とある提督の追憶   作:Red October

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…ここまでのあらすじ…

日本国海上護衛軍の新人士官・堺修一は、教育過程卒業と同時に艦娘部隊に配属され、タウイタウイ泊地の提督となる。南西諸島での作戦の最中に深海棲艦隊の侵攻を受け、艦娘部隊司令部は堺に対してある作戦を命令することを決めた。

18年1月9日、本文中の「大本営」表記を「総司令部」表記に変更しました。


017 提督と、あ号艦隊決戦!(1)

「あ号艦隊決戦?」

 

 パラオ艦隊救援から戻ってきた、その翌日。

 

 タウイタウイ泊地・艦隊司令部にて、提督たる堺の声がする。

 

「はい。総司令部から通信がありました」

 

 それに答えるのは、大淀。

 

「先日のパラオ艦隊救出に際して、敵の大規模な艦隊が沖ノ島方面に来襲したとの報告がありました。パラオ艦隊はその敵によって、沖ノ島海域に閉じ込められていたようです。現在までに入っている情報によりますと、敵には未確認の新型戦艦がいると見られ、さらに空母部隊も展開している、とのことです」

「その空母部隊ってのは、パラオの連中を助けた時に俺らが叩いた奴らかな?」

「詳しくは分かりませんね…別の機動部隊が展開している可能性もあります」

「むう…。まあ、奴らの戦力は無尽蔵としか思えないレベルだ、別の隊がいてもおかしくないな」

「全くです。これほどの敵を攻略しなければならない以上、艦隊の全力出撃が必要となるでしょう」

「そうだな。これは、主力を出すしかないだろう。それと、「あ号艦隊決戦」命令受諾を総司令部に知らせてくれ」

「かしこまりました」

 

 こうして、堺の率いるタウイタウイ艦隊は、沖ノ島海域に出撃することとなった。

 

 

 

「…というわけで」

 

翌日、タウイタウイ泊地講堂。堺の声のみが響く。

 

「ここに、あ号艦隊決戦を発令する!作戦目標は、沖ノ島周辺に展開している敵深海棲艦部隊の撃退だ!…ではこれより、出撃する艦隊の編成を発表する。旗艦伊勢!以下、摩耶!金剛!山城!瑞鳳!赤城!以上6名だ!」

 

 その30分後、堺艦隊は出撃した。

 

 

 

「…ふむ…」

 

 出撃してから1時間が経過。堺艦隊は今のところ、順調に進撃している。つい先ほど、戦艦ル級を旗艦とする敵艦隊を撃破したところだった。その残骸が周囲に点在し、黒煙は青空を塗り潰さんばかりにもくもくと立ち上っている。艦娘たちにも多少の被害が出ていた。

 

「各艦、損害を知らせ」

「了解しました!」

 

 堺の命を受け、通信長がモールス打鍵機を叩き始める。打ち終えてからしばらくすると、次々とモールス信号が入ってきた。5分くらいかけて全て解読した後、通信長が席に振り返り、報告する。

 

 

「現在のところ、本艦と摩耶、瑞鳳には被害なし。山城が小破、金剛と赤城は小破未満(カスダメ)とのことです。全艦、戦闘続行に支障なし。それと、山城から、各艦は我を省みず前進し、敵を撃滅すべし、と打ってきました」

「おいてけってのか?そいつは頂けんな。通信長、山城の発揮可能な速度はどのくらいか聞いてくれ」

「はっ!」

 

 

3分後

 

 

「第4戦速までならなんとか、とのことです」

「わかった。全艦に告げてくれ。このまま進撃する。伊勢に続け、と」

「はっ!」

 

 ここで、艦長が割り込んだ。

 

「提督、羅針盤を」

「あ、すまない」

 

 堺が黄金の羅針盤に手をかけ、回す。しばらく回ったあと、針は…

 

 

「ほとんど真東、と出たな」

「両舷前進原速、取り舵60!」

「単縦陣で伊勢に続け!」

 

 艦隊は、東進を開始した。

 

「前回、パラオの艦隊を助けた時は、ここを西に行ったんだったな…」

 

 艦橋に、堺の独り言が響く。

 

 

 

 30分ほど前進した頃。

 

「山城より入電!『本艦索敵機ガ敵艦隊発見セリ。12時方向、距離1900、速力ハ推定30ノット!コチラニ突ッ込ンデキテイル、不幸ダワ』と」

「何!?1900!?」

 

 堺は、ぎょっとした。

 

「近い。しかも明らかにこちらに気付いていますな」

 

 伊勢の艦長妖精も、危機を直感していた。

 

「全艦戦闘配置急げ!航空隊発進せよ!」

「総員戦闘配置!」

 

 航空隊の発進を下令する堺。しかし。

 

「提督、敵との距離が近すぎます!航空隊発進間に合いません!」

 

 まさかの事態となった。

 

「ちぃ!?なら、伊勢の瑞雲だけでも!」

「は!」

 

「艦載機、発艦急げ!」

 

 瑞雲なら間に合うらしい。

 騒然となった伊勢の艦橋の中で、堺はひとりごちた。

 

「しかし、どうやって気づいたんだ…」

 

 だが、その疑問に答えが出る前に。

 

「12時方向、水平線上に敵影捕捉!近い!」

 

 観測長が、敵艦隊の接近を報じた。

 

「くそっ!速い!全艦、第2戦速!」

「全艦、両舷前進第2戦速!」

 

「砲戦用意!」

「弾種通常弾、12時方向、仰角プラスマイナス0!」

 

