おはよう諸君。俺はエドワード・エルリック。弟のアルと一緒に生活している国家錬金術師だ。彼女はウィンリィ・ロックベル。可愛い彼女さ。
好きなものはカップラーメン。嫌いなものは湯を入れてからの三分間。あと勘のいいガキ。勘のいいガキは嫌いだよ…!
そんな俺達は、極東にあると言われる、『神の住む地区』を目指して旅をしていた。
はい。皆さんおはようございます。茶番です。
今日も快眠できました。エリックこと上田です。
さて、今日は実はジーナがカノンちゃんと共に射撃訓練に行っているため、一人である。うーん、あまりやる気がわかないなぁ…。
タツミやブレンダンはカレルやシュンと防衛班の経路巡回。第一部隊はこの前クアドリガの討伐に行って今日はどうなんだろう。知らん。
そのタイミングで僕はリッカに制御パーツいらないから強化パーツ2つにして、とお願いしに行き、強化パーツは最初から2つつけられるはずと言われ、でもやっぱり無理だったからリッカに見てもらい、リッカもあれ?と首を傾げてなにやら神機を弄り始めたりしたのだが…。まあ、それはまた別の話。
とりあえず、ヒバリちゃんの元へ行き、ソロでもパフェれる相手でもぼこってこようかなー、なんて考えながらエレベーターに乗った。今日も僕のガットが火を吹くぜ…!
そしてロビーに出たところで、なにやら話し声が聞こえた。何だろう。
モブA「おいおいおい、聞いたか。例の新型の片割れ…。やっと復帰したらしいぜ」
モブB「ああ、リンドウさんを新種のヴァジュラと一緒に閉じ込めて、見殺しにしたヤローだろ」
モブA「ところが、あんなに威張り散らしてたくせに結局戦えなくなったんだってさ。ざまあないぜ!」
モブB「はははっ!結局口ばっかりじゃねえか!」
そこまで聞こえた瞬間、僕の中で何かが弾けた。s.e.e.d…?うっ。
なおも話を続けているモブAに向かって、僕は駆け出した。右拳は引き絞って肩の上。左手は真っ直ぐ前に。
死ねぇっ!
「上田パーンチ!」
「アバーッ!」
ゴウランガ!
僕の右手はモブの顔面を抉り飛ばし、モブAの体は勢いよく飛んでいった。
そしてそのまま、ポカーンとした顔をしているモブBの左腕を取る!
バッ!
バッ!!
ギュッ
「がああああああああっ!」
「豚肉炒めと、ライス下さい!」
アームロック!!
そう。これこそは、ライカ叔母さんの友人の怪しげな個人貿易商、井之頭ゴローさん直伝!
井之頭流交渉術!頭を冷やせ!
「あ…そこまで!」
カウンターからヒバリちゃんの声が聞こえる。きっと今ヒバリちゃんは、いつの間にかメガネを掛けていてこちらを止めようとして右手を挙げながら声を掛けているに違いないーーー。
なんて思っていた瞬間、頭が割れるような痛みに襲われた。
「ぐあああああっ!」
「エリック、お前何やってんだ…。ったく」
思わずアームロック!!!を放して振り向くと、いつの間にか久しぶりに切れちまったよ…!な顔をしたタツミがそこに立っていた。くそっ、頭が、頭が割れるように痛いぃぃぃぃ…!
「むかついたから
「俺もムカついたから殴った。すまんな」
く、くそっ…!人が喋っている時に上からグーで殴るな!舌噛みきっちゃうかもしれないだろ!タツミ貴様…!許さんぞ…!許さない、絶対にだ!
あまりの痛みに床でのたうち回りながら悶絶していると、そっと誰かが胸のあたりを触っていた。ヒバリちゃんだ。
「あの…。エリックさん、大丈夫ですか?」
ああくそ、ヒバリちゃんに心配してもらえるとかめちゃくちゃ羨ましいくらいのご褒美なのに…っ!今は痛みでそれどころじゃないっ…。くそ、タツミぃ…!
