Fate/Imaginary Boundary【日本史fateホロウ】   作:たたこ

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昼⑥ 六代目と七代目4

 影景の妖精眼(グラムサイト)は本当に厄介だが、それに拍車をかけているのは、妖精眼の力が父の魔術に非常にマッチしたものであることだ。

 一度目は絶対負ける、しかし二度目はもう知っている。影景は解析見稽古とわけのわからない名前をつけていたその特性。碓氷の魔術特性「分解」から「分析」に通じ「解析」し「再構成」へと至った魔術師。

 

 ――付き合いは己が生れた時から。己の力を知悉されていても、先手を取るにしくはなし――明は地を蹴り、どこからともなく空中からなんと拳銃を取り出して真っ直ぐ影景に向かって打ち放った。

 

 急所は外し大腿部を狙って、近代の鉄の武器は轟音と硝煙の匂いを吐き散らした。影景は強化した足の速さで、済んでのところで直撃をかわした。

 明は引き続き銃にて連射をし、弾が尽きると走り――またどこからともなく拳銃を引き抜き、間髪入れず撃ち込む。

 

 虚数空間を生かした次元ポケット――昼間にも明は公園へと足を運び、複数の拳銃やら武器をポケットに収納していた。もちろんそれは目に見えず、明が意図的に術を緩めない限りは虚数使いにしかアクセスできない秘密の隠し場所である。

 

「……っ!」

「その手段の選ばなさは悪くない! だが、単に現代兵器を用いるなら魔術による防御を突破する破壊力を持つ兵器を選ばねば意味がないぞ」

 

 ナイフのように魔力を帯びたものは影景に操作されるかもしれない。ならばいっそ魔力を帯びていないモノで攻撃する。世には魔術師専門の殺し屋もおり、彼らは魔術を使うこともあれば現代兵器を用いることもある。

 魔術師も現代兵器に対し無防備のままでいてはいけないとのことで、影景と明は互いに現代兵器の使用を許可している。影景は無理に銃弾を避けようとはせず――防弾繊維を織り込んだスーツに、ルーンで強化を加えた手足で受けても走る。

 

 明とてもっと強力な現代兵器を手に入れたくはあったが、ここは日本であり銃を秘密裏に手に入れるのは色々と手間であるのと同時に、これは魔術の成果を見せることが主眼である。あくまで現代兵器は補助であるというに認識で、明は行動している。

 

 走りながら、明は銃弾を放つ。少なくともそれを防いでいる間、影景は防御に意識を割かれるために魔術を仕掛けては来ない。移動しながらも二人の距離は変わらず、およそ三十メートルを置いて対峙。明は最後の弾を放った後、静かに手を振った。

 

Syvä pimeys,kjøt i kjøt(闇は深い。骨は骨へ)――」

 

 その瞬間、影景を囲う四方八方から――何もない箇所から一斉にガンドが打ち放たれたのだ。その数、およそ二十以上。いつも打つようなガンドではなく、フィンの一撃――明流ではフィンの大砲と呼んでいる、心臓をも止める一撃が二十以上、同時に放たれる。

 

「……!」

 

 要領は先ほど、ナイフを虚数空間に飛ばしたのと同じだ。放ったガンドを虚数ポケットに放り込み、それを今一斉にポケットから解放しただけ。ナイフと異なるのは、ガンドを準備したのは拳銃と同様に今日の昼間であることだ。

 

 自分で影景を追うことと、同時に現代兵器を放つことによって、昼間セッティングしたガンドの集中発射を命中させられる場所へと誘導する――それが今。いつも連射しているガンドとは込めた魔力量も桁違いの一撃二十撃は、彼の眼をしても全ては操りきれるものではない筈!

