「やぁ、初めまして」
語尾を弾ませながら笑みを浮かべている目の前の人物は、面白いことになったといわんばかりに目を輝かせていた。
俺が日本に来てから2日経った頃だった。
何ごともなくお客さんみたいな立ち位置で沢田家にお邪魔していた俺だが、イタリアに帰れる気配はない。
今まで突撃訪問者がいたにはいたが、一人暮らししていた俺にとって誰かと共同生活するのは中々堪えるわけで、正直静かな場所で一人になりたいのだ。
だが居候の分際でそんなこと言えるわけもなく、ストレスと不安だけが積もるばかりの俺の元に白いウニが冒頭の言葉と共に
誰だコイツと思わないでもないが、白い髪をした男の後ろで綱吉君が慌てたように走ってきては部屋の中に突撃するような形で入ってくる。
「おい白蘭!勝手に家に上がるなよ!」
「別にいいじゃないか、それより彼にとっても興味があるんだけど」
「そんなことってお前なぁ!」
呆れた顔で溜め息を吐いた綱吉君の隣で息悠々とこちらを覗く白い男は一体誰なのか。
綱吉君の言葉からして、びゃくらん、という名前だろうけど、友達かな?
ベッドの上でぼーっと窓を眺めていた俺は突然の来訪者に目を丸くしていると、白い人がニコリと笑顔を浮かべて近づいてきた。
赤ちゃんのサイズから脱していない俺にとってシングルベッドであろうともかなり広く、白い人が俺の隣のかなり空いているスペースに座り込んだ。
「へぇ、君があの狂人のスカルかぁ…」
デジャヴ。
懐かしい名前を聞いた俺は、その言葉と共に繰り広げられた不毛な勘違いの連鎖と命がけの鬼ごっこの数々を思い出しては顔から血の気が一気に引いたのが分かった。
あれから一年弱経っているはずだがまだ俺の狂人説が消えていないんだなと思いながら、これは訂正した方がいいのではとなけなしのコミュ力を発揮する。
「狂人、は……死んだ」
「だが君は狂人だった」
あ、これアカン。
リングの上でレフリーが手を大きく振っている幻覚を見たところで俺は口を閉ざした。
まだ俺を狂人スカルと勘違いしている人がいるってことは、イタリアの家に籠っていたのは正解だったってことか。
ちょっと待て、これ一歩間違えたらまた命狙われるんじゃない?
「白蘭!ちょっと来い!」
悶々と身の安全を考えていると綱吉君が白い人の腕を掴んで部屋をそそくさと出て行った。
一体何がしたかったんだあいつら。
いやそれよりも今はどうやってイタリアに帰るか、だよな。
狂人スカル生存説浮上とかなにそれ笑えない。
いっそのこと改名したろかこの野郎。
まだ狂人スカルが死亡したことが完全に浸透していない現状だけど、俺が出来ることなど何もないので早くイタリアに帰りたい。
ゲームもないしパソコンもないこの狭い部屋でかなり暇な俺は正直参っていた。
ゲーム中毒症状で指が震える今、どうやってこの衝動を振り切ろうか画策しながら震える指を握りしめながら体育座りしながら膝の上に顔を埋める。
ああああああコントローラー握りてぇぇぇぇえええええええ
マウスクリックしてぇぇぇぇぇええええええ
ログイン画面見たいよぉおおおおおおおおおお
キーボードーぉぉおおおおおおおおおおおおお
シフトキーの感触を思い出しては半泣きになりながらオアシスだったイタリアの自室に想い
どれくらいたっただろうか、部屋のドアがゆっくりと開く音がしたけれど顔は膝の上に埋めたまま上げることはない。
足音が段々と近づいてきて、ふいに肩に何かが触れた気がして盛大にビクつく。
「スカル……俺はお前を狂人だなんて思ってないよ……」
綱吉君の声だ。
何やら真剣染みた声だが、白い人の勘違い正してくれたのかな…
いやそんなことよりもこの中毒症状をどうにかしなければ。
指が震えるってかなりヤバいんじゃね?
