Fate/Imaginary Boundary【日本史fateホロウ】   作:たたこ

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昼② 荒ぶるKAMI NO TSURUGI

「……ぁ~」

 

 碓氷明が目を覚ましたのは、午前七時半。予定のない日の彼女にしては快挙といえる時間だが、どうにも体調がすぐれない。熱はないと思うが、けだるく、のどもいがらっぽい。

 ここ数日、色々と気が揉むことは多かった上に昨日はアヴェンジャーと夜歩きに精を出してしまったから、もしかして疲れているのだろうか。とにかく明は気合を入れて上半身を起こし、顔を横に向けた。

 

 パンイチのヤマトタケルが、全身鏡の前に立っていた。

 

 

「うむ。ギリギリイケるな」

「……?」

 

 もしかして自分は寝ぼけているのだろうか。目をこすり頭を振って、もう一度同じ場所に目をやった。

 

 女性物のフリルがついたパンツ一丁のヤマトタケルが、全身鏡の前仁王立ちし、こちらに背中を向けて、立っていた。

 

 どうやら幻覚ではないことを、明は嫌々受け入れた。だが正直どうリアクションをとっていいのかわからず、結局まじまじと彼を見つめる状態になってしまった。

 というか、どういう状況?

 

「……何してるの?」

「明、起きたか。今日は早いな」

 

 ヤマトタケルは、いつもと全く変わらない様子でくるりと振り返った。今まで明は背面を見ていたが、前側もそれはそれで衝撃映像であり、女物の下着は当然男性のソレをホールドしたり解放感をあたえたりする作りになっていないうえ、大柄な彼には全く合っていないサイズのためいろんな意味ではちきれそうだった。いや、詳しい言及はよそう。

 朝から気色の悪い姿を見せないでほしいのだが、いや夜ならいいわけでもないが、看過できないことにそのパンツは明の私物ではないか。

 体調とは別の原因の頭痛を感じながら、明は重ねて尋ねた。

 

「……何してるの?」

「お前のパンツを穿いている」

「……いや、えっと……ぱんつ、穿かない主義じゃないの……?」

「ああ。常々、こんな薄い布で何を護ろうとしているのかと思っている」

 

 ぱんつは人間の尊厳的な何かを護っているのだ!

 会話をして徐々に意識がはっきりしてくるにつれ、明はふつふつと怒りを感じ始めていた。だが、話を聞かないうちから怒るのはいかがなものかと理性を動員し、さらにヤマトタケルの言葉を待った。

 

「明日、土御門の学校に女装を教えに行くといっただろう。俺自身はのーぱん主義だが、世の女性の多くはパンツを穿くものだそうだ。故に女装に当たっては、女物の下着を身に着けるべきだと考えている。そして明日のために、女物の下着のサンプルがあった方がいいと考え、お前のパンツを拝借し試し履きをしているというわけだ」

「わかった。セイバー、一発殴らせて。よけたら契約破棄ね」

「!? 何故!?」

 

 やはり明の怒りの意味を全く理解していないヤマトタケルだったが、脳裏に殺人的な色彩で明滅する契約破棄の四文字に戦き、その場に直立不動の姿勢をとった。張り手のパーではなく思い切りグーのパンチが、ヤマトタケルの左ほおにめり込んだ。

 

 

 明はヤマトタケルにパンツを脱がせて――そうすると自然全裸になってしまうので、戦闘時鎧の下に纏っている衣服を魔力で編ませて、正座をさせた。寝起きの悪い明だが、哀しくも目が覚めている。

 

「……マフラーやエプロンは俺と同じものを使っても何も言わなかったではないか。なぜパンツはだめなのか」

「……そういわれると説明しにくいけど、大体の女性は直接肌に、特に局部に触れるものは人と同じものを使いたくないんだよ。だからもし女性物の下着がほしかったら、下着屋に行って買ってきて」

「……買うことも考えたのだが、明は無駄なものを買うことは嫌いだろう。だから借りる選択肢をとった。それに現代の品は新品よりも、実際に使用されたものの方が穿きやすい」

 

 ……新品のタオルなど水を吸わないから、一回洗濯してから使う人も多い。パンツもまた然り。

 毎度のことではあるが、話を聞けばヤマトタケルの行動には彼なりに筋が通っている行動ではある。ただ、その前提でコケていることが多いだけで。

 

