Skull   作:つな*

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俺はスカルだ。


アルコバレーノ以前
skullの生誕


俺の名前はスカル。

イタリアの小さな村で生まれた。

俺は生まれた時から少し、いや…結構変わっていた。

前世……というものなのかもしれない……生後数秒で全く見知らぬ人物の記憶を持っていた。

朧気だが、確か日本人だったハズだ……多分大学生。

前世の記憶を持って生まれた俺は、人格が形成し切れていないうちに知識を詰め込まれたような奇妙な感覚のまま育った。

全く違う言語、風習、生活…全てが異なっていて常識を塗り替えるのは手間取った。

他の赤子とは違い全く泣こうとも、(わめ)こうともしない俺に両親は終始心配していた。

オムツの取り換えやお風呂の補助と、地獄の生活を3年ほど過ごしていたらある程度喋れるようになった。

それと比例して、周りからは気味悪がられた。

そりゃそうだ、まだ3歳というお子ちゃまが両親を気遣うとか、空気読むとか今思えばヤバかった。

あとはそうだな、子供の頃出来るだけ泣かないように我慢していたら声帯に異常を来していて、声を出し辛くなったことくらいか。

7歳の頃、自身の状態が気になった俺はオカルト分野に手を出した。

この時ぐらいから周りの子供に避けられたりした、まぁ子供に群がられても嬉しくはないんだが。

どれだけ探しても憑依経験や前世、今世とかの記述は一切なかった。

これで2ちゃんねるとかあったなら書き込んでいただろうが、残念なことにここはイタリアだった上に俺の家にはパソコンがなかった。

10歳の頃、ついに両親からは白い目で見られ始めたけれど当時の俺にとって些細なことだった。

というのも前世では両親とは超が付くほど仲が悪かったからだ。

それもあって親というものに良い感情はなくて、前世のあいつらとは別物だという理解が出来ていなかった。

今世の両親が亡くなった時に漸く自分の親不孝っぷりを自覚したがそれはまた今度語る。

15歳の時に両親が亡くなって、それと同時に地元を離れた。

両親の遺産と父親のバイクを無免許で運転して、取り合えず何か生き甲斐を探そうと思った。

無免許で運転してただけあって、何度か公道でスリップしたり立ちゴケしたりと色々恥かいた。

ちくしょおと思った俺は誰も入ってこれなさそうな山奥のような場所で一人淡々と練習した。

正直教習所に行けばよかったと思ったが、免許は16歳からしか取れないので仕方なく自力でなんとかする。

ボロくなっていた道が崩れて山の崖からバイクごと落ちた時は本気で死ぬかと思った。

あの時無意識でバイクを庇って自分を下敷きにしたのは自殺願望の気を疑った。

だがなんというか、俺は人間やめちゃってもおかしくない程頑丈で、何度死ぬ思いしていても無傷のままだった。

最近は慣れて、道から外れて高所から落ちそうになったら自分の身よりもバイクを庇うようになった。

そして16歳になる前に俺は山をバイクで制し、これからどうしようかと考えた。

バイクに乗れた達成感だけで燃え尽きた俺は仕事なんてしたくなくて、超安い家賃の賃貸を探してそこに住むことにした。

両親の遺産から見るに最低でも5年は何しなくても大丈夫だなと完全にニート生活する気満々だった。

それからは軽いドライブという名の自殺ルートの走行と、家でのんびりパソコンの前にいるだけの生活を送っていた。

最近はぬこ同好会に参加している。

初めてオフ会に誘われて、勇気出して赤の他人に会ってみた。

ここで俺には試練が待っていた。

地元を出て田舎に引き籠ってニート生活をしていた俺は数年も誰とも喋っていなかったのだ。

そう、完全なるコミュ障となっていた。

ご職業は?と聞いてきそうな相手の目に怯えて声が出なくなる。

っく、これがニートの弊害かよ。

もうどうにでもなぁれ、と思った俺は一言二言だけ何とか喉から声を絞り出して挨拶した。

その後は部屋の片隅でぬこ達と戯れるだけ戯れて帰った。

その後普通にニート生活をしていた俺が16歳になった頃だった。

 

「君のライディングテクニックは凄いな」

 

いつもみたく山の中走っていたら全く知らない男に声掛けられた。

 

「ああ、怪しいものではないよ…私はこういうものだ」

 

そう言って男が俺に差し出してきたのは名刺。

ふむふむ、〇〇企業って俺でも聞いたことあるな、多分大企業だな。

つーかこのおっさん社長かよ!

