その少女は、災厄(ノイズ)であった   作:osero11

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 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 アンケートの結果は、「書けるようにしてほしい」 が23件、「書けない設定でもいい」が65件でした。 また、結果的に21日の朝4:00頃までのアンケートとなったことを謝罪いたします。
 「このままでいい」という回答の方が多かったので、このままの状態にしておこうと思います。それとは別に、できればご感想の方を書いていただけると嬉しいと思っております。モチベーションにもなりますので、お願いいたします。

 これからもお読みいただきますようお願い申し上げます。
 それでは、どうぞ。


二度目の邂逅・顕現する絶望

 チフォージュ・シャトーが墜落し、辺り一面が焦土とがれきの地となった、首都中心の周辺。魔法少女事変の傷跡が深く刻まれた場所で、再び装者たちは錬金術師を相手に戦っていた。

 

 エルフナインとマリアの命を懸けた探求のおかげで作られたLiNKERによって元F.I.S.の装者たちも戦えるようになり、相手三人に対して六人と数的有利は確保して戦うことができていた。

だが、相手は高密度の生命エネルギーを宿す「完全なる肉体」を持つ錬金術師。さらに相手は、装者たちの切り札を封じるラピスフィロソフィカスのファウストローブを纏い、その上戦闘力も増大させている。

 装者は人命を守るため。錬金術師は神の力を用いてバラルの呪詛から人類を解き放ち、完全なる世界を取り戻すため。互いに譲れない信念を持つ者たちの戦いは、熾烈を極めた。

 

 そんななかでも、立花響は相手の手を取ることを諦めない。諦めたくない。

 過去に虐げられたことのある彼女だからこそ、手を差し伸ばされることが救いになることを知っているからだ。

 

「言ってること、全然わかりません!」

 

 サンジェルマンの銃弾として放たれた蒼き竜は、立花響の言葉とともに放たれた一撃を見舞ったことにより吹き飛ばされ、その衝撃がサンジェルマンを襲う。

 なんとかその場で踏みとどまるサンジェルマンに向かって拳を突き出したまま、彼女の目の前で止まる響。

 

「だとしても……あなたの想い、私にもきっと理解できる」

 

 だからこそ、いわれのない中傷、自分を中庸だと信じている者たちの悪意により傷つけられた少女は、踏みにじられた過去を持つからこそ明日を自分の手で作ろうとする彼女と手を取り合いたいと思い、行動している。

 

「私だけじゃない。あなたの想いを理解してくれる人は、きっと他にもいる」

 

 サンジェルマンに語り掛ける少女の脳裏によぎるのは、彼女が地獄のような目にあった要因であるノイズを操る少女の姿。

 今だからこそ分かる。彼女の目は誰かに虐げられた者の目であり、だからこそ自分はその目に宿った感情に共感したのだ。

 

「だとしても、今日の誰かを踏みにじる方法で、明日の誰も踏みにじらない世界は作れないはずです」

 

 それこそ、だとしても、だった。もとは「普通」だった優しい少女である立花響に、名も知らない誰かでも自分と同じような目にあうことを許せるはずがなかった。

 それこそが彼女の握る、彼女なりの「正義」の形だった。

 

 響が彼女なりの正義を示すなかも、他の錬金術師と装者たちの戦いは続く。

 カリオストロが放ったいくつもの光線がクリスを襲い、マリアがクリスをかばうために自身の纏うアガートラームの特性であるベクトル操作を使い、攻撃を跳ね返すバリアを展開する。その跳ね返された攻撃のいくつかが、響とサンジェルマンの方へ向かってくる。

 

「! こっちへ!」

 

 響は敵であるにも関わらずサンジェルマンの手を引き、攻撃から逃がそうとする。なんとか直撃は免れたが、地面に着弾した際の衝撃で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる彼女たち。

 ダメージを受けながらも、サンジェルマンは自身を助けようとした少女に問いかけた。

 

