日本に来て一泊して朝を迎えたんだが、首の腫れが一向に収まらない。
あるぇ?やっぱり汗疹かな。
無意識に引っ掻いたのかヒリヒリする。
にしても今日は代理戦争一日目かぁ。
どうせ時計がなるまでは暇ってことだろ、街中でも回ってみようかな。
ポルポに縮んでもらって、バイクの後ろに張り付いてもらう。
昨日の夜、並盛のことを調べたら、このホテルから少し離れたところにあるモールの中にゲーム売り場があったのでそちらに向かうことにした。
丁度30分ほどバイクを走らせるとモールが見えてきて、俺はゲーム売り場へと足を向ける。
開店直後とあって人が少なく、人混みが嫌いな俺には程よい静けさだった。
おお、欲しかったゲームソフトがラスト一個で売り切れるではないか!
これは買わねば。
シューティングとかそういう殺伐としたゲームではなく、どちらかというと全年齢向けの育成ゲームだ。
通販では品切れが殆どで、節制している俺はオークションは無理だと判断して入荷待ちだったんだが、なんて偶然なんだ。
既にギルマスはやっていて、金払う価値はあったというお墨付きだ。
俺はそのゲームソフトに手を伸ばし、レジに直行しようとした時だった。
「はひ!?売り切れ!?」
後ろの方で女性特有の高い声が聞こえて、俺は振り向く。
そこには女子中学生くらいの女の子が、ついさっき俺がいた場所で五体投地していた。
その子は、俺の手にしたゲームソフトの棚を何度も見返していて、もしやと思いずっと見ていると、なにやら店員さんと会話し始める。
「こ、ここにある人気の育成ゲーム〇〇はもう売り切れたんですか!?」
「そうですね、在庫はありませんので店頭に並べられているので売り切れということになりますね…申し訳ありません」
「そ、そんな~!にゅ、入荷はいつですか!?」
「ただいま大変入荷が遅れる予定で、早くとも2カ月後…くらいになるかと」
「はひぃぃいいい!?2カ月!?」
頑張ってお小遣い貯めてたのに、と崩れ落ちる女子中学生を見て、俺は本当にギリギリのラスト一個を手にしたのだと改めて実感した。
すっげーラッキーと意気揚々とレジに持って行くには、崩れ落ちる女子中学生があまりにも衝撃的すぎて、俺は少しだけ迷い始める。
俺は半ニートだから比較的買う機会はあるし、金銭的にも恵まれている方だ。
一方中学生はお小遣いしか金銭を得る機会はない上に、ゲームソフトを買うお金を貯めるのさえ一苦労だろう。
ここは大人として優しさを見せてあげるべきか、それとも無慈悲に他人だと切り捨て利己的に動くべきか。
ぬぐぐ、めっちゃゲーム欲しい。
「に、2カ月だなんて酷いですぅうう…」
あ、あれは他人…他人
「もうこれで7軒目なのにぃ…」
他人……
「京子ちゃんと…遊びたかったのに……ぅぅ……」
泣いてる女の子に、そんな無慈悲なこと出来るわけがなかった。
ほら、俺一応今世はジェントルマンなイタリア人だから。
ゲームは欲しいが泣いている中学生を優先しよう。
俺はその中学生の方に向かい、泣き崩れてるその子の服をちょいちょいと引っ張る。
「はひ……?」
涙を流しながら目線の低い俺を見た女の子は、一体何だろうという顔をしながら俺を捉えた。
俺はすっと先ほどのゲームソフトを女の子に差し出した。
「は、はひ!?これは〇〇!な、何でこれを!」
俺があんたより先に取ってしまったからだよ。
「ま、まさか……これを私にですか!?」
うんうん、と頷けば女の子は再三、本当にいいんですか!?と聞いてきたが俺はただうんと頷いた。
ヘルメットの下では歯噛みしてたけどな!
