Fate/Imaginary Boundary【日本史fateホロウ】   作:たたこ

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昼③ レッツゴー春日園その2

 温浴ゾーンにある風呂は、日本庭園にかこまれた天然温泉露天風呂、室内の天然温泉、天然温泉寝浴、ミクロな泡を出しているミクロバイブラ浴、炭酸泉。

 それに加えてフィンランド式サウナ(石を加熱し、その石に水をかけて熱気を室内に循環させるサウナ)、テルマリウムサウナ(古代ローマの蒸気浴。あまり温度が高くないサウナ)、またバーデゾーンにはスチームサウナがある。

 

 だがやはり温泉といえば露天風呂。すべての風呂を回る気はあるが、体を洗ったらとりあえず露天風呂だろうという気持ちは全会一致だったようで、一成・氷空・桜田・ヤマトタケル・ランサーは晴天の下露天風呂に浸かっていた。

 日本庭園に面した風呂は夏の緑も目にまぶしいほどに鮮やかで、いつもはぬるいと感じる風も濡れたからだには涼しく感じて心地よい。湯の色は透明だがうっすら茶色く、ナトリウムとか鉄イオンが溶けているとかなんとか。

 人の入りも多くはなく快適に、一成一行は温泉を楽しんでいるのだが。

 

「……クソ……薄々察してはいたけど負けた気分だ……」

「どうした陰陽師。もう逆上せたか」

 

 縁の岩に寄りかかり、頭にタオルを載せて風呂を満喫する本多忠勝と、その隣のヤマトタケル。日常服の上からでも承知してはいたのだが、この二人、それはそれは見事な肉体をお持ちであった。

 二人とも身長百八十センチ以上の長身に加え、鍛え抜かれた鋼の肉体の持ち主で腹筋バッキバキなんて常識の風貌である。おまけにヤマトタケルは目つきの鋭い精悍さのある男前で、本多忠勝は余裕と年季を備えた貫録を持つ益荒男の佇まい。

 自分が堕落した肉体を持っているとは思っていないし、比べる相手がまずすぎるのは承知していても、悔しさを禁じ得ない一成だった。

 

「……そしてちんこもでけえ……」

「? 大きい即ち急所の面積が増えるということだから、小さいほうがいいだろう」

「応とも。いざという時に大きくなればいいだけだぞ」

 

 慰めて……はいないな。多分このサーヴァントたちは素だ。

 そんな一成の肩を、両脇の氷空と桜田が生暖かい笑みで叩いた。

 

「なんだその生暖かい笑みは!」

「一成、お前の良さは俺がちゃんとわかってる」

「一成氏、お前はアホだが決して悪い奴じゃない」

「なあそれなんの慰めにもなってねえからな! っていうか慰められることなんかなんもねえ!!」

「しかししばらくぶりだな、温泉は。ここは春日駅からかなり南に位置しているから儂も知らなかった」

 

 大きく息を吐き出しながら上機嫌にランサーは言った。一成はもう二年以上春日に暮らしているから知っていたが、ここの存在は市外に住む桜田や氷空も知らなかった。

 

「一緒に風呂に入るとか修学旅行でしかしないからな。一成の家に泊まることはあったけど」

 

 一成の一人暮らしをいいことに学友が泊りに来るのはよくあることだ。だが風呂は当然一人用なので、一緒に入るなんてことはない。

 

「土御門、修学旅行とは何だ」

「……学生が教育とか、学校行事の一環でどこかに宿泊して……歴史的な建物とか見学して勉強することだよ」

 

 気持ち的には友達と学校行事の大義名分で旅行だヒャッホーだが、一応こういう名目だったような気がする修学旅行。

 桜田が修学旅行を知らないとは変わった人だな、と顔に書いていた。

 

「そうだヤマトタケル。後でサウナに行こうではないか。サウナはやたら暑くて灼熱地獄で、より長く居続けられた者を勝者とするものらしいぞ」

 

 なんだその偏ったサウナ観は。

 言われてみればサウナって何のために入るものかと聞かれると一成も返答には詰まってしまうのだが、ランサーが言っているのは確実に違う。

 

