悪平等のおもちゃ箱   作:聪明猴子

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今回は管理局アンチです。
苦手な人は読み飛ばして下さい。
あらすじは後書きに載せておきますので。

そして、この意見は球磨川の意見です。


弱点を暴く

『やあ、なのはちゃん』『こんなところで会うなんて奇遇だね。なのはちゃんも海でも見に来たのかな』

 

軽く、いっそ楽しげに球磨川が声を掛ける。

 

「…………」

 

港のコンテナが積まれた倉庫区画。

そこに球磨川とフェイト、アルフの三人となのは、ユーノが向かい合い相対していた。

 

「ミソギ、無駄口を叩くな。アンタは今のところはフェイトの味方なんだろう」

 

『あらら』『僕はいつだってどんな状況だってフェイトちゃんの味方だよ』

 

そんな軽口を叩きながらも、球磨川は剣の様に長いマイナス螺子を二本持つ。

いつもの様に飄々とヘラヘラ笑いながら傲岸不遜に振る舞う。

そんな態度になのはやユーノは勿論フェイトやアルフでさえ顔を顰める。

正直この二人にしても仲間にする気はなかったし、現在もない。

だからジュエルシードの探索に同行させてはいない。

それでも球磨川はここぞという時にはまるで図ったかのように現れるのだ。

ジュエルシードの暴走体やなのは達との戦闘には必ずと言っていい程現れる。

正直アルフとフェイトは球磨川に対してなのは達以上の警戒を持っている。

仲間としても関わりたくない存在なのだ。

それでも辛うじて仲間として認めるのは、球磨川の助成を拒否した際の反応が全く予想できないからだ。

それを大人しく受けてくれれば良いが、ほぼ絶対に

『じゃあなのはちゃんの方に付こっと』等と敵対されるのは一番不味い。

何しろ球磨川はここの四人に大嘘憑きという現実を虚構にする過負荷を披露、説明しているのだ。

それが説明通りでは無く、何かトリックがあったとしてもそれでもヤバイ。

そう感じさせる過負荷があった。

 

「「……………」」

 

それを二人の少女は無言で受け流す。

なのはは、前回の反省を生かしたのか既にバリアジャケットを展開し、二メートル程の空中に静止している。

フェイトもそれと向かい合うように同じくらいの高度に停止している。

 

『じゃあさ』『ここはよーいドンで駆け出して先に辿り着いた方がジュエルシードを

 

球磨川の戯言を無視してフェイトとなのはが空中を疾駆し、ぶつかる。

互いのデバイスが交差し、拮抗する。

それを見て残りの三人が駆け出そうという時に、二人の間に新たな人物が現れる。

黒いバリアジャケットに歪な杖という全身黒ずくめの少年。

 

「ストップだ!!僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウン。 此処での戦闘行為は禁止されている。 この場にいる全員は速やかにデバイスを収めるように。そして詳しい事情を聴かせて貰おうか」

 

「執務官‼」

 

「フェイト、撤退するよ!!」

 

フェイトが焦燥感に駆られてなのはをデバイスで弾き、アルフが即座に撤退を進言する。

 

「させるかっ‼」

 

そう言って魔力弾を生成したクロノはそれを放つ前に、進路を螺子で塞がれる。

クロノの動きを封じる為に五、六本の太く長い螺子が檻のようにクロノを囲む。

 

「なっ!!」

 

そしてそれを成した球磨川になのはとユーノの目が集まった瞬発、それを見越してジュエルシードを回収していた球磨川が魔方陣の上で転移しようとしていたフェイトにジュエルシードをオーバースローで投げ渡す。

 

『それは君へのプレゼントだ』『大事にしてくれると嬉しいぜ』

 

そんなキザったらしい台詞と共に手を振る。

 

「くそっ‼」

 

最後にクロノが放った魔力弾が飛翔するが、対象に当たる前に少しの魔力光を残して転移する。

 

「ぐっ、すいません艦長。逃がしてしまいました」

 

空中に浮かび上がらせたモニターにクロノが報告する。

 

「あの状況なら仕方ないわ。とりあえず話を聞きたいからそこにいる人たちを連れてきてくれないかしら」

 

