彼はスマホ依存症《重症》   作:スマホ次郎

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第三話「検索、そして戦闘、からの仲間。」

「すいません、魔法が使えないんですけど」

『すまんのぉ……お前さんにスマホ充電用の魔力は与えたんじゃが属性魔法については考えておらんかった。数日待っとくれ、何か方法を考えるからの』

 

「そうなんですか。まあスマホ自体は使えてるんで、まあ待ちますよ。お、イベント始まってる」

『……スマホ以外になら寛容なんじゃな』

「おすすめは……」

『何か違うことしとらんかね?』

「いえいえ。電話してるんですよ、何をするんですか」

『ならいいんじゃがの、こうしてスマホだけで会話するとの、お前さんが何をしてるかわわかんないじゃろ』

「ガチャは……うーん、だめかぁ。緑おでんでいけるのかな」

『……』

「そうだ、これ課金とかってどうすればいいんですか? ……ん、あれ? もしもーし、もしもーし?」

 

 切れてる。どうしたんだろう。

 

「冬夜、さあ行きましょ」

「わかった」

 

 

 ギルドに着いた僕は更なる問題に直面した。

 

 文字が、読めない。

 

 ギルドの登録も字が書けないんじゃできないじゃないか。

 

「どうやったんだよ原作の僕は。アニメじゃ登録の描写なかったじゃんか!」

「文庫版を買いなさいよ、全く。仕方ないわね、なろう版だと血液をカードに染み込ませれば自動で登録されるわ!」

「ありがとうエルゼ。じゃあ文字が書けない下りはいらないじゃないか!」

「お姉ちゃんに冬夜さん……? 何の話をしてるんですか……?」

 

 登録を済ませた僕たちは壁一面の依頼書とにらめっこしていた。

 

「ね、リンゼ。この依頼なんかいいんじゃない? リンゼの方は何かあった?」

「うーん、私は……あ、これなんかどうかな?」

 

 二人はちゃんと見繕ってるけど、僕は文字が読めずに本当ににらめっこしてるだけだった。

 読み書きはどうにかしないとな……。

 

 時間つぶしにと起動したスマホ、そこでとある機能に思い当たった。

 

 そうだ、翻訳でどうにかできないかな。

 

 文字を撮影して翻訳するタイプのもので依頼書を撮影した。すると難解だったこっちの文字が日本語に訳されていた。

 

 ──よしわかった。地図やその他機能、儂が少しいじっておこう。

 

 神様の言葉を思い出す。

 

 まさか貴方、これを予期して……。

 僕の中の神様の印象がまた少し改善された。

 

 あとは書きの方だけど、これはスマホでどうにかなるんだろうか?

 

「よし、じゃあこれにしましょう。東の森で狼の討伐。全部で五匹、報酬は銀貨18枚」

「冬夜さん、これでいいですか?」

「……え、僕も一緒でいいの? 報酬の分け前も減るんじゃ……」

 

「ええ。最初くらいいでしょ。今日のお礼もあるし、ね、リンゼ」

「はい。冬夜さんさえ、よければですけど」

「ありがとう! 僕にできることは少ないかもしれないけど、やれることやってみるからね!」

 

 二人が依頼の申請をする間にスマホのブラウザをタップ。検索欄に『狼 弱点』。

 

 するとまずオオカミのvvikipediaがでてきた。そこで目についたのは、オオカミが犬科犬属であること。

 犬……そう言えば犬にはあげちゃいけない餌があるんだっけ。犬を買っている友達から聞いたことがある。

 間髪入れず、検索欄に打ち込むのは『犬 食べたら死ぬ』。

 検索結果は──ネギ。

 

 上から数件ですぐに答えはわかった。しかしネギか……そんなの落ちてるはずもないし……。

 

「ねえリンゼ」

「は、はい! 何ですか冬夜さん!」

「悪いんだけどさ……銅貨一枚、貸してくれないかな。この依頼が終わったら返すから」

「はい。いいですよ。今日助けられてますし、そのお礼としてでも……」

「いいや。ちゃんと返すから、じゃあちょっと討伐の準備があるんだけど、いいかな?」

 

 

 

 森の中は静まりかえっていた。その静けさはしろ嵐の前のものと同じように、不安や警戒心を煽らせた。

 

 不意に草むらが揺れ、そこから黒い塊が飛び出した。

 

「狼よ!」

 

 エルゼの声が、初依頼の初戦闘の始まりを告げた。

 

「ブースト、はああああああ!!」

 

「炎よ来たれ、赤の飛礫、イグニスファイア!」

 

 エルゼが強化した腕力を狼にたたき込んだ。手にはめたガントレットも相まって狼には致命傷となる。

 

 リンゼが放った炎は狼を打ち抜き灰燼と化した。

 

 そして僕は──

 

「なんでスマホで写真撮ってるんだよ!?」

 

 光魔法(大嘘)で視界を邪魔するのみ。

 どっからどう見ても戦闘には見えない行動だ。

 

 こちらへ駆ける狼に向かって連写。馴れない音と光に驚いてか、すぐさま後退した。

 

「冬夜さんありがとうございます!」

「やるじゃない冬夜!」

 

 納得できない。これが異世界での僕の戦闘なのか……。

 