「なぜだ……。私たちは……ともに天を頂けないはず……」

 

「だとしても……です」

 

 同じように傷つきながらも、サンジェルマンと理解しあうために手を伸ばす響。サンジェルマンは、そんな彼女の手を――

 

「思いあがるなっ!」

 

 振り払った。立ち上がった彼女は、振り払われた少女を見下ろして怒りの風貌で宣言する。

 

「明日を開く手はいつだって怒りに握った拳だけだ!」

 

 サンジェルマンの言う事にも一理ある。強い想いが世界を動かすのなら、それは怒りとて同じだとも言える。

 義憤。復讐。どのような形であれ、強い怒りを持つ者が歴史を作ってきたところも自身の目で見てきたサンジェルマンだからこそ説得力のある言葉だ。

 

「この場は預けるぞ、シンフォギ……!?」

 

 しかし、それを言うならば、

 

 この場にいるなかで一番明日を切り開くにふさわしい人物は、サンジェルマンではなく

 

 ()()ということになる。

 

「バカな……!? あの少女は……」

 

「え……?」

 

 サンジェルマンの様子が急に変わったことで、響の目線は自然と彼女が見つめる先に移り、シンフォギアを纏う少女もまた目を見開く。

 

「あの子は……!?」

 

 シンフォギア装者。錬金術師。二つの勢力の真っ向勝負が行われている戦場に、誰よりも人間に強い憎しみを持つ《ノイズ》が襲来した。

 

 

 

 

 

 

 新たな力を手に入れたノイズの少女は、シンフォギア装者たちと錬金術師たちのそばに転移してきた。

 といっても、彼女たちと戦うことが目的ではない。あくまで今の彼女の目的は仲間だったものの奪還であり、人類の殺戮ではない。

 

 少し前までは、人間を見かけただけで憎しみにとらわれ抹殺を第一として行動していたが、その行動の結果窮地に追い込まれたため、現在は自分の感情を抑えて目的の遂行を念頭に動くようになったのだ。

 とはいっても、彼女の人間に対する憎悪は全く浅くなっていないのだが。

 

 彼女の目的である聖遺物があるのは、残骸となったチフォージュ・シャトーの一室。あくまでこの場の面々は、偶然ここにいただけで彼女の目的には入らない。

 ノイズの少女は飛行型のノイズを何体か生み出し、そのうちの一体に乗って上のシャトー残骸に向かおうとし――

 

 

 

ズダダダダダダダダダダダ!

 

 

 

 ――飛んできた銃弾を回避するために、それを断念せざるを得なかった。

 鬱陶しそうに銃弾が襲ってきた方向を見れば、そこには煙を吹かすガトリング銃を構えたクリスの姿があった。

 

「こんなところで落ち合うたぁ、『石の上にも五日(いつか)』ってやつだな、おい!」

 

 そう言って不敵な笑みを浮かべるクリス。彼女からしてみれば、出会う事すら困難と聞かされていた因縁が、わざわざ向こうからノコノコとやってきたのだ。錬金術師がいることを考えても、今日こそ決着を、と思ってしまう彼女を誰が責められようか。

 

「待て雪音! 今は暁と月読が刃をへし折られている!

 彼女がこの二人に牙を向けぬほどの情けがあると言い切れるのか!」

 

「! ぐっ……」

 

 だが、翼に待ったの声をかけられ、クリスはうなり声を出すも自身の行動を思いとどまることになる。

 後輩たちに及ぶ危険を度外視してまで挑む覚悟があるかと聞かれれば、心根が優しいクリスは黙って矛を収める以外に選ぶことができなかった。

 

「まさかあの少女が来るとは……。二人とも、この場は引くわよ!」

 

「まさかこのタイミングで来るとは、ドンピシャすぎるわけだ!」

 

「ちょっと~!? これもリリスがしっかりしてないせいよ~! も~!」

 

