Skull   作:つな*

14 / 58
俺はどうにかしようと思ったんだ。


skullの勇気

ポルポが中二病になってかれこれ一年が過ぎ、ポルポが10m超えた。

今だにポルポの病気は治らない。

 

「主、外は危ない…あまり出られるな」

「主、まだ我は信ずるに(あた)わぬか?」

「主—————————」

 

主、主うるせー…

あるじ、じゃなくてスカルな。

ポルポが俺の名前を頑なに呼んでくれなくてつらい。

俺の名前を呼びながら山道を時速200㎞で駆けていた可愛いポルポは何処(いずこ)

この前名前を呼んで欲しいと言ってみると以下の内容で返された。

 

「その呼び名は雑念で志が鈍る故」

家人(いえびと)のように接しろと…?」

 

遠回しにお前家族じゃねーから発言が深く心にグサッときた。

その後いじけて数日部屋に閉じこもった。

嘘です、泣いてました。

だってあの可愛かったポルポがこんな病に侵されるとは思わなかったんだ!

なんだよあの可愛いポルポって!タコじゃねぇか!

いや厳密にいえばタコのような何かだけど。

それでも外見タコに対して可愛いだなんて俺も頭がイカれてきたのかもしれない。

いやいやいやいやもう一度ポルポ見てみろ?

前よりも牙が鋭くなってるし、偶に床が溶ける墨吐くし、目がヤバイし。

あ、これ可愛くない。

よし正常な思考に戻れた。

それでも子供の頃が恋しい。

ハッ、これが親心ってやつか…

ポルポは俺の子供じゃねーけど、ペットだしな。

 

「主よ、そこで何かが灯っている」

「…?」

 

灯る?

ポルポの目線を追うと、そこには色々乱雑に置かれているテーブルがある。

よく見ると、本やら何やらの山の中で何かが点滅しているのが見えた。

俺は椅子から立ち上がりテーブルの上の山を掻き分けていく。

漸く発光源を見つけたと思ったらただの端末だった。

俺はその見覚えのない端末に首を傾げる。

 

はて、こんなもの買ったっけ?

 

画面を見れば新着一件と表示されている。

俺がそのメールを開くとFrom:Dと書かれていた。

D…って誰だ。

D……でぃー?イニシャル?でもDから始まる奴なんて俺の周りには…っていうか俺の周り誰もいねぇ。

別に悲しくねーし。

それよかこのでぃーさんって奴のことだ。

でぃー……あ!デイモン閣下!

ボンゴレの幹部のパイナップル閣下か。

そういえば閣下に連絡用の端末渡されたな。

にしても数年も放置した今更何の用だこの人。

引き抜きは諦めたのかと思ってたけど、まだあの人下克上考えていたのか。

ふむふむ、なになに。

 

『To:スカル

 今度ボンゴレの同盟ファミリーのボスに奇襲をかけるので、あなたにはCEDEFの者達の注意を引きつけ、そしてその数日後にはシモンファミリー周辺の人避けを頼みます、詳細に関しては後ほど送ります』

 

 

要約したんだが…………ナニコレ。

え、ナニコレ。

奇襲ってなぁに?

ファミリーって会社ってことだろ?

取引先の企業に対しての奇襲ってなんだ。

CEDEFってなんぞ、公正取引委員会か何かかな?

シモンファミリーってなんぞ、聞いたこともないわ。

つーか注意を逸らすとか、人避けとかなんか物騒なんだけど。

これ犯罪とかじゃあるまいな…

取り合えず、詳細送るって言ってるしそれまで待ってみよう。

犯罪の匂いがしたら直ぐに警察に突き出せばいいし。

 

数日後、閣下の依頼の件をすっかりと忘れてた俺はふと視界に入った端末で思い出す。

あわばばばばばば、やっべぇ忘れてた!

