リボーンside
「スカル!何でっ……!」
ツナの悲痛な声に我に返った俺は、視線の奥で泣いている子供と大きな図体の生物を見つめる。
裸足で病衣を着たまま腕から血を流すスカルは、芝生の上で嗚咽を零していた。
何故奴が病室の窓から落ちてきたのかなんて、聞かずとも皆分かっているのだ。
今しか死ぬことは出来ないと、悟っているからこそあのガキから目を離さないようにしなければならなかった。
スカルの死を誰よりも望んでいないのは、アルコバレーノの誰でもなく、ツナでもなく、ルーチェでもなく、あの古代生物なのかもしれない。
でなければ、あんなに愛おしそうに守ろうとはしないだろう。
「リ、リボー…!あ、あれ古代生物っ……っていうかスカル!」
「るせぇ、少し黙れ」
思考の途中で横からツナが慌てて俺に声を掛けるが、混乱しているツナはただ
小さく悲鳴が聞こえ頭を抑えているツナを横目で見ていると、スカルの病室の窓からユニが顔を出した。
ユニの顔は青白く、自殺しようと飛び降りたスカルにショックを受けている。
焦りを顔に貼り付けた風がユニの側から顔を出し、窓から下を覗き込んでいた。
ついにユニが泣き出して、スカルがその声に気付いたのか病室へと視線を移しては動揺している。
ルーチェに似ているユニに対してどこか心を許しているような様子を見せるスカルは、泣いているユニに驚いて固まっていた。
俺は溜め息をつきながら歩を進め、スカルと古代生物に対して声を掛ける。
「おい、お前の所為でユニが泣いてんだ……行ってこいよ」
俺の言葉にスカルは振り返り、視線がぶつかる。
一瞬スカルの瞳の奥に恐怖が過ぎるが、すぐに目を逸らされた俺は上を向いてユニを宥めている風と目を合わせた。
ユニを泣き止ましとけとそう目で告げれば、風は苦笑して頷く。
俺の言葉に何か思うところがあったのか、スカルはゆっくりと立ち上がり古代生物に支えられながら病室へと向かいだした。
暫くして上からユニの嗚咽が聞こえ、もう大丈夫だろうと思った俺は会話をしているツナと九代目の方へ歩き出す。
二人の会話が聞こえるであろう距離まで近づいたところで、ツナが九代目へ勢いよく頭を下げた。
「スカルの人生を狂わせた元凶はマフィアで…俺達が原因だったんです、だから……スカルを責めないで下さい、お願いします!」
「頭を上げなさい綱吉君……リボーンからも彼の事情は聞いているし、わしは彼を責めるつもりはないんじゃ」
「ほ、本当ですか!?」
「子供だった彼を狂人たらしめたのはわしらボンゴレでもある以上、責任も…ボンゴレが負うべきじゃ」
俺から見えない九代目の表情は、ツナの表情を見ていればなんとなく察しがつき歩を進める速度を落とす。
ツナが俺に気付き名前を呼べば、九代目もこちらを振り向く。
これから日本へ向かう準備をするとだけ言い残してツナをアルコバレーノ達の場所へ引き摺っていけば、視界の端にバミューダが立っていた。
「ワープホールは?」
「いつでも」
俺の問いに一言だけ返すバミューダを通り過ぎようとしたら、ツナが思い出したような声を零して立ち止まった。
「バミューダ!お、俺を一旦日本に連れてってくれないか?」
「何故だ」
「他の皆にスカルのこと教えなきゃ!多分皆警戒して呪解どころじゃなくなっちゃう!」
「確かにそうだな」
納得したバミューダがワープホールを作り出せば、ツナが俺へと振り向く。
スカルがまた自殺しないように見ててくれとだけ言い残して、俺の返事に耳もくれずワープホールに飛び込んでいったツナに舌打ちをした俺は、こちらを見てくるバミューダと視線が交差する。
「何だ」
「いやなに……最強の
「あ"?てめぇこそスカルを牢にぶち込まないのを見るに、
「ふん、チェッカーフェイスからトゥリニセッテの主導権を奪い取れる今、
「チッ」
バミューダを一睨み奴に背中を向けた俺はその場を離れようと一歩踏み出せば、背後からバミューダが声を零す。
「どのみち、狂人はもうこの世にはいない」
狂人は死んだ。
もう、“狂気”という名の偶像を形どった何かは存在しない。
晴天を思い出す。
枯れた泣き声を拾い上げることなく無慈悲に捨て去った、眩しい程の快晴を
『あなたの幸せを祈っています』
もう
沢田綱吉side
バミューダの夜の炎を使って戻って来た集合場所にはチェッカーフェイスを除くほぼ全員がそこで待っていた。
