ストライクウィッチーズ ~音速のウィッチ~ 作:破壊神クルル
「これは‥‥どういうことなの‥‥?」
501の執務室にてミーナ中佐は一枚の書類を手に思わず声をあげる。
ミーナ中佐はラウラが海岸に漂着したその日のうちにラウラの原隊を探す為に自分の伝手でラウラの所属部隊を探した。
そしてその結果がようやくミーナ中佐の下に届いたのだが、その結果と言うのが‥‥
『七二一航空隊 神雷部隊 なる部隊は存在せず』
更に、
『我がカールスラント軍においてラウラ・ボーデヴィッヒなるウィッチは存在せず』
だった。
ラウラの所属部隊はおろか、故郷、カールスラントにラウラの存在すら確認できなかった。
ならば、あのラウラ・ボーデヴィッヒと言うウィッチは何者なのだろうか?
(まさか、偽名?)
最初にまず疑ったのが、ラウラが出鱈目な部隊名と偽名を名乗ったと言う事‥‥
しかし、何故ラウラは偽名を使ったのか?
ミーナ中佐の脳裏に真っ先に思い浮かんだのが、ラウラがマロニー大将から送り込まれたスパイであると言う事‥‥
だが、ウィッチ嫌いなあのマロニー大将がそのウィッチをスパイとして使うだろうか?
それに彼女が使用していたジェットストライカーも辻褄が合わない。
ミーナ中佐がラウラについて『うーん』と唸っていると、
「どうした?ミーナ。眉間に皺を寄せて」
坂本少佐がやって来てミーナ中佐に声をかけた。
「ちょっと、美緒。それだとまるで私が年寄みたいじゃない」
「ハハハ‥‥皺が寄っていなくても、なんだか思いつめた顔をしていたぞ」
「‥‥」
「やはり、ラウラ・ボーデヴィッヒについてか?」
「ええ‥‥」
「そうか‥‥しかし、ここ最近の彼女の様子を見る限り、精神的に落ち着いてきている様子だ。夜は宮藤が一緒に寝ている為か、魘される事もなく、パニック症状を起こす事もなくなってきているみたいだ」
「そう‥‥」
「それで、ラウラについて何か分かったか?」
「今まさに、私はそれで悩んでいたのよ」
「ん?どういう事だ?」
「これを見て」
ミーナ中佐は坂本少佐に先程まで自分が見ていた書類を手渡す。
「‥‥」
坂本少佐は無言のまま、書類に目を通す。
「ミーナ‥これに書かれている事は事実なのか?」
「確かな情報筋を頼りに調べてもらったから信憑性は高いわ」
「だとすると、ラウラは‥‥」
「何処かの国の諜報機関に所属しているのかもしれないわ‥‥でも、彼女が装備していたストライカーがどうにも腑に落ちないのよ‥‥」
「確かにジェットストライカーが完成した等と言う情報はないからな」
「‥‥」
ミーナ中佐が顎に手を当てて考え込んでいると、
「‥‥なぁ、ミーナ」
坂本少佐がミーナ中佐の顔を覗き込む様に声をかける。
「なにかしら?」
「もう一度、ラウラに聞いてみてはどうだろうか?」
「えっ?ラウラさんに?」
「ああ、精神的に落ち着いてきているのなら、もう少し話が出来ると思うし、この書類に書かれている事を伝えれば、何か分かるかもしれないと思うが?」
「諜報員がそう簡単に口を割るとは思えないけど?」
「しかし、この場で幾ら頭を抱えていても答えは出ないと思うが?」
根が真っ正直な坂本少佐らしい言葉だ。
しかし、彼女が言っている事も間違ってはいない。
ダメ元でミーナ中佐はラウラに事情を聞くために坂本少佐と共に宮藤の部屋へと向かった。
坂本少佐とミーナ中佐がラウラの居る宮藤の部屋に近づくと、部屋の中からハーモニカの音色が聞こえてきた。
「これって‥‥」
宮藤の部屋から聞こえてくるのはカールスラントの音楽、『Muss i den』だった。
ミーナ中佐と坂本少佐が宮藤の部屋に入ると、ラウラがハーモニカを奏でており、それを宮藤が聴いていた。
歌手を目指し音楽学校への留学を考えていたミーナ中佐から見てもラウラが奏でるハーモニカは素晴らしいモノだった。
しかし、何時まで聴いている訳にはいかなかったので、ミーナ中佐はラウラと宮藤の二人に声をかけた。