慌てて端末を確認すると、既にメールが来ていて頭を抱えた。

期日が過ぎてないことを祈りながら俺はメールを開き、内容に目を通した。

メールには、CEDEFとやらの構成員リストらしきものが書かれている。

期日は丁度今日のこれから数時間後になっていて一応ギリギリ事前に気付けたと安心したかったが、メールの最後の一文がそれを許さなかった。

 

『目障りであれば殺してもらっても構わない』

 

これだ。

明らかに犯罪臭…っていうかこれ犯罪じゃね?

これ奇襲=殺害かな?

閣下は下克上で人を殺すほど過激な思考をしているらしい。

俺はそんな閣下を……そんな閣下を……

 

 

 

警察に通報することにした。

 

正直迷う暇なんてなかったね。

だって決行日が今日の時点で直ぐに通報しなきゃヤバイだろ。

ポルポがお腹を空かせて外に出た頃を見計らって警察に電話してみる。

 

『はい、こちら〇〇〇警察署です』

「…………」

 

そういえば俺コミュ障だった。

もももももちつけ、どうしたら…

ええと、あれだ、そうだ、取り合えず人が殺されるかもしれないことだけ言えばいいんだ!

 

『もしもし…?』

「人が…死ぬ」

 

つ、伝わったかな?

 

『……え?あの、どういう状況———』

 

ひょえ、伝わんない。

取り合えず詳細言えばいいの!?

詳細は…どうしよう……警察署にメールで送ればいいかな。

 

『あの、もしもし?』

「詳細を送る」

『え、名前を——』

「健闘を祈る」

 

相手の静止を聞かずにそのまま電話を切る。

あれ以上どう喋れと!?

下手に個人情報漏らせば俺の家がバレる。

長く電話しすぎても逆探知で住所バレる。

赤ちゃんだし直ぐに施設に連れてかれるから身バレだけはしたくない。

閣下からもらったメールの内容をコピーして警察署の問い合わせのページに添付する。

おっと、閣下と俺の名前は消しておこう。

んじゃ送信、と。

やり遂げた感のある俺はそのままゲームを起動した。

一年くらい前にやっていたストラテジーゲームは自身の国が侵略されて、王様である俺が処刑endで何回か殺されてから放置気味である。

今ではMMORPG(オンラインロールプレイングゲーム)をしているわけだが。

前回は籠っていたばかりにポルポには心配かけたし、中二病を初期段階で気付けなかったのもあり反省して廃人になるほどのめり込んではいない。

 

翌日、テレビを付けながら朝食を食べていた。

ニュースには昨夜数人が射殺されるという事件が流されていたが、俺は他人事のように聞いていた。

そういえばあの後閣下捕まったのかな…と思っていると端末に一件のメール着信が入る。

あれ?これ閣下から貰ったやつだよな……メール来るってことは閣下捕まってないのかな?

俺は緊張しながらメールの内容みると、目を見開いた。

 

『今回の依頼料は口座に振り込んでおきます。次の依頼は別途で送ります。』

 

あるえ?

もしかして:いたずら電話だと思われて警察動かなかった

嘘だろオイ。

ってことはさっきニュースでやってた射殺事件ってまさか…?

いやいやいやいやただの偶然って線も………

冷や汗だらだらで送られてきたメールを確認すると、そこにはシモンファミリーという会社の住所と、指定時刻にその会社の周りの人避けを依頼する内容だった。

最後の一文にはお馴染みの、『目障りであれば殺してもらっても構わない』がある。

………これバリバリ殺す気満々なのでは。

シモンさん逃げて、超逃げて!

あわばばばば、やばいじゃん、これやばいじゃん。

警察に通報してもいたずらだと思われて何もしてくれないし!

うわあ、関わりたくないけど人の命がかかってるしなぁ

指定時刻は明日の夜か…

その前にどうにかして警察に信じてもらわないといけないのか。

もう直接警察署行ってやろうか?