「了解しました。そういう事だすまないが同行願えるか。君の先程の行動も聞きたい」

 

『えぇ~』『嫌だよ。僕は帰りに本屋さんに寄って エロ本を買おうと思ってたんだから』『あっ』『君が選ぶのを手伝ってくれたら付いていってあげても良いぜ』

 

球磨川のヘラリとした笑みに少年は怖気立つ。

が、職務を果たそうとそれでも続ける。

 

「……悪いが冗談に付き合う暇はないんだ。次元犯罪者の逃亡を援助したんだ。君には逃亡幇助の容疑が掛かっている。多少の無理を通してでも付いて来てもらうぞ」

 

『ええ~』『怖いなぁ』『わかった。わかったよ。付いて行くよ』『これって任意同行じゃないのかぁ』

 

 

 

 

 

メカメカしい通路を進んで、クロノに付いて行く。

時空管理局所有のアースラという船らしきものの中を四人で歩く。

 

『おいおいそんなに見なくても何もしないって』

 

「………念の為だ」

 

クロノが一際奥の部屋に着くと、ノックしてドアを開ける。

 

「連れてきました、艦長」

 

『強制的に半ば拉致られました』

 

「あら、ありがとう、クロノ。すみません、こちらも非常事態で。私は時空管理局・次元航行部隊所属、巡航L級8番艦・次元空間航行艦船『アースラ』の艦長リンディ・ハラオウンです」

 

『へ~何か肩書きが長くて偉そうだね』『でも僕は魔法も管理局とやらもよく知らないんだ』『そんな自分勝手な理由で−−』

 

そうやってクロノに続いて入室すると、そこは何故か純和風の部屋だった。

文字通り次元の違う世界で何故地球のしかも日本の文化が伝わっているのか疑問は尽きない。

しかもここは時空管理局とかいう組織の所有する船の中だった筈なのだが。

しかも兵器を搭載した戦艦。

その光景に流石の球磨川も困惑して部屋を眺めている。

余りの衝撃に先程まで続けていた台詞が止まっていることにも気付いていないようだ。

そんな球磨川を放置してユーノがジュエルシード事件の経緯を話している。

もう球磨川は帰ってジャンプでも読みたい気分であったが、クロノが見張ってるので仕方なく鞄からジャンプを取り出して読み始める。

 

「なるほど。そんなことが」

 

「はい。それで僕が回収しようと」

 

「立派だけど無謀ね。それ程のロストロギアならば、管理局かスクライア一族に助成を頼むべきだったわね。少なくとも一人でやるものではないわ」

 

ユーノは俯き、表情を暗くする。

自身の管理が招いた事故で事件だ。

それを阻止できなかったばかりか、管理外世界の子供に協力を依頼している現状を悔いているのだろう。

 

「ロストロギアは過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法。使用法によっては世界どころか次元空間さえ滅ぼしかねない危険な技術で作られた存在。そういった物の封印と保管をするのも管理局の仕事です。ジュエルシードは次元干渉型エネルギー結晶体でロストロギアの一種であると考えられます。あなた一人では余りにも無茶です」

 

「はい……軽率な行動でした………」

 

『リンディさーん、僕も質問良いですか?』

 

「えっと」

 

『私立聖祥大附属小学校の三年生球磨川禊です』

 

「ええ。勿論、何かしら?」

 

『これって』『ユーノ君が相手の実力を過信してた愚か者だってだけですよね』『でもそんなことは僕にとってどうでもいいんですよ』『ジュエルシードの被害って誰が責任とってくれるんですか?』

 

「……責任」

 

『これはユーノ君にも一度言ってるんですけど、ユーノ君のスクライア一族とやらがばらまいたジュエルシード。そしてその暴走体が破壊した公共物やそのせいで傷付いた現地の人。その責任は誰が取るんですか?』『漠然とユーノ君が取るべきなのかと思っていたんですけど』『ロストロギアの封印と保管をするのも管理局の仕事なんですよねぇ』『この質問はユーノ君は結局答えてくれなかったけれど大人のリンディさんなら答えてくれますよね』

 