結構重症だろう白蘭やザンザスまでもが待っていて驚いたけれど、あっちも俺の姿を捉えて目を見開いている。
「十代目!」
「ツナ‼」
獄寺君と山本が俺の元へ駆け寄り、怪我は大丈夫かと何度も聞いてきて、生死を彷徨ってましたとは口が裂けても言えなかった。
「綱吉君が無事来れたってことは、スカルの方も解決したと受け取ってもいいのかい?」
深刻そうな顔をしていない俺に色々悟った白蘭の言葉に俺は頷くが、でも…と続ける。
皆には全て話しておかないといけないことがあると告げた。
俺の真剣みを帯びた顔に、吉報ではないことを悟った皆は無言で俺の言葉を待っていて、意を決めた俺は口を開く。
そして、俺はスカルの全てを話した。
スカルの原点となった故郷でのこと、そして迫害、それがマフィアが元凶であること、スカルの精神状態、俺達の罪、そしてこれからを。
骸の表情が段々と険しくなっていくのが見え、過程は違えどマフィアに人生を狂わされたスカルの過去と自身の過去を重ねているように感じた。
何度も自殺しようとしてたことや、さっきも自殺しようとしてたことを言えばあからさまに山本が傷ついた様な顔をする。
山本も自殺を考えるほど追い込まれたことあるから理解出来る部分があるのかなって思ったけど、今はその思いを顔に出さずスカルの今後の処遇を伝える。
「――――だから、スカルはボンゴレで保護すべき…って九代目と話し合いが決まって………その、一応本人の意思も聞いてみるけど、今スカル自身が考える余裕がないというかそういう以前に茫然自失っていうか……取り合えずスカルに対して危害を加えちゃダメってことは決定事項だから!」
何か言わなきゃいけないことが多すぎて綺麗に纏めきれない俺は、強引に説明を切り上げる。
正直スカルに手を出して古代生物がキレたら今度こそ俺達が終わる気がした。
一応、スカルに対して狂人という呼び方はタブーであることは教えたし、古代生物のことも簡単にだが教えておいた。
古代生物のくだりで白蘭が一人で納得していて、何納得してんだと聞けば白蘭が代理戦争一日目のことを話し始める。
「ブルーベルの修羅開口って、ほら…絶滅した魚竜の細胞を使ってるんだよ…だから、遺伝子レベルでその古代生物に対して拒絶反応が出ちゃったんだなーって納得しちゃってね」
その言葉に物凄く腑に落ちた気持ちになった俺は、古代生物の逆鱗に触れてしまった時を思い出して、あれを見たら恐竜とか魚竜の細胞うんぬん以前に皆足が竦んで動けない気がする…と、遠い目をしながら悟った。
あの
いけないいけないと思考を切換え、取り合えず皆に必要な説明は終わったのでまたイタリアに戻ろうと皆に一言断ってワープホールを潜る。
潜ればボンゴレ本部に繋がり、俺はスカルのいる病室へ向かった。
途中スカルの着替えをボンゴレの人に借りてきて病室の扉を開けば、そこにはスカルを睨みつけるリボーンと、スカルに縋りついて嗚咽を漏らすユニと、泣いているユニに困惑しているスカルがいた。
自殺を図らないように見ていてくれって頼んだけど誰も睨んでろって頼んでないだろと内心独り言ちる。
いやもしかしたらスカルを心配したい気持ちとそれを表に出すことを躊躇するプライドとの葛藤の渦にいるリボーンなりの精一杯の譲歩なのかもしれないけれど………その表情はハッキリ言って、ない。
なんだろう……リボーンって俺にとって超人完璧の鬼畜な家庭教師ってイメージあったけど、スカルが関わると一気に感情が読みやすくなるという意外な一面があったなんて。
スカルを睨みつけてるリボーンに呆れつつも声を掛ける。
「リボーン…準備出来たよ」
「分かった」
ここに来る途中他のアルコバレーノには正面玄関に集まってと伝えているから、後は俺達だけだった。
スカルには先ほど借りた服を渡し、泣き止んだユニと共に部屋の外に出る。
スカルがいつ自殺を図るか分からずはらはらしているけど、窓に張り付いてる古代生物がスカルから目を離そうとしないから多分大丈夫だと思う。
そういえば、古代生物から圧……というか殺気というか、重苦しい何かが消えたような気がするのは俺だけだろうか。
今となってはあの古代生物に対して恐怖という感情はだいぶ薄れている上に、スカルの安全に関しては信頼すべきだと超直感が告げている。
