Skull   作:つな*

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俺は泣いた。


skullの感動

ポルポside

 

 

意識が浮上した時には、既に人の気配はなかった。

敗北を(きっ)してしまった我は多くの血を失った重たい我が身を起こす。

目の前にあるのは更地のみで、視界に入る血だまりだけが残っていた。

己が無力を嘆く暇すら、今の我にはありはしなかったのだ。

 

喪失感 絶望 怨念 憤怒 悔恨

 

あげればきりがないほど、今の我には狂おしいほどの激情が暴れまわっていた。

我が思う唯一は、主の亡骸(なきがら)だ。

人間を全て滅ぼすことも考えはするが、その前に主の亡骸を見つけ出したかったのだ。

肉が腐敗し骨と化すその時まで我が見守ると心に決めていた。

 

主の 亡骸を

 

ただそれだけを想い、暴れ狂った激情が形どったのは怨嗟の闇だった。

体の奥底から溢れ出す怒りを、憎しみを、恨みを…すべてを詰め込んだその闇は我が身を包み込み、深淵へ(いざな)う。

その瞬間、炎が灯ったのを確かに我が(まなこ)は捉えた。

 

 

漆黒の全てを飲み込む  炎を

 

 

「ああ……主………待っていろ……我が……我が、そなたを……」

 

我が身を包む漆黒の炎は、この身に刻まれた傷を癒していく。

主の亡骸を求めるが為だけに、軋む身体を引き摺る。

 

 

「そなたの骨を(うず)めるのは………我だ……」

 

 

 

 

動けるほど傷が治るまでに時間を要したが、漆黒の炎が枯れる様子はなく、我は主の気配を探り出す。

漆黒の炎を灯した瞬間から冴えわたる我が鋭感を駆使し、はるか遠くに感じるあのコバエらの気配に反応した。

主の死した今、奴等が主の亡骸を移したに違いないと、我はすぐさまそこへと向かおうとする。

まるで慣れ親しんだような感覚の炎は、我を包み込めばその場と我を切り離す。

次に瞼を開けば、全く見知らぬ土地が視界に入ると同時に、奴等の気配を数か所に感じ取った我はすぐさま動き出した。

目の前には森林があり足で木々を薙ぎ払っていると、人間共が現れ喚き散らす。

 

「何だこの化け物は!?」

「どこのファミリーのもんだよ‼」

「取り合えず動けないように押さえつけるぞ!」

 

()く失せよ」

 

一振り、足を一本横に振れば目の前にいた煩わしい人間共が視界から消え去る。

その後もうじゃうじゃと、まるで蟻のように湧いて出る人間共に段々と煩わしさを覚えた。

 

「ええい死ね!貴様らに構っている暇など我にはない!」

 

早く、腐り落ちてしまう主の亡骸を取り戻したかったのだ。

我が身から溢れる血は木を腐らせ地面を溶かし、己を包む漆黒の炎は辺り一面を焼き尽くす。

毒を吐き、足で薙ぎ払っては溢れ出る人間共を蹴散らした。

 

「蟻は蟻らしく……潰れて死ね‼」

 

全方位に毒の雨を降らせようと口から毒を吐こうとしたその時だった。

 

 

「止まれ!スカルは生きてる‼」

 

その言葉に、一瞬思考を奪われる。

視線の先には、主が最も忌避していたコバエであり、我が最も嬲り殺すべき者。

主が生きていると吐いたこの男の首を今にでも刎ねたい衝動を抑え、冷静さを手繰り寄せる。

 

「貴様か………主はどこだ……戯言を申せばその心臓、二度と動かぬと知れ」

「……スカルは今目を覚ました、お前がここで暴れないというのなら案内する」

「駆け引きを申すかコバエ………身の程知らずがっ」

 

取引を持ち出すコバエに殺意が漏れ出し漆黒の炎が辺りを覆いだした。

我が毒が、血が、炎が、全てを腐らせ、溶かし、命を奪い取るその様はまさに地獄であり、命は等しく無に帰す。

殺意という言葉にすら当てはまらないであろうこの激情を、周りにぶつけ、今にもその場に居る全ての者を殺そうとした。

 