「こ、氷を頼む…」
頭のてっぺんが燃え盛るように熱くて痛い。頭割れるゥ…。
「は、はい!」
「ああ、それは俺が行こう」
「それではブレンダンさん、お願いします」
「ああ」
僕が床でビックンビックンしている間に、外野が何か言っているみたいだがそんなことより頭が痛い…!くそ、タツミめ…。逆恨みとは分かっていても、この恨み晴らさでおくべきか…!いや、許さん!
そう思ってからふとタツミを目で探すと、モブ二人の肩に腕を組んでいた。へっ、やーいお前の大好きなヒバリちゃんは今俺の背中に手を当てて支えてくれているぞ。どうだ羨ましかろう。ヴァカメ、と言って差し上げますわ!
「タ、タツミさん…!」
「よう、お前ら…!」
まったく、見回りから戻ったと思ったらエリックのバカが思いっきり助走をつけて殴るところが見えたから止めたが。そのバカが胸を張ってムカついたから殴ったとか言うわ、こいつらは俺の姿を見て、びびった様子を見せるわ…。何やってんだ…。
確かこいつらはこの前新人からようやく一人で戦えるようになったばっかってところのはずだが。俺も何度か任務に連れていったから覚えている。
エリックに腕を捻られてたやつの肩に腕を組み、殴り飛ばされた奴も左手で引き寄せてぐいっと近付ける。
「さて、エリックのバカがバカやったのには、また俺から処罰喰らわせるとして、だ…。
あいつはバカだが、何も考えなしに手を振るうような奴じゃねえ。
お前ら、一体何してた…?」
俺が周りの奴らに聞こえないようにボソボソ言うと、右の青い服した奴は震えだした。左の赤い服の奴は首を何度も横に振っている。
…ふぅん。言う気はねえ、ってか。
「…今から素直に答えるなら、特別にお咎めなしで離してやる。
…だが、答えねえならてめえらにも拳骨だ。後でヒバリちゃんに何があったか全部聞くから、そうなったら言い訳は聞かねえぞ…」
「…す、すみませっ…」
「な、何も…してないっす…」
右の青い奴はガタガタ震えながら謝ってきてるが、左の赤い奴はなおも言うつもりはないようだ。…コイツには、後でツバキさんに訓練からやり直すように言っとくか。上官に詐称は重罪だ。
「…す、少しだけ…わ、悪口を……っ!」
「…ふぅん?」
「お、おいバカ…!」
青いのがついにゲロった。さて、全部言ってもらおうか…!
「し、新型が…口ばっかりって…言ってました…!」
「バカ!黙れ!」
「…黙るのはてめえだ…。おい。続けろ…」
そう言うと、青いのは首を横に降った。
…どうでもいいが、この赤い奴はツバキさんにフルコース頼むか。死なないようにだけしてもらわないとな…。
「そ、それだけです…!本当です…!」
「…なるほどな…。てめえらは、いつか背中預けて戦うことになるかもしれねえやつの悪口言ってたのか…」
…エリックの奴がバカやってるから、どんな理由かと思ったが…。そうか…。
「…お前らは、こんな人の多いところで、周りに聞こえるような声量で、いざと言うとき共に戦う奴の悪口を言ってたと…。そう言うんだな?」
「…す、すいませ…っ!」
「お、俺は言ってないですよ!本当です!」
「お前はちょっと黙れ。そうか…。
…まあ、お前らの気持ちも分からんでもない。ただ、もうちょいTPOを考えろ。…な?
あー、お前は離してやる。さっさと行け」
そう言って、青いのを突き飛ばす。
「…お前は歯ぁ食いしばれ」
「俺は何もーーーーガッ…」
赤い奴は左手で胸ぐらを掴んで拳骨を勢いよく降り下ろす。こんな奴でも人手が足りねえから使わなきゃならないが…。それはそれとして、教育は必要だ。
「上官に詐称するのは問題だ。…例え、お前が言っていたことがどれだけ共感出来ることでも、何もしてないはねえだろ…。
ほら、おまえもさっさと行け」
「くっ………………。…すんません」
ボソッと小さく溢しながら、右手で頬を抑えて赤い奴もエレベーターに勢いよく走って向かっていった。…そんなにエリックに殴られた方が痛かったのか…。
さて。あとは
ブレンが持って来てくれた氷のうを頭の上に手で押さえながら、僕は床の上に座りこんでいた。そっと背中を支えてくれるヒバリちゃんの優しさが心に沁みる。くそっ、タツミの奴め…。めちゃくちゃ痛い。まだ頭がジンジンする。くそうがぁ……。
僕のすぐ左側に立っているブレンと共にタツミを待っていると、モブAとBを解放して戻ってきた。
「さて、エリック…。申し開きはあるか?」
ないな。
それゆえ、僕は胸を張ってこう答えた。
「カッとしてやった。反省も後悔もしていない!」
「反省しろバカ」
しゃがんでこちらを見つめるタツミがビシッ、と勢い僕の頭にチョップした。
「ぐあああああ……っ!」
いてえ!せっかく痛みがひいてきたのに、また頭頂部が痛みと熱く燃え盛りだした。いつか見てろよ…!
