とある提督の追憶   作:Red October

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…ここまでのあらすじ…

少女に司令やら提督やら呼ばれる、という妙な夢を見て、日本国海上護衛軍・艦娘部隊に配属された、新人士官・堺修一。彼は悪戦苦闘しつつも、「あ号艦隊決戦」を見事成功させた。帰還した堺を待っていたのは、夢に出てきた少女の1人、雪風だった。

18年1月9日、「大本営」表記を「総司令部」表記に改めました。


021 提督と、あ号艦隊決戦の後

「提督、総司令部からの作戦成功報酬が届きました」

 

 「あ号艦隊決戦」が終わって4日後。

 タウイタウイ泊地は何事もなく、運営されていた。もっとも、堺が必死に艦隊の出撃にあたるのに対し、大淀をはじめとした泊地残留組が、事務仕事の処理をやっていたからだが。

 

 ちなみに、堺は書類仕事…というより、事務系の仕事全般をやらない。戦術はなかなか鋭いものを使うこともある堺だが、どうしたのか事務処理能力は壊滅しており、書類仕事どころか執務机の整理整頓もできないレベルである。

 「天は二物を与えず」とは、こういうことを言うのだろうか。

 

「おう、そうか。目録はあるかい?」

「はい、ここに。お読みになりますか?」

「うん、ありがとう」

 

 大淀の手から目録を受け取り、読み進める堺。

 

「ええっと、資源各1000、食料品類(別途表参照)、甘味類(同上)、釣竿…なんでこんなもの?生鮮食品は自分で釣り上げろってか…。あとは、日用雑貨、建築資材、ああこれは空母寮用だったな、嗜好品…ん?」

 

 見間違いかと思い、もう一度読む。

 

「嗜好品」

 

 変だな、艦娘にとっての嗜好品たる甘味類があったのに、なぜわざわざ分けて書いてあ…まさか!?

 

「な、なあ大淀、嗜好品の包みってどれか分かる?」

「えーと…こちらですね」

 

 渡されたのは、何の変哲もない、普通のビニール袋。

 開けてみると、入っていたのは…これであった。

 

「紅茶の葉」

 

 この後、どうなったかは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、金剛の淹れてくれる紅茶は旨いな!付け合わせのお菓子とかも最高だし!」

「もう、テートクー!褒めてくれても、何も出ないですヨ?」

「ただ、暑いところで熱い紅茶、というのはちょっとアレだな、暑すぎて仕方ない」

「Oh…そこは失敗したデース。今度はアイスティーにするネ!」

 

 見事にティータイム開催となった。

 

 

 

 

 

 

 

 紅茶で一息ついた後。

 

「提督、先ほど総司令部から召集指令が届きました」

「召集?それじゃ、向こうまで行かなきゃならないって訳か?」

「はい、近々発動する作戦の説明等のため、防衛省まで出頭しろ、との命令です」

「やれやれ、本土に戻らないといけないのか。面倒だな…Sky○eとかで許してもらえないのかねぇ…」

「そもそもここ、携帯電話用の基地局がありませんよ」

「畜生めぇ!」

 

 田舎の弊害である。

 せめて、何か資金になるものがあれば、基地局くらいどうにかなりそうだと思うのだが…。残念ながら、石油や石炭のような、換金できる資源は産出しないのである。

 

「しょうがないな。迎えは来るのか?」

「はい、飛行艇を飛ばす、とのことです」

「九七式大艇は勘弁してくれよ…」

 

 日本軍機の例に漏れず、九七式大艇も防弾設備に乏しい。というか、敵の爆撃機ですら脅威となる有り様である。

 敵機に出くわしたら、命取りである。

 

「2日後にここに来る予定です」

「そうか、わかった。準備しなきゃだな」

 

 この時、提督室の戸がノックされた。

 

「どうぞ」

「失礼するぜ」

 

 入ってきたのは摩耶。いつになく、ご機嫌な顔である。

 

「妖精さんたちから伝言だ。巡洋艦寮が落成して、創立記念式やるから来てほしい、とさ」

「できたのか!それじゃ、見に行くとしよう」

 

 

 

………

 

 

「ではここに、タウイタウイ泊地・巡洋艦寮の完成を宣言する!」

 

 堺の宣言とともに、加古が紅白のテープを切断する。

 直後、クラッカーの音が弾けた。

 

 巡洋艦の艦娘たちが歓声を上げながら、寮に入っていく。その様子を見ながら、堺は吹雪に声をかけた。

 

「駆逐艦寮、使った感じはどうだい?」

「はい、これまでのプレハブと比べたら、天と地ほどの差があります!他の子たちも喜んでいます!」

「そうか、そりゃよかったよ。不評だったらどうしようかと思ってたんだ」

「でも司令官、クーラーはまだなのでしょうか…」

「うーん、申し訳ないんだけど、クーラーの配備は後になりそうだ。発電しながら、お金も稼げたらいいんだけど…なにぶん、ブルネイに石油の7割くらい頼ってる状態じゃなぁ。かといって、砲兵工厰や鉄山があるわけでもなし…。やりたいことはあるのに、お金がないってのは、つらいもんだな、ほんとに」

 

 頭をかき、堺は視線を巡洋艦寮に戻す。

 

「だが、いつか必ず配備するよ。それまで、もう少し待っててくれ」

「わかりました、お待ちしてます!」

「提督、私たちの寮はいつになるんです?」

「空母と戦艦の寮は、すまない、もう少し先だ。空母寮建設用の資材が今日、ちょうど届いたから、これから作っていく形になるよ」

「では、もうしばらくですね」

 

 赤城も、寮の配備が待ち遠しいようだ。

 

 

 

 

………

 

2日後。

 

 タウイタウイ泊地に、大本営へと向かう飛行艇が着水した。

 

「これは…見たことない機体だな?」

 

 よく見る九七式飛行艇と違い、目の前に浮いている飛行艇は、胴体が細長いくせしてやたらと高い位置に操縦席があり、そのせいでなんだか飛行が難しそうに見える。敵機のいい的になりそうにも見える…が、周囲に機銃がいくつも突き出ており、近寄るのは困難だ。20㎜機銃すら配備されている。

 

 この機体の名は、二式飛行艇。二式大艇とも呼ばれる、日本製の飛行艇としては最高レベルの傑作飛行艇だ。

飛行艇としては異常な足の速さと、十分な防空火器、日本機としてはかなりの重防御を兼ね備え、連合軍からは「フォーミダブル(恐るべき)」と言われた機体である。

 

「それじゃ、行ってくるよ。留守は任せた!」

「提督、お気をつけて」

 

 提督としての泊地管理・運営権限を伊勢に移行し、堺は二式飛行艇に乗り込む。

 

 堺を乗せた二式飛行艇は、赤城より発進した零戦21型2機の護衛を受け、暁の光に機体を輝かせながら、日本本土に向けて飛び立った。




はい、というわけで、今回は戦闘は一切ありませんでした。

2、3話くらい、戦闘なしの展開が続くかと思います。とはいっても、十一号作戦の発動が近いので、嵐の前の静けさなのですが。

二式飛行艇はたしか、国内に現物が残っているのでしたっけ?
見に行く機会があるなら、是非とも見てみたいです。

それでは、次回もよろしくお願いします!



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