刹那、

 

 

「あっ」

 

——————————酷く小さな声が耳に届いた。

 

その声を 間違えるものか

幾年月を共にして 忘れたことなど 一度たりともありはしなかった その声を

 

 

視界の端、視線の奥で紫の絹糸が陽の光に照らされながら、重力に従って舞い落ちていく。

そこからは無意識だった。

 

瞬きをすれば既に足が届く距離にいて、我はすかさず叫ぶ。

 

 

「主‼」

 

 

足を主の胴体へと伸ばし、衝撃のないように注意を払いながら受け止めれば、主の固く閉じられた瞼が震えながらゆっくりと開く。

見慣れた紫色の、水晶のような、穢れを知らぬ瞳が我を射抜き、見開いた。

 

ポルポ……生きて……

「あ、あるじ……こそ…生きて…おられたか……」

 

我が存命に驚きを露わにする主の、心臓と頭部を隠す包帯姿は痛ましかった。

お世辞にも逞しいと云えぬ華奢な身体は血が通っていないのではと疑うほど青白く、今にも死んでしまいそうだった。

主を地面に降ろせば、急に膝から崩れ落ちる。

 

「主!どうなされた!」

 

どこか傷が悪化したのかと焦る我は、主の地面についている手の甲に落ちた雫を見て、涙しているのだと気付く。

主の震える肩をただ眺めることしか出来ない我に、追い打ちとでもいうかのように主の口から声が零れた。

 

「あは……は…は」

「主…?」

「死んだ…と、思った………」

 

 

何故助けた、と言外の言葉を突きつけられる。

確かにあのまま落ちていたなら、死んでいたかもしれない。

漸く望んだ死を前に、我が………妨げてしまったが故に失望している。

 

ならばあのまま主が死に逝く光景を眺めていれば、良かったというのか

血を流し冷たくなっていく主を見届ければ、良かったというのか

それが、主の幸せだと言い聞かせて…亡骸と成り果てるそなたを眺めていれば……そなたは救われたというのか

 

「あ、主……我は…我には……分からぬのだ……」

 

そなたの望みを、救いを叶えたい

けれど、叶って欲しくないと願ってしまう己がいる

 

「主が、自由になりたいと……切に願っていることは分かっていたが……我は………嫌だった」

 

それでも己を偽り、主の死を望もうとした

現にそなたが倒れ伏した時、安堵したのだ

もうこれ以上そなたが苦しまずにすむと思えば、安心してしまった……

悲哀から 苦痛から 恐怖から 全てから解放されたそなたに心の奥底から安堵し涙した 

 

    けれど

 

「けれど、そなたの存命が分かって………今までの苦悩と葛藤が全て馬鹿馬鹿しく思えた……」

 

 

そなたの生きた姿を見た時、そなたが倒れ伏した時以上に安堵している己がいた

ああ、我が愚かだったのだ

その美しい瞳に映った己を見て、思い出した

今まで恐ろしくて口に出来なかった、「死ぬな」というたったの一言を

 

「どんな主であれど………生きてくれさえすれば……いいと、今になって……気付いた」

 

生きてくれされ、すれば

 

我が………ぼく、が………

 

救い出してみせるから

 

「…独りは嫌だ……」

 

 

    死なないで

 

 

「一緒にいたいよ……スカル……」

 

 

  一緒に、生きたいよ

 

 

それは 家族として、スカルの生を望んだ僕の最初で最後のお願いだった。

 

 

お、俺………自由()に…あ、憧れてた………全てから逃げて…楽に、なれるから……

 

ふと呟いたスカルの言葉に、泣き出しそうなほど悲しくなった。

側にいながら、一度だって救えてなかったスカルの壊れかけの心が悲鳴をあげていた。

 

もう嫌だった…………嫌だったのに……

 