 

 小型ミサイルが撃ち込まれたような衝撃に地面は震え、上がる轟音、舞い起こる土煙。ちょっとしたクレーターを作るほどの連撃の間も、明は目を凝らして奥を見つめた。少しは効いたに違いなかろうが、最悪父はトランクを開けて回避はするだろうし、悪くすればこの罠を承知で飛び込んだ可能性も――。

 

avoin(解放)……Varjokilpi(影は盾)

 

 思考は途切れた。土煙を食い破り飛来するガンド――おまけにアンザスのルーンを通しているらしく、まるで襲い来る鬼火(ウィルオウイスプ)だった。明は影による盾を展開し連撃を防いだが、冷や汗を流していた。

 影景はトランクを開いたのか、フィンの大砲群はあまり効いていないのか。

 しかし明が深く考察する暇はない――先鋒のガンドが過ぎ去ったのちに、影景本体が突進してきたのだ。しかも引き続き炎のガンドを撃ちながら。

 

 影景は普通にガンドを打つこともできるが、腕や指を対象に向けずとも撃つことができる。魔眼の回路を動員し、眼からガンドを撃つのだ。

 本来のガンドは「指さした相手の体調を悪くする」北欧の呪いであるため、威力は指なり腕なりを出した方があるようだが。

 

 まずい。明は影景がこの試合を終わらせる意図を感じた――明がイマジナリ・ドライブを使わない限り。

 

「そろそろお前なら、俺を殺せると思うのだが――複写開始(COPY ON)

 

 詠唱とともに再び、中天には光り輝く黒いナイフの数、数、数。一振り一振りが月明かりに煌めいて、先ほど見た尖刃が空に広がっている。

 しかも影景は炎のガンドを引き続き連射し続けて、しかも無理に明に当てようとはしていなかった。見当違いの方向に飛んで行ったガンドは野原に着弾し燃え広がっていく。通常の炎と異なる魔術の焔は、燃焼物がなくともしばらくは燃え続ける。

 

 迫る影景、空の浮か針山の如きナイフたち。影景に直に接触されるのが一番まずい。明は急いて詠唱をこなし、虚数空間を通る空間転移を行使しようとする。

 

「――ッ 「Maailma olisi mitään,(世界は無となり)、」

「――解析完了(I have analyzed)詠唱強制介入(spell forced interference)

 

 魔術を行使する時に、集中していないことはない。ぼんやりした意識で使っていては回路を廻す効率も下がり、下手をすれば失敗する。だが常日頃魔術を使用している者にとっては、集中していても集中の度合いが違ってくることはある。

 通常、そして戦闘時にその度合いは影響しないといっていいが、こと碓氷影景相手に限っては良くない。

 勿論明としては気を払っているのではあるが――燃え広がる魔術の炎がスカートに燃え移った時、明の魔術は形を成さなくなった。

 

「……ッ!」

 

 人の魔術回路への強制介入。電気を流している回路(サーキット)に水を垂らすような行為。全身に走る痛みに、明の詠唱は途切れた。

 身を守る影を発動できなくなった彼女は、千刃とガンドに身を晒すほかない。空に広がる、凶悪な煌めきが降り注ぐ――!

 

「……っ……」

 

 魔術の使えない魔術師は一般人にも等しい。回路(神経)の痛みに苛まれながら、明は無理やりに上半身を起こした。熱くもないルーンの炎が野原を覆っている。明に突き刺さった投影のナイフは消えて、血止めにもならなくなった。

 ナイフはすべて影景のコントロール下にあるからだろうが、ナイフは急所を外され、ガンドによって恐ろしく体調は悪化していたものの意識はある。

 

 見上げた先に、碓氷影景が立っていた。彼女が投げ捨てた拳銃を拾い、撃鉄を上げて、あたかも弾が入っているかのように――いや、弾は入っている。

 影景が投影したであろう、銃弾が。

 

「明、俺はイマジナリ・ドライブが見てみたい」

 

 明は暑いような寒いような体を抱え、だろうな、と思考した。

 聖杯戦争の顛末を報告した時に、シグマ・アスガードをどうやって打倒し得たかの話で虚数空間転移とイマジナリ・ドライブを省くことはできなかった。元々あの魔術の原案は影景であるし、協会に詳細が割れれば封印指定へと王手をかけかねない代物である。

 

 けれど、明は使いたくなかった。

 空間転移はともかく、今の自分がイマジナリ・ドライブを使うなど――。

 

 動かない明を見て、影景は重く溜息をついた。あくまでこれは魔術の成長を視るための試合にして指導である。

 そもそも、今このような試合を設けるには理由がある。現在、明は「次期当主」であり「次期管理者」である。魔術刻印は疾うに移植が済んでいるものの、魔術協会や春日教会、周囲にとっての管理者はまだ影景である。