 とりあえず明はヤマトタケルに「下着を勝手に穿くことは多くの女性が嫌うこと」と覚えさせた。彼はなぜか一度自室に戻り「春日生活マニュアル」と表紙に書いたノートを持ってきて、「下着を勝手に~」の下りをメモしていた。

 明は何だそれと覗き込むと、「極力人を殺さない」「碓氷邸のお客様には言葉であいさつする」、アルトリアの字で「暴力に訴える前に私に言う」と、なにやら恐ろしげだったり小学生かと思うメモ書きが連なっていた。

 明はどれだけ平和慣れしてないのかとツッコもうとしたが、良くも悪くも本気の常在戦場であることを思えばむべなるかな。とにかく、パンツの件でこれ以上責めるのも不毛である。

 そこで残った問題は、薄桃色にフリルのついた、ヤマトタケルが穿いたこの明のパンツをどうするか、である。

 

 正直明としては、洗ってももう穿く気がしない。とすれば捨てるしかない……と思ったが、ヤマトタケルは女装に使いたいと言っていた。恐らく彼は下着屋にパンツを買いに行くだろうし、とすればその出費をさせるよりもうこのパンツを上げてしまったほうがいい。

 

「……セイバー、私もうこのパンツいらないからあげるよ。だけどまたパンツがほしくなったらお店で買うんだよ」

「……! 本当か! 感謝する!」

 

 女子大生のパンツを握りしめて喜ぶヤマトタケル。絵面はただの変態である。明としてはパンツ一枚で大人しくしてくれるならいいか、と諦めにも近い気持ちもあるのだが、彼女の内心を知ってか知らずか、ヤマトタケルはこんなことを言い出した。

 

「そうだ、明、女性の下着といえば下だけではく胸当てのようなものもあるだろう。お前のアレを貸してくれないか」

「店で買って」

 

 時々びっくりするくらい図々しいよね、セイバー。さらなる体調の悪化を感じながら、明は大きなため息をついた。セイバーがどんな格好をしようと自由だし、店で買うなら好きにしてほしい。

 しかしアルトリアの下着ではなく自分の下着を拝借しようとしたあたり、まだ軽傷だったのかもしれない。パンツを勝手に穿いたとか穿かないとかのサーヴァントバトルで春日が灰燼に帰してしまってはたまらない。

 

 

「明―――!!」

 

 一件落着、となりかけたところに次いで部屋に入ってきたのは、歳四十代半ばの男性だった。その男は朝からテンションは高く、しわ一つないスーツを身に着け、トランクを右手に部屋に滑り込んできた。

 

「ん? セイバーヤマトタケルはなぜパンツを鷲掴みしているのか? それはいい、セイバーアルトリアも犬の散歩から帰ってきたようだし、今から聖杯戦争の振返りを行うぞ」

「? お前は誰だ? 明、知り合いのようだが?」

 

 影景に会ったことのないヤマトタケルは頭にはてなを浮かべている一方、明は心の中で大きなため息をついた。

 休暇のため春日に戻ってきた時から、残念ながら休みだけではないと承知はしていた。

 

 

「セイバー、これ、私のお父様。名前は知ってると思うけど、碓氷影景」

 

 

 

 

 *

 

 

 

「はァ~~」

 

 一成は盛大な溜息をついて、テーブルにつっぷした。彼の目の前には数学の教科書と問題集、それらを解くノートが広げられていた。先日桜田・氷空とともに宿題をする会を開いて進捗はあったものの、まだすべて片付いてはいなかった。

 その続きをこなそうと、今こそシャープペンシルを取ったわけだが、今やそのペンはコロコロとノートの上を転がっていた。

 

 今日は健康的に朝七時に起床し、バイキングで一成・アーチャー・理子・キリエとそろって食事をとったのだが、あまりに早く碓氷邸を訪問しても迷惑である。午後十時くらいになったら出かけることにしたため、それまで宿題を片付けて時間を潰すことにした。先程までは。

 宿題に決して全く歯が立たない訳ではないが、応用問題が解けない。

 

「何? あんたまだ宿題終えてなかったの?」

 

 アーチャーの買い込んでいる文庫本を読んでいた理子が、飲み物を取りに行きがてら通りかかった。昨日と同じ青いパーカーに茶色のキュロット姿だ。

 

