跳ぶことで、ギリギリで回避できた。

 その後ブドウ型は、クリスの銃弾によって消し炭へと変えられた。

 

「ありがとう、クリスちゃん! おかげで助かったよぉ~」

 

「このバカ! 自分の周りにぐらい注意を払っとけ!」

 

「ご、ごめん……」

 

「しかし、立花の気持ちも分からなくはない。ハァッ! やはりアルカ・ノイズとは勝手が違う!」

 

 響とクリスが気の抜けた会話をする中、翼は「逆羅刹」で周りのノイズを切り裂きながらも、やりにくさを感じていた。つい最近まで戦っていたアルカ・ノイズと攻撃パターンが若干異なり、アルカ・ノイズとの戦いに慣れていた三人には少しやりづらい戦闘となっているのだ。

 

 ――いや、何かが違う。もっと別の理由があるように思える……。

 

 そう解釈しながらも、翼はどこか違和感を覚えていた。確かにアルカ・ノイズとは少し戦い方が異なるが、それだけでは説明のつかないなにかがあるように思えるのだ。

 

 ――いや、考えるのはよそう。今はノイズを倒すことのみ考えろ!

 

 しかし、風鳴翼は防人である。自分一人の疑問よりも、人命を脅かす(ノイズ)の早急な排除の方が重要だと割り切り、さらに追撃を加えようと奥にいるノイズの群れに向かって走り出す。

 

「遅れるな! 立花! 雪音!」

 

「はい!」

 

「おう!」

 

 そして、翼は「天ノ逆鱗」で、クリスは「MEGA DETH PARTY」で、響はバーニアの推力を生かし、右腕をドリルのように変形させて突撃することで、数えきれないほどのノイズを一気に消滅させた。

 

 これで、博物館の外にいたノイズはすべて消し去られた。だが……。

 

「くそっ、まだ奥からうじゃうじゃ来やがる!」

 

 なんと博物館の中からも、どんどんノイズが出てきた。外に出ていたノイズよりは少ないが、それでもかなりの数だ。

 

「……でも、これくらいどうってことないですよね!」

 

 それを見てもなお、立花響は不敵に笑ってみせる。これ以上に絶望的な状況など山ほど経験してきたのもあるが、それ以上に彼女の心を支えるのは、「分かり合いたい、繋がり合いたい」という想い。

 これらのノイズを操り、人命を脅かす人間は間違いなく「悪」と呼ばれるような人物だろう。しかし、どんな人間であろうとも、戦いではなく、言葉を交わし、分かり合うことで平和をつかみ取りたい。立花響のアームドギアは、まさに彼女の思いを体現したものだった。

 

 疲労が見え始めていた二人の表情も、響の言葉につられて少しゆるむ。

 

「確かに、これくらいは物の数ではないな」

 

「違いねぇ。まあ、さっきまで危なかった奴のセリフじゃねぇけどな」

 

「あ、あはは~……面目ない……」

 

 戦場だというのは、三人の様子はまるで日常の風景を見ているようだった。しかし、次の瞬間には顔を引き締め、新たなノイズの群れへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 人類の敵たるノイズと、「歌」の力で戦ってきた少女たちはまだ知らない。人間だという時点で、災厄の根源たる少女(ノイズ)と分かり合うことなどできないということを。そして、その力で彼女と戦うということの意味を。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 少女の心は、喜びに満ちていた。

 

 彼女の手にあるのは、小さな球体のような聖遺物である。ここでこれを研究していた人間たちにとっては、名前も由来も機能も解明されておらず、何の役に立つか分からないような代物である。

 しかし、聖遺物の機能や用途など、少女にとっては何の興味もなかった。肝心なのは、この中に確かに存在している「それ」なのだ。

 

 取り戻すことができた。それこそが、少女に心に歓喜をもたらしているのである。

 

 無論、「それ」を取り戻しても、奪われた悲しみや怒り、激しい憎悪が消えたわけではない。しかしそれでも、例え「それ」があまりにも変わり果て、もはや残滓としか呼べないものになっていても、取り戻せたことに感涙するほかない。

 

 ひとしきり声をあげて泣き、歓喜の涙を流した後で、彼女は聖遺物をバビロニアの宝物庫内にしまった。かつて彼女の墓場とされた場所は、いまや彼女専用の金庫、あるいは移動手段となっていた。

 

 

 

 ――しかし、まだ、である。

 

 

 

 彼女が感じた「それ」の反応は、まだ複数存在している。「それ」らすべてを回収し、あるべき地へと返還することが自分の最優先すべき使命であると、少女は確信していた。

 そして次の反応を感じた場所まで「杖」の力で移動しようとしたとき、彼女はようやく上で起こっている異変に気付いた。

 

 

 

 ――「しもべ」の数が、明らかに減っている。

 

 これは彼女にとって、ゆゆしき事態であった。今までは「しもべ」に対して有効打を持つ人間がいないことを前提として行動していたが、「しもべ」を打ち倒す人間がいる以上、彼女の計画の障害になりうる可能性が十分にあると考えたからだ。

