亜種特異点 神性狩猟区域 フォート・ジョルディ   作:仲美虚

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アバンタイトル

『約束するわ。生まれ変わりがあるんなら、あなたのことを絶対見つけ出すって』

 

 

『すれ違ったりしたら厭でしょ? だからあんたはわたしが来るのを待っていて』

 

 

『約束だからね! 破ったら承知しないから』

 

 

 

崩れ落ちる魔城の中、その空間だけ時間が止まったかのように、男は腕の中の彼女との約束を思い出す。

左手に握る彼女の右手には温度を感じない。死体のような冷たさもなく、ただただ空気に触れているかのような、虚無感すら覚えるような温もりの無さのみ。肌は柔らかさを失い、ひび割れ、二人のいる魔城と共に今にも崩れ落ちようとしている。

 

 

「……浮気したら……許さないから……」

 

 

腕の中の少女がか細い声で、しかししっかりと釘を刺すように、男に向けて呟く。

 

 

「だってわたしたち……まだ、キスしかしてないんだから……」

 

 

――腕の中の少女は消えた。最後に太陽の笑顔を残して。

 

 

その日から、臆病で、温厚で、心優しい牧師であった男は復讐鬼となった。

男は神を呪った。人の命を弄ぶ神を。たった一人の少女の幸せすらも許容できない神を。

 

 

 

 

それから三年。死闘の末、男の復讐は果たされた。人の身でありながら、男は神を殺してみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――しかし、愛する少女とのかつての約束が果たされることは無かった。

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

「え? また新しい特異点が?」

 

「ああ。それで、場所がここなんだけど……」

 

 

人類最後のマスターとして人理を救った少年、藤丸立香には安寧の日々はまだ遠いものであった。人理焼却に伴う世界へのあらゆる影響の事後処理。魔術協会への対応。人理修復後も立て続けに二度も発生した亜種特異点の修正etc……現在カルデアの職員は大量の仕事に追われており、立香も例外ではない。現にこうしてレオナルド・ダ・ヴィンチ、通称ダ・ヴィンチちゃんから新たに発生した特異点の修正のためにカルデア内の一部のサーヴァント共々招集を受け、ブリーフィングを行っている。

 

 

「ここは……アメリカ?」

 

「はい。この地へレイシフトするのは2度目になりますね。尤も、今回は二〇〇四年とかなり現代に近い時間軸になっていますが」

 

 

マシュの言葉につられるように、今回の出撃パーティとして招集されたサーヴァントたち――アヴェンジャー、巌窟王。アサシン、ジャック・ザ・リッパー。アーチャー、ビリー・ザ・キッド。キャスター、エレナ・ブラヴァツキー。アルターエゴ、メルトリリスの五騎――が、説明用のモニターに目を向ける。次に口を開いたのはビリーだった。

 

 

「アメリカ……それも西部ねぇ。僕の生まれ育った年代とは違うけど、馴染のある土地だね」

 

「そうね。出生地ってわけでもないけれど、あたしにとっても馴染み深い土地だわ」

 

 

エレナも生前を懐かしむかのように呟く。ブリーフィング中だと言うのに和気藹々とした雰囲気が流れそうになったところで、ダ・ヴィンチが水を差した。

 

 

「はいはい、思い出話は後にしてくれるかい? 今回の特異点は少々厄介なんだ」

 

 

ダ・ヴィンチのその言葉に、一同の顔つきに真剣さが戻る。――尤も、巌窟王は終始真面目な顔つきであったが。

全員の視線が集まったのを確認し、ダ・ヴィンチが続けた。

 

 

「――まず、この特異点の発生原因は聖杯によるものだ。最近立て続けに起こったような、魔神柱の生き残りによるものなのか、元々その地にあった聖杯が暴走したのかはわからないけどね。まあ、ここまではいつも通り。あまり気楽になられ過ぎても困るけど、慣れ親しんだいつもの特異点と同じだ。今まで通り、聖杯を回収すれば解決する。でも、気になる……いや明らかにおかしい点があるんだ。――この特異点のマナの濃度が異常だ。かつての第七特異点に匹敵……あるいはそれ以上かもしれない」

 

「何だって!?」

 

 

空気がざわつく。今回の特異点は二〇〇四年のアメリカ。神秘など薄れ切った近代の、それも人の手による開拓が大きく進んだ土地だ。そんな土地のマナが第七特異点……紀元前の古代メソポタミアに匹敵するなど、本来は有り得ないことだ。あまりの事実に皆言葉を失った。

そんな中、最初に口を開いたのはメルトリリスだった。

 

 

「ちょっと待ってよ。まさか土地そのものの神秘性が増したわけでもあるまいし、それって……」

 

「ああ、大気のマナ濃度をそこまで底上げできる程の大魔術が行使されているか、相当高位の魔物やサーヴァントがひしめき合ってるか、あるいはその両方か……どちらにせよ異常な事態だ。というわけで、君たちにはこれを解決してもらいたい。……正直、今回の危険度は計り知れない。くれぐれも気を付けてくれたまえ」

 

「……はい! わかりました」

 

 

自分には心強い味方がこんなにいますから。立香は笑顔で返した。

 

 

「では、私は今回もオペレーターを務めさせていただきます。……ご一緒できないのは心苦しいですが」

 

「いいんだよ。戦えないなら仕方ないさ。それに、マシュには頑張って俺の意味消失を防いでもらわないと。――っと、ごめん。そろそろ行かなきゃ。……それじゃ、行くよみんな!」

 

 

ブリーフィングルームを出て、コフィンに入る。

恐怖と不安が無いわけではないが、仲間がいるから大丈夫。そう心の中で繰り返しているうちに、レイシフトが始まった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、これ……?」

 

 

レイシフトが完了し、立香たちが最初に見た景色。それは赤い月と、夜の闇に覆われた西部開拓時代の西部そのものだった。




初投降です。思い付きでのスタートなので完走できるかはわかりませんが、よろしければお付き合いください。

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