「なるほど。その勝負受けてたとう」

 

 面倒だからあえて突っ込むことはしない。サーヴァントだしぶっ倒れることもなさそうだし、好きなだけ汗を流していればいいだろう。

 

 湯船には屋根がかかっているので直射日光は当たらず快適な中、夏の気候を楽しめる。これほどゆったりとした夏休みの一日も悪くない。

 大きく息をついてそして深く息を吸い込んで「キリエたんの水着が見たい」

 

「欲望ダダ漏れかよ!」

「フン……ならお前は見たくないというのか! キリエたんの水着を!」

 

 一点の曇りもない目で強く見据えてくる氷空満十八歳。そう真っ直ぐ、真剣に正されて「見たくない!」と虚言を述べることは、一成にも躊躇われた。

 

 キリエの水着。一番に思いついたのはオーソドックスな紺色のスクール水着。「三年二組 きりえ」と刺繍された手作り感ありありのワッペン。プールで泳いで色の濃くなる水着、お尻にへの食い込み……。

 

 欲望に真っ直ぐな氷空に触発されてか、桜田も視線を宙に彷徨わせて呟いた。

 

「俺はやっぱ碓氷さん気になる……。いやあ美人だし、絶対スタイルいいよなあ」

 

 明の水着。露出を好む質ではないから、ビキニにあの……下半身にひらひらした布を巻いている……パレオ? の感じだろうか。しかし何に替えても圧巻なのは色白の身体に、ふくよかな胸部装甲……ああ挟まれたい。色んなものを。

 

「幼女ではないがアルトリアさんは美人だな。きっと清楚な水着がお似合いだろう」

 

 アルトリアの水着。氷空の言う通り、白のビキニが眩しく似合いそうだ。リボンがあしらわれているようなものも似合うだろう。選定の剣を抜いたことで女性としての成長を留めた、もどかしくも芽吹く若葉のような健康的な曲線。

 

「あとそうそう……真凍さん? 一成お前どういう知り合いなんだよ。……まあ、それはともかく、あの子も楽しみだなあ。ワンピースタイプとか似合いそう」

 

 咲の水着。彼女の性格上、ませた水着でも可笑しくないが変に露出度を上げることは考えにくい……ビキニに下はズボンタイプ、さらに上にキャミソールみたいなものがついたさわやかな水着だろう。

 細い手足や薄い腹を見ていたら、何じろじろみているのかと怒られそうだがあえて怒られたい。

 

「あと榊原なあ……あいつ、案外……」

 

 高校にて体育は男女別なので、夏季プール授業があるものの、一成たちは理子の水着を拝んだことはない。

 理子の水着。折り目正しい彼女のことだ、流石にスクール水着ということはなかろうが、ヒラッとしたワンピースっぽい水着ではないだろうか。くそう、こういう時くらい「実はスタイルがいいのでは」とうわさされている体を晒してくれてもいいのではないか。畜生。

 

 ぼうっとまだ見ぬ水着に想いを馳せるDK(男子高校生)三人組を見ていたヤマトタケルが、その時いきなり立ち上がった。

 

「では水着を見に行くか」

「躊躇いがねえ!!」

「ここが温泉施設なら、明たちも風呂に入りにきていることだろう。見たいのならば一刻も早くばーでぞーんに行くべきだ」

 

 顔色が一ミリも変わらないあたり、流石である。次いでランサーもそうだと笑う。

 

「よいのではないか? 咲の水着はなかなかかわいらしかった」

「えっ本多さんもう見たんですか!?」

 

 前提がひっくり返るようなことを言い出したランサーに、桜田が目を剥いた。

 

「駅前で買ってきたらしくてな。着替えて似合うかと聞かれた」

「明とアルトリアは家で試着をしていたから見たな」

 

 またしても果てしなく負けた気分となる一成だった。もうこうなったら恥も外聞もなく水着を見に行くしかない。

 一成、氷空、桜田もヤマトタケルに引き続き勢いよく露天風呂から立ち上がったが……「ハァ、まったく人の情緒のない事よ」

 

