ストライクウィッチーズ ~音速のウィッチ~ 作:破壊神クルル
特別攻撃ストライカーユニット、桜花で水上型ネウロイに特攻をして戦死した筈のラウラ・ボーデヴィッヒはどう言った経緯があったのか自身でも分からないが、生還し、今501の医務室のベッドの上に居た。
しかし、妙な違和感がある。
あれだけ、シャルロットと共に交流を重ねた宮藤が自分の事を全く覚えていないのだ。
確かに自分は軍から腰抜けウィッチと呼ばれ嫌悪されていたが、宮藤はそんな事は関係なく自分と接していてくれた。
それが再会したらこの態度‥‥
上官から何か言われたのかと思ったが、彼女の様子から嘘をついているようには見えず、本当に自分の事を知らないようにも見える。
「自己紹介も済んだ事だし、早速貴女に聞きたい事があるのだけれど?」
ミーナ中佐がラウラに質問を始める。
「なんでしょう?」
「貴女が使用していたストライカーユニット‥‥あれは最近になってカールスラントで製作が決まったジェットエンジンを採用している事が判明したわ‥まだ、試作機も出来ていないジェットエンジンを搭載したストライカーユニットを何故貴女は使用していたの?」
「‥‥」
ミーナ中佐の質問にラウラは戸惑う。
桜花隊の戦法は基本軍事機密であり、そう簡単に第三者にベラベラと話すわけにはいかない。
「答えなさい」
しかし、ミーナ中佐は逃すつもりはなく、目を細めてラウラを睨みつける。
「‥‥軍事機密です。貴女も軍人ならば、例え同じ軍人でも話せることと話せない事の区別はつく筈です」
「‥‥じゃあ、もう一つ‥貴女が装備していたベストとベルト‥そこから大量の爆薬が仕込まれていたわ。勿論、貴女が使用していたストライカーユニットにも‥‥これはどういうこと?それも軍事機密?」
「‥‥」
ラウラは同じ事を言わせるなという態度で首を縦に振る。
自分の素性を一切話さないラウラにミーナ中佐も坂本少佐も何だかイラついているように見える。
「あ、あの‥ラウラさんはまだ病み上がりなので、そこまで無理をさせるにはちょっと‥‥」
そこに宮藤がミーナ中佐と坂本少佐に今日は切り上げてみてはどうかという。
士官に対して下士官が意見するなんてもってのほかなのだが、宮藤の言う事も最もであり、ラウラは病み上がりの身であるし、話を聞いた以上、彼女の口を割らせるには時間が必要みたいだ。
「そうね、今日はこれぐらいにしましょう」
ミーナ中佐は宮藤の意見をすんなりと受け入れ、坂本少佐と共に医務室を後にした。
しかし、ラウラに対しての不審感は拭えず、彼女は早速、自らのコネを使い、ラウラについて調べることにした。
同じカールスラント軍人であればすぐにヒットすると思っていたのだ。
ミーナ中佐と坂本少佐が医務室から出て行った後、宮藤はラウラに個人的に質問をした。
「えっと‥‥ラウラさん」
「ん?なんだ?」
「私は本当に貴女の事を知りません‥ですが、貴女は私の事を知っていました。私はそれを知りたいのですが、教えてくれますか?」
「‥‥」
宮藤の質問に答えて良いものかとラウラは宮藤から視線を逸らす。
すると、医務室にあったカレンダーがラウラの視界に飛び込む。
そのカレンダーが示す日にちはラウラが知っている日にちから過去を示していた。
「‥‥宮藤」
「なんでしょう?」
「変な事を聞くかもしれないが、今日は何日だ?西暦を含めて‥‥」
「えっ?今日ですか?今日は‥‥」
宮藤はラウラに西暦を含めて今日の日にちを伝える。
やはり、ラウラの知る日付とは違い、過去のモノだった。
(私は過去に来てしまったのか!?)
自分が過去に来たのであれば、宮藤が自分を知らないのも無理はない。
「そ、そうか‥‥」
「あの‥‥それで‥‥」
宮藤はラウラに質問の答えを求める。
ラウラとしては後に宮藤は自分やシャルロットと出会うのに今ここで話していいモノかと悩む。
ただ、その過程である疑問が浮かぶ。
自分と会う前の宮藤がこうして自分と会い、後で自分とシャルロットと出会うのであればあの時、宮藤は自分の事を知っていた筈だ。
でも、宮藤はあの時も自分とは初邂逅の様な素振りをしていた。
もし、過去にこうして自分と会っていたのであれば、あの時‥‥信濃から降りた時、あんな態度は取らない筈だ。
その疑問が益々混乱に拍車をかける。
「ああ、何故、私が宮藤を知っていたか‥だな‥‥」
「はい」
「‥‥すまない‥今は答えられない‥でも、いずれ分かる」
「?」
ラウラの答えに宮藤は首を傾げる。
その日の夜‥‥
「これからどうするべきか‥‥」
この先、水上型のネウロイが出現する。
そうなれば当然、桜花も登場し、神雷隊も結成される。
それにこの世界が過去の世界であるのであれば、もう一人の自分が居る。
同じ人間が同じ時間軸に二人いる。
こんな変な事が起きるモノなのだろうか?
