リボーンside
「応急処置をするから傷を見せろ」
スカルの起こした爆発で吹き飛ばされ意識を失い倒れ伏しているヴェルデとマーモンの状態を軽く確認した俺は、二人を戦場から遠ざけた場所に寝かせた後、古代生物の毒を足に浴びて後退した風の元へ駆け寄り傷を見る。
液体を被った部分の布は溶けたのか、露わになる足首からふくらはぎにかけて黒い染みが広がり、染みの周りは火傷したように炎症を起こしていた。
毒の進行を危惧して服の一部で太腿部分を強く縛り付けている風は、余程痛みがあるのかその表情に余裕はない。
「動かせるか」
「無理…です、ね……痛み以前に…麻痺している」
出血が酷いわけではないが、少しでも空気に触れれば骨にまで痛みが響くという風の言葉に毒の侵食が早いと判断した俺は患部に晴の炎を流し込む。
細胞の活性化を施したところで全治するわけでもないし、痛みがなくなるわけでもない。
いや、逆に細胞を活性化させることで神経が過敏になり先ほどよりも痛みは増しているハズで、その証拠に風の額に浮かぶ脂汗が頬を伝い服を湿らせていく。
俺の出来ることは一つだけ……毒によって細胞が死滅し、足が腐食するのを防ぐ為だけに最低限細胞を活性化させることだけだ。
激痛に耐えている風には悪いが、足が腐り落ちるよりはマシだといわんばかりに俺は炎を注いでいき、段々と毒の進行が遅くなっていくことに気付いた。
そしてふくらはぎから膝にまで炎症が広がる頃には、黒い染みの毒の侵食は止まっていた。
腐食が止まるほど細胞を活性化させることが出来た俺は炎を収め、スーツを脱ぎ患部を強く圧迫しながら縛る。
うめき声が聞こえるが手を休めず、一通りの応急処置が終わった俺は、シャツの袖を
前線は雨の炎が充満し、晴の炎で身体能力を上げようとしても中々思うようにいかず内心舌打ちする。
戦力が落ちたのはあちらも同じであり、先ほどよりも攻撃が通りやすくなったし疲労が蓄積されていくのが見て分かる。
このままいけば押し通せるかと、この戦いに勝機を見出した。
触手を避けていく中一向に動こうとしないスカルに視線を向ければ、奴は全く別の方向を眺めている。
一体何を…と奴の視線の先を見れば、そこには今まさにここへ向かってくる白い影が視界に映った。
「来るなユニ‼」
俺の声にツナや他の奴もこちらに走ってくるユニの存在に気付き、驚愕の声をあげる。
何故このタイミングでユニが…!
ツナがユニの元へ近寄ろうとした時、俺は視界に捉えてしまった。
ユニへ手を伸ばしかけた、黒いグローブに包まれた手を、向けられた足を
そして
古代生物に躱され行き場を失ったコロネロの狙撃が、奴の頭と胸に吸い込まれていく瞬間を
小さく何かが割れる音が、宙を舞うヘルメットの破片が、地面に飛び散った血が、酷く脳裏に焼き付いた。
人ひとりが地面に横たえた音と共に我に返った俺は、古代生物へと視線を移す。
そこには血だまりをただ無言で覗き込み、微塵も動かぬ体を呆然と眺める巨体が佇んでいた。
「……ぁ…」
古代生物の鋭く生え揃った牙の隙間から音が零れ落ちた。
「あぁっ…………ある、じ……あるじ…」
じわじわと血溜まりが広がっていく。
「あるじ、主………ア、……アア、ある…ジ……」
ヘルメットの破片が散らばる地面を這いずる音が静かに響き渡り、まるですすり泣くような縋りつく声に側にいたツナは言葉を失い、遠くにいたユニはその場に崩れ落ち茫然自失になったいた。
「
その言葉は、やはりスカルは死ぬことを望んでいたのだと…確信するには十分だった。
「そなたの弔いを………
瞬間背筋に言い寄れぬ悪寒が走り、気付けば俺は声をあげていた。
「お前ら下がっ―――――――――――」
言い切る前に、重い衝撃が全身に走った。
沢田綱吉side
目の前に飛び散る鮮血に言葉を失くしていた俺がリボーンの声で我に返れば、視界の端で何かが吹き飛ぶのが見え、俺はそれを目で追う。
そこには数十m先まで飛ばされ、地面に膝をつき腹を抑えている俺の相棒の姿だった。
「リボーン!」
「沢田!前だ‼」
ラルの声に反応した俺は前を見ずに上空へと飛べば、足の下を何かが物凄い勢いで通過する。
