その少女は、災厄(ノイズ)であった   作:osero11

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 更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。モチベーションが少し下がってしまったのと、私用で忙しかったためです。すみません。
 これからは、ますます更新が遅くなってしまうかもしれませんので、どうかご了承ください。

 過去編なんか見たくねぇ! 早く続きかけ! という方もいらっしゃるかもしれませんが、過去編はメリュデにとって結構重要ですので、どうかお許しください。予告なら書けないこともないのですが……。

 それでは、どうぞ。


第三章 受け入れし竜たち

 一体、いつまでこの旅を続けるのだろうか

 メリュデは、砂嵐吹きすさぶ荒地を歩きながら、朦朧となる意識の中、そんなことを思った。

 

 自分の村を無くしてから、長い間放浪し続けた。自分を受け入れてくれる場所を探して。

 相互不理解により、信じられないと言われて石を投げられたこともあった。一時は受け入れてくれた村もあったが、一晩が関の山だった。

 

 彼女はもう、精神的にも肉体的にも限界だった。

 自分がいてもいい場所を探して彷徨ってきたが、どこにもそんなものはないようにすら感じる。人とのつながりを求める少女にとって、これは辛いことだった。

 

(……もう、いいかな)

 

 疲れた頭に、ふと諦めが浮かんでくる。旅の途中から考え方が変わったとはいえ、拒絶され、敵意ある視線を向けられ、嘲笑さえされ続けた彼女の心は、すでに擦り切れようとしていた。

 

(……もう、いいよね)

 

 そのままどさりと、地面に倒れる。これ以上、頑張ることは不可能に近かった。

 目に涙を浮かべながら、ゆっくりと閉じていく。そうしてしまえば、失ってしまった家族に会えるような気がして。

 

 旋律の少女の命は、今まさに尽きかけようとしていた。

 

 

 

 

 

 だが、この星がそんなことを許すことはずがなかった。

 

 

 

 

 

 彼女の上空から、ナニカが降りてくる。ソレは少女のすぐ前に降り立ち、彼女をじっと見つめ始めた。

 何かを確かめるかのようにすんすんと臭いをかぐ、ワイバーンのような姿をした生き物。はたから見れば、少女のことを餌だと認識しているようにも見える。

 

 その竜は、鋭い鉤爪が付いた足で彼女を掴むと、翼を広げ、どこかへと飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⁅……んぅ……⁆

 

 メリュデは、閉じていた眼をゆっくりと開いていく。

 もしかしたら、家族と同じ場所に逝くことができたのかもしれない。一瞬そう思ったが、なんとなくそうではないことを感じ取った。

 

 しかし、周りの景色は、まるで彼女の故郷のように、いや、それ以上に緑あふれる場所であった。

 木々は塔のように高く、それでいて地面に生えている植物にも日の光がしっかり届いている。上の木が、下の草にも光が届くように分け与えているように見える。

 近くにある湖からは、水があふれ出ているだけでなく、今まで嗅いだことのないようないいにおいを漂わせている。

 それは地面に落ちた木の実も同じで、甘く芳醇な香りが食欲を刺激する。

 

 もしこの世に『楽園(エデン)』というものがあるとしたら、まさにここがそうであると大多数の者が口をそろえて言うだろう。それほどの場所だったのだ。

 

 メリュデは、最初は景色の変化に戸惑っていたが、やがて自分が空腹であることを思い出すと、近くに落ちていた赤い木の実を恐る恐る手に取り、かじりつく。

 その木の実は、今まで食べたことがないほど濃厚な甘みで、それでいて爽やかな味わいをしていた。そのあまりのおいしさに、メリュデは一心不乱に食べ続けた。

 やがて一つ食べ終わると、次の違う木の実に目が移り、そちらの方を手に取り、口をつける。今度の黄緑色の果実は、さっきの赤い木の実と同じようでまた違う風味があり、うまさの虜になっていたメリュデは無我夢中で食べていく。

 

 こんな調子で食べ続け、ある程度腹を満たしたメリュデは、無性に水を飲みたくなったので、近くの湖に口を付けた。水もまた、彼女の舌を喜ばせるに足る味で、彼女の脳内を幸せで満たしていく。

 人との付き合いを求めてきたメリュデであったが、この旅路は数々の困難が伴うものであり、ここまで満たされたものを感じることはなかった。だからこそ、メリュデはこれほどまでの幸福を夢だと思い、彼女は思うがままに目の前の自然の実りを口にしていく。

 

 しかし、夢もやがては覚めるもの。

 水を飲み続けたメリュデは、ふと水面から顔を離して呼吸したときに、自分以外にも水を飲んでいる者がいることに気づいた。

 

 それは、竜だった。かつてカストディアンと戦いを繰り広げた、その尖兵。

 その竜は、まるで狼を連想させる姿をしていた。全体的に蒼い毛で覆われた体からは、角や腕など、ところどころに黄色い外骨格を覗かせていた。その目は鋭く、その目で睨まれたら心臓が止まってしまうかもしれないと思うほどだ。

 

 しかし、メリュデはそんな竜に対して、全くと言っていいほど恐れを抱いていなかった。

 それは、この竜が自分を襲うことはないと直感したためか。それとも、長きにわたるたびにより自分の生に無頓着になったためか。

 いずれにしろ、彼女の一族が自然との調和を志していたこともあってか、メリュデは竜を恐れなかった。

 

 やがて、竜の方も、少女が自分の方を見ていることに気づく。

 竜はメリュデの方をしばらく見つめた後、彼女に背を向けて森の奥へと姿を消していった。

 