「悪いかよ……はァ~~~微分積分とか死んでくれ~~」

「悪いとは言ってないけど早くやるべきものでしょ。どこがわからないの、教えてあげるけど」

 

 彼女は、四人掛けのテーブルで勉強していた一成の隣の椅子を引いて近づいた。

 

「ハァ~~~母性のないお母さん……」

「お母さん言うな!そして微妙に腹立つわね」

「是非助けてくれ……」

「す、素直ね」

「背に腹は代えられねえ」

 

 口から魂を吐き出しそうな一成の手元にある宿題を見ると、途中式が書いては消され書いては消されを繰り返した痕跡が残っており、真面目に取り組んでいたことが伺えた。きちんと宿題をしようとしているクラスメイトを助けないのは彼女・榊原理子のポリシーに反する……そう、理子が手伝うのは、それだけである。

 

 

 

 

「ふぅ……いやあ、青春だのぉ……」

 

 アーチャーは一成たちが勉強をするテーブルから離れたソファで、彼らを眺めながらくつろいでいた。顔になま温い笑みを浮かべながら、己がマスターとその同級生の行く先に想いを馳せていた。昔から十分親などから愛され、己を信じる独立独歩な土御門一成は他人からの好意の有無はわかるが――好意の種類の違いを感じ取ることには鈍い。

 経験不足もあるだろうが、彼自身今、それを必須のものとしていないから。

 

「言わぬからこそ情緒あることもあるが――あれには言わんと伝わらぬゾ」

 

 アーチャーは世話を焼くほどお節介でもなし、むしろ人のことにうかつに首をつっこむとややこしいことになるのは百も承知。ただ見るのは楽しい。ゆえに何もしない。

 

「前から思っていたのだけれど、あなた、現代に適応しずぎじゃないかしら」

 

 アーチャーの一人言が聞こえたのか聞こえていないのか、キリエは呆れ気味につっこんだ。アーチャーは鼻歌まじりに新聞をめくり楽しげであったが、ふと、何か思い出したように傍らの聖杯を見つめ神妙に問うた。

 

「姫、聖杯戦争再開の件であるが……私も本当にそれ自体は問題がないと思ってはいるのだが」

 

 キリエは紅茶をティースプーンで攪拌しつつ、静かな声音で答えた。「……ええ、問題はないわ。……ちょっとカズナリ、リコ・サカキバラ。もう十一時になるけどいいのかしら?」

 

 一成は勢いよく顔を上げた。思った以上に二人とも、真面目に宿題に取り組んでいて時間を過ごしてしまったようだ。「ゲッまじか。榊原行くぞ!」

 

「私はあんたに声をかける前に出かける用意してたわよ」

 

 がちゃがちゃと文房具やノートを片付ける一成に対し、理子はソファの上に置いてあるショルダーバッグをたすき掛けにし、早くも昨日と同じ格好で仁王立ちしている。と、彼女は思い出したようにアーチャー達へ振り返った。

 

「アーチャー、ありがとうございます」

「礼には及ばぬ。そなたが寛ぎ楽しめたのであれば、それが至上よ」

 

 恐縮して頭を下げる理子の背後に、女には親切だなと言わんばかりに苦虫を百匹くらい噛み潰していた表情の一成がいる。彼はさっさと踵を返し部屋を後にし、理子もそれに続いた。

 四人のうちでやかましい――キリエもやかましいメンバーカウントの時もあるが――二人が消えたことで、アーチャーは真顔で問うた。

 

「恐らく一成は聖杯戦争再開について、碓氷の姫の許可を得て調査なりなんなりを始めるであろう。あれは姫に協力したいという気持ちもあるが、同時に自発的に調べたい、知りたいという気持ちが大きい筈じゃ。私としては一成を放置しておくつもりであるが、危険はあると思うかの。小聖杯の姫」

「……さて、ね。どうかしら。カズナリは、必要とあれば危ない橋も渡ってしまうけれど……」

 

 

 

 *

 

 

 

 

 ホテル春日イノセントは駅前の一等地に位置する高級なホテルであり、交通の便も優れている。ただ例によって駅前は人通りが多く、その上季節柄容赦ない日光で焦がされるコンクリートの道は控えめに申し上げて地獄である。

 それにしても心なしか昼間にしては人が多すぎる気がするし、何やら和風、だがロックな音楽が響きわずかに地面をゆらしている。春日駅南口、天気予報やCMを流している馴染みの巨大電光掲示板を何とはなしに、理子と一成は通り過ぎがてら見上げると、大きく人の顔が写っていた。

