悪平等のおもちゃ箱   作:聪明猴子

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容疑者 球磨川禊

「おやおや球磨川くん。死んでしまうとは何事じゃ。君はいつになってもすぐに死んでしまうね。僕がちょいと寝ている間に少しは強くなったと聞いていたけれど身体能力は相変わらず貧弱ここに極まれりと言ったところかな。しかし君は本当に過負荷な奴だよ。大嘘憑きが無い時には滅多に死なないのに、なかったことにできるとなると君は毎週のように死んでしまうんだからね。まったく君を照らし続ける過負荷の星って奴は世界を跨いだくらいじゃ君を離してはくれないらしい。おっと『安心院さんも死んだくらいじゃ離してくれない』なんて随分冷たいことを言ってくれるじゃないか。そんなことは言いっこなしだよ球磨川くん。7932兆1354億4152万3222個の異常性(アブノーマル)と、4925兆9165億2611万0643個の過負荷(マイナス)、合わせて1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを持つ僕にとって、世界を移動することなんてわけないことだし、何より君は僕が初めて期待した人間なんだぜ。この悪平等に肩入れされてる自覚を持って欲しいね。そうそう、球磨川くんもたまには良いこと言うじゃないか。球磨川くんをここに呼んだ理由だったね。はいっ。球磨川くんでも見れば分かると思うけれど、一応説明してあげよう。それは温泉旅館の招待券だ。ああ勿論日頃小学生を演じている君の疲れを労う為の物ではないよ。第一君は四歳の頃から医者を脅迫するような過負荷野郎だろう。普通の小学生なんか演じられるような器用さなんか無いことは分かっているさ。それは次のイベントの舞台への入場券と言ったところかな。今はそれだけしか言えないけれど僕は球磨川くんを応援しているよ」

 

 

 

 

 

私高町なのはは、現在ちょっと平凡とは言えない魔法少女をしています。

きっかけは数日前の傷だらけのフェレットを拾った日のこと。

深夜に助けを求める声を聞いて、家を抜け出した先で昼間に助けたフェレットと黒い化け物を見つけました。

話を聞くと、フェレットはユーノ君と言う名前の魔法使いで、黒いスライムみたいな化け物は、ジュエルシードという魔法の道具の暴走体だというものでした。

ジュエルシードは願いを歪んだ形で叶える魔法の道具で、とても危険な物だが、ユーノ君はそれを運ぶ途中に事故でこの町に落としてしまいました。

ユーノ君はそれを回収に来たが、ジュエルシードの暴走体が思いの外強くて苦戦していたと言うのです。

だから協力者を探して、魔法の素質のある人にだけ伝わる念話というもので連絡を図ったと説明し、本当に申し訳ないが、探すのを手伝って欲しいとお願いしてきました。

私は自分に魔法の力があるのに驚きましたが、私しか頼れる人がいないと聞き、集めるのを協力することにしました。

そんなこんなで、魔法少女?(魔導師)になって今日も活動中です。

 

 

 

深夜にユーノ君がジュエルシードの反応があると言うので、急いで現場に向かった。

そして到着した瞬間、その惨状を見て絶句した。

ブロック塀が崩れ、街路樹や電柱が折れている。

そして角を曲がってすぐの所にクラスメイトの球磨川君と、ジュエルシードの暴走体がいた。

だが球磨川君はボロボロで生きているかも怪しい姿で倒れていた。

倒壊したブロック塀にもたれ掛かり、既に事切れているかのようになのはに反応しない。

頭からは血を流し、足が変な方向に曲がっている。

際限なく流れ続ける血が、道路を染めている。

息が詰まり、心臓が痛くなる。

酸素が足りなくて思考が纏まらない。

涙が勝手に零れる。

 

「く、球磨川君…」

 

予想外に大きな声が出る。

すると声に反応したのかこちらを向く暴走体。

一瞬身体を縮めたかと思うと、脈動するようにスライム状の身体が波打つ。

そして身体の触手を伸ばし、襲い掛かってきた。

反射的に魔法の杖であるレイジングハートでプロテクションを張る。

 

《マスターしっかりしてください。今は目の前の敵を》

 

レイジングハートが私に何か言っているがわからない。

なんで球磨川君がという思いが何度も思考を過ぎる。

 

「なのはしっかりして。今はジュエルシードを封印するんだ。彼は僕が助ける」

 

助ける……助けられるかもしれない?

