Skull   作:つな*

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俺は気に食わなかった。


skullの夢現

マフィアランドでの一件の後、暫く部屋に籠っていた俺はポルポと一緒に映画を見続けていた。

内容は親子の愛情、普通の純情ラブストーリー、などのドラマ・ファミリー系のものだ。

前回の奈々さん捨て置け発言は多大なショックを俺に与えた。

倫理観というか道徳感というか…そういうものがポルポは著しく欠如していると判断した俺は、ポルポに今まで以上に映画を見せようと思った。

種族が違う時点で何かと感性が違うことは理解しているが、やはりポルポも人間の言葉を理解する個体だ。

人との会話が成立している以上コイツには人間のような思考力と感性を持って欲しいと思う。

それに俺が飼っているペットという認識があるわけで、正直コイツがいつか一般人に攻撃してしまったら全ては俺の責任になってしまうので切実に道徳を学んで欲しい所存である。

見た目が赤ちゃんだからと現状に甘えていれば、いつか呪いが解けてしまった時に痛い目見るの俺なんだよなぁ。

クッ、これも飼い主の義務か。

にしてもあれだ、正直こんなのほほんとした映画見るのって結構辛い。

俺自身アクションやサスペンスとかが好きなわけで……決してリア充を眺めていたい願望なんて米粒ほどもない。

正直爆ぜろとすら思うね。

ポルポの教育の為に我慢して一緒に見ているが、つまらん。

漸く主人公が彼女を間男から取り戻すシーンへ突入する今、俺は退屈していた。

何で好きな女性の為にここまでする男がいるんだろうか?

意味が分からない。

主人公の思考回路が短絡的すぎて正直つまらない、もっと知恵を絞れよ。

ていうか一時は自分を裏切った女だぞ、見切りを付けて別れれば一発解決じゃね。

なんていうか……流石B級映画というか…

もう少し趣向を変えるくらいした方がいいのでは、とさえ思えるほどリア充映画の流れがパターン化している。

もう愛してるとか聞き飽きたよ、うん。

 

「主……」

 

ずっと黙って見ていたポルポが話しかけてきた。

 

「主は…形なき愛とやらを……欲しているのか?」

 

ん?………んん?

あ、これ俺が恋人欲しいけどこの身体だから無理、ならリア充映画見て妄想で妥協していると思われている?

そんなわけないやん。

ぼっち万歳、ニートライフカモンだよ。

 

「ちがっ………」

 

待てよ、ここで否定するのはポルポの道徳心構築の妨げになるのでは?

ならもう少しこうオブラートにそうだよって言った方がいいのか?

いやでも……うーん、あ。

 

「欲しいというよりも………知りたいんだ……愛を」

 

こうすればポルポは愛が何なのかを考えてくれるのでは?

うわ、俺って天才?

 

「俺には理解出来ないから……知りたいんだ」

 

だからお前が分かったら俺に教えてくれよ、と遠回しに言ってみればポルポはまた画面に視線を戻した。

うんうん、俺ってばマジで天才的な返し方だと思いましたまる

数十分後、漸く恋愛ものが終わる。

今日はこれだけにしようと思ったが夕飯まであと2時間あることに気付き、ラスト一本何か見てから今日の道徳の映画鑑賞は終わろうと思った。

題名を見ずに流した俺は冒頭部分を聞き流していた。

 

「時に主…」

「?」

「いや…………少し、狩りに出る」

 

え、ちょ、このタイミングで?

ポルポを引き留めようとしたがずっと座っていたせいで上手く立てず、ポルポの後ろ姿を見送った。

一人取り残された俺は渋々映画をそのまま見続け、ポルポが帰って来るのを待っていた。

映画の内容はもっぱら家族でピクニックって感じで正直眠い。

何度も欠伸をし、眠気がピークに達してしまった俺はポルポの帰りも待てず意識を手放した。

 

 

 

 

ふと気付けば俺は雪の中で一人佇んでいた。

自身の手を見れば赤子の手ではなく、もう少し大きくなった少年の手だ。

雪が手のひらに落ちるのにも関わらず冷たさはなく、首を傾げるも直ぐにその違和感も薄れていく。

声がして視線を上げれば知らない人たちが遠くに見えた。

辺りにはモミの木が飾り付けられ、子供がプレゼントを手に持っている。

遠くの人達は、まさにクリスマスを祝い、(うた)い、微笑んでいる。

その光景を見た俺は目を細め、こう思った。

 

