Below that sky. あの空の下へ   作:月湖

13 / 15
第3章 干物魔術師の道
第13話


 ソード・ワールドの小説はいくつもあったけど、私は全てを読んだわけじゃない。ちゃんと読んだものはリプレイのキャラを元にしたもの(それも第三部まで)や短編集と長編のシリーズを何種類か。それから、読者参加企画のアドベンチャーとシアター、それにツアーズくらい……って、改めて考えてみるとかなり雑多に読んでたわ、私。

 

 でもなあ、アドベンチャーとシアターは一部しか内容覚えてなくて、追加された魔法くらいしか確実に覚えてないし、フォーセリア世界の展開が終わった原因らしい魔法戦士のシリーズは一番最初のくらいしか読んでないから、色々知らないし。

 

 そんな風に読んだといっても、どれも随分と昔の話な上に斜め読みしていたせいか、ストーリーはうろ覚えどころかタイトルもまともに覚えていないものの方が多いわけで。

 

 で、だ。その小説達の中に確かゴーレムがタイトルに入ったものがあった気がするけど、なんだっけ。

 ゴーレムは弁明しない……いや違う、弁明せず? だったような。何かミステリーっぽいモノだったような気がするんだけど、さっぱり覚えていない。

 ミステリーってことは、手を付けていなかった迷探偵デュダシリーズか、シナリオ集……って、思い出した!

 ああ、短編集の『ゴーレムは証言せず』だわ! 挿絵がそれまでのイラストレーターさんと違ってちょっとがっかりしたヤツだ。

 まあ、タイトルを思い出せたところで、こんなことを現実逃避に考えてしまうようなカルチャーショックを受けている私には全く役に立たないわけで――――

 

 

 

 

 

 

 王都でも珍しい大きな透明板ガラスの装飾に色ガラスを組み合わせたステンドグラスがはめこまれた窓。

 その窓の外には長閑で美しい湖を望み、室内は元の世界で言うバロック調の絢爛なインテリアでまとめられている。

 

 前に来たときよりも豪華になってる……

 このステンドグラスの部分とか、この窓には無かったはず。

 

 こんな辺境の村でこれだけ揃えるなんて、一体いくら掛かったんだろう。よくお金と品物を調達できたものだ。

 何かマジックアイテムでも作って、売りに出しているんだろうか。付与魔術は専門じゃないって言ってたけどできなくはないらしいし、とんでもないものを作って安易に売りに出していないと良いんだけど……と考えた私は、ちょっと胃が痛くなった。

 

 私が座るボルドーカラーの優美なソファセットの横では、クラシカルな丈の長い黒色のメイド服を身につけた、背が高くてスタイルの良い金髪のメイドさんが、陶器のティーポットでカップにお茶を注いでいる。

 その隣から同じお仕着せを着た小柄でスレンダーな茶髪の少女メイドが、かわいらしい焼き菓子の載せられた皿をサーブしてくれた。

 

 このタイプが違うメイドさん二人は、実はフレッシュゴーレムである。

 他に女性型がもう二体と、男性型がさっき玄関で出迎えてくれた渋いおじさまな執事を含めて四体、合計八体もここにはゴーレムがいる。

 外見年齢と体型にそれぞれ差あるけれど、どのゴーレムも人としてみると整いすぎるほど美しい見た目をしている。

 実際に目にするとこれは衝撃だ。知識として、ここではフレッシュゴーレムが使用人代わりになっていると知っていたとしても『ゴーレム、とは?』とか問いたくなるレベルの出来事だ。

 

 ゴーレムは本来、鉱物や金属、人や動物の死肉や骨でできている意志のないロボットみたいなもの。

 それぞれの材料ごとにモンスターレベルも違うし、主人の命令だけを忠実に実行する魔法物だ。

 細かい作業が苦手で簡単で簡潔な命令しか理解できず、何でもかんでも力任せという、使い勝手の悪いモノ。

 そしてフレッシュゴーレムは、Fresh(新鮮)ゴーレムじゃなくて、Flesh(死肉)ゴーレム。

 早い話がフランケンシュタインのようなものなのだ。

 

 ……あれ。もしかしなくても、ここのゴーレムは元を正せば死体?