今はこんなことをやっている場合じゃない。

邪魔するものは全部倒す。

レイジングハートを構え、呼吸を整えて叫ぶ。

 

「レイジングハートセットアップ」

 

光りが身体を包み、魔法の鎧であるバリアジャケットが顕現する。

 

「ユーノ君球磨川君は大丈夫?」

 

『僕の人生に大丈夫な時なんかないよ。でも死ぬ程っていうか死んだけど今は生きてる』

 

「良かった。今封印するから待ってて」

 

『あれ?』『なのはちゃんはコスプレイヤーだったんだね。魔法少女コスかなぁ。これで大きいお友達も釘付けだー』『かっこいー』『かわいー』『一枚写真いいですか?』

 

「ユーノ君?何を言って――」

 

そう言いながら振り返ると、まるでいつもと変わらない球磨川君がいた。

聖小の制服に、ヘラヘラした笑顔。

淀んでいて、死んだ人間の様な目をした男の子。

まるでさっき見た光景が、嘘だったかのような姿。

 

「く、球磨川君?え…う、嘘?何で…さっき……よかったぁ」

 

何を言うべきかわからない。

思考をそのまま言葉にしたかのように、脈絡のない言葉が飛び出す。

さっきの光景は見間違いだったのか。

あんなに鮮やかな赤に染まっていたのを見間違えるなんてことがあるのか…なんて思考してしまう。

だけどそんなことはどうでもいいとも思う。

球磨川君が死んでない。

助かった。

それだけで今はいい。

 

『おーい。なのはちゃん怪物が襲って来てるけど』

 

はっとして再びプロテクションを張って体当たりを逸らす。

球磨川君がすごーいとかさすが特別だなんて言ってるのを、今は無視して暴走体の封印に取り掛かる。

球磨川君の応援のせいで、いつもより何倍も疲れたけれどどうにか封印を施す。

 

「ジュエルシードシリアル21封印」

 

「お疲れ様。なのは」

 

『お疲れー』『それにしてもなのはちゃんが本物の魔法少女だったなんて驚いたよ。学校でもフェレットに話し掛けているから、なのはちゃんは頭がどうかしちゃったのか、与次郎ちゃんと同じ病気にかかったのかと思ったよ』

 

そして、やっぱりなのはちゃんが主人公だったか、と付け加える様に呟いたが、それは小さすぎて二人の耳に届くことはなかった。

 

「頭は大丈夫だよっ。それに与次郎ちゃんって誰。それって中二病だよね。私そんな風に思われてたの!?ていうか見られてた。ユーノ君に念話を使わずに話していたのが見られてた。うぅぅぅぅぅ。く、球磨川君だけだよね気付いてたの」

 

『さぁ?』

 

「さあって……」

 

そこにオズオズとユーノ君が入って来る。

 

「それより球磨川君だったかな。傷は大丈夫かい?僕たちは君が血まみれで倒れてたのを見たと思うんだけど」

 

自信がないのか、声が小さくなっていく。

 

『わー』『オコジョが喋ってる』『すごーい』『なにあれ』『どうなってるのー』『はっ』『このオコジョをテレビ局に持って行けば、僕は一躍人気者。そしてペットショップなんかに売れば大金持ちだ』

 

「え」

 

『そうと決まれば早速』

 

「駄目なの球磨川君。ユーノ君は我が家のペットなの」

 

「な、なのは君は僕をそんな風に…」

 

助けたのに何故か落ち込むユーノ君。

なんでだろう?

 

『それは残念』『そういえばなのはちゃんは、何であんな怪物と闘ってるんだい』『脅されているのかい』『それとも洗脳でもされているの?』

 

「脅してないし、洗脳なんてしてないよ」

 

『へー』『じゃあ時給はいくら?』

 

「これは人助けなの。ボランティアだからお給料は出ないの」

 

『えー』『なんてこった』『本気かいなのはちゃん。怪物と戦うんだぜ。それなのにお給料も見返りもないなんて……』『もしかして僕の小学生の時の先生が行わせていた、ボランティアと言う名の強制労働なのかい?』『それともなのはちゃんは戦闘狂と呼ばれるような人種なんじゃ…』

 

「そんなんじゃないよ。球磨川君は私を何だと思ってるの。高町家の家訓は、困っている人がいて、助けられる力を自分が持っているのなら躊躇うな…だから!!」

 

『ふーん。立派だ』

 

「にゃはは。ありがとう」

 