あと髪に蚊が止まってるよ。

 

「自社で配達員をメインにしたCMを作るつもりだったんだが君にはそのモデルになって欲しいんだ。勿論最初は配達の仕事だけで慣れたらモデルとして撮影させてもらう、君がその気であれば直ぐに雇用したい」

 

まさかの勧誘。

ふざけんな誰が仕事なんてするかってーの、名刺返すわ。

つーか蚊がうぜえ…さっきから俺の顔の周りを飛び回ってんじゃねーよ。

おっさんが顔つき変わった。

やべぇ、名刺をその場で即行返したのはあまりにも失礼だったかな。

ちょっと今日の所は退散…と。

 

「ま、待て!いくらだ、いくら欲しい?」

 

はぁ?お前の会社そこまで人手不足なのかよ!?

それもモデルって………俺が無免許なのバレるわ!

つーか俺はニート生活満喫したいんだよ……

ちくしょう、このおっさんいきなり怖い顔しやがって、俺の豆腐メンタルがやべぇよ。

ヘルメット被っててよかった、コレ絶対に目なんか合わせられるか。

にしてもどうやって断ろうか…配達のバイトって時給制だっけ…?

な、なら時給40ユーロ(5千円前後)ぐらいで引いてくれるかな。

俺は指を4本立てた。

 

「っな……いや、分かった、だがちゃんと渡し終えるのを確認するまで払うわけにはいかないぞ」

 

はい!?

お前時給40ユーロで承諾したの!?アホじゃねーの!?

いやそれよりもどうしよう!承諾されちゃったよ!

くっそ、俺のニートライフがぁ!

 

「指定の場所は後日改めて教える、連絡先を教えてくれ」

 

………おふぅ。

こんな怖いおっさんから逃げるとか無理だったんだ!

目を付けられたが最後だったんだ!

俺は項垂れながらメールアドレスをおっさんの名刺に書いて渡した。

も、もう帰るぅうう!

俺は泣きべそかきながらバイクを走らせて帰宅した。

3日後にメール来ていてテンションが下がりまくった。

受け取り場所…これは多分あのおっさんの会社かな、受け渡し場所…相手の会社か、なるほど。

若干遠いけどまあ数時間で終わりそうだな。

早く終わらせて家帰って休もうか。

当日に俺は指定された場所に行ってみると、黒スーツ着たいかにも怪しい男が立っていた。

ひぇっ、怖い、なにあれ怖い。

目が合った、死にたい。

 

「例のもんだ、指示通りの場所へ」

 

小さな箱渡された。

取り合えずこれを指定の場所に送り届ければいいのね。

にしてももうちょっと社員の人相は選んだ方がいいと思う。

箱をシートの下のトラックに収納した俺はバイクを走らせた。

指定場所は検索してめっちゃ確認したから大丈夫だとは思うけど。

た、多分この道を右だったかな…あれ、もう一個奥だったかも。

わばばばば、何だか山道に入っちゃった…これ完全に道間違えたわ。

取り合えず出れそうな場所見つけて……んー、凸凹な道が多いな。

荷物大丈夫だろうか…すげぇがったんがったん言ってるけど。

うげ、吊り橋…すごいボロいし、何だか看板にも崩壊注意って書かれてる。

でもまたUターンするのも嫌だし…突っ切るか。

ひょえ、ギシリって音鳴った!

これ絶対壊れるわ、やっべ早く突っ切ろう。

吊り橋渡り切ったら、後ろでベキバキって鳴り始めて吊り橋が落ちた。

もう一度言う、落ちた。

ひぃぃいいいい、セェェェェェェフ!

またバイクの下敷きになるところだったぜ。

結構走らせてるけど全く出口も分かれ道も見えねー。

あ、分かれ道!多分あれ左行ったら出れそうな気がする。

出れた!しかも目的地前!やったね!

目的地は港の倉庫街だった。

えーと、3番倉庫…3番倉庫…あ、あの人かな。

おいおい顔面にでっかい傷とかあるんですけど怖いんですけど!

マの付く人たちじゃなかろうな!?