 

 この電光掲示板の下ではよく献血用の車が止まっていたり、子供向けのミニヒーローショーなどが行われたりする。

 普通であればショーでもしているのかと思うだけだが……。

 

「太陽を背に受けた公に敵なし! 待たせたな民草共ォォ!!」

「「「オォ―――!!」」」

「何のアーティストかしら。というかこんなに人がいるなんて……」

 

 人波にもみくちゃにされているが、ぶつくさ言いながら理子は迷わずついてきている。

 一成はつっこむことを辞めた。よし、何も聞かず何も見なかったことにしよう。「お前といるとめんどくさい事に巻き込まれるんだよ!」とよく友達に言われる一成ではあるが、無意味に自ら厄介ごとに関わるほど暇ではないのだ。

 たとえライダーによく似た人物が駅前のステージ上で、十人以上のバックダンサーを従えて、尺八や三味線がメインの和風ロックをミュージックに、かつ宝具でもある八咫烏を遥か頭上で激しく光り輝かせながら、光沢のある全身白の紋付袴でキレッキレのダンスを披露していても関係ないのだ。

 

 どんどん人ごみは酷くなる一方で、多分興味がなかったであろう人々も集まっているに違いない。

 響く大音量を尻目に、一成は理子を促しさっさとこの場を離れようとした。

 

「これ、本当に市が許可を出したの?」

 

 さあどうだろうか。無断でやってても違和感がなく、また(いろんな手を使って)許可を出させていても違和感がない。とりあえず早く離れたい。

 一成は前方を向いて歩きやすい道を捜していたところ、唐突にその男は現れた。

 

「そういわず見ていくがよい、陰陽師に巫女」

「心の声を読むな! ……って神内御雄!?」

 

 いつの間にか至近距離に立っていたのは神内御雄――真夏にもかかわらず冬と変わらない詰め襟のカソックだが、汗ひとつ書いていない。何故か真っ黒のサングラスを掛けており、なおさら堅気に見えない。

 一成は思い切り後ずさりし、理子とぶつかった。

 

「何やってんだお前」

「見ればわかるだろう。「KAMI NO TSURUGI」イベントのマネジメントだ」

「何一つわからねえ! つーかKAMI NO TSURUGIって何だよ! セカオワのパクリか!!」

「ライダーはセイバー(ヤマトタケル)も誘ってやりたいらしいが、セイバーが乗ってこないようでな。現在ライダーのソロ活動名だ」

 

 人と会話する気があるのか、このインチキ神父。そりゃセイバーは理由もなく人前で歌ったり踊ったりを好むタイプではないからわかるが、もう全体的に意味不明である。何故ライダーがこんな路上パフォーマンスを始めたのかとか、金は一体誰が工面していのかとか、いつの間にこんなにファンをつくったのかとか、疑問(ツッコミ)は尽きないのだが、ツッコんだら負けな気もしている。

 

「現段階の目標は日本武道館、そして皇居(現代の自宅)でのパフォーマンスライヴだ」

「聞いてねえよ!?」

「お前と私の好だ。チケットはいい席を確保するからいつでも連絡をするがいい」

「人の話聞いてる!? おまえ神父だよな!? 懺悔とか聞く職業だろ!? ついでに好なんかねえ!」

 

 ライダーがアレなのはともかくとして、この神父もそんな酔狂に付き合うとはヒマなのだろうか。この男も聖杯戦争を見、何度も繰り返したいという酔狂な願いの持ち主であり、クレイジーとクレイジーで似合いのマスターとサーヴァントである。

 弛緩した空気が漂う中、理子だけが怪訝な顔をしていた。

 

「……神内御雄?」

「そうだ。狼の巫女よ、久しいな」

「なんだ? お前ら知り合いなのか」

 

 神父と理子の顔をかわるがわるに見つつ、一成は微妙な空気を感じた。片や神父、方や神社の娘。理子はふいと一成に眼を向けると、ぶっきらぼうに言った。

 

「神内は神道魔術の家柄よ。それなりに長い、ね。だから少し神内家とはかかわりがあったけど、この人は神道をやめて聖職に鞍替えしてるから」

 