 

 ――現に、志半ばで彼女が封印されたのも、「聖遺物」という超常の力を持つ人間に大した警戒をしていなかったせいだ。

 

 ゆえに彼女は、「しもべ」への有効打を持つ邪魔者はここで始末してしまおうと考えた。無論、油断を突かれないように全力で、だ。

 

 そして彼女は、「杖」の力で転移した。因縁浅からぬ「戦姫」たちのもとへ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……これで全部か」

 

「たく、手間かけさせてくれたもんだ」

 

「でもこれで、ようやく先へ進めますね」

 

 戦闘開始から十分ほど経過し、装者たちは襲いかかってきたノイズすべてを倒し終わった。昨日のようにイグナイトを使ったわけではないが、それでもここまで大量のノイズを相手にしたのは魔法少女事変の時以来かもしれない。

 一息つく装者たちに、司令部から通信が入ってきた。

 

『三人とも、ご苦労だった』

 

「師匠!」

 

「おっさん!」

 

「すみません、風鳴司令。予想外にも足止めに時間をかけてしまい……」

 

『いや、大丈夫だ。博物館地下の管理センターの特別避難通路から、研究者や博物館を訪れていた一般人が無事博物館の外へ避難してきたのは確認済みだ。

 それに、レーダーによると地下の聖遺物の反応はすべて無事だ。お前たちが謝る必要はない』

 

 少なくとも、一般人のあいだでは人死に出ていないということに、装者たちは少なからず安堵した。付け加えるなら、予想以上にノイズの数が多く、倒しきるのに時間がかかってしまったことに不安を覚えていたため、聖遺物がいまだ盗まれていないという言葉は装者たちの心に余裕を持たせてくれた。

 

 弦十郎からの通信に、翼が答えた。

 

「了解しました。それでは、私たちは地下の保管庫へ向かい、聖遺物の奪還を阻止します」

 

『うむ、たのん……何ぃ!』

 

「……司令? 司令! なにかあったのですか!?」

 

 弦十郎の言葉に驚きが混じったのを聞き、翼は動揺を隠すことができなかった。響やクリスも、状況が一変したような雰囲気に困惑する。

 

『……レーダーから、聖遺物の反応が一つ消えた』

 

「!? そ、それでは……」

 

『ああ……侵入者に強奪されてしまったようだ』

 

 弦十郎から告げられた事実を装者たちが聞いた時、クリスは表情は悔しげに歪ませ、翼は沈痛な面持ちとなり、響は落ち込んだ表情を浮かべた。

 三者三様に任務の失敗に気を取られる装者たちであったが、弦十郎の続けられた言葉を聞き、意識が引き戻された。

 

『だが、おかしい……。エルフナインくんの協力により、研究所全体はテレポートジェムによる転移は防止される構造へと作り替えられていたはずだ……。

 なぜ一瞬にして反応が消失したのか分からん……。まさか、彼女は錬金術師では――』

 

『司令! 装者三名の付近に生体反応が突如出現!』

 

『なに!?』

 

 弦十郎の言葉を遮り聞こえてきた藤尭からの悲鳴じみた報告に、装者たちは心臓をつかまれたような気持になった。

 藤尭の報告に弦十郎が反応した声が聞こえるか否かのタイミングで意識を戦闘時に切り替え、即座に攻撃に反応できるように戦闘態勢へと移る。

 そして敵を探そうと目を博物館の入り口に向けた時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が、あった。

 

 

 

 

 

 そこにいたのは、衣服とは言えないほどの粗末な布を身にまとう、異様な少女だった。

 布に覆われていないために衆目にさらされる肌は、泥やほこり、それに垢などで薄汚れているが、それでもなお彫刻を思わせるほどの美しい白を保っている。

 歳は17、18といったところだろうか。腰まで届く髪の色は明るい茶髪でウェーブがかかっており、瞳は黄金色に輝いている。その容姿と顔にどこかの誰かを思い出しそうだったが、雰囲気がまるで違うので二人には結局それが誰なのか思い出せなかった。

 

 

 

 

 

 が、そんなことは二人にとってどうでもよかった。

 

 少女の瞳を見てしまった彼女たちは、その瞬間に少女の中にある激情を悟ってしまっていた。

 人間を殺したい。消し去りたい。葬り去りたい。駆逐したい。滅ぼしたい。そんな人間に対するドス黒い負の感情が、少女の中で渦巻いていることを目を見ただけで察した。

 

 ――倒さなければならない。

 

 クリスと翼は、彼女の目を見て、すぐさま戦うことで止めることを決意した。

 今までの敵もそうだが、この敵だけは野放しにするわけにはいかない。自分たちの力でもってして彼女に勝利しなければ、人類が絶滅するかもしれない。いや、止められなければ、間違いなく人類は目の前の少女によって滅ぼされるだろう。彼女たちはそう確信した。

 

 二人は横目で相手を見合い、頷き合うことで、互いの目的が一致したことを理解した。そして響にも少女に注意するよう翼が伝えようとしたとき……

 

「あの、だいじょう……ぶ?」

 

「なっ……!?」

 

「あのバカ……!」

 

 なんと響は、戦闘態勢どころか警戒心すら解いた状態で、少女に話しかけていた。

 よく見れば目どころか全身から敵意満々な少女に、まるで幼子に話しかけるように向かっていった響に対し、クリスは響の場当たり的な行動に怒りを感じた。

 

 ――あの底なし沼の底も突き抜けるトンデモバカが……!