 

 正式に管理者の座を受け渡す条件として、影景が定めたもの。

 それが「影景が死ぬか、明が影景を殺すか、驚かせるか」だった。

 

 影景としてはいつ殺しにかかってこられてもよいそうだが、いきなり殺してしまっては彼がその時かかずらっている時計塔がらみの案件や土地管理の案件が中途半端になってしまい面倒なため、こうして試合を設けて戦っているのだ。

 

 ――元の条件は殺すだった。だが、影景の魔術特性的にそれはかなり難しい、できても時間が必要という判断のもと、最後の「驚かせたら」が追加された。

 

 つまりこの試合、明が影景を殺すことはあっても影景が明を殺すことはない。

 事実明は何度も死ぬような目に合されてきてはいるが、苛烈であっても殺意を感じたことは一度もなかった。ある魔術を使いたがらないからといって殺されることはない。

 使わざるを得ない状況に追い込まれることはいくらでもあったが……。

 

 しかし、今ばかりは――彼女は身の危険を感じた。拳銃を構える影景から感じられるのは、きっと殺意と呼ばれるものだ。聖杯戦争でも何度も感じたもの。

 

「……ッ!」

 

 実の父に殺意を向けられることは、恐ろしくはない。

 恐ろしくはないが――父の意図が読めなかった。影景に明を殺す意味はない。魔術的な意味で、それなりに大事にされている意識はあるから――跡継ぎを殺す意味はない。

 だが明とて殺意の本気か否かくらいはわかる。良くわからないが、死ぬわけにはいかない。明がとにもかくにも距離を、と影で無理に体を動かそうとして同時に引き金にかけられた指が動く。

 

「……何をしている」

 

 耳を劈く発砲音は確かにあり、引き金は引かれた――だが凶弾は、二人の間に割りこんだ何者かによって弾かれて明後日の方向へ飛んで行った。

 

 明の目に映ったのは、高速の移動の為、烈しく靡いた黒髪。

 ふわりと舞ったマキシ丈のスカート。膝まである黒いブーツに、高い背丈。

 右手には、不可視の剣。

 

「……セイバー……!?」

 

 呆気にとられた明は、自分を護るように立つ使い魔(サーヴァント)の姿をまじまじと見た。これだけすぐに割り込んでこられるということは、ずっと近くで見ていたのか。セイバーヤマトタケルは明へ振り向こうとはしなかったが、彼が怒っているのはよくわかった。

 

「……お前、今、殺そうとしたな?」

「……だとしたら?」

 

 答える声が早いか否か。影景はあっさり拳銃を手放したかと思うと、明の眼には捉えられないほどの速度で――後からわかったことだが、回し蹴りを放っていた。

 まさかサーヴァントたる己に反撃すると思っていなかったヤマトタケルは攻勢に出ることこそできなかったが、剣でその蹴りを受け止めようとして――吹き飛びこそしなかったものの、十メートル以上横なぎに押し出された。

 

「……!?」

 我が目を疑ったのはヤマトタケルだ。筋力A相当の自分をこれほど動かすほどの力が、一魔術師にあるとは――しかし考えている間もなく、マスターの父親である男は、またしてもサーヴァントじみた速度で風を切る。右手に握りしめたトランクが雷光の鋭さで振り下ろされるのを剣で受け止める。受け止めた時の衝撃派で空気が震え、芝が一斉に吹き倒れた。

 何故影景が襲い掛かってきたのか、しかもサーヴァント並みの速度と膂力を兼ね備えているのか、ヤマトタケルにはまるで理解ができない。だがしかしこれでもマスターの父親であるがゆえに、傷つけることはできない。

 手に馴染んだハンマーのように扱われるトランクを裁きながら、手加減して胴に一撃打ち込もうと思ったその時――いきなり影景がその場に崩れ落ちた。

 

 全くわけがわからないまま、ヤマトタケルは明に眼をやった。その彼女は、人差し指を自分の父親につきつけて息をついていた。

 

 

 トランクを枕代わりにして、芝生にそのまま横たわる碓氷影景。先程までのハッスルぶりはどこへやら、ああだとかううだとか言葉にならないうめき声をあげている。先程まで影景に対して敵意むき出しだったヤマトタケルも、一体どうしたものかと困っていた。