俺は直ぐに体勢を整え地面に着地し視線を古代生物へと向ければ、そこには目を見張る光景が待ち構えていた。
黒い液体が奴の体から、目から、口から、赤黒かった触手の表面を覆う鱗の隙間から止めどなく溢れだしていたのだ。
「あルジ………ああ、………ワが主………」
うわ言の様に呟いている奴の周りの木々が段々と枯れていき、大きな木の幹さえも腐り果てていく。
奴を中心に段々と地面が黒ずんでいき、黒い液体が溢れ出す。
俺はあまりに
そんな中、急に襟元を掴まれ後ろへと強い力で引っ張られ、俺は驚いて後ろを振り返る。
「沢田!しっかりしろ!」
「ラ、ラル…」
ラルの言葉で漸く体が動けば、自身の足のすぐそこまで黒い液体が迫っていたことに気付き青褪める。
すぐさま一歩後退し辺りを見渡せば、ユニをコロネロが抱えて後方の安全な場所まで移動させていた。
バミューダは古代生物に注視していて、リボーンは吹き飛ばされた場所で動けないでいる。
「これって…」
「チェッカーフェイスが言っていた逆鱗のことだろうな」
俺のつぶやきにバミューダが応え、俺はチェッカーフェイスの言葉を思い出す。
『あの種族の逆鱗に触れると全てが闇に染まる』
全てが闇に………
まるであの古代生物から溢れ出る全てを飲み込む黒い液体に闇を垣間見たような
死よりも怖い何かがドロドロと俺達に這い寄ってくるような
俺は
ヘルメットが割れたスカルの顔は血まみれで、紫色の髪が黒く染まっていく。
まだ生きてるかもしれない、と黒い液体に飲まれるスカルへと手を伸ばそうとして悪寒が走り、その場を飛び退く。
先ほどまで立っていた場所には黒く滲んだ触手が叩きつけられていて、俺は古代生物へと視線を戻した。
「まだスカルが生きてるかもしれない!助けられるかもしれないんだ!頼むからスカルを助けさせてくれ‼」
震える心臓を押さえつけ、俺は叫んだ。
今にも涙が出そうなほど怖いけれど、それでも今俺は逃げてはいけないと何かが訴えていた。
「怒りを収めてくれ!俺達はスカルを助けたいんだ‼」
「黙れ人間」
あまりにも静かで、低く、ざらついた声に俺の心臓は音を上げて震えあがった錯覚を覚える。
黒い液体を零す瞳は俺を捉え、その瞳には確かに怒りが滲み出ていた。
「貴様らの浅ましき身勝手さで我が主を生かすだと……?……助けるだと?」
「俺達はっ…」
「思い上がるなよ人間‼」
「っ…!」
俺を捉える二つの目はただただ憎々し気に、絶望と怨念を映し出す。
「我が主の不幸を貴様らが救えるものか………手を伸ばすことも出来ずに
その言葉は俺の胸に突き刺さった。
そうだ、スカルを狂わせたのはマフィアで、村人で、俺らで……皆だ。
生きていることが苦痛で、でも死ねなくて、ずっとずっと死にたがって………
「だけど……」
痛くて辛くて怖くて、楽しいことが一度もないまま死ぬのは…
「やっぱり……助けたいんだ」
悲しすぎる
「俺は!スカルを‼助けたいんだ‼」
「世迷言を‼」
俺の叫びに怒りをより募らせた奴は、黒く染まった触手を振り上げてきて、俺はすぐさまその場を離れる。
次々襲い来る触手とまき散らす毒液を、毒が回りつつある俺は痺れる出す体に喝を入れながら避け続けた。
段々と周りが腐食していく中、俺とバミューダの前衛が毒で動きづらくなる。
そんな時だった。
コロネロと対峙していた触手の一本が凍り出し、俺は目を見開いた。
「僕たちを忘れてもらっちゃ困るね」
「全くだ」
背後からの声に俺は思わず振り返り、二つの陰に目を見開いた。
「マーモン!ヴェルデ!」
「チッ、頭に響くから黙ってくれないかい」
「それには同意するな」
そこには頭から血を流していながらも、気丈に佇むマーモンとヴェルデがいたのだ。
スカルの起こした爆発で気絶していた二人の意識が戻ったようで、流血している頭を抑えながら前方の古代生物を睨みつけていた。
マーモンが
「俺達が目くらましをしている間に
側から掛けられた声に視線をズラせば、帽子の飛ばされたリボーンが立っていた。
無事だったのかと言おうとしたが、リボーンの左手で抑えている腹部の血を見て言葉を飲み込む。
俺の視線に気付いたリボーンが舌打ちをしながら、致命傷じゃねぇと言いながら俺の前に立った。
