Skull   作:つな*

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skull 番外編2

俺の名前は、そうだな……モブとでも言っておこうか。

まぁ名前なんぞどうでもいい。

俺がこれから述べるのは、俺の奇妙な経験についてだ。

常識がひっくりかえる程の衝撃をもたらした奇妙な体験を。

 

 

始まりは何の変哲もないゲームがきっかけだった。

世界中にユーザーを持つこのゲーム、プレイ層は中々廃人寄りなところがある。

ゲームサービスを開始した当初からいる俺は、今現在では最古参メンバーの一角を担う精鋭ギルドのマスターという肩書きを得た。

ギルドメンバーは全て廃人か課金厨だが、その中で少し変わった奴が一人だけいた。

その名を「すかる」といい、ギルドのサブマスターに位置するこのプレイヤー、自称イタリア人だ。

名前に関してカタカナに変換する操作が分からなかった、というなんともお粗末な理由のこのプレイヤー、当時の俺は完璧に子供だと思っていた。

不登校の子供がゲームにのめり込む話は少なくないし、サブマスから漂う子供っぽさがそれに拍車を掛けていた様に思う。

自称イタリア人とあるが、これも子供特有の見栄を張りたいがための嘘だろうと思いながら、彼のイタリア人であるという主張を淡々とスルーしていた。

いやだって、普通に日本語でチャットしてるし顔文字とか日本独自のものだし……色々無理があるだろう。

一度だけ、まだ彼が中堅プレイヤーであった頃に彼は意味の分からないことをチャットで相談してきたことがある。

やれ殺害予告がメールで送られてきただの、割と本気の殺害予告だのと、中二病を患った子供特有の妄想をご丁寧に詳細まで語ってくれたが、案の定俺はそんなことが日本で起こるわけがないと内心一蹴しながら一応一つ一つ返事を返した。

割と真面目に対応したけれど、本人曰く身の上がバレると困るという人物設定まで出してきたので、ここらが引きどころかなぁと日付を教えて話をすり替え有耶無耶なまま妄想ごっこを終了させる。

身元がバレると施設に連れていかれるゲーマーってなんだよ。

まあ後で警察への通報は無駄だったと言っていたので、途中で尻込みして通報しなかったのかと思い、一応妄想と現実は区別ついていることに安堵した。

まぁ色々痛々しいこの子供プレイヤーだが、中々どうしてパーティーの立ち回りが上手いのだ。

それに子供プレイヤーということもあって、痛い発言は見ないふり…というか生温い目で見守ってかなきゃいけないという使命感が湧き上がってきたので、比較的仲良くゲームを楽しめたと思う。

年月が過ぎるごとに段々とプレイヤー数は減り、過疎化の一途を辿っていたギルドだったが少数精鋭に切り替えてからはギルド内の切り盛りがとても楽になった。

そんな頃に当時のサブマスが引退したので、すかるにサブマスを任せることにした。

本人は戸惑っていたけれど、これといって何かをしなければいけないとかはないと分かれば渋々ながら了承していた。

正直もう少し嬉しがって権限バンバン使っちゃうのかなぁと思っていたのは内緒である。

 

 

とまぁ平穏なゲームライフを送っていた俺はとうとう、リアルでニートになっていた。

営業マンだった俺はゲームに嵌まると同時に両親を交通事故で亡くし、どこに隠していたのかというほどの遺産で生活を続けている。

傷心期間とでもいうように数日仕事を休み、そのままずるずると引きずったまま退職してしまったのが事の始まりで、これといってお金に困っているわけでもなかったので就職を後回しにしていたら就職する気力も機会も失っちゃった系ニートが出来上がった。

そんなこんなで生活していたニートな俺に、思いもよらない衝撃な出来事が舞い降りた。

 

 

俺の生き甲斐とすらいえるであろうゲームのサービス終了の事前通知が送られてきたのだ。

 

 