 

リア充爆発しろ、マジで。

死ね、氏ねじゃなくて死ね。

 

 

腹底から湧き上がる怒りと嫉妬に地団駄を踏みたい衝動に駆られながらも、あることに気付き振り返る。

俺の後ろには昔住んでいた家があって、中には今世の母親と父親がいた。

でも彼らの俺を見る目は冷たくて、俺は眉を顰めた。

それなりに彼らにした仕打ちは自覚しているつもりなので、俺が怒る資格はないなーと彼らの視線を流し再び前を向く。

 

シャン シャン シャン シャン

 

ベルの音がうるさい。

子供の、大人の、笑い声が、(しゃく)(さわ)る。

 

羨ましいなんて思ってないし、別に一人でも寂しくない

リア充()ぜろ。

あー、マジでクリスマス作った奴死ね。

子供の甲高い声が耳に響き煩わしいと感じ、ベルの音に意識を逸らす。

 

 

後ろの方で何かが燃える

 

 

        気にするな

 

 

音がするけど

 

 

 

        気のせいだ

 

 

 

 

 

 

「主」

 

「…!」

 

ふと現実に引き摺られるように覚醒した俺の目の前には大きな目が二つ、言わずもがなポルポである。

ヤベ、熟睡してた。

目を擦って背伸びをすると、関節からボキボキと音が鳴る。

テレビの画面を見れば、既に映画は終わっていて窓の外を見れば暗くなっていた。

結構眠っていたようだ。

 

「ポルポ、いつ帰って来た…?」

「小一時間程前…」

「そうか……」

 

椅子から立ち上がると同時に腹部から空腹の音が鳴る。

何かパパっと作るか。

冷蔵庫にあるものでてきとーに作った夕飯を頬張ろうとしたら、ポルポが声を掛けてきた。

 

「主」

「ん?」

「何か…夢でも見ていたか?」

 

ん?えーと…

あれ…何見てたんだっけ。

確かクリスマスを過ごしてるリア充をギリイしてたような………うわぁ思い出して悲しくなってきた。

 

「……さぁ、見てた気がするけど内容忘れた」

 

リア充見てギリイしてましたなんて言いたかねーわな。

幻滅される…っていうか引かれる。

ポルポの無言の圧力を無視して皿の上の食事を頬張る。

 

…………まずい。

なにこれ、カニの食べられないところの味がする。

え、マジでまずい。

 

 

俺は無言でフォークを皿の上に乗せ、そのまま洗い場に持って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ポルポside

 

 

もう………嫌だ……

 

遊園地とやらから帰った主が部屋の中でポツリとそう呟いたのを聞き逃しはしなかった。

か細い声で思い出すのは主が見合ったあの女だろうか…それともあの忌々しい赤子の言葉だろうか。

あの赤子の発言の中に出てきていた、ルーチェ、という人間の名前。

十数年前に主が見舞った女の名前だったか…

主が心を開いているように思えたが、曖昧な記憶となった今では確かめる術はない。

何せあの女は死したと云う。

ときに、遊園地で見合ったあの女も、あ奴に面影が似ていた……

 

 

 

『スカル、それは何…?』

『…花』

『おいしい?』

『さぁ…あ、これは食べるな……』

『何で?』

『送る』

『……誰に?』

『……知り合い』

『どうして?』

 

 

『……あの人なら…受け取ってくれると………思う…から』

 

 

 

主は、あの女を通して何を見ていたのか。

何かを見出す価値があるとでも思っているのか?

捨て置けばいいものを……

 

捨て置けば苦しまずに 悲しまずに 痛まずにすむものを

 

 

 

我は目を閉じ、静寂な夜をただ主の側で過ごした。

 

 

 

 

近頃主はやたらテレビを眺めている。

何故、と聞けぬまま数日が経った。

我は遂に主に問いかける。

 

「主……」

 

主は画面の向こうの人間に何を見出そうとしているのだ…

親が子を愛でるものも

(をのこ)()を愛でるものも

全てはそなたが忌避(きひ)したものではないか

 

 

「主は…形なき愛とやらを……欲しているのか?」

 

我の言葉に主は僅かに目を見開く。

 

「ちがっ………」

 

途中で口を(つぐ)み、考え込んだと思いきや(おもむろ)に口を開いた。

 

 

「欲しいというよりも………知りたいんだ……愛を」

 