 突然姿を現したノイズの少女に対し、撤退という選択肢を錬金術師たちは取った。ファウストローブで底上げされた彼女たちの錬金術でノイズを防ぐことができないというわけではないが、リリスから聞かされた少女の()()()のことを考慮すると、この選択は決して間違いではないだろう。

 

 それを見たマリアは、これを勝機だと感じ取った。装者二人が戦闘不能に陥ったために若干錬金術師たちに対して不利だった状況が、ノイズの少女が現れたことで彼女たちは撤退し、残る敵はノイズの少女だけになった。

 あの少女は、響たち三人の装者と互角に近い戦いをおこなっていた。しかも、相手にはヴォカリーズで歌を無効化する能力もある。錬金術師たちに勝てなかったのは正直悔しい気持ちでいっぱいだが、今はあの少女をどうにかすることが先決だと思考を切り替える。そのためには――

 

「……私があの少女の気を引き付けるから、三人は調と切歌を連れて戦線を離脱して頂戴」

 

「なっ!? それは無謀に過ぎるぞマリアッ!」

 

「適応係数だけじゃなくてバカ係数まで引き上げられてんのか!?」

 

「それは危険すぎますマリアさん! だったら私も――」

 

「あなたたちは、私たちが装者として戦うことができない間も、ずっと戦ってくれた。

 あなたたちこそ、これ以上の戦闘は危険というほかないんじゃないのかしら?」

 

 マリアの言葉に、響たちは押し黙ってしまった。

 確かに、錬金術師たちと直接戦闘をおこなうまで、響、翼、クリスの三名は、市街地を襲う三つ首の大型アルカ・ノイズを始めとした限りないアルカ・ノイズとの戦闘で、体力を大幅に消耗していた。正直なところ、これまで戦闘ができていたのは気力によるところが大きいと言っていい。

 

 だからこそ、まだ戦闘に参加したばかりで戦うことができる自分がおとりになるから、そのすきに逃げろとマリアは言うのだ。

 

「防人が、仲間を戦場に捨て置き、敵を背にして逃げることなど断じて……!」

 

「逃げるわけじゃない、これも救命活動の一つよ。今の調と切歌はもう戦うことができない。誰かが二人を連れて行かなければ、彼女に牙を向けられてしまうかもしれない

 だからこそ、ほとんど戦えないであろうあなたたちに、二人を助けてほしいの」

 

「だけどなぁ……!」

 

「ちょっと待ってください! なにか、あの子の様子がおかしいですよ」

 

 言い争いをしていた装者たちであったが、響の言葉に反応して少女の方を向く。

 この前問答無能で襲い掛かってきた少女は、超大型の飛行ノイズを生み出したり普通の飛行ノイズを生み出してチフォージュ・シャトーに送り出すことはしているが、それ以外に変わったことはしておらず、ましてや悠長に話をしているこちらに対して攻撃を仕掛けることなどまるでしてこなかった。

 

「確かにそうだ、なぜ攻撃をしてこない……?」

 

「まるで借り猫のようにおとなしくしてやがる……。いや、ノイズを出して何かしているのは確かなんだろうけどよ……」

 

 その様子を不審に思う装者たち。この前とは打って変わったような少女の態度が、正直不気味に感じたのだ。

 これでもしノイズが市街地を襲うものなら彼女の行動をただ見ているだけというのはありえないのだが、しかし大型ノイズでさえもチフォージュ・シャトーの上空からノイズを落とすだけで、人を襲う様子がまるで感じられない。

 相手が積極的に人を襲わない姿勢を見せられると、こちらの体力が少なくなっていることも考えると、下手に刺激しない方がいいんじゃないかとも思えてくる。

 

 だがマリアは、なぜ彼女がそのような行動を取るのか気づき、困惑した表情を一変させて緊迫した様子になった。

 

「そうか! 聖遺物!」

 

「え? なに? 聖遺物?」

 

「! そうか! あの少女は確か、大泉博物館で……」

 

