その少女は、災厄(ノイズ)であった   作:osero11

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 前回の私からの相談に対してご意見を出してくださった皆様、ご協力ありがとうございました。
 考えた結果、やっぱり地の文での説明にとどめる形にしました。状況の説明としては不足しているかもしれませんが、ご了承ください。

 今回は長めなようで、内容は大したことないかもしれませんが、よろしくお願いします。

 それでは、どうぞ。


神を喰らう

 ――奴らが現れた。喰らわなければ――

 

 

 

 

 

 

 愚者の石による対消滅バリアと絆のユニゾンにより、錬金術師カリオストロとプレラーティを撃破した装者たち。しかし、賢者の石の力を愚者の石にて中和させた際に生じたコンバーターユニットへの障害のため、錬金術師を倒したマリア、クリス、翼、調がギアを使えない状況となってしまった。

 

 そんななか、パヴァリア光明結社の「神の力」を顕現させるための儀式は最終段階に入る。

 同志二人を失っても止まることのできないサンジェルマンは、ついに自身の命を生贄にして地上にある「神出ずる門」――地上の、鏡写しのオリオン座を利用してレイラインからエネルギーを抽出、ティキを依り代として、神の力を具現化させようとする。

 

 しかし、S.O.N.G.や日本政府だって手をこまねいているわけではない。「神出ずる門」が開かれたのを確認してから、レイラインの安全弁である要石を起動させ、見事儀式を中断させてみせた。

 そしてサンジェルマンと、残った装者である響と切歌との戦いが始まる。犠牲にしてきた者たちがいるからこそ、ここで立ち止まるわけにはいかないと、不退転の覚悟を以て装者たちに対して優位に立つサンジェルマン。しかし、絆のユニゾンの前に敗れ、膝をついてしまう。

 

 誰の胸にも、自分と同じ、踏みにじられる想いをしてほしくない。いや、させてたまるか。そんな想いで戦い続けてきたサンジェルマンに、力だけでは解決できないこともあることを知っている響は、今まで握ってきた拳を開いて手を差し伸ばす。

 響なりのやり方に、それまでの世界の在り方を変える可能性を感じたサンジェルマンは、彼女の手を取ろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、どこまでも現人類を下だと見下す彼は、それを茶番だと嘲笑う。

 

 

 

 

 

 そこに現れたパヴァリア光明結社の首領、アダム・ヴァイスハウプトは、錬金術のマクロコスモスとミクロコスモスの思想を用いて、天のオリオン座を地上の「神出ずる門」と照応するもう一つの「神出ずる門」として見立て、自身の魔力の大半を贄として捧げ天のレイランから抽出したエネルギーを、依り代となるティキへと注ぎ込んでいく。

 こんな力で本当に世界を救えるのかと糾弾するサンジェルマンに対し、アダムは人類を救うために使うつもりはないと語る。我々を騙していたのかと激昂する彼女を、すでに神の力を手に入れたがために、さっそくその力を使い、始末しようとするアダム。

 

 強大すぎる力が放たれたが、切歌の命がけの絶唱により、他の者たちは難を免れた。だが、多くのLiNKERを用いて負荷を軽減したとはいえ、それでも軽くない絶唱のバックファイアとLiNKERの薬害により、これ以上の戦闘はできない状態になってしまった。

 神の力を手にし、自身も圧倒的な魔力を持つアダムに対して、追い求める理想は違えど、共通の倒すべき敵に向き合う二人は肩を並べて立ち向かう。その心に、逆境にあらがうための言葉を宿して。

 

 

 

 

 

 

 だが、ここに現れようとする災厄に、誰も気づくことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――奴らからこの星を守ることこそが、我らの役目――

 

 

 

 

 

 

「思い上がったか? どうにかできると。二人でなら」

 

 そう言いながら余裕の表情で、響の猛攻とサンジェルマンの援護射撃をかわしていくアダム。さすがは異端技術を扱う結社を統括するほどの人物であり、熟練の錬金術師と突発力あふれる装者の二人を相手にしても余裕の表情だ。

 

 だが、油断が過ぎたのだろう。いなしているうちに木の幹に足をつけたところ、サンジェルマンの銃弾を足元に撃ち込まれ、そこから青い雷が立ち昇った。

思わぬ攻撃に、気を取られてしまうアダムに対し、歌いながら腕のパワージャッキを最大まで引き伸ばし、響は強烈な一撃をお見舞いした。背後の木は粉砕され、結社の統制局長は吹き飛ばされていく。