ずっと苦しんでいたのを、側で見ていた。

ずっと怯えていたのを、側で見ていた。

ずっと悲しんでいたのを、側で見ていた。

だから、スカルの悲鳴を…助けてをずっと聞いていた。

僕が僕でなくなり、我になった時から…スカルは目に見えて死に急いだ。

僕が僕を殺したことが、自分の所為だって思い詰めたスカルが僕を突き放すことで、僕を自身から解放されるよう願っていたことも、薄々気づいていた。

スカルが部屋に籠って、僕から距離を置こうとしていたこと…気付かないわけないじゃないか。

でも、家族(ぼく)に戻ることをしなかったのは……スカルが死を望んでいたから。

僕なら絶対に死なないでって言っては、ずっとずっとスカルを苦しませ続けただろうから。

それでもね、苦しかったんだ。

目に見えて無理をするスカルを見ていることが、苦しくて、苦しくて、僕も我も心を殺していた。

そんな僕に気付いたスカルが、もっと死にたがるの…目に見えてたのに。

ごめんねスカル、君の死を心から願えない僕を……きっと君が恨んじゃくれないこと、知ってるけど。

 

それでも僕は君に生きてほしい

 

何度も君が僕を突き放そうとしても、僕は絶対にスカルを見捨てたりなんかしない

 

 

お前………こんな、俺でも……見捨てないなんて………馬鹿だろ

 

 

だって 僕の 大切な 家族だから

 

 

「……馬鹿でも…いい、僕はっ………スカルと一緒に生きていたい」

 

 

弱弱しくも、確かに首を縦に降ろしたスカルは、か細い声を押し殺して涙を流していた。

 

ああ、この人を絶対に救わなければ

 

 

透き通る涙の粒を落とす綺麗な瞳を見つめながら、そう心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

綱吉side

 

 

「スカルの目が覚めたって本当!?」

 

リボーンにスカルの目が覚めたと聞かされた俺が急いで病室に駆け込み、勢いよく開いてしまった扉の先には、スカルの右手を握りしめるユニと、それを握り返すスカルの姿があった。

青白い肌に所々包帯やガーゼをしているスカルの表情はまるでこちらを怯えているようで、チクチクと針で突かれたような痛みが心臓に過ぎり、俺はスカルと交差する視線を逸らしながら謝罪を口にする。

 

「ス、スカル……その、俺………お前をずっと怖い奴だと…勘違いしてたけど、本当はそうじゃなくって………えっと、……その…ごめん…なさい…」

 

本当はもっと謝らなきゃいけないこと沢山あるんだけど、いざ本人の前に来てみれば思うように言葉が出て来ず、精一杯の謝罪だけを述べた俺は、スカルを安心させようと続けた。

 

「お前が無事で本当に良かったよ……多分これから他のアルコバレーノ達も来ると思うけど、皆お前のことちゃんと理解してるから安心してほしいんだ……」

 

ちらりとスカルの顔を見れば、こちらの真意を測りかねているようだった。

どうして、何故、と困惑が嫌でも伝わるも、数秒の末小さく頷いたスカルに俺は安堵のため息を漏らす。

そして一向に喋らろうとしないスカルと俺の間に沈黙が続き、慌てて何か話題でもと話しかけた。

 

「あ、自己紹介がまだだった!お、俺沢田綱吉っていいます!えっと………中学二年生です!」

「そういえば私も…この時代で会うのは初めてでしたね……私はユニ、ルーチェは私の祖母で、母はアリアです」

 

出来るだけ優しく声を掛けるけれど、スカルの表情から影が消える様子はなく、ユニも不安そうにスカルの左手を握ってる。

そんな時に病室のドアが開き、ラルとコロネロが入って来た。

 

「スカル、無事目が覚めて良かった……それと、今まで悪かったな」

 

ラルは室内に入るなりスカルへ声を掛け今までのことを謝れば、全く接点もないだろうコロネロがスカルへと手を伸ばす。

 

「ヘルメットの下がこんなガキとはな……おいスカルおめー呪いを貰った時いくつだったんだコラ!」

 

コロネロがスカルの頭を撫でようと伸ばした手に、スカルの体が一瞬(すく)んだのを見逃さなかった俺は、スカルの過去を思い出し悲しくなる。

コロネロの手が一瞬だけ止まるけど、そのまま優しくスカルの頭に置かれた。

 