アカン、俺が施設行きになる。

俺は悩んだ…数秒、数分、数時間と悩んだ結果

 

オンラインゲームのギルドマスターにチャットで相談することにした。

 

『―――ってなことがあって、どうしたらいいのかな』

『ばっかお前そんなん直接言うしかねーだろ!ゲームしてる暇ねーよ!』

『でもさ、でもさ、俺疑われない?何でそんなこと知ってるのか!って…』

『確かに…っていうか何でお前そんな物騒な計画知ってるんだよ』

『成り行きっていうか…不可抗力で』

『別にお前自身調べられても痛くも痒くもないなら行くべきだね』

『いや俺保証人なし、身分証明なしの未成年で一人暮らししてるから、バレたら施設に連れてかれる』

『は!?お前今までよく一人で過ごせてこれたな!』

『ってなけで四方八方塞がれてるわけなんですが…』

『諦めて施設に…』

『だからそれが嫌なんだって』

『ならバレずに警察署じゃなくて警察個人にコンタクトとるとか?』

『いやそれもいたずらで処理されるんじゃ、っていうかどうやって警察官個人の連絡先なんてゲット出来るんだよ、期限明日だぞ』

『あ、日付変わった』

『え』

 

ただ無駄に時間を浪費しただけだった。

正直ギルドマスターに相談したはいいが、如何せんギルマスはニートだ。

あまり充てにするんじゃなかった。

くっそ、チャット上でしか喋れない俺にとってこの世はルナティックモードだ。

にしても警察個人ね……うーん、無理だとは思うけど。

あ!そうか、警察をシモン会社の所に誘導すればいいんだ!

そうすれば閣下も捕まってくれるだろ。

捕まらずに俺が通報したことバレたら俺が死んじゃうけど、その時は腹括って警察に助けてもらおう。

そうと決まれば明日指定場所の近くの警察署に行きますか。

 

眩い日差しが目に差し込み俺は起きる。

隣を見ればいつものようにポルポが寝ていて、壁に掛けられている時計を見る。

そこには正午一歩手前になっていて、一瞬の静寂の後俺はベットから起き上がった。

寝坊…というか寝過ごした。

あ、ごめんポルポ、起こしちゃったか。

田舎であるここから指定場所まで約5時間…ギリギリ間に合うかなー…

取り合えずてきとーにご飯を腹に詰めて家を出ようとすると、ポルポに捕まった。

 

「主よ、急いでどこへ(おもむ)くというのだ」

「………」

「我はそなたの身を案じているだけだ」

 

おえ、ポ、ポルポ…締め付けすぎ……

ちょ、出る!さっき食べたスクランブルエッグ出る!

お腹に回される触手が一層強くなる。

うぷ、吐きそうっ…

 

「なら、お前も…来い」

 

色々吐きそうだった俺はそれを言うだけで精いっぱいだった。

ポルポは俺のお腹に回していた触手を解き、何事もなかったようにバイクの隣に移動していた。

おい、ご主人を殺そうとしてしれっとすんなや。

焼きだこにすんぞコノヤロー。

これ以上何か喋っても患っているかまってちゃんには無駄だと思い、バイクの後ろをついてくるタコは無視する形で家を出た。

数時間のドライブの末、漸く首都ローマに着く。

久々の首都は数年前とは変わっていて道に迷いながらも指定場所に向かおうとしていたら、再びポルポが俺のお腹に触手を巻いてきた。

今度はなんだよ!もう!

 

「主、血の匂いがするぞ……それも近い…」

 

あーあーそういう中二ごっこは他所(よそ)でやってくれませんかね!?

なにその風が俺を呼んでるみたいな!?血がお前を呼んでたりすんの!?

 

「おいポルポ…って…ん?」

 

ポルポを呼び止めようとしたら、目の前にパトカーが通り過ぎ去っていく。

そして直ぐ側のホテルに止めて、中に入っていった。

何か事件だろうか……いや待てよ、このまま警察に犯人こっちに逃げたよ!とか言ってシモン本社に連れて行けばワンチャンいける…?