 

言い淀む姿はまさに迷い子のようで

 

 

「俺には理解出来ないから……」

 

 

そう云った主の顔は、今までにないほど穏やかであった。

自らを嘲笑うこともなく

ただただ 愚直なまでに 

 

 

「知りたいんだ」

 

 

そんな主の瞳には何も映ってはいなかった

 

 

 

 

主は再び映画を見始め、我もまた主の側に佇んでいた。

日が暮れ始めるのを横目に主に声を掛けようとする。

 

「時に主――――」

 

刹那、濃密な殺気をこの身に浴びた。

即座に周りの気配を探り出す。

 

「?」

「いや…………少し、狩りに出る」

 

主に悟られぬよう外へ出れば、殺気の元へと赴く。

主に害成すものは、消す。

 

 

「クフフ、釣れたのは獣でしたか…」

 

耳障りな声と共に目前に現れた人間に、目を細める。

そしてその気配に覚えがあった。

あたかもそこに在るかのように思える、だがここには在りはしないという矛盾な(うつつ)

 

「主の周りをうろついていたコバエは貴様か…人間」

 

人間は眉を顰めると、槍を我へと向けた。

 

「たかが獣如きが僕に張り合えるとでも?今すぐ巡らせてあげますよ」

「紛い物の分際で吠えるなよ」

 

僅かながら目を見開いた人間は、口元を(いびつ)に歪め槍を突き出した。

我はそれを容易く()なしては奴の頭目掛けて攻め入る。

たかが人間に後れを取るつもりはなく、すぐさま奴の胴体へと鋭い一撃を叩きこむ。

骨が折れる鈍い音と共に、そ奴は吹き飛ばされ口元から鮮血を吐き出し、片膝を地に着ける。

 

「げほ……ごほっ、ック………クフフ、ただの獣かと思ってい「死ね」

 

辞世の句すら聞き届けず我はそいつの首を()ねる。

地面には(おびただ)しい量の鮮血が飛び散り、首の無い体は地面に倒れ伏した。

屍を覆っていた言い知れぬ不快感が紛散すると共に屍の姿形が変わる。

先ほどの青鈍(あおにび)色の稀有(けう)な髪をした男ではなく、全く異なる人間の姿になっていた。

 

「ふん、小賢しいコバエだ」

 

辺りを覆っていた歪な気配が散っていくのを感じ取りながら、地面に転がる屍を咀嚼し飲み込む。

血肉が己が糧と変わりゆく感覚を受け入れ、徐々に表皮に薄い膜が浮かび上がる。

それは半透明さを保ったまま我が身から剥がれ落ちる。

半刻ほど経てば、真新しさを誇張する表皮は禍々しさを纏い、光沢のある(うろこ)は硬質な堅牢(けんろう)のように様変わりした。

新たに生まれ変わる我が身に満ち足り、帰路へ着く。

 

 

「主、帰った」

 

我の言葉に返って来る声はなく、主がいるであろう居間へ行けば小さな寝息が聞こえる。

眠ってしまわれたか……

寒くはない時期ではあるものの、既に陽が落ちている。

我は被せるものを寝間から取り出し、主に被せようとして漸く気付いた。

主の頬には涙が伝っていた。

ほぼ乾ききるそれに我は目を細める。

 

 

そなたは何を見ている

 

 

『欲しいというよりも………知りたいんだ……愛を』

 

何故手に入らないと知りながらも手を伸ばし、求め、傷つく

 

『俺には理解出来ないから……知りたいんだ』

 

何故遠ざけるとしりながら近づき、拒み、苦しむ

 

 

自らの悲鳴を 嘆きを 叫びを

 

気が付かず 理解せず

抉り (なぶ)り 引き裂き 

涙する

 

 

全て捨て置けばいいものを

全て投げ出せばいいものを

 

ああ、そなたは愚かだ

 

 

愚かで 哀れな 愛しい 我が主よ

 

 

願わくば そなたが涙することのない 世を 願おう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六道骸side

 

 

復讐者(ヴィンディチェ)の牢獄から逃亡した僕は再びマフィアを潰そうと動いていた。

全てのマフィアを潰そうと考えていた僕には気になる存在がいた。

この世界で知らぬものはいないであろう、最恐最悪の男。

カルカッサ軍師、狂人スカル。

まだ僕が実験体であった頃、よく研究員が口にしていた名前だ。

奴等はその名前の男を恐れていた。

 