リボーンの言葉を思い出した俺はすぐさま後ろへと後退し、
圧縮された炎がガントレットから噴射され、腕へと徐々に圧が加わる。
標的は古代生物であり周囲への被害を最大限に抑えるとしたら………奴の斜め下か。
目の前ではアルコバレーノ達がまさに死闘を繰り広げていて、皆徐々に気化する毒で身体が思うように動けなくなりながらも古代生物の注意を引き付けてくれていた。
遂に噴射口から放たれる炎の圧力が安定し、声をあげた。
「バミューダ‼俺を奴の目の前に連れて行ってくれ!」
俺の声に反応したバミューダが、俺の意図に気付き直ぐ側にワープしたかと思うと、次の瞬間俺の目の前には黒い液体で覆われた禍々しい鱗が視界に入った。
古代生物とふいに交差した視線に思わず息を飲むが、そのまま口を大きく開け雄叫びの如く全てを吐き出すように俺は炎を噴射した。
「
代理戦争で威力の上がった俺の炎はD・スペードを倒した時よりも強大で腕が悲鳴を上げるのも構わず、俺はただ全てを吐き出す。
古代生物の触手の鱗に炎が触れ、次に体表を覆っていた黒い液体が飛び散り、地面が抉れ、全てが真っ白に変わりゆく光景に目を細めた。
『僕は、守れただろうか…』
ふとどこからともなく、聞こえたような小さな声に、自分の温かな大空の炎に包まれながら俺は目を見開く。
『大切な家族を』
それはまるで愛し気で
『全てから』
それでいて苦しそうに
『守れただろうか――――――――』
泣き出しそうな悲しい声だった。
ポルポside
我の
散りゆく赤と、そなたの薄く閉じかけた瞼の隙間から垣間見えた光のない瞳と、黒光りした破片と……
地面に横たえた主に近付けば、我が眼は胸に開く空洞と額から流れる夥しい鮮血を明瞭に映し出す。
その顔は血まみれだというにも関わらず、まるで眠っているように安らかだった。
苦痛に満ちた顔でも、悲壮に塗れた顔でもなく…ただいつものように瞼を閉じ寝息すら聞こえてくるほど穏やかであった。
主、と口が言葉をなぞるが声は出ず、ただ胸の内でごぽりと何かがせり上がる。
『可哀そうな人達だよ……………俺なんか産んでさ…』
「あぁっ…………ある、じ……あるじ…」
主の口元から零れる血が額から流れる血と混じり合う。
『もう…疲れたんだ』
「あるじ、主………ア、……アア、ある…ジ……」
『疲れたんだよ……』
もう二度と開かぬであろう瞼に、絶望や怒り、悲哀の中で一抹の安堵を覚えた。
もうこれ以上そなたの涙を見ずして済むのだと…これ以上苦しみもがく姿を見ずして済むのだと………安堵したのだ。
出来る限り声を穏やかに、我は主に優しく呟いた。
『誰もいない場所で……休みたい、かな…』
「漸く……ようやく……………そなたの、望みが……叶ったのだなぁ…………」
眠るように瞼を閉じる主に、目頭が熱く感じた。
何かが目から零れ落ち、それが毒液であることに気付く。
全てを解かすであろう毒液が主の頬へと滴り落ちるが、主の頬に何も起きずそのまま頬を伝い髪を黒く染めた。
「そなたの弔いを………
止めどなく溢れるソレは きっと 涙に似ていた。
我は視界に入る目障りな障害を端から退けようと足を振り回せば、主が最も嫌悪していたであろうハエの腹を貫いた。
遠くまで放り投げたがあの傷ではまだ生きているだろうと内心舌打ちをしながら、他の者を見渡す。
視界は明瞭ながらも目頭が、喉元が、全身が熱を帯びている。
胸の内側から溢れ出る怨嗟と共に毒液が表皮から滲み出てくる。
「あルジ………ああ、………ワが主………」
脳が沸騰しそうなほど熱く、しかし思考は明瞭で、闇へと染まる我が身がこれ以上となく心地よかった。
主…主………あるじ……
目の前でコバエが主へ近づこうとしたところを、我は足で払えば距離を取ってくる。
だがコバエはこちらを見ては怯えながら吠えてきた。
「まだスカルが生きてるかもしれないだろ!助けられるかもしれないんだ!頼むからスカルを助けさせてくれ‼」
なんと煩わしい耳障りな声だろうか。
「怒りを収めてくれ!俺達はスカルを助けたいんだ‼」
「黙れ人間」
我は静かに怒りを表した。
助けるだと?死が救いである主を生かすだと?