女の子は嬉し泣きでまた泣いて、泣きながらレジに行って店員がドン引きさせていた。
少しどころじゃない程惜しい思いをしたけど、元々このゲームソフトを買いに来たわけでもないし…とポジティブ思考で店を出ようとしたら、背後から声をかけられた。
「あ!待ってください!そこのクールな赤ちゃんさん!」
後ろを振り向くと同時に抱き上げられた。
めちゃくちゃビビっていると女の子の顔が目の前まで迫って来た。
「あなたは私の恩人です!何かお礼をしたいので少し付き合ってくれませんか!?」
お、俺が!?無理、無理無理。
首を横に振っていても食い下がってくる中学生に、折れたのは俺だった。
中々押しの強い中学生で、ペット同伴だからという俺の理由を、ぬいぐるみ扱いでごり押ししやがった。
いくらポルポが小さくなってるからと言って赤ちゃんの俺よりは数倍でかいからな。
「とっても美味しいお店をご紹介してあげます!」
そういって俺を抱き上げたまま、歩き始めた少女を後ろからポルポが無言でついてくる。
少し歩いたところでおしゃれで小さな店が、分かりにくい路地の中に存在していた。
本当に目立たないような店ではあるが、結構昔からあるらしい。
「今日のこの時間はレディースモーニングって時間で、女性限定でしか入店できないんです!」
え、待って俺男!
「あ、赤ちゃんさんはノーカンです!ノーカン!」
大丈夫なのかこいつ、いやその前に赤ちゃんに性別聞いたって全部同じにしか見えねーか。
てかポルポ大丈夫なの?
店に入ればポルポは少女の背中に張り付き中に入る。
「あの、ペットのご入店はご遠慮しておりまして…」
ほれみたことか!と、俺は少女を見れば、少女はとてもいい笑顔でこう言い放った。
「あ、これぬいぐるみです!とってもリアルですよね!」
「ぬいぐるみでしたか、どうぞゆっくりしていって下さい」
ちょ、おま。
マジか、ポルポまじでぬいぐるみで通ったのか。
あれ、なんかデジャヴ……
前にもあったような感覚に首を傾げる俺を他所に一番奥の個室のような場所に案内された俺達は、静かな場所でメニュー表を開く。
女性限定とあって、出されるメニューは女性向けでスイーツ系だった。
別に甘いのが嫌いではない俺は、チョコレートマシュマロピザとホットティーを頼んだ。
少女もメニューを決めたのか、店員を呼びそれぞれ注文する。
注文が来る間の手持ち無沙汰な待ち時間を、待ってましたと言わんばかりに少女はこちらを見つめてきた。
「さきほどは本当にありがとうございます!私は緑中学校二年の三浦ハルと言います!赤ちゃんさんのお名前は何ですか?」
ひえっ、この子めっちゃ社交性高い。
「え、えっと……スカル……」
「スカル君ですか!スカル君は何歳ですか!?因みにハルは14才です」
「……わ、分からない……」
「あ、じゃあ好きなものはありますか?ハルはモンブランが好きです」
「……………えっと…」
「好きなの多過ぎると迷いますよね、因みにゲームは好きなんですか?」
「うん」
もうこの子コミュニケーション力高すぎるよぉぉ…
俺がついてけないよ、コミュ障の俺にとってまさに鬼門じゃないか。
質問攻めの時間がとても長く感じた俺は、トレーを片手に向かってくる店員さんに一抹の希望を抱いた。
「ご注文のホットティーとホットチョコレート、チョコレートマシュマロピザとロットベリーホットケーキになります」
「わぁ、待ってましたぁ!」
漸く質問から解放された俺は目の前に出されたものに目を奪われた。
なにこれ、めっちゃ美味そう。
焼かれたマシュマロがほどよく
俺はヘルメットをゆっくりと外し、隣の席に置いた。
そしてピザに手を伸ばそうとしたら、目の前のハルさんがめっちゃ目を見開いて俺をガン見していることに気付いた。
「ス、スカル君ご出身はどこですか!?」
出身?あ、そっか…紫なんて日本にいるわけないもんな。
いやイタリアにもいないけどさ。
「…イタリア……」
「はひ、外国人の方でしたか…通りで言葉に詰まってたわけです」
いやそれただのコミュ障なだけ……
「でもまぁ食事に言語は必要ありません!美味しく頂きましょう!」
そういったハルさんは手を合わせて、パンケーキを頬張り始める。
俺もゆっくりと熱いピザを千切り、息を吹きかけ覚ましてから口に入れる。
うまぁー…うまいよぉ……
スモアのパン生地バージョンだけど、めちゃくちゃうまい。
