沢田綱吉(Skull)side
『スカルが並行世界に飛んでしまった理由が判明したかもしれない』
電話越しに聞こえた正一君の声には疲労が見え隠れしていたけれど、俺はそれを気遣う余裕もなく彼の放った言葉に喰らい付く。
「え、本当!?」
騒動の糸口が漸く見つかったのは、包帯だらけの俺にとってかなり嬉しい吉報だった。
正一君は日本にいるのでイタリアには来れないが、代わりにスカイプで話すこととなり、俺は近くにいた人にだけ集合を掛ける。
皆も中々ぼろぼろになっていたから、今回の報告には眉間の皺を薄くしていた。
イタリアのスカルの家では一同がリビングに集まり、スカイプの接続を眺めている。
『あーあー、聞こえているかい?』
「聞こえてるよ、正一君」
『分かった、原因がまだ明確にこれとは言えないけれど…限りなく正解に近い推測だと思う』
『スカルが並行世界に行ってしまったのは、ランボ君の持っているバズーカー…ここでは時間干渉系の10年バズーカーかな?これを幾億のパラレルワールドにおいて同時刻同じ対象に使用することで、時系列という縦の干渉ではなく並行世界という横の干渉になってしまった…というのが僕の推測だ』
まさに偶然発覚した隠し機能のようなものだね…と眉間に皺を寄せながら正一君は顎に手を持って行く。
「同時刻で…同じ対象……?」
「うん、君に聞いたその時の現状、またそこにいるスカルの飛ばされた前後の状況……そしてバズーカーの性質、並行世界の移動の性質を考えてその答えに辿り着いたわけなんだけど…」
正一君は少し詳しくいうと、と前置きをして並行世界の移動における基本的なことを話し始めた。
俺理解出来るかなーって少し不安になりながらも、真剣な正一君を見ては何も言いだせず聞き入る。
並行世界へ飛ぶ時、その時の自分と飛ぶ先の並行世界の自分の性質がどれだけ近いかによって移動先の優先順位が決まるんだ。
例えば、僕が暴力的で素行の悪い人柄で家庭環境がかなり酷い所だったとして、移動する並行世界はその僕の現状と性格に近い状況の所へ飛ばされる。
だから白蘭さんの未来での闘いで僕が見てきた並行世界は、かなり今のこの世界の僕たちと状況が近かったところだった。
綱吉君がボンゴレにいて、アルコバレーノの顔ぶれが一緒で…とかそういう基本的な条件は一致してたってわけ。
今回スカルが飛ばされたのは、状況の一致だね・・・それも限りなく近く、限りなく同じ状況だ。
同時刻にランボ君がスカルに対してバズーカーを打つ、という状況と、バズーカーの時間軸の干渉力…いわば点在する個と個に対する隔たりへの干渉力が作用した結果かな。
時間と時間の隔たりと、並行世界の分岐に対する空間の隔たりへの干渉って、かなり類似していて、10年バズーカーは元々時間干渉を目的として作られていたけれど、工作過程が少しでも異なっていたなら並行世界への干渉という機能に辿り着いていたと思う。
話を戻すけど、ここまで僕の推測が正解なら、僕の予想する解決策はかなり面倒なことになる。
10年バズーカーって一応5分経てば戻るだろう?あれって時間干渉の副作用部分で、いわばデメリットの部分だ。
でもその部分って時間に干渉して個を入れ替えるための目的で作られて出来たデメリットであって、時間に対してでしか発生しないデメリットなんだ。
ええと、つまり…僕の言いたいことは、横の干渉…パラレルワールドという並行世界に対して発症するものではないんだ。
だからどれだけ時間が経っても彼が戻らない原因なんだと思う。
そこで、解決策なんだが……これ一つでも間違ったらかなり面倒になるというか……うん、とても危ないことになる。
さっきも言った通り、同じ状況下でバズーカーを同時刻に打てば高確率…っていうかもうほぼ元通りだと思う。
そこは白蘭さんの能力で時間とか調整して一斉に打てばいいんだけど、万が一ズレた時を想定すると二つの可能性が浮上してくる。
一つ、その世界で過去と未来が入れ替わる。
これは5分というタイムリミットがあるからまだマシだけど、デメリットとしてどちらの未来と過去が入れ替わるか分からない、って点かな。
並行と直線が入り組んで予想だにしない問題が新たに発生する可能性は十二分にある。
二つ、あちらの世界とこちらの世界が繋がらず、また別の新しい並行世界にスカル本人たちが飛ばされてしまうことだ。
これがかなり厄介かな……っていうのも、さっきも言った通り並行世界への移動先には優先順位があるって言ったよね?