 

「おめぇか、指定時間より少し早ぇが、早ぇに越したことはねぇな」

 

この人かな?

周りに誰もいないから多分この人だろうね。

トランクから箱を取り出して男性に渡すと、ちょっと待っとけって言われた、何故に。

箱の中身を確認中らしい。

 

「よし、数は揃ってるな、もういいぞ」

 

帰るか。

再び家に向かってバイクを走らせて帰宅。

所要時間6時間…これで時給40ユーロだろ?えーと…240ユーロ!

おお、お小遣い稼ぎとしては最高だな、ドライブ感覚だし。

翌日、事前に指定した口座に入金したというメールが来たので確認してみた。

……?あれ、俺目が可笑しくなったのかな?

ひーふーみー…ご、5000ユーロ!?

う、嘘だろ、桁間違ってるぞおい!

いやいやいや、だがここで間違ってますよなんて確認とったら金額引かれる。

………黙っておこう、うん。

全ては俺のニート生活の為だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルカッサファミリーside

 

「ボス、少し小耳に入れたい話が」

「何だ」

「どうやら最近、近くの山の中で謎のドライバーが出没するようで」

「それが何だと言うんだ」

「そ、それが…その者のライディングテクニックが逸脱しているとの話を聞きまして、フリーであれば我らの専属運び屋にすることも吝かではないかと…」

「ふむ………なるほど、どれほどの腕前だ」

「は、こちらにその動画を」

 

最初は部下が耳に入れたくだらない話だと思っていたが、動画を見てその考えを撤回した。

崖を物怖じせず降りていく姿や、道なき道を走る姿、中でも衝撃的だったものは峡谷(きょうこく)(また)いだものだ。

この者の技術は素晴らしいの一言では片づけられなかった。

死の隣をまるでドライブ感覚のように走るこの男に興味が沸く。

 

 

「私が直々に声を掛ける」

 

先ほどの動画を見て、私自身がこの男と話をしたいと思ったのだ。

男の出没頻度を考えると運び屋として働いている者ではない。

だがここまでの腕を持つ者がただの一般人として埋もれていたという話も(にわ)かに信じがたかった。

思考を重ねた結果、最初は一般人として接した方が良さそうだという結論に達した。

自社での配達員のモデルとでも言って勧誘するのがいいか。

カルカッサファミリーの表の顔は大企業、就職先としては申し分ないだろう。

ゆっくりとこちら側に引き込めばいいのだ。

数週間後、部下たちには近くに潜ませて私はその男がよくいる場所へと向かう。

数分待機していると、遠くの方からエンジン音が聞こえてくる。

そして段々近づいてくる音を耳で辿り上方を目を凝らして見ると、何かがこちらに落ちてくるではないか。

それがバイクだと理解すると私は焦ってその場から離れた。

空から降って来たバイクは綺麗に着地し、弧を描くように前輪を軸に一周回ると、ドライバーが地面に足を付ける。

私はその一連の動作に目を奪われていた。

魅せられたのだ。

心の奥から湧き立つ興奮を抑え、私はその男に声を掛けた。

 

 

 

「君のライディングテクニックは凄いな」

 

心の底からそう思った。

なんとしてでもこの男を我がファミリーに欲しい!

そう決意した私を見定めているのか沈黙する男はヘルメットを外す気配がない。

ふむ、警戒されているのか?

 

「ああ、怪しい者ではないよ…私はこういうものだ」

 

表の顔としての名刺を渡すと、男は名刺を数秒見つめる。

 

「自社で配達員をメインにしたCMを作るつもりだったんだが君にはそのモデルになって欲しいんだ。勿論最初は配達の仕事だけで慣れたらモデルとして撮影させてもらう、君がその気であれば直ぐに雇用したい」

 

男は私の言葉を聞くと、名刺を返してきた。

何故、と口を開こうとしたその時だった。

男が数か所の方角を見回した。

その方向は部下を潜ませている方角だと分かった私は、この男への警戒を高めた。

距離の離れた場所にいる気配にも気付くだと!?この男一般人ではなかったか!

