その少女は、災厄(ノイズ)であった   作:osero11

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 水着奏が超高難易度? ハハッ。なんの冗談ですかねぇ……?

 メリュデの過去編、その第5話になります。次の話で過去編は最後になります。
 次に投稿するのは、AXZ編の次章の予告(もどき)になりますので、過去編が完結するのはまだ後になります。ご了承ください。

 それでは、どうぞ。


第五章 最後の絶望と、災厄の生誕

 居場所も仲間も失った少女の心は、死んだ。そして、同族であるはずのルル・アメルに捕まり、改造されてしまう。

 死んだはずの彼女の精神が再燃したのは、なぜか。その理由を知る者はいない――

 

 

 

 

 

 

⁅ふむ、経過は順調のようだな⁆

 

 鎖によって吊り下げられ、虚ろな目をした五体不満足の少女から、自分たちが開発した兵器が生み出されるのを見て、満足そうな顔をする老け気味の男。

 彼の近くにいる痩せた男は、顔に笑みを浮かべながら自分の上司に説明する。

 

⁅実に素晴らしいサンプルでしたよ、彼女は。なにせ人の身でありながら我々では想像もつかないほどのエネルギーをもっているんですから。

魔力と呼ばれるものとはまた違ったものですが、これがかなりの変換効率でして……⁆

 

⁅ほう。そんなにいい素体だったのか⁆

 

⁅はい。正直なところ、どのようなメカニズムでエネルギーを集めているのか知りたかったところですが、何もわからず……⁆

 

⁅本人が自我を喪失しているんだ。意識して取った行動で集めていた場合、どのような方法で集めていたのか、など分からんだろうよ。

それよりも、兵器の母体として利用したほうがまだ役に立つだろう⁆

 

⁅……おっしゃる通りで⁆

 

 あくまで利益的な観点から物事を言う上司に対して、愛想笑いで返す技術者。

 彼にとっては、少女が膨大なエネルギーをどのように収集していたのかが、技術者として追求したい欲求があったため、内心では不満だった。

 

 『禁忌の地』を滅ぼし、心が折れて砕けてしまったメリュデを捕獲した彼らは、その身に宿る膨大な熱量に目を付けた。そして、彼女が自我と身体の自由を失っているのをいいことに、自分たちが作った、兵器を生み出す聖遺物を組み込んでしまったのだ。

 

 一方のメリュデは、もうなにも反応しない。聖遺物を体に埋め込まれる痛みにも、自分が見たこともない兵器の母体となってしまった事実にも、一切の感情の動きがなかった。

 それは、彼女の心が死んでしまったからだ。目の前で仲間を殺され、居場所を失い、そしてそれを自分の生だと思ってしまった彼女の精神は、もう現実にいることができないほど追いつめられてしまい、自壊してしまったのだ。

 

 悲劇に他ならなかった。ただ居場所を求め、繋がりが欲しかっただけの少女は、それをすべて奪われ、今や同族にさえ兵器の母体としてしか扱われていない。

 世界、いや人間の残酷さをまざまざと見せつけてくるような、惨い仕打ちだった。

 

 それでも、死んでもなお少女はまだ人間に対する優しさを捨ててはいなかった。

 彼女は知っていたからだ。どんな人間にだって、優しい面があるということを。そしてそれは、例え自分の居場所を奪った相手だって同じことだと、彼女は固く信じていた。

 

 

 

⁅これで、敵対勢力のルル・アメルどもも皆殺しにできるな⁆

 

⁅竜の力も使えば、さらに強力な兵器を作ることもできますね⁆

 

 

 

 その言葉を聞くまでは。

 

 

 

 

 

 

 ……………いま、なんていった?

 

 

 

 ルル・アメル(どうぞく)を殺す兵器? 私を使って?

 

 

 

 優しかった《仲間》の力を使う? 人殺しの兵器に?

