最近、エリックが変だ。
そう思うようになったのはしばらく前のこと。新型くん、ああ、神薙ユウだっけ?そっちね。
新型くんが来てすぐくらいの頃からかな。
それまでエリックのことなんて気にしたこともなかったし、直ぐにこいつも居なくなるんだろうなんて思っていた。
それまでのエリックは、ヘタレすぎてバレットの届かないところから撃ってたり、あまりにも実戦力にならない神機(20型ガット)を『僕の魂!』とか言ってたし。いや、正直あんたの魂足手まとい以外の何者でもないから。そんなことを思っていた。
実際、出撃しても『ひぃ!』とか言って、攻撃範囲の外に居るくせに回避ばっかりするし。
それと、死神。
アナグラの中では知らない人なんていない。
ソーマ・シックザール。
彼とエリックは仲が良い。いや、正確に言うならエリックがソーマに気さくに話しかけている、というべきか。どれだけソーマが冷たくあしらっても、さして気にした様子もなく接している、変な奴。
私自身はソーマに対して特に思うことはない。嫌いということもないし好きでもない。だから別に、エリックがどうしようと気にしたことはなかった。
それが突然変わった。
いきなり私にミッションの勧誘をしてくるようになったし、戦い方も変わった。
突然堕王油を集め出したり、博士の元に通うようになったり。
戦い方も、これまではヘタレかつ役立たずそのものだったのが、いきなり近・中距離の間合いで動くようになった。あんたは近接戦でも挑むつもり?
そう思っていたら案の定、何度も何度も『うわーっ!』とか言いながら吹っ飛ばされたり死にかけたり。段々途中からリンクエイドに行くのが面倒になった記憶がある。
ただ、それから何度か戦ううちに遠距離~中距離での間合いに落ち着いた。
それだけじゃない。それまでは『僕の魂だ!』とか頑なに言ってた神機をボロクソに言うようになった。と言っても、貶すような意味じゃなくて。このままでは生き残れない…!という感じ。
どういう風の吹き回しかと思ったけど、神機整備のリッカの元に行って適性の検査を頼んでいたらしいし、本当に何があったのやら…。
あと、弱点属性や部位破壊に詳しくなった。
それまでエリックがそんなことを気にしたことなんてなかったのに、突然正確に弱点属性のバレット使用と部位破壊をするようになった。
しかも少しずつ勉強したとかじゃない。本当に突然、人が変わったんじゃないかと思うくらい正確になった。
下手したら、今は私よりも正確にスナイプ出来るかもしれない。使ってるのは相変わらずブラストだけど。
そのくせ相変わらずソーマとは仲がよかったり、トイレを詰まらせたりする。神機や戦闘のこと以外は相変わらず。変わったんじゃないかと思ったら、いや実は気のせいじゃないかと思うようなことをするし。
この間も、防衛班の男連中とカウンターの前で馬鹿な話をしてたし…。
大森タツミ(以下タツミ)「だから!ヒバリちゃんがここで一番魅力的に決まってんだろ!いい加減にしろ!」
ブレンダン・バーデル(以下ブレン)「そう熱くなるなって…。実際、ヒバリちゃんだけじゃなくて極東支部の女性は魅力的な人たちばかりだと思うよ。エリックもそう思うだろ?」
小川シュン(以下シュン)「ブレン、エリックの奴が好きなのは前からずっとジーナだけだって。な?」
エリック上田(以下エリック)「確かに、タツミの言うのも最もなところもある。ヒバリ嬢はオペレーターとしての責務をしっかり果たしているし、いつも柔和な笑顔で僕たちを癒してくれる…。ミッションから帰還した後、彼女の優しい笑顔で帰ってきたことを実感する奴は少なくないだろう。
しかもヒバリ嬢の素晴らしいところはチャーミングなプリティフェイスだけじゃない。タツミのように鬱陶しいことこのうえないしつこい勧誘にも笑顔で丁寧に応対してくれるだけではなく、他の女性陣とも上手に付き合っている。見目麗しく、タツミの言うように魅力的なことは当然として、彼女はそこにいるだけで場の雰囲気が和やかになる。それゆえ僕たちは、ここに何としても帰ってこようと頑張れる訳だね」
シュン「お、おう…」
タツミ「なんだよエリック、分かってんじゃねえか!俺はお前のことを誤解してたぜ。ただの貧乳スキーのむっつりじゃねえんだな!」
ブレン「…俺は、実はツバキさんのような女性がタイプなんだが…」
シュン「俺はやっぱりリッカちゃんだなー。基本的に金以外のことはあんまりこだわらねえけどさ。リッカちゃんは可愛いって。なぁ、エリック?」
エリック「そうだな。ブレンは真面目なところが強い。それゆえツバキ女史とは似た者同士で波長が合うのかもしれない。