店員に隠れてポルポにも少しづつあげたけど、果たしてポルポに味覚はあるのだろうか。
砂糖の入っていないホットティーが甘さを軽減してくれて、次々と口の中に入っていく。
目の前のハルさんもホットケーキに色んなベリー系のソースを絡めて食べている。
ブルベリー、ストロベリー、ラズベリー、ブラックベリー…俺が知ってるのはそれくらいだけど、他にも色々混ざってるらしい。
多分あのめっちゃ黒い奴はブラックベリーだな。
「美味しいですねー!ハルはここのパンケーキが大好きで、よくこのレディースモーニングの時に食べに来るんです」
「……美味しい」
「そうです、美味しいです!イタリアでは何て言うんですか?」
「……
「はひ、発音がヤバイです!すごくネイティブです!」
今世は純粋なイタリア人だからな。
何だろう、とっても年下の子と喋ってるみたいだ。
コミュ障の俺にとって、これくらいコミュ力高い人は良薬になるんだろうなぁ。
でもそんな人と会う機会なんて一生に一度で十分です。
俺はそう思いながら、再びピザを口に放り込む。
満足いくまで食べていると、そろそろレディースモーニングとやらの時間が終わるらしいので店を出た。
美味しいものも食べられた俺はハルさんとモールの出口まで一緒に歩いていた。
「今日はたまたま休校日でしたが、ハルは部活をしているのでそろそろ学校へ行きます」
休校日なのにわざわざ学校行くとか、えらいなこの子。
「スカル君は一人で帰れますか?」
その言葉に頷き、出口で別れた俺はふと時計に目がいき、そういえばまだ鳴ってないなと思った。
いつ鳴るのか分からないし、鳴ったところで何していいか分かんないし、ていうかポルポを遠ざけないといけないし。
ダメだ、沢山考えれば考えるほどこんがらがってきた。
「あら、スカル…君?」
名前を呼ばれた俺は視線を上にあげた。
「やっぱりそのヘルメット!スカル君じゃないの!」
あ…この人確か……マフィアランドでの…
「おばさんのこと覚えてるかしら?遊園地で会った沢田奈々よ?」
そう、奈々さんだ。
俺を迷子と勘違いしてマフィアランドに入れてくれた奈々さんじゃないですか。
まさか日本で偶然会うとは思いもしなかったけど。
「あらあらポルポちゃんも一緒なのね、また迷子かしら?」
「違う…」
「じゃあお遣い?」
もうお遣いでいいんじゃないだろうか。
この人とちゃんと会話しようとするだけ無駄な気がするし。
うん、と首を縦に振れば奈々さんは笑顔で何を買うの?って言って来た。
何買えばいいのやら、元々買うものなんてなかった俺はカレーの材料とだけ言っておいた。
どうせ生でもポルポが食べてくれるから、少しの出費だと思えばいいか。
何故か一緒に買い物に行くことになって、数時間の買い物の後、奈々さんと手を繋いでモールを出る。
そんな時時計を見れば、なんてこった朝からモールに来て既に夕暮れ時になっていた。
スーパーの袋を持ったまま、奈々さんに一人で帰ると言おうとした時だった。
時計から大きなアラーム音が鳴り響いた。
俺は心臓が飛び出そうなほど驚いていたし、隣の奈々さんも目を丸くしていた。
『バトル開始一分前』
あ、こういう感じなのね!
ビックリした!
「あら、カッコいい玩具ね」
そんなこと言ってくる奈々さんに構ってる暇はなくて、俺はさよならとだけ呟くと奈々さんから形振り構わず走り始めた。
向かうは駐輪場、俺のバイクが置かれている場所だ。
一分、間に合うか分からなかったが、ギリギリ間に合いバイクに跨る。
ちゃんとポルポがバイクに乗ったことを確認して発進させた時に再び時計が鳴る。
『バトル開始です 制限時間は10分』
短っ、え、短い。
こういうものなの?
マジでバトルロワイヤル的なやつだな。
ホテルへの道のりを速度を出しながら走っていると、丁度車の通りが少ない道路でポルポが叫んだ。
「主、右だ!」
ポルポの声にビックリしながらも、次の交差点を即座に右に曲がる。
すると後ろの方から何かが爆発するような大きい音が鳴った。
「主、迎え撃つ…止まってくれぬか」
迎え撃つ…って、まさか今の爆発ってアルコバレーノの仕業!?
え、いくらなんでも往来でそんな過激なバトルロワイヤルしちゃうってヤバくない!?
警察出てくるって。
いや待て、思い出せ俺……俺以外アルコバレーノが色々とヤバイ職業の奴等じゃなかったか?