俺は愕然と画面を見ながら絶望の眼差しで羅列した文字を読んでいく。

確かに最近は全体的なプレイヤー自体が減っていたけれど、それでもまだ続いていけるハズだったのに……

絶望の底に追い詰められた俺は、もう諦めるしかないのだとゆっくりと自分に言い聞かし力なくPCの画面を指で撫でる。

 

「最後に………すかると会って、みたいなぁ……」

 

 

それは無意識に漏れた言葉だったのかもしれない。

それからの俺の行動は早かった。

サービス終了まであと数か月しかないと思った俺はすかるに手紙を出したが、予想外にも彼は首を縦に振ろうとしなかった。

 

『無理、オフ会とか無理』

『何でだ?』

『いや、ほら……俺あれだから、えっと……』

『誰も見た目年齢気にしないぞ?あと性別も』

『いや見た目の問題は多いにあるけど…』

 

ずっと渋っている彼を最後のお願いとばかりに頭を下げ続けること数週間、漸く彼は了承してくれた。

ただ、見た目に関して何も言及しない、他人に見られない場所という条件を付けてだ。

何を恐れることがあるのだろうかと首を傾げながら理由を考えてみても、最悪中年のハゲでデブくらいしか出てこない。

それならまだ許容範囲内…というか、許容範囲外って一体何があるんだろうかと思いながら彼と約束をした一週間後を待ちわびた。

自称イタリア人の彼だが既に日本人であることは疑っていないし、年齢詐欺も全然気にしていない。

 

 

そんな俺の予想を斜め上以上に飛び越えたのは、子供の頃近所のお姉さんがショタコンで密かに俺を狙っていたという事実を知って驚いた時以来だったかもしれない。

 

 

「えーと………僕、どうしたの?」

 

日本人とは間違っても言えないほど澄んだ紫色の瞳が、自宅の前に鎮座しては俺を見上げているではないか。

それも待ち合わせ時間ピッタリに……

目の前の赤ん坊は、手にしている紙を何度も読み直しては俺を再び覗き込んでいる。

 

「ここ……ギルマスの家、ですか?」

「んんー?」

 

どういうことだ。

待て待て、何で赤ちゃんが俺のことを……いや、今ギルマスって…んんん?

 

「あ、なるほど…確かにギルマスの家だけど、お父さんと一緒に来たのかい?」

「違う、スカルだ……本人…」

「んんん?えっと……?え、息子の名前をキャラに付けてたってことか?あれ?」

「これだからオフ会は嫌だったんだよ!くそ、俺がスカルだ!ほ・ん・に・ん!」

 

赤ちゃんが何故流暢に喋っているかは置いといて、取り合えず俺はその言葉をゆっくりと咀嚼し、次の瞬間—————

 

 

「む、紫って………お前日本人じゃなかったのかよ!?」

「ツッコむとこそこじゃないからな!」

 

 

俺の中での痛々しい未成年の姿が盛大な音を立てて砕け散った。

 

 

「で、どういうことだ」

 

今俺はというと、テーブルを跨いで目の前に鎮座する赤ん坊に問いかけた。

否、言葉通りの外見ではあるものの、口から出る単語は赤ん坊のそれではない。

 

「歳を取らない病気に最近まで掛かっていた、以上」

「省略しすぎだろ、100文字以上で教えろ」

 

苦し紛れのように答えた目の前の赤ん坊の答えをバッサリと切り捨て、唸る本人を他所に手の中にあるお茶を一啜りする。

コイツは自分のことをスカルと名乗り、イタリア人であることを明言した。

が、正直さっきから頭の中が混乱しすぎて内容を整理できていない。

そいつの丁寧とはいえない説明で、病気で今までイタリアの田舎の方に隠れ潜んでいたらしいことは理解した。

というのもコイツが生まれた時代と場所では、ちょっとした差別があったらしく、怖くて田舎の誰とも交流がないであろう場所に移っていたようだ。

現実味がねぇ……こんなことが本当にあっていいのか?

