少女に司令やら提督やら呼ばれる、という妙な夢を見て、日本国海上護衛軍・艦娘部隊に配属された、新人士官・堺修一。彼は悪戦苦闘しつつも、「あ号艦隊決戦」を見事成功させた。帰還した堺を待っていたのは、夢に出てきた少女の1人、雪風だった。
18年1月9日、「大本営」表記を「総司令部」表記に改めました。
「提督、総司令部からの作戦成功報酬が届きました」
「あ号艦隊決戦」が終わって4日後。
タウイタウイ泊地は何事もなく、運営されていた。もっとも、堺が必死に艦隊の出撃にあたるのに対し、大淀をはじめとした泊地残留組が、事務仕事の処理をやっていたからだが。
ちなみに、堺は書類仕事…というより、事務系の仕事全般をやらない。戦術はなかなか鋭いものを使うこともある堺だが、どうしたのか事務処理能力は壊滅しており、書類仕事どころか執務机の整理整頓もできないレベルである。
「天は二物を与えず」とは、こういうことを言うのだろうか。
「おう、そうか。目録はあるかい?」
「はい、ここに。お読みになりますか?」
「うん、ありがとう」
大淀の手から目録を受け取り、読み進める堺。
「ええっと、資源各1000、食料品類(別途表参照)、甘味類(同上)、釣竿…なんでこんなもの?生鮮食品は自分で釣り上げろってか…。あとは、日用雑貨、建築資材、ああこれは空母寮用だったな、嗜好品…ん?」
見間違いかと思い、もう一度読む。
「嗜好品」
変だな、艦娘にとっての嗜好品たる甘味類があったのに、なぜわざわざ分けて書いてあ…まさか!?
「な、なあ大淀、嗜好品の包みってどれか分かる?」
「えーと…こちらですね」
渡されたのは、何の変哲もない、普通のビニール袋。
開けてみると、入っていたのは…これであった。
「紅茶の葉」
この後、どうなったかは言うまでもない。
「いやぁ、金剛の淹れてくれる紅茶は旨いな!付け合わせのお菓子とかも最高だし!」
「もう、テートクー!褒めてくれても、何も出ないですヨ?」
「ただ、暑いところで熱い紅茶、というのはちょっとアレだな、暑すぎて仕方ない」
「Oh…そこは失敗したデース。今度はアイスティーにするネ!」
見事にティータイム開催となった。
紅茶で一息ついた後。
「提督、先ほど総司令部から召集指令が届きました」
「召集?それじゃ、向こうまで行かなきゃならないって訳か?」
「はい、近々発動する作戦の説明等のため、防衛省まで出頭しろ、との命令です」
「やれやれ、本土に戻らないといけないのか。面倒だな…Sky○eとかで許してもらえないのかねぇ…」
「そもそもここ、携帯電話用の基地局がありませんよ」
「畜生めぇ!」
田舎の弊害である。
せめて、何か資金になるものがあれば、基地局くらいどうにかなりそうだと思うのだが…。残念ながら、石油や石炭のような、換金できる資源は産出しないのである。
「しょうがないな。迎えは来るのか?」
「はい、飛行艇を飛ばす、とのことです」
「九七式大艇は勘弁してくれよ…」
日本軍機の例に漏れず、九七式大艇も防弾設備に乏しい。というか、敵の爆撃機ですら脅威となる有り様である。
敵機に出くわしたら、命取りである。
「2日後にここに来る予定です」
「そうか、わかった。準備しなきゃだな」
この時、提督室の戸がノックされた。
「どうぞ」
「失礼するぜ」
入ってきたのは摩耶。いつになく、ご機嫌な顔である。
「妖精さんたちから伝言だ。巡洋艦寮が落成して、創立記念式やるから来てほしい、とさ」
「できたのか!それじゃ、見に行くとしよう」
………
「ではここに、タウイタウイ泊地・巡洋艦寮の完成を宣言する!」
堺の宣言とともに、加古が紅白のテープを切断する。
直後、クラッカーの音が弾けた。
巡洋艦の艦娘たちが歓声を上げながら、寮に入っていく。その様子を見ながら、堺は吹雪に声をかけた。
「駆逐艦寮、使った感じはどうだい?」
「はい、これまでのプレハブと比べたら、天と地ほどの差があります!他の子たちも喜んでいます!」
「そうか、そりゃよかったよ。不評だったらどうしようかと思ってたんだ」
「でも司令官、クーラーはまだなのでしょうか…」
「うーん、申し訳ないんだけど、クーラーの配備は後になりそうだ。発電しながら、お金も稼げたらいいんだけど…なにぶん、ブルネイに石油の7割くらい頼ってる状態じゃなぁ。かといって、砲兵工厰や鉄山があるわけでもなし…。やりたいことはあるのに、お金がないってのは、つらいもんだな、ほんとに」
頭をかき、堺は視線を巡洋艦寮に戻す。
「だが、いつか必ず配備するよ。それまで、もう少し待っててくれ」
「わかりました、お待ちしてます!」
「提督、私たちの寮はいつになるんです?」
「空母と戦艦の寮は、すまない、もう少し先だ。空母寮建設用の資材が今日、ちょうど届いたから、これから作っていく形になるよ」
「では、もうしばらくですね」
赤城も、寮の配備が待ち遠しいようだ。
………
2日後。
タウイタウイ泊地に、大本営へと向かう飛行艇が着水した。
「これは…見たことない機体だな?」
よく見る九七式飛行艇と違い、目の前に浮いている飛行艇は、胴体が細長いくせしてやたらと高い位置に操縦席があり、そのせいでなんだか飛行が難しそうに見える。敵機のいい的になりそうにも見える…が、周囲に機銃がいくつも突き出ており、近寄るのは困難だ。20㎜機銃すら配備されている。
この機体の名は、二式飛行艇。二式大艇とも呼ばれる、日本製の飛行艇としては最高レベルの傑作飛行艇だ。
飛行艇としては異常な足の速さと、十分な防空火器、日本機としてはかなりの重防御を兼ね備え、連合軍からは「フォーミダブル(恐るべき)」と言われた機体である。
「それじゃ、行ってくるよ。留守は任せた!」
「提督、お気をつけて」
提督としての泊地管理・運営権限を伊勢に移行し、堺は二式飛行艇に乗り込む。
堺を乗せた二式飛行艇は、赤城より発進した零戦21型2機の護衛を受け、暁の光に機体を輝かせながら、日本本土に向けて飛び立った。
はい、というわけで、今回は戦闘は一切ありませんでした。
2、3話くらい、戦闘なしの展開が続くかと思います。とはいっても、十一号作戦の発動が近いので、嵐の前の静けさなのですが。
二式飛行艇はたしか、国内に現物が残っているのでしたっけ?
見に行く機会があるなら、是非とも見てみたいです。
それでは、次回もよろしくお願いします!
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