亜種特異点 神性狩猟区域 フォート・ジョルディ   作:仲美虚

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幕間の物語
悩める牧師様【前編】


藤丸立香の部屋。それは、立香の生活するプライベート空間であり、サーヴァントとの対話の場のひとつでもある。カルデアのサーヴァント――特に新参者はここで立香にカルデアについての質問をしたり、相談を持ち掛けたり、また、悩みを打ち明けたりするのがお約束になっていた。

 

そして今日もまた、立香に相談を持ち掛ける者が一人。

 

 

「え? マシュに避けられてる……?」

 

「ええ。一体何故なのでしょう……」

 

 

先日召喚された、二人一組のサーヴァントの片割れ。クラウス・スタージェスだ。

 

聞けば、召喚以来マシュに避けられているような気がし、あまつさえ白い目で見てくることもあるという。

 

 

「一応聞くけど、何か心当たりは?」

 

「いえ、それが皆目見当も……」

 

 

頭を抱えるクラウス。立香もまた、マシュがカルデアに来たばかりのサーヴァントに対して早々にそのような態度を取っているという事実に引っかかる部分があり、頭を悩ませていた。

 

そんな時、もう一人の来客があった。

 

 

「マスター、少しお時間よろしいでしょうか。――おや、これはこれはクラウス殿」

 

「セ、(セント)ジョージ様……!?」

 

 

聖ジョージ――ゲオルギウスの登場に、クラウスが急に立ち上がり、かしこまる。

 

クラウスは一介のキリシタン。目の前の聖人であるゲオルギウスは、まさに崇拝すべき対象の一人。カルデアに馴染んだ今も、未だに慣れないようだ。……が、少し様子がおかしい。

 

 

「――あ、あああああ! そ、そうでした。僕、この後用事があるんでした! それではマスター、話の続きはまた今度ということで!!」

 

「えっ? ちょ、待っ――」

 

 

立香の呼びかけを無視して、慌てた様子で部屋を出るクラウス。立香とゲオルギウスの二人が、空気の静まり返った部屋に取り残された。

 

 

暫し訪れる静寂。やがて立香の方からゲオルギウスに話を切り出した。

 

 

「……ええと、とりあえず座ったら? あ、コーヒー飲む?」

 

「ああ、はい。いただきます」

 

 

部屋に備え付けてあるサーバーから二人分のコーヒーを淹れながら、何の用かと尋ねる立香。ゲオルギウスは流石聖人とも言える立ち振る舞いで静かに椅子に座り、しかし困った様子でゆっくりと口を開き始めた。

 

 

「実は……クラウス殿のことで相談が……」

 

「え? クラウスがどうかしたの?」

 

 

聞けば、ゲオルギウスがクラウスと初めて挨拶を交わして以来、彼にずっと避けられているのだという。しかも、クラウスに避けられているのはゲオルギウスだけではなく、マルタやジャンヌ、天草のような聖人も同様に避けられているらしく、その他のあからさまに敬虔なキリスト教徒のサーヴァントやカルデア職員に対してもどこかよそよそしいとのこと。同じ信仰を持つ者同士仲良くしたいが、どうにかならないものか……ということらしい。

 

 

「うーん、俺に対しては普通に接してくれてるんだけどな……」

 

「そうなるとやはり、主に仕えているというのが共通点なのでしょうか。確か、マスターは仏教徒でいらっしゃいましたよね?」

 

「ああ。と言っても、今の日本人は宗教観薄いからその辺曖昧になってるけどね。……うん、わかった。俺の方からそれとなく聞いてみるよ」

 

「おお、ありがとうございます。……それでは、私はそろそろ聖人の会合があるのでこれで。コーヒー、ご馳走様でした」

 

 

軽く一礼して部屋を出るゲオルギウスを見送った後、再び一人となった部屋でベッドに横たわる立香。マシュがクラウスを避ける理由とは。クラウスが聖人を避ける理由とは。そしてさっきは聞き流したが、聖人の会合とは一体何なのか。そんなことを考えている内に、ふと何かを思い出し、ベッドから飛び起きた。

 

 

「そうだ、ANGEL BULLETの翻訳をしてもらうんだった」

 

 

クラウスとセーラの激闘の日々を綴ったダイムノベル。そこに何か手掛かりがあるかもしれないし、元々読んでみたいという気持ちもあった。そうと決まればと立ち上がり、立香はダ・ヴィンチのもとへ向かった。

 

しかし――

 

 

「――え? できないってどういうこと?」

 

「ああ、いや。勘違いしないでくれよ。今は手も空いているし、可不可を問われれば間違いなく可能なんだけど、モノが無いんじゃあね。それに、今の所あれを読んだのはマシュとホームズだけで、私は内容も知らないんだ」

 

 

ではその本は今何処にあるのか。そう尋ねる立香。どうやらフォート・ジョルディでの一件でマシュが持ち出したっきりとなっており、彼女に聞くと良いとの事。

 

仕方がないと踵を返し、立香はマシュの部屋へ向かう。無駄足を踏んでしまったが、ともかくこれで解決。そう思っていた立香であったが――

 

 

「え゛、あの本を読みたいのですか? 先輩……」

 

「何その反応」

 

 

大抵のお願い――常識の範囲に限る――ならば、嫌な顔一つせず聞いてくれるマシュだが、どうも今回は様子がおかしい。ANGEL BULLETのタイトルを口にした途端、苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

 

「せめてどこに仕舞ったのかだけでも教えてほしいんだ。頼むよ。クラウスの事で知りたい事があるんだ」

 

「ク、クラウスさんについてですか……?」

 

 

クラウスの名前を出した途端、先程とは打って変わって顔を赤くするマシュ。この反応もやはりクラウスが関係しているのだろうか。余計に気になって仕方がない立香。ついでにマシュがクラウスを避ける理由も聞くつもりであったが、この様子では答えてくれそうにない。

 

もごもごと口ごもるマシュ。そして、思い出したような――否、思いついたような顔をし、一気にまくし立てた。

 

 

「そ、そういえばクエストに行かないといけませんね、先輩! 先程セーラさんたちの霊基強化に必要な素材の報告書が上がってきたのですが、世界樹の種が二十個程足りなさそうです。そう遠くない内に魔術協会の査問官が来ますから、それまでにどんどんレイシフトをしてどんどん素材を回収しておかないとですね!」

 

「ええっ、そんなに必要なの!? ……うーん、仕方ない。わかった。行ってくるよ」

 

 

色々と聞きたい事はあったが、マシュの言い分にも一理ある。それに、今はいくら話を聞いても無駄そうだ。そう判断した立香は、大人しくマシュの部屋を後にし、ブリーフィングルームへ向かった。

 

 

(それにこの状況、利用できなくもない)

 

 

廊下を歩きながら一人考える立香。果たして、クラウスとカルデアの仲間たちとの関係を取り持つことができるのだろうか。

 

 

後編へ続く。




短いですが、生存報告とリハビリも兼ねてとりあえず前半のみ投稿です。ここ最近多忙の身でしたが一段落ついたので、後半も近いうちに投稿できそうです。

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