 

 自分たちのコンビネーションが上手くいったことに笑みを浮かべる二人。そのまま神の力の依り代となっているティキを破壊するために動き出す。

 響は腰のバーニアを吹かして上空に跳び、サンジェルマンは錬金術を活かした銃弾で、彼女が足場にするための錬成陣をいくつも構築していく。そして響は、神の力に向かって接近していく。

 

「させはしない、好きに!」

 

 だが、戻ってきたアダムの、風を纏った一撃で妨害される。風圧に踏みとどまれずに吹きとび、地面へと落ちていく響をサンジェルマンが受け止める。

 

「僕だけなんだよ、触れていいのは! ティキのあちこちに!」

 

『メガミンズッキュ~ン!!』

 

 アダムの言葉を恋愛的な意味で解釈したティキの心は跳ね上がり、心なしか相対する二人には、神のエネルギーを吸収する速度が速まったようにも見えた。

 

「このままじゃ……」

 

 現状を何とかしないといけないと思いながらも、未だ打開できない状況に歯噛みする響。そんな彼女たちをあざ笑うかのようにアダムが鼻で笑う。

 

「ですが局長、ご自慢の黄金錬成は、いかがいたしましたか」

 

 だがそれも、サンジェルマンからの指摘で笑みが消えていく。

 

「私たちに手心を加える必要もないのに、なぜあのバカ火力を開帳しないのかしら?」

 

 不敵な笑みを浮かべたサンジェルマンの問いかけの体を為した確信に、アダムは舌を打った。

 

「天のレイラインからのエネルギーチャージは、局長にとっても予定外だったはず。

 門の開放に消耗し、黄金錬成させるだけの力がないのが見てとれるわ」

 

 そう、本来なら地上の「神出ずる門」を開くために、数万人に及ぶ生贄をエネルギーとして変換し、「神」の力を手に入れる儀式に用いるはずだった。

 しかし、S.O.N.G.の策により地上からエネルギーを取り出すことができなくなったため、アダムは自身の魔力の大半を引き換えにして天の星々から命を集めなくてはならなくなったのだ。

 

 数万人の命に匹敵するほどの魔力。それは恐るべき脅威ではあったが、逆を言えばそれを失った今こそが彼を倒す最大の好機なのだ。

 

「……聞いていたな?」

 

「はい!」

 

 そしてそれを理解した響は、サンジェルマンとともに次の攻撃を仕掛けようとする。

 だが、突如として二人とアダムのあいだの空間がゆがみ、そこから人影が出てくる。そこにいたのは――

 

「なにっ!?」

 

「あれは――」

 

「……うそ?」

 

 災厄の、少女であった。

 

 

 

 

 

 

 ノイズの少女が現れたのは、彼女の中にある「リュウ」の力が、「神の力」に反応したからだ。カストディアンに対して長きのあいだ戦い続け、「神殺し」の性質すら手に入れるほどの因縁を築いた「リュウ」は、例え欠片であろうとも少女の精神に影響を及ぼすほどには「神」を滅ぼさんとする強い意志を宿していた。

 

「そんな!? どうしてあの子がここに……?」

 

「偶然にしては、都合が悪すぎる!」

 

 ノイズの少女の出現に、動揺する響と歯ぎしりするサンジェルマン。ノイズ・アーマーを知っている人間と、知らずともノイズで炭化する可能性がある人間としては当然の反応だった。

 しかし、アダムは逆にこれを好機としたのか、再び余裕の笑みを浮かべて語る。

 

「とんだお客さんだね、こんな時に。じゃあ君たちに相手してもらおうか、乱入者のね」

 

「! ずいぶんと余裕そうだけど、そちらも炭化する危険性がある以上、はやく始末したほうがいい相手じゃないのかしら」

 

「関係ないよ、ノイズなんて。僕にとってはね」

 

「それはどういう――」

 

「サンジェルマンさん! あの子の様子が変です!」

 

「何――?」

 

 響の声に反応してノイズの少女の方を見ると、確かに変だ。彼女は、こちらを見向きもせず、ただ天のレイラインから供給されるエネルギーを一身に受けて、神の力の依り代となろうとしているティキをじっと見ている。ノイズと同じく人間を見つけ次第襲い掛かってくると見ていた少女の行動としては不自然だった。

 響もまた、彼女がこのような態度を取るのを見たのは初めてではないが、それは聖遺物を回収することを目的としていたからだと知っており、聖遺物が特にないこの場で、彼女がそのような反応をするのに違和感を覚えていた。