 幽霊屋敷っていう、ここの呼び名あながち間違ってないんじゃ……

 

 ま、まあ、それはともかく。そういったモノのはずなのに、ここのゴーレムは細かい作業もしてるし、命令は全部判断できてるみたいだし、意志もあるっぽい。

 これどう見てもゴーレムっていうより、ファンタジーの広義的に言う自動人形(オートマータ)な類の気がする。

 でも、フォーセリア世界に自動人形なんていたっけ?

 

 うーん……このゴーレム達が特別製なのか、それともコレを操る私の目の前のこの男が凄いのか。

 

 と、カルチャーショックによる現実逃避から始まった変な悩みを抱えつつ、私の対面で本を読みながら優雅に茶を嗜む彼をそれとなく見る。

 

 彼がエリオルトレーベン・アズモウル――――氷漬になっていた古代人の魔導師だ。

 

 紺色がかったストレートの長い黒髪を首の後の辺りで一つにまとめて、光の加減で薄い赤にも見える薄紫の虹彩が印象的な瞳に、細めの銀のアンダーリム眼鏡をかけている。整った顔をしているのに、目つきが険しくて神経質そう。

 髪の色が銀でないことがちょっと惜しいけど、ステレオタイプな参謀系眼鏡キャラっぽい。

 見た目の年齢は三十代半ばくらい。でも、実際はいくつだったっけ……確か、かなりの年齢だったような。

 ローブにも見える造りの黒い軍服っぽい服に、カストゥールの所属一門を示すものらしい濃緑色のマントを左肩に流している。

 

 ちなみに彼のイメージイラストは製作者であるマスターが描いていた。

 他にも重要NPCは男女・モンスター問わず彼女が描いていたけど、そのほぼ全てに彼女好みの要素がどこかしらに入っていた覚えがある。

 エリオルトの場合は長髪・眼鏡・腹黒・軍服って所かな。うん、性格は俺様の方が正しい気がするけど、見た目のコンセプトは腹黒で間違ってないはず。

 

 でもさ、マスター。

 あくまで、フォーセリアは中世っぽい和製ファンタジー世界だから、気にしたら負けなのはわかってる。

 そして、私はその参考にしたというカストゥールの短編小説の内容を知らないからわからないんだけど……

 

 時代考証どこ行った!?

 

 なんで、古代王国の魔導師なのに軍服で、しかもSS制服っぽいんだよ……確かにデザインがかっこいいのは認めるけど、溢れ出る違うそうじゃない感。

 おまけに眼鏡をフルリムじゃなくて、デザイン重視にも程があるアンダーリムにしたのは単純に描きやすかったからじゃ……

 

 いやまてよ?

 そういえば、マスターの旦那もアンダーリムかけてたっけ。

 なるほど……萌えと好みはいくつになっても変わらないのか。

 

 そんなことをしみじみ思いなから、自分の前に出された琥珀色の液体が注がれたカップに口を付けた。

 

「……何だ?」

 

 私が考え事をしながらずっと見つめていたせいか、彼が胡乱げに視線を手元の本からこちらへ移した。

 そんな彼の口から発せられた言葉は、共通語ではなく下位古代語。発音もとてもキレイなものだ。

 

「エリオルトという存在の不条理についてちょっと悩んでいたわ」

 

 ため息とともに彼と同じように下位古代語でそう言って、私はカップを皿に戻す。

 一応、共通語でも理解してもらえるけど、細かいニュアンスがこっちでないと通じない。

 

 カストゥールでは下位古代語は、今で言う共通語のように日常使用されていたそうだ。

 今の私達が話す共通語は、蛮族と彼等が呼んでいた別の種族が使っていた言葉に近いらしい。

 そして、上位古代語は神々から授けられた神の言葉を10人の系統の祖と言われる賢者が研究した魔法語だから、実際に公式文書用の公用語にはしていたけれど、日常的には使用はしないものなのだとか。

 

「不条理……か。ならばユーチャ、貴様の存在も大概にして不条理だろう」

 

 目を細めながら、呆れたようにそう彼は言った。

 

「まあ、ねえ」

 

 普通は人間同士の間から、別の種族なんて生まれないだろう。

 でも、生命の神秘、遺伝子の妙により生まれてしまった取り替え子(チェンジリング)のエルフなんだから仕方ない。

 

 思わず目をそらしてごまかすように、自分の皿にあるマカロンのような淡いピンク色の小さな焼き菓子を口に放り込む。

 