 

「—————————とまぁ病気もあって、精神的な年齢は40くらいだな…ただ体はピチピチの2歳だ」

「なにそれえぐい」

「因みに俺みたいなやつがあと6人いて、全員俺より年上だ」

「えげつねぇ……」

 

だよなぁと同意して茶を啜っている目の前の赤ん坊に一つ、とても気になる疑問をぶつけた。

 

「スカル……って、何であんなに日本語に詳しいんだ?俺、普通にお前のこと日本人だとばかり…」

「あれほどイタリア人と………いや、もういいけど…色々あって日本語は完膚なきまで習得した、逆に母国語の方が危うい」

 

などと供述している赤ん坊に今世紀最大の謎がまた増えたがそれは横に置いておくとして、彼がイタリア人であるという俺の中で決めつけていた妄想設定が崩れた今、今までの話は本当だったのでは?と思い始めた。

 

「……じゃあ、殺人予告がメールで送られてきたことも本当だった、と?」

「それも信じてなかったのかよ!真面目に相談持ち掛けた俺が馬鹿みたいじゃねーか!」

「す、すみません」

 

いかにも傷付いたと顔に出たスカルに内心申し訳なくなり、咄嗟に敬語で謝ってしまった。

一応中身はあっちのが年上なんだよなぁ……俺まだ三十路だし。

 

「にしてもイタリアからよく来たなぁ……」

「うん、まぁ…色々あって直ぐ来れるんだよ」

 

色々とは一体……

取り合えず彼のことを根掘り葉掘り聞いても楽しくないだろうし、別の会話に移すか。

サービス終了ということもあって、ゲームの話やら何やらで盛り上がる。

途中飲み物が空になり、冷蔵庫にはお酒しかないことを思い出した俺はスカルにそれを告げて買い出しに向かう。

コンビニに行って子供用のジュースと、ペットボトル水を数本カゴに入れた俺はレジの方へ向かえば、既に二人ほどが並んでおり最後尾に足を進めた。

俺の前で並んでいる人は、中学生ぐらいの子供で茶髪でボサボサの男の子と活発そうな黒髪の男の子だ。

待つだけで暇だった俺は、目の前の二人の会話にカゴの中身を眺めながら聞き耳を立てる。

 

「リボーンは今日いねぇのか?」

「ああ、そういえば…リボーンが昨日スカルの様子を見にイタリアに行ってるんだった」

「そういえばスカルは最近どうしてんだ?」

 

スカル、という単語にピクリと眉間が動いたがそのままカゴの中身を覗き続ける。

どうせ人違いだろう。

 

「うーん、まだトラウマが残ってるみたい……この前も少し錯乱してたみたいだし」

「やっぱりそう簡単に元気にならねーってことか…」

「スカルは今まで沢山傷つけられてきたんだ……無理もないよ」

「俺も学校がなけりゃ様子見に行けるのによ」

 

やっぱり人違いだな、うん。

レジが二つ空き、俺の前にいた二組がそれぞれレジまでカゴを持って行く中、茶髪の方の男の子の携帯が鳴り出した。

男の子は携帯を開き、嫌な顔を一瞬だけ見せ携帯の通話ボタンを押しては耳を傾ける。

 

「リボーン、今度はどうした……え?」

「ツナ?」

 

茶髪の男の子は茫然といったように口を開けきり、今にも膝から崩れてしまいそうな雰囲気を醸し出していた。

そのただならぬ雰囲気に流石の俺も目線を上げ男の子へと視線を固定する。

男の子は唇を震わせながらも数回返事を返し通話を切ったが、未だ愕然としていて焦点があっていない。

 

「ツナ、どうしたんだよ…?」

「ス、スカルが……っ…」

「え?スカルがどうしたんだ?」

「スカルがいなくなったって…っ!どこにも、どこにもいないってリボーンが!」

「なっ、それ結構やべーんじゃ!?」

「ど、どうしよう…また自殺なんか図っちゃったらどうしよう!?」

「お、落ち着けってツナ!取り合えず店出るぞ」

 