 

実験が止まった時期があった。

心身共に疲弊していた僕らには気にする余裕も思考もなかったが、ただ檻の外から時折聞こえる会話の中にはよくあの男の名前が聞き取れた。

 

「おい、また支部がひとつやられたぞ!」

「ここもいつバレるか分からねぇ、俺は嫌だぞ!?あんな痛い死に方は!」

「ボンゴレか!?」

「違う、カルカッサだ」

「くそ…スカルだ、あの狂人以外にありえねぇ‼」

「きっとスカルがカルカッサを乗っ取ったんだ!」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない、俺はまだ死にたくない!」

「うるさいぞ!死にたくないならさっさと実験を成功させ、奴等よりも強い兵器を作り出せ!」

「無理だ……出来っこない、奴らは…ボンゴレに次ぐほど大きくなってる…ああ、死ぬしかないんだ」

 

怯えた声、嘆く声は実験体であった僕らにも聞こえていた。

擦り減る思考の中、ただ僕は恐怖に震えるしか出来ずいつも目を固く閉じるだけしか出来なかった。

 

ああ、早く……早く見つかればいいのに

そしたら皆殺されて、僕らは助かる……

 

薬の投与が開始され、再び痛み泣き叫ぶ日々が始まろうとした頃だった。

遂に、遂にここが敵にバレたらしい。

研究員たちは一心不乱に逃げ惑い、実験体であった僕らも解放されると、そう思っていた。

だが予想は裏切られた。

死への恐怖で思考回路がおかしくなった者達に僕は腕を掴まれ、実験台へと乗せられ拘束された。

 

「も、もう助かる道は実験体(コイツら)に賭けるしかない」

 

僕が聞き取れた言葉はそれだけだった。

抵抗する直前に僕に襲ったのは、激痛だ。

まるで地獄の業火で焼かれ続けるほどの痛みが右目を襲う。

あまりの痛みに平衡感覚を失い、拘束された四肢は痙攣を起こす。

 

「あ"あ"あ"ぁぁああああああああ」

 

背が弓のように張りつめるが痛みからの解放はなく、発狂しそうだった。

 

そして輪廻を垣間見た。

脳内を焼き切らんばかりの痛みに襲われる中、夥しい量の知が詰め込まれる。

 

 

天を 人間を 修羅を 畜生を 餓鬼を 地獄を

 

 

巡れ 巡れ 輪廻を 

 

 

その眼に六道を

 

 

 

 

全てを殺し尽くしたあの忌々しい記憶を思い返し、眉を顰める。

あの頃の記憶が未だ残っている中、最後の時期は特に鮮明に覚えている。

だからだろうか、いつだってあの男の名前が頭の片隅にこびり付いて離れないでいた。

 

「骸様、これからどうしますか?」

「次はどこを潰すんだびょん!?」

 

犬と千種の言葉に僕は考え込む。

思考の端にあるのは、最後まで姿を見ることはなかったスカルという名の男。

気にならない、と言えば嘘になる。

だがその者もまたマフィアであることに偽りはない。

なら潰すついでに奴の顔をこの目で見るのも悪くはないと、そう思い至った。

 

「少し…探らねばならない相手がいるようです」

 

カルカッサを標的にした僕は、今までとは勢力が桁違いであることから慎重になった。

カルカッサの下っ端に憑依した僕は、早速あの男を探し始める。

数日経てども男は現れず、既にカルカッサを去っていたならばとんだ無駄足だ…と思い始めている時、漸く男の名前を耳にする。

他の者らの会話からして、奴は滅多に本部に訪れないようだ。

なるほど、と納得していた僕がカルカッサに侵入して一週間程過ぎた頃、漸く奴が現れた。

僕がまず目を見開いたのは彼の容姿だ。

胸についているおしゃぶりを見て、彼はアルコバレーノであると確信する。

だから極力姿を見せなかったのかと思いながら、彼の行動を眺めていた。

内部を観察し、カルカッサをどうやって潰そうかと考え始める。

ファミリーの結束が強ければ僕の憑依や幻術で同士討ちさせるのが最も有効だが、カルカッサはこれといって仲間意識が強いわけではない。

盲目的にスカルという男を崇拝しているからに、あの男を殺しさえすればそのまま自滅するのではと考えた。

だが男は小さいがアルコバレーノの称号を持つ者、一筋縄ではいかないことくらい分かる。

奴の精神世界に侵入し、弱みを探りつけ込めば……そこまで思い至った僕は彼の(ねぐら)を突き止めるべく動いた。

 

