Skull   作:つな*

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スカルは絶望する。


skullの絶望

ついに来たね、俺の待ちに待ったニートライフ!

寝て起きて食べての繰り返し!

働かない!働きたくない!

これが俺の人生だあ!

と世迷言を宣っていた時期が俺にもありましたまる。

どうやら俺の会社はブラック中のブラックだったようだ。

取り合えず、「体が小さくなる呪いを受けて、仕事出来ない」という内容のメールを送ると、直ぐに会社に来るよう言われた。

まぁ証明として本人見るのが尤もだけどな。

一緒に縮んでしまったライダースーツとヘルメットを付けて、ポルポに跨って仕事場に向かう。

バイクが乗れないのは辛いがニートライフの代償だと思えば堪えられなくもない。

あとポルポ有能すぎる。

陸上を時速100㎞で走るタコってもはやタコじゃねえ。

水中ではこれの数倍にもなるんだから恐ろしい。

コイツもしかして珍獣では?

売れば一生困らないくらいの値段付きそうだが、生憎俺の移動手段なので売る気はない。

とまぁ俺は会社に顔出したんだよ。

すると出てくる出てくる珍種を見たような反応。

 

「スカル……さん、ですか?」

 

え、お前らよく分かったな。

だって赤ちゃんになってんだぜ?

でもってコイツら今会社の制服がライダースーツとヘルメット着用だぜ?

やっぱり俺から影の薄さが出てんのかなー。

取り合えず頷いたらいきなり騒がしくなった。

おい俺を取り囲むのやめろ。

赤ちゃんの身長だからお前ら巨人に見えて仕方ないんだよ。

怖ぇーよ!

 

「スカルさん!一体その姿は何があったんですか!?」

「呪いは本当だったのか!?」

「いやそれよりも早く技術班を呼んで調査しなければっ」

 

技術班?調査…?

待って俺を何かの研究材料にする気かコイツら!

あ、ヤバイ、囲まれてる、死んだ。

固まって動けない俺を抱きかかえて、研究室みたいな場所に連れていかれた。

やぁぁぁぁあだぁぁぁぁぁあああ!

誰かぁアアアアアアア!ポルポぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!

おいポルポお前何ゆっくりお菓子貰いながらこっち来てんだよ!?

助けろよ!お菓子で釣られんなドアホ!

主人の一大事って時だろうがあああ!

俺の心の叫びはあのアホダコには届かず、俺は実験台に乗せられた。

 

「すみません、血液採取します」

 

謝るくらいならすんな。

マジで。

俺痛いの嫌なんだけど。

 

「おしゃぶりが取れない…?何だコレは……」

 

あ、それは俺もちょっと気になってた。

このおしゃぶり取れねーなーって。

ヘルメット以外外されたけど、赤ちゃんだからか真っ裸でも恥ずかしくないんだが。

いやちゃんとトランクスは付けてるや。

何されるか分からずビビリまくってた結果、何もされなかった。

強いて言うなら血液採取が痛かったことだけだな。

貴重な実験体だから丁重に的な?

でもさ、赤ちゃんの身体をさ…数時間も拘束するとかこいつらの中に罪悪感ってないのかな。

 

「検査の結果、異常はありませんでした……一体何が原因でこうなったのか全く見当も付かなくて…」

 

誰かが喋ってる声が聞こえる。

赤ちゃんとして俺は全くもって健康体らしい。

わーヨカッター。

じゃねぇ、戻されてたまるか。

俺は絶対に大人になんてならねーからな!

つーか呪いウェルカムだよ。

どうせなら生涯呪われたいね。

俺は実験室から出されると、またどこかに連れていかれた。

次はどこだよ…とげんなりしてたらボスの部屋だった。

 

「ああ、スカル!呪いは本当だったのだな…」

 

深刻そうな顔してるけど、お前それただ社員が一人減って会社の利益が減ったからだろ。

っくー、本当にブラックだなこの会社。

 

「赤子の身体になってしまっては……運びは難しいか…」

 

当たり前だろ!

まだ諦めてねーのかコイツ。

赤ちゃんに配達させようと一瞬でも考えるとか鬼畜だな。

もうこのブラックな社長怖い。

 

「ならば、カルカッサファミリーの軍師をしないか?」

 

ぐんし?ぐんしって何。

 

「君の洞察力ならば的確な指示なども出来るだろう」

 

指揮官ってこと?