「気が向いたらリビングに来なよ、お菓子もあるし、少なくとも一人ぼっちにはならないから…」
もう一度優しく肩を叩かれた後綱吉君は部屋を出て行ったけれど、俺は絶対にこの部屋から出るつもりは、ない。
籠城作戦ばっちこいやぁと密かに思っていたりする俺は、中毒症状が治まるまで必死にコントローラーの感触を思い出していた。
「やぁ、さっきはゴメンネー、ちょっと僕とお喋りしようよ」
不貞寝しようとしたら再び部屋に押しかけてきたウニのような頭をして漂白剤をぶちまけられたような髪の色をしている白い人がこちらに笑顔で歩み寄ってきた。
先ほど同様にベッドに座り出すコイツからじっと見つめてくる視線をビシバシ感じている。
「君はどの世界にもいなかった、いわば亜種だ」
いきなり亜種と言われた俺氏、なんとなくだがコイツ患ってるのかもしれないと思い始めた。
「何故だ?君だけが異質で、君だけが可笑しい……たった一つの分岐点による可能性の範疇を大きく超えている」
ますます君という個体に興味が湧くね、とにんまりした顔で言い放つ姿はまさに変態。
あ、コイツ何かずっと前に夢で見た未来のペド野郎!
あいつだったのか。
んん?待てよ、何で夢で出てきた人物が現実に出てきて………?あれ?これ夢の可能性ある感じ?
「君という存在がかなり特殊にもかかわらず僕が滅ぼした数々の世界に君がいなかった」
「アルコバレーノはユニちゃん以外全て殺したはずだったのに…、君という個人を殺した世界がどこにもないのは何故なんだい?」
ひえええ、患ってる、患ってるよぉお……
「僕が敗北を喫した可能性が一つではなかったということか?でも何故?君の世界とこの世界の過程は君を除いて限りなく近い…かなり類似しているならば何故僕が可能性として見ることが出来なかったのか…それが大いに疑問でならないんだよ」
途中から何喋ってるか分かんないよこの人。
ポルポ化してやがる、末期だ。
「僕が可能性を見たその時にまだ分岐していない同一の世界線であったならば僕が見ることが出来なかったのは分かるが、君の世界の分岐は数十年とかなり前だ…ま、この問題に関しては僕でも分からないのなら誰にも理解することは不可能だ…考えるだけ無駄ってやつなのかもしれないね」
真面目な顔したりおちゃらけた顔したりと忙しい目の前の白い人がかなりの重症者であることは分かった。
ペドに加えて中二病とは手の施しようがないな、ご愁傷様です。
内心合掌していると部屋の外から階段を駆け上る慌ただしい音がしたが、そんなことどこ吹く風とでもいうような顔をしている白い人は俺に視線を固定している。
「それよりも僕が興味を持ったのが、殆ど同じ過程を持ちながらも明らかに差異が生じている…だが結果が同質のものだったということさ」
部屋に慌ただしい足音が近づいてきている。
「《不死身》であったならまだ救いはあったんだろうね」
白い人と目線が交差する。
「でも君は《狂人》だ」
薄い、曖昧な紫色の瞳の奥で、小馬鹿にされたような気がした。
沢田綱吉side
「やぁ綱吉君」
「白蘭、お前一人で来たのか?」
「皆に内緒で来ちゃった」
語尾に音符が付くんじゃないだろうかと思うほど機嫌のいい白蘭が、俺の家の玄関に立っていた。
そう、俺達がスカルの件で先ず進展する為に呼んだのが白蘭だ。
白蘭は並行世界と情報を共有できる能力を持っているから並行世界から来てしまったスカルの世界のことも分かるんじゃないかということで呼んでみれば、面白そうという理由で首を縦に振ったのが先日で、イタリアにいたはずだったのでまだ日本に着くとは思っていなかった俺は予想外の訪問に目を丸くした。
まぁ白蘭の行動力ならこの早さも納得できるなと心のどこかで納得しながら家に招き入れようとする前に白蘭が勝手に家の中にずかずかと入っていき、階段を上っていく。
いきなりの暴挙に驚いて固まった俺が我に返り、白蘭の後ろ姿を追いかけようと階段から二階を見るが既に奴の姿はなく、俺は慌てて階段を駆け上がった。