 自分がやらねば何も進まないと察した明は、自分もガンドを受けた体をさすりながら、まずはヤマトタケルを見た。

 

「……セイバー、来るなって言ったじゃん」

「……それに関しては、その……お前の父のことがどうにも気にかかって……。木の影から見て、終わったらそっと帰るつもりだった」

 

 ヤマトタケルはちらちらと明を見つつ、気まずそうに答える。流石に後ろめたさはあったようだ。

 ヤマトタケルのスキル「偽装」。サーヴァントとしての気配を断つ、気配遮断に近いスキル。ただし彼の場合、女装をした方が成功率が上がる――そのため、多少不恰好ではあるもののヤマトタケルは女装をしていた。明も戦闘に注力しており、彼の気配に気づかなかった。影景も具体的な位置まではわかっていなかっただろう。

 

 ヤマトタケルは、本当に手出しをする気はなかった。事実彼はこれまで沈黙を守っていた。彼とて生前に修行で過酷な事をした経験もあり、怪我を負うことは仕方がないと思ってもいるのだ。

 

「だが、この戦いはあくまで魔術師としての力を見るためのもので、殺し殺されるというものではないものだろう。それなのに、この男は明を本気で殺そうとしていた」

 

 それは明も不思議に思っていた。もしヤマトタケルが割り込んでこなかったら、明は今の一撃を、後々さらに魔術回路が傷つくことを承知で起動させて空間転移を行い、影景を退けるために、イマジナリドライブで――。

 そこで明は、呻く父の顔をみた。

 

「……お父様、全部わざと?」

「ハハッ。失敗に終わったがな……気持ち悪い」

 

 明のガンドを背中から食らった影響で風邪を引いたような体調になっている影景は、それでもいつものように笑っていた。ひとり訳が分かっていないヤマトタケルは二人の顔を交互に見た。

 

「……この手合わせは何回かしてる。真面目に戦うけど、お父様は私を殺すわけにはいかない。だから私がどうしても使えるけど使いたくない魔術があって、でもお父様はそれを見たいとき、本当に無理強いはできない」

「……追いつめることで、見えることもある。俺が本気で殺しにかかれば、明もそれに応じざるを得ないだろう。だが、俺は明を、本当に殺す気はない。殺す気では、あるが殺したくない――まずくなったら、止めてくれる奴が、いると助かるだろう?」

「――!」

 

 影景は最初からヤマトタケルがこっそりと来るであろうことを予測していた。

 むしろ来てほしかったのだ。

 

 だから朝食の時、妙にヤマトタケルの不安を煽るようなことを言いけしかけていたのだ。邪魔をせず、ただ見ているだけなら許されるだろうと。

 もし本当に自分が明を殺しにかかったら、きっと彼ならば止めに入ると、影景は信じていた。

 つまりうっかり自分が明を殺してしまいそうになったときに、止める役としてヤマトタケルを要請した。

 

「……マスターの、有無については、アルトリアより、ヤマトタケルの方が切実だったからな。これは、アルトリアが、マスターを大事に思っていない、ということではなく、生前の在り方に、関する事柄だ。生前、自分自身が主であった者と、主を抱き信用されなかった者の差からくる、こだわりの、違いだな……ただ、予想より早かった。というか、途中から来るかと、思っていたが、最初からいたとはな。さっきの、一撃なら明は避けたであろうし、も~~っと、絶体絶命くらいのところで、止めてほしかった、のだが」

 

 影景はきっと最初からわかっていた。明がイマジナリ・ドライブを使いたがらないことも、それを見るにはギリギリまで――それこそ聖杯戦争のように――追いつめることしかないことも。

 だが殺してしまっては元も子もない、ゆえに頼れるストッパーを欲したのだ。

 

 結局影景の望みは達成できなかったのだが、彼に不満の表情はない。聖杯戦争を経た明の力自体には満足している。

 明はやはり父は父であったと脱力した。ヤマトタケルは意味のなくなった女装を脱ぎ捨て、武装に切り替えて、静かに呟いた。

 

