Fate/Grand Order 狼は荒野の夢をみるか   作:あげびたし

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絆・宝具・スキルMAX記念。

私は彼が大好きだ!あとはフォウマだ…。


なんで彼は恒常で出会えるのか、それを考えていたら寝られない。







第1章
プロローグ


「最期まで…ありがとうね。◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️。」

 

人間とは本当に弱い。

ベッドから半身を起こし、震える手で私の頬を撫でる傷だらけのソレには肉は無く、骨と皮だけだ。

血の気はすでに無く、だが力無く笑うその顔にはかつての無邪気さがまだ残っている。

妻に、少しだけ似ていると思ったのはいつからだったか。

彼女は、今や死を待つだけの老人だ。

しかし老いてもなお、その瞳にはあの日、あの時、あの絶望的状況の中でも、軽快に笑いながら駆け抜けていた頃の力強さがある。

あれから、幾つ歳を重ねたのだろうか。

全てが終わり、誰も知らないまま世界が彼女によって救われ。

その功績を称えられない事を良しとし。

それでもなお世界のために尽くした彼女は、今たった独りで世界から消えようとしている。

 

何故かは分からない。彼女はこの閉鎖された空間に私と共に閉じこもった。

彼女は周囲の反発を跳ね除け、笑いながらそれを受け入れた。

彼女は世界から追放され、誰にも感知されない空間での監視生活。

何故、彼女は私を選んだのだろうか。

完全に感知されない世界は、草原と荒野が一体化した世界。

用意された木造の家。世界に干渉しない事を彼女は守り続けた。

定期的に来る黒づくめの者達に用意させた道具と様々な植物の種で畑を作り、本を読み、そして眠る。

ただ、それだけの生活を何年も何年も繰り返した。それをただ私は側で見ていた。

かつてのように闘うでも無く、落ち着いた日々。

たまに、何を思ったか永遠に私と走り続けたりもした。その時初めて背に乗せた。

 

私にしがみついた傷だらけの手は、小さかったが暖かいものだった。

 

幸いにも、このセカイは天候の変化と四季の移ろいは存在していた。

彼女はその変化を常に楽しんでいた。そして彼女は私に多くの事を語った。

私からは何も伝えられないというのに。

ごくたまに「ふと思い出した」かのような顔でこちらを見て語るのが定番だった。

そして決まってその日は、私にしがみついて泣きながら眠った。

私は何も返せない。何を語っていたのだろうか。

しかしそれが大事な思い出だったのだろう。

こちらを見ながら、楽しそうに笑う顔だったからだろう。

 

私と共にあった彼も、彼女を献身的に手伝っていた。

手に持つ獲物を畑を耕す道具に持ち替え、彼女の手伝いを進んでやっていた。

彼も彼女へ何かを伝える事は出来なかったが、代わりに働きを持って示していたようだ。

今、彼は私と共に彼女を看取っている。

あの日のような暖かさは無くなり冷たくなって行く小さい手を握りながら、彼はうなだれているように見える。

 

時は、彼女から生を奪っていった。

だが私を見つめ続ける彼女の瞳の力だけは奪えなかった。

それは、私達と初めて出会ったあの瞳と何も変わっていない。

 

あぁ…もう時間らしい。魔力の供給が断たれた。

足の先から消えていく感覚がわかる。

彼見ると、こちらに向き直り外を指差していた。

私は目を見開いた、初めて彼の考えてる事がわかったような気がしたのだ。

まだ間に合うだろう、消え尽きる前に済ませよう。

 

彼女を抱きかかえた彼と家を出た私達は、草原の中心部へ進む。

月がよく見えるこの場所に彼女を寝かせ、その隣に佇む。

 

風に乗って香るはあの日の荒野の匂い。

忘れ去ったはずのあの日の荒野の匂い。

思い出させてくれたのは、彼女だ。

 

静かに眠る彼女に連れられ、数多の敵を屠り、そして共に駆け抜けた。

満天の夜空を見上げ、天に還る彼女へ向け吠える。

私が消えるまで力の限り吠え続ける。

 

この身はもう召喚される事は無いだろう。

だが私達の魂に刻まれた事は手放すはしまい。

その誓いを彼女に伝えるのだ。

 

彼は既に消えた。私も、もうすぐだ。

 

吠える事は止めない。

 

彼女はここに、この場所で生きた。

 

ならば最期までここに居たと知らせ続けよう。

 

誰にも感知されないだろう。

 

 

それでいても。私が、私達が、知っている。

 

 

相互理解などできない。

意思は伝わらない。

 

 

この声が聞こえるだろうか。

 

 

 

君は、ここで生きたのだ。

 

 

 

***

 

「召喚サークルに異常事態発生!!!計測魔力が振り切れました!!!」

 

モニターしていた職員が吠える。その顔は絶望の色。

 

「今すぐに魔力供給カット!急げ!!どうにかして彼の前にだすな!!所長とマシュ!立花君!!聞こえるか?!今すぐにその場所から離れるんだ!!」

 

画面越しの彼らに叫ぶ。召喚サークルから漏れ出す光がドス黒く染まり、今にも現れそうだ。

彼はこの世界最後のマスターだ、失われればこの世界は終わる。

先の3回の召喚には成功していた、それで安心してしまっていた。

こんな、こんな事になるとは!!!