職務妨害になるけど逃げれば大丈夫だよね。

 

「ポルポ、あのホテルに入っていった男を追ってくれ」

 

正直タコ連れて正面突っ切っていくのには無理があるので、下水道から潜ってホテルの配管室のような場所を通っていく。

するとポルポがまたもや血がなんとか言い出して勝手に動き出す。

 

「近い……」

 

近い……じゃねぇよ!マジで!警察官追えって言ってんだろ!?

なんなのお前さっきから血の匂いばかり追うなよ。

ポルポが俺を巻き込みながら配管を伝っていく姿はまさに謎の生物が赤ちゃんを捕食しようと巣に持ち帰っているようである。

やべぇ、これ見つかったらどうなるんだろう。

エレベーターがあるであろう空間に辿り着くとポルポは迷わず上へと這っていく。

いつも思うんだけどポルポが何気にヤバイ。

いきなり登るのをやめたかと思えば、エレベーターの外に出るなりその階にいた男性に体当たりし出した。

ちょちょちょちょストップ、ポルポ!

ステイ!ポルポ!

ポルポの頭をばんばん叩くが全く聞こえて無さそうだったので仕方なく声に出してポルポを呼んでみたら止まってくれた。

 

「何故だ主、こやつはそなたの敵だ…何を恐れることがあるというのだ……」

「取り合えずその人を離してやれ」

「……」

「ポルポ」

 

強めに名前を呼ぶとポルポはその男の人を離した。

俺はポルポから降りて男性が死んでないかを確認すると、息を吐いた。

あー、ペットが人殺しそうになったとかマジ笑えんわ。

今度ポルポには道徳の授業を受けさせよう。

………ん?つかこの人さっきホテルに入っていった警察官じゃね?

警察の制服を着ている、気絶した男の胸ポケットを探ると警察手帳があった。

やっぱり警察だったのか。

ん?待てよ、これ身元バレず警察官とコンタクト取れるんじゃね…

思い立ったが吉日って言うよね。

俺はその警察官のズボンのポケットに手を突っ込むと、中には財布と携帯が入っていた。

携帯にはロックが掛かっておらず、その携帯のメールアドレスを表示して俺の持っている携帯に転送する。

これで一応今後コンタクト取れる…ハズ。

ごめんなさい、勝手に携帯見て。

携帯を返すついでに財布を覗けば、家族写真が入っていた。

リア充か。

べ、別に羨ましくねーし。

俺一人で大丈夫だし、ポルポいるから平気だし………平気だもん。

半ば自棄になって写真を財布に戻し、その男性のポケットに戻した。

 

「ポルポ、行こう……これ以上ここにいるのは危ない」

「殺さないのか?」

 

リア充爆ぜろとは思うけど、本気で殺そうとしてどうすんだよ!

 

「その人には家族が…いるだろう………」

「家人?それがどうしたというのだ」

 

やっぱりポルポは動物だから倫理感ないのか?

これマジで道徳の授業させなきゃ。

 

「………その人が死んだら…残された家族は……多分、悲しい……と、そう思うから」

 

DV野郎じゃない限り悲しむだろ、うん。

 

「…これ以上自らを追い込むのはやめよ、見ていて痛ましい」

 

ぐふっ、的確な毒舌だなおい。

ニート志望コミュ障のゲーマーがいっちょ前に道徳説こうとして悪かったな!

ちくしょう、マジでポルポが俺に対して容赦なさ過ぎて辛い。

っていうかここなんか鉄臭い。

特にエレベーターの方につれて臭い。

多分この鉄の匂いをポルポが血の匂いだと勘違いしたんだと思うけど…このホテル古いのかな。

 

「行こう…ポルポ……」

 