「その通り。チフォージュ・シャトーにまだそんなものが残っていたとは思っていなかったけど、それなら筋が通る」

 

 装者たちは、自分たちと戦闘を行う前にノイズの少女が聖遺物を奪い取っていたことを思い出した。今回も同じ目的なら、なるほど自分たちを無視して動くのもおかしくはないかもしれない。

 それと同時に、あることにも気づいた。

 

「じゃあ世界中をUMAよろしく飛び回っていやがったのは!」

 

「あるいは、聖遺物の回収が目的だったのかもしれないわね」

 

「ならば、目的はどうであれ、止めなければならないな」

 

 効果も脅威度も種類によって大きく異なる聖遺物であるが、どのようなものでも敵の手に渡していいものとは言えない。

 翼の言葉にマリアとクリスがうなづき、響は少女の目的が聖遺物という事にわずかながら違和感を感じる。

 

(なんでだろう……。あの子の目に宿っているのは、とても強い憎しみだった……。

その憎しみを棚上げしてまで手に入れたいものは、本当に聖遺物なのかな……)

 

「立花、暁と月読を連れて撤退してくれ。あの少女は我々が捕縛する」

 

「え……? そんな! 翼さんたちだってずっと戦い続けて体がもう……!」

 

「案ずるな。この身は剣として鍛えた身。この程度のことで音を上げるような鍛錬はしていない」

 

「どっかのバカみたいに、敵もかばってケガしてるわけじゃねーんだ。分かったらさっさとソイツら連れて逃げろ!」

 

「……分かった。どうか無理はしないで!」

 

 そう言って、あの少女に思うところはあったが、切歌と調をわきに抱えて戦場を離れる響。彼女の姿を見届けた装者たち三人は、厳しい顔つきで少女の方を向く。

 

「さてと、こっからは戦意マシマシだ!」

 

「ああ、今度こそ因縁に決着をつけるとしよう!」

 

「LiNKERなしでは戦えない装者だからといって、甘く見ないでもらおうかしら!」

 

 既に戦闘準備を整えた三人に対して、ノイズの少女はそれらを敵として認識しながらも憎しみよりも鬱陶しさが多く混じる視線を向けたまま、数多のノイズを生み出した。

 

 

 

 

 

 

「はあああああ!」

 

 まずマリアが、左腕の肩甲から大量の短剣を取り出し、少女が作り出したノイズを次々と葬っていく。

 しかし、それでも全体の1%も減っていない。攻撃を受けていないノイズたちが次々と装者たちに襲い掛かっていく。

 

「喰らえぇ!」

 

 それらを、クリスがガトリングとミサイルで薙ぎ払っていく。この攻撃でかなり多くのノイズが消し去られたが、まだ大分残っている。しかし残った分の後始末は――

 

「せいやぁ!」

 

 ――彼女の頼れる先輩がやってくれる。「蒼ノ一閃」により、その集団の残りのノイズは無事に全滅させることができた。だが――

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

「ぜぇ、ぜぇ、クソ……分かってはいたがやっぱりつれぇ……」

 

「ああ……。だが、こうなると分かっていれば慣れないものでもない……」

 

 少女から生み出されたノイズの集団はまだこれくらいで終わるわけがなく、先ほど殲滅したのと同数ぐらいの集団があと6集団もいる。

 さらに、先ほどから奏でられる少女のヴォカリーズによって(フォニックゲイン)を奪われ、体力の消耗も激しくなってきた。

 イグナイトモジュールを使えば状況を一転させることもできるかもしれないが、正直この疲れ切った状態で破壊衝動に勝てるかどうか怪しいし、なによりもまたカルマ・ノイズを生み出されたら今度こそ暴走状態になってしまう。

 この前のような万全の状態でなかったことも踏まえると、前回よりも追いつめられていることは明らかだった。

 