 

「ダメです!魔力供給、止められません!!!」

「クッソ!なんだこの霊基?!真名が分からない!!それに…このクラスは!!」

「解析出ました!!クラス!ア…復讐者(アヴェンジャー)!!!大変危険です!」

 

職員の怒号が飛び交う観測室。それを無視して食い入るように画面に釘付けになる。

召喚サークルの黒い光が収束し、一際大きく輝きだす。

その黒い光から現れたのは、狼の頭。

眼光鋭く睨む目からは、画面越しに人類全てを憎んでいる事が伝わってくるようだ。

続いて現れた身体も巨体だ。ゆうに3mはあるであろう。

 

更に異常なのはその背に乗るモノ。人間、なのだろう。しかしその首は失われている。

手に握りこむ鎌は異形の一言に尽きる。

 

「なんだ…なんだなんだなんだ!!なんだアレは!!!巨大な狼に跨る首無し人間?!ハッ!!天才の私ですら分からない!!!」

 

隣にいる天才は、画面に釘付けになり、半分笑っているかのように叫ぶ。

彼がそこまで言うのだ、本当に分からないモノなのだろう。

その怪物は明らかな殺意を持って彼らを睨み付け、牙を剥き跳ね上がる。

 

マスターの前に立つ盾の英霊となったマシュ。

その背後を更に守るのは、二度目の召喚で顕現した【槍兵(ランサー)】レオニダス一世。

盾を巧み扱い、戦闘経験の無いマシュを庇いながらもマスターを守る姿は流石だ。

その間にマスターの影から、黒い外套に身を包んだ男が飛び出しながらダートと呼ばれる短剣を投げつける。

正体は三度目に召喚された【暗殺者(アサシン)】呪腕のハサン。

そして、その攻撃に合わせるように化物へ飛来する矢。

着弾した瞬間に爆発し大きくよろめく化物の隙を爆炎の煙を切り裂きながら疾走する赤い影。

手に持つ剣を閃かせ怒涛の連撃を繰り出すは、彼にとって初めて召喚した英霊【弓兵(アーチャー)】エミヤ。

その3人に攻撃されながらも化物は怯まずに、ただ真っ直ぐに彼を睨み突撃する。

背に乗る首無しは手に持つ異形の首刈り鎌を振り回し近づくことをさせない。

 

そして、ついにその牙が。

 

彼の目の前まで()()()()()()

僕は、次の瞬間から目を、背けてしまった。

 

 

目の前が真っ暗になった。

 

 

 

***

 

燃え落ちる都市の中、僕は彼と出会った。

青と白が混ざる毛並みに、巨大な口の中に並ぶ牙。

どんな物も食い破るであろうソレが、今僕の目の前まで迫っている。

僕は動けないでいた。足が根を張ったかのように動かない。

咄嗟に僕は目を閉じてしまう。

 

しかし、牙は僕に届くことはなかった。

何が彼らに起こったのか分からない。

目開ければ今にも僕を噛み切ろうとした口が閉じられ、初めて彼と目があった。

雄々しくも悲しさを秘めているような金色の瞳に、僕は一瞬で吸い込まれた。

その僅かな間に、彼は鼻先を遠慮がちに近づけて来た。

そして、その瞳を大きく見開いた瞬間。

 

空に向かい大きく吠えた。

 

僕はビックリして、後ろに転んでしまった。エミヤが慌てて彼の前に飛び出し、レオニダスとマシュも何やら叫びながら走ってくる。

背中を起こしてくれたハサンは、その黒いローブで僕を隠してくれた。

 

彼の遠吠えは止まなかった。

 

炎に包まれ、煙に包まれる地獄のようなこの場所で。僕は彼と出会った。

 

背後から嫌な気配が近づいてくる、ガシャガシャと音を響かせてくる。

瓦礫に隠れていた所長が、慌てて近寄ってきて、何事かを叫んでいるが聞こえない。

 

途端に彼の遠吠えが、止んだ。

こっちに向き直った彼は、その瞳を細くしながら見つめてくる。

僕じゃ無い、その後ろを見ている。

 

僕達を飛び越した青い影は、背後のスケルトン達を瞬く間に蹴散らしていく。

その光景を唖然と見ていた僕の前に、ふらと現れた首無しの騎士。

片膝を立て、腕を胸につけたその姿勢は何処かでみた中世の騎士達の敬礼だと分かる。

 

言葉は、無かった。そもそも彼には喋る口どころか頭が無い。

僕からの声も聞こえるのかすら分からない。

 

でも僕は、叫んだ。その姿勢に応える為に力強く叫んだ。

 

「やっちゃえ!!!アヴェンジャー!!!!」

 

バネのように立ち上がった彼は、手に持つ鎌を握りしめ驚くほどの速さでスケルトン達の群れに躍り掛かった。

粉々になるスケルトンを僕達は、ただ眺めていた。

 

ふと香ってきたのは、渇いた土埃と草の香り。

燃えていくこの都市では絶対に、あり得ない香り。

彼らの、香りなのだろうか。

 

何だか落ち着くような懐かしいような、そんな香りだった。

 

 

 




人理を修復し、その先もそのもっと先も世界を人知れずに救って来た彼女は
あの魔都で彼らと出会った。

相互理解などできないはずの獣と彼女。
人理を脅かした魔神との戦いを彼らは知らない。

だが、それを知ってなお彼女はそれを彼らに語り続けた。
あの時、キミが居てくれたら。
あの瞬間、キミと居たなら。
…あのキミに出会う前に、出会っていたら。

紡ぐ言葉は願いとなって彼らの霊基に刻まれていた。

それを知るのは、誰もいない。
彼女の最期を知っている彼らですら、知ることはない。


次回「始まりの思い出 特異点F 冬木」



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