「おいコロネロ、もう少し落ち着いた口調で話してやれ」

 

スカルが周りに対して明らかに恐怖を抱いていることはこの部屋にいる誰もが気付いていて、ラルの言葉にコロネロがバツが悪そうに眉を(しか)める。

当のスカルはコロネロの言葉に思うところがあったのか、(おもむろ)にユニの手を解き両手を目の前に持って行く。

右端の親指から順に折っていく姿に、まさか…と思わずにいられなかった。

自身に無頓着であることはなんとなく察することが出来ていたけれど、当時の年齢さえ覚えていない程自分自身に対して興味の欠片もない様子は、どれだけスカルが抑圧された日々を送っていたかが垣間見れ、見ているこちらが辛くなる。

指の数が15を過ぎた辺りから急に曖昧な動きになり、記憶が定かでないことが分かった。

シスターの話だと、スカルが家も家族も失ったのが15歳だった……多分、思い出したくない記憶だったのかもしれない。

もう一つ指が折られたところで完全に手が止まり、思考に(ふけ)ったスカルの瞳が段々と光を失っていく様子に俺が名前を呼ぼうとして、ふと我に返ったのかスカルの瞳に光が戻った。

 

「じゅ……じゅうろく…………?」

 

自信なさげに呟くスカルの声は掠れていて、中途半端に折られた両手の指の数が現実として突きつけられた。

その場にいた誰もが苦々しく顔を歪ませたのは正しい反応だ。

16歳……俺と二つしか変わらないのに、村人に(しいた)げられて、全部失って、自分すらも見失って、裏の世界に引きずり込まれて……挙句に呪いを貰ったなんて……

思わず声に出してもスカルはそれを全く気にしていない様子で、きっとそれが悲しいことだなんて思う思考さえ彼にはもう存在していないんだと思うと余計苦しくなった。

コロネロにしてはとっても優しく頭を撫でていたけど、スカルの体が始終強張っていたのを見逃さなかった俺は、少しでも話題を変えようと体が元の姿に戻った経緯を話し始める。

どこか上の空で俺の話を聞いていたスカルは、現実味を帯びていなくてまだ夢の中にいるような様子だった。

 

「呪いが解けた後のことはまだ分からないけれど……スカルがやりたいことをすればいいんじゃないかな…」

 

何を言っていいかも思いつかない俺の精一杯の励ましに、スカルが反応した。

考え込んでいるのか視線を彷徨わせて、必死に答えを探しているようなスカルが発した言葉にその場の誰もが凍り付く。

 

 

じゆう……に、

「だめだ!」

 

なりたい、と唇が形どる前に俺は思わず声を荒げてしまい、慌てて口を噤み落ち着きを払って再び言葉を掛ける。

 

「ま、まだ…お前が知らないだけで世界は広いんだ……少しでもいいから世界を…本当の目で、感情で…見てみなよ」

 

俺の言葉にあからさまに困惑し始めるスカルに、コロネロとラルが口を開く。

 

「カルカッサなら問題ねぇぜ、さっきヘルメットと一緒にお前の死亡報告をしてきたからな」

「あいつらが狂人を崇拝している限りお前は一生縛られたままだと思った俺達の総意でありエゴだが……お前は一度自分の足で手で、目で…生きてみた方がいい……きっと生きるための何かを見つけられるはずだ」

い、生きるための……何か………

「狂人スカルは死んだ、これからはお前だけの人生を、生きて、歩いてみろ」

 

カルカッサにスカルのヘルメットを送り付けることを提案したのはこの二人だ。

スカルが頑なに顔を見せなかったのは周知の事実だったので、カルカッサがその真偽に気付くのは至難の業だ。

暫くカルカッサは荒れるだろうが、軍師のいないあのファミリーがそう長く続きはしないとリボーンが言い、皆それに頷いていた。

カルカッサファミリーには悪いけど、これが一番平和な解決策だった。

スカルは新しい人生を生きることになるけれど、それが本人にとって一番幸せだったのかなんて誰にも分からない。

だってスカルが一番望んでいた救いは死ぬことだから。

それが幸せとは言い切れないけれど、本人とって確かに逃げ道であり、地獄ではなかった道だった。

俺達がしたことが正しいかなんて誰も分からないんだ。

 