 その要因の一つに、少女の今のコンディションすら入っていた。

 封印が解けたばかりで本調子ではなかった際に装者と戦った時や、自分の体を顧みず目的を果たそうとして疲れ切ったところをリリスに襲撃された時と違い、今回は十分な休息を取りながら探し物をしている最中に戦闘を仕掛けられたのだ。

 今はまさに全力を出せる状態であり、ノイズ・アーマーを使わずとも敵を倒すぐらい訳ないのだ。といっても、ノイズ・アーマーはかなりのエネルギーを使うので手段としてはあまり使いたくはないのだが。

 

「こうなったら、ノイズの集団を抜けてあの少女を直接叩くしかないわね……

 手を貸してくれるかしら?」

 

「無論だ。こちらもちょうどそのように考えていたところだ」

 

「アタシも賛成だ。すました顔するアイツに一泡ふかせてやる!」

 

 倒しても追加補充され、フォニックゲインは奪われていくジリ貧の状況を打破するために、装者たちは少女に直接攻撃を加える方針に転換する。

 

「コイツを喰らって、おねんねしなぁ!」

 

 まずはクリスが大型のミサイルを6基連装して生成し、発射したのちに分裂、無数の弾丸となって広範囲を攻撃する「MEGA DETH SYMPHONY」で、自分たちから標的までのノイズを一斉に駆逐する。

 爆炎とともに巻きあがった黒煙に紛れるように翼とマリアが少女に接近し、攻撃の準備をする。

 

 一方、煙により視界を奪われた少女は、ノイズ・アーマーほどではないにしろ、右腕に数十体分のノイズを纏わせることで迎撃の態勢を整える。

 そして黒煙を切り裂くように現れたのは――

 

「風鳴る刃、輪を結び、火翼を以て斬り荒ぶ。月よ、煌めけ!」

 

 青い炎を纏った剣を振り回し、こちらにまっすぐ向かってくる翼であった。彼女の「風輪火斬 月煌」を、ノイズの少女は右腕に纏わせた武装で受け止める。だが――

 

「これで、終わりよ!」

 

 背後の黒煙からマリアが飛び出し、蛇腹剣で少女に斬りかかる。マリアのこの攻撃を、少女が背後から受け止めることなどできないはずだ。そして蛇腹剣が少女に襲い掛かり――

 

 

 

「なん……だと……」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()に受け止められていた。

 

 それは、見間違いでなければ、いや間違いなく、エネルギーのベクトル操作を特性とするアガートラームだからこそできるはずの防御だった。

信じられないことが目の前で起き、驚愕に目を見開いたまま、攻撃を受け止められた姿勢で動きを止めてしまうマリア。そんな彼女の隙を見逃す理由もなく、煩わしい表情をしながら次の攻撃態勢をノイズの少女は整えていく。

 

「避けろ、マリアァ!」

 

 同様に驚きを隠せなかったが、一足先に我を取り戻した翼は、友に差し迫った危難を察して叫ぶ。その声でここが戦場のただなかだと思い出したマリアは、ノイズの少女からの攻撃を避けるために後ろに大きく、だが同時に攻撃に対応できるように低く跳躍した。

 ノイズの少女は、背中から肉塊のように固められたノイズを背中から噴出させ、攻撃手段を形成させていく。その先端は攻撃対象であるマリアの方を向き、表面が非常になめらかで、細長いフォルムをしている。それはまるで――

 

「あたしの十八番だとォ!?」

 

 ミサイル。自身が良く使う武装を真似されたことで、クリスの口から驚きの大声が飛び出す。そして無情にも現代兵器によく似たそれは発射され、マリアへと一直線に向かっていく。

 

「こんなものぉぉぉぉぉぉ!」

 

 それをマリアは、ノイズの少女が先ほど使っていたのと全く同じバリアを展開し防御する。着弾と同時に吹き出す爆発のエネルギーを、アガートラームのベクトル操作で上下左右へと逃がし、自身へのダメージを可能な限りなくしていく。