スカルのいる部屋のドアを開けて中を見れば、スカルと挨拶を交わす白蘭の姿があった。
「おい白蘭!勝手に家に上がるなよ!」
「別にいいじゃないか、それより彼にとっても興味があるんだけど」
「そんなことってお前なぁ!」
俺の怒鳴り声すらもものともしない白蘭は始終スカルへと視線を固定していて、当のスカルは困惑しきっている。
そんなスカルの様子すらも興味深いというように、悠々と我が物顔でベッドに座りだした白蘭に呆れ果てた俺は、白蘭が次に放った言葉に固まることとなった。
「へぇ、君があの狂人のスカルかぁ…」
その言葉を放った瞬間、スカルの顔から明らかに血の気が引いていくのが見えた。
可愛そうなほど青白い顔で絶望を垣間見たような顔をしたスカルの異常な様子に俺は言葉を失う。
「狂人、は……死んだ」
震える口から掠れたか細い小さな声が今にも消えそうで、俺は無性にスカルを抱きしめたくなった。
怯えている。
狂人、という言葉がどういった意味を持つかなんて俺には分からなかったけど、スカルの痛ましいまでの姿に、それがきっと良くないものであったなんて分かり切っていた。
「だが君は狂人だった」
追い打ちだと言わんばかりにスカルの言葉を切り伏せる白蘭の顔に、笑みすら浮かんでおらず、その言葉が本気で重い意味を持っているのだと超直感が訴えている。
けれど、それよりも可哀そうなほど顔色を青白くさせて震えているスカルが口を閉じて絶望した目を向けたことが何よりも苦しくなって、俺は無意識に白蘭の腕を掴んで部屋から飛び出した。
「白蘭!ちょっと来い!」
行動に意味を付けるように言葉を吐いた俺は部屋を出ると、白蘭の眉間に皺が寄っていることに気が付き手を離した。
どうやらかなりの力で腕を握っていたらしく、握られた腕を摩っている。
「うん、確信したよ……彼、数多の並行世界の中でもかなり特殊な世界のスカルだよ」
「特殊って……」
「ここじゃ話し辛いし、一階で話そうか?君の部屋でもいいけど…」
「……下に行こう」
俺の部屋じゃ声が漏れる可能性があると思い至った俺は白蘭と一緒に一階のリビングへと向かった。
家には俺以外にリボーンしかおらず、決してスカルの事情が言い触らせる内容じゃないことを察している俺は無意識にリボーンと俺、白蘭しかいないリビングに胸を撫で下ろす。
白蘭は俺が用意したお茶に口をつけながらお菓子をつまんでいて、何から話そうかと考えている仕草をしていた。
「そうだなぁ、彼の世界は僕たちからする結果は同一であれど、彼の進んできた過程は百八十度も違う……ってとこかな」
「どういうことだ?」
「まぁ、彼の視点で語ることは出来ないから並行世界の僕の視点だけで彼の身の上話を語るよ」
まぁ、それも
頭の隅で超直感が何かを訴えているけれど、何に対してか検討も付かない今の状況では、目に見えぬ違和感に気持ち悪さだけを感じていた。
それから白蘭が語った内容は俺の想像以上に惨たらしかった。
スカルの生い立ちは酷いという言葉だけで言い表せるものではなく、聞いてるこっちが吐き気を覚える。
村人からの虐待、自我の喪失、狂人という偶像を押し付けられた大人になれなかった子供の話は、涙を誘うなんてものじゃない。
はっきり言って胸糞悪い。
『狂人、は……死んだ』
白蘭の言葉に対してスカルの放った言葉の重さに漸く気付かされた。
そして彼の消えてしまうような危うさを理解したのだ。
隣にいたリボーンの形相は直視出来ない程凄まじい。
その激情が一体誰に向けられているかなんてわかり切っていて、今になってリボーンを関わらせたことに少しばかりの後悔を覚えた。
多分、きっと……あっちのリボーン自身に対して怒ってる。
あちらの世界のリボーンとスカルの間に埋められない程の因縁があることは察せられるけれど、スカルの怯えようをみているとリボーンがどんな仕打ちをしたのか用意に想像出来た、出来てしまった。
白蘭の話を聞くからして、もう全て解決…というよりも傷付いて生きる気力を失っているスカルのリハビリという形で今までの行いを償おうとしているらしいけど、一年弱経っても尚スカルのあの怯えよう……あまり回復はしていないのだろう。