 

 人間をまるで無視しているノイズの少女。その反応に誰もが疑問を抱いた時、少女は思いもよらぬ行動を取る。

 なんと、「神の力」として完成しつつあるティキに向かって歩き出したのだ。これには高をくくっていたアダムも驚いた。なにせ、少女は人間を殺すことにしか興味がないと思い込んでいたから。

 

「何が目的かは知らないが、手出しはさせないよ。ティキにはねえ!」

 

 自身が千年以上ものあいだ求め続けているものに危害を加えようとする相手に対し、本気になった表情を見せながら攻撃を仕掛けるアダム。錬金術師によって作られた炎が放たれ、少女に着弾したかのように見えた。

 だが、立ち込める土煙の中には、確かに人影が見えたのだ。

 

「なんだとっ!?」

 

 アダムが驚くのも無理はない。自身の攻撃に無事であるばかりか、彼が見たこともないプロテクターを纏った少女の姿が見えたのだから。ノイズから作られたプロテクターを纏った彼女は、そのままティキに向かって歩み続けていく。

 錬金術師リリスと装者たち。二度の戦いを通じてノイズ・アーマーの扱いに慣れた彼女は、いまや僅かな時間でアーマーを展開できるようになっていた。

 

「バカな! 局長の攻撃を受けて無傷なわけが……」

 

「サンジェルマンさん! それはあのプロテクターの効果です!

 ノイズの何倍も強力な位相差障壁で攻撃を通じないようにしているらしいです!」

 

「なに!? だけど、ノイズの位相差障壁ごときで局長の攻撃を……いや、並大抵の出力でなければ、確かにその可能性もあるわね」

 

 響の説明を、自分なりに解釈するサンジェルマン。普通のノイズの位相差障壁では防ぐことのできない威力を持つアダムの攻撃も、あのアーマーの出力が防ぐことができるほどの障壁を展開させていると想定すれば、ありえない話ではなかった。

 

「なら力を見せつけてやればいい、単純明快にねぇ!」

 

 それをアダムは、さらに出力を上げて攻撃することで対処した。「神の力」降臨の代償としたために、一番の大火力である「黄金錬成」が使えないまでに魔力を消耗しているが、それでも繰り出される技の威力は結社のどの錬金術師よりも上である。

 力押しという単純な戦法。だが、結局のところ、それが正解なのだろう。シンフォギアによる「調律」と似たような効果を付随された錬金術の攻撃は、ノイズ・アーマーに守られているはずの少女を後ろに下がらせた。

 

「リリスからもらった君の資料を読んでおいてよかったよ、一応ね。

 だけどノイズを身に纏おうとも、僕には及ばない。どう足掻こうと」

 

 アダムは宙からノイズの少女を見下ろしながら、所詮は大したことないと述べる。

 確かに、攻撃の衝撃で少し後退させただけとはいえ、装者6人がかりでやっと攻略できたプロテクターに通じていることには通じている。流石に、パヴァリア光明結社を束ねるだけの実力があると言っていいだろう。

 

 

 

 ――だが、今の彼女の力は、もはや留まることを知らない。

 

 

 

「がああああああああああああ!!」

 

 突如として雄たけびを上げる少女。この声に呼応するかのように、様々な色に彩られたアーマーが明度を失い、黒へと変色していく。

 そして、そこにはさらなる進化を遂げたノイズ・アーマーがあった。全体的な色は黒へと変貌し、コアのような部分は赤く染まっている。その姿は、まるでイグナイトモジュールのようであった。

 

 

 

「やはり、イグナイトの力をも手中に収めてきたか……!」

 

「カルマノイズのような配色、黒く染まったプロテクター……さしずめ、彼女用のイグナイトといったところかしら」

 

 司令部でも、戦いの状況は把握されていた。敵の狙いは看破していたため、どの場所で最後の儀式が行われるかも知っていたがためにできた対応だ。

 だが、統制局長であるアダムはともかく、ノイズの少女の出現は全くの誤算であった。

 

「しかし、三つ巴の状況になったのは、ある意味僥倖なのか……?