そもそもどう言った経緯と原因で過去にタイムスリップをしたのか?
それがわからない。
この時間軸の自分もいずれは神雷隊に入り、今の自分の様に過去へタイムスリップをするのだろうか?
ラウラが医務室のベッドで横になり、目を閉じて今後の事をどうするかを考えていると、
「‥‥う‥‥ら‥‥」
「らう‥‥ら‥‥」
「らうら‥‥」
「ん?」
誰かが自分の事を呼んでいる。
その声でラウラは目を覚ました。
すると、医務室の扉の近くには大勢の人が立っているのが見える。
この基地の誰かが来たのだろうか?
しかし、こんな深夜に一体何の用だろうか?
だが、ラウラはその人達の顔を見て目を見開く。
「ラウラ‥‥」
「ラウラさん‥‥」
「少尉‥‥」
「あっ‥‥あっ‥‥そ、そんな‥‥バカな‥‥」
ラウラの眼前に居るのは‥‥
「シャルロット‥‥クラリッサ‥‥ナターシャ‥‥セシリア‥‥」
神雷隊で戦死した筈の隊員達だった。
シャルロット達、神雷隊の隊員達は皆、強い恨みを持った目でラウラを睨んでいる。
「ラウラ‥‥どうして、君はまだ生きているの‥‥?」
シャルロットがラウラに聞いてくる。
「えっ?」
「私達は死んだのに‥‥」
「なぜ、少尉は生きているのです‥‥?」
「恥ずかしくはないのですか?」
シャルロットを皮切りに隊員達がラウラに訊ねてくる。
「ぼくたちをみんな死地に追いやって、一人だけ生き残って‥‥」
「悲劇のヒロインにでもなりたいのか?」
「貴女も軍人なら、責任をとって死ぬべきだ‥‥」
「貴女も死ぬべきだ!!」
「‥‥死ね」
「‥‥死ね」
「‥‥死ね」
「‥‥死ね」
隊員達が「死ね」の言葉を繰り返しながらラウラに近づき、彼女に手を伸ばしてくる。
その光景はもはやホラー映画以上の恐怖である。
昏睡状態の時には見なかった幻覚が意識を取り戻したことにより見えるようになってしまったのだ。
そして、シャルロットの手がラウラに触れる寸前、
「うわぁぁぁー!!」
ラウラは基地全体に響くほどの悲鳴を上げてベッドから転がり落ちる。
かつて、戦友だった仲間達も今、ラウラの目の前に映る隊員達はラウラにとって恐怖以外の何者でもない。
「ひぃ‥‥く、来るな!!」
腰が抜けて立てなくても手で這いずりながらラウラはシャルロット達から逃げようとするが、医務室の隅に追い詰められてしまった。
「うわぁぁぁー!!」
ラウラは基地全体に響くほどの悲鳴を聞いて、
「うおっ!?」
「なんだ?」
「なに?今の声?」
「きゃっ!!」
ラウラの悲鳴を聞いてウィッチ達が目を覚ます。
ミーナ中佐と坂本少佐は慌ててベッドから飛び起きて声がした医務室へと向かう。
その途中、宮藤、リーネ、バルクホルンらのウィッチ達と合流し、医務室へと向かう。
「中佐、少佐、今の声は一体何だ?」
バルクホルンがミーナ中佐と坂本少佐に尋ねる。
「それは‥‥」
ミーナ中佐はラウラの存在を他の者に知らせてもいいのかと思った。
ラウラの事を教えれば変な混乱を生む可能性もある。
だが、今のラウラの悲鳴は尋常ではない。
誰かがラウラに夜這いでもかけたのだろうか?