自殺未遂をしたらしい話まで聞いて俺は思わず立ち上がり、一人にしたスカルの部屋に走りだした。
さっき白蘭が掛けた言葉は、スカルがどの世界のスカルなのかを確認するためとはいえ、彼にとって酷なものだったに違いはない。
最悪の事態が浮かんでしまっては脳内をそればかりが支配し、漠然とした不安が押し寄せる。
俺は出来るだけ足音を立てずに部屋の中を覗いてみれば、中でスカルが膝を立てて頭を埋めては縮こまっていた。
まるで世界を拒絶しているような、排除されたがっているような………明確な孤独がそこにあった。
俺は肩を震わせるスカルの側に寄り、優しく包み込むように肩に手を置く。
ふるりと震わせた肩は必死に恐怖と戦っているようで、まだ、全然大丈夫じゃないんだって突きつけられた気分だった。
「スカル……俺はお前を狂人だなんて思ってないよ……」
返事はない。
でも膝を抱く腕が、手が、指が、確かに震えていたのだ。
ここで俺が必死になって慰めたところで、
ずっと、そうやって恐怖をやり過ごしていたのだろうか……苦しくないのか、悲しくないのか…
沢山思い浮かぶけれど俺には分からない、だって俺には頼れる仲間がいたから。
でも
「気が向いたらリビングに来なよ、お菓子もあるし、少なくとも一人ぼっちにはならないから…」
目の前のスカルには頼れるものなんてなかったんだ
俺が今ここで手を差し伸ばしてはいけないのだと、誰かが釘を刺したような気がして、胸にちくりと痛みが過ぎった。
下の階に降りると白蘭とリボーンが会話を続けている。
「僕はあくまで綱吉君やユニちゃんを通して彼のことを知っているにすぎないからね、近況とかは分かんないよ」
「なるほどな……だが、大体は分かったぜ」
「あ、綱吉君、彼どうだった?」
「もう少し……一人にした方がいいかもしれない」
「確認のためとはいえ、悪いことしちゃったなぁ」
本当に思ってんのかそれ、と言いそうになった言葉を飲み込んでソファに座る。
その後も白蘭はその世界での白蘭視点から見たスカルに関する時の俺達のことを喋っていた。
大体はユニの話で、比較的よく会ってるから間接的にユニからスカルの話が伝わってくるのだと本人は言っていて、そっちの世界ではユニがかなりスカルを気遣っていることが分かる。
白蘭と話している途中でリボーンがいないことに気付き、探そうと思ったけれど白蘭が多分外だよと教えてくれて、浮かせた腰をソファに沈める。
彼さっき人を殺して来ましたって言わんばかりの形相してたねーと笑いながら言い放つ白蘭に、額に汗を浮かばせながらドン引いた。
でもリボーンの機嫌が最高に悪いのは確かで、今は刺激しない方がいいなと思う。
その後少しだけ白蘭と話をして、トイレの為に席を外した。
手洗いから戻った俺は白蘭がいないことに気付き、あいつ…!と内心舌打ちをしながらスカルの部屋に早歩きで向かう。
部屋に近付くごとに壁越しのくぐもった声が聞こえる。
「それよりも僕が興味を持ったのが、殆ど同じ過程を持ちながらも明らかに差異が生じている…だが結果が同質のものだったということさ」
足は迷いなくスカルの部屋に向かっていて、速度を落とすことなく進んでいく。
「《不死身》であったならまだ救いはあったんだろうね」
ドアに手を掛けて、ピタリと時が止まったようにドアノブを
ドア越しに聞こえた白蘭の声に
楽し気な色はこれっぽっちも含まれてなんかいなくて
それはとても
「でも君は《狂人》だ」
とても
同情染みていて、酷く耳に残った。
リボーン(Skull)side
「おお、俺はカルカッサの軍師!スカル様だぁ‼」
甲高い声が木霊す部屋で、一体何人が呆然とその異様な光景を見ていただろうか。
俺がツナ達を連れてイタリアのスカルの家に来訪したのは一時間も前で、現在俺達は開いた口が塞がらない程驚愕し、いっそ夢であってくれと頬を何度か抓ってたり頬内を噛んでいたりする。
事の始まりは、ランボのバズーカーのせいだ。