 聞きなれた低い声、いつの間にか露天風呂に浸かっていた平安貴族――藤原道長が頭にタオルを乗せて腕を組んでいた。

 

「!? おまっ、いつからいたんだ!?」アーチャークラスに気配遮断はないはずだ。

「まだまだ甘いのう」

 

 だがアーチャーの言葉にひっかかっていたのか一成ではなく、ヤマトタケルだった。

 

「水着を見たい……いや、女を見たいことの何の情緒がないのか」

 

「美しい女人を見ることを情緒がないと言うておるのではない。それに至るまでの過程をもっと楽しまないことを惜しい、と思うのじゃ」

 

 文句ありげなヤマトタケルを鼻で笑い、アーチャーは続ける。

 

「実物を見る前に、もっとこんなだろうなあ、あんなだろうなと妄想を肥え太らせて……現代風に言えばリビドーを高めてからするべきなのじゃ。よって先ほど一成たちが繰り広げていたしょうもないだが捨て置けぬ益体もない妄想を、ヤマトタケル、そなたももっと楽しむべきなのじゃ」

 

 結果として乗り込むことにはかわらないじゃねえか、と一成は心の中で突っ込んだ。アーチャーの生きた平安時代の恋は噂と文通からで、気になった女性の家に向かい垣間見――下世話に言えば覗きで女性の様子をうかがったとか。

 屋敷の侍女と顔見知りになって姫まで手紙を届けてもらったり、手引きしてもらったりして結婚にこぎつけるらしい。

 

 アーチャーは大仰に息を吐くと、彼もまた勢いよく立ち上がり、タオルで汗をぬぐった。

 

「ま、それはいいとして――行くか、バーデゾーンへ」

「なあお前今の薀蓄なんだったの!?」

「ちょっと言いたかっただけじゃ」

 

 ヤマトタケルは不服そうな顔をしていたが、この場にいる男たちの心は一つ。いざ立ち上がり、水着を装備してバーデ(水着)ゾーンへ!

 

 決してやましいこと考えているわけではない――そう、健康増進のためにバーデゾーンに行こうとしているだけなのだ。

 バーデゾーンと温浴ゾーンを隔てる扉の前で、一成は深呼吸をした。そして手を取ってにかける。

 

「おい陰陽師、右手と右足が一緒に出てるぞ」

「というか一成氏早く行ってくれ。お前が先頭なんだが」

「う、うるせえ! いま行こうとしてたんだよ!」

 

 水着に着替えた男子一行――アーチャーはどこで買ったのか、青色のボーダー模様で、上下が繋がった囚人服のようなある水着を着用していた。

 一成は期せずしてお揃いのボーダーのハーフパンツ、氷空は黒一色のハーフパンツ、桜田はなぜか青のビキニパンツ、ヤマトタケルとランサーは本気の競泳用らしいハーフ丈スイムパンツだった。

 

 ……しかし、女用水着に引き換え男用水着の華やかさのないこと。

 

 それはさておき、一成はやっと水着エリアへの扉を開いた。

 

 ……水着着用・男女共用のバーデゾーンはプールとは少し違う。

 あくまでリラックスしながら健康になるというコンセプトの元、ネックシャワーや水流で凝りをほぐしたり、インストラクターの元アクアプログラムを行い、健康増進を目指すものである。

 

 しかし男女別の温浴エリアから水着に着替えてバーデゾーンへと足を踏み入れると、そこはおしゃれな室内プールそのものである。

 全体としてはドーム型の空間に、大きな円形のプールが広がっている。プールの縁ではぼこぼこと泡が上がっていて、人工的に水流が発生していることがわかる。そしてプールの中央、クリスタルタブと呼ばれる円形の真ん中には大きな水晶石が置いてある。

 壁は半面ガラス張りで、外の瑞々しい緑の庭園の様子が鮮やかにうかがえる。外に面した扉から外に出ることもでき、屋外にはジャグジーや男女共用フィンランドサウナが建っているそうだ。

 

 というわけで、清水の舞台から飛び降りる気持ちでバーデゾーンへと足を踏み入れた一成だったが、結果として女性陣はいなかった。

 否、他の客の――カップルで来ている二人組の彼女等、女性自体はいるのだ。

 