『それであの怪物は何だい。ふざけてないでいい加減説明してくれるとありがたいんだけど』

 

「もぉ、今までふざけてたのは球磨川君だけだよ」

 

 

 

そうして私はこれまでの経緯を話した。

ユーノ君のこと、ジュエルシードのことを包み隠さず話した。

話してしまった。

 

『全部ユーノ君のせいじゃん』『街で怪物が暴れるようになったこと』『そのせいで僕が死んだこと』『全部が全部君のせいだ』『それなのに回収を手伝えだなんて、そんなに恥知らずな奴見たことないぜ。パープルヘイズだってそんなこと言わないよ』

 

「球磨川君っ!?ジュエルシードが地球に落ちちゃったのは事故だったんだよ。ユーノ君は悪くないって」

 

『いやいやそんなことはないんだぜなのはちゃん。故意や過失に関わらず、責任は生じるものなんだ』

 

「そんな…」

 

「はい。球磨川さんの言う通りです。なのは僕の為にありがとう。だけどこれは僕の責任なんです」

 

『そうだ君が起こしたことだ。君のせいだ。』『……それで君はこれからどうするのかな?』

 

「なのはには手伝ってもらいます。本来なら一人で行うのが正しいんでしょうが、できそうにありませんので。ジュエルシードを可及的速やかに回収し、できる限りのお礼をします」

 

『ふーん』『模範的な回答だ。なのはちゃんはそれでいいんじゃないのかな。自主的に行っているみたいだし』

 

「そうなの。自分でユーノ君を手伝うって決めたの」

 

『じゃあ他の事はどうするんだい』『君がばらまいたジュエルシードが破壊した家の塀、電柱や道路なんかの公共物。破壊した責任は誰が取るのかな』『それとも君は、魔法を知らない人が悪い』『だから僕は悪くない』『なんて言うつもりなのかい』『魔導師って奴は随分無責任で卑怯な存在なんだね』

 

「……」

 

『簡単じゃないか。自分が過失を犯した時は事情を説明して誠心誠意謝る。これしかないだろう』

 

「ですがっ魔法技術を勝手に管理外世界に伝えるのは、管理局の法律に――」

 

『そんなの君達の都合じゃないか』『でもいいんだよ』『恥知らずで』『みっともなくて』『卑怯で』『無責任で』

 

球磨川君が今までの責めるような口調を一変させ、優しく諭すように続ける。

 

『それがユーノ君らしさなんだから』『皆君の立場だったらそうするしかないさ』『回収しようとするだけ君は良識のある人間だ』『事故なんてどうしようもないさ』『むしろユーノ君は被害者だよ』

 

『だから君は悪くない』

 

 

 

 

 

ユーノがジュエルシード回収の際に遭遇した少年は球磨川禊と名乗る、なのはのクラスメイトだった。

ヘラヘラとした笑顔と、底の無い闇の様な目が特徴的な同年代の少年だった。

ユーノは彼が苦手だった。

喋る言葉どころか、存在全てが嘘のような少年。

彼はなのはの説明を聞くと、僕の責任を追及し始めた。

ジュエルシードの管理責任やそれに伴って起きた被害。

それは管理外世界では、被害者に説明できないものだった。

なのはは、現地協力者であり、仕方ないとも言えるが、普通は魔法技術を管理外世界に伝えることは違法なのだ。

自分の責任だがどうもできない。

何か償える方法がないか思考していると、彼は突然態度を一変させて言った。

 

『君は悪くない』

 

わけがわからない。

今まで嬉々として僕の責任を追及していた者の言葉だとは、思えない。

そう思うのが当たり前だった。

呆れたり、不可解に思う筈だった。

しかし、ユーノを襲ったのは全く正反対のモノだった。

全肯定される。

自分でさえ認めたくないような欠点を。

それも自分らしさだと。

自分が悪いと思っていたことを違うと言ってくれる。

自分の欠点を認めながら、『君は悪くない』と言う彼の言葉は心地良いものだった。

全肯定してくれることは、ユーノの心をじわじわと犯した。

仕方ないかもしれない。

さっきまで自分の所為だと思っていたことが、そう思えた。

そして、その考えは自分の心を大いに軽くしてくれた。

 

「だめ、だめだよユーノ君。私も考えるし手伝うから、頑張ろうよ」

 