「ラウラさん、少しいいですか?」
ミーナ中佐に声をかけられてラウラは演奏を止めた。
「ミーナ中佐‥坂本さん‥‥」
「宮藤、少し席を外してもらえないか?」
坂本少佐は宮藤に少しの間、部屋から出てくれと頼む。
「えっ?でも‥‥」
宮藤はチラッとラウラを見る。
「私の事なら大丈夫だ」
「そう‥ですか‥‥?」
宮藤は心配そうにしながらも上官である坂本少佐の命令に意見する事は出来ず、部屋を退出する。
でも、退出するだけであって、宮藤は部屋の外で聞き耳を立てていた。
「それで、わざわざ宮藤を部屋の外に出してまで話すと言う事は私に関する事なのだろう?」
「ええ、話が早くて助かるわ‥‥ラウラ・ボーデヴィッヒさん‥‥貴女は本当にラウラ・ボーデヴィッヒさんなの?」
ミーナ中佐はいきなり、ラウラに確信を突く様な質問をする。
「ん?質問の意図が分からないのだが?」
「正直に答えて」
「私は自分の名前を嘘偽りなく言っている」
「そう‥‥でも、変なのよ‥‥」
「変?」
(まぁ、この時代の私がカールスラントに居るからか?‥‥今の私はドッペルゲンガーに近い存在だからな‥‥)
ミーナ中佐が過去の‥つまり、現時点の自分の所在を掴んだのかと思っていたラウラであったが、彼女の言葉はラウラの予想していたモノとは異なるモノだった。
「カールスラント軍において、ラウラ・ボーデヴィッヒと言う名のウィッチは存在していないわ」
「なっ!?ば、バカなっ!?‥‥ちゃんと調べたのか!?」
この時代に生きている筈の過去の自分が居ない。
ミーナ中佐はラウラにそう言ってきたのだ。
「確かよ」
「‥‥」
ラウラには信じられなかった。
此処は過去の世界‥‥ならば、過去の自分が存在している筈‥‥
その過去の自分が存在しない‥‥
ならば、此処に存在するラウラ・ボーデヴィッヒは一体何者なのか?
呆然とするラウラを尻目にミーナ中佐は、
「もう一度、尋ねるわ‥‥貴女は何者なの?」
「私は‥‥私は‥‥ラウラ・ボーデヴィッヒだ‥‥それ以外の何者でもない」
ラウラはそれでも自分がラウラ・ボーデヴィッヒである事を曲げない。
いや、曲げる事などできない。
この名前は自分が自分である証なのだから‥‥
「それと貴女が所属していたと言う部隊‥‥その部隊も存在していなかったわ。これは一体どういうことなの?」
神雷隊については、ラウラは仕方がないと納得している。
あの部隊は1944年の現在ではまだ設立されていない部隊だったからだ。
しかし、過去の自分が存在していない事に関しては解せない。
「それはそうだ‥‥あの部隊は現時点ではまだ設立されていないのだからな‥‥」
混乱の中、ラウラは神雷隊がまだ設立されていない事をポツリと零してしまった。
「設立されていない?それはどういう事かしら?」
ラウラの零した言葉をミーナ中佐は聞き逃さなかった。
「設立もされていない部隊についても軍事機密なのかしら?」
ミーナ中佐がラウラに詰め寄る。
ラウラは壁の隅に追いやられてしまい、タジタジ。
「さあ、吐いて貰うわよ‥‥貴女の事、未だに開発されていないジェットストライカーの事‥‥全部!!」
「ボーデヴィッヒ‥‥こうなってしまったミーナはもう、止められない‥‥それにまだ設立されていない部隊の軍事機密など無いも同然だろう?」
坂本少佐もやんわりとラウラに全部話せと言う。
「わ、わかりました‥‥ただ、私の話をしても貴女達には到底信じられないモノかもしれないが、私にとっては全て私が経験してきた話だ‥‥」
「構わないわ」
「ああ」
「‥‥ただ、話をする前に呼んでもらいたい人物が居る」
「宮藤さんね」
「‥‥それともう一人」
「ん?まだ他に居るのか?」
「確か501にはエーリカ・ハルトマンが居る筈‥‥彼女にも聞いてもらいたい事がある」
「分かったわ」
ラウラは501にてほとんど面識のない筈のハルトマンもこの場に呼んでくれと頼んだ。
そこで、坂本少佐が宮藤とハルトマンを呼びに部屋を出ると、
ガンっ!!