殺し屋、武道家、情報屋、イタリア海軍、マッドサイエンティスト……アカン、これマジなやつだ。
俺の
お巡りさんコイツらですう!
ポルポの言う通りに止まるつもりは全然なく、そのまま危険地帯を突っ切ろうとしたら目の前に何かが着弾して、爆発する。
その場でブレーキをかけて、爆発に巻き込まれなかった俺はもう今にも吐きそうなほど怖かった。
モブ子特性のスーツのお陰で熱さとかは分からないけれど、これ一回でも当たればお陀仏なやつじゃないですかー。
泣きたい…ていうかもう泣いてる。
「主、案ずるな」
ポルポがこんなに頼もしい。
これもうポルポが人殺しても正当防衛を言い張れるんじゃなかろうか。
「ハハン、あなたが狂人スカルですか…未来ではよくも邪魔をしてくれましたね」
「コイツは俺の獲物だバーロー、てめぇらは下がってろ」
「にゅにゅ!ブルーベルもやるんだから!」
み、みらい?電波かな?
ちょっと何言ってるか分かりませんね。
あと何でお空飛んでるの。
「ッチ、てめぇら勝手な真似してんじゃねえぞ!」
「アハハハ、彼らが僕以外のいうこと聞くわけがないじゃないか」
うわばばばば、まだ変な奴らいるのかよ。
白い人と、金髪のいかついお兄さんとゴリラみたいな奴等がこれまたお空を飛びながら現れた。
なに、今タケ〇プターみたいなやつが流行ってんの?
どうしていいか分からない俺は取り合えずポルポの後ろに隠れていると、いつの間にか大きくなったポルポが足の一本を俺の胴体に巻き付けてくる。
吹き飛ばされないための安全策かな?
そんなこと考えてるうちにヒャッハー系緑頭と赤毛とゴリラが向かって来た。
あああああああああああ。
叫びたいけど、怖すぎて叫ぶ余裕すらないんですけど。
ポルポの足が何人かにヒットして吹き飛ばされてるけど、あれ死んでないよね?
「にゅにゅ~、化け物じゃないのアイツ!」
ちょ、人のペットを化け物呼ばわりとかなんて失礼な少女だ。
「一気に片付けちゃうんだから!修羅匣口‼」
少女がどこかでみたことあるような箱を取り出すと、これまたどこかで見たことあるような炎を出したリングを箱に向かってくっつけた。
するとどうだろうか、少女の身体がみるみる変わって…かわ………変わって!?
待てなんでマーメイドみたいになってんのあの子!?
「何をするかと思いきや…笑止」
ポルポもそんなこと言わずにあれ突っ込もう?
少女が空中飛行しながら俺とポルポに向かって来たと思えば、いきなり地面に膝をつき始めた。
少女の様子がおかしくなり、他の人も原因が分からないらしく困惑してる。
だがしかし、これはチャンスでは?
今のうちに逃げようと思って、ポルポの足から離れた俺はバイクに跨る。
俺の意図に気付いたのかポルポが俺の後を追い始めるが、俺は速度を落とさずバイクを走らせた。
ポルポがちゃんと追いかけてくるのをバックミラーで確認した俺は、時計を確認する。
まだ戦闘が始まって3分しか経ってないとかマジかよ。
後ろを一度も見ずに、走ったが道中に攻撃されることはなく無事10分が過ぎて時計が鳴る。
『戦闘終了です』
その合図に安堵の息を漏らした俺はそのまま宿泊しているホテルへと帰っていった。
今日は色んな事があった。
ゲームのこと、奈々さんのこと、誰か知らないアルコバレーノの代理人から吹っ掛けられた攻撃のこと。
取り合えず俺の頭にあるのはただ一つだけ。
代理戦争、辞退させていただきます。
白蘭side
「スカルと出会っても、3人以下の場合は直ぐに退避して欲しいんだよね」
誰もが僕の言葉に目を見開く。
それもそうだ。
僕が、そう言ってるのだから。
「あの狂人はそこまで脅威なのですか?」
「僕は、最大限に警戒すべき脅威だと思っているよ」
いち早く反応する桔梗にそう答えれば、彼は表情を強張らせた。
「正直どっかのチームが倒してくれれば、願ったり叶ったりなんだけどね」
「白蘭…スカルってどんな奴なの?」
不安そうな顔をしたブルーベルに僕は答えた。