ユーノが思い出したのか、びくりと肩を震わせる。

なのはは完全に球磨川の空気に、螺子曲がった空気に影響されて聞くことしかできない。

そしてそれを確認したリンディは少し考え、目の前の少年を諭すように言葉を紡ぐ。

 

「あのね、球磨川君。地球は管理外世界というものに指定されていてね。地球ではロストロギアの被害に対する公的な賠償はできないのよ」

 

『へ~』『それって結局』『地球人は魔法を知らないんだから責任なんか取らないって言ってるんですよね』

 

「………」

 

『次元犯罪者の逃亡を援助したんだ?君には逃亡幇助の容疑が掛かっている?』『魔法を知らないんだから責任を取らないのは仕方ない。それなのに、次元犯罪に関する法律は知らないんだからは仕方ない。とはならないんだね』『僕は魔法も管理局も知らない管理外世界の地球人なのにさぁ』『清々しい位の強者本位だ』

 

クロノがそんな馬鹿にするような発言に怒り、詰め寄りながら喋る。

 

「おい‼我々次元管理局が公的な行動が取れないのは、管理外世界に与える影響を考慮しているからだぞ」

 

『うん御立派』『でもそれ僕達弱者には関係ないよね』『僕らからすればリンディさんが御高説していたロストロギアとかいう危険な技術で作られた存在を僕らの世界にばら蒔かれただけだよね』『管理局側からは魔法とかいう技術で好き勝手に干渉できるのに、こちらからは知ることさえできないなんて。管理局って奴は自分本位な組織なんだね』

 

「………………」

 

『じゃあこれで僕の質問は終わりです。リンディさん続けて良いですよ』

 

そんなことを平然と宣う。

今までもずっと浮かべていたヘラヘラとした笑みが一層恐怖を掻き立てる。

こいつはこの球磨川禊という少年は何を考えているのだ。

目的がまるで見えない。

ただ単に場を心を引っ掻き乱しただけだ。

この管理局の不備を突いて成果がない。

何がしたいのかわからない。

それにそんなことをしておいて続けて良いですよと場を流す。

訳がわからない。

だから怖い。

ユーノは身体を震わせながら涙を堪え。

なのはは痛みに耐えるように唇を噛み締める。

クロノやリンディでさえこんな人間は初めてだ。

仕事柄悪人も善人も含めた多くの人間を見てきた彼らでもこのような醜悪な空気を漂わせる人間を見たことはなかった。

遊び半分に場を掻き乱す過負荷。

 

「………分かりました。球磨川君の言う通りこれはこちらの問題です。球磨川の容疑は誤認。これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます。これで良いわね」

 

『良いよ良いよ。誤解が解けて嬉しいなぁ』

 

「「!?」」

 

「君達も今回の事は忘れて、それぞれの生活に戻るといい」

 

「でっ、でもそれは…」

 

「次元干渉に関わる事件なんだ。ロストロギアの危険性は十分に説明しただろ。君達みたいな民間人が出る話じゃない」

 

「まあ、急に言われても気持ちの整理も出来ないでしょう。一度家に帰って今晩ゆっくり三人で話し合うといいわ。その上で改めてお話ししましょうか」

 

そこまで言ったところで球磨川がわざとらしく小首を傾げて悪意を放つ。

 

『あれれ~?』『おっかしくな~い?』『もしかして君らはなのはちゃんを便利な道具にでもしたいのかな~?』

 

瞬間空気が張り詰める。

事も無げに放った言葉がこの場を凍らせる。

 

「貴様……………!かあさ、艦長に――」

 

怒って彼の襟首を掴もうとしたクロノは、球磨川の身体から黒い邪気のようなものが立ち上る様を幻視する。

球磨川の放つ全てを台無しにする雰囲気が場を満たす。

桁違いの過負荷が質量を持ってこの場を支配する。

さっきまでの全てが螺子曲がる空気が再来し、喋ることさえ儘ならない。

ひどく気持ちがぐらつき、生理的な嫌悪が湧き上がる。

そのまま一秒が十分のように長く感じられる時間が過ぎる。

そしてようやく気持ちを落ち着かせリンディが問う。

 

「…………どういう意味かしら?事によっては私も怒らざるを得ないのですが」

 