その言葉にジュエルシードの回収を手伝ってくれた少女を思い出す。

自分のミスを取り戻すことに、見返りを求めず手を貸してくれた少女。

ここで自分の責任を投げ出すことは、彼女を裏切ることだ。

ユーノは気付くことはなかったが、ここで踏み止まることができなければ自分の生き方、過去の自分自身すら裏切ることになっていただろう。

 

「大丈夫。ありがとうなのは。球磨川さん、僕は魔法を明かさないで、償える方法がないか模索します。自分の行動の責任は自分で持ちます」

 

断ると同時に、先の発言は取り返しのつかない過負荷にさせるものだったのだと直感的に感じた。

 

「私も手伝うよ」

 

なのはが力を貸してくれることが、弱い心に立ち向かう勇気をくれる。

自分はこんなに単純な男だったのかと自分でも驚く。

 

『そっか』『残念だぜ。ユーノ君も過負荷の道に引きずり込んでやろうと思っていたのに』

 

彼は何でもないことのように最低な発言をする。

でも本当に危なかったと思う。

彼は本気だった。

彼はユーノが恥知らずで、みっともなくて、卑怯で、無責任になったとしても、それを知りながらも君は悪くないと言うのだろう。

被害者だと。

温い友情という言葉が浮かぶ。

悪くない、仕方ない。

その言葉は人を腐らせる。

その甘さに一度浸ってしまえば、自分が最悪だと自覚しながらも、罪悪感なんて感じずに楽しく暮らせるのだろう。

一度開き直ってしまえば、プラスに戻るのは至難だろう。

いくら自分が、事故の対応や見知らぬ管理外世界に参っていたと言っても、仕方ないなんて思う。

いや思わされたのは怖かった。

もしもなのはがいなかったら、踏み止まれなかっただろうという確信があった。

それが本当に怖かった。

 

『じゃあもう僕は帰るよ。子供は寝る時間だしね』『また明日とか』

 

そう言って彼は帰って行った。

口を挟む暇もないあっさりとした帰宅で、その背中を呆然と、眺めることしかできなかった。

あんな言葉や雰囲気は子供の、ましてや小学校三年生が出していいものではなかった。

いや、人間の出していいものですらないだろう。

人間ではなく、闇そのものや、邪神だと言われた方が信じられる存在だ。

 

「なのは……すごく言いにくいんだけど………彼って何者?」

 

「うーん…私と同じ学校に通うクラスメイトだと思ってたんだけど……」

 

「変わった所とか能力とかは知らない?」

 

「変わった所は沢山あるけど。能力って??」

 

「僕達が到着した時に、彼は怪我をしていたよね。それも命の危険があるくらいのものを。むしろ死体に近かった。それを僕達は見ていた。だけど彼は突然立ち上がったんだよ………。その時には彼は、さっきみたいに無傷だった。まるで見間違えだったかのように。場面が切り替わるように。始めから傷なんかなかったみたいに。始めは僕も見間違いかと思ったんだ。咄嗟に最悪のイメージを考えてしまったんだって。でもそんなことおかしいし普通じゃない。彼は擦り傷さえ負ってなかったのに大量に出血、骨折しながら倒れていたと見間違うなんて。幻術や高速回復のレアスキルを持ってるって考えた方が自然。彼は明らかに異常だ。僕は、彼がジュエルシードを狙う次元犯罪者でもおかしくないと思ってる。彼は信用できない」

 

自分でもらしくなく辛辣な言葉を使っている自覚はあるが、彼にはそうせざるをえない気味の悪さがあるのだろう。

 

「ユーノ君、球磨川君は少し…かなり性格に難があるけど悪い人じゃないと思うよ」

 

「わかってるよ。まだ全然情報なんかないし、憶測の域を出ないものだ。そもそもなのはと同じ学校に通っている目的なんて仮説さえ浮かばない。でもあらゆる可能性を考えるべきだと思ってる。彼は少なくとも魔法の存在を知っていたと思うしね」

 

「球磨川君が魔法使いってこと?」

 

「うん。彼はクラスメイトが魔法使いで、ジュエルシードの暴走体に襲われたのに全然動揺してなかったからね」

 

「あっ……そうだね。球磨川君いつもあんな調子だから気がつかなかった」

 

「そっか。なのはは、明日も学校で会うんだよね。警戒はした方がいいよ」

 

「そうだね……。気は進まないけど…」

 

気持ちを入れ換える用にゆっくりと頷く。

 

「うん。そうした方がいい。じゃあ警察には悪いけれど今回は結界張れなかったし、すぐに離れ………」

 