取り乱した茶髪の男の子を宥める様に黒髪の男の子は店の人に一言断り店から出て行った。

やり取りだけ聞いてしまった俺の脳内では、今俺の家にいる紫色の赤ん坊が過ぎる。

イタリア………スカル……いなくなった………トラウマ……村からの差別…

待てよ俺、冷静になれ俺、さっき話したスカルが自殺とかトラウマとか持ってるような奴には1㎜としても見えなかったじゃないか、うん。

そんな俺に追い打ちをかけるように、彼との会話の一部が脳内再生された。

 

『その病気は遺伝なのか?両親はなったりしなかったのか?』

『いや、遺伝ではないな……両親は俺が15くらいの頃にどちらも亡くなってる』

『あ、それはごめん……嫌なことを聞いた』

『別に…気にしてない、元々両親っつってもなぁ…そういえばギルマスの両親は何してるんだ?』

『いや俺の両親も—————……』

 

あああああああ、トラウマになるもん持っとる!普通に持っとる!

ここここここ、これはもしかしてやっべー奴家に招き入れた感じ!?

めっちゃ捜索されてる奴招き入れた感じ!?

俺は右手で握りしめたカゴをレジまで持って行きながら、混乱する頭で財布から野口を数枚取り出しては、おつりも貰わずに店を出るのだった。

家に帰った俺は焦った様子でスカルの両肩を掴みながら問いかける。

 

「スカル、お前ニート……だよな?トラウマとは無縁のニートだよな?」

「何だ藪から棒に、ニート以外の何だって言うんだよ…社会の目はトラウマだけど」

「だよな!あー良かった!」

「あんたもニートだろ」

 

やっぱりコイツはあの少年たちが言っていたスカルではないな。

俺は安堵の息を漏らしながらコンビニの袋からジュースを取り出してスカルに渡す。

俺も途中から酒を飲み始めて、悪ノリしたスカルまでもが酒を飲みだした。

赤ん坊の体に酒は大丈夫なのかと思いもしたけれど、まぁ中身40もあるなら大丈夫だろうと、アルコールに侵された思考回路じゃ正常は判断すら出来ずに二人して酒に溺れていった。

途中でリア充爆発しろ!と喚き散らしたり、あのもみあげぇぇぇえええ!と地を這うような声で唸ったり、幼女からの羞恥プレイ……と最後の方は泣き言だったがそんなことを言っては眠ってしまった小さな体を、ベッドの方に連れて行き俺は固い床にマットを敷いて眠りにつく。

久々に人のいる空間で眠った俺は、隣から聞こえてくる心地よさそうな寝息に心底安心したような気持ちになった。

 

朝起きると、そこには誰もおらず時計を見れば既に昼を過ぎていた。

あの赤ん坊は夢だったんだろうかと思ったけれど、テーブルに散乱しているジュースの空になったパックと少量の貨幣と置手紙で、あれが夢でないことを理解する。

ユーロなんぞいつ使うんだよ、と苦笑いが出た。

置手紙には『また会いにくる』と簡素な一文があるだけ。

俺はビールの缶を拾い集めゴミ袋に入れては、部屋のベランダに出て真上に登っている太陽を見上げた。

 

 

世の中、いろんな人がいると思っていたけど……中身がおっさんのニートな赤ちゃんを目にする日が来るとは思わなかったなぁ。

また、会えるといいんだが……今頃飛行機だろうか。

 

 

「別のゲームでも誘ってみようかなぁ」

 

 

俺は部屋の中に戻ると、すかさずPCの電源を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

 

俺の人生の半分を費やしたといっても過言ではないゲームが、サービス終了するらしい。

その時の俺の発狂具合といったらもう……ね。

ベッドは荒れてるし、枕は破れてるし、窓には罅が入ってる…極めつけは壁だな、血がこびり付いてるけどこれ多分頭突きでもしてたのかな?