病室の扉が開き出てきたスカルに思考を切り上げて視線をあげれば、俺は言葉を失った。
スカルの右腕…具体的に点滴の針が刺さっていたであろう箇所から血が滲んでいて、スカルは左手でそれを拭っていたのだ。
慌てた俺は近くにあった医療キッドから絆創膏を取ってきて点滴痕に貼る。
乱暴に引き抜いたのか傷口が少しだけ広がっていて、もっと自分を大事にしろよと大声で怒鳴りたくなった。
それもスカルからすれば理解不能な怒りなんだろうなって分かってはいるものの、痛ましい現実に心が痛んで仕方ない。
そんな中スカルの左腕にユニがしがみ付き、まるでスカルの代わりに痛みを感じているように顔を歪めては気丈に振る舞う。
「スカルは…私が守ります」
「お、俺も守るから!」
ユニの言葉に俺もそう告げれば、スカルは何か言いたそうに口を開けようとしては閉じてと、自分の意思を外に出さないように押し込んでいく。
恐らく今までもそうやってきて、いつしかどれが自分の意思か分からなくなって皆の恐怖に自我も自己も塗り潰されていったのかと考えてしまう。
自分という支えの無い人間が、再び自分という心の支えを作ることにどれだけの長い時間が必要になるか分からないけれど、きっとスカルなら………まだ泣くことが出来るスカルならばまだ自分を取り戻すことが出来ると思う。
今のスカルは自失状態で何をするにしても誰かが手を引っ張って教えなきゃいけない程空っぽだ。
だからこそ、俺やユニ…周りの人たちがスカルの手を取らなきゃダメなんだと改めて思い知らされる。
俺達はスカルと共にバミューダ達のいる場所まで向かい、他のアルコバレーノ達と合流する。
「揃ったな、開くぞ」
その言葉を皮切りにバミューダがワープホールを作り出し、一人ずつ中へと入っていく。
俺達の順まで回れば、動く気配のないスカルに声を掛けてワープホールの中へと誘導した。
「大丈夫だよスカル……、あっちにいる皆にはお前のこと話してるから」
「私の手を離さないで下さいね」
出来るだけ安心させるように告げた俺は、スカルと共に暗いワープホールへと足を踏み入れた。
瞬きを一つ、それだけで変化する景色はいつ見ても慣れず、ぎこちなく集合場所へと降り立った俺の視界に獄寺君と山本が入る。
二人は俺に声を掛けた後、古代生物を見て一瞬固まるもスカルへと視線を移した。
皆には一応スカルの事情を話したけれど、それでも警戒が強く表れている獄寺君の表情とは逆に山本は好奇心といわんばかりの様子でスカルをまじまじと見つめている。
「そいつが………スカル…」
「思ってたよりも若いな、俺達よりも二個上だから先輩か!」
「この馬鹿!相手は狂じっ」
「獄寺君!」
「あ、す、すいません………失言でした」
獄寺君の放った言葉につい声を荒げてしまった俺に、彼はすぐに謝り出す。
横目でスカルを見れば、瞳に感情が全くなく虚ろな目をしていた。
狂人、という言葉が彼の心を殺し自己を奪っていく様を目の当たりにした俺は、慌ててスカルに声を掛けようとしたが、ふいにスカルの瞳に光が戻る。
すると急に視線が泳ぎ始め、息苦しいような表情をし始めた。
それが周りからの視線のせいだということに気付いた俺が、スカルを視線から守ろうとする前にリボーンが
リボーンなりにスカルのことをちゃんと気遣ってるんだなって思いながら、リボーンの視線の先にいるチェッカーフェイスへと身体を向けた。
「全員集まったぞ、チェッカーフェイス」
「どうやらそのようだ」
リボーンの言葉にチェッカーフェイスがそう返し、呪解の手順を話し始める。
俺の考案したトゥリニセッテ維持装置の周りを皆で囲み、死ぬ気の炎を注ぐというものだ。
それで呪解は本当に出来るのかというコロネロの問いにチェッカーフェイスは頷き、皆一様に円を囲み始めた。
呪解に対して興味がないのか意識が希薄なスカルを俺とユニの間に誘い、手を維持装置へと向ける。
一人、また一人と次々と炎が維持装置に注がれ始め、集った炎は火柱として聳え立つ。
急にスカルがふらつき始め、俺は慌てて片手でスカルを支えると、触れた背中が段々と小さくなっていくのに気が付き目を見開いた。
徐々に体が縮むスカルに、逆の方向へと振り返れば山本に支えられたリボーンの姿が映る。
の、呪いは解けるんじゃなかったのかよ!?