僕は最後まで話し続けることはできなかった。

今の今まで倒壊し、散乱していたブロック塀が。

真ん中からへし折れていた街路樹が。

砕かれていた電柱が。

ジュエルシードの暴走体によってもたらされたありとあらゆる痕跡がなかった。

最初からそんなものはなかったみたいに。

完璧に一片の陰り無く修復されていた。

まるで質の悪い冗談みたいに。

 

 

 

 

 

当の球磨川は、そんな話をされているなんて露ほども思わず、歩いていた。

手の中の温泉旅館の招待券を弄びながらだ。

この招待券は、つい先程死んだ時に平等なる人外から渡された物だ。

彼女は多くは語らなかったが、次のイベントの舞台になるらしい。

 

『温泉ねぇ』『どうせなら混浴がよかったのに。安心院さんは配慮が足りないなぁ』

 

ここで球磨川はある大切なことに気付く。

 

『あっ』『しまった。なのはちゃんの魔法少女コス撮るの忘れてた』『くそぅ。なんてこった』『まっいいか。明日学校で撮らせてもらおう』

 

殺された直後とは思えない発言だった。

球磨川禊にとってもクラスメイトが魔法使いだったなんてことは驚くべきことだ。

でもそれだけだ。

それ以上が無い。

しかしそれも当然というもの。

箱庭学園には、それ以上の騒動も多々あった。

異常でない所がない学園とその生徒達。

異常(アブノーマル)極まる天才達。

弱点や欠点を武器に戦う過負荷(マイナス)

途方も無い数の個性を持つ悪平等(ノットイコール)な人外。

魔法のような言葉を操る言葉使い。

不可逆デストロイヤーにして古き英雄の残響。

そしてそれを時に越える普通の努力と絆。

その騒動の渦中に存在し、火種を作ったこともある彼にとってクラスメイトが魔法使いだったなんて、驚くべきことであっても、混乱したり、生き方を変える理由にはならない。

まあどんな理由があっても、球磨川禊が生き方を変えるなんてことはないのだが。

更正しても改心しても生き方は変わらないのだ。

弱くても勝利を諦める理由にはならない。

あいつらに勝ちたい。

格好よくなくても強くなくても正しくなくても美しくなくとも可愛げがなくとも綺麗じゃなくとも、格好よくて強くて正しくて美しくて可愛くて綺麗な連中に勝ちたい。

才能に恵まれなくっても頭が悪くても性格が悪くてもおちこぼれでもはぐれものでも 出来損ないでも、才能あふれる頭と性格のいい上り調子でつるんでいるできた連中に勝ちたい。

友達ができないまま友達ができる奴に勝ちたい。

努力できないまま努力できる連中に勝ちたい。

勝利できないまま勝利できる奴に勝ちたい。

不幸なままで幸せな奴に勝ちたい。

嫌われ者でも!憎まれっ子でも!やられ役でも!主役を張れるって証明したい!!

それが彼の生き方で信念だ。

 

『うーん』『今日はエロ本でも買って帰るか』『身体が若返った反動か裸エプロンに惹かれるんだよなー』『もう僕の中では終わったトレンドかと思ったんだけどなー』

 

そんな球磨川はユーノの仮説を嘲笑うかのようにくだらないことを言っていた。

いつものように自然体で。

ヘラヘラと笑いながら。

そして青い菱形の宝石を見つけて足を止める。

 

『うーん』『ジュエルシードみたいな危険物が町に普通に落ちてていいのかなぁ』

 

拾い、手の中で遊ばせながら笑う。

 

 

 

彼は確かに最低の過負荷(マイナス)を持っているが、それはレアスキルみたいなプラスのものではないし、幻術とか超回復とかそんなチャチなもんじゃなくもっと恐ろしいものだ。

加えて彼は次元犯罪者よりも最低ではあるが、地球やミッドチルダの法では犯罪者として裁ける者ではない。

魔法よりも突飛なものは見てきたが、魔法なんて一時間前まで知らなかったし、使える筈もない。

そもそもリンカーコアさえ無いのだから当然だ。

まあ言ってしまえば、ユーノの仮説は全て間違っている。

正解だと言えるのは、球磨川禊の評価位だろう。

ユーノはこの広い次元世界で最も、球磨川禊の最悪なマイナス思考と精神に近付いた人間だった。




補足しておくと、めだか世界は異世界で、次元世界とは違います。
海鳴に来てるのは人外だけですんで。

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