とある提督の追憶   作:Red October

5 / 31
ここまでのあらすじ…

教育隊卒業の夜に、不思議な夢を見た主人公: 堺 修一は、自らの希望とは裏腹に、日本国海上護衛軍 艦娘部隊に配属される。そして新人研修もそこそこに、いきなり正式に提督にされ、タウイタウイ泊地に飛ばされてしまう。たどり着いたそこは、どこをどう見ても、完全に何もないド田舎泊地だった。


003 提督と、はじめての提督業務 其の壱

「ちくしょうめぇーー!!!!」

 

 咆哮した後、堺は眼前に広がる泊地を見つめ、言った。

 

「だが…命令だ、仕方ねぇな」

 

 そして、泊地司令部のほうへ、吹雪と共に歩いて行った。

 

 ………

 

 「ド田舎泊地」とはいうものの、突堤と工廠と入渠ドックはしっかりしていた。むしろこれらがないと、艦娘はまともに運用できないので、これは艦娘運用拠点を名乗る手前、当然というものだろう。ただ、規模が本土のより小さく、設備もやや旧式だったが。

 

「まあ、出撃関連の設備はしっかりしてんだな」

「っていうか、私達これがないと働けませんよ…」

「それもそうだな」

 

 一通り泊地の視察を終え、2人は司令部施設(肩書きはやたら立派だが、単なるプレハブ小屋である。ないよりはずっといいが)に入った。

 

 持ってきた荷物を降ろし、梱包を解いていると、女性が1人やってきた。セーラー服のような感じの服を着て、スカートを履いている…のだが、腰のところが露出している。あれには、どういう意味があるのだろう?

 彼女は、「大淀」と名乗り、自分も艦娘であると明かした。ただ、艤装が届いていないため、出撃はできないのだそうだ。

 

「提督、こちらが今届いている任務になります」

「おう、ありがとう。これが、任務か」

 

 彼女から渡された書類を見る。そこには、「現在提示中の任務一覧」と題して、いくつか任務が並んでいた。最大5つまで、同時に受けられるとのことだが、さて、どんな任務が出ているだろう。

 

『はじめての「編成!」』

『はじめての「出撃」!』

『泊地正面海域を護れ!』

『はじめての『演習』!』

『はじめての「建造」!』

『はじめての「近代化改修」!』

 

「…これで全部かい?」

「はい。これらを達成していくことで、受けられる任務も増えていきます」

 

 むむむ…やるしかないようだな。どれからやろう。

 

 …そういえば、さっきから周りをうろちょろしている、小さな人間みたいなのは何だ?

 

「吹雪、このちっこいのは一体…?」

「私達は『妖精』と呼称しています。言ってみれば、私達の乗組員みたいなもので、私達の艤装を動かしたり修理したり、装備を開発したりしてくれるんですよ」

 

 なるほど乗組員か。

 さて、どの任務からやろうかな。

 

 …改めて任務の説明を読み、しばし黙考した末、決断。

 

「はじめての編成 と、はじめての出撃 と、泊地正面海域護衛、それと はじめての建造 の任務を受けよう」

「了解いたしました。受注手続きをしておきますね」

「ありがとう、お願いするよ。…さて吹雪、建造に行こうか」

「はい!」

 

 座学で、建造と開発をするには艦娘を1人、「秘書艦」として連れていないといけない、と聞いている。

 司令部を出ようとしたところで、堺は大淀に呼び止められた。

 

「あ、提督、1つ言い忘れていました」

「ん?なんだ?」

「建造や開発には、資源が必要です。泊地の運営にも関わるので、無理のない範囲でお願いします」

「わかった。で、その資源はどこで見ればいいんだい?」

「こちらをご覧ください」

 

 壁にかかっている、タブレット端末を示される。それには、いくつかの数字と、資源を表しているらしい記号が表示されていた。

 なお、画面の一番左には、「編成」と書かれた部分がある。

 

「これが燃料で」と言いながら、大淀は緑のドラム缶の記号と、その隣の数字を示す。

 

「これが弾薬、」次に、茶色の弾とその横の数字が指された。

 

「こちらが鋼材、」今度は銀色の角柱とその横の数字だ。

 

「そしてこれがボーキサイトです」最後に示されたのは、赤茶色の石っぽいものの記号とその数字だった。

 

 どの数字も、300となっている。

 

「これらが資源になります」

「その下の、バケツみたいなのと、歯車の絵は何だ?」

「バケツは高速修復材、歯車は開発資材です。開発資材は建造や開発に、修復材は文字通り修理に使います」

「ふうむ…わかった。無理はしないよ」

 

 その時、「かん(若葉マーク)これ」と書かれた帽子を被った妖精が、堺のズボンの裾を引っ張った。外に連れ出そうとしているようだ。

 堺は、吹雪を連れ、妖精に引きずられるようにして司令部を後にした。

 

 ………

 

「ここが工廠の中か!」

 

 一度、研修中に横須賀鎮守府の工廠を見せてもらったが、その時を思い出させる光景である。むき出しの鉄骨が天井を支え、金属の壁で区切られたそれは、工廠と聞いてイメージするものそのまんまである。

 

「…で、どこなんだ?建造部門は」

 

 目の前には、開けっ放しになっている、観音開きの巨大な鉄の扉が2つ。どこかの城の門を彷彿とさせる感じだ。扉のすぐ右横にはパネルが設置され、扉の上には、00:00:00 と表示された、タイマーのようなものがかかっている。そしてここにも、資源の管理タブレットがある。