言葉を失った俺を他所に、死ぬ気の炎が十分に満たされた維持装置が一際眩しく光り出し、一気に俺達の炎を吸い取った。
力の抜けていく感覚が次第に小さくなっていき、最終的に眩しさと同時に維持装置に注がれていた炎が消える。
火柱が消えた広間にチェッカーフェイスの姿はなく、ラル以外のアルコバレーノ達も自分の体に困惑していた。
チェッカーフェイスの言葉に疑心暗鬼になっていると、ヴェルデが推測だが…と切り出す。
「つまり我々は普通の人間の赤ん坊と同じように、今から時間をかけて育つことになるのかもしれんぞ」
皆一様に納得している中コロネロがショックを受けていて、ラルとの関係を思い出した俺はなんともいえない微妙な気持ちになる。
そんな時、ユニが呪解に対して全く興味を示さなかったスカルを抱き上げて話しかけた。
「スカル……呪解出来た今、あなたは自由です」
「……」
「そこで提案なんですが、暫くの間…一緒に暮らしませんか?」
ユニの提案に周囲が驚いていて、特に白蘭が目を見開いている。
まぁ…ルーチェさんのこともあって、ユニはスカルに対して誰よりも気に掛けている。
正直γがこの場にいなくて本当に良かったと、入院中の彼には悪いけど切実にそう思った。
確かにユニの提案は、俺にとって驚くべきことではない。
元々スカルは他人と一緒に住んで、普通を、幸せを、愛情を知った方がいいのだ。
「新しい生活に戸惑うこともあるでしょうし、一緒に暮らして普通を知った方がいいと思いました」
「それに…命を狙われかねないあなたを一人にするのは不安です」
まさに俺が思っていたことをユニが告げ、スカルの答えを待つ。
スカルはただ黙ってユニを見つめていた。
「―――――――――――――」
掠れたか細い声は、確かに傷だらけの喉を通って放たれた。
スカルside
男に二言はない、って言葉あるけどさ……あれまだ口にしてなかったらノーカンだよね。
そんなことを考えてる俺は今現在リボーンにガンつけられています、誰か助けて。
直ぐ隣でユニちゃんが泣いておりますが、
ポルポの健気さに一瞬ニートライフを諦めかけた俺だが、勝手に職場をやめさせられ収入源がなくなってしまったことを思い出し絶望した。
あれリボーン達の悪戯なんだと説明してカルカッサに戻ることも出来たんだが、俺の死亡扱いには理由があって、狂人スカルという人違いの元凶と俺を同一人物だと思っている人がいるらしい今、噂が消えるまで大人しくいるようにとのことだった。
確かにいくら職場に復帰したとて命を狙われ続けるのは御免被りたい。
カルカッサには悪いけど、俺は相談なしに念願の辞職を果たした。
狂人スカルとやらの噂が消えるまでボンゴレ企業の扶養の下で大人しく隠れていろってことは引き籠れってことで、これはニートライフワンチャンあるなと期待で胸を膨らませている俺の目の前にリボーンが椅子を引き摺って座り出し俺を睨みつけてくるではないか。
人違いに気付いたにも関わらずリボーンが睨みつけてくる理由が本気で分からない俺は、点滴を打たれた右腕が痒くて左手で掻こうとしたらリボーンに一際鋭く睨まれて固まる。
怖くてガクブルしてると病室の扉が開き、綱吉君が入ってくるや否や俺を見ては同情するような目を向けてくるが、ほんとそれ傷付くんでやめてくれませんかね。
因みにポルポは病室の扉に張り付いて室内を
綱吉君が泣き止まぬユニちゃんの頭を撫でて、リボーンへと声を掛ける。
「リボーン…準備出来たよ」
「分かった」
二人の会話に内心首を傾げていると、綱吉君に服を渡された。
「並盛…えーと日本はここより気温低いし、病衣だと寒いだろうから…」
ああ、日本に向かうのか。
にしても綱吉君の気遣いが身に染みるなぁ……
受け取った服を広げれば黒いTシャツに黒いダボダボのズボンで、着替えたら教えてねと残して全員出ていく。