同じ状況または性質をもつ、というのが優先順位で……こちらに飛ばされた明るい方のスカルが同じように明るい性格のスカルのいる世界へ飛ばされる・・・のは全然マシだしまだ解決の仕様があるけど、厄介なのが次の可能性だ。
こっちの……えっと…暗い過去を持つスカルの飛ばされた先の世界が、同様に壮絶だった、または今以上に厳しい状況下であった場合……スカルの命の保証が難しいってことなんだ。
飛ばされた先が、もしスカルが自殺を思い止まらなかった世界だったら?そのままカルカッサに属していた世界だったら?誰も助けることがなかった世界だったら?もう目も当てられないよ。
十数分開閉を繰り返した正一君の口が動かなくなった。
俺は正一君の説明が全て理解出来たわけじゃないけれど、一歩間違えれば最悪な事態を起こしかねないことだけは分かる。
「だが、これ以上先延ばしするわけにもいかねーだろ…古代生物の様子からして、な」
それに並行世界を跨いでいる二人にバタフライエフェクトが起こらないとは限らない、と言って締めくくったリボーンの表情はいつになく険しくて、俺は何も言えず不安だけが脳裏を過ぎっていく。
『取り合えず、白蘭さんの協力が大前提だから僕は彼の所へ行って詳しく話してくるよ』
「う、うん…正一君、ありがとう!」
スカイプを切ろうとしていた正一君に慌ててお礼を言えば彼は苦笑して一言またねと呟き、ディスプレイは黒く塗りつぶされた。
俺は自分の包帯だらけの腕が視界に入って、この前戦ったポルポのことを思いだす。
こちらも全力だったし、その場に居た守護者が全員加勢していたのに、まだポルポ自身はぴんぴんしてる上に疲れた様子はない。
ユニが俺達の中で一番スカルのメンタルケアに貢献してたからか、ユニの前ではポルポの荒々しい態度が鳴りを潜めている。
それでもいつまた暴れるか分からない状況で、本当に早く本人が戻ってこないとヤバイと内心泣き言ばかりが溜まっていく。
正一君の推測で合ってるなら、解決策も恐らくあれだけだ。
賭けに負けた時が恐ろしいけれど、それしかないなら…もう祈るしかない。
「リボーン」
「何だ?」
「上手く、いくかな?」
「さぁな、えらく弱気だな」
手に汗が滲む。
少し情けない声が漏れるが不安を飲み込むには包帯だらけの両腕が痛すぎて、瞼の裏に映る孤独を背負う小さな背中に伸ばした手が届かなくて、ここ数日で突きつけられた不毛な可能性が眩しすぎた。
「まだ……スカルの笑顔見てないんだ……」
嫌味なほど笑ってて
「声…よく、聞き取れてないんだ……」
沢山喋って、大きな声を張り上げて
「生きたい…って…・・・…思ってくれてるかも分かんないっ・・・」
何も悲しいことなんてありませんって顔で生きていた
生きていることが当たり前だと、信じて疑っていなかった
「ずるいよ……どうして世界が違うだけでっ・・・…」
スカルが無事で帰ってくるかとか、そういう不安よりも、胸を
羨ましかった。
そうだ、俺は羨ましがってた。
どうしてこの世界のスカルはこんなに悲しい思いしてるのにってずっと考えていた。
俺がスカルを助けなきゃってずっと思ってたけどそう簡単にいかなくて…でも笑ってる並行世界のスカル見てたら、やっぱ俺に力が無いからとか、そういうことばっかり思い込んで……
「ツナ」
俺の鼓膜を震わせるリボーンの声は、いつものような凛とした声じゃなくて