でも、この選択をしたことを俺は絶対に後悔しない。

 

 

 

 

その後、ヴェルデやマーモン、風がスカルの顔を覗きに来てはそれぞれがスカルを気に掛けていた。

クロームは来たがっていたけれど、スカルの何時間にも渡る手術に付き添い疲労困憊だったので休むよう言えば、渋々ながら首を縦に振ってくれた。

バミューダは来なかったけれど、俺よりも重症だったからまだ休んでいるのかもしれない。

賑やかな病室の中でスカルの表情が一向に明るくなる様子はなかったけれど、これ以上居座って体調を悪化させるだけだと思いユニ以外が病室を出る。

 

「スカル…大丈夫かな……」

「まだ困惑している部分が多い上に、心の傷はそう容易く治りはしない……こればかりは長い時間が必要だろうな」

 

俺の言葉にラルがそう応え、不安が過ぎる。

何だろう………胸騒ぎがするような………

そんなことを考えながらボンゴレ本部の廊下を歩いていると、目の前から男の人が慌ただしく走ってきた。

 

「大変です!謎の生物の襲撃を受けました!」

「「「「「‼」」」」」

 

その人の言葉に、俺達全員に緊張が走った。

謎の生物という単語に先ず頭を過ぎるのは古代生物で、死亡を確認していなかった奴がスカルを追ってここまで来たのかと思い至る。

リボーンと九代目が前線に向かったと聞いて、俺はいてもたっても居られず走りだした。

まだリボーンは戦える程回復していないし、九代目だけじゃ古代生物には到底敵わない。

いや、俺達全員が挑んだところでもう一度勝てる確証なんてどこにもないんだ。

背中に伝う冷や汗に超直感が何かを訴えているけれど、一体それが何なのか分からず焦りだけが増えていく。

段々本部の正面に近付くにつれ、騒音が聞こえる。

ふと騒音が止み、どうなっていると気が気じゃなくなった俺がやっと前線だった場所へと辿り着けば、リボーンと九代目の姿だけがそこにあって古代生物の姿が見えない。

 

「リボーン!九代目!」

「綱吉君…!」

「こ、古代生物は一体どこに…っ」

 

俺の方へと視線を移した九代目とは別に、リボーンの目線がある方向へと向けられていて俺もそちらへ視線を移せば、衝撃の光景がそこにあった。

 

「……え、……っ……え!?」

 

言葉を失う俺の前には、地面に膝をつき両手で顔を覆っているスカルと、その隣でスカルを見つめている古代生物だった。

スカルは先ほど会った時と同じ病衣に裸足という恰好で、スカルのいる場所の上方を見れば窓からカーテンが風で枠の外に出て緩やかに(なび)いている。

そこまで見れば流石の俺でも、スカルが窓から落ちたことくらい分かり顔から一気に血の気が引いた。

窓から……自分から落ちたんだと、分かり切った現実に目の奥が熱を持つ。

そこまで生きるのが怖かったのかだなんて…分かり切ってる………

ずっと死ぬことを望んでいたスカルのとる行動なんて、誰もが予想ついていたのに。

それなりに距離のある俺に、スカルと古代生物の声は聞こえなかったけれど、なんとなく…古代生物が泣いているように見えた。

XX BURNER(ダブルイクスバーナー)を奴に撃った時聞こえた声がとても優し気だったことを思い出して、歩を進めようとした足を止める。

泣いているのか肩を震わせたスカルが首を縦に振るのを、俺はただ黙って眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