「……もし、俺が来なかったら」

「んー、殺していた、可能性もあるが、今の一撃では死なない。魔術刻印は、術者をどうにかして、生かそうと、するだろうしな。仮に破滅剣(テイルフィング)を装備して、イマジナリドライブを、厭わない、明であれば、俺が、返り討ちに、されるだろう」

 

 ちなみに碓氷の家宝である破滅剣ティルフィングは、聖杯戦争中は明が所持していたものの、終わった後に鍵が影景に返却されているため、明はもう自由には使えない。

 

 前に立つヤマトタケルの右手が、まだ剣を不穏に握りしめられたり緩められたりしているのを見て、明は内心穏やかではなかった。穏やかではないが、彼は影景に何もしないだろうとの確信もあった。

 

「俺は、君――ヤマトタケルなら、きっとここに来ると思っていたよ。明が、心配でならなかっただろうし」

「それなら最初から俺に居合わせてほしいと言えばよかった」

「『明を殺すかもしれないから殺しそうになったら止めてくれ』と、馬鹿正直に頼んだら、そもそも手合わせ自体が、ご破算になるだろう? 君は俺を、殺しはしなくても、懲りるまで、どこかに閉じ込めるとかは、しそうだからな」

 

 どんなに無茶を言われても、日本武尊は父に叛意すら抱かなかった。弑しようなどもってのほか。だから今仕えるマスターの父を殺そうなど、やはり思ってはいない――それでも日本武尊は目の前の男に対し、明らかに反感を持っていた。

 その不穏なサーヴァントの様子もどこ吹く風で、影景は顔色の悪いまま呑気に笑った。セイバーは納得いかない顔つきのまま、追加の問いを投げた。

 

「……一つ答えろ。最後に俺に襲い掛かったのは何故だ」

「ああ、いや……出来心だ」

「はあ?」

 

 真っ青な顔色のまま、にこにこと笑う影景は逆に不気味である。「明から、サーヴァントの話は、聞いていた。サーヴァントなんて現象は、それ自体が一つの奇跡だ――、その真価を見るには、自分が戦うのが、一番手っ取り早い。しかし、戦争が終わった今、サーヴァント同士の戦闘など、ない。だから、つい」

「……」

「これでも、明の話を、聞いて、君の日常動作を見て、仮想戦闘(シミュレーション)は何回も、してみたんだ。何回やっても、俺の死で終わったが」

 

 ヤマトタケルは完全に理解しがたいという顔をしていたが、すでに影景はどこ吹く風である。よろよろとトランクを杖代わりに立ち上がった。

 

 

「さて、明の力も、確認はできた。イマジナリドライブまでは、無理だったが、良しとしよう。俺は春日の調査を続けるが、明、お前もお前で、調査をしろ。終わったら、答え合わせだ……ウッ!」

 

 影景は完全に飲み過ぎたサラリーマンの体たらくで、おそらくは公衆便所を求めて駆け去って行った。あれでも影景は分析解析には長けている――明のガンドならあと一時間ほどで回復させるだろう。

 

 温い風が吹き抜けて、伸びた芝が一斉にそよいだ。ようやく終わったかと明が額に張り付いた髪の毛を払ったとき、ヤマトタケルは困った顔で彼女を見下ろした。

 

「……明、お前の父の性格……は置いておくが、あの力は……」

「……まあ、気になるよね……」

 

 ただの人間(魔術師)が、筋力A相当のサーヴァントと渡り合えるはずはない。明がそれにこたえようとしたそのその時、また林の向こうから素早く何者かが現れた――銀色の鎧をまとったアルトリアだった。

 

「……アキラ! ヤマトタケル!」

「!? アルトリアまで……」

 

 アルトリアは彼等の様子を見て既に事が終わったことを認識し、不可視の剣を消した。ヤマトタケルは面倒くさそうな顔で溜息をついた。

 

「……案外気づくのが早かったな」

「……もう終わってしまったようですがね。とにかく、碓氷邸に戻りましょう。私も伝えたいことがあります」

「何、何かあったの」

 

 今日はもう何事もなく終わってほしいと顔に書いていた明だったが、そうは問屋が卸さない。騎士王が続けた言葉は、さらに明に頭を抱えさせる事案だったのである。

 

「見覚えのないマスターとサーヴァントに会いました。サーヴァントは、酒呑童子ではないキャスターです」

 


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