 

 一方、話しかける響に何の反応も返さず、少女は無言のままだった。

 そんな様子の少女に戸惑う響だったが、――いや、実は彼女の姿を視界に入れてからずっと戸惑いっぱなしなのだが――なんとか会話をしようと次の言葉を探す。

 

「えーっと――」

 

『響くん彼女から離れろぉ!』 

 

「え――」

 

 

 

 

 

 瞬間、響が吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 何の前触れもなく吹き飛んだ響を目にし、一瞬頭の中が白く染まる二人だったが、すぐに我を取り戻し、翼が響を受け止め、クリスが下手人たる少女に弾丸を撃ちだす。

 少女は右腕から突如出現した「それ」で、自らの命を脅かすはずだった弾丸を受け止めて防御する。

 

 「それ」が響への攻撃の正体だと察した二人だったが、「それ」をはっきりと視界にとらえた時、驚きのあまり息をのんだ。痛みに耐えながらも、翼の腕の中で目を開けた響も、自分の目の前で起こっていることが信じられなかった。

 少女の右腕から伸びている物体、「それ」は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ノイズ』……!?」

 

 

 

 

 

 そう、腕に合わせて形は若干変わっているが、その正体は「ノイズ」であった。

 人体に触れれば、接触している人間もろともすぐに炭化し、その命を奪うノイズ。そのノイズが、少女の右腕から、まるで染み出すようにして発生しているのだ。

 

 そんな光景、今までノイズというものがどれだけ人類にとって脅威なのか知っている三人からすれば到底信じられるわけがなかった。

 が、クリスと翼は、先ほど少女の目の中に見たものを思い出し、どこか納得がいったように感じた。人間に強い負の感情を持つ少女と、人間を殺すノイズ。動機と手段、そして目的がカチリとあてはまっている。

 

 しかし響は、いまだに目の前の光景から立ち直れない。信じたくないという目で、ノイズを腕にまとわせ、こちらを冷たい目で見てくる少女を見ることしかできない。

 そんな響をなんとか戦えるようにしようと、翼とクリスが発破をかけようとした時

 

 

 

(死ね)

 

 

 

 少女の体から数十体ものノイズが飛び出し、三人の命を奪わんと襲いかかってきた。




 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。突っ込みどころが色々多いと思いますが、そこはなにぶんご容赦ください。感想欄に、内容についてのご指摘があれば、ご質問に答える、または場合によっては修正するなどしていきたいと思います。
 ちなみに最初の事件での死亡者が一人と、主人公の負の感情に対して被害者が少なすぎるのは、彼女が「それ」に夢中になりすぎていたため、ノイズを出すことも忘れて退散したからです。そこまで彼女にとって重要な「それ」の正体については、長く連載するようでしたらそのうち出てくると思います。
 あと、前回「歌の起源」とか言っちゃいましたが、彼女の歌が聞けるのは最後らへんになったころの予定でした。ほとんどノイズで戦うものと思っちゃってください。でも歌に関係する技能なら次回お見せする予定です。

 時系列的には、3話と4話の間、つまりラピス・フィロソフィカスのファウストローブ及び局長の全裸お披露目前になります。戦闘描写はほぼ初めてでしたが、自分ではなんとかなった方だと思っています。まあ、主観的な話ですが(笑)
 主人公の容姿は文中で描写していますが……まあ……ご想像にお任せします(笑)だってこんなのしか思いつかなかったんですもの(´;ω;`)

 次回はビッキーたちと主人公の初バトルです。一応今回は早めに投稿できましたが、次回はいつになるか分かりません。投稿が忘れてしまうくらい遅くなってしまっても、どうかお許しください。

 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。最後は、AXZにならって書いてみたけど、中二病どころかアホ丸出しの次回予告で締めたいと思います。

 この小説を楽しんでもらえたなら幸いです。できればこれからも、この小説をよろしくお願いします。



 破滅を願う雑音は、歌女たちへと死の手を伸ばす。

 剣と銃は、人類を守るためにと災厄に向けられる。

 しかし拳は握られない。災厄の中にかいま見た「ヒト」と繋ぐための手だからこそ。

――EPISODE 03「奪われた歌」――

 シンフォニーを壊す雑音が、戦姫たちの希望を奪う。

 襲いかかる逆境に反逆する言葉は、未だここにあらず。

オリジナルキャラの挿絵などもあった方がよろしいでしょうか?(作者自身が描くが、画力は期待しない方がいいレベル。描くならペイントか手描きの二択)

  • 挿絵はあった方がいい(ペイント)
  • 挿絵はあった方がいい(手描き)
  • 挿絵はない方がいい
  • どちらでもよい

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