 うん、見た目通り、マカロンの苺味だった。挟んであるクリームも絶妙な甘さで口の中で軽くほどける。

 お茶も香りが良くて美味しいし、これもゴーレム謹製とか、やっぱりおかしい。高性能過ぎるだろう。

 

「……お互い(ことわり)から外れているのだ。今更、条理を考えても詮無いこと」

 

 馬鹿馬鹿しいとばかりに、また本の方にエリオルトは視線を移す。

 

 理から外れている――普通とは違うという意味で……私はありえない取り替え子で、エリオルトは滅んだはずの古代人。

 

 古代人であるエリオルトは、今の人間と種族が違う。

 神が創造した始まりの人間種だから、今の人間よりも魔力、生命力、精神力が比べ物にならないほど高い。寿命だって魔法も使わずに三百年くらいとありえない長さらしい。

 

 そんな古代人達の国は度々、巨人や古代竜などの外敵により何度か興亡を繰り返していて、彼が生まれる前にも、単眼の巨人族による大破壊で一度滅亡しているそうだ。そして、彼が生まれた頃にようやく復興した王国が、後々まで続くカストゥール王国らしい。

 

 興味深いことに、この出来たばかりのカストゥール王国には貴族や市民という身分はなかった。例外は魔法を扱えない蛮族に対してくらいで、同族への仲間意識が高かったみたい。

 そして統治は、10人の系統の祖と言われる賢者の血を引く、それぞれの系統一門の当主の中から選挙で選出される選王と残りの系統一門の当主による議会制。

 社会構造的には、元の世界のローマ時代に近かったんだろうか?

 

 だけど、すでにその頃には彼等古代人は、種としての緩やかな衰退がはじまっていたらしい。

 子は生まれにくくなり、生まれた子はほぼ親よりも寿命が短く、能力も劣る者ばかり。その上、百人に一人の割合で蛮族のように魔法の素養が全く無い者さえ生まれ始めた。

 そんな中、エリオルトは幸いにして親と同じ魔法の素養と強い能力を持って生まれたけど、彼の弟は劣っていたから、一門の別の家に養子に出された。

 そして、家を継いでからは対立するようになって……結果、エリオルトは氷漬けにされて、今に至る。

 

 カストゥール王国に魔力の塔ができたのは、そんな彼の時代よりも更に数百年以上も後の時代。魔法が使える少数の貴族と使えない多数の市民という身分制度もきっちりできた後だ。

 だから、もっと種としての衰退が進んでいて、苦肉の策で塔は作られたのかもしれないけれど、今の私には知るすべはない。

 

 これらは、ユーチャリスの記憶のおかげで私は知ってる。

 カストゥールについては多少は知っていたけど、ここまで深い設定があるとは思わなかった。まあ、マスターはある程度知っていたから、エリオルトの設定も併せて決めたんだろうけど、割と大雑把な人だったし、その辺の知識はあやしい。

 

 多分、現実になったことで、世界と設定に整合性がとられたって考えたほうが良いのかな。

 

「ところで、この『変幻する精霊』という書だが、四大魔法の異端ではあるが興味深い」

 

 本から目を離さずにエリオルトは私に声をかけてきた。

 

「カストゥール王国崩壊期の魔術師が書いたものらしいわ。内容が内容だから、エリオルトに渡した方が良いと思って持ってきたの」

 

 これは、アーチーの実家のウィムジー家に伝わる家宝の本だ。本来、これが登場するのはもっとリプレイの話が進んだ頃。確か、アーチーのお見合いの話の回に初めて出てくるものだけど、私はある理由により先回りして回収させてもらった。

 

「ほう。私が四大魔法の一門だということを覚えていたのだな。それにしても、精霊力を複合させることによる混沌魔術……か。肝心の安定性の確立と上位精霊についての言及が無いが、後の時代の魔導師もなかなかやるではないか」

 

 少し機嫌が良くなったのか若干弾んだ声で、彼はそう言いながら言葉を続ける。

 

「それで。まさか、土産がこれだけということはあるまい。他にもあると思って良いのだな?」

 

 うん、知ってた。とりあえず本だけじゃ、納得しないってこと。

 

「……ええ。とりあえず、今回の事件の顛末とその本についての話のつもりだけど」

 

 きっと長くなるなあと思いながら、私はカップを手に取ったところで、中身が空になっていたことに気がついた。

 