「は~~~緊張した……」

 

 一成は大仰に溜息をつくと、その場に坐り込んだ。その様子を見て、桜田は笑っていた。

 

「ときどき思うけど、お前ってアホだよな」

「うっせえブーメランパンツ。なんでお前それなんだよ」

「学校の授業で使ってるのはいやだなと思ったけど、それ以外に履けるのがこれしかなかったんだよ」

 

 何故よりにもよってあるのが赤いビキニパンツなのかは謎である。

 まあ、水着女性陣はまだ来ていなかったことだし、精々アクアマッサージでも楽しむとするかと、一成が腰を上げた時だった。

 

「あ、一成」

「ハァイ!?」

 

 ――扉を開いた先にあるだろうと期待した姿はなかったが、その声が左手側から――外に面した扉から、バーデゾーンに戻ってきた女性が、そこにいた。

 

 ぺたぺたと当然裸足で歩いてくるのは、碓氷明――紺色を基調とした大きな花柄のビキニで、下はホットパンツ風になっている。

 

「外のジャグジーに入ってきたんだ。一成たちは今ここに来たの?」

「お、おう」

 

 ……自分の妄想もなかなかのクオリティだったが、本人の破壊力たるや。いつもは隠れている二つの大きな胸元の塊、その谷間。

 しかもジャグジーに浸かってきたというわけで、お湯に濡れて滴っている。胸から降りてくびれのあるウェスト、薄く脂肪の乗った下腹、白い太腿、いやちょっと刺激が強い。

 

「……ありがとうございました……」

「? 何のお礼……「アキラ、ワンピースを忘れています!」

 

 明に続き、外からバーデゾーンに戻ってきたのは金髪の少女・アルトリアだった。彼女に相応しく太腿上丈の白いワンピース風の水着だが、明に対し向き直った――一成は自分に対して彼女が横を向いた時に気づいたが、背中がちょっと開いている造りになっていて実に眩しい。

 アルトリアが小わきに抱えている同じ柄の布は、おそらく明のビキニに付属するワンピースで水着の上から着るものだった。

 

「キ、キリエたんはっ!?」

 

 一足先にプールに入っていた氷空が明の姿を確認するなり脱出してきて、何故か足元に這ってきた。明はぎょっとしながらも、その不可解な呼び名を繰り返した。

 

「キリエたん?」

「い、いやこいつのことは気にするな。ロリコンで精神に障害があるんだ」

「俺は精神疾患をわずらっていないし、そもそもロリコンでもない! ロリコン……正確にはペドフィリアと判断されるのは十三歳以下の児童と性行為を行う者、または複数の児童との性的妄想のし過ぎによって著しい苦痛や障害を有する者のことだ! 俺は少女にも他人にも迷惑をかけない、単なる少女趣味の少女崇拝者なのだ! 碓氷女史、誤解をしないでいただきたい!」

 

 明はほぼ初対面にも拘わらず、生温い笑みを一成とその学友に向けた。

 

「うん、ヤバさは伝わった」

「こんな奴だが罪は犯さないんだ。それは本当だ」

「一成の友達だし、仮性のヤバさだとは思ってる。……あ、キリエたち来たよ」

 

 明の声と共に、扉の方に眼をやればその通り――キリエ、理子、咲の三人が連れ立ってバーデゾーンに入ってきた。後ろの桜田が息を呑む声が聞こえた。

 

 その気持ちは一成にもよく納得できてしまった――まずは、キリエ。

 

「カズナリ! 私、サウナで五分耐えたわ! プール!」

 

 流石にスクール水着ではなかった――だが、スクールだった。セーラー服をモチーフにした、白のひらひらしたスカートに紺色の襟、胸元にはリボンが輝く、品の良い女学生のような水着だった。

 サウナを楽しんでいた彼女の頬はピンク色に染まり、非常に愛らしい。

 

「キッ、キリエた……俺は何故、カメラを持っていない……ッ!!」

 