 あの少女の狙いは、どうやら『神の力』にあるらしい。こちらに積極的に攻撃してこない以上、逆にアダムのスキを狙える可能性が……」

 

「僥倖だぁ? アイツが『神の力』を手に入れたら、それこそ最悪の状況だぞ!」

 

 クリスのいう事ももっともである。現在人類全体の強大なる脅威である少女が、この上さらに神に匹敵する力を手に入れることの方が、アダムの手に渡ることより危険だと断じてもおかしくはない。

 

「それは分かっている。だが、錬金術師ではないと思われる彼女が、はたして『神の力』を手に入れることができるのだろうか?」

 

「……確かにそれもそうだな」

 

「だとすると、彼女はいったい何のために?」

 

「……『神殺し』。その可能性もあるな」

 

 マリアの疑問に予想外の答えを出した弦十郎の方に、装者たちは驚いた視線を向ける。

 

「『神殺し』!? いきなりなんだってそんな話になるんだよ!?」

 

「『神の力』を手にすることが目的でないとしたら、滅ぼすことを目的としてあの場にいるのかもしれん。その行為が、『神殺し』であるがゆえに取られた選択だとしたら……」

 

「なるほど、確かに根拠はないし、論理も飛躍しているけれど、全く考えられない訳ではない。少なくとも、『神殺し』がないとされている現状ではね……」

 

 そう言って、不安な表情を浮かべるマリア。結局、『神の力』への対抗策を持たないまま錬成を許してしまっている現状では、ノイズの少女に『神殺し』が宿っていると期待してしまうのも仕方がないかもしれない。

 

「いずれにしろ、今の状態で少女Vと戦闘をおこなうのは得策ではない。

 少女Vに気を取られているアダムのスキを、全力で狙え! 首領であるアダムを倒せば、『神の力』錬成も止まるかもしれん!」

 

 

 

「くそっ! なるんじゃないぞ、いい気に!」

 

 先ほどまでは多少なりは通じていた攻撃が、イグナイト状態のノイズ・アーマーに対し全く通じなくなっていることに、アダムは憤りを隠すことができない。もはや彼には、『神の力』を収束している途中のティキに近づいていくノイズの少女を止める手段がなかった。

 

 徐々に焦りを見せていくアダム。ノイズの少女にばかり気を取られているがために隙だらけな状況を、サンジェルマンからの攻撃が襲ってくる。

 

「通じるものか、その程度!」

 

 だが、腐っても強者であるアダムは、自身の武装である帽子を投げて対処する。炎を纏いながら回転する帽子は、蒼き竜の姿を取った銃弾と衝突し、一方的に相手の攻撃を蹂躙する。

 アダムの手に戻ってくる帽子。爆発する竜。だが、それは囮であった。蒼き竜の爆発の中から響が飛び出し、大きく展開させた右腕のアームドギアのブースターを吹かせながら、アダムを狙い撃つ。

 

 だが、響の善力の一撃を、アダムは片手で受け止める。ブースターを全力にしても、左手で防御されているだけでピクリとも動かない。

 しかし、この攻撃すらも、こうなることを見通した囮でしかなかった。

 

「だとしても、貫く!」

 

 響の声とともに、二人の更に上空から、スペルキャスターを銃剣へと変化させたサンジェルマンが、伸ばされたアダムの左腕を狙い急降下する。

 

「つええええええぃ――ッ!!」

 

 掛け声とともに、強力な一閃がアダムの腕へと振り下ろされる。流石のアダムと言えどもこの一撃は効いたようで、うめき声をあげながら後退する。

 

「今だ、立花響! ティキが『神の力』へと至る前に!」

 

 サンジェルマンからの呼びかけに従い、響はティキの方へ向かおうとした。だが、脚を止めざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 地に降りてきたアダム、その切り裂かれた左腕の傷口から、スパークと機械部品が見えてしまったのだから。

 

 

 

 

 

「錬金術師を統べるパヴァリア光明結社の局長がまさか……」

 

「人形!?」

 

 

 

 

 

 

 彼女はイグナイトの力を、完璧ではないとはいえ制御できていた。

 すべてを破壊しようとするダインスレイフの呪いを、対象を人間のみと絞ることで、自身の一部として受け入れ、コントロールしているのだ。

 

 そんな彼女が、怨敵である人間すら無視して「神の力」に一直線に向かっていく理由。それは彼女の中にある「リュウ」の力に他ならなかった。

 例え僅かな力でも、旧支配者の存在を許してなるものかという強い意思が、彼女を操るように突き動かしていたのだ。

 

 そしてついに、天のレイラインから地へとエネルギーが降臨し、ティキに注ぎ込まれて「神の力」として完成しつつある、まさにその場へと到達した。

 あとは目の前にある()()()()()()()()()()()()()()、そこからあの人形を破壊すればいい。その考えが浮かんできた少女は、束ねられた天のレイラインからのエネルギーの中へと一歩進み――