「それは楽しみだ」

 

 エリオルトは私のその様子に気がついたのか、空になったカップにお茶の追加をメイドゴーレムに命じると、本を閉じて改めて私の方を見たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

【Below that sky. あの空の下へ】 第3章 干物魔術師の道

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベルダインにあるセアとレオンの家の前に私が転移した時には、バブリーズ(仮)と別れてからすでに数時間過ぎていた。

 オランと時差があるから、こちらの方はまだ明るい。とはいえ、そろそろ日も暮れるし、オランに戻ったら、一体何時になるんだろうか……あまり遅い時間にならないと良いのだけどと、つまらないことを考えてしまう。

 

 バブリーズ(仮)と別れた私が真っ先にしたこと。それは自分の家に全速力で帰って、放り投げてあった骨董品の中から大粒の魔晶石をいくつか持ち出し、それを持って昔の仲間である、セアのもとへとテレポートすることだった。

 

 確かに、リプレイ通りに行けば、ラーダ神殿で生き返らせて貰えるだろうが、ここは現実だ。八千ガメル程度の寄進で、蘇生儀式がやれるわけがない。

 あれは、リプレイでは書類担当(正確にはゲームマスター)のミスで通ってしまったせいで、その担当官もそれが元でケイオスランドに飛ばされたくらいだ。

 ならば、自分の知る蘇生ができる神官を頼るしかない。

 

 そうなると、選択肢は限られる。

 ジークはロードス島に行ってしまったし、他に面識のある神官と言えばラーダ神殿の神殿長と、冒険者を引退したセアくらい。

 

 つまり、セア以外にいなかった。

 子供を身籠ってると言うのに無理をさせることになるのは間違いないけど、あのまま放置するわけには行かない。

 

 ベルダインは芸術の都であり、西部諸国中最大の経済力を誇る都市。親子都市と言われる新市街地と旧市街地の二つからなる美しい街並みは、確かに芸術の都と呼ばれるのに相応しいと思う。

 イメージはイタリアのベネチアとフランスのパリだろうか。陽気な住人達を見る限り、どちらかと言うとベネチア寄りな気がする。

 

 色々とうろ覚えの知識によれば、前王が『混沌の地』へ遠征隊を派遣した国で、地味に冒険者レベルが高い人が市井にいるという西部諸国一の人外魔境で、西部諸国最大の魔術師ギルドと、大神殿とまでは行かないまでも大きなラーダ神殿、他の国にはほぼ無い珍しいヴェーナー神殿まである。

 そして、芸術の都だけあって芸術の神ヴェーナーの信者が多く、小説のアドベチャーの主人公達の出身地はここだったはず。

 

 この都市の問題は、百年周期で地震と津波に襲われるってことだろうか。最後の津波が丁度百年位前だったから、そのうち起きそうで怖い。

 古代王国時代は強力な天候操作系の魔法装置により災害を打ち消していたらしいんだけど、それが出来ないなら、護岸工事や防波堤を建設すればいいのにと他国のことながらちょっと思う。

 

 レオンとセアの家は、高台の方にある新市街地の街中で便利な場所にはあるのだが、二人のレベルから考えると余りにも小さな家だ。でも、飾らないところや贅沢とは無縁なところが、とても二人らしくて、暖かな家庭を想像させた。

 

「――ほら、ユーさん。そんな所立ってないでこっちに座って下さいな」

 

 セアにより部屋に通されて、椅子をすすめられる。

 室内の落ち着いた調度品の趣味は恐らくセアのものだろう。レオンはどちらかというと派手好きだったし、余り趣味が良くなかったので。

 

 セアは25歳でレオンは27歳。彼等のキャラクターシートの正確な設定年齢がいくつだったのかは覚えていないけど、ユーチャリスの記憶によればそうらしい。この世界の結婚年齢としては、少し遅めだ。

 

 レオンは結婚による休暇も終わり、休み明けの出仕で王城の警備のため今日は帰らないのだという。

 セアは妊娠がわかってから、神殿での奉仕と戦士としての務めを控えているので、家にいたらしい。

 

「それで、一体どうしたんです? こんな時間に深刻そうな顔で訪ねて来るなんて」

 

 暖かなお茶をいれてくれたセアが、テーブルを挟んで向かい側に座る。

 冒険者だった頃は長く腰の辺りまであった彼女の亜麻色の髪は、今は肩の辺りで切りそろえられて、さらりと揺れる。そして、琥珀色の瞳が不思議そうに私を見つめている。

 