 観音扉の左側には、同じく鉄製の引き戸がある。が、がっしりしていて開きそうもない。

 観音扉の右側は、白いカーテンによって仕切られていた。

 

 若葉マーク付きの帽子を被った妖精が、堺のズボンの裾を引き、観音扉のほうへ連れて行こうとしている。

 

(なるほど、そっちか)

 

 妖精について、観音扉に向かう。扉の中には、何やら訳のわからない機械がごちゃごちゃ置かれ、その真ん中に何もない空間ができていた。

 妖精がパネルを指差しているので、それに近付いてみた。

 

 パネルには、030 という数字が4つ。それぞれの隣に、資源の記号が描いてある。そして、パネルの一番下に、「建造開始」という文字が光っている。

 

「どうしよう?多分この数字は、投入する資源の量でしょ…」

「ですね…。まあ、最初ですし、この数値のままでいいんじゃないですか?」

「そうだな…」

 

 まあ、やりながら学んでいくとしよう。

 光っている「建造開始」を押す。その途端、扉の向こうから、ドサドサッ!と大きな音がした。驚いて見ると、どこから現れたのやら、何もなかった空間に、木箱やらドラム缶やらが積み上がっていた。最後に、小さな歯車のようなものが、かさっ という音をたて、落下した。上から降ってきたらしい。

 観音扉が ぎぎぃー… と音をたて、ひとりでに閉まっていく。バタン!と大きな音をたてて閉まると、ガチャリと内側から鍵がかけられた。そして、タイマーが バチッ! という音とともに、表示を変える。

 

「00:20:00」

 

 そして、カチッ、カチッという音をたて、カウントダウンを始めた。

 

「…これで、いいのかな?」

「みたいですね」

 

 そう会話した途端、頭の上で、ンデロリーン♪ と大きな音がする。

 

「何だ、今の?」

「さあ…。とにかく、司令部に戻りましょうか」

「そうだな」

 

 そして、堺と吹雪は連れ立って、司令部へと戻っていった。

 戻り際に、資源の管理端末を見ると、全ての資源の数字が「270」に変化し、開発資材も「4」に減少していた。

 

 司令部に戻ると、大淀がニコニコして待っていた。

 

「提督、作戦成功しました」

「あれ作戦って言えるのか?」

「まあそれは…ね?そんなことより、成功報酬が届くんですよ」

「そうか、いつ来るんだ?」

「2、3日後だそうです。その間に他の任務もやってしまいましょう!」

「ああ。だが今は…持ってきた荷物広げるよ…」

 

 結局、荷物すべての展開に1時間くらいかかってしまった。

 

 吹雪とともに工厰に来てみると、既にカウントは0、パネルには 建造完了! の文字が踊っている。

 扉の取っ手に手をかけ、向こうへと押し開ける。途端、中から大量の白い煙が流れ出してきた。

 

「うわ!」

「きゃあっ!」

 

 2人して、とっさに身を縮める。

 煙が晴れると、そこには1人の艦娘がいた。吹雪と大して変わらない身長で、半袖セーラー服型のワンピースを着ている。桃色の髪が印象的だ。

 

「はじめまして、子日(ねのひ)だよぉ!名前、読みづらくなんかないよね?」

 

 見かけ相応の、舌っ足らずな声だ。駆逐艦か?

 

 新たな仲間を従え、再び司令室へ。さっきの端末の「編成」をタップし、吹雪と、子日を第1艦隊に編成した。

 編成し終えた直後に、またあの ンデロリーン♪ が鳴る。あれは何なのだろう?

 

「大淀、今のチャイム?は何なんだ?」

「あれは、受注中の任務を達成した、という合図ですよ」

 

 そうか、それでさっきは建造開始直後に鳴ったのだ。

 どうやって感知しているのかはさておき、堺は2人を連れて、出撃拠点へ向かった。

 

 なんで拠点が分かるかって?横須賀の鎮守府で一度見学しているからだ。出撃拠点や工厰の構造は、横須賀と大して違わないから、ある程度分かるのだ。

 

 艤装を装着した2人が、滑り台のような形のカタパルトに乗る。

 とその時、堺の体が光に包まれた。何が起きたのかも理解できぬまま、堺の体は艦隊旗艦に選定した吹雪へと、吸い寄せられていく。そして。

 

 …気がつくと、堺は見知らぬ所にいた。真っ正面に操舵輪と、金色に光る羅針盤がある。その他にも、何に使うのかよくわからない機械が多数あって、それらを大勢の、人間…のような何かが操作している。よく見ると、操作しているのは全て妖精だった。

 

 そこでようやく理解が追い付いた。どういう原理でかは知らないが、俺は妖精にされて、吹雪の艤装の中…光景からして多分、艦橋…にいるのだ。

 艦娘の指揮ってこうやって取るの?

 

 わからないことだらけだが、やってみるしかあるまい。

 声に出して、指示を出す。

 

「第1艦隊全艦、出撃だ!泊地正面海域を護れ!」

 

 すると、どこからか2人の声がする。

 

「出撃です!みんな、準備はいい?」

「待ってましたぁ!」

 

 こうして、俺たちの初めての出撃は始まった。

 

 




1話で収まるかと思ったが、無理だった…仕方ない。

残りは次話に収めます!


あと、004の投稿の際に質問箱を活動報告に設置します。遠慮なくご利用下さいませ。

それでは、次回もよろしくお願いします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。