ストライクウィッチーズ ~音速のウィッチ~   作:破壊神クルル

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6話

ミーナ中佐の気迫に屈し、ラウラはこれまで自分が経験してきた事を話す。

その中でラウラは自分と関係したと言う理由で宮藤の他にハルトマンもその場に同席させた。

しかし、ハルトマンはラウラとは面識もなく、また彼女もハルトマン自身とは面識がなく、ラウラは彼女の妹であるウルスラ・ハルトマンと交流があったため、彼女に起こり得る未来の話として姉のハルトマンを同席させたのだった。

そして、ラウラの話は続く‥‥

 

 

ウルスラ、ラウラ達が作り上げた試作高高度戦闘機、最後のキ-99の三号機はこれまでの機体の欠陥を実際にキ-99に搭乗したウルスラからキ-99の欠点を可能な限り聞き出し、その欠点の改善にあたった。

整備と補給、補強を施された最後のキ-99三号機が八丈島の軍飛行場の滑走路で発動機を稼働し始める。

ウルスラは右足には木製の義足、右眼には黒い眼帯、左手にはピーターパンのフック船長の様な鍵の義手をつけていた。

ウルスラが身に着けている義足と義手は、義足や義手としてはあまりにもお粗末なモノだ。

しかし、今の扶桑ではこれが精一杯で、精巧な義足、義手を用意している時間的余裕もない。

 

「行くよ、ラウ!!」

 

「ああ‥‥だが、無理はするな。この機体の排気タービンだってリベリオン製のB-29のマグネシウム合金を特別に回してもらったのだが、やはり時間が無いせいで、上手く合致するか分からん!!それに高オクタン燃料もこれで最後だ」

 

軍はとうとうキ-99の生産をこの三号機で打ち止めにしたのだ。

だが、この試験飛行でそれなりの功績を残す事が出来れば、今後も開発を検討すると言う。

この三号機の試験飛行でキ-99の運命がかかっていた。

 

「大丈夫よ、ラウ。私は今日こそ、必ず音速の壁を越えてみせるから、理屈もネウロイも今は関係ない。私の手足と眼を奪った音の壁を打ち負かす事だけよ。それが今の私の望みで、ソイツが敵よ!!」

 

「ウーシュ!!ガンバレ!!」

 

ウルスラは完全に達観したと言うか吹っ切れた感じで空へと上がって行った。

 

「此方、キ-99三号機‥ウルスラ・ハルトマン。これより降下試験に移る‥‥」

 

ウルスラはキ-99を降下予定の地点と高度に持って行くと早速降下試験を開始する。

 

「降下角度45度‥速度、700‥‥降下角度80、速度850‥‥降下角90、速度980‥‥機体の振動が激しい‥‥」

 

キ-99はガタガタと振動するがこれまでの機体と違い空中で分解する事も操縦不能に陥る事もなく、降下していく。

高度を示すメータはぐんぐんと下がり、反対に速度を示すメータはぐんぐんと上がっていく。

 

(もう少し‥‥もう少しだけ耐えて、キ-99!!)

 

ウルスラは歯を食いしばって操縦桿を握る。

 

「速度‥1000‥1100‥1150‥‥速度‥1225‥‥やった!!音速を越えた!!越えたわよ!!ラウ!!ついにお‥‥ん‥そ‥‥く‥‥を‥‥‥‥」

 

ウルスラのその言葉を最後に通信機のスピーカーからは爆音と機体がバラバラになる轟音がした。

 

ソニックブーム‥‥飛行機が音速を越えた時に起こる衝撃波がラウラの耳に届いた。

 

「ウーシュ‥‥私は聴いたぞ‥‥お前の衝撃波を私は確かに聴いたぞ!!ウーシュ!!」

 

ラウラはキ-99が飛び去って行った空の彼方を見ながら唇をグッと噛んで必死に涙を堪えた。

 

その日、キ-99三号機が八丈島の飛行場に帰って来る事もなく、また捜索の結果、機体の残骸もウルスラの遺体も発見される事はなかった‥‥。

しかし、あの状況下でパラシュートも確認できなかった事からウルスラ・ハルトマン中尉の殉職が正式に決まった。

そしてキ-99も開発が放棄され、その存在は歴史の闇に消え去った‥‥

 

 

『‥‥』

 

ラウラの話を聞いて皆は唖然としている。

その中で一番に再起動したのが、他ならぬウルスラの姉であるハルトマンだった。

 

「‥‥なに‥それ‥‥」

 

ハルトマンは震える声で椅子から立ち上がり、

 

「アンタはウルスラが死ぬって言いたいの!?そんな出鱈目な話を私に信じろって言うの!?」

 

ハルトマンが此処まで『怒』の感情を露わにし、それを見たのはミーナ中佐も坂本少佐もこれが初めてかもしれない。

そんなハルトマンはラウラの胸倉をつかんで、ラウラの話は全部出鱈目だと騒ぐ。

 

「落ち着け、ハルトマン」

 

坂本少佐がハルトマンを諌めてもハルトマンの怒りは収まらず、

 