「あの、セアにお願いがあるの。すごく勝手なお願いだと思うんだけど……仲間の蘇生をお願いしたいの」

 

「え……? 誰が死んじゃったんですか?! ジーくん? それともリュミか、クラさん? まさか、全員とかじゃ……!」

 

 彼女が言う名前は、勇気ある心のメンバーだ。

 確かに、セアからしたら仲間といえば、彼等しかいないだろう。

 

「大変、すぐ蘇生準備しないと……! あ……みんなが死んじゃうくらいなら、よっぽど……二人でなんとかなるのかしら……えっと、現場はどちらですか? レオンにもすぐ連絡しないと」

 

 私の返事を待たずに慌てたようにセアは立ち上がって、レオン宛のメモを準備始めた。

 その様子に仲間であった頃を思い出して、つい苦笑してしまう。

 

 そうそう、いつもこうやってセアは早合点して慌てて。

 天然ボケによる思い込みがちょっと激しいけど、仲間思いでパーティの良心って言われてたっけ。

 

「違うよ、セア……蘇生してほしいのは、新しい仲間。まだ駆け出しの冒険者なの」

 

「は? え、ユーさん。それ、どういうことですか?」

 

 私の言葉に怪訝な顔をするセアに、事のはじまりから説明した。

 

 次元が違う場所、日本に帰りたいからなどと言える訳ではないので、無難に『新しい魔法を覚えたいから』という理由に変えたけれど。

 それでも、簡略化したとは言え、そこそこ長い話になった。

 

「…………はあ、新しい魔法を教えるのに面白いものを持ってくることが条件って……エリさんてば、相変わらずの無茶振りですねえ」

 

 事情を聞いたセアは、疲れたような顔で笑う。

 

 というか、エリオルトをそんな呼び方するのは、いい加減やめるべきだと思う。初対面の時から、こんな呼び方してるんだから、ある意味セアはいい性格している。

 毎回エリオルト本人が、ものすごい嫌そうに、呼び方の訂正求めてるのに……

 

「事情はわかりました。そっか……ユーさんは新しい仲間と冒険者に戻ることにしたんですね。少し、残念です」

 

 同じ冒険者に戻るにしても、勇気ある心のメンバーと一緒に居て欲しかったとセアは続けた。

 

「私はロードス島まで行けないし。それに、あの三人の輪の中に入るのはちょっと……」

 

「それは――――まあ、いいです。とりあえず、そのアーチボルトさんの蘇生は了解しました。あ、でも、ラーダ神殿での儀式になりそうですし、ユーさんも手伝って下さいよ?」

 

 何かセアは言いかけたみたいだけど、それはそのままお茶と一緒に飲み込んで、蘇生魔法について請け負ってくれた。

 でも、手伝うのは私には無理だ。

 

「私、取り替え子だって、彼等に言ってないから……ちょっとそれは勘弁して欲しいの」

 

「え。そうなんですか? 私達は誰も気にしてませんでしたし、別に言っても問題ないんじゃ」

 

「それは、セアや皆に偏見が無かったから言えることよ」

 

「うーん。大丈夫だと思うんですけどねえ……」

 

 セアは納得していないように言い淀む。

 

 私は幸いにして露骨な差別は受けていないけれど、それでもやっぱり世間にはそれなりに差別はあるのだ。

 それにハーフエルフだったクラウスが、私よりも酷い扱いを受けていたのを知っているし、それを知った今は、忌み嫌われるのをわかって取り替え子であることを言うなんてことできるわけがなかった。

 

「……あ! それなら、フェイスチェンジ・イヤリング使えばいいじゃないですか」

 

「あれを? 登録してあるの、セアとリュミエラの顔じゃない」

 

「ええ。だから、リュミの顔にすれば、その方達には気づかれませんよ。どっちにしろ、説明のために神殿に一緒に来てもらわないと、私も困るんですし」

 

 確かにセアの言う通りである。フェイスチェンジ・イヤリングは顔(正確には耳まで含む顔全体)を変えるので、私だとわからないはずだが。

 

「……わかったわ。それで手を打つわよ」

 

 流石にこれ以上ゴネるのもと思い、ため息をついてそれを私は了承したのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。