もたつきながら着替えていると、ズボンの裾を踏んずけてしまい転がった拍子にまた点滴が外れてしまう。
痛みに悶絶していると窓の外に張り付いていたポルポが心配して中に入って来た。
ポルポを安心させようと大丈夫と苦笑いをして、病室を出れば綱吉君が俺の方に振り返り固まる。
右手の甲から垂れる血を左腕の袖で拭っていると、綱吉君が絆創膏を貼ってくれた。
ありがとうとお礼を言う前に綱吉君の側にいたユニちゃんが左腕にしがみついてなまけもののように引っ付いてきて驚く。
「スカルは…私が守ります」
「お、俺も守るから!」
な、何に対して守ってくれるのか怖くて聞けない俺は口を
狂人スカルとやらが色々やらかしてくれたのか、結構命を狙われているらしいことは分かっているので、人違いで俺を狙ってくる奴がどんな奴なのかは大体想像ついて正直口にしたくない。
こんな子供に守られて男の沽券に関わる?
沽券はとうの昔に捨てた俺は、二人の言葉に甘んじようと思う。
いざという時はポルポが助けてくれそうな気がする。
少しだけ歩けば屋外に出て、そこには俺が知っている限りでは全員が揃っていた。
バイパー、ヴェルデ、風、リボーン、コロネロさん、ラル姉さん、知らない黒い人、知らない女の子………ちょっと待て最後の女の子は初めて見るわ。
黒い人はあれだ、多分ポルポとガチンコ対決してた時いた奴だ。
「揃ったな、開くぞ」
それだけ呟いた黒い人が直ぐ隣にワープホールらしき黒い何かを作り出す。
はて、どこかでこれ見たことあるような………あ、透明のハブられてた赤ちゃん!
あいつの元の姿がこの黒い人だったのか、残念なことに名前は忘れてしまったがな。
皆がワープホールに入っていく中、俺の両隣りを陣取っている綱吉君とユニちゃんが声を掛けてきた。
「大丈夫だよスカル……、あっちにいる皆にはお前のこと話してるから」
「私の手を離さないで下さいね」
子供を両隣に設置するという、如何にも出会いがしら攻撃しにくいこの布陣は最強なのでは。
ワープホールへ足を入れた俺は、背後でポルポがついてきている気配を感じ取りながら歩を進める。
暗闇を数歩歩けば視界に広がる光に目を細めた。
「十代目‼」
まず最初に聞こえたのは若い男の声で、次にその言葉に意識が向かう。
十代目………?
思わず何の十代目なのかなーと思ったけど脳がこれ以上思考することは得策ではないと警報を発していたので聞かなかったことにした。
決して綱吉君に向けられた十代目とかいう言葉なんて聞いていないよ。
声のする方へ視線をちらりと移せば、銀髪の不良が俺の方を睨んでいてすぐさま視線を逸らした。
ユニちゃんの手を握っている右手に若干力が入ったけど、ユニちゃんも強く握り返してくれたお陰でなんとか冷静になる。
「そいつが………スカル…」
「思ってたよりも若いな、俺達よりも二個上だから先輩か!」
「この馬鹿!相手は狂じっ」
「獄寺君!」
「あ、す、すいません………失言でした」
意外な上下関係を見たような気がした、というのが率直な感想だった。
次に不良が云いかけた言葉に、まだ一般人の俺=狂人スカルという勘違いの名残りがあるのかなぁ……と遠い目をするが、まぁ人違いって理解されてるからマシか。
黒い髪の男の子は俺をまじまじと眺めていて、俺は顔を伏せて足元に視線をズラす。
ヘルメットもマスクもしていないから激しく落ち着かないってのもあって、視線を泳がせていると目の前に黒い影が視界の大体を妨げた。
それがリボーンの背中だと気付いた俺は有難いと思ったが、俺の視界を遮るためにわざと人の前に立ったリボーンの嫌がらせだと気付いて微妙な心境になる。
「全員集まったぞ、チェッカーフェイス」
「どうやらそのようだ」
声の先を見れば、そこには眼鏡をかけた和服の男性がいた。
まて、チェッカーフェイスって特定厨のことだよな…?