スカルの家に来たランボがはしゃいで家の中を走り回り出した時に、ツナがそれを止めに入るまではいつもの光景を思い描いて疑わなかったが現実はあまりにも予想斜め上を通過していく。
ランボのバズーカーがスカルに当たり白い煙をあげた光景を目のした瞬間、側にいたツナが煙の中央にいるであろうスカルの名前を何度か呼んでいて、俺も何かあったのかとそちらへ駆け寄る。
ランボのバズーカーということは未来のスカルが来るのだろうかと思い心のどこかで一抹の希望を抱いていた。
スカルの精神が安定する様子がなかったこの頃、本当にこれで大丈夫なのだろうかと思うことがあった。
長い目で見なければいけないことは重々承知だったが、それでも不安を隠しきることは出来ず、何度も情緒不安定になるあいつを見ては自分の無力さを突きつけられて遣る瀬無かったのだ。
10年の月日はあいつを変えることは出来ただろうか。
少しでもいいから、笑顔に出来ているだろうか、心から楽しむことが出来ているだろうか、生を謳歌出来ているだろうか…白い煙を眺めていた俺の中にはそれだけが脳裏を過ぎる。
煙が大方晴れて中からスカルらしき姿を確認した時、一瞬で俺の心臓が冷え切ったような感覚に陥った。
それほどまでに、ヘルメットとスーツという姿は最悪の記憶を呼び起こすには十分だった。
「ス……スカル、お、前……もしかして………」
ツナの震える声が、まるで恐怖に押し潰されていくかのようにか細くなっていく。
誰もが同じことを思い描いただろうさ。
また あの時に 戻ってしまったのではないかと――――――…
煙が晴れた。
「なななな、何だここは!?ど…どど、どうなってやがるーーー!?」
「……は?」
ツナの素っ頓狂な声は、まさにその場の全員の混乱を表現したかのようで、それから我に返るまで十数秒ほどかかったのは仕方ないことだと、あの時居合わせた全員がそう言い放つだろう。
「えー、じゃあ何だよ、お、お前は並行世界のスカルってことか?」
「へ、並行世界だとぉ!?何でそんなことになってんだー!?」
「俺達がそれ知りたいよ‼いや原因は大体分かるけど‼」
不毛な馬鹿な言い合いが交わされている光景に何度溜め息を吐いたことだろうか。
最初は夢か、または幻覚か…何度か自分の頬内を噛んでみたが、口の中に鉄の味が広がるだけだった。
5分経っても戻る様子のないスカルにまたパニックになったが、それも次第に収まり現状把握に努めだす。
目の前のスカルと名乗る奴は正真正銘スカルだろうが、世界線が違うということがつい先ほど発覚した。
何度も慌てふためいていつもじゃありえない声量で喋る奴にまず疑ったのが偽物という線だった。
取り合えずその場を収めるために慌てる奴をツナが宥めて、一息してからお前は誰だという尋問染みた質疑応答が始まったが、今思い出しただけでも頭痛がする。
馬鹿正直に答えていくコイツもコイツだが、意地っ張りで見栄っ張りな性格が表に出まくっていて偽物通り越して、警戒する俺が馬鹿なのかと自問自答するレベルだった。
年月日と所属を聞いて、直ぐに浮かんだ単語が並行世界だ。
白蘭の能力のこともあってか別に有り得ないわけじゃないと思った俺は直ぐに納得し、目の前の能天気な奴がスカルとは完全な別人だと認識することにした。
ただ、何を得て、ここまで差が出たのかが予想がつかない。
生い立ちからして全部違うのだろうか?と思い至った俺は、目の前で馬鹿な問答を繰り返している奴に話しかける。
「おいスカル、並行世界からお前が来たことは分かったが、ここの世界のお前と別人すぎて皆混乱しきってんだ」
「はぁ!?ここの俺はどんな奴なんだよおおお!?」
「その前にお前の話を聞かせろ、生い立ちから全部だな」
「何でそんなことしなきゃならねーんだよ!」
「………いいから喋れ」
「は、ハイっ‼」
生意気な態度からか、世界が変わればここまで性格が変わるのだと分かったからか、それともあいつにこれ程まで感情を表に出すことが出来る可能性があったという事実を突きつけられたからか、少しばかりイラついた俺は若干棘のある口調で目の前の奴に話を催促した。