「いたっ!!」
部屋の前でおでこをさする宮藤の姿があった。
「盗み聞きとあまり感心出来ん行為だぞ、宮藤」
「す、すみません‥‥でも、ラウラさんの様子が気になって‥‥」
「まぁ、いい。宮藤、ラウラがお前に聞いてもらいたい話があるみたいだから、部屋の中で待っていろ」
「は、はい」
そう言って坂本少佐はハルトマンを探しに行った。
その途中、坂本少佐はバルクホルンと出会った。
「おや?少佐、そんなに慌ててどうした?」
「ああ、大尉か‥‥大尉、ハルトマンを知らないか?」
「ハルトマン?‥‥多分部屋で寝てのではないだろうか?」
「そうか」
「少佐、ハルトマンに何か用なのか?」
「ああ、先日、救助したウィッチがハルトマンに話したい事があるみたいでな」
「ハルトマンに?‥‥ならば私も同席をしよう」
バルクホルンはハルトマンだけでは心配なのか自分も同席すると言うが、
「いや、私の他にミーナもその場に居るから大丈夫だ」
「‥‥」
そう言ってバルクホルンからハルトマンの居場所を聞いて彼女の部屋と向かう坂本少佐。
そんな坂本少佐の後ろをバルクホルンは何だか寂しそうに見つめていた。
ミーナ中佐やハルトマン、坂本少佐も居るのに、自分だけ除け者扱いされた様な心境だった。
「ハルトマン中尉、私だ‥坂本だ。少しいいか?」
「‥‥」
ハルトマンの部屋に着き、部屋のドアをノックしても部屋の中からはハルトマンからの応答はない。
バルクホルン曰く、彼女は寝ていたと言うから聞こえていないのだろうと思い、ハルトマンにすまないと思いつつ彼女の部屋に入る坂本少佐。
「‥‥これは酷いな」
坂本少佐はハルトマンの部屋の中に入り、彼女の部屋を見渡すと一言呟く。
彼女のお部屋はまさに汚部屋と言う惨状だった。
床には脱ぎ捨てられたハルトマンの衣服、本、段ボール、お皿にコップ、ジュースの瓶、お菓子の食べ残しやそのカス‥‥とてもカールスラントが誇るウィッチのエースどころか、女子の部屋にも見えない。
最も坂本少佐の部屋も女らしいと言う感じではない。
綺麗に片づけられているが部屋には刀や戦術書が溢れかえっている。
まさに軍人の部屋だった。
「えっと‥‥ハルトマンは‥‥」
坂本少佐は部屋の主を探す。
探すと言うよりは何だか発掘作業をしているみたいだ。
そして、ベッドの上に置かれている大量の服の山の中で眠っているハルトマンを見つけた。
「こんな所で良く眠れるな‥‥」
寝ているハルトマンを見ながら坂本少佐は呆れたように言う。
しかし、何時までも見ている訳にはいかないし、ラウラやミーナ中佐、宮藤も待っている。
「おい、ハルトマン‥‥起きろ」
「うーん‥‥あと、五時間‥‥」
寝返りを打ちながらハルトマンはあと五時間眠らせてくれと言う。
「やれやれ‥‥」
坂本少佐はこれ以上時間を潰せないので、ハルトマンをひょいと肩に担ぎ宮藤の部屋に向かう。
宮藤の部屋に着いてもハルトマン坂本少佐の肩の上で眠っていた。
そこでミーナ中佐が、
「起きなさい、エーリカ・ハルトマン中尉‥‥」
耳元で囁くと、
「ひぃっ!!」
あれだけ起きなかったハルトマンがバッと目を覚ます。
「あれ?此処は何処?」
坂本少佐の肩の上で周囲を見渡すハルトマン。
「ん?あんた誰?新人?」
ハルトマンはラウラに気づき、ラウラが誰なのかを尋ねる。
今日までラウラとハルトマンは面識がなかったので、ハルトマンがラウラを新人のウィッチと間違えるのも無理はなかった。
「先日、この近くの海岸に漂着したウィッチだ」
坂本少佐がハルトマンにラウラが誰なのかを伝える。
「それで、なんで私は此処につれて来られたの?」
「ハルトマンに聞いてもらいたい事があるらしい」
「えっ?私に?でも、私、その人と面識なんてないけど?」
ハルトマンはこれまでの人生の中でラウラとも面識がないのに何故自分が呼ばれたのか不思議に思う。
「まぁ、それは彼女の話を聞きましょう」
ミーナ中佐がハルトマンに一先ずラウラの話を聞こうと言う。
こうして宮藤の部屋にミーナ中佐、坂本少佐、宮藤、ハルトマンが揃い、それぞれが椅子に座り、ラウラがベッドの上に腰掛ける。
役者が揃い、ミーナ中佐と坂本少佐、宮藤はラウラがどんな事を話すのか興味があり、ハルトマンはどうでもいい様子だった。
「まず、最初に‥‥私自身はこの時代の人間ではない‥‥それに一度死んだ‥‥筈だった‥‥」
ラウラは四人に自分はこの時代の人間ではない事を伝える。
「「「は?」」」
「はぁ?アンタ、何言ってんの?」
ラウラの言葉にミーナ中佐、坂本少佐、宮藤は唖然とし、ハルトマンは「コイツ、頭、大丈夫か?」みたいな顔で言う。
「私がこの時代の人間ではない事の何よりの証明は、私が使用していたストライカーユニットだ‥‥」
「確かに‥でも、あのストライカーユニットには爆薬が仕込まれていたわ。一体アレは何なの?」
「あれは‥‥特別攻撃ストライカーユニット‥‥桜花」
「特別‥‥」
「攻撃‥‥」
「ストライカーユニット?」
「なんか凄そうなストライカーユニットですね!!」
宮藤は特別攻撃と聞いてラウラが装備していたストライカーユニットがただのストライカーユニットではないモノだと感じる。
「あれは‥‥自爆用のストライカーユニットだ」
ラウラは桜花がどんな機能を持つストライカーユニットなのかを語った。