その少女は、災厄(ノイズ)であった   作:osero11

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 話の続きよりも、過去編を書きたい欲求の方が強く出てしまいました。ごめんなさい。OTL
 ノォォォイィズウウゥゥゥゥゥゥ・ゥウアァァァァムアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ……の方が気になる方も多いと思いますが、先にメリュデの過去編を書かせていただきたいと思います。

 また、以前にご覧になった方はお気づきかと思いますが、あらすじやタグに変更を加えました。多くの方が高評価をしていただいているのに、作者本人がいつまでも「駄文」と言っているのも何だかなぁ……と思いまして……。
 
 今回はかなり短めですが、お許しください。
 それでは、どうぞ。



過去編 旋律の少女
第一章 最初の絶望


 これは、今からはるか過去の話。

 かつてカストディアンが、月にバラルの呪詛を発生させる遺跡を建造し、ルル・アメルの相互理解が妨げられてから百年ほど経った頃の、彼女の物語――

 

 

 

 

 

 

 相互理解が失われてから百年、統一言語を封じられた人類は、それに代わる手段を用いて互いに理解しあえる世界をもう一度取り戻そうとしていた。

 様々な方法が試行錯誤されるなか、木々や動物たちといった自然と共存・調和することで、この星の一部となり意思疎通を図ろうとする人々がいた。

 

 彼らは、異端技術にあふれた国から離れ、緑に囲まれた環境で、原始的な生活をするようになった。

 カストディアンから授けられた異端技術の恩恵を受けることができない生活ではあったが、不思議とそこに暮らす人々の心に不満は存在しなかった。

 

 その村の近くの川で、村に住む一人の少女が木になったリンゴを取ろうとしていた。だが、身長が足りないために、背伸びをして取ろうとしている。

 うーん、うーんとうなりながら、木の実に手を伸ばし続ける少女。そこに後ろから、彼女より二回り背が高い男性が近づいていく。その男性は、少女のいる方向に手を伸ばし――

 

 

 

 パキッ、と彼女の上にあるリンゴを取ってあげた。少女は、そこでようやく後ろにその男性がいることに気づく。

 

⁅あっ、お兄ちゃん⁆

 

⁅またリンゴを食べようとしていたのか。最近食べ過ぎだって母さんに叱られたばかりだろ⁆

 

⁅だってだって! おいしいんだもん!⁆

 

⁅それよりも、だ。そろそろ感謝祭の準備が始まるぞ。一緒に村に帰ろう、メリュデ⁆

 

⁅はーい⁆

 

 そう言って、メリュデは兄とともに村に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 彼女の村では、月に一度、自分に施しを与えてくれる自然に感謝の意を伝えるための儀式が行われる。それこそが、感謝祭であった。

 感謝祭では、太鼓や笛などで音楽を奏で、文字通り音で自然を楽しませることで「ありがとう」の気持ちを示すことが主として行われている。そして、メリュデはその行事において特別な存在でもあった。

 

⁅やはり、いつ聞いても綺麗な声じゃ。今年もあの子のおかげで大いなる皆様方もお喜びであろう⁆

 

⁅全くだな。もしかしたらメリュデは大いなる皆様からの贈り物かもしれないな⁆

 

⁅違いない⁆

 

 そう言って、舞台の上で()()彼女をほめたたえる大人たち。彼女は、心の底から楽しんでいる様子で歌っている。

 

 彼女が特別な理由は、その声を以て音を奏でいることだ。まだ「歌」という概念がない時代ではあったが、それでも彼女の唄声を聞いた者は穏やかな心になり、わだかまりも消え去ってしまうほどの優しさが込められていたため、村の全員が彼女の存在を特別なものだと認めていた。

 他の者が楽器を演奏するなか、彼女だけが歌を歌っているのはそのためだ。メリュデも演奏できないほどではないのだが、やはり彼女には声で奏でてもらった方が大いなる皆様方――その村での「自然」全体に対する呼称――も喜んでもらえるだろうと思っての配所だった。

 

 演奏を終え、長が自然に対する感謝の言葉をささげた後は、普通のお祭りのように飲み食いを始める村の人々。

 メリュデはまっさきに、自分の家族のもとへと急ぐ。

 

⁅お兄ちゃん! お母さん! お父さん!⁆

 

⁅今回もいい声だったぞ、メリュデ⁆

 

⁅メリュデ、お疲れ様⁆

 

⁅メリュデえええええええええ! 今日も可愛かったぞおおおおおお!⁆

 

⁅わっ! やめてよお父さん! 恥ずかしいよ!⁆

 