「お前は前だけ見て進め」
どこか震えてるような…
「お前は確かにあいつの未来を救った」
何かを押し殺すような
「お前に振り返るアイツの過去の
必死に押しとどめているような
「
ひどく 悲しい 声だった
スカルside
日本に拉致られて数日だったが帰してもらえる様子はない。
ゲーム中毒症状がヤバイし、普通に暇だし退屈だし死にそう。
これはあれか、ずっとPCに向かって引き籠る俺に対して社会復帰施設に入れようとかそういう魂胆で日本に拉致ってきたんじゃなかろうか。
退屈?暇?なら外出があるじゃないか!とか馬鹿だろ、氏ね。
少しばかりの抵抗と思い、パーカー着ながらクーラーガンガンの部屋で一日を過ごしている。
そのまま電気代増えろ。
毎日読書ばかりで、心なしが頭が良くなった気がする。
同居人と起きてる時間が被らないように頑張って夜起きようとしてるけど、偶に気絶するように爆睡しちゃうときがあるから睡眠時間帯にかなり差がある。
この前部屋に鍵掛けたら窓からリボーンがコンニチワしてきて諦めた。
この家誰かしら絶対に家にいるから気が抜けない。
ストレスマッハすぎてゲロ吐きそう。
イタリア帰りたいよー。
ポルポー、俺の癒しのポルポー。
そんな俺は昨夜は頑張って夜更かししたから起きたのは昼過ぎだ。
これで誰も家にいなけりゃいいんだけどなーと期待はせずに、寝ぼけた頭で階段をゆっくりと降りれば、案の定綱吉君がいた。
それも初めてみるお友達までいるときた、うるさくなるな……と他の友達が来た時の騒がしさを思い出しては顔を顰める。
まぁ直ぐに部屋に戻ればいいかと思って洗面所の場所へとトボトボといった表現が合いそうな足取りで向かって行く。
俺以外にも子供がいるこの家では子供用の台があって、それに登らないと鏡が見えないので、俺はそれを設置して登りながら蛇口を捻り水を出す。
両手に掬った水を顔に何回か浴び、段々と目が冴えていく感覚と共に鏡を見てふと自分の首の周りに気付いた。
痒くて無意識に引っ掻いてできた引っ掻き傷が化膿していて、痛々しく赤くなっている。
うわあ…と痛みのないその赤みに指を伸ばして確認していると、皮膚が少し剥がれている個所に目がいく。
邪魔だなと思った俺はそれを引っ張るが、ささくれのように神経と繋がっているのか鋭い痛みが走り、引っ張る手を止めた。
だがしかし一度気になり出したらずっと邪魔に感じてしまった俺はどうにかしてこのちょっぴり出た皮膚を千切りたかった。
辺りを見渡すと、歯ブラシが置かれているところにカミソリを発見して、いっそのことこれでブッツリ切ってしまおうと考えた俺はカミソリに手を伸ばす。
皮の端っこを摘まみ、カミソリを恐る恐る当てて、後は引くだけという時だった。
「スカル?」
ガラリと大きくはない音を出しながら開かれたドアと綱吉君の声に、肩をびくつかせてしまった俺はカミソリをそのまま押し引いてしまった。
まあ血が出るよねって話で、一瞬小さな痛みが首に走ったが、俺はすぐさま声のする方へ視線を向ける。
「スカル!」
怒号のような悲鳴のような、どちらとも言えぬ叫び声が鼓膜を震わせる。
するとそこには目を見開いてこちらを凝視する綱吉君の顔があって、どことなく怒っているような顔にちょっと怖くなった。
あ、勝手に使ったこと怒ってるのか。
いやでも皮一枚切り離そうとしてただけでそこまで怒らなくても…?