「ったく…。なんでこう、リンドウさんが居なくなって大変な時に更に揉め事起こすかね…」
タツミはそう言うがな。そもそもの話、僕の居るタイミングでアリサちゃんのことをdisる奴が悪い。まあ、手を出したのは僕に問題があるが…。
「あいつらがアリサちゃんのことを明らかに悪く言ってたからな」
「ちっとは反省しろバカ」
「むう」
僕が唇を尖らせていると、意外なところから援護が入った。
「まあ、タツミもそこまでにしてやれ。エリックのしたことは間違っているが、エリックの気持ちも分かる」
「ブレン、お前は甘やかしすぎだ。規律や規範が何のためにあると思ってる」
「それを毎日ヒバリちゃんに迷惑かけてるタツミが言うのか…」
つい思ったことが口に出た。そしたら、ブレンからは呆れた視線を、タツミからは睨まれたでござる。さーせん。
「エリック、今お前が言ったことは正論だが…。それを今のお前が言っちゃダメだろう…」
正直すまないと思っている。
「そうだぞエリック。それに、俺がいつヒバリちゃんに迷惑かけたって言うんだよ。なあ?」
そう言ってタツミはヒバリちゃんの方を見る。僕もつられてヒバリちゃんの方を見る。
すると、ヒバリちゃんは僕の目を見た後でタツミの表情をちらっと見て、すっと視線を逸らした。……タツミェ…。
タツミの方に視線を戻すと、ちょっとショックを受けているようだ。小さく、ぇ…?と言う声が零れる。タツミ、哀れなやつめ…。
そんないたたまれない空気になっていた時に、上の階段から複数人の足音が聞こえてきた。
「あのー、さっきから騒がしいっすけど、大丈夫ですか?」
階段から覗きこむようにこちらを見ていたのは、コウタ君、ユウ君、そしてアリサちゃんだった。……まさか全部聞かれてたりしないよな…。
「あー、大丈夫だ。
「やあ、バカ代表のエリックです」
「や、全部聞こえてたんで知ってますけど」
タツミがなんでもないように言ったので、僕も爽やかに左手を挙げてお茶目な自己紹介をしてみたのだが、どうやら全部聞かれてたようだ。
聞かれてたのかよ…。
「あー、まあじゃあ分かるな?お前らが気にするようなことは何もない」
「そうそう。何も、ね」
タツミがさりげなくフォローしたので格好よく歯をキラーンとさせて追従してみたのだが、三人を微妙な顔にさせるだけで終わった。ふうむ。このイケメンフェイスは彼らには刺激が強すぎたか…。
「ま、よく分かんないっすけど、あまり気にしないことにします。
二人とも、戻ろうぜ」
コウタ君がそう言って腕を回すと、ユウ君とアリサちゃんは頷いて上に戻って…?
いや、アリサちゃんだけこちらを見ている。
「あの…」
なんぞ?
「ありがとう、ございます…」
「さて。何のことかな」
うつむいたままのアリサちゃんからお礼を言われたけど、ね…。べ、別に、アリサちゃんのためにやった訳じゃないんだからね!
そんなことを考えていると、タツミが立ち上がった。やれやれ、お説教は終わりかな?
「さてエリック。お前には後で反省文五枚な。来週までにツバキさんに渡しとけよー」
「げ」
そんなにもこいつ、僕がヒバリちゃんと仲良くしてたのが気に入らなかったのか…。くそ、なんてやつだ。
ブッダシット!