「スカルさん、お疲れ様です」

 

憑依した人間で彼に近付き、声を掛けると共に盗聴器を仕掛けた。

彼は僕の顔に視線を固定し、無言で見つめ続ける。

まるで中身まで覗き込まれているような錯覚に陥りそうになるが、彼はふと視線を外し去っていく。

まさかバレたか…?いや、僕の憑依は完璧だ、分かるはずがない。

そう思い込んだ僕はアジトへと帰ると、数分後盗聴器越しで声が入る。

誰だ…?向こう側で誰かと喋っているあの男の声が聞こえる。

音量を上げようとしたその時だった。

 

『主、どうやらそなたの周りにコバエが飛び交っているようだが…』

 

低く、警戒と殺意を纏った声が耳に届いた。

一瞬背筋に寒気が走るような感覚に襲われ、口元に描いた笑みが引き攣る。

 

 

 

『………放っておけ、所詮コバエだ』

 

 

 

何でもないかのように放った言葉に眉を顰める。

明らかに盗聴器の存在がバレていると分かり、すぐさま盗聴器の電源を落とす。

これ以上やれば逆探知される恐れがあるからだ。

電源の落された機器を見下ろしながら口を覆う。

 

最初から気付いて泳がされていた…か。

僕の憑依さえ見破る観察眼…流石アルコバレーノ、といったところでしょうか。

なるほど、侮れない。

 

僕は抹殺対象の優先順位を変更することにした。

あの男はもう少し準備が必要ですからね…

 

 

「さて、日本へ行きましょうか」

 

そう呟いた僕の目の前にあるテーブルの上には一枚の写真があり、そこには茶髪でアジア系の顔をした中学生男子が写っていた。

 

 

ボンゴレ10代目を殺すべく日本へ赴いた僕がまずしたことは、情報屋であるフータという少年を幻術に嵌め、並盛中学生の実力ランキングを把握することだった。

他の者がランキング上位者を襲撃し、ジリジリと追い詰めていく頃、僕はと言えば精神をイタリアへと飛ばしていた。

気の弱い者に乗り移り、前日把握したあの男の居所へと足を向ける。

盗聴器を切った後に盗聴器の位置を確認し、奴が留まった場所は知っていた。

今回はただの小手調べ程度であって、本気で殺そうとは思っていない。

いや、思ったところで容易く殺られる男でもないが。

目的地へと着けば、槍を幻術で作り出し周りに殺気を放った。

わざわざ殺気まで出して誘い出したのだ、来なければ拍子抜けもいいところだ。

だが僕の前の前に現れたのは予想外の生き物だった。

ズルリと地面を這いながら近づく濃密な殺気に笑みを浮かべ視線を移し、目を見開いた。

タコ…というにはあまりにも巨大で、禍々しい何かがそこにいたのだ。

二つの射殺すようなギラつく瞳、人間の胴並みに太い八本の触手、硬質な鱗に今にも死を招き寄せるような大きな刺々しい牙。

 

 

「クフフ、釣れたのは獣でしたか…」

 

僕の言葉に目の前のバケモノは目を細める。

 

「主の周りをうろついていたコバエは貴様か…人間」

 

バケモノが喋ったことよりも、その内容に眉を顰める。

なるほど、このバケモノがあの男のペットということか。

であれば戦力は今のうちに削るに越したことはない。

それ以上に、僕をコバエと称した畜生に怒りを覚えた。

 

「たかが獣如きが僕に張り合えるとでも?今すぐ巡らせてあげますよ」

「紛い物の分際で吠えるなよ」

 

槍をバケモノに向けそう言い放てば、返って来た言葉に僅かに驚きを表す。

紛い物、僕が憑依していることを理解しているような言葉に笑みを作る。

面白い、このバケモノもあの男も…余程僕に殺されたいと見える。

 

次の瞬間、僕は槍をバケモノに向かって突き出した。

だがそれも容易に躱され攻めに転じられる。

何度かバケモノの触手と僕の槍が交差するが、一向に致命傷となる攻撃を出せないでいた。

それはバケモノの身体能力もあるが、何よりもこの身体は憑依しているだけであってそこらにいる一般男性の身体だ。

六道が十全に使えないこの状況で勝敗を決するのは早かった。

触手の内の一本が憑依体の腹に入り、衝撃で骨と内臓が破壊される。

憑依体故に痛みはないが、この身体は既に限界であると悟る。

骨が他の内臓に突き破ったのか、血が喉をせり上がってきて、口から吐き出される。

身体が生命機能を停止し始め、僕は膝を地面に着ける。

一撃で…致命傷か………

見た目通りバケモノだ、と思いながら口を開く。

 

