Skull   作:つな*

13 / 58
俺は戸惑った。


skullの困惑

「主…」

「スカル」

「主」

「……スカル…」

「主」

「…」

「主よ、先から何故(みずか)らの名を呟いている…」

「………何でもない」

「ふむ、ならばよいが…」

 

ポルポはスカルの横で再び瞼を閉じた。

俺は手に持っていたココアを震える手でテーブルに置き、読んでいた漫画を膝に置く。

そして息を深く吸って、吐いた。

 

 

 

ポルポが中二病になってしまった。

 

 

 

俺は信じたくない現実に頭を抱えた。

 

 

 

ポルポと共に博物館に遊びに行ったのが事の発端なのかもしれない。

 

ポルポと共に誰もいなくなってしまった町の無人博物館に遊びに行き、色々な化石を眺めていた。

すると、ポルポがある一点を見てはずっと視線を固定させていたので、俺は気になりポルポの見ているものを覗き込んだ。

そこにはタコの足ような形の化石があり、その隣には何かの牙の化石が展示されていた。

隣の説明板にはデボン紀と言って約4億年前の生物と記載されている。

 

「頭足類の化石…?お前の先祖か」

 

ポルポに話しかけてみるが、反応はない。

真剣にその化石を見ては触手をガラスにベタベタと張り付けている。

何か思うことがあるのだろうと、多感な年頃のポルポをそのままにして俺は別の展示物を見ていた。

にしてもこんな立派な博物館なのに何で町の人はこの地域から出ていったんだろうか。

ああ、財政難だからか。

このくらい立派な博物館だと維持費ヤバそうだよな。

おお、ティラノサウルスの模型だ、すげぇ…

 

「スカル…」

「あ、ポルポ」

 

ポルポが見終わったのか、俺の所に戻って来た。

 

「自分の起源を知ることが出来た…連れてきてくれてありがとう」

「よかったな」

「うむ、幼稚ながらも自身を自覚出来たことは喜ばしいことよ」

「……?」

 

何だかいつもより口調が…やっぱり知識を身に付けて行ってるから段々賢くなってるのかな。

やべ、これ俺よりも賢くなるの遠くないかも。

それから博物館を出て、家に帰るまでポルポは何も喋らなかったし、俺も何も喋らなかった。

ここで明記しておくならば、俺は普段喋らない。

人前でなくとも、だ。

ポルポは人間ではないからコミュ障の対象にはならないが、それでも元々一人で過ごす時間が多かったので喋ることはあまりない。

ポルポでさえ一日に数度、会話を交えるだけである。

まぁポルポの場合スキンシップ過剰な部分もあるから別に言葉を交わさなくても平気らしいけど。

どちらもそれに不満を持っているわけもないので、現状を変えようとは思っていないし変えるつもりもない。

あまり言葉を交わしていた方ではなかったので、今回のポルポの異変に気付くのが遅れたのだが。

明らかな変化に気付き首を傾げたのはついこの間である。

 

 

それは、漸く世界の科学技術が俺の知っている時代の科学技術の原型を垣間見せた頃だった。

コンピューターネットワークを利用したオンラインゲームが誕生したのだ。

ゲームはもっぱらガンシューティング系であり、ファンタジー要素のゲームも着々と数を増やしている。

俺は早速趣味を増やそうと、そのゲームをインストールしてプレイしていた。

時代が漸く追いついたと喜び、俺は手あたり次第遊び始めた。

その中でも俺が一番気に入っていたのはストラテジーゲームだ。

いわゆる戦略シミュレーションゲームで、長期的な目標に向かって複数の要素を取捨選択しながら最終勝利を目指すものだ。

俺のプレイしているゲームは世界統一であり、自身の領土を持ち、各地に領土拡大として戦争を吹っ掛けたり、同盟を組んだりしながら戦略を練っていく。

正直リアルでビビリな分こういうところで少しくらいは背伸びをしたいのが本心だ。

そんなゲームにはまり込んでいると、ポルポもこのゲームに興味を持ち始めた。

 

「スカル…何をしている…」

「んー………戦ってる…」

「相手は?」

 

結構興味深々な模様だったけど、俺はちょっと画面に集中し過ぎて何を喋ったかはあまり覚えていない。

だって今隣国から攻撃されて…ああああああ、ヤバイヤバイ、盾兵作らなきゃ!