いやいやいやいや、だから赤ちゃんに働かせるなって。

お前外道だな。

ここは、呪いを受けて辛かっただろう、後はゆっくり休めって言うところだろ!?

まだまだ働けるよな?じゃねーだろ!?

何考えてんだコイツ。

 

「君ならば私も安心して背中を任せられる…君のお陰でカルカッサは巨大な組織に成り上がったのだから」

 

ヨイショすんなやー!

どう見ても骨の髄を絞り尽くすまで会社に縛り付けようとしてるやつじゃないですかー!

グレートブラックカンパニーじゃん、めっちゃブラックじゃん。

断りたいけど、さっきから社長のスーツからちらちら見える拳銃の端っこが気になって仕方ない。

途轍もなく怖い。

断ったら天国の片道切符渡される。

 

「君の意思を優先させるがな…どうだ、私と共にカルカッサをより強く、巨大にしてくれ」

 

ああああ、笑ってやがるコイツ。

俺が赤ちゃんだからって舐め切ってる!

せめて拳銃を仕舞って言って欲しかった!

断らせる気ゼロじゃねぇか。

ふぇぇぇぇぇぇえええええん

 

「さぁ…この手を…取ってくれ」

 

笑顔が怖いよぉおおおおお

ブラックな社長がどす黒い笑みで手を差し伸べてきてるぅぅぅうううう

 

手を握った俺はこのあとめちゃくちゃ泣いた。

 

帰り道にポルポに海に落とされた。

泣きたい。

 

 

 

 

 

 

 

カルカッサファミリーボスside

 

 

『呪いで身体を小さくされた、契約を切りたい』

 

最初、その文字を見た時私は自身の目を疑った。

そして次の行動は早かった。

直ぐにスカルを呼び出し、真偽を確かめようとした。

いや彼が冗談を言うような奴ではないことくらい私も知っている。

知っているがどうしても信じたくなかった。

だがそれも、訪れたスカルの姿を見て脆くも崩れ去った。

 

「ああ、スカル!呪いは本当だったのだな…」

 

それは赤子の姿で、こちらを覗き見ていた。

何者も寄せ付けぬ雰囲気はいつもの彼と変わらず、背負った闇は薄まる程度のものではなかった。

滲み出る狂気に、目の前の赤子がスカルだと確信する。

私は何故という言葉を飲み込んで、今後のことを話しだす。

彼が自身のことを語ったことなどないのだから。

 

「赤子の身体になってしまっては……運びは難しいか…」

 

スカルはカルカッサの最高戦力であり、脅威の象徴だ。

今スカル無しでは折角巨大になったカルカッサの脅威が地に落ちてしまう。

それはダメだ。

スカルの体面をどうにか守らねば。

どうやってもスカルを手放してはならない。

ファミリーの利益は勿論のことだが、彼はカルカッサの恩人だ。

彼を疎ましく思う者はカルカッサには存在しない。

 

「ならば、カルカッサファミリーの軍師をしないか?」

 

君ならばきっと、今よりも強く大きな組織に出来るだろう。

君ならばきっと、今のマフィア界を覆すことが出来るだろう。

君ならばきっと…これから新たな時代へと導いてくれるだろう。

 

「君の洞察力ならば的確な指示なども出来るだろう」

 

私は君を信じよう。

 

「君ならば私も安心して背中を任せられる…君のお陰でカルカッサは巨大な組織に成り上がったのだから」

 

私は君に背中を預けよう。

 

「君の意思を優先させるがな…どうだ、私と共にカルカッサをより強く、巨大にしてくれ」

 

だからどうか……この手を取ってくれないだろうか

 

「さぁ…この手を…取ってくれ」

 

 

また君に魅せられる日を待ちわびているのだ。

 

狂気を

 

君の狂気を

 

怨嗟を背負った君の狂気はなんと美しいものか。

 

 

 

小さな手のひらが私の手のひらに触れたその瞬間

 

狂おしい程の恐怖と悦楽が背筋を駆け巡った。

 

 

ああ ここからは 未知の領域だ

恐怖はある

畏怖(いふ)はある

だがそれ以上に

 

彼が手を取るに値する者であるという信頼にこれ以上なく歓喜したのだ

 

 

スカルがカルカッサファミリーの軍師に任命された瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

ポルポside

 

 

ゴポ……ゴポ…

 

薄暗い溶液の中でそれは息を吹き返した。

 