 妹をほめる兄。娘をねぎらう母親。そして自分の娘の晴れ姿に今回も大喜びし、メリュデを持ち上げてそのままグルグル回転し始めた親ばか(父親)。メリュデは父親の奇行に恥ずかしそうにしながらも、やはりうれしそうだ。

 

⁅ああメリュデ可愛い! うちの子可愛すぎる! 天使! 天使と言っていい! いや天使じゃ足りない! 神だ! うちの娘こそ女神だったのだ! カストディアンなんてのはクソだ! そんなのに比べたら――いや比べるまでもなくうちの娘の可愛さの方が神がかっている! いずれメリュデはその可愛さでリュウを魅了し世界を幸せ一色にするに違いない! うちの娘ほんと凄い! ああかわいいよかわいいよぉいいにおいもするよぉこえもきれいでたまらないうちのむすめかわいすぎてしんじゃいそう⁆

 

⁅それ以上回したらうちの娘の方が死んじゃうからそこまでにしてね⁆

 

「そげふっ!!」

 

⁅だ、大丈夫か? メリュデ⁆

 

⁅あははははは、世界が回ってるよ~……⁆

 

 母親が暴走した父親を殴り倒して止め、父親は派手に吹っ飛ぶ。兄は妹の心配をし、少女はいつものことながら回転のし過ぎで目をすっかり回し、それでも家族に囲まれた幸せを感じていた。

 

 こんな日々が、ずっと送れると信じていた。

 

 

 

 

 

 

⁅――なんで、こんなことに……⁆

 

 それは、祭の後日に起こった悲劇であった。

 

 彼女は、朝から家の仕事で近くの川まで魚を取りに行っていた。思った以上に今日は魚を取ることができず、それでも粘って魚取りを続けていたら体も疲れてきて、休憩を取ろうとしたら眠ってしまった。

 起きた時には戻ると約束していた刻限を大幅に過ぎて夕方になっており、捕れた魚を以て急いで村に戻ってきた。そこで彼女が目にしたのは

 

 

 

 

 

 燃え盛っている村の姿だった。

 

 

 

 

 

 木造の家はぼうぼうと燃え、あたりには人が焼けこげる臭いが立ち込め、ところどころに人の形をした黒い炭のようなものが見える。

 

 彼女は走った。村の人たちのことも心配だが()()()()()()()()()()()()()()()()と思うことで、自分の家族を探し始めたのだ。

 ――本当は気づいている事実に、蓋をして。

 

 彼女たちの村でも、火は使う。木を燃やした後に炭が残ることも、知っている。木だけではなく、魚や猪といった動物も、火にくべると燃えて炭になることをメリュデは知っていた。

 だから、彼女は、目をそらしているだけなのだ。いま村のそこかしこにある炭が、ナニを燃やしたものなのかということから。

 

⁅お母さん!⁆

 

 だが、燃え盛る自分の家の、その中で

 

⁅お……かあ…さん……?⁆

 

 父親から贈られた輝石を身に着けたままの、母の炭となった遺体を見せられた時、少女は自分の平穏が崩れていく音を聞いた。

 

⁅あ……あああああああああああああああああ!!⁆

 

 目の前の現実を受け入れることができず、叫び声をあげだした少女は、家から飛び出して父親と兄を探す。

 

⁅お父さーん!! お兄ちゃーん!! どこなのー!! 返事してー!!⁆

 

 そして村中を走り回って、村の入り口にやってきた少女は、見つけてしまった。

 狩りをするためと、村を守るためにと、いつも兄が身に着けていた双剣。そしていつもは家においてあるが、危ないからと近づけてももらえなかった父の戦斧。

 

 

 

 無造作に地面に落ちていたそれらの近くに、すっかり黒くなった二人の体だったものが無残に転がっていた。

 

⁅あ……あ……あ……⁆

 

 少女の目に、もう希望はない。

 

⁅だ……だれか……だれかいないの……?⁆

 

 ここには、彼女に手を差し伸ばしてくれる誰かはいない。

 

⁅どうして……どうしてこんなことに……。あ……あ……⁆

 

 彼女は星に愛されてはいたが、他のヒトはそうではなかった。ただそれだけのこと。

 

 

 

⁅ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!⁆

 

 

 

 燃え盛る村の中で、少女の慟哭が木霊する。その嘆きに合わせるかのように、空は曇天へと流転し、悲しみの雨を降らし、炎を静めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 そのころ、雨が降り出したなかを数十人の集団が馬をかけさせ、彼女の村から遠ざかっていった。

 

【隊長、今回の任務は拍子抜けするほど楽でしたね】

 