「貴様らの浅ましき身勝手さで我が主を生かすだと……?……助けるだと?」
「俺達はっ…」
「思い上がるなよ人間‼」
なんたる傲慢………!
主がどれだけ苦しみ、恐れ、涙したことか!
死ぬことを望み、求め、救いとする哀れで愛しい我が主よ。
「我が主の不幸を貴様らが救えるものか………手を伸ばすことも出来ずに彷徨さまよいもがき苦しみ続けた哀れな我が主の苦痛を……生き永らえた絶望を……貴様らが救えるものか‼今すぐ
主を追い詰めた者を許しはしない
世界を 人間を 主に害成す全てを許しはしない
「俺は!スカルを‼助けたいんだ‼」
「世迷言を‼」
その戯言と共に貴様の首も全て葬ってくれる!
我はコバエに対して足を振りかざし、周りのコバエ共も殺しにかかる。
致命傷に至る傷を負わせることが出来ぬまま、ただ周りの木々が腐れ朽ちていく。
男の首を狙おうと毒液をまき散らしながら鱗をぎらつかせた足を振るおうとした時だった。
己が足が凍てつき、遠くの方で二つの影があることに気付いた。
チッ小賢しい!
毒液をまき散らし気化し続ければ目に見えて周りのコバエ共の動きが鈍くなっていく。
じわじわ嬲り殺そうと思ったがその気も失せ、そ奴等の首を狙って足を振るいだす。
徐々に熱が上がる我が身の欲するままに、体の内側からどろりと得体のしれぬ
まるで本能に従うかのように闇を受け入れた我が身は、呪詛を吐くが如く毒を垂らし、牙を剥く。
その時だった。
目の前に二つの小さな眼が現れ、視線が交差した。
「
雄叫びとも取れるようなその声と共に、我が身を焼き焦がすような炎が目の前に溢れ出た。
至近距離から放たれたその炎は我が体内へと流れ、身の内から我を焼き尽くすように燃え
炎の濁流で足の感覚は既に失い、全身に掛かる圧に既視感を覚えた。
それはまるで大海原で産声もなく生まれ落ちた我が身に襲い掛かった水のような…
『お前の好きな海に行こう』
ふと脳裏を
まるでそれでよかったのか、と我に問いただしているようで困ったように笑っている。
主よ、悲しき顔をするな
哀しき眼をするな
我は己が選んだ道を 悔いてはいない
そなたと共に在れたことを 心の底から感謝している
主…………あるじ……我は…………僕は、守れただろうか…
スカルを 大切な家族を
世界から 全てから 守れただろうか―――――――――
『あ、りがとう…ポルポ』
その言葉と共に思い出したスカルの顔は、炎の濁流に飲まれて消えた。
ポルポ:ビッグバンテラおこサンシャインヴィーナスバベルキレキレマスター、正真正銘の茹ダコになった。
リボーン:腹を貫かれて中傷、まだスカルの素顔を見ていない。
まぐろ:安定のダブルイクスバーナー。
顔バレだと思った?残念まだでした。
次回予告『穏やかな顔して死んでるみたいだろ…ウソみたいだろ……眠ってるんだぜ、それで…』
次回は文字数が桁違いで多くなるので来週に投稿します。