 

「よし、これで……。!!」

 

 安堵を覚えたのも束の間。一つだけで終わるものと思っていたミサイルが、先ほどと全く同じ軌道で、まるで列を作るかの如く、何発もの数が続いて放たれ、マリアの防御に直撃していく。

 ベクトル操作が可能なアガートラームでも、限界がある。衝撃を逃がすバリアは、度重なる爆撃に耐えることができず砕け散り、爆風がマリアを襲う。

 

「きゃああああ!!」

 

 爆風に吹き飛ばされ、マリアは叩きつけられるように地面に堕とされる。だが、彼女を襲うミサイルはまだ残っており、倒れている標的を狙い向かってきて――

 

「これ以上させるかよぉ!」

 

 ――クリスのボウガンから放たれた赤い無数の矢に貫かれ、その場で自爆していった。彼女はミサイルによる攻撃が一旦止まっているうちに倒れている仲間を背負い、今ノイズの少女を抑えている翼に声をかける。

 

「先輩! ここは一旦撤退するべきだ!」

 

「ああ、雪音はマリアは連れて撤退してくれ。この少女の相手は私が――!」

 

 予想外の能力、そして前回以上の脅威を見せつけてくる敵に、クリスは翼に撤退を進言する。だが、翼は少女と鍔迫り合いを繰り広げながら、戦場から退くつもりはないという意思を示す。

 

「寝ぼけてるのか! 相手は誰様に土下座したのか知らねえが、あたしたちのギアと同じのを使えんだぞ!?

 様子を見る限り、こっちに積極的に仕掛けるつもりはねぇらしいから、あたしたちが逃げても追ってくる可能性は低いはずだ! 悔しいのは痛いほどわかる! けど――」

 

「――ああ、悔しいさ。この身を剣として鍛えてきた防人として、これは許しがたいことだ」

 

 そしてクリスは、気づく。()()()()()? 刀同士がぶつかり合っているのなら、片方が天の羽々斬として、もう片方は?

 少女の右腕のノイズがとっている形を見て、なぜ翼に退くつもりがないのか、ようやく分かった。奪われていたのは、彼女も同じだったのだ。

 

 

 

「――天の羽々斬は、守るための剣だ!! ここで背を向けて、人々の命を奪う剣になどさせるものか!!」

 

 

 

 

 右腕のノイズがとっているのは、まさに翼が持っている天の羽々斬に似た形状だった。二つの異なる天の羽々斬が、火花を散らしてぶつかり合っている。

彼女を退かせないのは、防人としての矜持と覚悟。自身が鍛えた剣を、人殺しの道具として使わせないために、風鳴翼はノイズの少女を相手に決死の覚悟すら決めていた。

 

(――いい加減、邪魔だ)

 

 だが、そんな覚悟もノイズの少女にとっては無価値でしかない。腕で相手を抑えている間に、腹からノイズの肉塊を生み出し、それを巨大な拳として展開して、目の前の相手に瞬間的に突き出し翼に強烈な打撃を与えた。

 

「ッッ! かはっ……」

 

 ここで倒れてなるものかと必死に現実に食らいつこうとする翼だが、疲弊しきった体は彼女を無意識へと引きずり込み、意識は遠ざかっていった。

 

「先輩っ!」

 

 悲痛な叫び声をあげながらも、既に倒れてしまった仲間を背負っているため、吹き飛ばされ、地面へとたたきつけられる翼をクリスは助けられなかった。

 守れなかった悔しさで胸がいっぱいになるも、ノイズの少女がこちらを向いていることに気づいた彼女は、ミサイルを始めとした数々の武装を展開している姿を見て、思わず呟く。

 

「万事休すってやつか……クソっ」

 

 悪態をつくクリスだが、それで止まるノイズの少女であるはずがなく、その体に携えたありとあらゆる兵器を発射しようとし――

 

 

 

 一体のノイズが彼女のそばに来たことで、攻撃の意思はなくなった。

 

