悪平等のおもちゃ箱   作:聪明猴子

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アンケート企画です
As編最終話の『別れ』からの分岐IFルートです。
こちらは不定期更新です。

活動報告にも掲載しましたように、アンケートは執筆の優先順位を決める為のものですので投稿のタイミングはズレる場合があります。

優先順位は本編>②(vividのIFルート)となります。
③や④は本編完結後を予定しています。



Vivid編~IFルート~
『久しぶりっ』『僕だよ』


球磨川禊の印象を訊ねれば大多数がマイナスと答えるだろう。

その印象は決して間違えてはいないし、最も相応しいとまで言ってもいいだろう。

しかし彼と小学生時代を共にした彼女達はもう一歩踏み込んだ意見を語るだろう。

アリサならば「人間の最底辺でイカれた男だ」と答えるだろう。

すずかならば「私からしても人間には見えないけど私を助けてくれた恩人だ」と答えるだろう。

フェイトならば「私達を救ってくれた今の生き方を示したヒーローだ」と答えるだろう。

なのはならば「何も知らなかった私の理想を螺子曲げた友人だ」と答えるだろう。

頭は悪いが狡猾で、馬鹿だけど悪知恵が働き、邪悪じゃないけど凶悪。

すべての人間の欠点を集結させたような過負荷。

過負荷の希望にしてリーダー。

強きを挫き弱きを助く。

それでいて絶対に正義の味方などではない。

それが球磨川禊であった。

 

 

 

 

 

私達を守るように球磨川君が立っている。

視界は無色で、ピントが合っていないのかぼやけている。

視線は自分では動かせず、無理矢理誰かの身体に閉じ込められているかのような感じだ。

しかも知らない知識が自分の中ではぐるぐると回り気持ち悪い。

まだ視界に入っていないのに、何となく近くにはフェイトちゃんもいるんだろうと確信している。

そんな意味不明な状況に夢なんだと気付く。

私を守るように立ち塞がる球磨川君と黒い塊。

朧気で輪郭は愚か、大きささえもわからない黒い塊。

それがこちらに悪意を向けている。

それを受けてか気だるげでいつもヘラヘラとした笑顔を浮かべていた球磨川君は別人のように真剣な表情を浮かべている。

そんな姿にあぁ、やっぱり夢なんだと納得してしまう。

それほどいつもの様子からはかけ離れていた。

闇の書の防衛プログラムの前でもあのへらへら笑顔をやめなかったのにどんなことが起きればあんな顔をするのだろうか。

 

『よ⬛、⬛』『⬛し⬛り⬛⬛』『欠⬛⬛◼』

 

辛うじて球磨川君のものだとわかる途切れ途切れの声が響く。

益々視界のボヤけは大きくなり、今まで見えていた球磨川君も殆ど輪郭しかわからない。

 

『………初⬛◼し⬛◼間⬛⬛』『それ◼⬛◼マ⬛◼い?⬛るで⬛◼⬛⬛みた⬛⬛ぜ』

 

黒い塊が揺れる。

動揺しているみたいにぐらぐらと。

 

『◼当◼よ』『⬛◼◼◼こ⬛⬛キャラに⬛るだ⬛◼⬛夢にも⬛⬛な⬛◼た⬛⬛』『なの⬛』『⬛⬛⬛と◼◼ら』『彼◼⬛を◼⬛⬛⬛とか◼⬛◼る』『⬛◼で悪い⬛⬛も⬛てる⬛◼⬛ぜ』

 

球磨川君の手にあるマイナス螺子が細長く伸びる。

それだけはこの壊れて、ひび割れているかのような世界でもはっきりと見えた。

それは球磨川君の過負荷の象徴。

私の知っている限りあんな螺子は見たことがない。

あれは何なのだろうか。

 

『⬛◼◼⬛……』

 

ゆらゆらと揺れていた闇が急速に傾いていく。

 

『⬛⬛◼の⬛◼ま⬛◼⬛⬛◼だ』

 

「な……⬛◼⬛…」

 

闇がぐにゃりぐにゃり苦しそうに蠢く。

 

「⬛⬛が⬛⬛て◼⬛、◼磨⬛⬛」

 

「⬛⬛か……」

 

「⬛⬛◼⬛公◼⬛て⬛⬛⬛な⬛け⬛⬛◼て⬛る」「僕は⬛◼に◼⬛⬛◼け◼い◼⬛けら⬛⬛い⬛だ」

 

「…………」

 

「◼人⬛⬛◼だ⬛⬛る◼⬛◼君⬛◼ま◼⬛⬛なきゃ⬛◼⬛⬛戦◼◼⬛◼⬛ね」

 

「何を言って――」

 

すぐ傍にいたフェイトちゃんが球磨川君に叫ぶ。

私もそれに続きたいと思うが、喉は全く動かない。

 