「話はあとだ。今は医務室へ急ぐぞ、大尉」
「は、はい」
坂本少佐がバルクホルンに悲鳴の主については後で話すと言い、医務室へと急ぐ。
ミーナ中佐らが医務室に飛び込むと、其処には医務室の隅で頭を抱えガタガタと震えているラウラの姿があった。
「どうしたんですか?ラウラさん、一体何があったんですか?」
宮藤がラウラに心配そうに声をかけ、近付き彼女に手を伸ばす。
しかし、今のラウラには宮藤の姿も戦死した戦友の姿に見える。
「っ!?く、来るな!!」
ラウラが再び絶叫すると、彼女の身体から膨大な魔力が放出される。
すると、ポルターガイスト現象が起こり、医務室にあったベッドや机、椅子、薬品の入った瓶、治療用の器具が宮藤達に襲い掛かる。
「こ、これは‥‥!?」
「魔力が暴走しているみたいね」
ラウラの身体の周りには青白い魔力光と黒いスパークが走っている。
そして頭にはシャーリと同じウサギの耳、お尻にはウサギの尻尾が生えている。
ただし、色はシャーリのモノとは異なり黒いウサギの耳と尻尾が生えている。
「早く何とかしなければ医務室が使い物にならなくなるぞ」
姿勢を低くして襲い掛かって来る医務室の家具や薬品、治療用器具を躱しながら、ラウラを何とか鎮めなければ医務室がラウラの手によって使い物にならなくなる可能性を示唆するバルクホルン。
「バルクホルン大尉、彼女を取り押さえて、宮藤さんはその隙に鎮静剤を投与して」
ミーナ中佐も姿勢を低くしてバルクホルンと宮藤にラウラの鎮圧の方法を指示する。
「了解」
「は、はい」
ミーナ中佐の指示を受けてバルクホルン大尉が身体強化の魔法を自らにかけると、ラウラを羽交い締めにする。
「いやぁぁぁー!!」
「くっ‥‥コイツ‥‥ルッキーニとほとんど変わらない体型なのに物凄い力だ‥‥」
筋力強化をしているにもかかわらず、ラウラはバルクホルンを振りほどこうとしており、バルクホルンもさらに力を込めなければ、振りほどかれて仕舞いそうだ。
「宮藤、早く!!」
「は、はい」
バルクホルンが必死に抑えている隙に宮藤がラウラの腕に鎮静剤が入った注射器を刺し、鎮静剤を投与する。
すると、鎮静剤が効いてきたのかラウラはがっくりと意識を失い、宙を舞っていた医務室の家具や薬品、治療器具は床に落ちる。
「一体何だったんでしょう?」
宮藤がバルクホルンの腕の中で意識を失っているラウラを見ながら、彼女に一体何があったのかをミーナ中佐と坂本少佐に訊ねる。
「多分、PTSDじゃないかしら?」
ミーナ中佐はラウラが起こしたパニック症状についての原因がPTSDではないかと推測する。
「「「PTSD?」」」
しかし、坂本少佐らはミーナ中佐の言うPTSDと言う聞いた事もない言葉に首を傾げる。
「PTSD‥‥心的外傷後ストレス障害の事よ。命の安全が脅かされるような出来事…例えば、戦争、天災、事故によって強い精神的衝撃を受けることが原因の病気で、精神的不安定による不安、不眠などの過覚醒症状、事故・事件・犯罪の目撃体験等の一部や、全体に関わる追体験によってパニックを起こす場合があるって聞いたことがあるわ」
「パニック‥‥今のラウラに起きた事と一緒だな」
「追体験‥‥じゃあ、ラウラさんは私達には見えない何か‥‥昔の事が見えてパニックに?」
「恐らくそうでしょうね」
「中佐、少佐‥‥それでコイツは一体誰なのだ?」
今までアウト・オブ・眼中だったバルクホルンが肝心のラウラについてミーナ中佐達に訊ねる。
「それは‥‥」
ミーナ中佐が戸惑っていると、
「ミーナ、ここまで来たら話そう」
「美緒‥‥」
「大尉、この者は‥‥」
渋るミーナ中佐に代わって坂本少佐がバルクホルンにラウラの事を説明する。
ただし、あくまでもラウラの事だけであり、彼女が身に着けていた爆弾入りのベストやベルト、そして未だ完成には至っていない筈のジェットストライカーについては、まだ語るべきではないと判断し、伝えなかった。
「そうか‥‥まさか、昼の哨戒中にそんな事が‥‥」
ミーナ中佐は昼間、バルクホルンがこの周辺の哨戒に出ている事を思い出し、彼女に訊ねる。
「ねぇ、トゥルーデ」
「ん?なんだ?」
「今日の哨戒で近くにネウロイの反応や戦闘が有ったりしなかった?」
「いや、そんな事は無かったが‥‥」
やはり、今日この周辺でネウロイも戦闘もなかった。
ミーナ中佐がラウラは一体何処から来たのかがやはり気になった。
その一方で宮藤とほぼ変わらない年齢でPTSDを発症させるなんて彼女は一体これまでどんな戦線を経験したのだろうか?
今後、PTSDが発症するたびにポルターガイスト現象を起こされてはネウロイよりも先にラウラによって基地が破壊されてしまう。
先程見たポルターガイスト現象で、ラウラの魔力はかなりもモノだと判断できた。
ミーナ中佐の悩みはまだまだ尽きない様だ。