「これで──五匹目!」

 

 エルゼの一撃で依頼が終わった。事なきを得ず、僕の初依頼は無事完遂された。

 

 ──が。

 

 突如、木の影から狼の遠吠えがあがった。

 

「不味いわ! 仲間を呼んでる!」

「せっかく依頼が終わったのに……一旦引こう、お姉ちゃん! 冬夜さん!」

 

 元来た道を引き返そうとする僕たちだったが、時遅し、気づけば狼たちに囲まれていた。

 楽勝に見えた異世界の初依頼、すぐにその危険性が露わになる。

 そうだ、これは魔獣──生物の命を狩ること。狩るからには、同時に狩られる心構えもしなくてはいけない。

 

 僕はここにきて自分があまりにも楽観していたことに気づく。

 

 スマホ1台で戦場で立つ馬鹿がどこにいる。

 

 しかしそのスマホが──

 

 ──僕に思考を与える。

 

「そうだ!」

 

 スマホで事前に調べて用意しておいた、アレがあるじゃないか。

 

「どうしようお姉ちゃん」

「大丈夫よリンゼ、こんなやつら……」

 

 拳を構えるエルゼだったが、それは強がりだった。一匹を倒すのは簡単かもしれないが、それが多数、それも全体の数がわからないとなれば、彼女でも厳しいだろう。

 二人の顔には、焦りと恐怖が浮かんでいた。

 

 じわじわと距離を詰めてくる狼たち。一斉に攻撃を仕掛けるタイミングを伺っていた。

 

 そこへ僕はそれを振りかざす。

 

「と、冬夜!?」

「冬夜さん何を!?」

 

 振りかざしたのはネギ。長ネギ。元の世界でいう八百屋にあたる店で購入したものだ。

 

「たあああああ!!」

 

 勇者の剣のごとく、勢いよく切りつけたのはネギ。食用野菜。それこそ戦闘の光景じゃないけど、でもネギは思った以上に効果を発揮する。

 

 狼たちが足を止めた。どころか撤退していく個体もちらほら。

 

 狼たちは野生の魔獣だ。ペットの犬なんかとわけが違って、ネギという野菜の危険性をそのDNAに深く刻んでいる。

 ネギ類の持つ毒素は犬には致命的で、犬科犬属の狼も同じだ。

 

 ほとんどの狼が撤退していく中、数匹はやはり襲いかかってくる。

 

「冬夜! 危ない!」

 

 悲鳴に近いエルゼの声があがる。それでも僕は動じない。だって、スマホがくれた力があるから。

 

 狼の顔に向かってネギの入った布袋を投げつける。狼はそれに噛みつき──急に、攻撃を止める。

 

「エルゼ、今なら倒せる! リンゼも動きが鈍ってるやつなら魔法で狙えない!?」

 

「わかったわ!」

「やってみます!」

 

 エルゼの拳が狼を穿ち、リンゼの魔法が狼を焼き払う。

 

 そして僕は、ネギを震いスマホのシャッターを連写する。

 

 およそ十数分後、当初の目的の倍である十匹を倒して狼の迎撃に成功する。

 

「やったわね冬夜!」

「すごいです冬夜さん! 一体何をしたんですか!?」

「狼はこの草を苦手とするんだ。上手くいってよかったよ」

 

 しかし、あっちの世界の知識がこっちでも通用する保証はなかった。狼と一言に言っても生態まで同じとは限らないのだ。我ながら危ない賭けをしていたことになる。

 

 手の中のスマホに目を落とす。流石スマホ。これさえあればなんでもできる。これがなくちゃ僕はやっていけないだろう。

 そう強く、実感した。

 

 

 

 依頼を新しく申請しなおし、予定の倍の報酬を受け取った。

 

 報酬は銅貨18枚。それを二つ分なので、36枚。三人の配分は一人当たり12枚。

 

 ちなみに12枚は六日分の宿代だ。これで数日は生活が保証される。

 

「冬夜のおかげで予定より多く稼げたわ!」

「そうだ、ありがとうリンゼ、借りてた分……」

「いいって言ってるのに……」

 

「何冬夜、リンゼからお金借りてたの?」

「それは……」

 

 いやなところを見られた。ネギを買うために借金は格好悪い。

 

「別に返さなくていいって言ってるのに。冬夜さんには依頼でも助けてもらってるんですし……」

「いやでも狼を倒してたのは二人の攻撃だし、二人がいなかったら、僕一人じゃ結局なにもできてなかったよ」

「……そうだ冬夜! ならお金は返さなくていいから、これからも一緒に依頼を受けない? なんとなくだけど、冬夜がいれば今日みたいにピンチを切り抜けられると思うわ」

「私も賛成です! あとは冬夜さんさえ、よければなんですけど……」

 

 魅力的な提案だった。実際のところ魔法が何も使えない僕。

 

 戦闘面を彼女たちに任せ、僕がスマホで援護する。それなら僕もこの世界で生きていける。

 

「冬夜さん……」

「冬夜……」

 

「わかった。じゃあ、これからお願いしてもいいかな?」

 

 そうして、僕に仲間が出来た。

 




 一時間につき一話ってなんだよ(なんだよ)

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