亜種特異点 神性狩猟区域 フォート・ジョルディ   作:仲美虚

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第七節『――明日も生きていられますように』

フォート・ジョルディでの戦いが終わって一週間。書類仕事が落ち着いてきたということもあり、立香たちは平穏な日々を過ごしていた。マスターである立香にまで書類仕事が回って来ることもなくなったため、空いた時間は過去に修正した特異点の歪みの修正や、レイシフト先での資源の回収に勤しんでいる。

 

そして今、資源回収から帰ってきたばかりの立香。今回は特に貴重な資源である聖晶石を手に入れる事ができた。

 

 

「これでサーヴァントの召喚に必要な数は揃ったかな」

 

 

聖晶石は、数多の未来を確定させる概念が結晶化したもの――という説明を受けたが、立香にはピンと来なかったため、カルデアの召喚システムを稼働させるために必要な魔力の塊だと認識していた。

召喚に必要な聖晶石は三つ。今回のレイシフトで手に入ったので丁度三つめだった。

 

今回はどんなサーヴァントが来てくれるのか。期待に胸を膨らませながら召喚ルームへ向かっていたところ、マシュと遭遇した。

 

 

「あ、先輩。これからどちらへ?」

 

「ああ、聖晶石が三つ貯まったから、サーヴァントの召喚に挑戦してみようと思って」

 

「そうなんですか。……あの、ご一緒しても?」

 

「もちろん!」

 

 

手を繋いでスキップなんかしながら召喚ルームへ向かう二人。途中職員やサーヴァントたちに温かい目で見守られたり冷やかされたりしながら、召喚ルームに到着した。

 

 

「聖晶石をここに入れて……よし。いくよ、マシュ」

 

「はい。楽しみですね、先輩。今回はどのような方がいらっしゃるのでしょうか」

 

 

召喚サークルの外周に複数の光球が浮かび、発光する。やがて中央から光の柱が伸びる。

 

ワクワクしながら見守る二人。やがて光の柱が収まってゆき、中から二人分の人影が見え始めた。

 

そして現れた人物に驚く立香とマシュ。何故なら、そこにいたのは――

 

 

 

「意外と早かったね! それじゃ、改めて――アーチャー、セーラ・V・ウィンタース。よろしくね! ……あれ? 前の召喚の記憶って引き継がないって話じゃ……?」

 

「どうやらここの召喚システムは特殊なようです。後で詳しく話を聞いてみましょう。――あ、自己紹介が遅れました。同じく、クラウス・スタージェスです。セーラ共々、よろしくお願いします」

 

 

予想外の出来事に呆然とする立香とマシュ。しかし、すぐに笑顔でその手を差し伸べた。

 

 

「――ああ! ようこそ、カルデアへ!」

 

 

かくして、カルデアに新たな仲間が加わったのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

カルデアにセーラとクラウスが召喚されてから数日が経った。フォート・ジョルディで別れ際に交わした約束通り、サーヴァントたちと交流を深めているようで、すぐにカルデアの人々と打ち解け、今ではすっかり馴染んでいる。

 

 

そんなある日、立香があてもなく管制室をうろついている時だった。

 

 

「あれ? あそこにいるのは……」

 

 

そこにいたのは、何をするでもなく、ぼうっとカルデアスを見上げるセーラ。どうしたのかと、立香が声をかける。

 

 

「ああ、リツカか。――いや、ね。これがリツカたちが救ってきた世界なんだなあって思って」

 

「……ああ、この光が、文明の火。人が息づいている証なんだ」

 

 

立香も一緒になってカルデアスを見上げる。人理修復後のカルデアスはほぼ正常な表示に戻り、かつての真っ赤だった状態を思い出し、比べると、感慨深いものがあった。

 

 

「わたしね、思うの。こうしておしゃべりしたり、食事をしたりして楽しい気持ちになるのって、それだけで生きてる(・・・・)ってことだって。それはサーヴァントみたいな、生身の人間でなくても同じで、それで、こうしてみんなで笑いあって生きていられる世界があるのって、とっても素敵な事だなって」

 

 

セーラの言葉に感心して、つい言葉を忘れてしまう立香。そんな空気に耐えられなかったのか、セーラは照れたように笑う。

 

 

「なーんてね! ははは、ちょっとクサかったかな」

 

「……いや、そんなことない。いいと思うよ、そういうの」

 

「そ、そう……?」

 

 

向かい合って笑う二人。生きることの尊さ、素晴らしさを説く少女がどのような人生を歩んできたのか、立香には想像してもしきれない。

 

 

(明日にでもANGEL BULLETの翻訳をダ・ヴィンチちゃんあたりに頼んでおこうかな)

 

 

明日への楽しみが一つできた立香。それと先程の会話の余韻もあり、こう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

――明日も生きていられますように。

 

 

 

 

 

 




ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

ここで一旦完結となりますが、今後、一話完結構成で幕間の物語を追加していく予定なので、以降もよろしくお願いします。(いつまで続くかはわかりませんが)


以下、執筆の裏話。


まずタイトルの『神性狩猟区域』ですが、本来はもっと神霊がわんさかひしめき合ってる感じを想定していたため、このようなタイトルになりました。ただ、アヴェンジャー・クラウスのステータス的に、神霊相手に一対多数は無理があると考え、あのような内容になりました。

次にパーティメンバーのチョイスですが、ビリーとエレナ、そして神性持ちのサーヴァントはどうしても入れたかったのです。神性持ちのサーヴァントは話の都合上。ビリーとエレナはANGEL BULLETの該当キャラ繋がりで。
ジャックは、ANGEL BULLETにおけるビリーが切り裂きジャックだったということもあり、小ネタ要因です。結果、ジャックを娼館に寝泊まりさせるという皮肉めいた話になってしまいましたが。
神性持ちサーヴァント含む残りのメンバーについては、人理修復後多くのサーヴァントが座に還ったという設定がある為、人理修復以降いても問題ないサーヴァントとして、メルトリリスと巌窟王を選出。
ちなみにこのパーティで実際にFGOをプレイする場合、ビリーとメルトリリスをメインアタッカーに据えたクイックパになると思われます。(エレナはスキルとカード構成による補助要員)試してないので実用性のほどは不明ですが。

そしてダイムノベル及び映画のくだりの設定。これはANGEL BULLETと同じくライアーソフトの作品、黄雷のガクトゥーンより拝借しています。
ガクトゥーン作中でクラウスが匿名で出版したダイムノベルとしてANGEL BULLETが登場しており、劇場版も作中の舞台、マルセイユ洋上学園都市で放映されていたそうです。あれを学園都市で放映してたのか……


――以上、小話はここまで。次回、アヴェンジャー・クラウスとセーラ&クラウスのステータス表を挟んでから幕間の物語を投稿したいと思います。

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