悪平等のおもちゃ箱   作:聪明猴子

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ヴォルケン宅訪問予定だったけどテンポの問題で次回以降に持ち越しです。今回は短め。今回でアンケートは打ち切ります。

②に決定しました。

ヴィヴィオはあざと可愛い。
アインハルトは天然可愛い。


なかったことにする

「あー本当に大丈夫かな?私も行った方が良いんじゃないかな」

 

フェイトが悩まし気に球磨川となのはの間で視線をさ迷わせる。

 

『まぁまぁ安心しなよ』『ヴィヴィオちゃんの面倒は僕がしっかりと見ててあげるからさ』

 

へらりと笑顔を向ける球磨川を見て、溜め息を吐いてなのはに向き直る。

 

「だから心配なんだよ……私も仕事がなければ絶対に付いて行くのに…なのは、お願いね。絶対にミソギをひとりにしたら駄目だよ」

 

「うん。私が責任持って球磨川君を見張るから。安心してフェイトちゃん」

 

『おかしい』『僕ら同い年だよね』

 

「ミソギはひとりで管理局と敵対して崩壊させかねないくらいの危険度があると思うんだ」

 

「スカリエッティよりも絶対に厄介だし」

 

「負ける気は欠片もしないけど倒せるヴィジョンが全く浮かばない」

 

「完全勝利には辿り着けないね」

 

「歩くロストロギアよりも歩くアルハザードの方がしっくりくるし」

 

『僕だからって何言ってもいいわけじゃないんだぜ』

 

 

 

 

 

『それでこれからどこに行くんだい?』

 

歩きながら球磨川がなのはに訊く。

 

「聞いてなかったんですか!?」

 

「無駄だよヴィヴィオ。球磨川君とまともに話してたら命が幾つあっても足りないし。流すことを覚えないとノイローゼになるよ」

 

「………なんかなのはママってミソギさんにだけ厳しくない?」

 

「いいんだよ球磨川君だし」

 

『おいおいおいおい』『親しき仲にも礼儀ありって言葉を知らないのかい?』

 

「球磨川君は因果応報って言葉を知らないの?そもそも球磨川君初対面の相手でも礼儀とか気にしてないよね」

 

「話が際限なく脱線していく」

 

ヴィヴィオが肩を落とす。

閑話休題。

 

「話を戻すけど、今からアインハルトちゃんに会いに行くんだよ」

 

『アインハルトちゃん?』『聞かない名だね』

 

「あっ、ハイディさんだよ」

 

『ハイディさん?』『それも初めて聞く名だね』

 

イラッとしたなのはは半眼で球磨川を睨み付けると一応補足しておく。

 

「……球磨川が先日血みどろで殺し合った女の子だよ」

 

「血みどろ!?殺し合った!?」

 

『あの通り魔だね』『何で会いに行くんだい?』

 

ヴィヴィオの驚きをスルーして更に疑問を重ねる。

 

「あの子は古代ベルカの記憶継承者なんだよ」

 

『記憶継承?』

 

「何でも親や先祖の記憶や知識を引き継いでいるって症状らしいよ。その先祖繋がりでヴィヴィオとちょっと試合がしたいんだって」

 

『なーるほど』『格闘技だっけ?』

 

「正確にはストライクアーツだけどね」

 

『それにしても「殴り合って分かり合う」なんて今時の週刊少年ジャンプでもないようなことできるのかよ』

 

「大丈夫じゃない?」

 

 

 

 

 

「アインハルトさん。よろしくお願いします」

 

「はい」

 

ヴィヴィオとアインハルトが向き合う。

アインハルトの足元に翠の魔方陣が輝き、準備が整う。

多くの保護者が見守る中ヴィヴィオとアインハルトが同時に動き出す。

ヴィヴィオが前進し、アインハルトを一方的に攻める。

しかしそれを表情ひとつ変えることなく受け止め、流し、あしらう。

そして反撃の一撃でヴィヴィオは吹き飛ばされ、リングアウトしてなのはに受け止められる。

 

「お手合わせありがとうございました」

 

そんな一方的な試合を受けて、アインハルトは既に興味を無くしたかのように背を向ける。

それを見てヴィヴィオは必死に言葉を紡ぐ。

 

「あ、あのぉ!すみません!私なにか失礼を?」

 

「いいえ」

 

「じゃ、じゃあ弱すぎました?」

 

「趣味と遊びの範囲でしたら充分過ぎる程に」

 

そう言ってこの場を去ろうとするアインハルトの前に球磨川が立ち塞がる。

いつの間に出したのか半分ほど床に刺さっている螺子に片足を掛けながら蔑むように指を突きつける。

 

