Skull   作:つな*

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skull 番外編3 part5

 

 

ゴキリ……パキ…グチャ……ゴキュ…ズズ…

 

 

何かが折れるような音がする。

 

何かを(すす)るような音がする。

 

耳を澄ませても聞こえるのはこの不気味で不穏な音だけで、今にも耳を塞いでしまいたくなる衝動に襲われるのだ。

しかしながら己の指は筋一本すら動いてはくれず、額に浮かぶ汗が頬を伝い顎を濡らしていく。

今にも喚き叫びたい、そして解放されたい、と願わずにはいられなかった。

一体なんだというんだ、一体なんだというんだ!

コレは一体何なんだ!

頭が可笑しくなりそうなほど、恐ろしく、(おぞ)ましい音が、耳から侵入し次第に脳を侵していく。

ああ、誰でもいいから耳を塞いでくれ!

耳を侵すのは砂嵐のような雑音と、不快極まりない、あの、音―――――……

 

 

『ザザッ――――ザ…――――――()ね――――――』

 

 

急に心臓が動かなくなったように呼吸が不自然に止まった。

恐怖で動かなくなった体はついに内蔵までも緩やかに殺していく。

肺が空気を取り入れることを許さず、心臓が血液を循環させてはくれない。

 

死が 明確な死が すぐそこまで 忍び足で近づいてきている

 

酸素が足りなくなった視界が段々と霞んでいく瞬間、意識がいきなり引き摺り上げられたように浮上した。

ヒュッ・・・、と声か判断出来ない程乱れた呼吸音が聞こえ、それが自身のものであることに気付き、指先まで凍っていた神経が解凍していくように熱を帯びる。

体中どこもかしこも汗でぐっしょりと濡れていることにすら気付かず、息をしようと必死になる。

 

 

夢を、見ていたのだ。

 

 

その事実に辿り着くまでの間、恐怖と不安に押し潰されそうな自身の体を力強く抱きしめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこはイタリアのローマに位置する一軒家であり、広大な森である私有地の中に存在していた。

一般人はそこに家があること知らない、否、そこに森があることすら認識することはない。

そんな人知れぬ場所に、一台の黒のベンツが紛れ込む。

 

「スカル!」

「ユ、ユニ!?」

 

敷地に我が物顔で聳え立つ立派な一軒家の扉が盛大に開かれ、フローリングを滑る小さな足音が廊下に響き渡っていると、リビングに着くなり足音の主は小ぶりな唇を開き声帯を震わせる。

口から零れた少女の声は、今にも溢れんばかりの不安と困惑を押し込んだように震えていた。

そんな少女の呼び声に一目散に反応した紫色の髪の色を持つ小さな影、スカルが視線を声の主へ移し目を見開いて名前を呼ぶ。

 

「ほ、本当に…並行世界のスカル、なのですね……」

「お、おおう?お前何で来たんだ?」

「えっと……あなたが……スカルが心配で会いに来たんです、それにリボーンおじ様にも別件で呼ばれていたので…」

 

目の前に突然現れた人物を知っていれば誰しもが名前を呼び、何故ここにと続けるはずのその現実に、少女は困惑した表情を隠せずにいた。

口走りそうになった何かを誤魔化すように笑みを浮かべながら心配そうにスカルを見つめる少女ユニは、視線を交わしているスカルへと目線を合わせるように膝を折る。

 

「お、おい…何でそんな見つめてくるんだよ」

「あ、いえ、すみません……その、並行世界のスカルが新鮮で…」

 

まじまじ、と音が聞こえる程興味深そうに自身を見つめるユニにたじろいでいたスカルが一歩後退すると、ユニが慌てて視線を逸らす。

ユニの視線が途方に暮れている中、当の本人であるスカルはデジャヴを感じていたのだ。

 

こちらの世界で会ったどの人物も、俺と出会うと毎回驚いた表情をして、そのあとじろじろと見つめてくる。

 

何度同じ対応されても慣れないもので、並行世界であると認めざるを得ないと思うと同時に、こっちの世界の自分がどんな奴なのかが気になって仕方なかったスカルは思案顔でリボーンが呟いたヒントである『内気な野郎』という言葉を思い浮かべた。