 風呂場でカメラなんて持っていたら逃れようもなく事案なので、持っていなくて正しい。

 氷空は床を這いずりながらキリエに接近する不審者で、もはやキリエしか目に入っていないようだったが、続く女性陣の水着も素晴らしい。

 

「耐えたんじゃなくて限界を迎えた、って感じでしたけど」

 

 相変わらず涼しい顔の咲は、ビキニタイプの水着。ジーンズ生地風のホットパンツのようなパンツに、同色で少しフリルのついたブラ。

 彼女らしいませた雰囲気を漂わせながらも、決して下品にはならない――加えていつもは結っている髪の毛が解かれ、濡れて肩にかかっている様も大人っぽい。

 

「キリエ、走ると危ないわ!」

 

 そして最後に扉を閉めていた理子――なんとこっちがスクール水着ではないか。

 色は勿論黒に近い紺色、そしてセパレートタイプのため、下はぴっちりした半ズボン風である。彼女らしいといえば実に彼女らしいのだが、一成としては若干拍子抜けの感を免れない。

 いや、これはこれで彼女の通常のプール授業風景を想像できて楽しくはあるが。

 

 勢いよくプールにダイブしたキリエが立てる水音を聞きながら、一成は理子に近付いた。

 

「お前、それ学校の水着だろ。他に持ってねえの?」

「温泉施設にスクール水着を着ちゃいけないってことはないでしょう。それに友達とプールなんかに行くことなかったから持ってないの」

 

 理子は夏休みの間、ほとんどの期間を実家に帰省して過ごしている。その間は実家の神社の手伝いをするなり、魔術の研鑽を行うなど忙しくしているため、地元の友人とも滅多に遊びに行かないと彼女は言った。

 

「でもお前、今年は結構春日にいるよな」

「そうね。高校も今年が最後だから、お父様に頼んだの。最後の年くらい春日で楽しみたいって」

「そうか。でもプールなら春日の外には室内レジャーとかもあるし、そこに行くために買うとかでもよかったんじゃないか」

「え? あんたと?」

「べ、べつに俺じゃなくてもいいだろ。お前結構友達居るんだからよ」

 

 その時、何故か理子は虚をつかれたように目を丸くしたが、すぐさま笑った。「受験が終わって、春休みの間とかに行くのもいいわね」

 

 一成と理子も遅れてプールの中に入り、温泉よりも温いお湯に体を浸した。アルトリアとキリエは四種類八段階の水流が設置された縁に立ち、背中を水流でマッサージして楽しんでいる。

 咲とランサー、アーチャーは中央のクリスタルタブで石に触れながら温泉に浸かっている感じで、桜田はなぜかカメラを捜し続ける氷空を引っ張りフローティング――下から出る水流で体を浮かせ、マッサージを行う箇所で遊んでいた。

 

 なんとなく人々を眺めていた一成と理子だったが、丁度明とセイバーが歩行浴中に通りかかった。

 二人はダラダラ話をしながら、脂肪燃焼でもしているのだろうか。

 

「時に明、俺には気になっていることがあるのだが」

「何?」

「女物の下着と水着は覆っている面積は同じなのに、何故水着を見られることは恥ずかしがらないのか」

 

 ……言われてみれば、まあ、確かに。

 一成も女性の水着姿はありがたく拝むが、下着のそれを見るのはありがたさだけでなく、背徳感というかいけないことをしているようなことをしている気分になる。

 

「……き、気分かな」

「気分」

「ほら、水着は人に見られること前提で買って着てるから恥ずかしくはないけど、下着は見せるつもりで着てないから……」

「しかし見せないのであれば、下着は上質なものを使う意味はあっても、ヒラヒラであったり、色とりどりである必要はないのではないか」

「う、う~ん、確かに人には見せないけど、自分は見るから。あんまりボロいのつけてるとテンション下がると言うか、自分のためにも多少は綺麗な方がいいというか」

「……あと人に見せなくても、今みたいに……着替えで同性には見られるので」

 

 最後には理子も一言を付け加え、ヤマトタケルはそんなものかと頷いていた。一成としては少々気まずい話ではあるが、しっかり聞いていた。

 