 

 

 

 じゃあ、あの優しくしてくれた《仲間》たちがあんなふうに死んだのは、こいつらが同族を殺すだったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふざけるな。

 

 

 

 

 

ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな

ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな

ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな

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殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる

殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる

殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる

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殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる

殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる

 

 

 

 

 

 ベキン、という音を立てて、何かが割れる音がした。

 その音が聞こえた瞬間、自分を縛るものもなくなって、楽になった。今なら、目の前に奴らを簡単に《殺す》ことができるだろう。

 

⁅……い……。……て……⁆

 

 誰かの声が、聞こえてくる。よく聞きなれた、誰かの声が。

 

⁅お願い……。やめて……⁆

 

 違う。これは、まぎれもなく自分の声だ。どこまでも愚かな人間のことを信じ続け、そのせいで大切なものをすべて失い、挙句に同族を殺す兵器に改造された度し難い(じぶん)

 

⁅そんなことしても……誰も戻ってこない……だから……⁆

 

 ふざけるな!! じゃあ誰も戻ってこないとしても、このまま《仲間》たちの力が人殺しの兵器なんかに使われてもいいっていうの!?

 

⁅っ! それは……⁆

 

 もう分かっているよね? 人間のなかでの善とか悪とか、関係ない。そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 人間たちは、自分たちのために自然を破壊する。

 人間たちは、自分たちのために他の種族を迫害する。

 そして人間たちは、自分のために同じ人間すら殺しつくそうとする!

 そんな生き物が、どうして未来なんて作っていけるっていうの!?

 

 自分たち同士の殺し合いのために、あの場所を汚して、竜たちの命すら奪って、それを利用する! そのために、どれだけのものが犠牲になったのかッ……!

 

⁅でも……それでも……!⁆

 

 確かに、私が原因の一つかもしれない! でも、それは私が《人間》だからだ!

 だから、私は人間なんてやめる! 人間をやめて、この星を汚すルル・アメルを根絶やしにしてやる!!

 

 どうせ滅びる定めにある種族ならば、これ以上この星が壊される前に、この手でいっそ……!

 

⁅やめて! それだけは……!⁆

 

 ……今わかった。あの音は、お前と私が分かれた音だったんだ。

 人間を憎む私と、いつまでも人間なんかを信じ続ける愚か者が別れたんだ。

 

 でも、こうして私の方が体を動かせるっていうことは、お前の心にもう力は残っていないってことになる。

 そりゃそうだよ。あの優しい家族を殺され、他の村の連中には拒絶され、ようやく居場所と《仲間》を手に入れても人間どもに奪われたのに、人間なんかを信じ続けるお前の心が強さを持っているはずがない。

 

 ……これからは、《私》が生きる。だから、もう死んだお前はおとなしくしてろ。

 

⁅待って! (メリュデ)!⁆

 

 じゃあね、(にんげん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⁅ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?⁆

 

 メリュデがいる実験室、そこに、断末魔の悲鳴があがる。

 

 突然の異常事態にしりもちをついているのは、技術者の男。そしてその上司である男は、彼らが敵である人間を殲滅するために開発した兵器――はるかなる時の果てに、「ノイズ」と呼称されるソレに接触し、少しずつ炭素となって分解されていっていた。

 いま炭へと還っていく男の顔は、自分たちが作り出したものがどういうものか理解しているために、死への恐怖に歪み切っていた。先ほどまでの威厳もへったくれもない、生に執着する人間の姿そのものだった。

 

 このような事態は、()()()()()()()何の前触れもなく起こった。

 意思を完全に消失したはずの少女だからこそ、この兵器の母体とすることに問題はなかった。もしそうでなかったら、この少女は指一つ動かすことなく兵器を生み出し、目の前の彼らを殺すことなど造作もなくやってのけるのだ。

 これは、目の前にぶらさがった利益のみに目を向け、足元に空いた巨大な穴に気付こうとしなかった彼らの自業自得である。手負いの獣に対して何もできないと高をくくり、爪と牙を与えてしまった人間の愚かさが招いた事態というほかない。

 

 だが、この技術者はもしもの時のことも考えていた。

 彼は急いで、身に着けていた衣服の中から、拳大の機械を取り出す。この、現代で言うリモート・コントローラーの役目を持つ代物は、メリュデの中に埋め込まれた聖遺物のセーフティを起動させるための物だった。

 