ポルポともと来た道を引き返しホテルを出て、先ほどの警官の携帯に閣下から送られて来た依頼内容をコピペして送った。

一応、激励の言葉と、いきなりあんなの送られたら警戒しちゃうと思ったので家族のことを褒めて、顔文字まで付けたから多分大丈夫だと思う。

俺は時計を確認した。

指定時刻まで残り4時間ほど…あの警官が起きたら多分直ぐに誰かを呼んだりするから、メールには気付くだろう。

よし、俺の出来ることはもうない。

パトカーの音を聞きながら地下水道から人気のない場所に出て、家に帰った。

 

翌日ニュースでは数人が射殺される事件があり、これまた端末に新着メールが一件きていて、俺は頭を抱えながら恐る恐るメールを開く。

 

『依頼料はあなたの口座に振り込んでおきますので』

 

俺は無言でメールを閉じ、パソコンを付けてゲームを起動する。

そしてログインするなりチャットのボタンを押してキーボートに手を置く。

 

『おはようニート廃人のマスター!』

『おはよう、息をするように俺をディスるのはやめろや』

『警察がいたずらだと思って相手にしてくれなかったよぉぉおおおおお(´;ω;`)』

『マジかwwww乙www』

 

 

真面目に労わってくれないギルマスに俺は泣いた。

 

 

 

 

 

 

ポルポside

 

 

 

テレビ番組で最近僕のおやつになってる、犬と猫が映ってた。

僕はじっと画面を見つめていたら、犬の父親が子供をビックリさせて怖がらせたのを母親が怒っている場面が流れる。

僕はふと気になったことを隣で一緒に見ていたスカルに聞いてみた。

 

「スカルのお母さんとお父さんはどこにいるの?」

 

スカルは僕の問いに少しだけ目を見開いて、困ったように笑い口を開く。

 

「………とっくの昔に————」

 

 

 

 

 

そこで我は目を覚ました。

目の前にあるのは見慣れた部屋で、視界の内には主がベッドの上で寝入っていた。

大人しい寝息が聞こえる中、我は外へ出て自身の糧となる生き物を狩りに森へ入る。

陽が完全に上った頃を見計らって家に帰れば、既に主は起きていて朝餉の準備をしていた。

 

「主よ、帰った」

「……ああ、おかえりポルポ」

 

朝餉を食べ始める主の目の前に座る。

すると主が(おもむろ)に喋りかけてきた。

 

「なぁポルポ……」

「どうした主よ」

「………今までみたいにスカルって呼ばないのか?」

「その呼び名は雑念で志が鈍る故」

 

そうだ、我はそなたを守る矛であり、盾だ

(うつつ)を抜かし怠慢に生きてなるものか

それともなんだ、テレビに映るどこにいるかも分からぬあの世帯のように振る舞えというのか。

偽りの面でそなたに接しろと言うのか。

 

「家人のように接しろと…?」

 

そう聞けば、主は悲しそうに目を伏せるだけで何も言い返しては来なかった。

違う、そなたを傷付ける為にいったのではないのだ。

 

「すまぬ、口が過ぎた」

 

主は群れることを極端に嫌う。

それは主自身の中にある一線を越えて欲しくないがため。

大切なものを失うことを忌避していることも知っている。

だから、これ以上そなたに重荷を背負わせたくないだけだ。

ただの矛であり盾として、我を側に置いてさえくれれば、それでいいのだ。

それが、主にとって気の休まる距離となろう。

主自身もそれを分かっているからか、それ以上何かを言ってくることはなかった。

 

 

 

 

ある日の昼時だった。

 

「主よ、そこで何かが灯っている」

「…?」

 

我の視界の端に何かが小さく灯っていて、それを主に教えると主は机の上を片付け光の源を探し出す。

主はそのまま見つけ出した物体を覗きだしたかと思えば直ぐに机の上に置いたので、我もそこまで気に留めはしなかった。

それから数日後、主は何かを思い出したかのように机の上に置いていたあの物体を手に取っていた。

あまりに真剣な表情をしていたが外に出る様子は見られなかった為、我は糧を探しに森へと向かいだした。

 