「◼⬛⬛◼せ⬛⬛◼⬛け、⬛そう◼⬛てんだよ」

 

「わかった」

 

今までピクリとも動かなかった喉が勝手に自分の声で言葉を紡ぎ出す。

自分が意識的に強くあろうとしている時に出る声だなぁなんて思う。

 

「⬛◼れ」

 

「頑張る」

 

最後の言葉は明らかな涙声だった。

その言葉で夢は急速に暗くなっていく。

あぁ夢から覚めるんだなぁと本能的に察する。

何かを思い出さなければいけないような気がした。

 

 

 

 

 

「なのは!なのは!しっかり――」

 

スッと思考が目覚め、自分を覗き込む形でこちらを見る親友の顔を眺める。

艶やかな金髪に綺麗な赤い瞳。

同性でも惚れ惚れするような美貌だ。

そんな親友が心配するような表情で見ていることにくすりと笑みが零れる。

 

「大丈夫?かなり魘されてたけど」

 

「大丈夫。大丈夫」

 

「ご飯は私が作るからまだ休んでてもいいよ?」

 

「えぇ~フェイトちゃん料理とか得意じゃないじゃん。大丈夫?」

 

「わ、私だってなのはみたいに上手くはないけど朝御飯くらいなら作れるよ!!」

 

「はい、はい。じゃあお願いしてもいいかな?」

 

「もうっヴィヴィオはもう起きてるし通勤時間も近いから気を付けなよ!」

 

「は~い」

 

これは後でちゃんと埋め合わせをしないといけないなぁと思いながらベッドから腰を上げる。

髪が汗でベタついていて少し気持ち悪かった。

なんとなーく球磨川君にムカついた。

 

 

 

 

 

「――ちょっとなのはママ大丈夫?聞いてる?」

 

「ごめん。ちょっとぼうっとしてて。何の話?」

 

「今日友達を呼んでもいいかなって?」

 

「勿論。全然いいよ」

 

「なのはがそんなことになるなんて珍しいね。どうしたの?」

 

「ちょっと昔を思い出してね」

 

大切な人との穏やかな時間が漠然とした不安を流してくれるような気がする。

こんな時間がいつまでも続くといいなぁと思った。

 

 

 

 

「こちら私の先輩の――」

 

『こんにちわっ』『ヴィヴィオちゃんのお母さん達!』『よろしくおねがいしますっ』

 

ヴィヴィオの言葉を打ち切ってずいっと前に出て来る。

括弧つけた口調に明るい笑顔。

黒髪童顔の小学生くらいの男の子。

至って平凡などこにでもいそうな容姿をした少年。

 

「「………………………………………」」

 

「…ママ?聞いてる?」

 

「「…………………………………………………………………うん…」」

 

それだけで十分だった。

完全に十四年前に彼が名乗っていたマイナスだった。

ヴィヴィオ達は気づいていないが彼と関わり、そのマイナスを文字通り身をもって知っていた二人には確信できた。

彼は球磨川の言っていたマイナスだと。

へらへらした嗤いも括弧つけた口調もすべてが球磨川を思い起こさせる。

 

「えーと、君の名前は?」

 

『St.ヒルデ学院中等科二年球磨川雪ですっ』

 

「く、球磨川ぁ!?」

 

「おおおおおおお、落ち着いてなのは!」

 

「そそそそそ、それもそうだね。ね、ねぇ君の親類に球磨川禊って名前の人いないかな?」

 

『球磨川禊は僕のお父さんだよ』

 

「………………お、お母さんは誰だか知ってる?」

 

『夜天の主八神はやて』『現在別居中だけどね』

 

「……………………………フェイトちゃんちょっとはやてちゃんにお話聞いてくる」

 

「奇遇だねなのは。私も聞きたいことができたんだ。一緒に行こうか」

 

手に持つは九歳の時からの相棒レイジングハート。

折れない心を冠する彼女の武器。

既にバリアジャケットを纏っているフェイトと共にもうひとりの親友に話を聞きに行こうと決める。

 

「なのはママぁ!?フェイトママぁ!?」

 

愛する娘が何か言っているがよく聞こえない。

それくらい私達は混乱していた。

 

『なーんて』『嘘、嘘!』『僕は八神はやての息子でもなければ球磨川禊の息子でもないよ』

 

「「は?」」

 

『久しぶり』『なのはちゃん』『フェイトちゃん』 『球磨川禊本人だよ』

 

「「はぁ!?……はぁあああぁああああぁぁあぁあああ!?」」

 

高町家の玄関に二人の絶叫が響いた。




『さぁ球磨川禊のvividな物語だぜ』

ミッドチルダでの初等科は五年までで、中等科は12歳からなので13歳の球磨川禊は中等科二年生であってます。

次回はアインハルトとヴィヴィオの初会合。

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