ストライクウィッチーズ ~音速のウィッチ~ 作:破壊神クルル
「あれは‥‥自爆用のストライカーユニットだ」
ラウラから自ら装備していたストライカーユニットは自爆用のモノだと言われ、宮藤達は固まる。
「じ、自爆って‥‥」
「どういう事だ?ボーデヴィッヒ」
「そのままの意味だ‥‥自爆用のベストとベルトを装備し、ロケット推進により得られる高速推進を利してネウロイへ必死の体当たり攻撃を敢行する‥‥それが桜花の‥‥神雷隊の戦術だ」
「で、でも、そんな事をしたら‥‥」
「ああ‥‥桜花を装備し出撃したウィッチは二度と生きて戻る事は無い‥‥」
「‥‥」
「私はそんな部隊に所属していた」
「あ、あの‥‥」
ラウラが桜花の戦術を語った後、ハルトマンが恐る恐る声をかけてきた。
「それと私が呼ばれた理由は?ま、まさか、私をその部隊に引き抜きに来たんじゃあ‥‥」
桜花の戦術を聞いて、更にそんな部隊に所属していたウィッチが自分を呼んだと言う事はまさか、その自殺部隊に自分がスカウトされに来たのかと思い、顔がやや青いハルトマン。
「いえ‥貴女には起こり得るかもしれない未来の事を聞いてもらいたくて‥‥」
「未来?えっ?アンタ、エイラみたいに未来予知でも出来るの?」
「正確には貴女ではなく、貴女の妹‥ウルスラの事です」
「えっ?」
妹の未来についてと言われ、一瞬キョトンとするハルトマン。
「えっ?ハルトマンさんって妹が居たんですか?」
此処で初めてハルトマンに妹が居た事を知り、驚く宮藤。
「どういう事さ!?それ!?なんでウルスラが出てくるのさ!?」
「落ち着け、ハルトマン」
妹の未来についてと言われ、ラウラに食って掛かるハルトマン。
そんなハルトマンを抑える坂本少佐。
なんだかんだ言ってもハルトマンもお姉ちゃんと言う訳だ。
「これから話す事は私が体験した話であり、この先、必ず起こるとは言えないが、起こるかもしれない話だ」
「いいから話して」
ハルトマンはラウラにさっさと話せと急かす。
宮藤達も興味津々の様子だ。
「私は元々、技術士官だった‥‥神雷隊に入る前は航空機・ストライカーユニットの開発部に居た‥‥そこで私はウルスラと出会った‥‥」
ラウラはウルスラとの出会いと彼女との交流を話した。
ただ、その過程においてウルスラは姉のハルトマンよりも先にウィッチとしての力を失った。
だが、例えウィッチとしての力を失っても技術者としての腕は衰えた訳でなかったので、ウルスラは航空機・ストライカーユニットの開発技師としてそのまま軍に居た。
ラウラはそんな彼女の助手として常にウルスラの傍で彼女を支えていた。
ある日、ウルスラは技術交換の為、扶桑へと向かう事になった。
勿論、ラウラもウルスラと共に扶桑へと向かった。
ネウロイの襲来あるアラビア海とインド洋をUボートと伊号潜を乗り継いで何とか無事に扶桑へと辿り着いたウルスラとラウラ。
扶桑の航空技師にカールスラント製のジェットストライカーとジェット機の資料を手渡すと、ウルスラは八丈島にある試験飛行基地にて、高高度戦闘機の開発を依頼された。
しかし、その時点で扶桑は大陸から飛来するネウロイの攻撃に対して疲弊し始めていた。
資材も人員も限られた中で行わなければならなかった。
そんな状況下でもウルスラはラウラと共に試製高高度戦闘機 「キ-99」を作り上げた。
そして、自らがキ-99に搭乗するテストパイロットを務めた。
当然ラウラはウルスラがテストパイロットをする事を止めたが、人員も少ない中、技術者自らが乗れば、どこを調整できるか直ぐに分かり、開発の時間も短縮できると言ってウルスラは試製高高度戦闘機 「キ-99」の一号機に乗り、大空へと舞い上がった。
「現在位置、八丈島東方20000キロ、高度11200‥速度600キロ。回転正常、排気タービン作動良好、気密室、油圧やや低い‥酸素マスクを使う‥‥電熱服は役に立たない」
「此方、ボーデヴィッヒ。了解」
ウルスラはキ-99の現在の状況を八丈島の基地へと伝える。
「増槽を切り離す‥‥降下試験開始‥‥」
ウルスラは操縦桿を倒しキ-99を降下させる。
「降下角、45度、速度650‥降下角60‥速度700‥降下角80、速度750‥降下角90、速度800‥スロットル全開!!速度900‥910‥補助翼作動不能‥‥っ!?操縦桿が折れた‥振動激しい‥速度1000キロ‥潤滑油噴出‥‥操縦不能!!脱出する‥‥キャァァァァー!!」
「ウルスラァァァー!!」
ウルスラの悲鳴とラウラの絶叫を最後にキ-99の一号機は空中でバラバラとなった。
「‥‥あ、足が‥‥足が冷たい‥‥右足が凍り付きそうだ」
ウルスラが意識を取り戻すと右足が凍傷を負うかと言う程の寒さを感じた。
「ウルスラ‥‥ウルスラ、しっかりしろ!!」
「うっ‥‥うぅ~‥‥ら、ラウ‥?‥此処は!?」
ウルスラが目を開けると其処にはラウラの姿があった。
「病院だ」
「病院?」
「ああ、ウルスラはパラシュートで機体から脱出、降下したんだ」
「飛行機は!?」
「空中分解したよ」
ラウラはウルスラにキ-99一号機があの後どうなったのかを伝える。
「そんなっ!?」
ウルスラとしては自分が作った飛行機がバラバラになった事にショックを受けていた。
設計もそうだが、自分の操縦が何処か悪かったのか?