このまま侵入されたら俺殺されちゃうわ。

 

それから元々多くはなかったポルポと喋る時間がさらに減っていき、そういえば最近ポルポと喋っていないと気付いて久々にポルポと散歩に行こうと誘った。

 

「ポルポ、散歩するか?」

「スカルがそう望むのであれば…」

 

何だこのよそよそしい態度はと思いもしたが、ゲームばかりしていてあまり構っていなかったから拗ねたのかと思っていた。

 

「お前の好きな海に行こう」

 

ポルポは機嫌を直したのか普通についてきた。

そういえば俺がゲームをしている間、ポルポは何をしていたのか気になって聞いてみた。

 

(いにしえ)の記憶に想い(ふけ)っていた」

 

?…………?ごめん、今なんて?

俺の思考がフリーズしている間もポルポは喋り続ける。

漸く我に返ったもののポルポの言ってることが分からない。

 

太古(たいこ)より蘇りし我が身はなんと小さきものか」

 

たいこ?よ、よみがえりし?

 

「我が毒牙を恐れ(おのの)き我を()てらせき愚かな人間共はなんと浅はかなものか」

 

ポ、ポルポ…?おーい、どうしちゃったのお前。

 

「移ろいあり()く世はなんと汚らわしく、なんと麗しきものか」

 

 

この時俺は悟った。

ポルポの身に起こった…いや、起こってしまったものの正体を。

 

 

「スカル……否、主よ……我が身は盾となり我が牙は矛となろう……故に我が命はそこな命と共にあり」

 

 

 

ポルポが中二病になってしまった。

 

 

 

この時の俺は、あまりにポルポが真剣に言い放つものだから、引き攣った声でお礼を言った。

 

「あ、りがとう…ポルポ」

 

 

内心頭を抱えるも時既に遅しとはこのことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

ポルポside

 

 

僕は一体なんだろう。

タコ科の生物でも頭足類でもなかった。

僕の見た目はタコだけど、外殻があるし、毒袋もある、エラ呼吸と肺呼吸のどちらも有している。

どこにもそんな生物はいなかった。

じゃあ僕は一体なんなんだろう。

分からない。

僕は、自分が分からない。

スカルは気にしていないけれど、やっぱり僕は気になる。

悶々と自分自身に対して自問自答を続けていた日々だった。

そんな時スカルと散歩に行こうとしていたら、スカルが考え込んでいた。

 

「ポルポ、博物館行かないか?」

「はくぶつかん?」

「ああ、まぁ暇にはならないと思う」

「行く」

 

今日はスカルと一緒にはくぶつかんに行くらしい。

はくぶつかんって何だろう。

まだ知らない単語がたくさんある。

僕はスカルのバイクを追い駆ける。

数十分で大きな建物の前に到着した。

ここがはくぶつかん?僕ここ来たことあるよ。

ここは僕の狩場であり、テリトリーだ。

たくさん人がいて、とってもお腹一杯になれる場所だ。

今じゃ誰もいないけど前みたいにまた人が来てくれたらな。

最近じゃ隣町に行かなきゃいけないから一苦労だ。

それにしてもはくぶつかんって何するところなんだろう?

 

「あ、化石のコーナーあったぞ」

 

かせき…化石?

まだ文字はあまり読めないから何が書かれてるのか分からない。

あ、海にたくさんいる星の形をした生き物に似てる。

あれも、化石。

あれも………あれも……

 

ふと視界の内にはいったものに視線が固定された。

それは石の中に大きな牙が化石となって埋められていた。

核の心臓がどくりと鼓動した。

 

 

 

……?