 なんとなくだが、ここに連れてきたのはあの竜の仲間であることをメリュデは理解した。でなければ、この状況を説明できそうにないからだ。

 実際に見たのは初めてだが、竜のことは彼女の家族が存命だったときに聞いたことがあった。竜は、かつてカストディアンと敵対しており、そのため彼らの代行者だったルル・アメルも快くは思っていないとのこと。

 そんな竜たちが、忌み嫌っているはずのルル・アメルである自分に、あんなに穏やかな視線を向けるなんて、不自然だ。彼女がいた場所から移されていることも考えると、竜の方からメリュデをこの場所に連れてきたと考えるのもおかしくはなかった。

 

 無論、なぜ自分が連れてこられたのかという疑問はあるが、それは話が通じない相手である以上分からないことなので、置いておくことにした。

 それよりも彼女は――相手が人間ではないとはいえ――「居ることを許された」ことが、心の底から嬉しかった。今まで存在を否定されてきた彼女にとって、この竜による招待は至上の喜びを与えてくれるものだった。

 

 そしてメリュデは、今までの旅の疲れと悲しみをいやすかのように、深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 竜が住む地に連れてこられてから数日、彼女はそこから大きく動くことはせず、自然の恵みに感謝しながら過ごしていた。

 あれから、何体かの竜が湖を訪れたが、どの竜もメリュデを敵視するようなことはせず、優しい目を向けてくるだけで水を飲んでから立ち去っていくばかりだった。

 

 少しずつだが、この地のことをメリュデは少しずつ理解し始めていた。

 この地でも食物連鎖は存在しており、草は一部の竜やその他の動物達が食べ、その動物たちを肉食の竜が捕まえ、喰らう。そこだけ見れば、他のところとそう変わらない。

 だが、喰らう方はおろか、()()()()()()()()()()()()()()()、その捕食関係を受け入れているようなのだ。

 

 普通の場合、動物は天敵に遭遇した時、食われまいと必死になって抵抗する。己の足、あるいは角、あるいは毒、それら自身が持つ全てを使い、抗い、時には反撃し、自身の身を守ろうとするはずなのである。

 しかし、ここの生き物たちは、食われる時でさえ全くの抵抗を見せない。まるで、自然の摂理を受け入れるかのように。自身が食われ、存在が無くなった後でさえも、《先》があるかのように。

 

 ここの、竜を含む動物たちは知っていた。命とは、流転するものであると。

 例え一つの命が消えたとしても、その命は次の命へと繋がり、その繋がりが消えない限り命は続いていくことを、彼らははっきりと理解しているのだ。その繋がりが、自身の命を奪うことになるものだったとしても、彼らはそれを受け入れることができるのだ。

 そして食う方もまた、そのことを理解している。理解しているからこそ、必要最低限の数しか食さないようにしている。彼らの理解によって、このサイクルは保たれていた。

 

 それは、まるで一つの命の中で、生命が循環しているようだった。自身という個体を自然環境の一部とすることで、己を理解し、相手を理解し、命のやり取りすら当然のこととして受け止めている。彼ら一体一体が大自然を構成しているように、彼らの心もまた一つとなっているようにメリュデは感じた。

 そして、これこそが自分の家族たちが求めてきたものであると彼女は理解した。命のやり取りまで受け入れることができないだろうが、それでも自然と調和し、一つになって互いを理解するというのは、こういうことなのだろうとメリュデは思った。

 

 自分も、このサイクルに命をささげることはできないかもしれない。しかし、ここに連れてきて、悲しい一面も持つけれども美しい光景を見せてくれた竜たちに、メリュデは感謝した。

 何よりも、こんなにも互いを理解しあうことができる場所に、自分の居場所を与えてくれたことが、喜びとして彼女の心に何よりも響いた。

 

 だからこそ、彼女は奏でる。自分に「居てもいい場所」をくれた生き物たちに感謝を伝え、そして自身の心の底から湧き出る喜びを顕した旋律を。

 

 

 

 ――a~~~~~~~♪

 

 

 

 彼女のヴォカリーズとともに、地中に流れる生命もまた喜びに打ち震え、その感情は地上の植物や動物にエネルギーとともに伝わっていく。

 木々はざわざわと心地よい音を奏で、水はちゃぷんとリズムよく波紋を作る。鳥や草食動物、果ては竜に至るまで、全ての生き物が彼女の声に共鳴するように声を鳴らす。

 

 それは、非常に美しい旋律だった。メリュデの声を中心に、自然がありとあらゆる音楽を奏で、調和し、全てを昇華していった。

 

 メリュデの歌は、まさに音で楽しませるものだった。

 彼女の旋律は星をも喜ばせ、星と調和している生き物たちにも幸福を与える。そして、みな彼女の歌に共振して、それぞれの音楽を響かせて合奏曲を作り上げる。

 

 これこそが、歌の始祖から生まれいでた、始まりの歌。星の鼓動にすら響き渡る、美しき調和の旋律。

 カストディアンすらも知らない音楽を、彼女は奏で続けた。




 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。ご感想をお待ちしています。

オリジナルキャラの挿絵などもあった方がよろしいでしょうか?(作者自身が描くが、画力は期待しない方がいいレベル。描くならペイントか手描きの二択)

  • 挿絵はあった方がいい(ペイント)
  • 挿絵はあった方がいい(手描き)
  • 挿絵はない方がいい
  • どちらでもよい

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