ブレンも『やれやれ、タツミも甘いな…』みたいな顔してるんだ!こいつは私情で人に反省文を書かせようとするやつなんだぞ!
この後めちゃくちゃ医務室行った。
ソーマにリッカちゃん、サクヤさんにジーナさんが様子を見に来てくれた。ソーママジヒロイン。
数日後。自室にて。
僕の目の前にはまっさらな反省文五枚。期限はあと数分後。
「…」
僕は引き出しからマッチを取りだし、くるくる筒状に丸めた反省文の下に火を着けた。
そしてくるっとひっくり返し、簡易松明の出来上がり。
「燃ーえろよー燃ー○ーろー…♪」
などと適当な歌を口ずさみながら、金属の灰皿を探す。
それを机の上に置き、丸めた反省文を入れれば…。
ミニキャンプファイヤーの出来上がり。
「マ○ム○イムマ○ム○イム、マイムエッサッソ」
懐かしいっすねえ…。
無事にキャンプファイアが終わり、灰皿に灰がきれいに入っていることを確認したら、部屋を出よう。
…さーて、何か任務でも行こうかな…。
ロビーに出てヒバリちゃんに近付くと、ヒバリちゃんから声を掛けられた。
「あ、エリックさん!ツバキさんがお待ちです。至急、ツバキさんの元に向かって下さい!」
「ヒバリちゃん、何か任務はあるかい?」
さて、ここはさらっと流して任務に行きたいところだが…。
「ツバキさんがお待ちです。至急、ツバキさんの元に向かって下さい!」
「や、任務…」
「至急、ツバキさんの元に向 か っ て 下 さ い !」
「…はい」
ヒバリちゃんには勝てなかったよ…。
どうでもいいけど、『みさ○らなんこつ』を『みさくら○んこ○』にすると、なんだか猥褻な感じがする…。しない?フィーヒヒヒ!激しく前後スッゾオラー!
などと馬鹿なことを考えながら、僕は仕方がない、とぼとぼとツバキ女史の元へ向かうことにした。…反省文はもう燃やしちゃったけどね!
「遅い!既に提出の締め切りから五分以上遅れているぞ!」
「遅くなってすみません」
遅くなったことは謝る。だって僕が悪いし。
「はあ…。まあいい。
それで?反省文はどこだ。貴様は何も持っていないようだが…」
「燃えました」
これから毎日反省文を焼こうぜ!
そう答えたとたん、ツバキさんの形のいい眉がピクッと動いた。ひえっ、美人が怒ると怖いって本当やったんや…。
「…今、なんと言った」
「燃えました」
「…貴様、よほど厳罰化されたいようだな」
なに!?厳罰化だと?
「謹慎処分ですか!?」
「目を輝かせるな…まったく」
(これではあいつらから刑罰の軽減を嘆願された、などとは言えんな…)
なんだ、違うのか。せっかく堂々とサボる口実が出来たと思ったのに…。残念。
「それでは、貴様に対する処罰を言い渡す。
今週中に、シユウ、グボロ・グボロ、クアドリガ、コンゴウ、そしてヴァジュラを討伐すること。それが終わり次第、博士の元へ報告に行け。
…そら、準備出来次第出撃しろ」
「了解です、上官殿。
…博士からの依頼ですか?」
ちょっと気になる。やっぱりシオ関連だろうか?
「それを貴様に言う必要はない。分かったな」
「…わかりましたよ」
そう言って、僕は肩をすくめた。
…っと、そうそう。ツバキさんには言っておかなきゃいけないことがあるんだよね。
「ツバキ女史」
「…何だ?」
「いざというときには…、腹を括ってもらいますよ?」
絶対に、その時は来る。自分の考えをもって、行動しなければならない瞬間が。
そう思って言った言葉だったが、ツバキさんには笑われてしまった。
「…見くびるなよ、若造が」
「そうでした。
…それでは、僕はこれで」
僕は僕の相棒を取りに、部屋を出た。
「…フン」
誰も居なくなった部屋で一人、さきに言われた言葉を反芻する。
「いざというときには腹を括れ…か」
ふと、上を見上げる。あやつには見くびるなと返したが…。
私はその時が来たら、あいつのように強く在れるのだろうか?
「リンドウ…」