 上司である男は手遅れだが、これで自分だけは助かる。内心快く思っていなかった上司が死に、自分は生き残れるという未来予想図に、ゆがんだ笑みを浮かべる顔とは対照的に彼の手はいったん止まる。

 だが、流石に猶予はないと感じた彼は、セーフティのスイッチを入れようと指をボタンに乗せ、力を籠めようとする。

 

 

 

 もし、この男に、他者を嘲るという『人間らしさ』がなければ、長き年月にわたり多くの人が死ぬこともなくなったのかもしれない。

 

 

 

 ほんの一瞬、その一瞬がすべてを分けた。

 勢いよく跳んできたノイズが彼の腕に接触し、半ばから炭となって落ちた。

 

⁅あああああああああ!! 僕の腕があああああぁぁぁ!!⁆

 

 上司同様、自分に起きた災難に悲鳴を上げる技術者。腕のあったところを抑えて、転げまわることしかできない。

 彼の失われた手に握られていた機械は、ボタンに指が載せられたまま転がっていたが、やがて指まで炭素分解が広がったことで、そこにはわずかばかりの炭しか残らなくなっていた。

 

 絶叫する大のおとな二人。自分勝手な人間たちの合奏曲は、あまりにも不快で、聞いているのが嫌になるほどだった。

 

 ()()()メリュデだったら、この光景に悲しみを覚え、胸を痛めたことだろう。それが自分のなしたことだとしたら、なおさら痛みは増すことだろうと想像は付く。

 しかし、今の()()()()()()()()ノイズの少女は、この残酷な光景に暗い笑みを浮かべるだけだ。

 

 やがて、技術者の男も、上司の男も、ノイズの少女が生み出した、彼女に忠実なしもべに襲われ、何体ものソレに包まれながら炭素となって分解されていく。

 本当なら一瞬で終わるはずの分解は、じっくりと時間をかけて行われた。まるで、そうすることで《仲間》が味わった苦痛を清算させるかのように。

 

 やがて実験室に、大きな炭の塊が二つできた。ノイズの少女は、それを冷たい目で見ながら、作り出したしもべに命じて鎖を取り外させる。

 まもなく鎖は外されるが、その瞬間地面に落ち、地面を這いつくばることになる少女。その時、彼女はようやく自分が右手と両足を失ったことを思い出した。

 

「…………………………」

 

 彼女は目を閉じて、意識を失った四肢へと集中させる。すると、右腕の断面と、ずたぼろになった足の隙間から、サイケデリックな塊が出てきた。

 少女の赤い肉から出てきたはずなのに奇妙な色をしているソレらは、すぐに周囲の肉を巻き込んで赤黒く染まり、やがて人間の肌のような色になった。

 

 ノイズの少女は、まるで再生したかのように見える足を地面につけ、立ち上がってみようとすると、さっきまでボロボロだったはずの両の足で地に立つことに成功した。さらに、右腕の形を成したものを動かしてみると、失う前の腕と遜色ない様子で動いた。

 ノイズを作り出すのを応用して、そのエネルギーを手足の形に固定、その後ほんらいの肉体に馴染ませることで、少女は失った四肢を再生させたのだ。もちろん、それだけではうまくいかないのだが、いまや少女が人間と聖遺物との融合症例だからこそ、こんな離れ業を可能としてくれたのだ。

 

 ノイズの少女は、完全にとは言えないが、もはや人間とは呼べなくなってしまった。

 そして彼女は、人間への憎悪をたぎらせた暗い炎を瞳に宿し、ふたたび人間の世界へと踏み出す。前とは全く別の存在へとなり果てて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、とある先史文明期の都市が、一つ滅びた。

 住民全員が姿を消し、残るものは黒い炭ばかりだったという――

 

 

 

 




 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 ご感想お待ちしております。次回もよろしくお願い申し上げます。

オリジナルキャラの挿絵などもあった方がよろしいでしょうか?(作者自身が描くが、画力は期待しない方がいいレベル。描くならペイントか手描きの二択)

  • 挿絵はあった方がいい(ペイント)
  • 挿絵はあった方がいい(手描き)
  • 挿絵はない方がいい
  • どちらでもよい

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