この男は銃口を向けられると分かっていた上でこの私に名刺を返したのか。

肝の据わっている奴だ。

これはますます我がファミリーに欲しくなった。

 

「ま、待て!いくらだ、いくら欲しい?」

 

帰る仕草を見せた男に私は慌てて引き留める。

ここで逃がしてなるものか。

この男の実力はカルカッサファミリーの勢力を拡大するには必要だ。

そう思うほど、私はこの男に魅せられたのだ。

男は右手の親指を曲げ、指を4本立てた。

 

「っな…」

 

400…いや4000ユーロか、なるほど……自身は安くないということか。

 

「いや、分かった、だがちゃんと渡し終えるのを確認するまで払うわけにはいかないぞ」

 

だから貴様の実力を私に見せつけてみろ、と暗に告げた。

私の期待以上の働きをするのなら金額の上乗せも(やぶさ)かではない。

 

「指定の場所は後日改めて教える、連絡先を教えてくれ」

 

私は名刺とペンを彼に渡すと、彼はスラスラと書き終えて差し出してくる。

ふむ、メールアドレスか。

その後何も言わずに男はその場を去った。

 

「ああ、名を聞くのを忘れていたな………」

 

遠くなるエンジン音を聞きながら、名前を聞き忘れていたことに気付く。

顔はおろか声すらも聞くことが出来なかったな。

それほど警戒しているのか。

私は口角を上げてその場を去った。

 

数日後、あの男の指定した連絡先へ仕事内容を送るよう部下に命令する。

 

「仕事内容はどうされますか?」

「××ファミリーとの取引がある、例のものを運ばせろ」

「あれを運ばせるんですか!?そのまま姿を消したらどうするんすか…」

「その時は奴ごと見つけ出して殺せばいいさ」

 

アレは、あの過激でマッドサイエンティストなエストラーネオファミリーでさえも喉から手が出るほどの薬品、恐らく奴等は何かしらの手段を用いて取引を妨害するつもりだ。

ここであの男の実力を図るのもまた一興。

ブツに発信機を付けて、あの男に渡す。

そして衛星にハッキングして上空からも動向を探った。

男がブツをシートのトランクに入れてバイクを走らせた。

私が男の動向を見ていると、部下から連絡があった。

 

『どうやらエストラーネオファミリーが待ち伏せをしているようです、どうしますか』

「ブツを奪われると判断した時点で運び屋諸共爆撃して殺せ」

『了解しました』

 

やはり来たか、やつらめ。

エストラーネオファミリーが待ち伏せしているであろう場所を通るというとこで男はいきなり右に曲がり出した。

 

「待ち伏せに気付いていただと!?」

 

私は思わず声を上げて食い付くように画面を凝視する。

男はどんどん山道に入り、エストラーネオファミリーの追跡を振り切った。

障害を避け道とも言えぬ道をバイクで駆ける姿はまさにプロの運び屋。

ああ、期待以上ではないか!

数時間後、男は取引場所である倉庫街に着き、ブツを渡してその場を去っていった。

思いもよらぬ掘り出し物をした気分になり、元々の料金である4000ユーロに1000ユーロを追加して、指定の銀行に振り込んだ。

それと同時に男の個人情報を探らせていた部下が報告してきた。

 

「ボス、あの男に関してですが…その、個人情報という情報が何もかもなくて」

「何だと?」

「唯一割り出せたのは、あの男の名前のみです」

「彼の名前は何という」

「……スカルです」

 

 

スカル…スカルか。

 

「運び屋スカル…聞いたことあるか?」

「いえ、ありません」

「あの技量、1~2年で身に付くものではない…スカルという男は謎に包まれているな」

「どうしましょうか」

「まぁいい、他のファミリーに取られる前に我がファミリーに引き込むぞ!」

「はい!」

 

 

 

あの男はカルカッサファミリーを強大にするにはもってこいの男だ。

何よりも私に魅せつけた実力は、他のファミリーへの抑止にもなりそうだ。

 

 

「運び屋……スカル…」

 

 

 

その後、運び屋スカルをカルカッサファミリーの専属運び屋として雇うまでに半年という月日と労力を費やすことになるとはこの時の私は思いもしなかったのだ。

 

 

 

 

 

 




無自覚で罪を重ねまくるスカル君と恐怖するその周りのお話かもしれない。

5000ユーロ≒65万円


なんとなく浮かんだネタを投下。
現在エタ率40%…。
多忙な毎日が半年くらい続く為不定期更新だが、一応2週間に1回は更新したい。



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