この時スカルの頭で喋らない=沈黙の方程式が出来上がり、沈黙な俺…カッコいいかもしれない、と思ったりしていることを誰も知らないのだ。

決してそういうのじゃないから、とスカルの考えが見透かせるものがいたならばそう訴えるかもしれないが、残念ながら誰も彼の頭の中を覗けるような者はいなかった。

さて、お決まりの反応に困惑しているスカルだが、それよりも、本人の自覚外で重大な問題を二つほど抱えている。

一つはリボーンのよそよそしさに不気味を通り越して気持ち悪いことだ。

いつもならば蹴りや拳の何発か彼に向かって放たれているはずだが、どれだけ彼がいつも通りに過ごしたところで声を荒げることはあれど手を出すどころか近づきもしない。

いつもと違うよそよそしいリボーンの態度に、スカルの調子が狂う…………なんてことはなく、逆に海老ぞりになるほど虚勢やら見栄やらを張り倒していることには呆れ返すべきだが、これまた残念なことにそれを指摘してくる人物はいなかった。

リボーンの態度がかなり気になりながらも見栄っ張りな態度を貫き通しているスカルはもはや称賛に値すると、この状況を元の世界の彼を知る周りが見ていれば呆れ果て嘆くだろう。

そして二つ目はこの世界におけるスカルのペット、最強の名を冠する古代生物の王ポルポである。

ポルポを見たスカルが即座に気絶してしまった事件は置いといて、主の不在に不安を隠せないポルポは現在庭の方で荒れていたりする。

荒れている、と一言で片づけるには被害がかなり拡大しているが、沢田綱吉は勿論その守護者やリボーン、他のアルコバレーノによって市街地に被害が出ないように必死に食い止められている。

徹夜覚悟で止めに入った彼らの努力が功を成してか漸く落ち着きを取り戻したポルポは、暴れることをやめて家の外で待機していた。

並行世界であろうともスカルはスカル、とは流石に受け入れられなかったらしく、困惑しながら並行世界のスカルをある一種の可能性として観察することで思い止まっている。

それでも事あるごとに並行世界に飛ばされたこちらのスカルの身を案じては、アルコバレーノ総出で鎮められるという大掛かりな騒ぎを起こしていた。

因みに最初のポルポパニック騒動にて、半泣き状態でXX BURNER(ダブルイクスバーナー)をポルポに撃ち込んだ沢田綱吉は後にこう語る。

『ポルポの触手にふっ飛ばされた時、川の向こうで初代(プリーモ)が手を振ってた…』、と。

そんな沢田綱吉を近くで見ていたリボーン氏はこう語った。

『ツナの目が本気で死んでいた』と。

前回スカルを探す旅でポルポと戦ったトラウマがここで容赦なく抉られたのは言うまでもない。

因みにスカルは騒動のあった間始終気絶をしていたという体たらくぶりである。

色々と満身創痍な周りは、波乱万丈な経緯を辿りながらも落ち着いている現状に安堵の息を漏らす。

そんな周りの苦労を何も知らず呑気にイタリアの一軒家にて(くつろ)ぐスカルの元にユニが訪れたわけだが、当のスカルはそのことについてあまり深く考えてはいなかった。

他愛のない話をスカルと交わすユニの瞳には、悲哀や悔恨、憧憬(しょうけい)()い交ぜになった、言い知れぬ激情が渦巻いている。

それを知るのは壮絶な過去を持っているスカルが存在している世界の者達だけであり、蚊帳の外に放り出されていながらもそれに気付いていないスカルはユニの瞳の中に渦巻いている感情に気付くことはなく、理解することはない。

溌剌(はつらつ)でいて威勢のある声に、掠れた小さなか細い声を思い出しては、ユニは目の奥が熱くなるのを感じた。

思わず瞼をふるりと震わせながら瞬きをしようとした時、後方からユニの名前が呼ばれる。

 

「ユニ!来てたんだ」

「沢田さん!」

 

名前を呼ばれたユニが視線を後方へと向けるため振り返ると、そこにはところどころ包帯が見え隠れしている沢田綱吉の姿があった。

沢田綱吉の表情には疲労が見え隠れしていながらもユニに会えたことに喜んでいる。

 

「あちこち怪我をしているようですが大丈夫ですか?」

「ああ……うん、五体満足なだけマシだよ……」

 