なんだ あれは

僕はあれを知っている

思い出せ

 

僕は ぼくは ぼくは————————

  

 

 

瞬間、ポルポの脳内にある光景が過ぎる。

 

 

 

暗い、暗い、深淵で、ひっそりと息を潜めて時を待つ

目の前には(おぞ)ましく強大な強者が(たたず)んでいる

しかし、目の前の強者のぎらついた牙など己が毒牙に比べれば赤子同然

我が眼は今開かれた

 

その命…ここで散れ

 

我が牙が強者の目玉へと食い込み、頭ごと噛み切る

口の中に広がる赤い鮮血は己が命の糧となる

汝の命は我を生き永らえさせる

 

生きとし生ける全ての命は

我が牙を逃れられぬと知れ

我が血肉を喰らいつくすものはこの世に居らぬ

 

故に我が王者なり

 

故に我が統べる者なり

 

 

 

 

 

そこで場面は途切れ、ポルポは我に返る。

 

 

……今のは…ああ、ああ、そうか

あれは 僕だ

時が過ぎて、終わりを迎え、永遠の眠りについた、過ぎ去った過去の残骸

 

それが 僕だ

 

僕は蘇った

人間が、残骸と成り果てた僕の死屍(しし)を見つけ、挙句の果てには蘇らせたんだ

永い永い眠りから解き放たれた

僕は 大昔に滅びた生き物だったんだ

 

漸く謎が解けた

 

 

僕は直ぐにスカルの下へと向かう。

 

「スカル…」

「あ、ポルポ」

 

スカルがここに連れてこなかったならば、僕が自身を思い出すことはなかっただろう。

僕が大昔に滅びたはずの種族であることに今までの疑問が解消され、脳内は澄み切っていた。

 

「自分の起源を知ることが出来た…連れてきてくれてありがとう」

「よかったな」

「うむ、幼稚ながらも自身を自覚出来たことは喜ばしいことよ」

 

少しだけ昔の記憶が混ざった口調が確立されつつあるけれど、僕は僕だ。

全ての頂点に立っていた時代のプライドはあるけれど、それよりも今までずっと一緒にいてくれたスカルの側にいたいのだ。

僕はスカルが好きだ。

小さな僕を恐れずに接していたスカルが好きだ。

太古の昔に孤独であった僕は死んだ。

僕はポルポだ。

スカルが名付けてくれた名前がある。

それでいい。

 

 

「ポルポ、帰るぞ」

 

 

それがいい。

 

 

 

 

 

ある日、スカルは部屋に(こも)るようになった。

中を覗き見ても、僕に気付かずひたすらパソコンの前で真剣な顔をしている。

カルカッサにはちゃんといってるけど、それ以外はずっとパソコンを見てる。

あまりに真剣そうに見るから僕は邪魔にならないようにスカルの部屋には入らず、リビングで昔の記憶を思い出していた。

昔の記憶、というよりもどちらかと言えば、細胞が覚えている記憶なんだと思う。

でもどの記憶も海の中で過ごしていて、陸の上での記憶はどこにもないから多分一度も陸に上がったことはなかったんだろう。

段々と脳内にある記憶のパズルが埋まっていくような気がする。

数日、スカルが部屋から出てこなくて僕は心配でスカルに声を掛けてみた。

 

「スカル…何をしている…」

 

数秒の間が開き、スカルは応えた。

 

「………戦ってる…」

 

僕は何と戦っているのか分からずに、更に問い詰めた。

 

「相手は?」

 

 

 

 

「………世界…」

 

 

僕は一瞬スカルが何を言ってるか分からず、その言葉をゆっくりと咀嚼(そしゃく)する。

スカルは今大きな何かと戦っている。

彼は世界だと言う。

スカルは世界と戦っている。

 

「どうして……?」

「…………俺の領域(テリトリー)に…土足で、入ってくるんだ……」

 

スカルの声はくぐもっていてとても苦しそうだった。

でも僕はどうすることも出来なくて、自分が嫌になる。

 

「このまま(あら)されたら……俺が……死ぬ………」

 

それはダメだ、嫌だ、嫌だ

スカルが死ぬのは嫌だ!

僕の家族はスカルだけなのに!

スカルは僕の大切な人なのに!