そんな思いも彼女の中にあったのだ。
「機体がバラバラになったのはお前一人の責任ではない‥‥それは誓っていい」
ウルスラはが自分の右足は無くなっていたのに気付いたのは彼女がベッドから降りようとした時だった。
自分の足を見て右足が無かったのに気付いた。
「っ!?あ、足は‥‥?私の右足は!?」
「降下中、飛散した機体の破片に当たったらしい‥‥」
ラウラは気まずそうにウルスラの右足が無くなった理由を話す。
「いえ、ラウが気にする事はありません。私の責任でもありますから‥‥私の右足はその責任をとって死んだだけですから‥‥」
「ウルスラ‥‥」
「二人だけの時は、ウーシュって呼ぶ約束よ。ラウ」
ウルスラとラウラ‥階級ではウルスラの方が上なのだが、年が近い事と常に行動を共にする事により、二人は互いに「ウーシュ」 「ラウ」と愛称で呼び合う関係になっていた。
「あ、ああ‥そうだったな‥ウーシュ‥‥今はゆっくり休め。二号機の試験は他の人に頼もう」
ラウラがそういった瞬間、近くで爆音が窓の外から聴こえる。
「っ!?なに?」
「ネウロイの攻撃だ‥‥扶桑の方もそろそろ危ないな‥‥」
欧州でのネウロイ掃討作戦がかなり遅延しているせいで、扶桑のエース級のウィッチやパイロット、艦隊はその殆どが欧州に派遣されており、扶桑の守りはまだまだ新米のウィッチばかりである。
連合軍の上層部が白人ばかりの為に、白人至上主義のせいかまずは欧州からの奪還が連合軍の目標であり、極東、アジア、中東、アフリカは投げやりな戦局となっている。
「大陸から飛来するネウロイは高高度を高速で飛んでいる‥‥あれに勝つには音速を超える戦闘機でなければダメだ‥‥いや、そもそも戦闘機でネウロイを落すこと自体が難しい‥‥」
ラウラは窓の外を見ながら呟く。
「ウーシュ‥‥私達は無謀な挑戦をしているのではないだろうか?プロペラのある飛行機では音速を超える事はできないのであろうか?カールスラントのジェットさえあれば、少しはこの戦局をマシにできるかもしれないが、今の扶桑の状態ではそれも難しい‥‥」
「‥‥」
「やはり、開発は、やめ‥‥」
「ラウ」
ラウラが高高度戦闘機の開発は止めようと言う前にウルスラがラウラの言葉を止める。
「私達技術者が止めては、そこで進歩も止まってしまう‥‥扶桑の人の為に私達は此処で止まる訳にはいかない‥‥」
「‥‥」
「そんな顔をしないで‥‥私が必ずピストンエンジンで音速を越える飛行機を作って見せるから、だから他の人に試験飛行を頼むなんて言わないで」
「いや、しかし、ウーシュ、その足では‥‥」
ラウラは片足となった親友の事を気遣う。
片足で飛行機が操縦できるのか?