【無理もない。奴らは我らルル・アメルがカストディアンより授かった技術を投げ捨てるような愚か者だからな】

 

 彼らは馬を走らせながら、メリュデの村を嘲笑っていた。彼らこそが村の人々を皆殺しにし、村を焼き払った犯人であった。

 

【それにしても、本当に奴らがこの聖遺物を隠し持っていたとは驚きでしたね】

 

【ふん、森の中なぞに隠れ住んで野心がないふりをしながら、虎視眈々とそれで世界征服を狙っていたというわけだ】

 

【せこい連中ですね。まあ、俺らに滅ぼされちまいやしたけど!】

 

 ギャハハハと下品な声で笑い、誰かに危害を加えることなく生きてきた人たちを、雨が強まることにも気づかず心底バカにする盗人たち。

 彼らの目的とは、数十年も前に自分たちの国から持ち出され、村に隠されていた聖遺物の奪還であった。

 

 異端技術を捨て去ったはずの村がこの聖遺物を隠し持っていた理由、それはこの兵器が、人間だけでなく星の生命にも大きな悪影響を与える者だったからだ。

 自分たちが去ったあと、この聖遺物が使われ星が蝕まれることを恐れた村の住人の祖先たちが、異端技術を行使する者たちに使われないように持ち去り、村に厳重に隠していたのだ。

 

 そんな村の人たちの気持ちも知らない彼らの心のうちは、死者への嘲笑と今回の手柄への期待しかない。因果応報の理が絶対ではないこの世の中では、このような非道をおこなった彼らに罰が下されることは確実ではない。

 

 

 

 ――だが、今回ばかりは話が違った。

 

 

 

 彼らが乗っていた馬が、突然足を止めた。気を抜いていた盗人の何人かが投げ出されたが、()()()()死んだ者はいなかった。

 

【お、おい! なんだ!? どうした!?】

 

【いでええええ!! 足が、俺の足がぁ!】

 

【くそ! なんなんだよ一体!?】

 

 突然のことに混乱し、騒ぎ出す盗人たち。隊長を含めてなんとか馬に投げ出されなかった者たちは、馬を降りて投げ出された者たちの手当てをおこなったり罵り始めたりした。そのうちに彼らが乗っていた馬たちは、どこかへと一直線に走っていった。

 

彼らの先頭を走っていた隊長が後ろの部下たちの方を向き、落ち着かせようとする。だが、雨音がかなり強くなってきたせいか、声がなかなか届かない。しかも風まで吹いてきたようだ。

 業を煮やした隊長が、声を荒げて部下たちを怒鳴りつける。

 

【いいかお前たち!! 任務はもう目的のものを持ち帰れば終了なんだ!! それをこんなところで時間を取らせやがって……?】

 

 そこで隊長は、部下たちが同じ方向を――自分の斜め後ろを見たまま、青い顔をして固まっていることに気づいた。ふと、彼がそちらを見やると――

 

 

 

 

 

 半径50メートルほどの竜巻が、目の前でうねりをあげていた。

 

 

 

 

 

 そして竜巻は、隊長の叫び声もろとも彼らを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論を言うならば、彼らは竜巻に飲み込まれこそしたが、生存はできた。

 だが、手足をちぎられ、飛んできた木の枝に体を貫かれ、地面に力強く叩きつけられた彼らにもはや余命いくばくもない。

 仮に生きて帰るだけの気力があったとしても、目的のものをさきの竜巻に巻き上げられた彼らに、明るい未来が待っているとは言えないだろう。

 

 何者をも脅かすことなく生きてきた者たちを屠り、死んでいった者たちを侮辱した彼らは今、想像を絶する苦しみを味わいながらジワジワと命を削られていった。

 これは、因果応報の理がもたらした結末なのか、それとも――。

 

 

 




 今回のお話、いかがだったでしょうか。ちなみに、これぐらいではメリュデは災厄(ノイズ)にはなりません。つまりまだ残っています、絶望が。

おまけ 自作のノイズ・アーマー

 
【挿絵表示】


 拙い手書きで、色も細部が当初の想像と違いますが、大体こんな感じです。
 イメージが付かない人は、どうぞこちらを参考に。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回もどうか読んでくださいますようお願い申し上げます。

オリジナルキャラの挿絵などもあった方がよろしいでしょうか?(作者自身が描くが、画力は期待しない方がいいレベル。描くならペイントか手描きの二択)

  • 挿絵はあった方がいい(ペイント)
  • 挿絵はあった方がいい(手描き)
  • 挿絵はない方がいい
  • どちらでもよい

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