ポルポのことをすっかり忘れていた俺氏、ポルポの生死が気になり出してヤバイ。

死んでたらどうしよう…訴訟も辞さない。

心配していると、窓の外が何やら騒がしいことに気付いた。

何ごとかと病室の窓を開けようとベッドから出た俺は、腕についている管を支えに巻き付け、地面に垂れないように気を付けながら窓際へと歩き出す。

窓のガラス部分は俺の上半身ほどあり、開けばそれなりに風が入ってきて涼しかった。

重傷の体をいきなり冷やしたのがダメだったのか、一瞬意識がぐらつき窓の外に体の半分以上が出てしまうという事態に陥り、あっと声を出す前に上体が傾き足が浮き上がる。

これやばいと思ったのも束の間、点滴の支えが窓に引っ掛かり腕から針が勢いよく外れて、鋭い痛みに声が出た。

既に体は逆向きであとは落ちるだけというところだったが、足の先が窓枠に引っ掛かり俺は宙ぶらりんになる。

幸い麻酔が撃たれている為、心臓に痛みはなかったが無理やり引っ張られたように外れてしまった針の傷痕が痛みだす。

目線を頭上へ向ければあるのは地面で、しかも花壇の角が丁度真下にある。

数針縫ったであろう頭の傷に更にここから命綱無しバンジー決め込んだら次こそお陀仏だと思った俺は逆さまであるはずの顔から血の気が引いていくのが分かった。

起きかけで足に力が入らず段々とずり落ちていく体と、真下の地面が近づいていく怖さで遂に目の前がボヤけ出す。

 

「あっ」

 

体力の限界でずるりと足が窓枠から離れ、俺は真っ逆さまから落ちてしまう。

走馬燈はこれで何度目だろうと、お馴染みの現象に懐かしさを覚えながら近づく地面に目を固く閉じたその時だった。

 

「主‼」

 

懐かしい声が聞こえた俺は無意識のうちに安心感を覚え、体の力を抜いてしまう。

そして予想していた痛みや衝撃が何一つ来ない俺を、ずしりと懐かしい感触が包み込んだ。

恐る恐る瞼を開ければ、そこにはずっと慣れ親しんできた頼りになるペットの姿があった。

 

「ポルポ……生きて……」

「あ、あるじ……こそ…生きて…おられたか……」

 

ポルポもまた俺を見ては目を見開いてそう呟く。

俺の体を労わってか、ゆっくりと地面に降ろしてくれるペットの気遣いに感無量な俺は、地面という偉大な足場に先ほどの恐怖と緊張が解け足から崩れ落ちる。

 

「主!どうなされた!」

 

数十時間に渡って連続で死ぬ思いをしたからか、震えと涙が中々収まらず顔を伏せる。

ポルポの足がおろおろしているのが視界に入り、笑いが零れた。

 

「あは……は…は」

「主…?」

「死んだ…と、思った………」

 

本気で今のは死んだと思った。

ポルポが助けてくれなきゃお陀仏だった俺はありがとうと言おうとしたが、急に心臓が激痛を訴え開いた口を閉じる。

安静にしなきゃいけないのに起き上がった挙句窓から落ちるという暴挙をやらかして、傷が開いたのかもしれない。

 

 

「あ、主……我は…我には……分からぬのだ……」

 

激痛の走る心臓を手で押さえ痛みが治まるまで待っていると、ポルポの声が頭上から降ってくる。

けれど今の俺は涙やら鼻水やらをもろもろ垂れ流しているので、顔を上げる気はない。

 

「主が、自由になりたいと……切に願っていることは分かっていたが……我は………嫌だった」

 

そりゃそうだ。

ニートな飼い主とか見限るレベルだよな…

顔を上げるために垂れてる鼻水を全力で啜っていたら頭痛くなってきた。

 

「けれど、そなたの存命が分かって………今までの苦悩と葛藤が全て馬鹿馬鹿しく思えた……」

 

苦悩と葛藤って………え、見限るとかそんな感じの悩み?

俺そこまでヤバイレベルまで来てたの?

 

「どんな主であれど………生きてくれさえすれば……いいと、今になって……気付いた」

 

ポルポがええ子すぎて涙出る。

俺もしかして今回死にかけたお陰で、ペットに見限られるフラグ折った?

失いかけてやっと気づく大切なもの的な……?

放置気味で育ててすらいない俺にここまで言ってくれるとか…俺氏感激。

ある意味死にかけて良かった。

 

「…独りは嫌だ……」

 

あ、今コイツ素で喋った気がする。

 

「一緒にいたいよ……スカル……」

 

 

ポルポ!お前俺の名前!