次の日、主は朝から何やら真剣に考え事をしている。

昨日の事案が解決していないのだと一目見て分かり、我は主に進言した。

 

「主、何やら悩んでいるようだが…如何(いかが)したか」

「あ、いや……なんでもない…」

 

だが主は我に話してはくれなかった。

未だ主は我を頼ろうとはしない。

今まで独りで何もかも背負い込んでいたからか、はたまた我が信ずるに能わぬか。

遣る瀬無い……

日を跨いでいるにもかかわらず(とこ)に入ろうとしない主を案じ、我は声を掛けた。

 

「主、そろそろ床に就かねば体に障るぞ…今の主は赤子の身ゆえ…」

「……分かった」

 

主も眠たかったのか、床に入ると直ぐに寝息が聞こえる。

我も主の側に佇み、瞼を閉じた。

我が次に目を覚ましたのは一際大きな物音が耳に入った時だった。

視界に映る主はどこか焦りを見せ、急いでいる。

家を出ようとしている主を我は無意識に引き留めた。

 

「主よ、急いでどこへ赴くというのだ」

「………」

 

語らぬ主に我は哀愁を覚える。

独りで何もかも背負おうとするな

我はそなたを守るために側に在るのだから…

 

「我はそなたの身を案じているだけだ」

 

言い聞かせるようにそう云えば主は少し考える素振りを見せ、口を開いた。

 

「なら、お前も…来い」

 

 

その言葉を待っていたとも。

我が側にいることを認めるその言葉を…

我はバイクを走らせる主の後ろを、周囲に気を配りながら追う。

数刻したところで、僅かだが風に乗って漂う匂いに気付く。

人気の少ない道を選びながら進む主を押しとどめ、我は辺りを警戒する。

 

「主、血の匂いがするぞ……それも近い…」

「おいポルポ…って…」

 

匂いのもとを辿れば建物があり、我がそこを睨みつけていると主が我の視線の先の建物を指差した。

 

「ポルポ、あのホテルに入っていった男を追ってくれ」

 

どうやら、この血の匂いと主の目的は関わっているようだ。

しかし血の匂いが濃い…

一人二人ではないな………もっと多い上に死の匂いが鼻につく。

あの建物に入っていった人間を追う為に、人目につかない処から入り込む。

地下水道からその建物に侵入して直ぐに我は最大限の警戒を露わにした。

暗くてヒトには見えぬが、壁一面に鮮やかな赤が流れている。

しかも匂いが上の方に行くほど濃くなる。

 

「近い……」

 

相手は人間だ、我が毒牙の前では赤子同然。

慢心を許してはならぬ、主の敵は全て我が牙で貫こうぞ!

我は壁を這いながら血の匂いを辿っていき、血が途切れた処から外に出ると視界の中に一人の人間が入る。

その人間が先ほど主の指さした人間だと分かるや否や、その人間の足を掴み宙へと投げ飛ばした。

壁にぶつかりその場に倒れ込んだ人間の手には、人の使う銃とやらが握られていた。

その武器が人間の命を容易く奪うものであることを我は知っている。

この人間、敵か。

敵は…殺す。

人間を絞め殺してこの牙で跡形もなく噛み砕いてやろうと、人間の首に足を巻き付けていたら主の呼び止める声が聞こえた。

 

「ポルポ、やめろ」

「何故だ主、こやつはそなたの敵だ…何を恐れることがあるというのだ……」

 

人間など我が牙を逃れられぬ。

直ぐに噛み砕き殺してくれようぞ。

 

「取り合えずその人を離してやれ」

「……」

「ポルポ」

 

主の剣幕に我は人間の首に巻いた足を解き引き下がる。

主は気を失っている人間が生きているかを確認して、考える素振りを見せた後その人間から何かを取り出した。

その人間の持っているソレが目的だったのか…?