 砲身に仰角がかかっていないという状態が、今の堺艦隊の危機を端的に物語っている。

 

「敵との距離1000!敵艦種判明、先頭は、黄色いオーラを放つ重巡リ級!」

「黄色!?(これまで出くわしたのはオーラなしか、赤いオーラの個体…)新型か!」

 

 しかも、新型の敵艦だとの報告である。

 

「砲撃用意よし!」

「統制砲撃は間に合わない、各個に砲撃!弾着観測は任せた!」

「承知!」

 

「撃ち方はじめ!」

 

 

堺艦隊 vs 深海精鋭水雷戦隊

 

単縦陣 vs 単縦陣、反航戦

 

 

 

 金剛、伊勢の主砲が火を吹く。一拍遅れて山城も砲撃。摩耶も撃った。

 水柱が複数立つ…が、それを突き破ってリ級が飛び込んでくる。

 こちらを殺してやる、という気を纏っているのが、ありありとわかる。

 

「くそ、副砲も…いや、全武装使用自由(オールガンズフリー)!」

「撃て!撃ちまくれ!」

「瑞雲隊、空中にて待機!このままでは誤射や誤爆の危険がある、すれ違ったところに突撃しろ!」

「敵リ級発砲!」

 

 既にこちらとの距離は500を切っている。これだけ肉薄しての砲撃だと、もはや装甲などないに等しい。

 

「Shit!テートクに貰った大事な装備が!」

「金剛大破!リ級の砲撃です、初弾から当てやがりました!」

「何!?」

 

 想像を絶する報告に、堺が一瞬気を取られたのが、運の尽きだった。

 

「敵リ級魚雷発射!目標は本艦…いや、山城!」

「くそ!避けてくれ!」

 

 だが、現実は非情だった。

 

 至近距離で放たれた魚雷は、4本全てが山城に、吸い込まれるように命中。

 

鼓膜を突き破る大音響とともに、雲を吹き飛ばすような爆風と、天を焦がすがごとき大火球が発生する。

 

「山城、爆発轟沈!」

「…ッ!おのれ…!」

「くそ、何やってる!死ぬ気で当てろ!」

 

 堺艦隊の中を、リ級が突破。混乱する堺艦隊に、後続の深海棲艦が突入する。

 

「敵後続艦、魚雷連続発射!避けきれません!」

「……!!!」

 

 瞬間。

 

 堺には、全てがコンマ送りで再生されているように見えた。

 

 

 爆発と、水柱。

 

 

 なんとか魚雷を避ける伊勢。

 

 

 深度調整を誤ったか、伊勢の真下を通過する魚雷。

 

 

 高角砲で魚雷を撃破し、突破口を開く摩耶。

 

 

 水柱の向こうに見えなくなる赤城。

 

 

 ちぎれて宙を舞う、瑞鳳の紅白のハチマキ。

 

 

 

 

 

 

 …やがて、全てが終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 嵐のように、堺艦隊を駆け抜けた深海棲艦精鋭水雷戦隊は、堺艦隊の後方はるか彼方に去っていくところである。

 

 

 そして、なんとか無事にやり過ごした伊勢、その艦橋から堺が見たものは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見るも無残に壊滅した、味方の艦隊だった。

 

 

 摩耶は身軽な上に速力もあったため無事だった。砲のすすで顔が黒くなっているが。

 

 

 

 

 

 

 

 そして他は………

 

 

 

 

 

 

 燃料が漏れている艤装を引きずるようにして、近づいてくる金剛。主砲の砲身はことごとくへし折れている。

 

 

 

 

 

 

 大爆発の中心部に倒れる人影。浮いてはいるが、背中の巨大な艤装は爆砕され、主砲6基のうち4基までがなくなってしまっている。

 魚雷が弾薬庫に引火して爆発したのだ。

 

 

 

 

 

 

 そして、片方の手で瑞鳳を肩に抱え、もう片方の手で、弦の切れた弓を杖代わりにして、海面に立つ赤城。瑞鳳は気絶したか、ぴくりとも動かない。

 その赤城も、飛行甲板は半分なくなっており、艦載機の運用はどう見ても不可能である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どう取り繕っても、全艦大破。

 

 

 戦闘が可能かどうかは、素人が見ても明らかだった。

 

 

 

 

 

「…全艦、撤退せよ」

「はっ!発光信号にて送信します!」

 

 こうして、堺艦隊の、沖ノ島沖への初出撃は、惨敗に終わった。

 

 

 彼と、彼女らは知るよしもない。これが、まだ、悪戦苦闘の始まりにしか過ぎなかったことを。




…お久しぶりでございます、Red Octoberです。
長らくお待たせして申し訳ございません。忙しかったもので…


今回の堺艦隊の進行ルートは、ゲーム的に言うと、2-4の、A→K→L→O です。そして、Oで大破撤退でございます。


これは、うp主が攻略当時、1回目の出撃でたどったルートであります。そしてOで大破撤退したところまで同じです。もちろん、主人公≒うp主 のタグ通り、当時のデータを調べて、出撃編成から、大破したメンバーまで同じにしました。

あの頃は、昼のリ級flagshipですら怖かった…。今でも怖いですけ\シャッシャッシャッドーン!/ あぁ嫌ぁ、イヤいやイヤいや嫌ぁ!(久々の、総統閣下の空耳)


それでは、次回もよろしくお願いします!
悪戦苦闘ぶりをうまく描写できるかな…頑張ります!

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