あいつこんな冴えない顔だったんかー!この丸メガネーーーー‼
「久しぶりだなスカル…この姿で会うのは初めてか」
元はと言えば全ての元凶は俺を人違いしたコイツなので、この特定厨に対して好感度はゼロに等しい俺は無視を決め込んでいると何やら話し始めた。
専門用語を連発していく皆の話に現状が掴めず、周りを飛び交う言葉が左耳から入って右耳から抜けていく。
すると、いきなり皆がぞろぞろと円陣を作り始めて戸惑う。
呪いを解くのに必要なのかなと思った俺はユニちゃんの手の引くままに配置に付き周りを見渡した。
全く知らない人達の視線が俺に突き刺さり、恥ずかしさで居た堪れなくなった俺は視線を足元に移していると、ユニちゃんが繋いでいた手を
一体何が、と思った瞬間目の前から突風のような衝撃が俺を襲い、目を見開いた。
炎だ
視界に映る炎に驚愕していた俺は、体から力が抜けていくことに気付く。
急な脱力に足をふらつかせていると、隣にいた綱吉君が慌てて腕を掴んで支えてくれた。
段々と低くなる自分の目線に、もしやと思って周りを見れば案の定他のアルコバレーノも縮み始めている。
呪解しにきたはずだが何の手違いか赤ん坊の姿に戻ってしまった俺は、他人事のように困惑するアルコバレーノ達を眺めていた。
暫くして炎が治まれば、その場に困惑が広がる。
ラル姉さんだけが元の姿に戻っていて、他は全員赤ちゃんに逆戻りになっていた。
「つまり我々は普通の人間の赤ん坊と同じように、今から時間をかけて育つことになるのかもしれんぞ」
そう自分の推測を告げたヴェルデに皆が納得し一旦動揺は収まったが、コロネロさんが大層ショックを受けている。
そんなコロネロさんとは反して、俺はとても内心ハッピーだった。
そりゃそうだ、赤ちゃんからってことはあと10年以上は働かなくても大丈夫ってことだからな。
カルカッサのこともあるから、今度働かせようとした輩がいれば即座に労基に訴える所存だ。
脳内ハッピーな妄想をしていた俺をいきなり抱き上げたユニちゃんに驚いていると話しかけられる。
「スカル……呪解出来た今、あなたは自由です」
「……」
「そこで提案なんですが、暫くの間…一緒に暮らしませんか?」
笑顔でそう提案してくるユニちゃんにピタリと思考が固まる。
一緒に……暮らす……?
何を言ってるんだこの幼女は。
ユニちゃんの言葉に思考が追いついていない俺に、ユニちゃんの声が頭上から降ってくる。
「新しい生活に戸惑うこともあるでしょうし、一緒に暮らして普通を知った方がいいと思いました」
遠回しに俺が非常識な暮らしをしていると言われて地味に傷付いた。
それとも俺が引き籠らないための保険でルームシェアとか提案してんのかな……
「それに…命を狙われかねないあなたを一人にするのは不安です」
心配そうに見つめてくるユニの言葉に、俺が下した決断は―――――――――――………
スカル:思うだけならセフセフ、YESニートNOワークを再び掲げ直した見捨てるべき馬鹿。
ツナ:セコム予備軍と化している。
リボーン:スカルが自殺を試みたと思って割とSAN値ピンチ。
超直感:呼んだ?
本当は元の姿で呪解させようかと思ったんですけど、ちょっと番外編で書きたいことの展開的に赤ちゃんのままでの呪解が都合が良かったので、今回は原作よりの結末にしました。
取り合えず呪解出来ましたね。
次回、エピロ-グです。
リク募集を活動報告にあげていますので、リクエストのある方は是非そちらにお願いします。
※感想欄にリクエストは書きこまないで下さい。