脳内で咄嗟に考え始める言い訳を他所に、綱吉君が俺の手を握りしめ、持っていたカミソリを奪って放り投げた。
カミソリが視界外で地面に落ちて数度バウンドした音だけ聞こえた。
綱吉君が周りをきょろきょろしている様子に、あ、勢い余ってカミソリ手からずっぽ抜けたのかと納得する。
馬鹿だなと言うには綱吉君の顔が怖すぎるので口を閉じるが。
「おい、どうした…!」
「つ、綱吉君どうしたんだっ・・・!?」
リボーンとさっきの新しいお友達がドアから顔を出してきては固まっている。
そりゃ自分の友達が赤ちゃん相手に本気で怒ってるとかビックリ映像だよな、うん。
リボーンがティッシュを持ってきて綱吉君に渡すと、綱吉君がそのまま俺の首に当ててきた。
そこで俺は首から血が垂れてることに気付いたけど、痛みなんてヒリヒリするくらいだしあんま気にしていない。
というか綱吉君の顔が怖い。
「ス、スカル……何・・・してたんだよ…?」
いやそこまでカミソリ使われたのご立腹なのかよ。
いやまぁそっか、他人にカミソリで鼻毛とか剃られたら堪ったもんじゃないよな。
これは…一応首の皮を切り離そうとしたとだけは言い訳した方がいいのか。
そう思った俺は口を開き声を出そうとしたところで首に衝撃を受けた。
そこで俺の意識はブラックアウトした。
沢田綱吉(原作)side
「え、元の世界に戻る方法が見つかったの?」
それは正一君からの電話で、俺は目を丸くして持っていたコップをそのまま地面に落としてしまった。
『といっても僕が見つけたんじゃなくって、並行世界の僕が先に原因を特定して白蘭さんを通じて教えてくれたんだ』
「そうなんだ、それでどうやって戻すの?」
『それが……うーん、少し複雑っていうか単純っていうか、取り合えず綱吉君の家にお邪魔してもいいかい?』
「ああ、それなら全然大丈夫だよ」
じゃあ今からそっちに向かうね、とだけ残して通話が切れたところでコップを落としたことに気付き、俺は慌ててティッシュを数枚手に取り、僅かに塗れている床を拭く。
水を吸い込んだティッシュをゴミ箱に捨てた俺は、ふとスカルがいるであろう二階へと目線をズラす。
海に行ったきり外に出ようとしないスカルに悩んでいた俺は、そのままにしてやれと告げたリボーンの顔を思い出した。
何があったのか分からないけど、リボーンはなんだか複雑な表情をすることが多くなったように思う。
まあスカルが原因なんだろうなぁってなんとなく分かるんだけどさ。
それよりもやっと今回の騒動の解決が見えてきたけど、本当にこれでいいのかって考えてしまう俺がいる。
スカルの心の傷はとても深いし、これから治っていくって保証もない。
元の世界に帰してもただ息の詰まるだけの生活を送るんじゃないかって何度も考えては、ただ元の世界に帰すことが正しいのかが分からなくなる。
けれど、世界の違う俺達に心を開いてくれるかと言われれば、絶対にないんだろうなって、なんとなく分かってしまった。
だから元の世界に帰すのが一番彼にとって安心なんだって言い聞かせている。
正一君からの連絡の後、数十分後に本人が来て、今回の件の解決策を説明してくれた。
失敗した時の危険性もちゃんと説明されたが、現状これしか方法はないと言われた上に、あちらの世界では少し切羽詰まってる状況らしく新たな方法を探す時間はないらしい。
ずっと部屋に閉じこもっているスカルを思い出しては、これ以上ストレスを与えるのも悪いだろうと思いその方法に了承した。
ただ、リボーンは複雑な面持ちで俺達の会話を見ていて、最期までその口を開くことはなかった。