今回、デイジーを代理人として参加させようとしたが、スカルがいるのなら話は別だと、戦力を優先してブルーベルを導入した。
ザクロ、桔梗、ブルーベルは今回外付けではあるものの未来で使用した修羅開匣が出来る上に、彼らの修羅開匣時の実力は折り紙付きだ。
なんせ古代生物の細胞を使用して作った匣であることは未来と変わらないしね。
「んー、掴みどころがなくて何考えてるか分かんない…って感じかな」
「白蘭でも?」
「特にこの世界の彼…並行世界のどの彼よりも比べ物にならないくらい凶悪だし、僕の能力は正直彼には使えないんだ」
本当に、何故この世界の彼はこんなにも狂っているのだろうか。
どの世界の彼も小心者だったりするけれど、この世界だけ異彩を放っている。
「ま、とにかく初日で脱落なんてことないよう頑張らなきゃね」
重い空気の中で笑いながら言い放った僕の言葉に、強張っていた真六弔花のメンバーの表情が少し和らいだ。
このことをγ君にもいわなきゃなと思っていると、どうやら部屋の外で僕らの話を聞いていたみたいだ。
そんなに僕らと同じ空間が嫌なのか近づきもしない上に噛みついてくる。
全く彼も私情に囚われ過ぎじゃないだろうか。
ユニちゃんも苦労するね。
「にしても、スカルか……」
本当に彼とは会いたくはないかな。
彼、もそうだし…あの化け物も、だ。
この時代に
僕でさえ恐怖する化け物を、飼いならす彼が恐ろしいね…まったく。
ああ、やっぱり彼とは会いたくないや。
そんな僕の期待は
時は少し
『バトル開始一分前』
バトルウォッチが鳴り出した直後、その場に居た全員が別荘の外へと出る。
それから上空から周りを見渡し、他のチームがいないかを確認しだした。
すると、確認している一人だった桔梗の顔がこれでもかというほど強張ったのを視界の端に入れる。
「白蘭様………もしや、あれが狂人スカル…なのですか?」
少しだけ上擦った声に、桔梗の視線を向ける方角へと僕の視線を移せば、そこには小さな影が二つ。
バイクに跨る赤ん坊と、その後ろにタコのような生物が張り付いていた。
間違いなくスカルだ、と僕は確信し、頷く。
「初日で彼と当たることになるなんて、ね……でも…」
あの化け物が思っていたよりも小さいことに内心安堵しなかったといえば嘘になる。
10年後の未来で凶暴になるのか、今この時代のあの化け物からあまり脅威に感じない。
「こっちも全員いることだし、先に潰しておくのもいいかな……流石に多勢に無勢だろうし」
僕の言葉で標的がスカルへとなったことを誰もが理解するが、僕が相手を決定したことが気に食わないのか後ろからγ君が吠えている。
じゃんけんで負けて今日の戦闘では彼がボスウォッチを持っているので、彼に従うのが道理だけど僕が誰かの下につくなんてそれこそありえないね。
僕は僕なりにこの
「んじゃ、いこっか」
僕は白い翼を広げて、獲物に向けて飛び立った。
こちらは7名に対してあちらは1匹だ。
慢心も油断もしなければこちらが有利である状況は変わらない。
ただ、この時の僕の誤算はあの一匹の実力を正確に把握しきれていなかったことと、あの化け物が一体何であるのかを知らなかったことだ。
「ぁ……ぁあ……な、んで……?」
か細く、震えたブルーベルの声に僕は我に返り、今目の前で起こった事実を脳で処理しようと奮闘していた。
あの化け物が巨大化する能力を持っていたのは予想外だったが、それでも僕らの方が優位だったハズだ。
だけど、ブルーベルが修羅開匣した時に異変は起こった。
修羅開匣した姿のブルーベルが化け物へと攻撃を繰り出そうとした瞬間、いきなり崩れ落ちたのだ。
ブルーベルは明らかに戦意喪失していて、今にも地面に這いつくばりそうな様子だ。
あの化け物が何かをしたのだろうかと空気中の目に見えない毒を警戒していると、スカルがいきなり背を向けてその場を離れる。
化け物もそれに従いスカルの後を追っていき、僕らは呆然と彼らの背中を眺めることしか出来なかった。