「落ち着けだって!?こんな妹が死ぬような出鱈目話を聞かされて、落ち着いていられるわけがないでしょう!?」

 

上官である坂本少佐にも食って掛かるハルトマン。

 

「坂本少佐の言う通り、落ち着きなさい、ハルトマン中尉。ラウラさんが最初に行っていたでしょう?『必ず起こるとは言えないが、起こるかもしれない話』って‥ラウラさんが言っていた事がこの世界でも確実に起こる訳ではないわ。でも、ラウラさんが話したのは彼女が確かに経験してきた事なのよ」

 

ミーナ中佐はラウラの話を信じている様子。

 

「‥‥」

 

ハルトマンはまだ納得できていない様子であったが、ミーナ中佐から言われ渋々椅子に座った。

 

「そ、それでその後はどうなったんですか?」

 

宮藤は続きが気になる様子でラウラにその後の続きを尋ねる。

 

「ウーシュ‥いや、ウルスラ・ハルトマン中尉の殉職と機体の空中分解でキ-99の開発は永久に放棄され、開発チームは解散した‥‥」

 

(シャーリーがもし、その場に居たらウルスラ中尉の様にしたかもしれないな‥‥)

 

ラウラの話を聞いて坂本少佐は仲間のウィッチの姿がチラついた。

501に在籍するシャーリーも音速の壁を越えようと日々、ストライカーユニットのエンジンを弄っている。

もし、ラウラが話したキ-99の開発場面に居たら、きっとウルスラではなく、シャーリーがキ-99のテストパイロットに志願をしていただろう。

そして、ウルスラ同様、例え手足や眼を失っても機体と命がある限り、テストパイロットの任務を続けていた事だろう。

坂本少佐がシャーリーの事を思っていると、

 

「その後、私は技術士官から、桜花隊のウィッチに配属された‥‥」

 

 

ラウラはキ-99の開発が放棄後の自分の事を話し始める。

 

「えっ?でも、ラウラさん‥技術士官なんですよね?それがどうして‥‥」

 

宮藤は技術士官のラウラがどういった経緯で桜花隊‥自殺部隊に配属されたのかを不思議に思った。

 

「それは、私がジェットエンジンの開発国のカールスラントの技術士官だったからだ」

 

「どういう事なの?」

 

「ウルスラ同様、テストパイロット兼未だにジェットストライカーに慣れないウィッチ達の指導役だ」

 

「そう言う事‥‥」

 

ミーナ中佐はラウラの話を聞いて納得した様子。

 

「そして、私達は扶桑の地で出撃の日を迎えた‥‥扶桑の琉球近海に水上型のネウロイが出現した」

 

「「「水上型のネウロイ!?」」」

 

ラウラの言う水上型のネウロイと聞いて宮藤達は驚く。

これまでのネウロイは海水に対して弱い事が分かっている。

その為、陸上型、航空型のネウロイは存在しても水の上を航行するネウロイは存在していなかった。

しかし、ラウラの世界ではその水の上を航行するネウロイが存在していたと言う。

 

「扶桑の一式陸攻で私達、神雷隊は出撃した‥‥しかし、目標の水上型のネウロイに辿り着く前に小型の航空型ネウロイの襲撃を受け、攻撃隊は母機諸共撃ち落されて行った‥‥私の戦友達もそこで戦死した‥‥運よく辿り着いた攻撃隊がネウロイを撃破して琉球の危機は何とか回避できたことが唯一の幸いだ」

 

「えっ?ちょっと待って‥‥」

 

ラウラの話をミーナ中佐が一度中断させた。

 

「ん?」

 

「貴女達はストライカーユニットを装備していたのよね?」

 

「ああ」

 

「それがどうして一式陸攻に乗って出撃したの?確か一式陸攻って爆撃機よね?」

 

「桜花はジェットストライカーとはいえ、航続距離が物凄く短い‥それ故、敵の至近距離まで航続距離が長い航空機に乗るか他のウィッチに抱きかかえられて行くしかないのだ」

 

ラウラは桜花の最大の弱点とも言える航続距離が短い事をミーナ中佐に教える。

 

「それで、ラウラさんはどうやって生き残ったんですか?」

 

「機長に殴られて、昏倒している間にパラシュートを着けられて機体の外に放り出された‥‥その後、長距離偵察の二式大艇に救助された‥‥あの時の戦いで生き残ったのは私一人だった‥‥」

 

「護衛は居なかったのか?」

 

坂本少佐は護衛の戦闘機やウィッチは居なかったのかを問う。

 

「勿論いた‥‥しかし、パイロットやウィッチ達の腕が未熟でな‥‥その護衛も七割から八割が戦死した」

 

「「「‥‥」」」

 

「そして、一人生き残ってしまった私は軍からは『腰抜けウィッチ』『卑怯者』の烙印を押された‥特に同じカールスラントの軍人やウィッチには目の敵にされたよ‥‥」

 

ラウラは自嘲した笑みを浮かべる。

しかし、宮藤としてはたった一度の出撃で生き残ったという理由でそんな理不尽な扱いを受ける事に対して納得いかなかった。

 