「げほ……ごほっ、ック………クフフ、ただの獣かと思ってい「死ね」

 

最後まで言い切ることはなく、僕は憑依を解く。

先ほど憑いていた身体は首と胴が離れていて、夥しい量の鮮血をまき散らしている。

すぐさま日本に置いている体へと戻ろうとした時、直ぐ近くに眠っている誰かの精神世界を見つけた。

ここは確か数年前に廃れた町だったハズだ……こんな場所に住んでる者などあの男しかいない。

そう思い至った僕はその精神世界へと侵入した。

暗転。

 

 

 

瞼を開けばそこは真白な一面だった。

僕は周りを見渡し怪訝な面持ちで目を凝らす。

白い景色をよく見ればそれは雪で、はらはらと静かに雪が降っていた。

ベルの音が四方から聞こえる中、精神世界の主を探そうと一歩踏み出す。

歩くにつれてベルの音が大きくなっていき、顔を顰める。

 

 

シャン シャン シャン シャン 

 

 

どこからともなく聞こえる笑い声

 

 

「子供の笑い、声…?」

 

 

ベルの音、誰かの笑い声、響き渡る祝唄

 

 

―――――――――――――し…

 

 

掠れた男の子の小さな声が耳に届くが、直ぐに他の音で掻き消える

 

 

「…?」

 

 

僕は耳を澄ませて、先ほどの小さな声の主を探す

 

 

シャン シャン シャン シャン

 

 

――――――――死ね

 

 

 

ハッキリと聞こえたその声を辿れば、少し離れたところにポツリと佇んでいる男の子が視界に入る。

紫色の髪をした少年は雪の中であるにも関わらず半袖で、目を瞑ったままこちらを向いていた。

だが男の子の存在以上に僕を驚かせた光景がその子供の後ろにあった。

 

 

子供の後ろで一軒家が炎上していた。

火柱は天高く(そび)え、空を覆い尽くすかのように広がっていく。

 

 

男の子の後ろの方で焼けただれた人間が二人、原形を留めぬ体で炎に包まれながら叫びもがいている。

だが男の子がその声に反応する素振りはない。

 

 

ふと、目を閉じていた男の子の瞼がゆっくりと開く

 

 

 

垣間見たアメジストを最後に僕の精神はその世界から弾き飛ばされた。

 

 

「――――――っ」

 

体に掛かる重力に瞼を開けば、日本にあるアジトの天井だった。

上体を起こし、先ほどの精神世界を思い出す。

 

あの精神世界はあの男の……?

確かに異常な光景ではあったが。

もしあれが彼の精神世界であったとして、得られるものはなかったか。

 

「骸様、今日の襲撃が終わりました」

 

僕の思考を他所に、部屋に千種が入ってきた。

あの男のことは一旦置いといて、取り合えずボンゴレ10代目を殺すことだけを考えよう。

そう思考を切り替えた僕は、テーブルの上に置いていたチョコレートを齧った。

今現在の状況を千種の報告を聞きながら脳内で整理し、口角を上げる。

 

 

「さて、そろそろあの男が釣れる頃ですね……クフフ」

 

 

薄暗い部屋の奥で僕はそう呟いた。

 

 

 

 




ナッポー:この後沢田綱吉によってフルボッコにされた挙句復讐者に捕まった、ポルポにコバエと言われてカチンと来たけど首ちょんぱされた、ぐぬぬ。

スカル:リア充滅べ、クリスマスの夢を見て魘されていた、メリー苦しみます、着々とフラグを立てていくスタイル、欠伸のお陰で涙出てただけ。

ポルポ:いい具合に勘違いしているセコム、憑依中の骸をムシャペロした、脱皮して漸く成体へ、Bボタンなんてなかったんや…。


原作通りなので黒曜編は全カット。
骸がスカルの居場所を知っちゃったけど、多分それに関して出てくるのは未来編かな?


皆さんクリスマス楽しんでください、私は一人で寂しく手作りのブッシュドノエルを食べる予定です。

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