あいつもこんな声出せるんだな…と不毛なことだけが頭の中を過ぎっては要らぬ思考ばかりが脳内を占領する。
ヘルメットを取ったあいつの顔はメイクが施されていて、そのことに関してもツナ達が若干パニックになっていたが、いつになっても埒が明かないとヘルメットを被らせて喋らせることになった。
何度も自分の過去を武勇伝のように話す奴の言葉の端々から恐怖の欠片すらも拾うことは出来ず、本当に何事もなく育ったんだなと実感する。
同じ町で、同じ両親のもとに生まれておきながら、何故こんなにも違ったんだろうか。
おかしな神父はいたかという質問に、行方不明になった神父はいた、とだけ返ってきて、周りの人物は大体同じことは分かった。
シスターはお菓子をくれる人だったとか、隣のお姉さんは綺麗だったとか、裏庭で飼っていた七面鳥がクリスマスで食卓に並べられて号泣したとか、まぁなんと幸せで平穏な暮らしだったんだと悪態すらつきたくなる。
両親は同じ年齢で亡くなっていたけれど原因は異なっていたり、バイクに乗り始めた時期は同じだったり、カルカッサに入った時期も大体被っていた。
だが、奴に付けられた名前は異なっている。
「俺様は不死身のスカルって呼ばれてたんだぜ!地獄から帰って来た男とか、なんかカッコいいだろ!最高のスタントマンだったんだ!」
胸を張って言い放つそいつの声が、言葉が、雰囲気が、とても眩しかった。
全身で感情を表現しているその様が、どうしても得られず、見ることすらも叶わない俺達への当てつけかというほど、眩しかったんだ。
少しでも……何か少しでも違っていたなら、あれほどの罪を造らずに済んでいただろうか。
狂った子供を造らずに済んだんじゃないだろうか。
ああ、不毛だ。
俺達があいつを狂わせたにも関わらず、今更過去を振り返って嘆くなんざ……
「俺様は最強のアルコバレーノだからな!」
高らかに宣言する快活な声は、一生聞くことはないのだろうと思っていた俺達の望む声と重なっては、心臓が抉り取られたように悲鳴をあげた。
「なぁ!ここの俺はどういう奴なんだ!?教えてくれ!」
『俺達が追い詰めて、狂わせて、自殺に追い込んでおきながら、エゴで生かした、空っぽの人間です』
なんて、口が裂けても言えなくて
鉛のように重たい唇をゆっくりと開いては、喉から絞り出すように吐き捨てたのだ。
「少し……内気な野郎だ……」
ずっと前に治り切っていた腕の傷が、小さく痛みを訴えたような気がした。
スカル:ゲーム中毒者、通常運転、白蘭を中二ペド野郎を認識した、無意識にSAN値チェックを掛けていく安定のSAN値チェックマン。
ツナ(原作):白蘭からスカルの生い立ちを把握からの壮絶()なスカルの実情に絶句している模様です、SAN値チェック失敗、スカルが恐怖()で震えていると勘違いした。
リボーン(原作):ツナ同様に壮絶()なスカルの過去にSAN値チェック→失敗、並行世界の自分に並みならぬ怒りを覚える。
白蘭(原作):興味の尽きない個体としてスカルに関心があるが、なけなしの良心で並行世界の狂人()なスカルに対して同情的な姿勢を取る、ポルポの存在を並行世界で情報共有時に知ったらもれなくSAN値チェック入るのでわりと危ない位置にいる。
リボーン:SAN値チェック→約束された安定の失敗、元気で馬鹿なスカルを見てこうなる可能性もあったという事実を突きつけられかなりヤバい、どれだけスカル(原作)が威張って生意気な態度を取ろうとも言葉だけで応戦して手は上げない。
スカル(原作):なんかリボーンの俺に対する態度が微妙によそよそしくて内心気持ち悪がっている、このあと物凄く調子に乗るけど一向に手を上げないリボーンに本格的に気持ち悪いと感じる予定、「(あ、あいつ…体調悪いのか……?)」。
比較的働く方の超直感(原作):ツナのSAN値ピンチを感じ取ったがツナに伝わらなかった、ドンマイ。
※この世界では心優しい人ほどひどい目に会います。
次回「簡単で確実なセコムの作り方~SAN値チェックを添えて~」