発狂してる間の記憶が曖昧で覚えていないけれど、正気に戻った時頭痛かったから多分打ち付けてるなあれ。

泣いて喚いてPCをぶっ壊してポルポに止められるまで暴れてたらしいけどまったく覚えていないし、起きたらリボーンのあん畜生がいて更に機嫌が悪くなったのは言うまでもない。

流石にすぐ立ち直るわけにはいかなくて、数日はしょんぼりしていて、知らない間に新しく購入されていたPCを立ち上げサービス終了間近のゲームにログインすると一件のメッセージが入っていた。

ギルマスからの手紙で、内容はオフ会についてだった。

すぐに見なかったことにして残り僅かなゲームを遊んでいると、ギルマスからオフ会をチャットで誘われた俺は頑なに首を縦に振ることはない。

自分の身成りが子供のままであることが明らかにおかしいのは分かっているからだ。

しかしギルマスをしつこく食い下がっていて、ゲーム終了で落ち込んでいた俺は最後の一押しで了承してしまったのだ。

一日で帰ってこられるかなぁと遊びに行く日を考え込む。

そしてユニ達の突撃訪問の行動パターン表を綴っているノートを開いて、空いている曜日を探せば丁度一週間後が誰も来ないであろう日に被っていた。

この日ならばとギルマスに伝えて、俺は一週間後ポルポを連れて家を出る。

勿論足はポルポで、海を横断した。

数時間の移動の末着いた日本で、教えられた住所を元に町を歩けば、とあるマンションを見つける。

恐らくここだろうと思い、俺はポルポに遊んできていいよとだけ言ってマンションへと足を向けた。

まあ案の定というかなんというか、俺がスカル本人であるとは思わなかったらしく、スカルの子供として対応されついに怒り出す。

 

「これだからオフ会は嫌だったんだよ!くそ、俺がスカルだ!ほ・ん・に・ん!」

 

目の前の男性は目を点にして、一瞬俺が言った言葉が何であったかを咀嚼しているような仕草をしては次にこう言い放った。

 

「む、紫って………お前日本人じゃなかったのかよ!?」

「ツッコむとこそこじゃないからな!」

 

俺は生まれて初めて人並みの大きな声、というものを発したと思う。

というよりこいつ俺がイタリア人ってこと信じてなかったんかい!

一人暮らしとして何不自由のない簡素な部屋に招き入れられた俺は、自分の体のことをかいつまんで話すと詳しく教えろとバッサリ切り捨てられた。

ぐぬぬ……

呪いのことは話が長くなるので病気ということにして話せばある程度頷いてくれていたが、果たしてあれは信じたのだろうか。

色々ギルマスが俺の話を本気にしていなかった事実が出てきて軽く傷ついたが、今思えばあれは第三者視点から見て中二病に侵されている子供だと思われても仕方なかった。

ギルマスとの話は楽しかった。

同じニートだから、これ以上底辺はいないだろうと気兼ねなく話せた自分に少なからず驚いたのだ。

人見知りして喋ることすら出来ないかもしれないとすら思っていた数日前の自分がいい意味であっさりと裏切られた。

ちゃんと声は出てるし、声量も少し他と見劣りするだけで別に気にする程度ではないくらい自分で喋れていると、そう思う。

これもユニの羞恥プレイの賜物なのか、と見当違いなことを思いながらギルマスと今までゲームで馬鹿やって来たことを一緒に語り始めた。

ただやっぱり途中で喋りつかれて無言タイムに突入したけど、また回復したら喋り出すを繰り返していく。

デスペナルティで最高値の装備を失った悲しみや、ギルド内でマドンナの存在だった女性プレイヤーが引退間際にネカマだったと言い逃げしていった悲惨な事故を思い出しては涙した。

それでもやっぱりゲームを通して一緒に遊んだ数年間は確かにあったんだと、画面の向こうの生身の人間を今目の前にして悟った俺は、オフ会も悪いものではないのかもしれないと思う。

途中ギルマスは飲み物を買ってくると部屋を出て行った。

 