 魔道とは先祖代々受け継がれていくものであり、跡継ぎは先祖の無念を背負って真理の探究に励む者。日本の神道においては真理の探究と言う側面は薄いが、信仰を護る一族ということに変わりはない。

 全うに家業を継ごうとしている理子にとって、それを投げ出した人間に良い印象はないのだろう。ただ、態度が固いのは理子の方だけで神父は通常運転である。

 

 さて、一成一行は碓氷邸へと向かう最中だったのだが、偶然にもマスターの一人と行きあってしまった。となれば、一応動向を聞いておくべきだろう。

 

「神父。今再開されてる聖杯戦争について、何か関わっているか?」

「ほう。そのようなことを春日聖杯戦争の首謀者である私に、単刀直入に無防備に聞いていいのか陰陽師」

 

 周囲の騒音まで、一瞬消えたような気がした。この男は聖杯戦争が終わっても、一成に敗れても、何一つ全く変わっていないのだ。

 腹に響く重低音を聞きながら、熱気あふれる周囲にもかかわらず空気が冷え込んでいく。

 

 

「……俺が知ってる程度のこと、お前が知らない筈ないだろ。それに何かする気なら俺はとっくにどうにかされてる」

 

 ――神内御雄。魔術師としては三流、聖職者としては二流、呪術師としては一流。

 あの土御門神社での戦いを思い出しても、明らかに神父の方が格上だった。一成が今生きているのは、ひとえにキリエのお陰である。

 

 神父は薄く笑った。「安心しろ。今の私は見ての通り、ただのマネージャーだ」

 

 何が見てのとおりなのかさっぱりである。「何のマネージャーか聞きたげな顔をしているな。それはKAMI NO「いやわかったから! それはさっき聞いた!」

 

 少しだけ、もしかしたらライダーに無理にやらされているのではないかと思っていたが、全く余計な心配だったようだ。神父は懐からチケット的ななにかを取り出そうとしていたが、一成の様子をみて残念そうに引っ込めた。

 

「ああ、聖杯戦争の話だったな。特に何もしていない」

「……本当か?」

「もう褒賞がない。ゆえにどの陣営も争わない。もしこれが私が戦争を再開させた結果だとしたら、明らかに失敗だ」

 

 確かに、言われてみれば「戦闘のない」聖杯戦争は、神父にしてみればカレー粉の入ってないカレー、豚のない酢豚だ。それに春日聖杯戦争においても、神父自体は大聖杯のシステム構築に関わっていない。

 キリエは知らない素振りであったし、やはり聞くならば碓氷しかない。

 

「とりあえずわかった。じゃあな」

「ライブチケットならいつでも融通してやろう」

「いらねーから!! ……ったく、これで実は黒幕でしたとかだったら容赦し――」

 

 もしまた誰かが死ぬのであれば――聖杯戦争で真●●や、神●●琴が――なら、きっと自分は神父をまた――。

 ――また? 前にも神父を●したような言い方――?

 

「……どうした土御門一成。顔色が悪いが」

「……何でもねえよ。行こうぜ榊原」

「まあ待て。聖杯戦争の調査をしているのだろう、それなら碓氷に聞くといい」

「お前に言われなくてもそのつもりだっつの」

「お前は七代目に聞くつもりだろう。だが今は六代目もいる――調査という意味では、そちらの方がはるかに格上だ。聞いてみるといい」

「……」

 

 一成が知る限り、春日の管理業務をしているのは碓氷明であったが、確か彼女はまだ「次期当主」の立場だった。

 珍しくまともな助言を受けて、一成は真面目な顔で頷いた。

 

「わかった。ありがとよ」

 

 理子は理子で、今一成のことを思い出したようで、ちらちらと踊るライダーの方を見て気もそぞろであった。

「……三本足の烏……太陽を背にして……いや、ないわ……そっくりさんよ……」と、彼女も一成と同様顔色の優れない様子で、轟音の駅前から立ち去った。




明「……セイバーもう一発殴らせて」
セイバー「!? い、痛いからやめてほしいのだが」
明「魔力なんかこめてないし込めたところで対魔力Aだから痛いわけないでしょ」
セイバー「そ、それはそうだが。その、なんだ……お、お前は私の心を叩いてる!」
明「……ど~~してそういう果てしなくどうでもいいスラング(?)を覚えるかな?」

おまけぱんつまんが
セイバーと一成
【挿絵表示】


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