『あれ?どうしました?』『僕は理不尽に貴方達に怒られるようなことはないと思うんですけど』

 

「では何故利用するなどとデタラメを言ったのですか」

 

『デタラメ?デタラメですか?』『リンディさんは冗談が上手いなぁ~』『そういうジョークが上手い人って尊敬するなぁ』『でもぉ、僕って人の悪意とか魂胆とか、弱点には敏感なんですよ』

 

「答えろ!!何が利用するだ!!お前は何を言ってるんだ!!」

 

クロノが自身のデバイスを突き付けて吠える。

管理局員が無抵抗の非魔導師にデバイスを突き付けるという異常な事態でも誰もクロノを止められない。

誰も彼もが球磨川の過負荷に呑まれている。

 

『僕には疑問なんだけどさぁ』『ロストロギアって使用法によっては世界どころか次元空間さえ滅ぼしかねない危険な代物なんだよねぇ』

 

「……えぇ」

 

『それでさぁ』『それを管理するのが君達時空管理局なんだよねぇ』

 

「そうよ‼一体何が言いたいの‼」

 

『焦らないで下さいよ』『只の確認ですから。格好付けたのに間違えてたら嫌ですからねぇ』

 

「………」

 

『それでは最後の質問です』

 

そう言ってぐるりと部屋を見渡してオーバーに一礼する。

 

『リンディさんはなのはちゃんに一体何を考えさせる気ですか?』

 

「「「「!?」」」」

 

『「一度家に帰って今晩ゆっくり三人で話し合うといい。その上で改めてお話ししましょう」って一体何を考えさせるんですか?』

 

「なっ!?」

 

『ロストロギアの危険性も、管理局員でもない素人がそれに関わる危険性も説いているのに何でですか?』

 

リンディはこの時感じたことのない恐怖を抱いた。

今まで管理局の提督としてこのような腹の探り合いなど幾つもこなしてきた。

しかしまだ齢二桁に届こうかという少年に暴かれる。

そう思った。

自分の隠していた黒い部分。

弱点とも呼べるべき痛いところ。

 

『答えは簡単。こんなの小学生でも解けますよねー』『 「管理局と契約して使い捨ての駒になってよ」ってことだよね』

 

「違っ――」

 

『何が違うんだい?』『いくらなのはちゃんが魔力が強いとはいえ、何の訓練も受けていないただの小学生。しかも、致命的なまでにお人好し。そんななのはちゃんにゆっくり三人で話し合いなさい?それってとっとと戦う決意をして管理局の駒になれってことと同じじゃないかな?』

 

楽しげに笑みを浮かべながら推理を披露する。

 

「さっきから聞いていたら何を根拠にそんなことを!!」

 

『だからさぁ』『じゃあ一体何を考えさせるんだい?』『魔力は高くて戦闘もできるけど民間人のなのはちゃんにさぁ』

 

「……………彼女も少なからずこの事件に関わったんだ。気持ちの整理とかが必要だろ」

 

『え~』『でももう関わらせる気がないなら「その上で改めてお話ししましょうか」なんて言わないでしょ』

 

「ぐッ」

 

『結局のところリンディさんはなのはちゃんを味方に引き込みたかっただけなんだよ。魔法が使えて、尚且つ管理局のこともよく知らない小学校三年生を、危険だとか言ってたロストロギアが関わる事件にね。死んでも管理外世界の小学生一人。魔法のことは管理外世界の住人には教えられないから、遺族にも説明義務は無し。訴えられる心配もなく行方不明扱いだ』『うん』『本当にエリートは録なこと考えないよ』

 

「「「「…………………」」」」

 

『じゃあ、なのはちゃん』『一度家に帰って、今晩ゆっくり三人で話し合おうか』

 

そう言って凄惨に笑った。




これは一昔前に話題になってた勧誘の所をマイナス思考で編集しただけです。

不快になる読者様がいらっしゃったらごめんなさい。


あらすじ

球磨川君がフェイトちゃんを庇ったせいで色々あったよ。
管理局に喧嘩を売ったのでリンディさんとクロノ君からの嫌悪が上がったよ。

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