「片足が無くなっただけでなんだ。傷口さえ塞がれ義足を着けてでも私はもう一度、チャレンジをするつもりよ」
ウルスラは再びキ-99二号機のテストパイロットに志願した。
それから数週間後‥‥
八丈島の日本軍飛行場の滑走路には発動機の唸り声をあげているキ-99の二号機の姿があり、コックピットには右足を木製の義足を着けたウルスラの姿があった。
「此処が、カールスラントならばもっと出来の良い義足が準備出来たのだがな‥‥」
ラウラはウルスラの木で出来た義足を見ながら呟く。
カールスラントは欧州において技術者大国であると同時に医療大国でもあった。
「大丈夫よ、ラウ。もう慣れたから。それじゃあ、行って来るわね」
「ウーシュ、増槽を効果の前に切り離すのを忘れるな!!それから操縦不能になったら早めに脱出するんだぞ!!」
「そうなんでも落ちてたまりますか」
そう言ってウルスラはコックピットのキャノピーを閉め、キ-99の二号機で空へと舞い上がって行った。
この時、操縦士のウルスラ以上にラウラには一抹の不安があった。
「現在位置、八丈島上空11500。増槽を落した。只今より降下に移る」
「了解」
ウルスラはあの時と同じくキ-99の二号機で急降下をかけた。
「降下角45度、速度700‥‥60度、820‥70度、900‥むっ!?‥操縦桿が動かない‥操縦不能!!脱出する!!」
ウルスラはラウラの忠告通り、操縦不能となった直後に脱出した。
キ-99の二号機は一号機と同じく空中分解しながら墜落した。
「‥‥今度は左手と右眼か‥‥」
病院のベッドの上でウルスラはポツリと呟いた。
「なに、首さえ千切れなければまだ飛べる。私にはまだ、右手と左足、それに左眼も残っているんだもの」
ウルスラはまだ、キー99の試験飛行を続けると言うが、ラウラはもうこれ以上、ウルスラに傷ついてほしくはないと思っていたし、なんだかウルスラが自棄になっているようにも思えた。
「‥‥ウーシュ、もう止めよう。この実験はもう無理だ。やはりレシプロ機では音速は越えられない」
「ラウ、『越せない』とは一体誰が決めつけたの!?」
「ウーシュ‥‥」
「私は右足と左腕と右眼を無くしてもあの子(キー99)には十分、音速の壁を越える可能性があると確信している!!いまさらそんな弱音を吐かないで!!私は必ずあの子(キー99)で音速を越えて見せる!!生きている限り必ず!!」
「‥‥」
ラウラとしても飛行機技師としてレシプロ機で音速の壁を越えたい。
でも、この実験を続ければ親友の身体を傷つけてしまう。
最初は右足、その次は左手と右眼だ。
その次はなんだ?
残った左足か?それとも右手か?左眼か?
いや、それともウルスラ自身か?
ウルスラの飛行機技師としての責任感と音速の壁に対する情熱は分かった。
でもそれ以上に親友にはもうこれ以上傷ついてほしくない。
死んでほしくない。
音速の壁なんて親友の命と比べればちっぽけなプライドだ。
そんなモノに親友の命を奪われてたまるか。
ラウラの心配をよそにその親友本人は自分を嘘つき呼ばわりされないために音速の壁を乗り越えようとしている。
それも命がけで‥だ‥‥。
「ラウ、まだ三号機がある筈よね?」
「‥‥」
「三号機で二号機の欠点を直して‥‥補助翼と昇降舵の補強だ。翼タンの形も少し変えて‥‥いえ、尾翼の面積かも‥‥あっ、それと冷却器の位置の変更も‥‥」
ウルスラは次々とこれまでのキ-99の欠陥をしてきし、その改良案をラウラに指摘する。
「‥‥その‥ウーシュ」
「なに?」
「‥‥言いにくい事なんだが‥‥」
「どうしたの?」
「ウーシュが眠っている間に事態は変わりつつあるんだ‥‥」
「ん?どういう事?」
「‥軍は高いオクタンの燃料も回せないと言っている」
「えっ?」
「なんでも新しいストライカーユニットの開発が成功したみたいで‥‥」
「‥‥」
「今日、その仕様書が届いた」
「見せて」
ラウラはウルスラに新たに開発されたジェットストライカーの仕様書を見せた。
「‥‥」
ウルスラは残った左眼で仕様書を睨みつける様に見る。
「‥‥何よ‥これは‥‥こんなの‥ストライカーユニットなんかじゃないわ‥‥」
仕様書を見たウルスラは震える声で仕様書に書かれているストライカーユニットの感想を述べる。
「ああ‥‥V号ロケットのなり損ないだ‥‥」
ラウラも仕様書に書かれているストライカーユニットの感想を吐き捨てるかの様に呟く。
カールスラントにて開発中のV号ロケット‥大陸から飛来するネウロイに対して扶桑もそのロケットの開発を行っていたのだが、その誘導装置の開発に苦労していた。
現にカールスラントでも狙った場所にV号ロケットをぶつける事は未だに出来ていない。
そこで、軍は『命中しないなら人間に操縦させたらいいじゃない』と人員による誘導によるロケットの開発に着手したのだ。
「軍は本当にこんなモノの開発に許可を?」
「ああ‥‥」
軍は仕様書に書かれているロケット特攻機 桜花の燃料にも割り振り立ての為、高オクタンを完成するかもわからないプロペラ機に回すのは正直燃料の無駄だと判断した。
「‥‥ラウ」
ウルスラは仕様書を手から離して俯く。
「な、なんだ?」
「‥‥もし止めると言うのであれば‥私を殺して」
「えっ!?」
ウルスラの突然の言葉にラウラは息をのむ。
「殺してから三号機を燃やして子供みたいに大泣きして!!」
「‥‥」
「始めた以上、途中で逃げるな!!弱音を吐くな!!もし逃げるなら、私と貴女はもう友達でもなんでもない!!技術者なら例え不可能と分かっていてもやらなければならない時がある!!今がその時なのよ!!ラウ!!」
「‥‥わかった。ウーシュの指摘した欠点の部分の改良をする。他に気付いた点があるなら言ってくれ」
ラウラも覚悟を決めて最後に残ったキ-99の三号機にウルスラをテストパイロットに乗せる事を決めた。