「第一次神雷隊は私を除き戦死したが第二次神雷隊が新設された‥‥そして私は扶桑が建造した装甲空母、信濃に乗り、欧州へ渡った‥‥」

 

「扶桑の戦況がどうなったのだ?」

 

坂本少佐が扶桑について尋ねる。

 

「情報が無かったので分からなくなった‥‥」

 

「あの‥‥」

 

次に宮藤が手を上げてラウラに質問する。

 

「なんだ?」

 

「信濃ってなんですか?私が知る信濃は貨客船の信濃丸で扶桑には信濃なんて名前の空母は居なかった筈です」

 

「信濃は元は戦艦だと聞いた‥それを急遽、空母に改装したと聞いたのだが‥‥」

 

「ん?信濃と言う戦艦にも心当たりはないが?」

 

坂本少佐も信濃は知らないと言う。

 

「そんなっ!?信濃は扶桑では有名なあの大和級の戦艦だが‥‥」

 

「む?大和級は大和と武蔵の二隻だけだが?」

 

またラウラと宮藤達の話が食い違う。

 

「どうやら、軍艦に関してもラウラさんの世界とこの世界にも違いはあるみたいね」

 

ミーナ中佐は人物、そして人の未来以外でも異なる事を指摘する。

 

「それで、どうなった?」

 

坂本少佐がラウラに話の続きを促す。

 

「その信濃で私はパートナーのウィッチであるシャルロットと出会った‥‥」

 

(確か、ラウラさんの話に何度か出てきた人だ‥‥どんな人なんだろう?)

 

「そして、信濃は私の世界の501の港に入港した‥‥ただし、互いの交流はしない事となった」

 

「どうしてですか?」

 

「神雷隊は自殺部隊だ‥‥そんな非人道的な部隊の存在を公にすれば軍への非難は必至‥それに隊員達にも里心が生まれ、脱走者を出す事になるからな‥‥」

 

「「「‥‥」」」

 

「でも、私とシャルロットは、脱走はしなかったが、夜、艦を無断下艦してよくここら辺を散策していた」

 

ラウラはニッと笑みを浮かべて規則を破っていた事を告げる。

 

(トゥルーデが知ったら大激怒しそう‥‥)

 

ハルトマンは規則にうるさいバルクホルンがラウラとシャルロットの行動を知った時の事を想像する。

 

「そして、ある日の夜‥私がハーモニカを吹いている時、宮藤‥お前と出会った」

 

「えっ?」

 

宮藤は自分の事を言われ一瞬、キョトンとする。

 

「それから、私とシャルロット、宮藤の三人は夜になると密会を重ねた‥‥」

 

ラウラが宮藤と夜中に密会を重ねていた事を告げると、ミーナ中佐と坂本少佐はギロッと宮藤を睨む。

ラウラの話を聞く限り、宮藤は夜の無断外出に、接触をしてはならない部隊の隊員達と出会っていたのだから‥‥

 

「えっ?ちょっ、ちょっとミーナ中佐、坂本さん‥私はそんな事はしていませんよぉ~‥‥それをやっていたのはラウラさんの世界の私ですからね~」

 

宮藤は自分は規則を破っていない、潔白だと弁解する。

 

「ま、まぁ、確かにそうだな」

 

「ええ‥‥」

 

宮藤の弁解を聞いて納得するミーナ中佐と坂本少佐。

 

「そして、いよいよ私達は出撃の日を迎えた‥‥」

 

出撃の日と聞いて宮藤達は息を呑んだ。

 

「その日の朝食は今までにない豪華なモノが出された‥‥でも、皆はなかなか手を付けず、食べても喉に通らない様子だったし、私もそうだった‥‥」

 

ミーナ中佐と坂本少佐はラウラ達、神雷隊の隊員達の気持ちが何となく分かったような気がした。

 

「その時の護衛には501のウィッチ達も護衛に出た‥‥」

 

「えっ?私達が!?」

 

「ああ‥‥そのお陰で前回よりも多くウィッチ達が辿り着けたと思う‥‥」

 

「思う?」

 

「‥‥水上型のネウロイに一番最初に特攻をしたのは私だったからな」

 

「「「‥‥」」」

 

ラウラの告白に再び息を呑む宮藤達。

 

「あの‥‥ラウラさん‥‥」

 

「なんだ?宮藤」

 

「その‥‥シャルロットさんはどうなったんですか?」

 

「‥‥」

 

宮藤がラウラを運んだシャルロットについて尋ねると、ラウラは俯く。

 

「えっ?あ、あの‥‥」

 

ラウラの反応を見て、宮藤は「しまった」と言う顔をする。

しかし、宮藤は失念していた。

ラウラがPTSDを発症した時、シャルロットの名が含まれていたことを‥‥

 

「シャルロットは私が水上型のネウロイに特攻する少し前に‥‥戦死した‥‥」

 

「「「‥‥」」」

 

「シャルロットは、私を敵の下に運ぶと言う役割を自らの命を懸けてそれを行った‥‥私と違い立派なウィッチだった‥‥生き残るのは私よりもシャルロットの方がふさわしかった‥‥」

 

ラウラの周りには哀愁の空気が渦巻いていた。


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