いやそれならば殺して奪った方が遥かに容易い。

何故、主はその人間を殺さない……

ふと主が手を止めたことに気付き主を覗き込めば、一枚の写真を主が見つめていた。

そこには女と男と子が並んでいて、我は世帯であると分かった。

主は直ぐにその写真を戻し、人間から取り出したものを元の位置に戻していく。

 

一瞬だけ、短かったが我はしかとこの目で捉えた。

 

写真を覗き込んだ主の指に力が入ったのを。

 

「ポルポ、行こう……これ以上ここにいるのは危ない」

 

我はその言葉に疑問をぶつける。

 

「殺さないのか?」

 

今ここで殺した方がいい。

こやつは敵だ。

そなたの敵だ。

何故、何故主はこの人間を殺さない…

主は間をおいて、応えた。

 

「その人には家族が…いるだろう………」

「家人?それがどうしたというのだ」

 

この人間の世帯とそなたは関係がなかろう…?

何故だ、我には理解し難い。

 

「………その人が死んだら…残された家族は……多分、悲しい……と、そう思うから」

 

その言葉に我は言葉を失った。

 

敵にまで情けを掛けるというのか…?

何がそこまでそなたを駆り立てる。

何をそこまで恐れている。

その時、まだ僕が我として目覚めていない頃に主が我に呟いた言葉を思い出した。

 

 

 

『スカルのお母さんとお父さんはどこにいるの?』

『………とっくの昔に死んだよ』

 

 

 

我は悟った。

 

 

主は囚われているのだ

世帯を羨み、妬み、それでも恨むことの出来ない自身が憎くて

世を拒み 世に囚われた 

 

哀しき 我が主

 

人を嫌い、憎み、遠ざけるにも関わらず

人を望み、求め、恐怖する

 

 

「…これ以上自らを追い込むのはやめよ、見ていて痛ましい…」

 

そなたが魅入るものは()()世界にはない。

そなたが妬むものは()()世界にはない。

そなたが羨むものは()()世界にはない。

そなたが拒むものは()()世界にはない。

 

 

そなたを縛るのは世界ではなく死人(しびと)か。

 

 

 

 

 

『可哀そうな人達だよ……………俺なんか産んでさ…』

 

 

 

そなたが望んでいるのは死か

 

 

 




スカル:何もせずにむしろDの計画を警察に通報したにも関わらずお金だけ振り込まれた、警察ェ…、今後ポルポには道徳の時間が必要だと思っている、チャット上ではよく喋る。

ギルドマスター:略してギルマス、日本のMMOなので日本語を使い、日本版の顔文字を使うスカルを日本人だと思っている、またスカルに相談を受けるが日本でそんな事件ないので冗談だと思い流している、元営業マンの現ニート。

ポルポ:スカルをややこしく捉え過ぎたアホの子、警官をグチャペロしようとしてたけどスカルに止められた。

正直、ポルポ視点がややこしくて自分でも混乱しました。
取り合えず分かりにくい最期だけ説明しときます。
ポルポはスカルの親が亡くなったという事実だけを知っていて、いわゆるホームシック状態なんだなーということをややこしく捉えているだけ。


そなたが魅入るもの(スカルの家族)はこの世界(今)にはない。
→既にスカルの家族は死んでいるから
そなたが妬むもの(他人の家族)はその世界(過去)にはない。
→昔はちゃんと家族がいたから
そなたが羨む(家族という)ものはこの世界(現世)にはない。
→家族皆死んじゃったから
そなたが拒む(家族という)ものはその世界(死後)にはない。
→死後の世界にいるのはスカルの家族だから、逆を言えば生きてるうちは要らないと思っている


あれ…書いてて私の頭がこんがらがってきた……
衝動で書いて、後で内容整理してるせいか何でこう書いたのか思い出すのが難しい場面がちらほらと…(´;ω;`)
でも一応、今話のポルポsideはおまけ程度なので、あまり気にしないで下さい。
あと他視点がまだあるので、次話と今話は繋がってます。
ていうか次の他視点が今後も大切になってくる話なので。


ps:更新遅くなってごめんなさい(笑)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。