一応騒動のことをリボーンから聞いているユニは事情を知っているが、何も知らないスカルの手前下手に言及出来ず、当たり障りのない会話を投げかける。

ユニの会話に違和感を覚えたツナはスカルの姿を視界に捉えて、この場で話せないことなのだと察した後、別で遊んでいるランボ達の部屋へと誘導した。

お気楽なスカルは飛ばされる直前も遊んでいた様に、ランボと似たり寄ったりな性格をしていた為、ツナの言葉にまんまと言いくるめられランボのいるであろう部屋へと向かって行く。

ユニとツナしかいない部屋で、ツナが漸く口を開いた。

 

「ごめんね、いきなり呼んで…しかも、頼み事まで聞いてもらって」

「いえ、気にしないで下さい…それよりリボーンおじ様は?」

「今シャマルの所で傷を見てもらってるからすぐ来ると思う」

「リボーンおじ様まで怪我を…!?」

「掠り傷だし、俺より全然マシだよ…流石最強のヒットマン……」

 

包帯の隙間から見える痛ましい青あざを覗かせながらげんなりと呟くツナに、ユニの曇っていた表情が和らぐことはなく、今回の騒動への不安と困惑を感じながら周りに対して心配していた。

数十分したところでリボーンが姿を現し、リビングでソファに腰を下ろし一息つく。

 

「昨夜もあの古代生物が暴れやがって鎮めるのに苦労したぜ、くそっ」

「スカルがいなくてずっと不安らしいんだ……並行世界に飛ばされたスカルの安全の保障なんて出来ないし気軽に云えるわけでもないし」

「そう、ですね………ですが、先ほどのスカルを見てる限りではあちらの世界で酷い扱いは受けていないと見受けられました」

「うん、それは伝えたんだけど、やっぱり直接安全を確認するまでは暴れそうかなぁ」

 

眉が八の字になったツナの表情に口を(つぐ)むユニ、そんな二人の姿に見兼ねたリボーンが話を逸らす。

 

「そういえばユニ、白蘭に聞いて来たか?」

「あ、はい」

 

何故ここで白蘭が出て来るのかというと、ユニが今回スカルの家に訪れた理由の一つであったからだ。

スカルが飛ばされたその日にリボーンは今回の騒動を探り始めていて、入江正一には原因の特定、白蘭にはこちらのスカルが飛ばされた並行世界の特定と、スカルの安否の確認を頼んでいたのだ。

入江正一の方も原因が分かりそうだという報告があり、後は白蘭が他の世界から引き出して得た情報の報告を待っていたが、白蘭がユニに伝達を頼みだした。

何故白蘭本人が来ないのかとツナが聞いてみたところ、あの化け物と同じ空間にいたくないと真剣染みた音色で返答され、包帯だらけのツナは口を(つぐ)むしかなかった。

確かに現時点で実力がトップクラスの沢田綱吉でさえここまでボロボロにされたのだ、無傷で済むはずがないと思った白蘭は決して悪くない。

余談だが、白蘭が古代生物であるポルポに会いたくないのは何もポルポが混乱して暴れ出した時矛先が自分に向かうからではなく、未来においてポルポが人間を喰らっている最中の音を聞いてしまいトラウマになってしまったからである。

哀れ白蘭。

そんな経緯もあってポルポと鉢合わせを避けた白蘭の代わりに訪問したのがユニだ。

 

「あちら側でスカルは何事もなく過ごしているようです、命の危険は全く持ってありません」

「よかった…!」

 

ユニの言葉に安堵の息を漏らしたツナとは対照に、安心したことを(おくび)にも出さないリボーンはユニの言葉を咀嚼し飲み込む。

 

「あちらでは察しの通りスカルは命を狙われていませんし、狂人ではありません……あの痛ましい過去もないのです、喜ぶべきでしょう」

「う、うん……スカルの態度見てたらなんとなく分かったし、スカル本人にも生い立ちを聞いて確証は取れたよ」

「そうですか、今のところあちらの世界の白蘭があちらの世界の方々に大まかなスカルの事情を教え、下手に無理強いをすることは控えさせてくれています……幾分かは安心できると思います」

「本当に良かった、今回ばかりは白蘭に助けられたよ」

 

疲れた顔を隠さず手で顔を覆うツナにユニが苦笑する。

ポルポの騒動での疲れもあったが、純粋にスカルを心配していた気持ちの方が大きかったツナの心情を察してか、そんなツナの様子を見ていたユニも釣られて安堵の息を小さく漏らした。