『…………お前さぁ、何様だよ』『覇王とか何とか言ってもそれは君じゃないんだぜ』『強くなりたいとか』『守れなかったとか』『悲願を成したいとか』『中二病で人に迷惑をかけるなよ』

 

悪意も善意も敵意も戦意も殺意も害意も熱意もない純粋なるマイナスがこの場を包む。

完全なマイナスに心が黒く、黒く浸されていく。

抗い難い生理的嫌悪が全員に襲いかかる。

気持ち悪い。

視界に入れることさえ忌避するようなマイナスだ。

怖い。

人間の悪意や弱点を煮込んだかのようなマイナスだ。

そのマイナスになのは以外の全員がそんな感想を抱く。

 

「駄目っ!!球磨川君っ!!」

 

その雰囲気をいち早く察したなのはが制止の声を上げる。

 

『遅ぇ』

 

足元の螺子に体重を掛けて、地面に捩じ込む。

 

「あ、あ、ぁあぁああぁあああああぁああぁぁぁあ」

 

決して大きくはないが、それでも全員に届く痛々しい悲鳴がこの場に響く。

何かが自分から急速に消えていく感覚がアインハルトを襲う。

大切な何か。

もう思い出せない何か。

大切な何か。

 

「ッ!」

 

最悪な展開になのはも思わず舌打ちする。

 

「何を………」

 

現実離れした光景にヴィヴィオの口から疑問が零れる。

 

「返して!!私のものだっ!あれは私のだ!返せ!」

 

アインハルトが球磨川に掴みかかる。

それは余りにも弱々しく、痛々しい姿だった。

先程まであった威圧感や凛々しい雰囲気が嘘みたいだ。

そこには覇王の末裔も、通り魔もいない。

ただの普通の十二歳の少女が大切なものを奪われ、怒り、縋り付いているだけだった。

 

『ごめーん』『王とか前世の記憶とか責務とか面倒臭いこと言ってたからさぁ』『なかったことにした』

 

「「「「なかったことに…した……?」」」」

 

なのはを除く全員の疑問が重なる。

 

『僕の過負荷(マイナス)大嘘憑き(オールフィクション)」』『現実(すべて)虚構(なかったこと)にする凶悪なスキルだよ』

 

「マイナス……」

 

「そんなものが――」

 

『「ある筈ない」かい?』『えーと』『ティアナさんだっけ?』『ロストロギアなんて物がある時点でそんなことは今更だとは思わないかい?』

 

「………そんなレアスキルが…」

 

『おおっと!』『僕の過負荷をそんなプラスみたいには言わないでくれるかい?』『僕のはそんな良いもんじゃないしね』

 

嗤う。

口の端を歪に吊り上げてへらへら嗤う。

マイナスが空気を歪めて黒く染め上げる。

 

「………球磨川君何を消したの?」

 

『早とちりしないでおくれ』『僕は先祖の記憶にしか手を出してはいないからさぁ』

 

「何で………」

 

誰もがなのはと球磨川の言葉に耳を傾けることしかできない。

 

『何を言ってるんだい?』『これは君らに感謝こそされ、非難されるものじゃあないだろう』

 

「………球磨川君…」

 

『そう』『本来そんな記憶はない筈だったんだぜ』『あるべき姿に戻しただけじゃないか』

 

「それが彼女の大切なものでも?」

 

『うん』『そんなものがなければアインハルトちゃんだって』『普通の十二歳として生きられんだぜ』『あんなものがなければアインハルトちゃんだって』『通り魔なんてやってないんだぜ』『そんなものを背負わされて生きるなんて辛過ぎるだろう』『これは人助けだ』『だから』『僕は悪くない』

 

そう断言する。

 

「…でもそれだってアインハルトちゃんの一部なんだよ」

 

『変化を、成長を否定するのかい?』

 

「………成長ならアインハルトちゃん自身が乗り越えるべきじゃないのかな」

 

『それで彼女が』『失敗しないって』『間違わないって』『苦しまないって』『誰が証明するんだよ』『なのはちゃん』『君の強さは知っているけれど』『それを誰かに強制するのはよくないぜ』『君が耐えられるのは強いからだ』『君が乗り越えられるのは強いからだ』『君が成長できるのは強いからだ』『強い奴のエゴを弱者に押し付けるなよ』

 

「…………強いから…か」

 

『君らだって考えたことはないかい』『自分の選択を過去を』『なかったことにしたくはないのかい?』『人を傷付け、殺めた過去を』『大切な人が死んで味わった悲しみを』『自身のコンプレックス、弱点をさぁ』

 

ひたすら言葉を重ねる。

 

『アインハルトちゃんが嫌がったって僕ら大人がやるべきなんだ』


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