 

 

スカルは無言で画面を睨みつけていて、僕はその剣幕に声が出せず部屋を出た。

部屋を出てリビングに戻ったはいいけれど、内心穏やかじゃなくて、僕の感情に呼応してか足の表面の外殻にあった鱗が段々と棘状になっていく。

 

どうしよう、このままだとスカルが死んでしまう

僕が守らなきゃ

僕が守らなきゃ

 

でも世界が相手じゃ今の僕じゃ守り切れないかもしれない

 

じゃあどうすれば…どうすればいいの?

 

分からない………

 

僕はずっと考えていた。

どうすればいいのか、どうしたらいいのか

ただスカルを守りたくて、ひたすら考えていた。

 

何も分からずに落ち込んでいると、スカルが部屋から久々に出てきた。

 

「ポルポ、散歩するか?」

 

スカルに僕を構ってる余裕なんてないのに…

スカルは自分の死よりも僕を優先するの?

そんなの嫌だよ。

でも、断ればスカルは悲しむ。

悲しむから、僕に与えられた選択肢は一つしかないんだ。

スカルの意地悪……

 

「スカルがそう望むのであれば…」

 

逃げ道、苦し紛れな逃げ道を彼に与えたけれど、スカルは少し目を見開いて驚いただけで、直ぐに穏やかな顔でゆるりと笑みを作る。

困ったように、でもそれが嬉しいかのような目で僕を見るんだ。

 

 

「お前の好きな海に行こう」

 

 

僕には人間と違って涙腺がない。

今じゃそれがとても有難かった。

 

だって、泣いたりしたら、もっとスカルは困るから

 

 

スカルを 大切な家族を 世界から 全てから 守りたい

 

守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい

 

どうすれば——————————

 

 

 

 

  生きとし生ける全ての命は

  我が牙を逃れられぬと知れ

  我が血肉を喰らいつくすものはこの世に居らぬ

 

  故に我が王者なり

 

  故に我が統べる者なり

 

                        

 

 

「ポルポ、お前最近何をしてたんだ…?」

 

僕は……ぼくは……………ぼく、は……

 

❝我❞は————————

 

 

神話が目を覚ます。

 

 

 

(いにしえ)の記憶に想い耽っていた」

 

我はそなたを守ろう

全ての厄災から

 

太古(たいこ)より蘇りし我が身はなんと小さきものか」

 

我はそなたに寄り添おう

全ての年月を

 

「我が毒牙を恐れ(おのの)き我を()てらせき愚かな人間共はなんと浅はかなものか」

 

我はそなたを護ろう

全ての孤独と悲しみから

 

「移ろいあり()く世はなんと汚らわしく、なんと麗しきものか」

 

我はそなたと共に生きよう

全てが朽ち果てるその時まで

 

 

 

「スカル……否、主よ……我が身は盾となり我が牙は矛となろう……故に我が命はそこな命と共にあり」

 

 

主よ、悲しき顔をするな

哀しき眼をするな

我は己が選んだ道を 悔いてはいない 

だから 己を責めるな

 

そなたは 真っ直ぐと 生きてさえいれば

 

それでいいのだ

 

 

「あ、りがとう…ポルポ」

 

 

それがいいのだ

 

 

 

掠れた声がいつになく哀しみを帯びていた。

 

 

 

 

 

 




スカル:うちの子が中二病にぃぃぃぃぃいいい(´;ω;`)、世界と戦ってる狂人()

ポルポ:デボン紀の記憶を取り戻したはいいけど昔とは決別し今を楽しく生きようとした矢先にスカルのアホに翻弄されて、昔の人格を引っ張り出して統合しちゃった被害者、最強のセコム。

町:そして誰もいなくなった


▶スカル の 理解者(候補) が いなくなった !

えぐい感じに成長させることが出来て良かった(満面な笑み)
んーでも幼いポルポも好きだったので、今後初期ポルポの再登場も考えてます。

因みに現在は、原作の8年前くらい


ps:ポルポを描いてみたはいいけれど、あまりにもえぐかったので後書きに貼るのを断念しました。
一応私の小説ページ?の左側画像一覧で見れるかと思います。
※私の描いたポルポは個人的なイメージです、本編のポルポは各自の想像に任せてます。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。