「ブルーベル!」
桔梗の声で思考が現実に戻り、僕は倒れているブルーベルの下へと向かった。
「ぅ……ぶ……」
泡を噴いて焦点の定まらないブルーベルの様子は異常で、ますます毒の可能性を疑った。
γ君も離れていてそれに気付いたのか、距離を取ってこちらに声を掛けている。
どうやら後方から別のチームが近づいているらしく、一時撤退して戦況を整えるぞと怒鳴っていた。
僕もそれに同意で、ブルーベルを抱き上げた桔梗と共に立ち上がりこの場から離れる。
追手を撒けなかった僕らはヴェルデチーム、そしてコロネロチームと混戦となった。
途中太猿とトリカブトがウォッチを壊されたが被害はそれで収まり、戦闘が終了する。
二つウォッチを壊されたのは痛かったが、惜しがる暇はなく僕らは今後の話の為にユニの待つ別荘へと帰った。
気を失っているブルーベルをデイジーが介抱し、意識が回復するのを待ちながら今回のヴェルデチームの脅威を見直す話し合いを始めた。
色々と話していると、ブルーベルが目覚めたのか外の部屋から物音がした。
次の瞬間、高い悲鳴と共にデイジーの声が響く。
何があったのかと、悲鳴と物音を聞いた者達が全員そこへと集まる。
「いやぁ!いやぁぁあああああ、こ、来ないで!やだぁ‼」
そこには錯乱状態のブルーベルと、慌てるデイジーがいて、桔梗が暴れるブルーベルを抑え込む。
漸く暴れなくなったブルーベルは震える肩を両手で抱き、何かに心底怯えている様子で何もない場所を見つめてはうわ言の様に何かを呟いている。
「な、何であの化け物が………やだ、やだやだ…死にたくない……やだ…」
遂には泣き始めて、一体何があったのだろうかと、僕がブルーベルの目を見て優しく問いかけた。
「ブルーベル、こっちを見て」
「やだ、死にたくないよ……やだ、怖い…」
「ブルーベル」
僕は彼女の頬を両手で優しく挟み目線を合わせれば、ブルーベルの瞳に光が僅かに戻る。
「びゃ、白蘭…?」
「うん、僕だよ」
我に返ったのか錯乱状態から戻ったブルーベルが、今度は恐怖に満ちた表情で僕に抱き着いてきた。
「びゃ、白蘭!白蘭‼白蘭‼」
「うん、どうしたの…ブルーベル」
「ダ、ダメ!あいつはダメ‼あ、あいつに関わっちゃダメ!」
あいつ、とは…あの怪物のことだろうか。
一体あの瞬間に何があったのか、それが分からず僕はブルーベルにどうしてと聞く。
「あ、あれは……あれは…私達を喰らい尽くす……必ず、必ずっ……」
「ブルーベル…?」
「あ、ああ…ああああっ……し、死ぬのが怖い!死ぬのが怖いよ白蘭っ、助けて…」
ブルーベルの異常なまでの怯え方にその場の者は皆固まっていた。
まるで骨の髄にまでその恐怖を刻まれた被食者のように、彼女はずっと怯えたまま、あの化け物に近付いちゃダメだ、殺される、怖い、死にたくないと繰り返すばかりだった。
一体ブルーベルの
僕は彼女の様子に、あの化け物に新たな恐怖を覚えた。
スカル:ゲームソフトをハルに譲ってあげた優しい人、早くも初日で辞退を希望した、女性陣を着々とコンプしていく。
ハル:スカルを恩人だと認識した、何気に現段階でスカルの素顔を知っている数少ない一人。
奈々:皆のママン。
白蘭:ブルーベルの怯え方に一抹の不安を覚える、やっぱあいつらと会いたくなかったと心底後悔してる、トラウマ克服ならず。
ブルーベル:修羅匣口が
ポルポ:ん?何が変わるかと思えばただの雑魚じゃんか!とブルーベルのSAN値を直葬したトラウマ生産機。
ポルポ=古代生物の王=全てに対して圧倒的
修羅匣口時のブルーベル=ショニサウルス=ポルポに対して圧倒的
の方程式が出来上がったので、ブルーベルは修羅匣口時に【戦意喪失→SAN値直葬】の状態異常を起こした。リスが飢えたライオンの目の前に放り投げられたレベル。
さて、あとはクロームだけか!だがもうスカルが他人と出会う機会がない、どうしよう!ちくしょう、クローム入れたい!クロぉぉぉおおおム!