 

 

 

 

 

「ぐぎゃあああああああああああ!!?」

 

 

 

 

 

 ――叫び声をあげた。

 

『アア、トラレル! トラレチャウヨ! アダム!』

 

 ティキが懸命にアダムに呼びかけるもその声はノイズの少女の叫び声にかき消されて、当の本人には聞こえない。それ以前に、ちょうど響とサンジェルマンの二人を相手取っていて、三人とも異常に気づかなかった。

 

 天の星々のあいだを巡るレイライン。そこから抽出されたエネルギーは、今や「神の力」の器となるティキだけでなく、ノイズの少女にも流れ込んでいた。

 ノイズ・アーマーは、強烈な力の放流にて消し飛び、流入されていくエネルギーを飲み込むように――否、喰らうように。その身に取り込んでいくノイズの少女。その体は、取り込んだうえで変質した力によって作りかえられていき、想像を絶する苦痛が叫び声となって飛び出す。

 

(なぜ、こんなことに……。ただ、忌々しき『神』を打倒すれば良かったはず……。

 なぜ、()()()()()()を喰らっている……?)

 

 体が全く別の物へと変えられていく激痛に苦しむ少女の中で、ある意思が疑問を覚える。

 さきほどまで少女の体を、神を殺すために動かしていた意思は、想定外の事態に驚きを禁じ得ない。

 

 しかしそこで、その意思は気づく。無意識ながらも、少女本来の魂が、この状況に歓喜していることに。

 

(――そうか、これはお前の意思なのだな。愛しき子よ)

 

 意思――「リュウ」の力に残された、わずかな残留思念は、この状況こそが旋律の少女が望んでいることだと悟る。神の力――異なる星の命を「リュウ」の力に食わせ、膨れ上がったその力を以て、完全に人間と決別するために。

 今までの行動は自分が操っていたと思っていたが、それを利用して、逆に自分の目的を達成させるために誘導されていたことに気づき、残留思念は自身の間抜けさに呆れた。

 

(これがお前の望みならば、これ以上言うことはない。むしろ、我々は歓迎するだろう。

 所詮この魂は残り香。ならば、新たな同胞(はらから)誕生のための贄へと喜んでならん)

 

 「リュウ」の残留思念は、「神」を喰らったことで膨張する自身の力の前にかき消えていくのを感じた。これからこの力は、この少女のものとなるだろう。

 だが、時間が必要だ。もとは異星の力ということもあり、完全になじむまで2日はかかるだろう。

 

(さらばだ。星を愛し、星に愛された、ルル・アメルの落とし子よ――)

 

 そして、「リュウ」の残留思念は、喜びを胸に消え去っていった――

 

 

 

 

 

 

「人形だとぉぉぉ!?」

 

 響の言葉に激昂するアダム。それに追随するかのように、さっきまで力の一部を盗られていたことも忘れてティキも叫ぶ。

 

『ユルサナイ! アダムヲヨクモ! イタクサセルナンテー!!』

 

 ティキの怒りとともに彼女の身体は白く光り輝き、天から抽出された赤いエネルギーを押しのけながら大きく膨らんでいく。

 

「光が! ……神が、生まれる……!」

 

 

 

 S.O.N.G.本部でも、その異常が起こったこと自体は理解されていた。だが、モニターは赤く塗りつぶされ、向こうでどのような光景が広がっているかは分からない。

 

「あっちはどうなっていやがる!」

 

「モニター、回復します!」

 

「映像を回します!」

 

 映像を映し出した友里だが、彼女自身、そこに映っている光景に驚きを隠せなかった。いや、彼女だけでなく、装者や源十郎を含めた誰もが、言葉を失った。

 

 

 

 

 

 そこには、宙に鎮座する形で顕現した、「神」が存在していたのだから。

 




 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 アンケートに関しましては、「特に希望はない」とのご意見が一番多かったので、書きあがったら即投稿という形で続けさせていただきたいと思います。
 このアンケートに今のところ期限はございませんので、よろしければご協力をお願いいたします。
 
 次回もよろしくお願い申し上げます。

オリジナルキャラの挿絵などもあった方がよろしいでしょうか?(作者自身が描くが、画力は期待しない方がいいレベル。描くならペイントか手描きの二択)

  • 挿絵はあった方がいい(ペイント)
  • 挿絵はあった方がいい(手描き)
  • 挿絵はない方がいい
  • どちらでもよい

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