「やった!復元に成功したぞ!見ろ、No.3を!」

「ああ、やっと俺達の研究の成果がっ」

 

数百年…(いな)、数千年…(いな)、数万年…(いな)(いな)

遥か(いにしえ)息衝(いきづ)いていたソレが今この時永い眠りから目覚めた。

 

ゴポリ……

 

「何だ…これは………頭足類…だよな?」

「だと…思うが…タコ類ではないのか?」

「いやだが…外套膜(がいとうまく)に鱗のようなものが…」

「何?」

 

 

神話は覚醒する。

 

 

赤子のように知識も理性も言語も、何もかもないソレは情報を欲した。

水槽越しに耳にする音を脳内に取り込み、知識として構築する。

数か月という時を経て、ソレは幼稚ながらも言語を理解した。

 

「今日はNo.3の粘膜…それと毒の有無を確認する」

 

防護服を十全に着用した彼らはソレに近付いた。

 

「頼むから暴れないでくれよ…」

 

ソレは“動かないで欲しい”という意図を理解する。

だが何もせずにただ沈黙するほどの理性を身に付けてはいなかったのだ。

自らを触れたソレは自己防衛で、身体の奥底に存在する毒袋から目一杯毒を吐く。

 

「うわっ、墨か!?」

「おい、待て、迂闊に動くな!」

「毒を含んでいる可能性がある…一旦空気中・水中の成分解析と解毒剤をこの実験室に散布する」

「わ、分かった…」

 

ソレは再び瞳を閉じた。

 

「これといって毒性が検出されたわけではなかったか…」

「解毒剤散布終わりました」

「よし、粘膜の分析を始めよう…さて、と…」

 

彼らが念入りに空気中の毒素を確認し、防護服を脱いだその時だった。

脅威は牙をむく。

 

「うっ、うぐ…が!?」

「どうし、うっ……息が…」

 

一人、また一人と倒れていく様を、水槽のソレはひたすら眺めていた。

誰もが息を引き取ったその時、(ようや)くソレはゴポリと息を吐く。

水槽の中の気泡に、黒い液体が混じり、水面に到達したところで薄れて消えていった。

彼らはソレを恐れ、凍結することを決断する。

ソレは緩やかに凍らされていった。

 

 

 

 

 

ねむい……ねむい……

 

うごけない……

 

うごけ……な………ぃ…

 

いやだ、いやだ……いやだ…

 

おきろ、おきろ、おきろ、おきろ

 

 

おきろ

 

 

…ビキ……

 

おきろ

 

ピシッ………

 

おきろ

 

————————————パリンッ!

 

 

でられた  でられた

みず じゃない どこ ここ どこ

だれもいない 

 

「お前、カルカッサファミリーの!」

 

おと こえ する どこ

 

いた 

 

あれだ あれだ あれだ

 

「…ボスの所まで案内する、ついてこい」

 

あれだ あのひとだ 

あれは つよい つよい

 

 

ああ いってしまった

まだ おきたばっかで あまり うごけない

また くるかな 

 

きた あのひと きた

いってしまう だめだ いかないで

ぼくも ぼくも つれていって

 

やった やった

あそこ でられた やった

ぼくは このひと ついていく

ああ はやく きづいて

 

 

「うお、何だコイツ…タコか?」

 

きづいた やった やった

そと つれていかれた

はこ はこ はこ に いれられた

おうち?

ぼくのおうち

あのひと いなくなった

どこ どこにいるの どこ

 

いた いた ねむってる 

 

「ふわぁ……あ?………あqwせdrftgyふじこlp‼」

 

? ?

なんていったの わからない

しらない おと わからない

 

「なななん……!?庭に出したハズなのに…」

 

にわ? にわ なに

わからない しらない おと わからない

 

「…コイツ、タコじゃねぇのか?……海に帰すか、えーとバケツ、バケツ…」

 

おうち いれられた おうち

はこばれてる どこ どこいくの

 

「せーのっソイ!」

 

うわぁ うみ うみ うれしい

ひろい たのしい

あれ? あのひと どこ いない

どこ?