「一応白蘭さんを通して向こうの世界とコンタクトを取ってるんだけど…」
「だけど?」
「白蘭さんが乗り気じゃない…っていうか、何か怯えてるような……僕の勘違いかもしれないけど」
「怯える?白蘭が?」
「見間違いかもしれないから絶対とは言えないよ、でも…様子がおかしいことは確かだ」
少し心配だよ、と告げた正一君の言葉に嘘はなく、本当に白蘭を心配している。
白蘭が怯えている姿なんて想像できない俺は何も言えずにいると、ふと階段の方からフローリングが小さく軋む音が聞こえた。
あ、と声を漏らした俺の視線の先には、眠たげな顔を隠さず身の丈に合わない階段を下りているスカルがいた。
昼夜逆転といよりも睡眠が不安定という言葉がしっくりくるほど寝る時間がバラバラなスカルは、昨夜もかなり遅くまで起きていたのか今起きましたと言わんばかりに目を擦っている。
リボーン曰く赤ん坊の体だと時間が来たら自然と眠くなると言ってたけれど、やっぱり精神的なストレスで眠れないのかな……
夏なのにフード付きのパーカーを着ていて、体温調節大丈夫かなと心配するのはもはや日常茶飯事だ。
「おはようスカル、ちゃんと眠れた?」
スカルはちらりとこちらに視線を向けては、正一君を捉えた瞬間眉を顰めて洗面台へと歩いていった。
「警戒…されてるのかな?」
頬を掻いている正一君に誰にでもああだよと教えてると、本当にこちらのスカルとは別人だね、と苦笑していた。
馬鹿丸出しのスカルを思い出しては、そういえばあっちでは凄いことになっているんだろうなと思い至る。
情緒不安定だった無口なスカルがいきなり大声で騒ぎだしていたに違いない、ある意味怖い。
正一君と少し喋っていた俺は、顔を洗いにいったスカルがいつまで経っても洗面所から出てこないことに気付いて不審に思った。
正一君に少し見てくると告げて、洗面所へと足を向ける。
「スカル?」
水の流れる音がしていた。
「な、に……して……」
ドアを開けた俺の目に映ったのは、水流の音が響き渡る中、スカルがカミソリを首に当ている姿だった。
見たことのない引っ掻いたような、痛々しく赤みを帯びた首からプツリと赤い粒が溢れたと同時に俺は心臓が冷え切るような錯覚に襲われながら、無意識に腹の底から叫びあげる。
「スカル!」
俺は即座にスカルのカミソリを持つ手を握りしめ、カミソリを奪いあげ遠くへと放り投げた。
呆然と目を見開きながら俺を見つめるスカルを他所に、周りを見渡してティッシュを探していると、背後から忙しない足音が聞こえる。
「おい、どうした…!」
「つ、綱吉君どうしたんだっ・・・!?」
聞き慣れたリボーンの声と、先ほどまで喋っていた正一君の声に俺が振り返れば、二人にもスカルの首元の血液と地面に投げ捨てられたカミソリに気付いたのか顔を強張らせていた。
その中でもリボーンが我に返り、リボーンから近かったティッシュを手に取り数枚取り出して俺に渡してくる。
押さえてろ、と短く、そして的確な指示に俺はしどろもどろになりながらも、未だ呆然としているスカルの首にティッシュをあてた。
薄っぺらいティッシュが赤く染まり、俺の指を濡らす。
「ス、スカル……何・・・してたんだよ…?」
喉が引き攣り、絞り出した声は情けなく震えながらも、俺は怒りと驚愕と恐怖を隠さずに目の前のスカルに問いただした。
スカルの過去を記憶から引き摺りだしては聞きたくない、認めたくない言葉だけが脳裏を過ぎる。
どうして自殺なんて……と。