「スカル、お前ニート……だよな?トラウマとは無縁のニートだよな?」

「何だ藪から棒に、ニート以外の何だって言うんだよ…社会の目はトラウマだけど」

「だよな!あー良かった!」

「あんたもニートだろ」

 

数分後慌てて帰って来たギルマスは変なことを質問してきたが、一蹴した俺に安心したように緩やかにディスってくる。

再び飲みながら食べながら喋っては休憩をしている時間は楽しかった。

度重なる突撃訪問によるストレスだらけの日々を日本というとても遠い場所に逃げることで、一時の安寧(あんねい)を手に入れた俺は、アルコールに手を付けるのだった。

そこからあまり記憶はない。

ただ日頃の鬱憤をただただ晴らすように愚痴り倒した記憶だけはある。

そのまま寝てしまった俺は、慣れ親しんだ何かを引き摺る音でふと意識を浮上させた。

 

「ポルポ…?」

「スカル、起きた」

「……あれ?お前どうやって中に入って、」

「扉の鍵、開いてた……帰る?」

 

不用心だなと思わないでもないが、俺も前の家では閉めてなかったし人のこと言えないなと思った。

寝ぼけた頭でベッドから起き上がり、床で寝ているギルマスに気付いて欠伸をしようと開けた口を閉じる。

頭が痛い……飲み過ぎたな……

テーブルの上に置いていた水を口に含み、部屋を見渡してメモ帳を見つける。

一枚破り取り、メモと僅かばかりのお金だけ残して部屋を出た。

 

「スカル、お腹空いた……帰ろう?」

「家帰るか、途中で魚食えばいいんじゃね?」

「うん、うん、そうする」

「あ、俺が日本にいったことは内緒だぞポルポ」

「約束するよ」

 

飲み過ぎたせいで頭痛が治まらない俺は、水を掻き分けるポルポの口の中で爆睡したまま帰路についた。

酒は抜けても頭痛が治らずふらふらしながら家に帰れば、何故か家の中にリボーンがいたので不機嫌を隠さずに追い出そうと試みるが逆ギレされる。

 

「お前何処に行ってたんだ!?どれだけ周りを心配させれば…っ!」

「…う…るさ………頭に…ひび、く……」

「おい、どうした…?」

 

怒鳴り出したリボーンの声が頭に反響して、あまりの頭痛に数分だけ気絶してしまった。

少しして起きた俺はふかふかのオフトゥンの中だった。

帰路にたっぷり寝たこともあってこれ以上眠れないとベッドから出てキッチンへ向かえば、既に突撃訪問組が全員集合しているという地獄絵図に一歩引き下がる。

まだ寝ていろとラルとコロネロに寝室まで引きずられオフトゥンと再会。

でも全然眠気ないんだよなーとベッドから出ようとしても、ラル姉さんがめっちゃこっち見てた。

どうやっても俺を寝かせたいようだ、何故だ。

眠くない瞼を閉じて、取り合えずこいつらが全員帰りますようにと祈りながらオフトゥンに包まれた俺は、発散させたばかりのストレスが積み上がっていくのを感じながら心の中で叫ぶ。

 

 

ギルマス助けてぇぇぇぇぇええええええ!

 

 

 

 




ギルマス:子供の頃近所のお姉さんに目をつけられていた、ニート、紛うことなきニート、最初から最後までニート、勘違いフラグをへし折って叩き割った強者。

スカル:ゲームサービス終了のお知らせで発狂した、ギルマスに対してコミュ障は発動しない、ギルマスと同種の匂いでもプンプンするんですかねぇ

視点の無かったヒットマン:スカルが発狂した場面に偶然居合わせて抜き打ちSAN値チェック、勿論失敗、一旦日本に用事あって帰ったけど直ぐイタリアに戻ればスカル行方不明で再びSAN値チェック、勿論失敗、スカルが帰って来たと思えば体調不良を訴えていて気絶からのSAN値チェック、勿論失敗、どうあがいても絶望。





ギルマスのことについてリクエストや感想欄にも多数あったので投下しました。

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