「そういやお前ら、結構早くここ……バーデゾーンに来たのか?」

 

 一成たち男性陣がここに現れた時、明たち女性陣は男女共有エリアである外のフィンランドサウナにいたようだ。

 一成たちは男性温浴エリアの温泉を楽しんでから来たので、彼女たちは露天風呂を後回しにしたのかもしれない。

 

「そうよ。バーデのプールって温度が低いから、温泉で温まるのは最後でいいなってなったのよ」

「なるほどな」

「あばばばばばば!!」

「キ、キリエ!!大丈夫ですか!?」

 

 手すりから手を放したらしいキリエが泡の中へと沈没していったが、傍のアルトリアが助けて事なきを得ていた。

 

 

 

 

 

「温いのぉ~~」

 

 至極当然のことを言うアーチャー、それにランサーが円状の椅子に腰を掛けてくつろいでいた。先は二人とは少し間を置いて座っている。

 中央に鎮座したクリスタルは中央にランプが置かれているのか、内側からぼんやりと光りを放っている。

 

「咲、サウナとやらはどうだった?」

「暑かった。何、ランサーは興味あるの?」

 

 正直、咲のサウナイメージはオッサンが我慢大会を繰り広げるイメージしかない。あとダイエットにも効果的、とか。

 

「うむ、話には聞いたことがあるからな。思いっきり汗をかいて水風呂に浸かる……めくるめく恍惚体験だと。それに後でヤマトタケルで耐久勝負もするつもりだ」

「サウナの方式は私もなじみ深いのだ。平安の風呂は蒸し風呂ゆえな……懐かしい、

 あとで堪能するとしよう」

 

 サウナに想いを馳せるオッサンサーヴァントたちをよくわからないと言いたげに半眼で見る咲のところへ、キリエを引き連れたアルトリアがやってきた。

 

「ハァ……強かったわ、ボディマッサージ水流……」

「あれはキリエの使い方が可笑しかっただけでは?」

 

 何故か息を切らしながらやってきたキリエは、髪の毛を頭の上で結い直して咲の近くに坐った。「サキもボディマッサージ水流を楽しんでくるといいわ」

「……後でやるわ」

 

 咲もフローティングやボディマッサージ水流を避けているわけではなく、使っている人間がいるから後で回ろうと思っていた。

 しかしその時、咲はランサーが自分を見つめていることに気づいた。

 

「……? ランサー、どうしたの」

「うむ。キリエを見て、いや前から思ってもいたのだが、咲。お前もキリエのようにもっとハシャいでもいいのではないか?」

「……は?」

「いや、な。親も家にいない身で、魔術の跡継ぎとして大人びた振る舞いを身に着けているのはよいのだが。この時代ではお前はまだ子供の範疇であろう」

「そうよサキ、私は三十二だけれどいつまでも童心を喪わないわ。このアルトリアだって外のジャグジー風呂に入った時は「ひぃあ!」とか「ひょえ!」とか言ってテンパってたのだから、サキも奇声を上げるといいわ」

「キリエ! ……そもそも、奇声を上げようという話ではなかったはずです」

 

 ちょっと顔を赤らめたアルトリアはキリエを抑え、咳払いをした。しかし咲としてはそういわれても、はしゃぐようなことがないからはしゃいでいないだけで、クールを気取っていたりお高くとまっていたりする気持ちはない。

 

「ハシャぎたくなる時が来たら私だってはしゃぎますけど」

「ふむう、そうか……。無理にはしゃげというのも違うしな。……さて、儂はそろそろサウナに足を運ぶとするか」

「私も行こう」

 

 ランサーとアーチャーはゆっくりと立ちあがり、のっしのしとバーデプールを上がった。「おーいヤマトタケル、儂らはサウナに行くが一緒にどうだ」

 フロアから掛けられた声に、ヤマトタケルははたと顔を上げた。「受けてたとう」

 

 咲と同じような認識――サウナは我慢大会――を懐いているヤマトタケルは、不敵な笑みを浮かべると、明に一言告げてランサーとアーチャーの後に続いた。


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