 

「入江の報告を待つしか出来ることはねぇが、古代生物の方も警戒しなきゃいけねーしな」

「お、俺もう嫌なんだけど……」

 

リボーンの言葉に顔を青くさせたツナは安堵とは反対の疲労と不安の溜め息を漏らしては唸った。

ツナがちらりと窓の外を覗き見れば、そこには大きな巨体が鎮座している。

昨夜のポルポの混乱と暴走も、元凶はこちらに飛ばされて来たスカルだ。

大きな巨体のポルポが気になったのか、皆が目を離したすきにポルポに近付きポルポの顔を見ては怯えて逃げ帰って来てしまい、それにショックを受けたポルポがパニックを起こして庭を半壊した。

あのポルポを宥めるのも一苦労で、イタリアに来てから何度目かのXX BURNER(ダブルイクスバーナー)を放ち、満身創痍で夜明けの日差しを全身に浴び生を噛み締めながら気絶するように眠ったのだ。

それからスカルとポルポの接触及び接近を禁止させ、誰か一人はスカルを監視することになったのは言うまでもない。

 

何が言いたいのかというと、まだまだ沢田綱吉の苦労は絶えないのだ。

 

 

 

ところ変わって同じイタリアのとある場所で、一人の男がマシュマロを片手に紅茶で唇を湿らせていた。

その男はかつて未来における全並行世界を征服しようと企て、(たくら)みごと沢田綱吉に木っ端みじんに消された男、イタリアンマフィアのミルフィオーレボス白蘭である。

そんな白蘭はある日リボーンから、スカルが並行世界間で入れ替わったことを教えられ、入れ替わった先の並行世界を特定して欲しいと頼まれた。

だが彼らへの訪問は必然的に古代生物と鉢合わせすることを意味し、彼はユニへと情報を渡し伝言を頼んだ。

未来で聞いたあの古代生物の人間を喰らう音と、全てを威圧し食い殺すような声が、苦手を通り越して恐怖の域に至っていることを自覚している彼は、切実に行きたくなかっただけである。

並行世界の自分と情報を最後に共有したのは昨晩で、まだ疲労が残っている体をソファに傾け横になりマシュマロをプレートから一つ摘まみだす。

今頃ユニが彼らの元へと訪れているだろうと予想していたその時、マシュマロを摘まんでいた指を口元でピタリと止めた。

ふと白蘭は思った。

並行世界の自分がこちらの世界の情報の開示、そして共有を望んでいることは既に知っている。

だからこそ必要な情報をあちらの世界の自分に渡しているのだが、はて、その情報の中身はスカルだけだっただろうか。

昨晩再びコンタクトを取られたが、如何せん深夜で彼はとても眠く、夢現(ゆめうつつ)にスカルに関する情報を放り投げるように渡してしまったのだ。

内容をちゃんと把握せずに渡したのは白蘭のミスだが、未来といえど並行世界の自分を無理やり連れだし現象化させたこの男に、並行世界の自分に対する罪悪感など微塵もなかったのが渡された側の運の尽きである。

 

そう、それが運の尽きなのである。

 

 

そして冒頭へ戻る。

 

 

 

 




スカル:壮絶な過去(コミュ障的な意味で)を持ってる方、ポルポパニック騒動の発火材1。

スカル(原作):ポルポパニック騒動の発火材2、基本ランボ達と遊ぶため無害。

白蘭(原作):ポルポ(半ばクトゥルフ)の存在を知りお待ちかねのSAN値チェック→失敗、今回の件に関わったが為に発狂の可能性と隣り合わせにいたけどフラグ回収お疲れ様です。

ユニ:ただ登場させたかった、ツナ達との合流が一日早ければポルポパニック騒動を拝んでSAN値チェックだった。

ツナ:トラウマなポルポとの戦闘する度にSAN値減少する人、宥める(物理)による連続SAN値チェックにて一時的発狂で目が死ぬ。

リボーン:ヘイトの高い彼への束の間の休息期間、精神分析→失敗なのでSAN値はそのまま、ダイスの女神に愛されてますね(笑)

「頑張れツナ、君に平穏はない」



さてさて、今回の話は他視点無しで書いてみましたがかなり新鮮でしたね、文章形式に関して一種の挑戦でした(笑)


【挿絵表示】

久々にスカルの落書き

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