名前‼何年ぶりだおいぃぃいいいい‼

ビックリしすぎて鼻水ちょっと出た。

感動しすぎてまた涙が出てきた………

この機に脱中二病してくくれば嬉しいけど、俺が反面教師(ニート予備軍)すぎてポルポまたグレそう。

これ俺がニートライフ諦めれば一件落着な気がするけど、そう易々と長年の夢を諦めるわけにもいかない。

仕事したくないでござる。

 

 

「お、俺………自由(ニート)に…あ、憧れてた………全て(社会の目)から逃げて…楽に、なれるから……」

 

前世で苦労しすぎるは今世はハードモードすぎるはで、燃え尽き症候群並みに何もしたくなかったしな。

 

「もう嫌だった…………嫌だったのに……」

 

ずっとずっとぐーたらして、アルバイト並みの週一労働だけで惰性に生きて、ゲームにのめり込んで部屋から出ないことなんてざらで………あれ?意外と俺満喫してた?

あれれ……?ちょっと振り返ってみようか。

呪いを貰ってかれこれ20年とちょっと……週一労働といっても出勤してやることは資料を読むだけで、ギルマスとゲームで遊んで……ドライブで色んなとこ走って、……でも俺の持ってるライセンスなんてゼロで……出来高制なにそれ美味しいの?ってレベルで高い給料もらって……あれれ…?

俺前世よりもめちゃくちゃ楽な人生送ってね?

ニート寸前の飼い主があの会社を辞職して家に引きこもるのはいつでも有り得るわけで、それを数十年も側で見てたポルポ君はさぞかし冷や冷やしただろうに。

たまに食べ残したご飯をあげるだけでそれ以外は自給自足してたから放置してたけど、俺結構ヤバイ飼い主?

動物愛護団体に通報案件?

今までを思い出して何だか逆に申し訳なくなった俺だが、取り合えず一言…ポルポに言っておきたい。

 

 

「お前………こんな、俺でも……見捨てないなんて………馬鹿だろ」

 

ほんとそれ。

確かに一緒に遊んだ記憶とかもあるけど、圧倒的に引き籠ってた記憶しかない俺はほぼポルポを放置してた。

これは見限るレベルですね、はい。

あまりにもひどい現状に涙が全部引っ込んだ。

 

 

「………馬鹿でも…いい、僕はっ………スカルと一緒に生きていたい」

 

 

んあああああああああああああああ、ポルポマジええ子。

何この子どうやったらこんなええ子育ったの?

ごめんねポルポ、俺が悪かった。

俺……もうニート諦める。

このままの週一勤務の生活でも充実してるから高望みしないことにしたよ。

感極まって涙腺崩壊してしまった俺は引っ込んだばかりの涙を垂れ流しながらその言葉に頷くが、この時すっかり忘れていたのだ。

 

 

 

 

 

 

週一労働で高給料のカルカッサ企業に勝手に死亡届出されて退職させられていたという事実を。

 

 

 

 

 

 

 




スカル:このあとめちゃくちゃ前言撤回した、死んだと思ったけど死んでなかったら死にそうになった人、チャコの死を思い出して目が死んだけど直ぐに戻った。

ポルポ:ンアアアアルジイイイイイ、スカル死ん(だと思い込ん)で弔い合戦に負けてSAN値ピンチ状態から夜の炎を獲得しちゃった系セコム、既に傷は半分くらい癒えてるので出会いがしら再び戦闘になれば勝つのはコイツ、スカルの気配を察知してボンゴレ本部へ突撃からのポルポ君()復活。

ツナ+アルコバレーノ:スカルの年齢と自殺未遂にSAN値ピンチ

リボーン:スカルの年齢聞いていないのがせめてもの救いだが、多分これからどっかで聞いた時に再びSAN値ピンチに陥る

あとはそこまで愉悦要素あるわけではないですが、一応締めくくりのいいように終わらせてみます。


ps:多分もう話の流れは変わらないので、リク募集しようかなと思います。
活動報告にあげておきますので、リクエストは是非そちらにお願いします!
※感想欄にリクエストは書きこまないで下さい。

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