におい こっちから あのひと こっち

 

「ゲッ、戻ってきてる……何でだ」

 

あのひと いた いた

いっしょ いる あのひと

 

「住みついてやがる……マジか……」

「………やべぇ、またべったら漬けが腐りかけてる…」

「………おいタコ、食べるか?つーかタコの主食ってなんだよ」

 

なに それ なに 

おいしい おいしい これ おいしい

 

「全部食った……生ごみ減るな…」

 

かんがえる あのひと かんがえる

こっちくる 

 

「ポルポとかそんなんでいいか、よろしくポルポ」

 

ぽるぽ ぽるぽ なに それ なに

 

「にしてもポルポってタコなのか?タコのような何か…?」

 

ぽるぽ ぼく? ぼく ぽるぽ?

ぼくはポルポなの?

 

 

 

「ポルポ、留守番よろしく」

 

あれから ことば もっと わかった

すかる これから しごと

ぼく てれび みて ことば おぼえる

 

おなか すいた ごはん

おうちの そと よわいの たべる

でも るすばん すかる たのんだ

かえるまで おうち でない

 

「ただいま」

 

すかる てれび みる

 

「うわ、最近この辺りに猛獣出るのかよ……熊も食べられてるって…やべー」

 

くま くま きのう たべた あれ くま

おいしかった

 

「お前もあんま外出るなよ、食われるかもしれねーぞ」

 

だいじょうぶ ぼく が たべる そいつ みつけたら

すかる は ぼく が まもる

 

 

「お、お前最近でかすぎね…?」

 

たくさん たべたから おおきく なった

もっと すかる まもれる

 

「2m50㎝ってマジかよ…どれだけ成長すんだ?」

 

もっと もっと おおきくなって すかる まもる

 

 

「留守番よろしく」

 

すかる が しごと いく

まって まって きょうは だめ

いっちゃ だめ あぶない あぶない

 

「おい、待ってろって、へばりつくな…あーもう…そのままくっついてろ」

 

ぼく が まもらなきゃ 

すかる ぼくが まもらなきゃ

もり の なか なにするの

たから きらきら さがす

すかる うしろ だれか いる

すかる! こっち! だれか いる!

 

「いっ…」

 

すかる の くび を うしろ に むける

そこに だれか いるよ 

すかる あたま なでた

うれしい うれしい 

すかる どこか いった

 

 

あぶない あぶない

いやな いやな きもち あぶない

すかる あぶない

いっちゃ だめ!

 

「ち、小さくなってる!」

「な、何故だ!?」

 

ほかの ひと ちいさく なってる

すかる も ちいさく なってる

すかる すかる だいじょうぶ?

 

「何だ!ソイツ!」

「た、タコ!?」

 

すかる だいじょうぶ?

かえる 

ここ あぶない あぶないよ

 

ばいく はこぶ ぼく おおきいから

はこべる

 

おうち かえった 

すかる ちいさい まま

 

「…なんか色々ありがとう、ポルポ……お前のお陰で帰れた」

 

ほめられた! ほめられた!

うれしい うれしい うれしい

すかる だいすき 

 

「え、ちょまっ」

 

すかる は ぼく が まもる

まもるよ

 

 

「ポルポ、また俺を運んでくれー」

 

すかる しごとば はこぶ

すかる ちいさい かるい

しごとば すかる つれていった

すかる と おなじ かっこう の ひと おかし くれた

やさしい 

すかる の こと しんぱい してる

いい ひと

 

 

すかる かえる

 

「くそ、泣きたい」

 

すかる かなしいの?

ちいさくなって かなしいの?

あそぼう かなしいの なくなる

うみ! うみ! うみ いこう!

たくさん あそんだ! あそんだ!

すかる つかれて ねた!

たのしかった!

すかる げんき なったら うれしいな!

 

 




スカル:やったね、軍師に昇格だよ。ポルポに海に引き摺り込まれて気絶した。
カルカッサボス:スカルに認められたと思って舞い上がっている。ブラック社長()
ポルポ:スカルLOVE。TVで報じられていた化け物にあったら必ず殺そうと息巻いてるが果たしてポルポがそいつにあるのだろうか、いやない。森の中でポルポが草陰の方に見えた人物は軍服を着て上官の後をストーキングしていたあの人(今度出すので大っぴらには言いません)、知能指数4歳程度。スカルと海で遊んで満足している。

ポルポside見づらっ……
すみません、動物(それも生後数か月)視点なので漢字はマズいなぁと思っての苦肉の策です。
いまいちポルポの視点で描写が分からなければ5~9話を見ていただければ…。今までのものをポルポ視点にしただけで、状況は他視点で分かると思います。


↓ポルポのフィルター越しスカル。

【挿絵表示】

※実際のスカルは絶望しています。白目向いてます。





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