それはそうと、シュン。リッカちゃんに目をつけるとはなかなか良い目をしている。彼女は神機の整備が主な仕事だからなかなか話をする時間が取れないし、ほっぺたに油汚れを付けているなど日常茶飯事だ。しかしそれは彼女がどれだけ真摯に神機に向き合ってあるかの証明でもある。彼女が日夜、僕たちの神機をメンテナンスしてくれているおかげで僕たちは十全に戦える訳だね。
気さくに話しかけてくれるうえ、神機から僕たちの精神状態などにも気をかけてくれる。
そしてなんと言ってもあの唐竹を割ったようなさっぱりとした性格に助けられた人は多いはずだ。どれだけ大変な時でも、どれだけひどく悩んでいても、彼女は真剣に、真っ直ぐに聞いて応えてくれる。彼女は太陽のように眩しく笑顔が輝く女性さ。
さらにいうならあのツナギが最高に彼女の魅力を引き出している。彼女の素晴らしさをこれ以上ないほどに体現していると言ってもいいだろう」
シュン「お前…!俺が言いたかったこと全部言ってくれやがって!そうだよな!リッカちゃん可愛いよな!」
ブレン「エリック、お前…。少し、変わったか?以前はジーナと仲良くなりたいとーーー」
タツミ「そういやそう言ってたな。エリック、実際ジーナのことはどう思ってんだ?」
エリック「…ッフ。愚問だね。
ジーナの素晴らしいところなんて挙げ始めたら切りがないが…。まずは見た目だ。
まず眼帯。普通の人があの眼帯を見たらこう思うだろう。『うわっ、中二病…』と。だが、これに彼女が歴戦のスナイパーだという情報が付け加えられればどうか。
彼女の眼帯はファッションというより、まさにスナイパーらしさを強調するアクセントとなる。
そしてあのぱっと見クールで無表情なところだ。しかし実際には、ジーナはかなり分かりやすい。嬉しければ顔が綻ぶし、恥ずかしければ僅かに赤面する。ジーナの恥ずかしがる表情はまさに至宝のものだが、君たちには見てほしくないな。僕はあの顔のジーナは独り占めしたいんだ。すまない。
あの慎ましやかな胸も最高だ。大きい胸を否定する気はさらさらないが、僕は、ジーナはあのスラッとしたスレンダーなスタイルの良さが好きなんだ。正直に言うなら、彼女の胸に顔を埋めて体温と柔らかさ、そして生きている証である、心臓の音を堪能したい…!ああ、想像したらもう堪らないっ…!
そしてあのしっとりと肌触りのよさそうなお腹だ。無駄の無い美しい肌。そこに控えめに主張する綺麗な縦のおへそ…。素晴らしい。許されるものならあのお腹を満足いくまで撫で回したい。
それだけではない!あの華奢な肩、そして腰、背中。女性らしさに溢れていながら、生きるという躍動感に溢れたところなんて、もう筆舌に尽くし難い…。あれだけ細く、抱き締めたら折れてしまいそうにも関わらず、彼女の神機が火を吹けば、荒々しく蹂躙していたアラガミが倒れていくんだ。素晴らしいコントラストだよ…。
あの脚線美や優しさを内包する透き通った瞳なんかも素晴らしいのだが…そろそろ内面の素晴らしさを語ろうと思う。
彼女はぱっと見無表情でそっけない印象を受ける。だが、実は彼女はかなり情に厚い。ミッションに同行するメンバーのことをいつも気にかけているし、スナイパーゆえの観察眼からかかなり正確に心理状態を読み取ってサポートしてくれる。彼女のサポートの的確さを知ったらもう僕はカノンちゃんとは出撃出来なくなった…」
タツミ・シュン「…(ウンウン)」
ブレン「(…?)」
エリック「そして何より敵との命のやり取りでは自分の命を勘定にいれないくせに、メンバーの命は絶対に勘定に入れていることだ。誰かと共にいれば、必ずその誰かが無事生きて帰ってこられるように的確なサポートを、時には体を張ってしてくれる。僕がクアドリガの足元でくたばりそうになった時、彼女が必死に僕の元に来てリンクエイドしてくれた時にはもうすっかり惚れていた…。いや、それ以前から好きだったが。ともかく、彼女が女神に見えたよ…。」
タツミ「…とりあえず、お前がジーナ大好きってことはわかった。あー、ところでエリック…」
エリック「…?なんだい?」
タツミ「…すまん。後ろを見てみろ」
エリック「…ジーナ。やあ、どうしたんだい?」
そう言っていつものように髪をかき揚げたエリックの声は、ちょっと震えていた。
「…いや、あんたがミッションに着いて来てほしいって言うから来たんだけど」
「何?もうそんな時間かい?…待たせてしまってすまない」
そう言ってそそくさとカウンターに向かうエリックを尻目に、タツミとシュンはどこかへ退散していった。
そしてこの後、エリックとブレン、私の三人でミッションにゲートから出て行った。
その時の、
「ジーナ。…どこから聞いてた?」
「全部」
「そうか。参ったな…」
そう言って、顔を赤くしてはにかむ彼の顔が印象的だった。