小さく息を漏らしたスカルの開いた口から吐き出される言葉が怖くて、咄嗟に耳を塞ごうとした時、スカルの瞳の奥が光を失い力を無くしたように体が傾き俺へと倒れた。
予想だにしていない事態が連続で起こったことに今度こそ頭がパンクしそうだった俺の鼓膜に、落ち着いた声が響く。
「ツナ、リビングにそいつ連れていけ」
そこで漸くスカルがリボーンによって気絶させられたことに気付いた。
俺の視界の端では正一君が息を飲んでいる姿があり、少しばかり冷静さを取り戻してからスカルを抱えだす。
洗面所を出てリビングに向かう際にフードで隠れていたスカルの首元を横目でちらりと覗き見た。
先ほどのカミソリの傷は見た感じでは深いわけではなく僅かに安堵の息を漏らしたものの、首に残る引っ掻いた様な傷痕に眉を
いつからあったのかすら分からないけれど、ここ数日で出来たような傷じゃないと分かるのは、何度も上塗りしたように爪の引っ掻き痕が重なっていたからだ。
痒いだけでここまで傷が出来るわけないよな……と、これが情緒不安定からくる自傷行為であることが紛れもない事実だと分かり、胸が締め付けられる程苦しかった。
顔は水で濡れ、いつもの顔色の悪さも相まって、まるで水死体だと思ってしまった自分が心底怖くなる。
それと同時にひどく悲しくなった。
海に行って、部屋で遊んで、なるべく一人ぼっちにしないように家にいるようにしていた。
少しでも安心してくれればと思って必要以上に気を遣っていた自覚があるからこそ、今回のことは自分の努力が全部水に流されたような気分にされた。
俺達の声はスカルに届くことはない。
超直感が告げているのだ。
スカルの領域には踏み込めないのだと。
「無駄だったのかなぁ…」
無意識に零れた言葉に正一君が心配そうに俺を見つめてくる。
早く元の世界に帰すべきなのは、こちらも同じなのかもしれない。
咄嗟の対応もままならない上に、俺達はスカルを知らないからこそ手が出せないのだ。
赤く染まるティッシュを一旦離して傷口を覗いてみれば、既に出血は止まっていて大きめの絆創膏を探してそこに貼ろうと考えたが、広範囲に渡る引っ掻き傷が傷付いたらどうしようと思い至り、リボーンが来るまで待っていた。
リボーンが洗面所から戻ってきて、スカルの傷の手当をした後部屋に連れて行かずリビングで起きるまで待つことになり、重苦しい空気の中俺は口を開く。
「リボーン、早くスカルを元の世界に帰した方がいいと思うんだ」
「ああ、分かってる…ここにいるのはコイツにとって良くないんだろうとは薄々気付いていたからな」
どうしてこの世界がスカルにとって良くないのかなんてちっともわからないけれど・・・一生分苦しんだあの世界に、スカルの居場所があることが心から喜べない自分がいた。
包帯に包まれているもがき苦しんだ首の傷痕が、喉を裂いてまで悲鳴を叫んでいるように見えては、心の奥底が冷えていく恐怖に身震いする。
俺達の声は彼に届かない
そして
彼の声も俺達に届くことはないんだと――――――…
彼の閉じている瞼の裏側にある紫色の瞳を思い出しては、どうしようもなく泣きたくなった。
ーSkullー
スカル:ささくれは爪切りで切り離すタイプのニート。
ユニ:色んな意味で天使、異論は受け付けない。
ツナ:折角解決策出てきたけどハイリスク過ぎてSAN値ピンチ!
リボーン:ツナ同様にSAN値ピンチ。
ー原作ー
ツナ:気遣いが全部裏目に出ている、スカルの自殺()でSAN値ピンチ。
リボーン:ツナ同様SAN値ピンチ、仕方ないね。
白蘭:SANピンチ、一時的発狂は治ったが完全にトラウマ化、なにあの世界怖い。
わぁい、大SAN事ですね♡