エリック視点はお待ちくだされ…
神機整備室。
楠リッカは、神機のオーバーホールをしていた。
彼いわく、「のっぺりしてダサい」らしいけど、リッカは気にならなかった。
彼女にとって、神機とは全てかわいい子たちであり、仲間だから。
整備台の上に固定された銃身とは反対に、取っ手棒側のカバーから弾倉、極太のボルトにしか見えないエジェクタロッド、カバーに隠された撃鉄まで、綺麗に分解されて銃身の反対側に固定されていた。
「ふぅ」
額に垂れた汗をぐいっと無造作に手首で拭い、リッカは一息ついた。手袋ごしなので額が少し汚れたかもだけど、もう顔に油汚れは常のことだから気にしない。
両サイドについたウェストポーチからナットと柔らかい布を取り出し、更にバラしていく。
(この子の整備も、久しぶりなんだよね)
以前はよく顔を合わせてはちょっとした話をすることが多かったのに、最近は出撃ばかりしてた。
(ぷぅ)
ちょっと不機嫌。
(………)
パッと見た時から分かってた。
この間まではアラガミの強さと釣り合いの取れたミッションをしていたこと。
相変わらず、ブラストのこの子に合わないレーザー系のバレットを多用していること。
また最近、格上のアラガミを相手に無茶な連戦をしていること。
ダメージコントロールはおろか、自身へのダメージすらどうにも出来ていないこと。
氷雪系のバレットばかり撃っていること。
(…まったくもう)
理解はしてる。
こうやって、頑張ってくれているから私たちは今も無事に生きてる。
それでもやはり、無理はしないでほしいと思う。
銃口は酷く損傷してる。この子に合わない氷雪系のバレットをかなり連発して、銃口はもはや歪で黒々としている。
銃身そのものが黒っぽく変化しているのはちょっと、いやかなり不気味だけど、なんとなく悪い変化じゃなさそう。
それより問題は、神機全体のダメージ。
ひどくバラバラのダメージレベルで、一番酷いのは最も地面にぶつかりやすい弾倉底部。
損傷の具合からして、エリック自身が何度も何度も地面に叩きつけられてることが分かる。その傷が治癒するよりも前に。
(吹き飛ばされたんだろうなぁ)
そっ、と銃身を撫でる。この子も、エリック自身も、きっと、死に物狂いで駆け抜けた。そして帰って来た。
我慢するように。優しい瞳で眺めながら、きゅっと手を握る。
一つ、息を整える。
そして再び両手を動かし、弾倉を更に分解していく。
底部に損傷が多いので、修理と補強をすることを決め、頭の中でメモしておく。
ヴァジュラ種の突進。自身がダメージで膝を着いた時の衝撃。ボロボロに傷付いた状態でのモルター弾の連発。弾倉の表面から内部まで、今のこの子が何があったかを鮮明に教えてくれる。
本当はこの弾倉を大きく出来ると良いんだけど、それはこの子達には絶対に出来ない一線みたいで、この子達が問題のない増強をする必要がある。
リンク・サポート・デバイス。その雛形の概念が誕生する、少し前の話である。
取っ手部、そしてカバーは最も損傷してた。
だけどそれは片側だけで、それはつまり神機でとっさに身体を守りながら戦ったってこと。
以前のエリックはここが傷付くことはなかったから、良い使い方をするようになってるみたい。
(成長してるなぁ)
エリックに限らず、誰かの神機を見て成長を実感すると、私も嬉しい。
停滞を続けている人は、生き残るのが難しい、というのもあるけれど。やっぱり、残されるのは辛いから。
神機にも個性がある。
この子は炎のような女性のイメージだし、他にも厳しい女性のようなタイプの子、荒々しいささくれだった危ない感じの子、騎士の女性のような子、健気でおとなしい子とか。
エリックは滅茶苦茶に使ってるし、相変わらずレーザー系のバレットばかり使う悪癖は治ってないみたいだけど、前よりは炎系のモルター弾をちゃんと使うようになってきてる。
うんうん。お姉ちゃんは嬉しいです。
でも、もうちょっと優しく取り扱ってくれるように、少しだけ取っ手側を詰めておこう。エリックの身長と手の大きさ、体格だと、ほんの少しだけ短い方が取り回ししやすいと思うし。
撃鉄は無事。
カバーの損傷がその分ひどく見えるけど、このカバーはかなり丈夫だし、滅茶苦茶なリロードとかはしてないみたい。
前からエリックは、リロードだけは無理はしたことが無かった。この子の一番大切で、慎重に扱わなきゃいけないところは分かってるんだね。
もう少しだけでも、優しく取り扱ってくれると良いんだけどなぁ。