 

 

「……?」

 

 思わず目をつぶってしまったクリスが目を開けてみると、そこには武装を解除したノイズの少女と、それと向き合うように一体のタコの形をしたノイズがいた。タコのノイズの触手には豪華そうな箱があり、それを少女に差し出しているように見える。

 それを手に取った少女は、満足そうな笑みを浮かべた後、そのノイズ、上空にいた大型の飛行ノイズ、その他多くのノイズとともに、ソロモンの杖と同じ能力で時空をゆがめ、この場を離れていった。

 

「助かった……のか……?」

 

 ノイズの少女が姿を消したのち、自分たちが見逃されたことを察して、クリスの体の緊張感が一気に解かれた。

 安堵。悔しさ。喜び。後悔。そして先行きの分からなさ。様々な気持ちを抱えたまま、クリスは体の疲れに誘われるように眠りについた。

 

 

 

 この時の誰もが知らなかった。ノイズの少女がもたらす絶望は、まだ始まったばかりだったということを。




 というわけで、二回目の装者との戦闘は、ノイズの少女の大勝利でした。
 こうなった理由は、ノイズの少女が体力全快の状態であったこと、新しい力に目覚めていることと、逆に響たち三人の装者が連戦で疲弊しきっていたことですね。
 原作でもアルカ・ノイズと疲れを見せるまで戦った後で錬金術師たちと戦ってますからね……。さすが業界屈指の過酷と名高い現場……。

 さて、ついにメリュデの歌の特性が次回、風鳴司令の口から明らかになるわけですが、司令が隠していたことに対して不満を持っている読者の方もいたかもしれません。
 どうかお許しください。こういうストーリーにしかできなかった私の責任です……。

 最後におまけを書いてみました。よろしければご覧ください。 



おまけ 自作用語解説(AXZ)

・ソロモンの杖

 「バビロニアの宝物庫」と呼ばれる異世界からノイズを出現させ、72種類のコマンドにより自由自在に人類の脅威とされるノイズを操ることができる完全聖遺物。
 本来は大国アメリカが基底状態のまま管理していたが、先史文明期の巫女フィーネの転生体である櫻井了子の手に研究目的で渡ったのち、起動した。その後、ルナアタック、フロンティア事変を通じて、この杖の持ち主の手足となったノイズたちが、数多くの犠牲者を出すことになった。
 フロンティア事変の終盤にて、閉じられたバビロニア宝物庫もろとも超高熱で消滅したはずだった。
 しかし、現実には滅びたはずの杖の能力を行使できる人間が存在している。知るすべはないが、杖と魂が長く共にあることによって、互いに互いの能力を使えるようになっていた。ゆえに、杖はノイズを操ることができるし、少女は異空間を移動することができる。

 ソロモンとは、古代イスラエルの最盛期を築いた王の名前である。かの王には様々な逸話があり、なかには獣や植物との会話もできたという話もある。
 杖がソロモン王の持っていたものだとして、何のためにこのような杖を作り出したのか、なぜ少女の魂が杖に封じられていたのか、今となっては謎のままである。

・ノイズ

 人類の共通の天敵とされていた認定特異災害。種類によって特殊な能力を持つこともあるが、存在を異なる世界に置くことによって通常物理攻撃を低減・無効化する位相差障壁、人間に触れることで自信を含めて炭化する能力を主として保有している。
 フロンティア事変の際に壊滅したと思われていたが、その大本が装者たちの前に姿を現した。



 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。ご感想もお待ちしております。
 次回もよろしくお願いいたします。

オリジナルキャラの挿絵などもあった方がよろしいでしょうか?(作者自身が描くが、画力は期待しない方がいいレベル。描くならペイントか手描きの二択)

  • 挿絵はあった方がいい(ペイント)
  • 挿絵はあった方がいい(手描き)
  • 挿絵はない方がいい
  • どちらでもよい

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